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本はエンタメ

アメリカの経済支配者たち

アメリカの経済支配者たち『アメリカの経済支配者たち』
著者 広瀬 隆
集英社


 日本に多大な影響を及ぼし、世界経済を牛耳るアメリカ。 そのアメリカを動かしているのは、大統領でもなければ二大政党でもない。 ロックフェラー、ヴァンダービルド、モルガン、アスターといった財閥の遺産相続人たちだ。 彼らはヨーロッパの財閥ともつながっており、その要請と指示に従ってウォール街のビジネス集団は活動する。 ・・・ 表紙扉の文章である。

 バブル景気崩壊後、日本経済は多額の不良債権を抱え込みその処理に苦慮している。 そこへアメリカは「世界的な不況は日本の不良債権処理が不十分であるためだ」との強い圧力をかけてきている。
 確かにバブルに踊って多額の不良債権を計上した、日本企業の誤った経営は責められてしかるべきである。 しかしここで「なるほど」と思ってはいけない。 バブル景気とその後の崩壊を演出して日本経済に長期間立ち直れぬほどのダメージを与え、その影で莫大な円を巧妙にかすめ取り、体力の弱った日本への経済侵略をいとも易々と果たしたのはいったい誰か。 そこにはタイ通貨バーツの暴落やマレーシア市場の崩壊の時と同じ影が蠢いている事を、我々日本人は知らねばならない。

 彼ら財閥は、自らの意志で金の相場を決定し得る立場にある。 したがって金相場を低く抑えておいて大量の買い付けを行った後、金相場を上げることも可能であり、事実そのようにしている。 こうしたことは金融、証券、為替、貴金属、穀物等々地球上のあらゆる経済活動においても同じであると考えるべきであろう。 その上でタックスヘイブンと呼ばれる税金逃れ用の国家を運営しているのである。
 つまり彼らは国家予算にも匹敵する膨大な資金を背景に、政治、経済、軍事、メディア、航空宇宙を支配し、さらなる富を吸収しようと画策している。 その支配は地球規模で行われているのである。 我々が働けば彼らの富を増やすことになり、我々が消費すれば彼等の資産が増えるメカニズムが出来上がっている。 空恐ろしいほどの富の不平等である。

 財閥は家族とその親類縁者たちによって構成されており、財閥は財閥と姻戚関係を結びそのネットワークを強固なものとしている。 彼らはそのネットワーク及びビジネスを通したパートナーによる人脈によって資産を運営している。 財閥と遺産相続人にとって、時の政権が民主党であるか、共和党であるかによって、対外工作に変化があってはならないし、アメリカの経済的威信が揺らぐことは、財産の目減りを意味する重大事になる。 彼らの一大目標は資産を増やし守る事であり、そのためなら為替や相場でさえ強引に操作し、他国の内政や民族問題にも平然と正義の名のもとに干渉する。 他人や他国の事情など端から眼中にないのである。

 彼らは世界中のあらゆる情報を収集分析し、常に人より先んじ、また必要とあらば政策・予算・外交までをも左右する。 何故なら彼等の意を汲むプレーヤーには国務長官、財務長官、国防長官、CIA 長官、大統領補佐官、アメリカ通商部代表、輸出入銀行、アメリカ中央銀行、IMF、ガット総裁 ・・・ そして合衆国大統領。 しかもこれらプレーヤーの配下には、その道のトップクラスのプロ集団がひしめいているのである。

「モルガン商会は銀行ではない。 アメリカの国家であり、アメリカの法律であり、アメリカの制度である」
「歴代大統領は、こうした財閥の取り巻きに翻弄されながら、ホワイトハウスに座る人形である」。
と言われる所以である。

 ここまで巨大な財閥とは一体何か。 財閥はどうした経緯で形成されたのか。 驚くことにこれら財閥のほとんどが、その基礎を 19 世紀に築いている。 本書は財閥の生い立ちから、その変遷、資産運用の手口、政界との結びつき等々を、公開されている資料と試算に基づいて報告している。
ちなみに日本の財閥は、彼らの基準からすると単なる金持ちにしか過ぎない。 まったくの桁違いで対象にならない。

 はっきり言って本書は面白くない(つまらないという意味ではない)。 腹立たしくなることさえある。 しかも時代が交錯し、数多くの人名・会社名・組織名が入り乱れ、甚だ分かりづらい。 しかしそれでもなお、読んでみる価値がある。 「読んでおくべき」種類の本なのではないか。



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