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『パラレルワールド』 (Parallel Worlds)
著者 ミチオ・カク (Michio Kaku)
訳者 斉藤隆央
NHK 出版
【 その時われわれは、別の宇宙へ脱出できるか? 】
2003年2月、WMAP(ウィルキンソン・マイクロ波背景放射探査衛星)が送ってきたデータは、宇宙がわずか38万歳だったころの詳細な姿を正確に描いて見せた。そこには宇宙創生直後のビッグバンで誕生した、原初の火の玉に存在する揺らぎやムラがはっきりと移っていた。この小さな揺らぎが種となって宇宙の膨張とともに拡大され、現在天空で光る銀河や銀河団として花開いているのだ。
さらにWMAPは宇宙の終わり方をも詳しく描き出した。宇宙誕生の瞬間に生じて銀河同士を引き離した謎めいた反重力が、宇宙を最終的な運命へと追いやっているのである。
その昔、人類が抱いていた宇宙の概念は星と天の川をちりばめた天蓋であった。やがて観測に情熱が注がれるようになると、宇宙の規模は直径10万光年の天の川銀河にまで広がり、観測技術が更に進歩すると宇宙は多くの銀河が点在する137億光年の規模にまで一気に拡大した。現在ではこの宇宙は、量子的揺らぎの中で連鎖的に誕生した数多くの宇宙のうちの1つであると考えられるようになっている。
無から物質が生じることは、非常に短い時間ではあるが実験室レベルで確認されている。しかしそれは量子的揺らぎの結果として生じるものの、反物質との相互作用でたちまち消滅する運命にある。だが時には大きな揺らぎによって生じた時空に、物質の割合がほんの僅か上回る状態も確率的には存在するらしい。そうして生じた時空の一つが我々の宇宙なのだ。
ひも理論によれば超高性能の顕微鏡で電子の真ん中を覗いたとすると、そこには点状粒子ではなく振動するひも(*1)が存在している。このひもの振動を変化させると、電子やニュートリノ、クォークにもなる。したがってひもは、既知のどんな素粒子にも変わることが可能だ。
また原子物理学のあらゆる法則がひもの相互作用(ひもの分離・結合)で再現できる上に、相互作用時の時空への制約を分析すればアインシュタインの一般相対性理論まで得られてしまうのだ。
量子論や相対性理論・重力理論等、様々な理論の説明が可能なひも理論(現在はひも理論を一歩進めたM理論が注目されている)は、すべての物理法則を説明できる統一場理論に一番近いとされている。
ひも理論と最先端テクノロジーによる観測結果は、我々の宇宙に対する考え方を根底から覆すかもしれない。アインシュタインの方程式の解の中には、凍てつく寒さ、大火、破局、そして宇宙の終わりへと向う未来の可能性が含まれており、衛星WMAPのデータが描く宇宙像はそれを裏付けている。謎めいた反重力が宇宙の膨張を加速している事実が明らかになったのだ。
反重力は体積に比例するので、宇宙が大きくなるほど銀河どうしを引き離す反重力も大きくなり、その結果宇宙の体積がさらに増す。この悪循環が果てしなく続くと、ついには宇宙が暴走モードに入って膨張速度は急激に増すことになる。
爆発的な膨張で空間密度が希薄になると、エネルギーは薄まり温度は絶対零度へと近づく。その先は全てが停止し情報さえ伝わらない宇宙の死、ビッグフリーズである。どのような知的生命といえどもビッグフリーズには対処する術がない。はたして未来の人類はこの難局を乗り切れるのだろうか・・・・。
著者はここでパラレル・ワールド(平行宇宙)への移行の可能性を探っている。充分に進歩した人類(知的生命)ならば座して待つことなく、その技術と知識で探査を行い果敢に実行することが期待できるからだ。
パラレル・ワールドへの移行にはワームホールやブラックホールの利用が考えられているが、そのためには時空が不安定になるほどのエネルギーや温度をコントロールすることが求められる。利用するエネルギーの規模により文明をタイプJ〜L(*2)に分類すると、我々の文明はタイプ 0.7 にあたるとされる。パラレル・ワールドへの移行に用いる技術はタイプL文明なら可能だろうと考えられている。
ここで問題は現代にフィードバックする。現代人は人類を滅ぼすことなく、タイプL文明への架け橋としてタイプJ文明への移行を促すことができるのだろうか。
温室効果、環境汚染、核戦争、原理主義、病気といった要素が人類を含んだ生態系を破滅させる可能性があり、テロや細菌の遺伝子操作などといったテクノロジーの悪夢とともに、現代人の前に最大級の試練として立ちはだかっているのである。
著者は、地球外文明が見つかっていない理由のひとつは、ここにあるのかもしれないと考えている。
宇宙は唯一無二の存在、そう考えられてきた。それ故ユニバースという呼称があるのだ。ところが様々な(生命の生存に適さない)物理法則が支配する、複数の宇宙の存在が理論的に導かれている。それもかなりの確率で・・・・。
そうした数多ある宇宙の中で、奇跡と呼べるほど都合よく生命の誕生に適しているのが我々の見ている宇宙であり、なかでも銀河系を取り巻く環境は驚くほど平坦な構成に出来上がっている。さらに太陽系を見れば、奇跡的に恵まれた環境が知的生命の発芽を促しているのだ。
これほどの奇跡の連鎖の中で育まれた知的生命(つまり我々)だが、その行く末の予測はあまりに過酷だ。遥かに遠い未来とはいえ、いたたまれぬ寂しさを禁じ得ない。はたして知的生命は「その時、別の宇宙に脱出できる」のだろうか・・・・。
それにしてもこうした予測と対処方の考察は、順調に進歩を続けた知的生命がその時まで存在していることが前提になる。存在しうるかどうかは、我々現代人の決断にかかっていると著者は言う。
人類はその歴史上初めて、自らを滅ぼし得るテクノロジーとパワーを手にしている。人類はそれを何時いかなる方法で用いるのだろうか。地球文明の将来を決する選択権は我々現代人の掌中にある。この時代に生きる我々の使命は重い。
惑星規模のエネルギーを利用している文明を指す。惑星に降り注ぐ太陽エネルギーの総量 |
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1個の恒星エネルギー、およそ |
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所属する銀河の大部分に入植している。そのような文明は、百億個の恒星エネルギー、およそ |