![]() |
|
『アメリカン・タブロイド』 (American Tabloid)
著者 ジェイムズ・エルロイ (James Ellroy)
訳者 田村義進
文芸春秋
文学界の狂犬 ― ジェイムズ・エルロイ。 彼はこの作品で、その呼称が紛れもない事実であることを実証してみせた。
ジェイムズ・エルロイは言う --- これはミステリーではない。 ミステリーなど糞くらえ! 犯罪小説など糞くらえ! 私立探偵など糞くらえ! そんなものには死ぬほど飽きてしまった・・・。
そしてとんでもない小説が出来上がった。 それはこんな序文から始まる・・・
アメリカが清らかだったことはかつて一度もない。 ・・・最初からないものを失うことはできないのだ。 ・・・ようやく墓をあばく時がきた。 栄光と破滅を仕組んだ男たちに光をあてる時がきた。
それは悪徳刑事であり、ゆすり屋である。盗聴の専門家であり、山師であり、ゲイ・クラブの芸人である。 彼らが少しでも道をそれていたら、アメリカの歴史はちがったものになっていただろう。
幻想を打ち砕き、排水溝から星までの新しい神話をつくりあげる時がきた。 時代を裏で支えた悪党共と、彼らがそのために支払った代価を語る時がきた。 悪党共に幸いあれ。
あの時あの時代、欲望と裏切りのアンダーワールドの悪党共が歴史を作っていた。
汚職、賄賂、不正融資、横領、麻薬、殺人・・・詰まるところは金。 飽くなき富への画策・陰謀。手を汚さぬ者と、手を血に染める者が紡ぎ出すタイトロープ。
アンダーワールドのネットワークと、それに寄生し寄生されている取り澄ました顔の権力者達。 そんな仕組みの中で男たちは、己の嗅覚と理不尽さと裏切りによって身を守り、血の付いた手で金を握る。 欲が渦巻き、おびただしい血が流れる歴史の中にケネディの大統領選があり、カストロ暗殺をめぐるピッグス湾事件があり、ダラスでの暗殺が起こる。 この物語に善人は登場しない。
アメリカの星であったケネディ兄弟、その父親のジョゼフ、労働組合を牛耳っていたジミ―・ホッファ、暗黒街の帝王ハワード・ヒューズ、シカゴマフィアのサム・ジアンカーナ、FBI 長官のフーバー、FBI捜査官のガイ・バニスター ・・・・ 容赦なく墓を暴かれたアメリカンオールスターの面々が実名で登場する。 彼らのなんと活き活きとしていることか。
元ロサンゼルス郡保安官助手、ヤクの手配師、強請屋、殺し屋。実の弟を間違って殺し、父母を自殺に追い込む。ハワード・ヒューズの元で働いている。 | ||
ケンパー・ボイド | FBI 特別捜査官。イェール大卒のエリート。父は事業の失敗で自殺し一家は離散。フーヴァーに買われてケネディ陣営にスパイとして潜入する。 |
ハワード・ヒューズがビヴァリーヒルズのホテルで麻薬を打っていた 1958 年 11 月から、ダラスのコマース通りでケネディが暗殺される 1963 年 11 月までの5年間。 悪党どもの血塗られた記録。 アメリカの歴史を動かしてきたもう一つの歴史。
彼らにおける大統領とは何か、権力とは何か、カストロとは何か、ビジネスとは何か、忠誠とは何か、正義とは何か、愛とは何か、そして人間とは何か・・・・。 別世界の視点から俯瞰したジェイムズ・エルロイが問いかけている。