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本はエンタメ

憂国のスパイ (Gideon's Spies)

憂国のスパイ『憂国のスパイ』 (Gideon's Spies)
著者 ゴードン・トーマス (Gordon Thomas)
訳者 東江一紀
光文社


 1997 年 8 月 31 日午前 1 時頃、ダイアナ元英国皇太子妃とドディ・アルファイドの乗った乗用車が、トンネル内の支柱に激突した。 世界中が悲しんだ事故だった。
 事故?・・・ 事故だったかもしれない。 しかし陰謀であったかもしれない。 特にドディ・アルファイドの父モハメド・アルファイドは陰謀があったと強く感じていた。
 悲劇は二人がホテル・リッツを出たところから始まった。 そして<リッツ>は中東の武器商人とヨーロッパの仲介業者の打ち合わせ場所として使われており、モサドの監視下にあったのである・・・・。

 1995年 11 月 4 日、テルアビブで開かれた和平支援集会に出席していたイスラエル首相イツハク・ラビンは、過激派学生のイガル・アミールによって至近距離から狙撃された。 直ちに病院に搬送されたが帰らぬ人となった。 ラビン首相はパレスチナとの和製交渉の推進役だっただけに、世界中に衝撃が走った。
 ノーベル平和賞まで受賞した穏健派とのイメージの強いラビンだが、幾多のモサドの工作に承認を与えており、その中には当然のように暗殺も含まれていた。
 この後 1998 年頃から、ラビン暗殺をめぐる疑惑が囁かれ始める ・・・ 

 話はそれだけに留まらない。 ナチ戦争犯罪人アイヒマンの拉致、イラク領内からのミグ戦闘機略取、エンテベ空港での人質救出、イラク原子炉爆撃、そして数々の謀略・暗殺 ・・・。

 本編はイスラエルの諜報機関・モサド創設の経緯から、その活動の様子をインタビューに基づいて報告している。 各エピソードはまるでスパイ小説のようでフィクションかと錯覚しそうだが、登場する名称は紛れもなく実在の人物である。

 筆者の行ったインタビューは、直接的あるいは間接的にモサドとつながりを持った人々や、モサドに命を狙われた人々、暗殺者、テロリストにまで及ぶ。 膨大な記録を検証にかけ、実際に行われたであろう事柄を紡ぎだしてゆく。 そこには報道発表や見解からは決して窺うことのできない、各国政府・組織の思惑や確執があぶり出されている。
 インタビューを受けた者の一人は、「この世界は、見たままの世界じゃないんです」という言葉をつぶやいている。

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 真実は常に闇の中である。 当事者でさえ事の全容は解らない。 まして、あらかじめ検閲された記事やニュースでしか事件を知りえない一般市民は、真実とは程遠い所に在るということだ。
 「TV や新聞が流している情報は間違いである、あるいは捏造されている」といったレポートやスキャンダルは数え切れないほど目にする。 それらは時として有力者の失脚という形で我々の知るところとなる。

 あなたは耳で聞いた情報と、TV や新聞で得た情報のどちらを信じるだろうか。 私は後者である。そのように教育されてしまっている。 しかしそれで良いのだろうか。
 マスコミの流す情報は、一方の側からの偏ったもの、誰かにとって都合の良いものでしかないということを知っておくべきだろう。 そうした目でニュースを見聞きすると、そこから別の世界が見えるかもしれない。



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