小説「まもって守護月天!」(知教空天楊明推参!外伝)


朝もやが晴れた頃、草原を西へ西へと進む軍隊の姿があった。
大掛かりな戦争でも始めるのだろうか。
その装備は尋常でなく、国を攻め落としに行くような、そんな感じであった。
丈夫そうな甲冑に見を包んだ沢山の兵士達、そして馬。
剣を持つもの、戦斧を持つもの、槍を持つもの、弓矢を持つもの・・・。
武器も非常に多彩であるし、なんと言っても兵士達の数もかなりのものである。
「今度攻めるのはちんけな村だってさ。」
「ええっ?それじゃあなんでこんな大げさな・・・。」
「なんでもそうしないと出兵できなかったんだとよ。それに存在そのものも消すつもりらしい。」
「やれやれ、おっかねえな。とても普段商人をやってる人とは思えねえな・・・。」
「しっ!聞こえるぞ!」
前の方を行く兵士達がこの軍隊の将軍のうわさをする。
その名は趙高。商人である彼自身武術にも長けていて、その昔有能な将軍をしていたこともあった。
今回彼が引きつれているのは、都で雇った兵士だけではない。国の兵士も一緒に居るのだ。
なぜそうなっているかというと、彼から賄賂を受け取っている一人の大臣、王密。彼のおかげである。
王密自身かなり位の高い位置に居るため、軍隊をも突き動かせるという訳だ。
今回趙高より多額の賄賂を受け取ったことにより、軍隊の一部を貸し出したという訳である。
もちろん少なすぎれば周りから怪しまれてしまう。
そこで、それなりの理由を付けて大きく出兵させたのだ。
「私をこけにした罪は重い。今日であの貧しき者どもはこの世から消え失せるのだ。
ふ、ふははははは!!」
高らかに笑い声を上げる、豪華な鎧に身を包んだ一人の男。この男が趙高である。
先程の兵士の会話から察するに、この軍隊の将軍である。
昨日の一件で頭にきた彼は、大急ぎで兵士達を集めてこうして出兵したのである。
歩を進めるうちに、とある丘の手前までやって来た。ここを超えれば目的地まで後わずかである。
その時、前方に居た偵察係の兵士が趙高の傍にやって来た。
「趙高様、丘の上に何やら人影が。」
「なんだと?どんなやつらだ。」
「はい、体格の良い男が一人。みすぼらしい服を着た少女が一人。
そして黒い服を着た変な少女が一人です。三人とも馬にまたがっております。」
その報告を聞いた趙高の顔つきがあっという間に変わった。
険しい顔になったかと思うと高らかに笑い出す。
「ふはは、昨日のあいつらか。三人で来るとは無謀もいいとこだな。
数人の兵士で片付けてしまえ。生死は問わん。あやつらをここに連れて来い。」
「ははっ。」
命令を聞くなりその兵士は前方へ飛び出して行った。
最前列に居た数人の兵士に声をかける。
「丘の上に居る輩を連れて来い。生死は問わんそうだ。」
「はあ?丘の上の輩って・・・あんな弱そうな奴らを?」
「あんなのと戦ってもなあ・・・。」
渋る兵士達に、偵察兵士は声を大きくして言った。
「将軍からの命令だぞ!つべこべ言わず行け!」
「よっしゃー、俺が行くぜ!」
突然一人の兵士が飛び出した。槍を構えて颯爽と丘へ駆け上がって行く。
「おいっ、抜け駆けはずるいぞ―!」
彼に続いて次々と馬を走らせる兵士達。
命令を伝えにきた兵士は、あきれながら頭を掻いていた。

「おい!一人来やがったぜ!」
「他の兵士達はどうですか?」
「来たのは一人だけみたい。」
二人の言葉に結構結構と頷く楊明。
「それでは李晃さん、お願いします。絶対に死なないように。」
「お、おう!」
楊明に言われて李晃が前へ一歩出る。憐華と楊明はその場をとたたっと離れた。
ちなみに三人が乗ってきた馬は、この丘にある木につなげてある。
槍を構えた兵士が近づいてきた。李晃まで後数メートルという距離である。
「けっ、てめえ一人で俺様に勝てると思ってんじゃねえよ!」
罵声を浴びせながら李晃に近づく兵士。
やがて槍が届く距離になり、兵士が攻撃を繰り出す。
相手をよく見ていた李晃はすんでのところでそれをかわした。
「くっ、一撃受けずによけちまった。」
通りすぎた兵士は反転して再び李晃に向かってくる。李晃はまたもや構えた。
しかし、その李晃の前にすっと人影が現れた。楊明である。
「楊明!いつの間にあんなところへ!」
それまで一緒に居た憐華は驚いている。
李晃は李晃で、いきなりの事に少し固まっていた。
「よ、楊明さん!危ないですから下がって!」
「ご苦労様です、李晃さん。今ので十分ですから。ほら、避けた時に擦り傷が出来たでしょう?
間接的に一撃をくらったってことですよ。」
にこりとして言う楊明に、李晃は“なるほど”と一瞬納得する。
そして楊明は統天書をめくり出した。
「来れ、落雷!」
一瞬空中が光ったかと思うと、突進しかけてきた兵士に雷が落ちる。
真っ黒焦げになった兵士は丘の上にどさっと落ち、そのまま他の兵士の方へ転げて行った。
「すげえ・・・。」
「一応脅しです。これで他の兵士は・・・引く訳無いか。」
丘を上る途中だった兵士達は、上から転がってきた黒焦げの死体に驚きながらも、
大声を上げながらやはり馬を走らせてきた。ちゃんと武器を構えて。
「李晃さん、槍が落ちたでしょう。それを拾ってきてください。」
「あ、ああ・・・。」
先程落雷によって兵士から手放された槍。それを拾い上げて李晃は楊明の傍へ駆け戻って来た。
「それを兵士達に投げつけてください。横向きが良いですね、範囲が広いし。」
「ええっ?普通尖った方を相手に向けるんじゃ・・・。」
「いいから、言う通りにしてください。もう投げて良いですよ。」
「ああ、分かった。」
疑問にかられながらも投げる態勢を取る李晃。
「どうするの?楊明。」
いつのまにか二人の傍に憐華も来ていた。突然の質問にも、楊明は慌てずに言う。
「見ていれば分かります。さあ、李晃さん!」
「よーし、それ!!」
李晃がおもいっきり槍を投げる。しかし向かってくる兵士は“?”という顔をしていた。
当然の反応だろう。李晃の言う通り、槍は横で投げるものではないのだから。
李晃が槍を投げてすぐ、楊明は統天書をばっとめくった。そして叫ぶ。
「来れ、突風!」
突然槍に向かって強烈な風が吹く。それにより、槍のスピードは増し、
あっという間に横一直線にやって来た兵士達をなぎ倒した。
倒したのは駆けあがってこようとした兵士全て。
つまり倒れていないのは軍隊本体の兵士のみである。
「よーし、一丁上がりっと。どうです、なかなかのもんでしょう。」
「うん、確かにすごいな。でもなあ、こんなんじゃあ後からどんどん来られちゃあおしまいだぞ。」
「楊明、この程度で引き下がるような相手じゃないよ。何とかしないと。」
憐華の言う通りである。遠くから様子を見ていた趙高は“チッ”と舌打ちしたかと思うと、
弓兵達にいっせいに構えさせた。遠くから楊明たちを狙おうというすんぽうである。
「放て!!」
趙高の声と共に、一斉に矢が放たれる。その数千本を軽く超える。
それと同時に、前の方に居た剣兵や槍兵も駆け出してきた。
三人に対して総勢二千。とんでもない全力の出しようである。
「き、きやがったぞ!」
「それより、矢。矢をよけないと!」
兵士も怖いが、沢山の矢が降ってきては、それこそ命にかかわる。
しかし、楊明は慌てる二人を制し、再び統天書を開いた。
「来れ、竜巻!」
楊明達の目の前に巨大な竜巻が発生した。
それは飛んできたすべての矢を呑み込み、ゆっくりと前方へと移動して行く。
「ひるむな!竜巻をよけて進め!」
誰かの声により、竜巻を迂回するような進路を取る兵士達。
ところが、ものの数秒と経たないうちに竜巻はパッと消え失せた。
ばらばらと落ちてくる矢。楊明は、矢を防ぐためだけに竜巻を呼んだようである。
「さてと・・・来れ、洪水!!」
次に楊明が叫んだ瞬間には、大量の水が丘から流れ出ていた。
その水は次々と兵士達を呑み込み、一気に本体の方へと押し流す。
多少の時間があったので、後ろの方に居た兵士達は慌てて避難し、水の難を逃れた。
沢山の兵士が流される様子を見て、悔しそうに歯ぎしりする趙高。
“きっ”と楊明達の方を睨んだかと思うと、再び弓兵達に構えさせた。

丘の上の方では、次々と術を繰り出す楊明に、憐華と李晃が驚きの眼で見ているところだった。
「すごいよ、楊明さん。なるほど、こりゃあ確かに全然平気だなあ。」
「これなら村は助かるよ。あたし達も無事王様のところへ行ける!」
「でも、まだあきらめないつもりですね、趙高。
あの調子だと、一人に成っても向かってくるかもしれませんね。」
楊明が忌々しそうに呟いた瞬間に矢を放つ弓兵達。
当然矢がこちらに届く前に、統天書を素早くめくり出した楊明。
「こうなったら・・・来れ、熱風!」
途端に上空に風が吹いたかと思うと、飛んできた全ての矢が焼け落ちていった。
しかも炎を上げたものの、一瞬にして蒸発したかのように消え去ったのである。
矢があっという間に防がれた様子に、とうとう兵士達は震え出した。
「あの少女は仙人か何かなんだあ!!」
「戦って勝てる訳が無い、逃げろ〜!!」
誰かのそんな叫び声を皮切りに、次々と逃げ出す兵士達。
趙高が引きとめようと叫ぶも、誰一人としてそれに従うものは無かった。
やがて数刻の後、あんなに大勢居た軍隊は、
趙高とわずかばかりの兵士のみとなった。(趙高が必死に引きとめた)
「まだ残ってますよ、しつこいですねえ・・・。」
「よほど俺達を滅ぼしたいのさ。でもまあ、ここまできたら趙高もおしまいだな。」
「まずは第一段階成功、ってことだよね、楊明。」
憐華と李晃の明るい声に、楊明は首を横に振った。
「いいえ、油断は出来ませんよ。窮鼠猫を噛むといいますし。
この一回で追い返さないと・・・。」
真剣な表情の楊明を見て、二人にも緊張感が漂う。
しばらく様子を見ることと成った。

一方、趙高達。意外な出来事に、悔しそうに地団駄をふむ趙高であった。
「こんな事があって良いものか!?五千あまり居た私の軍隊をあっという間に・・・。
一体何者だ!あいつは!!」
怒鳴り散らされてうなだれる兵士達。自分達にわかるはずも無いのだから無理もない。
しばらくして、残ったうちの一人が作戦を考えようと申し出た。
荒れていた趙高だったが、その一言で落ち着きを取り戻し、作戦会議を開くこととなった。
「まずは奴らに近づかねばなるまいな。そして一人でも丘を超えれば・・・。」
「それよりあの小娘だ!あいつの持つ書物が今回のことに関係しているに違いない。
なんとしてでもそれを奪って・・・。」
「こうなったらおとり作戦で行きましょう。別々の方向から攻めるのです。」
「ふむふむ・・・。」
円陣を組んで会議する趙高達。李晃と憐華はそんな様子をじっと見ていた。
しかし楊明はそれを見ずに、統天書のとあるページを見つめていた。何やら興味深く頷いている。
しばらくの後、円陣をといた趙高達を見て、李晃が声を上げた。
「あいつら、動き出したぞ。今度は何をするつもりなんだ?」
「多分こっちに向かってくるだろうな。でも、とんでもない作戦を立ててたりしてたら。」
不安な顔でお互いを見合わせる李晃と憐華。
二人が喋ったあとに、楊明はパタンと統天書を閉じた。
「おとり作戦で来るみたいです。一人は横から、もう一人は反対から。
とにかくいろんな方向からばらばらに来るみたいですね。
固まってるとやられると判断したんでしょう。なかなかの作戦ですが、落第点ですね。
三十六計逃げるにしかずってことわざ知らないのかしら。」
くすくすと笑う楊明。二人は唖然として楊明を見ていた。
立てていた作戦などはすぐさま統天書に記録されるものだから、楊明にはまる分かりなのだ。
そして趙高達が分かれる前に、素早く楊明は統天書を開いた。
「今度こそ撤退させます。・・・そうだ、とりあえず趙高だけは残しましょうか。
来れ、落雷!!」
楊明が叫ぶと同時に何本かの雷が落ちる。
あっという間に趙高の周りの兵士全てが倒れ、残るは趙高のみとなった。
「李晃さん、大きな声で叫んでください。“とっととかえれ”って。」
「お、おう。」
驚きの連続の胸を落ち着かせ、李晃は一歩前に出た。
そして、いきなりの事に唖然としている趙高に向かって大声で叫ぶ。
「やい、趙高!!ざまあみろ、おまえが連れてきた兵士どもは全滅だ!!
村を攻めるなんてあきらめてとっとと帰りやがれ!!!」
それにぴくっとなった趙高を見て、楊明はほくそえんだ。
憐華、そして李晃が楊明に尋ねる。
「楊明、これって何のためにやるの?」
「これであいつが帰るって言うのか?」
少し顔を伏せて“ふふ”と笑った楊明は、顔を上げて答えた。
「逆ですよ。こっちに来るはずです。」
「「ええっ!?」」
二人が叫んで降り返った時には、すでに趙高はすさまじい形相で馬を走らせていた。
もはや生死などどうでも良い。とにかく相手に一太刀でも浴びせなければ済まなかったのだろう。
何やら今までの兵士達とも勢いが違うようで、今にも丘にやってきそうな勢いだ。
当然二人は慌てる。今向かってきているのはほかならぬ趙高なのだから。
しかし楊明は慌てずに前に出る。そしていつものように統天書をめくった。
「心配無用。来れ、落石!」
突然趙高の頭上に巨大な石が現れたかと思うと、それは趙高を直撃した。
たまらず地面に崩れ落ちる趙高。馬はそのショックでどこかへ逃げ去っていった。
「さあ、これで気絶したはずです。李晃さん、あの縄で趙高を縛ってください。」
「へ?あ、ああ・・・。」
楊明が指差す方を見ると、なんと趙高自身が縄を持っている。
おおかたこれで村人を縛るつもりだったのだろう。
三人は趙高の傍へと駆け寄り、気絶している趙高から縄を奪う。
そして李晃がしっかりと趙高を縛り始めた。(もちろん憐華と楊明も手伝って)
ほんのわずかな後に、がんじがらめで動けない姿の趙高が出来あがった。
「これで大丈夫。予定通り私は主様と城へと向かいます。
李晃さんは早く村へ戻って、皆さんを安心させてきてください。」
「ちょ、ちょっと待てよ。この趙高はどうするんだ?」
李晃が慌てて尋ねると同時に、憐華も不思議そうな顔で楊明の顔を覗きこんだ。
するとにこりとする楊明。例によって統天書を開けた。
「かのものを幽閉せし力、封印する力、今ここに集わん・・・。万象封鎖!」
楊明が念じて叫ぶと、統天書が光り出した。
そして趙高の体がすうっと浮き上がり、統天書に吸い込まれる。
見る見るうちに趙高の姿は消えてしまった。そしてパタンと閉じられる統天書。
「こうして持っていって、王様の目の前に突き出します。
そうすれば言い逃れも出来ずに、趙高は罰を受けることになるはずですよ。」
楊明が説明するも、二人は唖然としたままであった。
しかし、やがて李晃は頭をぶんぶんと振って正気に戻って言った。
「分かった。俺は大急ぎで知らせてくる。憐華、しっかりな。
楊明さん、憐華のこと任せたからな。」
そして駆け足で丘を上っていった。
一足遅れて憐華も正気に戻る。
「李晃さん!必ず良い知らせをもって帰ってくるから!」
「皆さんと一緒に、安心して待っていてくださいね!」
手を振る憐華と楊明に、李晃も振り返って手を振る。
やがて李晃は丘の向こうへと姿を消した。
「さあて、早くお城へ行きましょう。よっ、と。」
楊明は例の水晶球を取り出すと、それを絨毯の形へと変えた。
一つ頷いてそれに乗る憐華、楊明。
「出発!!」
楊明の掛け声により、絨毯は空高く舞い上がり、勢い良く空を滑り出した。
とても速く、速く・・・。


所変わって憐華の村。
村人達は特に慌てる様子も無く、一ヶ所に固まってじっと知らせを待っていた。
もちろん、いざという時にはすぐに行動できるように身構えている。
生活に必要な道具一式を、全て固めているのだ。旅支度は完璧である。
「まだお昼には遠いわね。はやく、はやく戻ってきて・・・。」
纏め役であるはずの燕子、彼女はそわそわして落ち着きが無かった。
楊明がついているとはいえ、やはり一人娘に大役を任せたことが心配なのである。
と、一人の女性が燕子の手をぎゅっと握った。
「落ちつきなよ。あんたがしっかりしてくれないとあたし達も不安になっちゃう。
心配なのは分かるけど、あの三人をしっかり信じなって。」
「え、ええ。ごめんなさいね。不安なのはみんなも同じなのに・・・。」
申し訳なさそうに言う燕子に、周りの皆は首を横に振る。
「とにかく落ちつけよ。でーんと構えてようぜ。」
「そうそう。なんたって精霊様が一緒なんだ。大丈夫。」
懸命になって燕子を安心させようとする村人達。
みんなの様子に、彼女はようやく落ちついたのであった。
その時、馬のひづめの音が聞こえてきた。
村人達は一斉にびくっとなるが、一人の男がすっと立ちあがった。
「俺が様子を見てくる。みんなはここでじっとしててくれ・・・。」
そしてそおっと様子を覗いにゆく。李晃が戻って来たのならば問題はないのだが、
万が一趙高の兵士ならば慎重に成らざるをえない。
しかし、その不安はすぐに消えることとなった。馬の主が大声で叫んだのだから。
「おーい、俺だ!李晃だ!!楊明さんのおかげで趙高の軍隊は引いていった!!
もう安心だ、みんなでてこいよ―!!」
その声にあっという間に顔を輝かせる村人達。
最初に出て行った男を追い抜く勢いで、皆は李晃のほうへと飛び出した。
あっという間に李晃の周りに人だかりが出来る。李晃は力いっぱいの笑顔を浮かべて馬を降りた。
「李晃!作戦は無事成功したんだな!!」
「良く無事に戻ってきてくれたよ。しかもこんなに早く!!」
口々に李晃にねぎらいの言葉をかける村人達。
そんな彼らに笑顔で答える李晃。そして少し遅れて燕子がやって来た。
「良かったわ、李晃。あなたが帰って来たってことは、憐華も楊明さんも無事なのね。」
喜びに微笑む燕子に、李晃はにやっと笑って答えた。
「憐華と楊明さんは城へ向かった。趙高を王様の前へ突き出しにな。
ほんとすごかったぜ、楊明さんは。五千もの兵士を一人で追い払ったんだから。」
“おお〜っ”となる村人達。とにかく無事を聞いてほっとした村人達は、
李晃を皆で担いで、大いに騒ぎながら祝いの準備に取りかかった。
とりあえず李晃が帰ってきたという前祝である。
長老の徐公は、やれやれといった顔つきで皆を見まわした。
そしてまだ少し不安げな燕子に告げる。
「なあに、大丈夫じゃよ。きっと朗報をもって帰ってくるはずじゃ。
二人とも無事な、笑顔いっぱいの姿でな。」
「長老様・・・はい!」
燕子は笑顔を取り戻して、みんなの輪に加わった。徐公も宴の支度へと足を急がせる。
とにかく、この村は救われた、という事であるのだから。

その頃、憐華と楊明はまだ上空を飛んでいた。
目的の城まではかなりの距離があるので、時間がかかるのである。
「ねえ楊明、質問しても良いかな?」
「ええ、どうぞ。それが終わる頃にはお城に着いているでしょうから。」
空を飛んでいることは楽しいのだが、やはり何もしないのでは飽きる。
というわけで、少し疑問が残っていた憐華は楊明に聞いてみることにしたのである。
「まず一つ。最初に一撃を受けないといけないってのはどういう事?」
「うーん、それはちょっと難しいんです。
簡単に言えば、私から喧嘩をふっかけるとどんな人もすぐにやられちゃう。
だから、相手が敵意を示さないと攻撃できない、というように封印してあるんです。
もちろん言葉でもそれはかまいませんけどね。」
確かに簡単な説明だったが、憐華は“なるほど”と頷いた。
あの戦いを見れば、納得して当然であろう。
「もう一つ。王様に会って話をするんだよね。王様はすぐに信じてくれるかな・・・。」
その言葉に楊明は少し首を傾げた。
「弱気な発言ですねえ。大丈夫、必ず信じてくれます。
私にはちゃあんとそう確信する理由がありますから。」
「そ、そう。なら大丈夫だよね。」
憐華はそう言うとうつむいた。と思ったら顔をすぐに上げて楊明の方を向いた。
「ところで昨日言っていた興味深いことって何?」
「興味深いこと?」
「ほら、昨日四人で話し合ってる時に楊明が言ってたじゃない。」
しばらく考え込んでいた楊明だったが、やがて思い出したように言った。
「ああ、あれですか。城についてからお話しますよ。
絶対に王様に会えるという証拠です。」
「絶対に会える・・・証拠?」
「ええ、そうです。・・・ほら、そうこうしているうちにお城に着いたみたいですよ。」
楊明が指差す方を慌てて憐華は見る。
立派な城壁、豪華な飾りの屋根、憐華にとっては見た事もない建物である。
驚きのあまり声も出ない憐華を横目で見ながら、楊明は絨毯を降下させた。
城の位置より、少し離れたところに絨毯が着地する。
一応目立たないように飛んでいたので、二人とも誰にも怪しまれずに地面に降りることが出来た。
「さあ、お城へ向かいましょう。堂々としていてくださいね。」
「うん、わかった!」
楊明に促されてずんずんと歩き出す憐華。
やがて二人は城の門の前へと辿り着いた。
あまりの大きさに、憐華は上を見上げたままじっと立ち尽くしている。
「おお――――っきい〜〜。すごいなあ、これがお城かあ・・・。」
「これはまだ門ですよ。あ、すみませーん。」
上を向いたままの憐華を引っ張って、楊明は門兵の所へ駆け出して行った。
門には二人の兵士が立っていた。それぞれ槍を持っている。
二人とも、いきなりやって来た少女に驚いていたが、それとなしに聞いてみた。
「何の用だい、お嬢ちゃん達。」
「王様に会いに、西の方からはるばるやって来たんです。お通し願えませんか?」
楊明の単刀直入なお願いに、二人の兵士はため息をついた。
そして首を横に振って答える。
「だめだ、会わせるわけにはいかない。遠いところから御苦労だったな。
さあ、親が心配するぞ、帰りなさい。」
すると憐華が兵士のすぐ前にずいっと出た。
「そんな事言わずにお願いします!!趙高の悪事を王様に聞いてもらうために来たんです。
どうか、どうか王様に会わせて話をさせてください!!」
必死な声だったのだが、兵士の一人がしゃがみこんで言った。
「あのねえ、趙高といやあ大商人じゃないか。
そんな趙高が悪事を行ったっていう証拠はちゃんとあるのかい?」
「だから、その、話をして・・・」
「話だけじゃあ証拠にならん!あきらめて帰りなさい!」
「そんな・・・。」
憐華が涙目になったところで、兵士は再び立ちあがった。
今度は楊明が兵士に言う。
「王様はだれかれかまわずお会いになるはずでしょう?
例えそれが金持ちであろうと、すごく貧しい人だろうと。」
「確かにそうだ。しかし今王は多忙なのだ。
だからまた日を改めて来てくれまいか。」
兵士が済まなさそうに答える。
憐華はそれに対して更に何か言いそうになったが、楊明がそれを押しとどめた。
そして憐華に向かって“任せてくださいと”小声でささやき、再び兵士に向き直る。
「では、別のお願いをしたいのですが。」
「なんだ?言ってみろ。」
「汝昂さんに会わせてください。楊明が来たと伝えればとんで来るはずですよ。」
憐華は“?”という顔で首を傾げていたが、二人の兵士の顔色がさあっと変わった。
あたふたと戸惑いながらも、楊明に聞き返す。
「る、汝昂様のお知り合いなのですか?」
「ええ、そうですよ。私を知らずに追い返したとなると、多分ものすごく怒りますよお。」
「し、失礼しました!!どうぞ、お通りください!!」
慌てる兵士達によって、重い門が開かれる。
あっけに取られていた憐華の手を引っ張って、楊明は城内へと歩き出した。
門をくぐる時に、兵士の一人が楊明に尋ねる。
「あの、汝昂様には素直に通したとお伝え願えますか。
あの方に荒れられると、とんでもない目に遭いますので・・・。」
「いいですよ。ふふっ、汝昂さん相変わらずなんですねえ。」
手を口に当てながら笑う楊明に、兵士はほっとする。
そして王への案内役の人が出てきた。二人に挨拶して誘導する。
さっぱり分からなかった憐華はそおっと聞いてみた。
「楊明、汝昂さんて何者なの?えらい人?」
「慶幸日天といって、私と同じ精霊ですよ。この城の王様に仕える、太陽の精霊。
幸福を授けるのが役目で、物に命を吹き込むことが出来るんです。」
「ええっ!!?そうだったんだ。だから絶対会えるって・・・。」
感心する憐華に、楊明はもう一つ笑った。
「普通の民衆達は汝昂さんのことなんて知らないでしょうからね。
常時主様のお傍にいる方ですから。まあ、私もそうですけど。」
「へえ・・・。」
そのうちに目的の部屋へついたようだ。
深深とその案内人は礼をし、二人を中へ通す。が、いきなり一人の女性が立ちふさがった。
皇后のような服装をしているが、明らかに皇后ではない。髪の毛があまりにも特徴的である。
主に緑色の長い髪型で、前髪のところでぴんとはねている。
横の部分に、赤い独特的な髪が伸びていた。
「ちょっとあんた達!王様は多忙・・・楊明!!」
その女性は楊明を一目見たかと思うと怒鳴るのを止めた。
そして、楊明がにこっと笑ってお辞儀する。
「お久しぶりです汝昂さん。今日はちょっと重大な用事で来たんです。
王様に主様の話を聞いてもらいに。」
その主の方を見やる汝昂。憐華はそれに慌ててお辞儀した。
「なるほどねえ。ま、入んなさい。あ、そこのあんたご苦労様。
あとでちょっとしたご褒美あげるから。」
案内人は一つ礼をして去って行った。
楊明と憐華は再び礼をしてその部屋内に足を踏み入れる。
そこはかなりの広さだったが、人の数もなかなかのものである。
王へ一直線な道と平行に並んでいるのはいろいろな役割を持つ家臣達だろう。
その家臣達と玉座に腰掛ける王とが、何やら必死に話し合っている。
この国の食料、商業、他国との話し合い等々・・・。確かに多忙のようである。
すると汝昂はそんな話し合いの中にずんずんと歩いて行った。
さすがにそれにはついて行けず、楊明と憐華はある程度のところで待っていた。
「主様!お忙しいとは思いますが、お客様です。どうぞ話を聞いてください。」
汝昂のいきなりの声に、一斉に話し合いを止める王と家臣達。
次に汝昂が指差した方、つまり楊明と憐華の方を見る。
すると家臣の一人が怒ったように言った。
「汝昂様!この忙しい時に何をおっしゃるのです!
あのもの達には待つように申し付けてください!!」
しかし汝昂はそれを聞き入れる様子も無く言った。
「だまらっしゃい!二人のうちのかたっぽはあたしの知り合いなんだから!
文句があるんなら容赦しないからね!!」
いきなり黒天筒を回し始めた汝昂に、その家臣は慌てて土下座した。
そしてどうぞどうぞと二人に告げる。
楊明はやれやれと肩をすくめながらも、憐華を引っ張って王様の前へ出た。
汝昂が横へ退いたところで、王は二人を見て口を開いた。
「話とはなんだ?何でも聞く、申してみよ。」
緊張している憐華に、楊明が横からつつく。
一つ深呼吸をして、ようやく憐華は話し始めた。
「はい、王様。ええと、あたしは西の方の貧しい村からやって来た憐華と申します。
このたび、王様の目の届かないところで悪事をはたらいていた趙高について申し上げます。」
そこでざわつく家臣達。王はそれを制し、続けるよう促した。
「趙高は酷いやつです。ちょっとでも貧しい者を見かけるとその人達を破産に追い込むんです。
そして都に居られなくなった人は沢山、あたしの家族もその一人です。
更にはそう言った人達を見かけてはさんざん暴力を振るって、殺しています。
都の人達も一緒になって・・・これも趙高のせいです。
昨日、あたしは趙高から本を盗んで、
それで趙高は今日の朝、それを取り返しに大勢の兵士を連れて攻めてきました。
村を、滅ぼすつもりで・・・。」
話しているうちにつらくなったのだろうか、憐華が咳をし始めた。
楊明はそこで話を区切らせ、王に向かって言う。
「とにかく、趙高のやっていたことには目に余るものがあります。
どうぞ、正しい裁きをお与えください。」
王はそれに答えようとしたが、それを遮るように一人の家臣が立ちあがった。
趙高と裏で手を結んでいる王密である。
「でまかせだ!第一、話だけで証拠がないではないか!
王よ、こんな輩の言うことなど信じてはいけませんぞ。
だいたい趙高のおかげで、わが国は経済的に安定しているのではありませんか!
そんな趙高を罰するなどもってのほかです!!」
突然の出来事に唖然とする王とその家臣達。
すると、楊明は何も言わずに持っていた統天書をばさっと広げた。
その中から、縄に縛られた趙高がどさっと落ちる。
その衝撃で気がついたのだろう。目を開けると同時に視界に入った憐華を見て叫んだ。
「おのれえ!!貴様、貧しき者のくせによくも我が軍を!!
私はあきらめんぞ。必ずや貴様らをこの世から消してくれ・・・うっ!」
狂犬のように迫る趙高の頭を汝昂が黒天筒で殴る。趙高はその衝撃で再び気絶した。
「あらら、自分から罪を証言するなんて。やっぱり頭悪いですねえ。
王密さん、あなたへの賄賂提供者さんが倒れちゃいましたよ。
さあどうします?おとなしく牢獄に入るか、抵抗して怪我をするか・・・。」
楊明がなんとも勝ち誇ったように言う。
王もそのほかの家臣たちも驚きのまなざしで王密を見ていた。
趙高と手を結んでいるなど、今の今まで知らなかったのだから。
しばらくして王が静かに言った。
「王密よ、おとなしく捕まれ。最近軍隊の数の減りが激しいと思っていたら・・・。
貴様の仕業だったわけだな。わしに何の報告もなしに動くとは。」
その言葉を聞いて、“観念しろ”といわんばかりに皆が王密を見る。
すると王密は手をだらんとしたかと思うと、いきなり憐華の腕をつかみ、引っ張った。
憐華はたまたま王密のすぐ傍に居たのである。
王密は憐華の首に刃物を突きつけて叫んだ。
「こやつの命が惜しければ私の言う事を聞け!」
一瞬の出来事に歯ぎしりする家臣達。
助けを求める声も出せず、憐華は震えながら楊明達を見た。
楊明はそれに答えるかのように笑顔を作り、素早く叫んだ。
「来れ、かまいたち!!」
その瞬間、“ずばっ!”という音と共に王密の両腕がどさっと落ちる。
そう、真空の刃で腕を切り落としたのだ。
間髪入れず、汝昂も黒天筒を振りかざした。
「陽天心召来!!」
王密の服がびかあっと光ったかと思うと、
王密は手足の生えた服によって、後ろへ吹っ飛ばされた。
そして壁に激突。おびただしい量の血を流しながら、王密は気絶した。
「よ、楊明いいぃ!!」
一瞬の出来事に呆然としていた憐華だったが、しばらくして楊明に泣きついた。
相当怖かったのだろう。楊明はそんな憐華を抱きしめながら“大丈夫です”と、頭を撫でた。
ガッツポーズを決める汝昂。王はやれやれと玉座に座りなおし、
犯罪人二人の処置をするように家臣達に申し付けた。
こうして、趙高と王密の二人は投獄されることとなる。

しばらくの後、改めて王にこれまでのことを伝える憐華。
王は黙ってそれを聞き、話が終わるとすっと立ちあがった。
「分かった。趙高と王密の二人を厳重に処罰しよう。
加えて、趙高によって被害を受けた者達のもとの生活を保障しよう。
そなたの言い分は十分にわかった。
これからは、もっと民衆に気を配るように務めると約束する。」
その言葉を聞いて、憐華は顔を輝かせた。
「ありがとうございます、王様!」
深深と礼をする彼女に“うむ”と頷く王。
“よかったですね”と話しかける楊明に、憐華は手を取り合って喜んだ。
一段落話がついたところを見計らって、汝昂が口を開いた。
「ところで楊明、ちょっといろいろ聞きたいことがあるんだけど。」
何やら薄ら笑いを浮かべている汝昂に少しため息をつく楊明。
それでも、ここに入って来れたのは汝昂のおかげでもあるので、どうぞとばかりに頷いた。
「ありがと。実は、この国の北にある都のことなんだけど・・・。」
急に深刻そうな顔になる汝昂。それを見て、楊明も真剣な顔になって聞き耳を立てる。
「そこに売っている宝石の中で、特売の物ってないかしらねえ?」
そこで“はあ?”という顔になる楊明。
北の国という事で、国政に関する何かかと思っていたのだから。
「まったく、少しでも真面目になった私が馬鹿でしたね・・・。」
「いいじゃない、別に。あ、馬鹿の語源って知ってるー?
その語源のお話に出てきた人も趙高って名前なのよ。なかなかいい偶然よね。」
「確か宰相にまでのし上がって、家臣達が自分に従うか試す時に、鹿を指して馬って言ったんですよね。
ついには皇帝を自殺に追い込んだとか・・・。ほんと、悪い人っているもんです。」
汝昂とちょこっと話をして統天書をめくり出す楊明。
王、憐華はもちろん、傍にいた家臣たちも二人の話を唖然として聞いていた。
そんな語源の話は遠い昔の話なのだから。驚くと同時に、“そうなのか”と頷いていた。
「あ、ありました。別に特売のものはありませんけど・・・。」
「なーんだ、そうなの。ねえねえ、他に耳寄りな情報とかはないの?」
「えーとですねえ・・・東の方からご馳走のお土産を持って使者が向かってきてますね。」
「な、なんですってー!?」
楊明の言葉を聞くと、汝昂は目を輝かせながらるんるんと跳ね回った。
そして王にがばっと抱きつく。
「こ、これ、汝昂。」
「だってえ、ご馳走なんて嬉しすぎるんだもん。きゃあ、待ち遠しいわあ。」
憐華はきょとんとしてその様子を見ていたが、やがて楊明に言った。
「ねえ、楊明。そろそろ村に帰ろうよ。早くみんなに知らせてあげたいし。」
「それもそうですね。それでは王様、汝昂さん、家臣の方々。
私達はこれでおいとまします。また今度訪ねてきても良いですか?」
帰り支度する二人に、汝昂は残念そうな顔で呼びかけた。
「ええ―、もう帰っちゃうのお。ご馳走も来るって分かったんだし、
もうちょっとゆっくりしていきなさいよお。」
「ご馳走は汝昂さんがたっぷり食べれば良いじゃないですか。
それより王様、ご馳走もいいですけど使者の方を手厚くもてなしてください。
友好を築きたいという目的の方ですから。それではまた。」
「王様、それに汝昂様、ありがとうございました。」
ぺこりとしてその部屋を後にする憐華と楊明。
二人が出て行った後で、王は慌てて家臣に告げた。
「友好の意を持つ相手は十分にもてなすのだ!早くその準備を!」
「は、はいっ!」
大急ぎでもてなしの準備をする家臣達。
汝昂はそれを見ながら笑みを浮かべた。
「今日はご馳走♪さっすが楊明ね。ふふ、それにしても、
来た途端おもいっきりもてなされたら、使者はさぞびっくりするでしょうねえ。」
汝昂の言葉に、王は楊明のことを思い出していた。
何とかして、城の大臣として招けないかと・・・。
そして今回の趙高と王密の一件を見直し、再び気を引き締めたのである。

一方、丁寧に見送られて城の外へと出た憐華と楊明。
外へ出た途端緊張が緩んだのだろうか、憐華がへなへなと崩れ落ちた。
「主様、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫。城の中じゃあ気がつかなかったけど、あたしすごく緊張してたみたい。
それもそうだよねえ。なんてったってこの国を治める王様に会って来たんだから。」
呟きながら楊明を見上げる憐華。すると楊明はにっこりと笑った。
「良い経験になったじゃないですか。さあ、村へ帰って皆さんに伝えましょう。」
「うん!ほんと良かった。これであたし達にも普通の生活が戻って来るんだ。」
楊明の手を取って、笑顔で立ち上がる憐華。
そして改めて楊明の手を取る。
「ありがとう。全部楊明のおかげだよ。」
すると楊明は首を横に振った。
「いいえ、主様のいろんな行為がここまでことを導いたのですよ。
もちろん他のいろんな方々のも。そのことを忘れないでくださいね。」
「うん、分かった!!でも、ほんと楊明には感謝してるからね!!」
お互いに笑い合って、二人は城より離れたところへ歩いて行った。
例の絨毯に乗っかり、大空へと飛び出す。
日は丁度真上。つまり、昼時の時間である。
二人はお腹を空かせながら、村への帰路を急いで戻って行った。