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『リザベーション・ブルース』 (Reservation Blues)
著者 シャーマン・アレクシー (Sherman Alexie)
訳者 金原瑞人
東京創元社
【リザベーション】
保留・予約・ただし書き・インディアン特別保留地。
アイダホ州北部、スポーカン・インディアン特別保留地。 111 年の間、誰一人訪れることの無かったこの地に、ギターを持った一人の男が現れる。 男は救いを求めて夢に現れた老婆ビッグ・ママを探しに来たのだ。
そのギターが曲者だった。 弾こうとする者の掌に鋭い痛みを走らせ、ひどい火傷を負わせるのだ。 だが使いこなせるほどの者が弾けば、誰にも真似の出来ない凄い音を響かせることができた。
男をビッグ・ママのところへ案内した<火おこしトーマス>はギターを譲り受ける。 そして仲間と共に『コヨーテ・スプリングス』を結成して評判になる。
気を良くした『コヨーテ・スプリングスの面々は大手レコード会社と契約すべくシアトルに乗り込むことになるが、この本の主題はバンドの演奏活動や成功物語ではない。
主役を張るのは<火おこしトーマス>に代表される、華やかさやカリスマ性とは無縁の、それでいて個性豊かなリザベーション居住者のインディアン達である。 その底に流れている主題は、虐殺の被害者であり、圧政の被抑圧者であり、リザベーションに閉じ込められた過去を持つ、ネイティブと呼称が変更されたアメリカ・インディアンのどこか屈折した現状である。
著者のアレクシーは登場人物たちに偏屈ともいえるほどの個性を埋め込み、リザベーションを取り巻く大自然にもインディアンの昔話そのままに生命や感情や言葉を与えている。 個性豊かなインディアン達は個性豊かな自然と呼応し、不思議な世界を醸し出している。
リザベーションは先住民であるインディアンを絶滅へと追い立てた白人が、せめてもの贖罪としてインディアンに分け与えた土地である。 そこは何も無い、インディアンが平和裏に暮らしていた土地とは無縁の不毛の地である。
アレクシーの文章は容赦のない太陽と砂ぼこりの立つ乾いた土地を、懐かしさと親しみを覚える場所のように感じさせる。
しかし彼らはインディアンであり、居住地はリザベーションなのである。