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『暗黒のシステムインテグレーション』
著者 森 正久
IDGジャパン
業界、といっても芸能界や TV 局のような華やかな業界ではない。
論理の塊のようなコンピュータやネットワークを扱っている IT 業界の内情、未熟さ、しょーもなく非論理的な実情を、愉快に描いた告発 (あるいは愚痴、どちらに解釈するかは読者次第) の書。
IT 業界が時代の寵児ともてはやされたのは今は昔。 バブル期と時を同じくして業界も膨張を続け、バブルの終焉と共にその華やかさは弾け飛んでしまった。 思えば社会的認知が低いままバブル経済に押され、海の向こうの IT 革命の成功例に惑わされた日本は、準備不足・勉強不足のまま雪崩をうって IT 化に殺到してしまったのだ。
そんな IT 業界の裏事情。 業界の常識・世間の非常識。 たとえば・・・
大風呂敷のオンパレード。 信じる方がイケナイ。 | |
号令を発したがる方々の大好きな言葉。 しかし、そんなものでシステムは動かない。 | |
単なるペーパーライセンス、役には立たないが見栄は張れる。 | |
ベンダーの言いなり、いいように操られることを意味する。 | |
真っ赤なウソ、もしくは売るための方便。 | |
宣伝テクニック (セールス) ばかりのエンジニア。 |
とまあ、こんな具合である。
ここに載っているような話、あなたの会社・業界にもありませんか。
会社・企業の経営に携わっている、あるいは決定権を持っている人々は本当に技術・エンジニアリングを判っているんでしょうかねぇ。 出される指示や命令に素直に従っていては、とんでもない事になってしまうという実情が多々あるのではないですか。
要するに知ったかぶりや、エエカッコシーや、見栄っ張りが多いんでしょうね。 それに顧客の利便性や現場の実態よりも、上層部への自己アピールのほうが優先されているということが多すぎますよね。 こんな輩が実質的な予算や決定権を握っているようでは、日本企業の将来性に疑問符がついてしまうようで悲しい限りです。
あれこれ気を揉んだとしても、マネージメントを掌握しているお偉いさんが SI のなんたるかを理解しないことにはどうにもならない。 マネージメントとエンジニアリングのバランスが崩れているんですね。 この本で現場 SE の苦労と本音 (実はこれが最も大切な事柄なんですね) を知って欲しいけれど、お偉いさんはこうした本を読まないんだろうなぁ。
せめてこれを読んだあなた、「こんな事」はしない、「こんな奴」にはならないように気をつけようじゃありませんか。
それから、本書でまな板に乗せられるのはなにもお偉いさんばかりではなく、「アチャ~」となってしまう中堅社員から「おいおい」と言いたくなる新人までバッサリとやっていますよ。 「ドキリ」としないようにご注意を。
まぁそれでも、実力主義・能力主義といかにも時代の先端をいっているような気分にさせてしまう言葉の裏で、旧態然としたドロナワ式がまかり通る実情まで見せられてしまうと、やはり経営側の責任は重いんだと言わざるを得ないけれどね。
著者はまえがきの中で、「ムツカシイことは考えず、気楽に楽しんで」と言っています。 ホントは辛くて暗い話なのに、笑えてしまうのが悲しい。
本書は著者と同じように業界で奮闘している人には応援・慰めの書であり、同業ではあるがそれほど感知しない人には自己発見・啓蒙の書であり、何らかの決定権を持っている人には知っておかねばならない必読の書であり、これから業界に入ろうとしている人には予備知識・事前勉強の書になり得る (かな)。 そして何より、愉しみながらできる業界入門書でもあります。