for e's laboratory
本はエンタメ

マネーロンダリング

マネーロンダリング『マネーロンダリング』
著者 橘 玲
幻冬舎


 工藤秋生は香港でフィナンシャル・アドバイザーの真似事をやっている。 小金を手にし、税金を払いたくないという日本人に、海外口座開設や送金の手伝いをして手数料を稼いでいるのだ。
 いうなれば脱税の指南役といったところだが、やっている業務は合法的なものだ。 口コミで評判が広がり、そこそこの収入にはなるので生活には困らない。

 ただ、正式な許可を得ているわけではないので、「真似事」つまりモグリというわけだ。 しかし香港においてこうした業務を円滑に運ぶには、資格ではなく人脈が物を言う。 香港は完璧なコネ社会なのだ。
 幸いにも秋生は、香港の裏社会で辛酸を舐めてのし上がったチャンに可愛がられていた。 コネについては不自由しないで済んでいる。

 そんな秋生の下に若林麗子と名乗る女が現れる。 ちょっとしたきっかけで知り合った日本人からの紹介だった。 麗子は、その場の空気を瞬時に変えてしまうほど美しく、正に飛び切りだった。
 麗子は 5 億円の処理を依頼してきた。 半端な金額ではなく、通常の業務内容で処理できる範囲を超えていた。 「違法行為になる」。そう感じた秋生はこの話を断るつもりでいたが、違法ギリギリの線まで世話をする破目になってしまった。

 そして 4 ヵ月後、麗子は消息を絶った。 5 億ではなく 50 億の金とともに。
 程なく、見るからにヤクザ然とした黒木という男が接触して来た。 黒木は麗子と共に消えた 50 億の行方を探しており、探索を手伝えば礼をすると言う。 ヤクザの言葉を鵜呑みにするほど秋生も甘くは無かったが、秋生の身元や前歴までバレていた。

 秋生には打つ手はあるのか。 麗子はどこへ消えたのか、50 億円の回収は可能なのか。 麗子の生い立ちや香港の裏社会を絡めて、事態は思わぬ方向へ展開する。

 人間の造り上げた「金融」というシステム。 そのカラクリと、そこに渦巻く欲。 人間の業を絡めたストーリーは、読む者を離さない。 金融って、面白いんですねぇ。



*** お薦めする本の一覧表示 ***