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2010年宇宙の旅 (2010:Odyssey Two)

2010年宇宙の旅『2010年宇宙の旅』 (2010:Odyssey Two)
著者 アーサー・C・クラーク (Arthur C. Clarke)
訳者 伊藤典夫
早川書房


 ヘイウッド・フロイドは、ディスカバリー号による木製探査で起こった 10 年前の衝撃的事件の真相を、ソヴィエトの宇宙船レオーノフ号に乗り込んで自ら探ることになった。

 木星のラグランジュ点(*1)で遺棄されたまま漂白しているディスカバリー号。 冬眠状態のまま犠牲となった 3 名の調査隊員、機能を停止させられた HAL ・・・、そこには封印されたままの情報や証拠が眠っている。
 失踪したボーマン船長はどこへ行ったのか。 HAL は本当に狂ってしまったのか。 木星軌道上に浮かぶ巨大なモノリスは、誰が何のために置いたのか。

 多くの謎を解決すべくレオーノフ号は遥か木星系へと旅立つ。 原因究明とディスカバリー号の回収を目指して。

 困難なドッキングに成功した一行は早速調査を開始する。 HAL も産みの親であるチャンドラー博士の努力で蘇りつつあった。 そんな折、フロイドは 「15 日以内に木星系から離脱せよ」 との警告を受け取る。 発信者は不明。 こともあろうにメッセンジャーはボーマン船長を名乗った。

 離脱を決定したクルーは、推進剤の不足を補うためディスカバリー号をブースターとして使用し急場を凌ぐことになった。 しかし木星の引力圏から離脱し地球への帰還ルートに乗るには、巨大な推進力を微妙に調整しなければならない。 しかもディスカバリー号の廃棄は必至となる。 HALはこの状況を理解し、協力するだろうか。

 レオーノフ号の一行は予想だにしなかった事態に遭遇する・・・。

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 前作から 14 年を経た 1982 年、世界中の続編を望む声・知的欲求を抑えきれない声に推されて執筆された。 小説「2001 年宇宙の旅」にもある程度の解答らしきことが描かれてはいたが、それでも本書の登場は長年の胸のつかえを、畏敬と希望と共に取り去ってくれる。 そしてそれ以上の展開を目の前に見せてくれるのである。

 クラークの作品は読む者に「人類は孤独ではない」と感じさせてくれる。 我ら人類の周りには、限りなく暗黒に近い虚空と、人間の一生など計測不可能なほど長大な時間が横たわってはいるが、それでも人の心に安らぎと希望を与えて止まない。

 人知の及ばない宇宙の創造主は、太陽系での実験において人類に合格点を与えるのだろうか、それとも人類の存在など歯牙にも掛けず、新たな創造に着手するのだろうか。


(*1)ラグランジュ点
 連星の関係にある 2 つの天体 (ここでは太陽と木星) 間において、重力が均衡して安定した軌道を確保できる点。


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