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3001年終局への旅 (3001:The Final Odyssey)

3001年終局への旅『3001年終局への旅』 (3001:The Final Odyssey)
著者 アーサー・C・クラーク (Arthur C. Clarke)
訳者 伊藤典夫
早川書房


 海王星の軌道の外側で積荷の準備をしていた宇宙船ゴライアス号は、スペースガードから漂流物の調査を命じられた。 作業の遅れを余儀なくされた船長のチャンドラーは、毒づきながらも捜索を開始する。 程なくチャンドラー船長は畏れにも似た驚きの念に打たれることになる。

 漂流物は宇宙飛行士だった。 西暦 2001 年に木星への探査飛行を行ったディスカバリー号の乗組員で、コンピュータ HAL の反乱によって行方不明になっていたフランク・プール中佐であった。 この時、西暦は 3001 年になっていた。

 地球の軌道都市スター・シティに運ばれ、蘇生させられたプールは驚嘆すべき科学技術の進歩を目の当りにする。

 勝手の違う異時代の慣習や思考に疲れを感じ始めていたプールは、チャンドラー船長からルシファー (かつて木星と呼ばれていた) の衛星ガニメデへ招待される。 絶妙のタイミングで生きる目的を提示されたプールは喜んで招待を受けた。 かつて木星の名で知られていた世界に、やり残した仕事が待っているのだ。

 ルシファーの 4 つの衛星のうち、人類が定住しているのはガニメデだけであり、イオやカリストは快適とは程遠い環境であった。 残る 1 つのエウロパは 2010 年のあの出来事以来、人類は接近することさえことごとく拒否されていた。

 ガニメデでエウロパを研究していたテッド・カン博士と会ったプールは、単身エウロパへの着陸を決意する。 エウロパには特別な思いがあった。
 フランク・プールはスター・シティ滞在中に、ディスカバリー号関連のライブラリを参照していた。 そこにはエウロパへ降下したまま行方不明になったデイブ・ボーマンの謎の言葉が記録されていた。 さらにデイブ・ボーマンと接触したという目撃証言も数回あり、2010 年のレオーノフ号のミッションでは、ボーマンは重大なメッセージを残していた。
 エウロパ ・・・ そこにはかつての同僚であり友人の、デイブ・ボーマンが存在していると信じていた。

 プールのエウロパへの飛行は拒絶されることなく順調に推移した。 人類の接近さえ拒否されていたエウロパだったが、プールは受け入れられたのだ。 その背景にはデイブ・ボーマンと HAL の関与があった。

 帰還後、一般市民としての生活を送っていたフランク・プールに突然メッセージが届く。 メッセージはデイブ・ボーマンからであった。 エウロパでの再会から 30 年が経過していた。

 デイブのもたらした情報は、あまりに重大であった。
 21 世紀初頭、モノリスは人類に関する情報を 450 光年の彼方に送信したと推測され、31 世紀を迎えた現在、モノリスは次なる指令を受信している形跡がある。 2010 年の木星の変質 (現在は光り輝くルシファーになっている) や、最近のサソリ座附近の超新星爆発は、評価に基づく新指令が実行された結果だと考える必要がある・・・・。

 人類は存続の価値ありと判断されるのだろうか。 デイブの感触は悲観的であった。 問題の検討にあたった「エウロパ委員会」は、あまりの容易ならざる内容から、この情報を「事実と仮定」する以外に方法がなかった。 そして人類に可能な回避策は皆無に思われた。 ただ一つの方法を残して ・・・・・・


 宇宙は知的生命体 (人類を含めて) の発芽を促がす壮大な実験場なのか。 そこにはすべてをコントローする知的存在があるのか。 我々人類は合格して永らえることができるのか、それともキャンセルされてしまうのだろうか。

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 巨匠アーサー・C・クラークが SPACE ODYSSEY の最終章として発表した本編は、封印されていた謎に道筋を付けるばかりでなく、壮大な構想と確かな知識に裏打ちされた、ある種のリアリティを持って書かれている。 その着想の大きさと見事さには驚くほかない。

 それにしても科学技術や宇宙科学のみならず、人間の知性や精神性(宗教・風土・政治・慣習に関与する人間の思考プロセス)にまで及ぶクラークの洞察力は、読む者を納得させる説得力がある。 千年後の人類は、本当にこのようになるのだろうか。 見てみたいものだ。

 巻末の『典拠と謝辞』には、本書に登場する数々のトピックについて、その根拠となった文献・情報・理論等をクラーク自身が語っている。 必見である。



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