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本はエンタメ

クライム・ウェイブ (Crime Wave)

クライム・ウェイブ『クライム・ウェイブ』 (Crime Wave)
著者 ジェイムズ・エルロイ (James Ellroy)
訳者 田村義進
文芸春秋


 「LA とは、休暇で来て、仮釈放で出ていくところ」・・・訳者後書きの冒頭に引用されているこのフレーズは、ジェイムズ・エルロイが 25 年前に聞いた言葉として本書「金ぴかの街のバッド・ボーイズ」で使われている。 そこには、巨大で、邪悪で、美しく、屈辱を与える力に満ちている LA が描かれる。

 ジェイムズ・エルロイは言う ・・・ LA では途中で自分を再生しなおすことができる。 みずから望んだ自分になり、故郷の町にいたときより価値を千倍も上げることができる。 別人になるために LA にやってきた者たちのなかに住み、そこで財を成した少数者を羨み、みずからを落伍者として蔑ろにすることができる。 みずからの転落と後退を自分を引き寄せた街のせいにし、みずからの失敗という問題は避けて通ることができる・・・ と。

 虚飾・貪欲・欺瞞・腐敗・セックス・ヘロイン・暴力・殺人 ・・・ 開いてしまったパンドラの箱、それが LA。 そこに住むろくでなしどもの、金ぴかに着飾った上っ面の生活、ヘドが出そうな裏側の本性。

 ジェイムズは、そんな LA を精緻に描きあげる。 毒と退廃が噴き出してくる破滅的な言葉で。 しかしその眼差しは、やさしく切なく、強い正義感に溢れている。

 4 部構成になっているが、実際には 11 本の短編集。 ジェイムズの最大のこだわりである未解決殺人事件 (それも被害者は女性) が幕開けになっているのが、その後のお話につながりはない。

 調査に基づくドキュメントと、フィクション、そしてエッセイ。そこに境界線を引くのは難しい。 ジニーヴァ・ヒリカー・エルロイ (ジェイムズの実母) の事件を調査したときのことや、O. J. シンプソン事件についての考察もある。 LA 近郊の地図 (本屋の洋書売り場にある) を手元に置き、地名をたどりながら読むのも一興。 LA 中心部からこんなに近いのに・・・と思えたりもする。 もっとも描かれているのは 30 年も前の話であったりするが。



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