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本はエンタメ

アメリカの巨大軍需産業

アメリカの巨大軍需産業『アメリカの巨大軍需産業』
著者 広瀬 隆
集英社


 序文にある言葉 ・・・

--- 世界にあふれる難民の原因は地域紛争にある。 そこにはアメリカやヨーロッパの先進国から、洪水のように銃砲と弾丸が供給されてきた。 アフリカなどの紛争国には、弾薬を量産する能力はない。 民族問題を論ずる前に、なぜ、紛争の現地で使われた兵器と武器のブランド名を、先に見ないのか。 国連はなぜ一度もそれを議論しないのか ---

 恐ろしいまでの事実である。

 本書は、戦争の道具が、アメリカの軍需産業によってどのように巧みに普及されてきたかを、世界的な事実に基づいて解析した報告である。

 登場する社名には、ロッキード・マーティン、マクドネル・ダグラス、ボーイング等、誰しも耳にしたことのある名称から、ランド・コーポレーション、アライアント・テクシステムズ、サイエンス・アプリケーションズ・インターナショナル等、馴染みのない名称までがずらりと並ぶ。 これらはどちらもペンタゴンと密接に結びついている軍需メーカーだ。
 軍需メーカーは経済状況に合わせて集散を繰り返し、巨額な国防予算を捻出させて飲み込んでいる。

 実行者は単体ではない。 軍需産業幹部は政府高官にコネクションを持つ。 国家側は正副大統領、国家安全保障会議、CIA、FBI、国防総省、陸海空軍統合参謀本部、国防省、各国大使館、NASA 等々。 軍需産業は、軍用機、艦船、銃砲・弾薬、核弾頭ミサイルの各メーカー、エレクトロニクス産業、宇宙・衛星産業がひしめく。 さらに仲介役・外郭団体として軍事シンクタンクの外交関係評議会と全米ライフル協会、石油メジャー、兵器輸出ロビーの上下両院議員。 これらが渾然一体となって、アメリカの軍事予算 3000 億ドル、ほぼ 30 兆円という金額が捻出される。 大統領には制御しきれないほどのシンジケート集団が出来上がっている。

 その人脈は恐れ入るほどである。 彼らは単に兵器メーカーではない。 軍、政治、情報機関を巻き込んだ複合体である。 軍需産業は紛争がなければ潤わない。 危機は操作され、軍備・軍事行動は正当化され、戦火は拡大し、数多の新兵器が消費され、更なる国防費が予算化される。 かくして予算獲得競争と化したパワーゲームは留まるところを知らない。 その影では多くの血が流され、肉体が飛び散っている。

 有り余る銃器、戦慄するほどの破壊力、次世代までも犠牲を強いる生物化学兵器、人類の生存さえ脅かす核兵器・・・。 それらを携えて人類は何処へ向かおうとするのか。
 マネーゲームの結果として正義の名のもとに殺戮が行われることを、必要悪として是認していいのだろうか。 本書は重い課題を突きつける。



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