for e's laboratory
本はエンタメ

魔法の時間(とき) (Magic Time)

魔法の時間(とき)『魔法の時間(とき)』 (Magic Time)
著者 W・P・キンセラ (W.P.Kinsella)
訳者 十束知佐
東京学参


 アイオワ州北東部、なだらかに起伏する田園地帯にある人口 1500 人の小さな町、グランドマウンド。 ハイウェイにはそこそこ車も通っているが、脇道となると 1 日に何台通るのだろう。 陽光を浴びてきらきら光るトウモロコシ畑が、人間にやさしさや温もりを与えるほどまでに大きく広がる。 今日と同じ明日が約束され誰もが大切にされる、小さな田舎町の生活。

 メジャーリーガーを目指すマイク・フール 2 塁手は、この町のセミ・プロ球団からオファーを受けた。 愛情を込めて手入れされた芝生、濃い緑色に塗られた高さ 12 フィートのフェンス、ホームグランドのフレッド・ヌーナン球場は足を踏み入れると身震いするほど美しかった。 だが、この町には秘密があった。 チームメイトにも、マイク・フールにも・・・。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 2 番は負け。 1 番になること、トップになること、それが全てであり、それ以外は人生の敗北者に等しい。 ビジネス、スポーツ、富、権力、肉体、知識、釣りだろうが丸太投げだろうが大食いだろうが、何でもいいから 1 番を目指す。 強烈な、強迫観念にも似た上昇志向。 それがアメリカ。

 しかしそれは本当に、人間らしさ、自分らしさ、幸福であると感じられる人生に結びつくのだろうか。 弱点があったにしても人間性まで否定されるいわれはない。 自分の持てる力を自分なりに出して楽しい人生を送る。 そんな生き方も在るのではないか ・・・ とキンセラは言っている。

 チャンスを逃さず、プレッシャーを抑え、自己をコントロールし、最高の力を発揮する。 マインド・タフネスでなければ表舞台での活躍はない。 彼の国には、社会の注目を浴び要求に応えてこそ有意義な生き方・充実した人生であるとする社会通念が、日本人の想像をはるかに超えて確固としてあることを考えると、キンセラのメッセージはより強く・明確に伝わる。 この本は単なるメルヘンではない。

 太陽と大地の限りない恵みに溢れたアイオワの田舎町の描写は、映画「ストレイト・ストーリー」を髣髴とさせる。 アイオワ州ってそんなに良いところなのか? キンセラは実際にアイオワ州に住んでいるのかもしれない。 そういえば、「フィールド・オブ・ドリームス」もアイオワが舞台であった。



*** お薦めする本の一覧表示 ***