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恐怖の総和 (The Sum of All Fears)

恐怖の総和『恐怖の総和』 (The Sum of All Fears)
著者 トム・クランシー (Tom Clancy)
訳者 井坂清
文芸春秋


 1973 年 10 月 6 日、日曜日。 現地時間の 14 時 00 分、ゴラン高原に展開しているイスラエル軍に対してシリア軍が大規模な攻撃を仕掛けた。 いわゆる 10 月戦争である。

 このときの戦闘で、イスラエル軍の A-4 スカイホーク戦闘爆撃機が、シリア軍の SA-6 ミサイルの至近爆発で受けた損傷が元で空中分解した。 スカイホークには手違いから、核爆弾 (活性化はされてない) が取り付けられたままになっていた。
 核爆弾はスカイホークから外れてずっと遠くへ飛び、ある農夫の家から 50 mの地中に埋没した。

 恐怖の序曲はこうして始まる。 20 年後に掘り当てられた核爆弾はテロリスト (多国籍のテロリストが絡んでいる) の手に渡ってプルトニウムが取り出され、旧東ドイツの核物理学者の手で起爆可能な状態に作り上げられる。

 米国主導の中東和平の動きに、不信と自らの存在意義を脅かされる危惧を抱いたテロリストは、おぞましいまでの効果を狙ってスーパーボールの試合を核の標的に選んだ。

 貨物に偽装して米本土に陸揚げされた核爆弾は、ABC の偽造 TV 中継車に積まれてスーパーボール会場であるデンバーのスカイドーム・スタジアムに運ばれた。
 テロは実行された。 未曾有の惨劇は瞬く間に世界を巻き込み、米ソの対決は避けられない状況まで逼迫する。 恐怖が猜疑心を、疑心暗鬼が更なる恐怖を産み、恐怖の総和が動き始める。

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 ご存知、情報アナリスト (ここでは CIA 副長官) のジャック・ライアンも登場しているが、本編の主役は周到に練り上げられた核テロの計画であり、核管理・危機管理の脆さであり、憎しみと恐怖に動かされる人間たちかもしれない。

 核爆弾が掘り出されてプルトニウムが取り出され、現状に不満を抱く核物理学者によって再生され、アメリカに渡って爆発する様を、計画に関わって殺され、死んでゆく者たちの生き様もからめて克明に描いている。 訳者も後書きに記しているが、まさしく異様なまでの迫力を感じる。

 ここに書かれた話は実話ではないが、世界中にテロリストは存在するし、こうした計画が実行される可能性も否定できない。 空恐ろしい限りである。 核管理と危機管理の徹底を望まずにいられない。 トム・クランシーは、実際に起こりうる話として警鐘を鳴らしている。

 トム・クランシーの作品はどれも評判が高いが、私は本編をトップに推薦する。



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