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2001年宇宙の旅 (2001:A Space Odyssey)

2001年宇宙の旅『2001年宇宙の旅』 (2001:A SPACE ODYSSEY)
著者 アーサー・C・クラーク (Arthur C. Clarke)
訳者 伊藤典夫
早川書房


SF 界の金字塔。
いまだにこの作品を超える SF は無い。


----- 人類の夜明け -----
 太陽系第 3 惑星。 哺乳類の繁栄は始まっているが、ホモサピエンスの出現はもう少し待たねばならない時代。 モノリス (石碑) の啓示を受けた類人猿は知性に目覚める。

----- 西暦 2001 年 -----
 月面に基地を設けるまでに進歩した人類は、月の地下に異様な物体を発見した。 月面基地からの報告を受けて地球から派遣された科学者は、現地のスタッフと共に調査を開始する。
 異様な物体とは、300 万年以上前に埋められたと推定される、全面漆黒のモノリスであった。 掘り起こされ宇宙空間に晒されたモノリスは、14 日間続いた月面の夜が明けたとき強烈な電波エネルギーを発信する。 信号は土星に向けられていた。

 土星に何があるのか。 モノリスが設置された 300 万年前には、当然地球にも立寄ったであろう知的生命体の動機・目的は何なのか。 すべての事実は伏せられたまま、ディスカバリー号は土星への探査に出発する。 二人のクルー、3 人の冬眠している調査隊員、そしてすべてのコントロールと真の目的をインプットされているコンピュータ HAL9000 を乗せて。

 木星の巨大な質量を利用したスイング・バイで、さらに速度を上げたディスカバリー。 行程の半分が経過した。 土星まであと 5 億マイル ・・・・。

 「お祝いの邪魔をして申しわけないが、問題が起こった」。 クルーが地球にいる家族からのバースデーメッセージを聞いているとき、HAL がメッセージを発した。 筋書きにはなかった事件が起き始める ・・・・。

 1人残ったボーマン船長はディスカバリー号を棄て、ポッドに乗って土星の衛星ヤペタスへの降下を試みる。 が、「なんてことだ! 星がいっぱい見える ・・・」 とのメッセージを最後に消息を絶った ・・・・。

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 スタンリー・キューブリックの映画製作と同時進行の形で執筆された不朽の名作。 映画『2001 年宇宙の旅』は観る者に強烈なインパクトを与え、忘れられない痕跡を心に残す。 ほとんど説明を排した制作手法は、観客を謎の迷宮に誘い込み、渇きにも似た「知りたい・・・」という欲求に駆り立てる。 本編は映画と併せて読むこと (できれば映画を先に観ること) をお勧めする。

 映画ではディスカバリー号の探査目標は木星になっているが、鑑賞する上で気にならない。

 製作過程において IBM 社の全面協力を得たためか、コンピュータ名の「HAL」には「IBM」の先 (HAL の各文字はアルファベット順で IBM の1文字前) を行く、より先進的であるとの意味合いが込められている・・・との話がまことしやかに囁かれている。 この件に関してクラークは、「HAL 伝説」に寄せた序文の中でやんわりと否定している。 だが自身の心境はまんざらでもないと思っていたことと、IBM 社の反応が好意的であったことに、ほっとしたとの話を披瀝している。

 タイトルになっている「2001 年」は、年代を特定した西暦 2001 年ではなく「21 世紀」を表しているとの話を、クラークかキューブリックの言葉として目にしたことがある。 しかし続編「2010 年宇宙の旅」の登場によって本書は「西暦 2001 年」に固定されてしまうことになった。 一抹の寂しが湧き上がるところだがそこはクラークの力量、そんなレベルは遥かに超えて、宇宙時代の夜明けを十分に堪能させてくれる。



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