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ソロス 世界経済を動かす謎の投機家 (SOROS)

ソロス 世界経済を動かす謎の投機家『ソロス 世界経済を動かす謎の投機家』
(Soros The Life,Times, & Trading Secrets of The World's Greatest Investor)
著者 ロバート・スレイター (Robert Slater)
訳者 三上義一
早川書房


【ヘッジ・ファンド】
 株式、債権、商品、為替、そして先物やオプションなどのデリバティブを駆使し、巨額な資金を動かして高い投資運用成績を狙う国際投資信託。
 少数の出資者から資金を集めてファンドを設立し、世界のあらゆる市場で資産を運用する。


 ハンガリー生まれのユダヤ人。 自ら設立したクォンタム・ファンドはウォール街 No.1 の実績を誇り、他の追随を許さない。
 「イングランド銀行を破産させた男」、「超円高の仕掛け人」として恐れられ、世界の金融市場で絶大な権力を振るう稀代の投機家。 ソロスとは何者か。 ヘッジ・ファンドとは何か。

 通常、大富豪といわれる人々は、遺産を相続したり油田やタンカーを所有するなどして、一般の人々とは隔絶した環境 (つまり生まれながら) であるのに対し、ソロスは自己の才覚のみで巨額な資産を稼ぎ出している。 ちなみに、1993 年のソロスの年収は 10 億ドルを超えている。

 金融、株式、債権等の売買は一種の掛けである。 掛けである以上、勝者があれば敗者もある。 問題は「勝者であり続けることができるか」の一点に集約される。 ソロスだけが何故勝者であり続けられるのか。

 少年の頃自分を神だと信じ、長じてからは哲学者を志していた男は、如何にしてヘッジ・ファンドの帝王と成り得たのか。
 「市場は混沌である」とした上での深く鋭い洞察と徹底した収益至上主義、そして失敗 (ソロスも人間であるから読みを誤ることもある) した時の冷徹なまでの分析と躊躇のない撤退。 筆者は、この 2 点がソロスは際立っているとしている。

 彼の本能とでも言えそうな投機に対する才能は、ナチスドイツの迫害を生き延びたサバイバル体験によって培われたのかもしれない。

 「市場 (いちば) は目に見えるが市場 (しじょう) は目に見えない」といわれる。 彼らファンド・マネージャーの動かす資金は、ほんの数分で一国の経済を狂わせてしまえるほど、その影響は巨大である。 にも関わらず、ヘッジ・ファンドの姿は見えにくく、その活動は謎めいている。

 彼らの活動が私達の日常生活に直接影響を与えるというのに、その実態も行動も私達の認識の外であるというのは、なんとも妙で不気味な話ではないか。

 日本にはこうした金融ハイテク商品を自在に操り、巨額な資金を運用するヘッジ・ファンドのような世界は馴染みがない。 というより、まるで別世界の出来事という感すらある。

 それにしても、一人の人間にこれほどまでの巨万の富を与え得るヘッジ・ファンドとは、どのような仕組みなのか。
 本書はソロスの動きを通して、相場、駆け引き、市場の反応、各国の対応といった、普段は考えもしない別世界の動きを、ほんの少し垣間見せてくれる。

 訳者はその後書きに「ヘッジ・ファンドや投機筋にとって、市場は、カジノのようなものかもしれない。 しかし、それがカジノと違うのは、賭けに参加していないわれわれまでをも直撃することだ」と記している。

 金融市場の解放、グローバル化とは一体誰のためのものだったのだろう。 マネーゲームは富豪がさらなる富を得るための仕組みでしかなく、その強大な力は産業までをも呑みこんで留まるところを知らない。

 「金は儲けるより使う方が難しい」と豪語したソロスは一方で、莫大な個人資産を東欧諸国と旧ソビエトでの慈善事業に出資している。 彼はどんな考えで投機活動を行い、また慈善事業を行っているのか。


 我々は無関心ではいけない。 金融や投機の世界は好むと好まざるとに関わらず、我々の生活に直結しているのだから。



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