今日の料理当番はシャオとヨウメイ。
というよりは、普段のシャオにヨウメイが加わったというだけのことである。
「さて、今日は何を作りましょうか。」
「皆さんが喜ぶような料理が良いですわね。」
にこにこしながら普段のモットーを告げるシャオ。
それを聞いて、ヨウメイは少し考え込んだ後に顔を上げた。
「だったら、ここを使いましょう。」
とんとんと頭を差すヨウメイ。シャオはそれにぽけっと答えた。
「髪の毛・・・ですか?」
「・・・頭です、頭!!」
呆れながらもう一度力強くとんとんと差すヨウメイ。
「なるほど・・・。ヨウメイさんの頭って食べられるんですね。」
「あのね・・・。」
「それじゃあ失礼します。」
いきなり包丁を取り出したかと思ったら、シャオはヨウメイに近寄った。
「ちょ、ちょっと、何するんですか!!」
「だから、ヨウメイさんの頭を・・・。」
「私の頭なんて食べられるわけが無いでしょう!!危険な発想をしないでください!!」
「はあ、すいません・・・。」
残念そうに包丁をしまうシャオ。懐というのがなんとなく危険である。
「あの、なぜそんな所に包丁を?」
「えっと、護身用です。」
「うそでしょ?」
「いいえ。」
「・・・・・・。」
「あの、ヨウメイさん?」
「もしかして山野辺さんに言われたんですか?」
「いいえ、那奈さんです。ヨウメイさんと料理する時は護身用として包丁を懐に忍ばせておけって。」
「なんで・・・。」
「それと、疑問の顔になったら冗談だって言っておけって。」
「・・・そうなんですか。」
「はい。」
しばらく難しい顔で考え込んでいたヨウメイだったが・・・。
「それじゃあ料理作りましょうか。シャオリンさん、包丁はもう外に出しておいてくださいよ。」
「はい、分かりましたわ。それで、結局何を使うんですか?」
「え〜とですねえ、これでも・・・。」
ヨウメイが取り出した物、それは・・・。
「まあ、袋ですか?」
「ジャガイモです!!ジャガイモと野菜を使ってシチューでも・・・。」
「シチューといえば、家の中を支えている立派な柱の事ですね。」
「それは支柱です!・・・もしかして他になにか那奈さんに言われてたんですか?」
「いいえ?ルーアンさんが、日常生活にこれくらいのボケは必要だ!って。」
「無理にそんなもんしなくて良いです・・・。それじゃあ作りますか。」
「はいっ。」
結局、頭を使った料理は作られなかったが、みんなそれなりに満足していた様である。
<ごちそうさま>
「野村さん、一つクイズを出しまーす。」
「おう。クイズの王子様と呼ばれたこの俺さまはすぐに答えちゃうぜ!」
「なんなんですか、それ・・・。では行きますよ。
キリュウさんが好きな人は誰でしょう?」
「き、キリュウちゃんが・・・?」
「制限時間は一分です。正解できなかったら罰ゲームが待ってますよ♪」
「な、なんだってー!?えーと、えーと・・・。」
かちかちかちかちかち・・・。
「ほらほら、早くも十秒過ぎちゃいましたよ。」
「太助だ!」
「違いまーす。ほらほら、あと四十秒。」
「え〜と・・・宮内出雲か?」
「違いまーす。あと三十秒。」
「えーと・・・まさかとは思うけど乎一郎?」
「違いまーす。あと二十秒。」
「そうか、この俺だ!!」
「違いまーす。あと十秒。」
「な、なななな!?あとだれが・・・」
「ぱんぱかぱーん!!おめでとうございます、見事正解!!」
「え?え?」
「けれど商品は有りませ〜ん。ごめんなさーい。」
「ちょ、ちょっと、ヨウメイちゃん。」
「それじゃあ後ろに嫌な視線を感じるので、さようなら〜!!」
言うなり走り去って行くヨウメイ。そのあとにすっとキリュウが現れた。
「でたらめを・・・。なぜ私が好きな人物が那奈殿になるんだ。
確かに嫌いではないが、ヨウメイ殿が言う好きではないぞ・・・。」
「へ?太助のおね―さん?」
「野村殿、さっきの事に関してはきっぱり忘れる事だ。
おそらく後で問い詰めれば冗談だと言うんだろうな・・・。ではな!」
「あっ、ちょっとちょっと!」
たかしがキリュウを呼ぶも、キリュウは素早くその場を走り去っていった。
後に残されたたかしは、
「一体なんだったんだー!!訳が分からんー!!!」
と、大声で叫んでいた。
<終了だああああ!!!>
七梨家におやつタイムがやって来た。
今日のメニューはホットケーキである。
「へえー、随分美味しそうだなあ。」
「たまには、と思って作ってみたんです。」
「さっすがシャオだな。さて、食べようか。」
「・・・何か嫌な予感がする。」
キリュウが何気なく呟いたその時。
ドダダダダ!!!
と、ルーアンとヨウメイが走りこんできた。
「わーい、これ全部いっただきい!!」
「ルーアンさんずるい!!これは私の分です!!」
「なに言ってんの、早いもん勝ちよ!!」
「そんなもんが許されてたまるもんですか!!遅いもの勝ちです!!」
「何訳のわかんない事言ってんの!!陽天心召来!!」
「負けてたまるかあ!!来れ嵐ぃ!!」
一瞬にしてそこは荒れた戦場と化す。おやつはなぜか無事だが・・・。
「やめろー!!シャオ、キリュウ、頼む。」
「やれやれ・・・シャオ殿、折威殿を呼ばれよ。万象大乱!」
「来々、折威!!」
キリュウが大きくした家具が二人を同時に直撃。
そのショックでひるんだ所へすかさず折威がのしかかる。
ルーアンへ二人、ヨウメイへ一人、である。
どしーん
と音がして、そこはようやく穏やかになった。
後に残ったのはじたばたとしているルーアンとヨウメイである。
「ちょっとシャオリン、これどけなさいよー!!」
「お、重い〜!」
大声で叫ぶ二人。那奈達三人があれた部屋を片付けている間に太助が傍に歩み寄った。
「二人ともそのままそこで反省してろ!!当然おやつは抜きだからな!!」
「「がーん・・・。」」
太助の言葉によって大きくショックを受ける二人。そして・・・。
「ねえ〜んたー様あん、一口だけでも〜。」
「え〜ん、おやつ、おやつう〜・・・。」
と、おやつタイムが終わるまで叫びつづけたのだった。
<おわり・・・>
キリュウとヨウメイの部屋。二人ともとっくに寝ているので静かである。
が・・・。
プ〜ン・・・
「えいっ!!!」
ぱんっ
プ〜ン・・・
とある来訪者により、ヨウメイはがばっと飛び起きた。
「蚊・・・。たくう、逃してしまうとは不覚・・・。」
明かりをつけ、机の上に置かれてあった統天書を手に取った。
そこで、明るくなった事により、キリュウも目が覚めた様だ。
「ヨウメイ殿、こんな夜中にどうなされた・・・。」
「蚊ですよ、蚊。まったく許せないなあ。」
「蚊?」
眠たそうに目をこすりながらむくっと起きあがるキリュウ。
そして一つ大きなあくびをした。
「ふあ〜あ。蚊ごときで騒がないでくれ。」
「何を言ってるんですか!!人の血を吸っておきながら後にかゆみを残して行く。
これこそ恩をあだで返すって事ですよ!!そんな存在は許せません!!」
「だからってこんな夜中に・・・。」
「心配しなくてもすぐに終わらせます。来れ・・・毒気!!」
「うっ!?」
ヨウメイが叫ぶと同時に、部屋の中はなんとも言えない空気に満たされる。
キリュウはのど元を押さえながら激しく咳をするのだった。
「ご、ごほっ、ごほっ。う、うう〜・・・。」
「・・・これくらいかな。消えよ、毒気!」
ヨウメイが叫ぶと同時に毒気が消え去る。そしてキリュウはベッドに崩れ落ちるのだった。
そんな事はお構いなし。ぱらぱらと統天書をめくるヨウメイ。
「ふむふむ、全滅できたみたいですね。さあて、寝ようっと。」
パタンと統天書をとじて机の上に置く。
けろっとした顔のヨウメイにキリュウは尋ねてみるのだった。
「な、なぜヨウメイ殿は平気なんだ・・・。」
「これくらい常識ですよ。あらゆる毒に順応してないと世の中生きていけませんて。」
「いくらなんでもそれは・・・。」
「じゃあ明かり消しますね。お休みなさーい。」
ぱちっと消される明かり。そしてヨウメイは寝に入ったが・・・。
「もしかして、蚊が出るごとにこんな騒ぎを起こすつもりではないだろうな・・・。」
と、キリュウは不安を頭に抱えているのだった。
<おわじ>
とある日の七梨家。リビングにて四人の精霊がゲームをしようとしていた。
もちろん考案者はヨウメイである。
「・・・つまり、ヨウメイが言う四つの性格にそれぞれがなりきって行動しようってのね?」
「そうです。今日一日だけですけどね。」
「それで、その四つの性格とは一体なんだ?」
キリュウの問いに、ヨウメイは統天書をめくり出した。
「実は私、これ初めて見るんですよね。」
「ええっ?ヨウメイさんが考案したのに?」
「だってそうじゃないと面白くないじゃないですか。それでは言いますよ。
え〜と『何も考えてない』、『ミーハー』、『性格極悪』、『自ら不幸を招く奴』。
この四つです・・・。」
暗い表情になるヨウメイ。他の三人も同じような反応だった。
「・・・あんまり良く分からないですう。」
「なんだかろくでも無いものばかりだな・・・。」
「ま、いいわ。とりあえずあたしはミーハー!」
早々にルーアンが性格の一つを選んだ。残りは三つである。
「それじゃあ私は、一つだけ分かった何も考えてないってのを。」
「シャオ殿らしいな・・・私はどっちを取るべきか・・・。」
「・・・しょうがない、私が性格極悪を取りましょう。
というわけで、キリュウさんは自ら不幸を招く奴。」
「よーし、けってーい!!で、具体的に何をすればいいの?」
ルーアンの言葉にはたと考え込む四人。具体的には良く分からないからだ。
「とりあえず私は何も考えない事にしますね。ぼー・・・。」
「あたしはミーハーだから・・・おっしゃー、流行最前線の食べ物を探しに行くわよー!!」
シャオはそのまんま座っていたが、ルーアンは元気良く外へ飛び出して行った。
「えーと、私は・・・」
「キリュウさん!!おやつにしましょう、はい!!」
そしてヨウメイがどこから持ってきたのか一枚のせんべいを取り出した。
何やら赤いのは気の所為ではない・・・。
「おやつ・・・私は要らないぞ。」
「・・・ちょっとキリュウさん、全然不幸を自ら招いていないじゃないですか。」
「そ、そうか。では、おやつは有り難くいただくとしよう。」
そしてキリュウはせんべいを受け取り、ばりっとかじる。
「・・・か、辛いー!?」
「どうですか、唐辛子入りのせんべいは。」
「そ、そんなものを渡すな!!み、水をー!!」
「はい、お水です。」
「あ、ありがとう。用意が良いな・・・。」
ごくごくごく・・・
「ぶーっ!!」
「いかがですか?タバスコ入りの赤い水。」
「そんなものを入れるなー!!えーい、シャオ殿、水をくれー!!」
慌ててシャオの方へ向いたキリュウだったが・・・。
「ほへー・・・どうしてですかあ?」
「辛いものを食べさせられたからだ!!」
「どうして辛いものを食べると水が必要なんですかあ?」
「・・・た、頼むから水をくれー!!」
結局そのままの状態に太助が怒鳴り込んできて、ゲームは中止となってしまった。
四人の様子を見て太助が一言。
「あのさあ、頼むからもうちょっとまともなゲームやってくれよ。」
「分かりましたわ。今度は何かを考える役を。」
「あたしは流行遅れの食べ物でも探そうかしら。」
「私は自ら幸福を招く様にしよう。」
「それじゃあ私は性格を極善に。」
あんまり反省の色が無い四人は、またも似たようなゲームをやりそうである。
<つづく・・・かも?>
○月×日曇り時々雨。今日は花織ちゃん達とゲームで遊びました。
「いっちばーん!!」
「またぁ!?花織ってすごいねえ・・・。」
「はい、次楊ちゃんだよ。」
「よーし・・・これだ!!・・・げっ。」
「あー、楊ちゃんばば引いちゃったあ!」
「ちょ、ちょっと、言っちゃ駄目だよ花織ちゃん。」
「顔に出てるから言わなくっても分かるよ。そうかゆかりんから楊ちゃんへ・・・。
ってことは次引く可能性があるのはわたしかあ・・・。」
そうです、ばばぬきです。花織ちゃん、ゆかりん、私、熱美ちゃん、の順番でカードを引いています。
それにしても花織ちゃんってやっぱりゲーム強いなあ。
「うーん・・・。」
「熱美ちゃん、こっち、こっちにしなよ。」
「そう?じゃあこっちにしようっと・・・楊ちゃん・・・。」
「どしたの?熱美ちゃん。そっか、さっきこっちにしなって言われた時に、
別のものを引いたらばばだったから。なかなか楊ちゃんってうまいね。」
「ちょ、ちょっと花織!私はばばなんて引いてないんだから!」
「はいはい、分かったからカード出して。あたしが引くから。」
「わ、分かってるよ。」
ゆかりんの目の前にカードを差し出す熱美ちゃん。
これがまた面白いんだ。ゆかりんの手の位置で熱美ちゃんの目が変わるのが。
それに気付いたのか、ゆかりんは・・・。
「これだ!へへー、後二枚!ほい、楊ちゃん。」
「くやしぃー!」
「熱美ちゃん、人の事は言えないけど顔に出しちゃ駄目だよ。
それじゃあこっち!・・・わーい、後一枚になったあ。」
「ええっ?それじゃあ楊ちゃんは私が引いて終わりだよねえ・・・。
あっ、私二枚になった。」
「なるほど、ゆかりんと熱美ちゃんの一騎打ちだね。」
「二人とも頑張れー。」
花織ちゃんと一緒になって声援を送る。そして・・・。
「ゆかりん、こっち、こっちにしなよ。」
「こっち?ありがとう、そうさせてもらうね。」
「えっ、いや、その・・・。」
「よっし、あがりっ!!という訳で熱美ちゃんの負けー!」
「うう、く、悔しい・・・。」
私と同じようなフェイントを張った熱美ちゃんだったけど、ゆかりんに見破られてあっさり負けちゃいました。
もう、顔に出しちゃあ駄目だって言ったのに・・・。
結局その日やったトランプゲーム、ほとんどの優勝は花織ちゃん。
そしてほとんどの最下位は熱美ちゃん・・・。
「はあ、わたしってゲーム運無いのかなあ。」
「熱美ちゃん、多分顔に出しすぎちゃってたのが・・・。」
「そうそう、花織以上に出ちゃってたよ。」
「今度は熱美ちゃんでも勝てるようなゲームをやろうね。」
最後に花織ちゃんが余計な事を。それで熱美ちゃんが花織ちゃんをキッと睨みました。
「花織!私はまだ負けを認めてないんだからね!!今度こそは勝ぁつ!!!」
気合満タンの状態で熱美ちゃんは帰って行きました。
元気だなあ・・・。そして私は、ゆかりんと顔を見合わせて肩をすくめたのでした。
<続く・・・>
「那奈さん、この本の名前を当ててください!!」
「はあ?統天書だろ?」
「ざんねん!統天書に見せかけた全知辞典でしたあ!」
「ぜ、全知辞典?」
「そうです!この本には世界中のありとあらゆる知識が・・・」
「だからそれって統天書だろうが!!」
<終了っ>
ある日、ヨウメイはなぜか翔子の家へ遊びにきていた。
「いったい何だよ、こんな日曜の朝っぱらから。」
「山野辺さん、パチンコ知ってますか?」
「パチンコ?ちーんじゃらじゃらってやつ?」
「そっちじゃなくて、びよーんぱしってやつです。」
「・・・そのパチンコがどうかしたのか?」
「まあちょっと外に出てきてください。」
そして庭。一つのパチンコを翔子に手渡すヨウメイ。
「さあ山野辺さん、どこでもいいから打ってみて下さい。」
「どこでも?よし、とりあえずヨウメイの方でも・・・。」
「わっわっ、ちょっと待ってください!!あ、そうだ、壁、壁の方に!!」
「かべぇ?ちぇっ・・・。」
「なんでそんなに悔しそうなんですか・・・。」
翔子は石ころをパチンコに。そして・・・。
ひゅーん・・・こん!
「うん、命中率はまだまだ衰えてないな。」
「ひょっとして昔やってたんですか?」
「ちょっとな。気になるんなら統天書で調べてみれば?」
「なるほど。ぱらぱらぱら・・・って、こんなのしに来た訳じゃないんです!
山野辺さん、パチンコは実は最強の武器なんですよ。」
「はあ?そんな馬鹿な。」
「まあまあ、ちょっと私に貸してください。」
翔子からパチンコを受け取り、ヨウメイも同じように構える・・・?
「なんでそんな妙な構え方なんだ?しかも手を交差させて・・・。」
「見ていれば分かります・・・それっ!」
ひゅーん・・・どかーん!!
壁に当たった小石は大きな爆発を起こして壁を砕け散らせた。
「・・・ヨウメイ、何やった?」
「だから、飛ばし方にコツがあるんですよ。偶然の産物ですけどね。
これを使えばどんな人間も一撃の元に葬り去れますよ。」
「葬り去ってどうする・・・。」
「例えば、主様とシャオリンさんの仲を邪魔をする輩に使うとか。」
「なるほど・・・って、人をヒットマンにしてんじゃねー!!!」
「やだなあ、山野辺さんの場合それを言うならヒットウーマンですよ。」
「そんなもんどうでもいい・・・。」
<おはり>
ぴんぽーん
「はーい、どちらさま・・・キリュウちゃんにヨウメイちゃん?」
ここは野村家。たかしが出ると、二人は真剣な顔をして玄関前に立っていた。
「野村殿、りべんじだ。」
「り、リベンジ?」
「そうです。漫才をしに来ました。」
バタン!!
漫才という言葉を聞くなり、たかしは扉を勢いよく閉めた。
以前太助から寒いという事を聞いていたので是非とも遠慮したかったのだろう。
「野村さん、拒否するんなら後で天罰を食らわせますよ。」
「当然私の試練も付いて来る。これぞ一石二鳥だ。」
バタン!!
二人がそれぞれ一言ずつ発した後、たかしは慌ててドアを開けた。
「は、ははは、やだなあ、拒否なんてするわけ無いじゃないか。
ちょっとドアの立て付けを確かめただけだよ。」
「そうですか、それではお邪魔します。」
「お邪魔とは御飯を炊く時に・・・」
「それはお釜です!」
「「あははははは。」」
「・・・・・・。」
キリュウとヨウメイの不意打ち!たかしは五ポイントの精神ダメージを受けた。
「ま、まあいいからこっちへどうぞ・・・。」
「はーい。へえ、結構綺麗ですね。」
「うむ、これなら汚しがいがあるというものだ。」
「「あははははは。」」
「・・・・・・。」
休む暇も与えずに攻撃!たかしは更に九ポイントの精神ダメージを受けた。
とにかくリビングへ通される二人。悲劇はまだ始まったばかりである・・・。
<第二幕へ続く・・・>
学校の音楽室。ここにいつもの面々が集まって、ヨウメイの音楽講座を受けていた。
「ではいきまーす。今回はピアノです!丁度ここにありますね。
とっても大きくって黒くって・・・。これはグランドピアノといいます。
もういっちょ別の種類があって、それはアップライトといいます。
それでは実際に弾いてもらいましょう。熱美ちゃん、どうぞ。」
「え?え?わたし?」
みなが拍手する中、熱美が少し緊張気味に前へ出る。
そして言われるままにピアノ椅子に腰掛けた。
「ではお願いしまーす。曲目は、ベートーベン作曲、『月光』!」
パチパチパチパチ
盛大な拍手が巻き起こる。そして熱美はピアノの鍵盤に手を置いたが・・・。
「楊ちゃん、わたしそんな曲弾けないよ。しらないもの。」
「あれ?そうなんだ。じゃあいいや、適当に弾いてみて。」
「う、うん・・・。」
再び熱美は鍵盤に手を置く。そしておもむろに弾き出した。
ド・・・レ・・・ミ・・・ファ・・・ソ・・・ラ・・・シ・・・ド・・・。
音階を弾いて、熱美は弾くのを止めた。
「熱美ちゃーん、他にもっと弾いてよー!」
席のほうから花織の声援が飛ぶ。しかし熱美は首を横に振った。
「今度は花織が弾いてよー。」
と、前に出ていこうとした花織を制してヨウメイが喋り出した。
「みなさーん、別にこだわらなくっても、自由にひいてくださーい。
というわけでとりあえず弾いてみたいなって人、何人でも出てきてくださーい。」
「よーし!!この俺の熱き演奏を聴かせてやるぜ!!」
「あたしもたー様に愛のこもった演奏を聴かせてあげるわ―!!」
「では私もシャオさんに捧げる歌を・・・。」
「七梨せんぱーい、あたしの華麗な演奏聴いてくださいね―。」
「ルーアン先生、僕も弾きまーす!」
というわけで、積極的な面々が一斉に前に出た。
そしてピアノの傍へ駆け寄って・・・。
ぽろろんろんろん、ぱらぴれぱれ、りろりろ〜・・・。
「なあヨウメイ、皆てきとうに弾いてるみたいだけど・・・。」
「いいんですよ。音楽ってのは楽しむ物です。」
「そうですね。皆さんとっても楽しそうですわ。」
それぞれが騒ぎまわっているまま、ピアノ講習会は終わったのだった。
<ぽろん♪>
キリュウとヨウメイの部屋。二人は何をするでも無くくつろいでいた。
「平和だな・・・。」
「そりゃまあ、昔と今とは違いますから。」
「暇だ・・・。」
「試練を休みにするなんて言うから・・・そうだ、やる事があったんだ!」
思い出した様に叫ぶと、ヨウメイは統天書を開けて机に向かった。
「一体何をする気だ?」
「書き込みですよ。キリュウさんが行った試練の、ね。」
「書き込み?」
キリュウが尋ねると同時に、ヨウメイは一本の鉛筆を取り出した。
一見すると、どこにでもあるような普通の鉛筆である。
「ええ、書き込みです。試練に関しては自分で書き込まないといけないんです。」
「そうか・・・。」
感心した様にキリュウは頷くと、ヨウメイの傍へと寄った。
そしてどれどれというように統天書を覗き込む。
「・・・やはり私には読めないな。」
「当たり前ですって、そういう書物なんですから。では・・・風の試練、と。」
ヨウメイが鉛筆を用いて統天書に“風の試練”と書き込む。これはキリュウにも読める字だ。
「書き込むって・・・ただそれだけか?」
「ええ、そうですよ。次は・・・水の試練、と。」
ぶっきらぼうに“水の試練”と書き込むヨウメイ。特別な物にも見えない。
「ヨウメイ殿、別にこんなものを記録する必要は無いのでは・・・。」
「まあそう思うのも無理は無いですかね。いいから見ていてください。」
にこりと笑いながら統天書を指差すヨウメイ。
キリュウが疑問の顔でそれを見ようとしたその時・・・!
シューン!!
書かれた文字が激しく分裂を始め、やがて統天書のそのページが字で埋め尽くされた。
しかもそれはキリュウが読める字ではない。普段から統天書に載っているような字だ。
「な、なんだ?どういう事だ?」
「つまりですねえ、書き込むことによって、それ関係の事が全て自動的に記録されるって事ですよ。
キリュウさんの試練だろうが、どんなことでも・・・ね。」
「なるほど、これはすごいな・・・。」
ただただ感心するキリュウ。そしてヨウメイはらんらんと続きを書き込んでゆくのだった。
<終り>
七梨家のリビング。夕食後という事で皆でくつろいでいたが・・・。
「ねえ〜、なんかゲームやらないのお〜?」
というルーアンの希望により、ヨウメイが一つのゲームを提案した。
とある法則に従って行うしりとり、である・・・。
「それでは私からいかせてもらいますね。雪!」
「雪だと?え―と確か雪は・・・ふむ、尋常!」
「尋常・・・って何ですか?」
「シャオリン、そんな質問は却下!ほらほら、早く言ってよ。」
「えーとえーと・・・巾着!」
「き、きんちゃく・・・。えーと、そうだな・・・目薬!!」
「目薬か、こりゃ楽だ。さんきゅう、那奈姉。楽器!」
「がっきぃ?うーんと、器具!!」
「さすがルーアンさん。」
「・・・どういう意味?」
「別に深い意味は無いですよ。谷!!」
「谷だと?なぜ・・・なるほどな。やはりヨウメイ殿らしい。」
「えへへ、どうもです。」
「となると・・・景品!」
「あっ、キリュウさんの負けですう!」
「なに?そんな馬鹿な。景品は・・・そうか!頭の字は口ではなくて日だ!!」
「すごいなシャオ、言った途端に気付くなんて。」
「さすが優等生だな。太助、お前も見習えよ。」
「ともかくキリュウの負け!で、罰ゲームは何かしら?」
「ば、ばつげえむがあるのか?」
「当然でしょう?そうですねえ、辛いケーキでも食べてもらいましょうか。」
「か、辛いけえきだと?」
「そうです。シャオリンさん、これから作りますから手伝ってください。」
「はーい♪キリュウさん、楽しみに待ってて下さいね。」
そして妙にこったしりとりは終了し、妙な罰ゲームが始まった。
それを終えたキリュウは“今度は勝たねば・・・”と、深く思ったのであった。
<尾輪離>
二時限目、国語。
「では知教空天さん、このページを読んで下さい。」
「はーい。・・・文法はラウル形式で良いんですよね?」
「は?」
突然意味不明な言葉を発したヨウメイによって周りがざわつき始めた。
熱美がちょいちょいとヨウメイをつつく。
「楊ちゃん、普通に読めばいいんだってば。」
「でも・・・あ、そうか。では読みます、おほん!」
てきとうに咳払いをして誤魔化したヨウメイ。そして書かれてある文を読み出した。
「ロココよロココ、どうして貴方はロココなの?」
「楊ちゃん、ロココじゃなくってロミオ。」
「へ?あ、そかそか。ロデオよロデオどうして貴方は・・・。」
「もういいです、知教空天さん。それでは別の人・・・。」
呆れた様に呟いた先生によってヨウメイは読む事を止めて椅子に座った。
「楊ちゃん、なんで間違えたりしたの。」
「なんとなくそう読みたかったから。けどあんまり意味なかったな。」
「なんとなくう?まったく楊ちゃんって・・・。」
「まあまあそう言わないの。書かれてある事をそのまま読むのって飽きるものよ。
これは革命第一歩なの。如何に内容をアレンジするか・・・」
「知教空天さん!廊下に立ってなさい!!」
いつのまにかヨウメイは、ごごごごと心の炎を燃やしながら立ちあがっていたようだ。
それで大きく目立ってしまった為に先生が怒ってしまったのである。
で、廊下に立たされたヨウメイは・・・。
「うーん、ジュリエットをシュール・・・いまいちかな・・・。」
と、懸命にアレンジを考えていたのだった。
<To be ContinueD>
日曜日の昼。キリュウは自分の部屋で試練の計画を練っていた。
机に向かい、一冊のノートを開いている。
「ふーむ、この方法は以前試したし・・・。ヨウメイ殿に相談してみようか・・・。」
少し行き詰まったのか考え出したキリュウ。
とその時、どたどたと音がしたと思ったら部屋のドアがバン!と勢いよく開いた。
ドアを開けたのはヨウメイである。
「おおヨウメイ殿、丁度良かった。一つ相談を・・・」
キリュウが早速言いかけると、ヨウメイはそれを聞く前に素早くキリュウの首すじにシュルッと布を巻きつけた。
前から絞め、後ろへと引っ張るようにぐいっとしめあげる。
苦しい顔をしたまま、上目遣いにヨウメイの顔を見るキリュウ・・・。
「ぐ、ぐるじい・・・。ヨウメイ殿、一体何を・・・。」
「キリュウさん、今すぐ西向いてもらいますよ。」
「に、西?」
「今だおルーさん、一発ぶちかましたれい!!」
「おうっしゃあ!!」
景気のいい声がしたかと思ったら、ど派手な着物に身をつつんだルーアンが颯爽と登場。
そしてキリュウのみぞおちへ強烈なひじうち!!
「ぐはあっ!!」
ヨウメイが布を解く。と、キリュウは苦しみながらそこへ崩れ落ちた。
そしてルーアンとヨウメイは手を取り合う。
「やったね、お楊。」
「ええ。これであにさんの敵がうてたね。」
「そう、長かったわ。ああ、お楊。」
「おルーさん!」
なにやら感極まる声を出して、ひしと抱き合う二人。
ようやく痛みが収まってきたキリュウは、そのままの状態で尋ねてみた。
「二人とも・・・今のはいったいなんだ?」
すると二人はすぐさま普通の顔に戻って答えた。
「さっすがキリュウ、丈夫ねえ。ごっこ遊びよ。」
「ちょっと仁侠編って感じでね。どうです?試練に使えるでしょう?」
「そうか、その為に・・・などと納得すると思うか!!?私で遊ぶな!!!」
怒ったキリュウを見て、慌てて二人が逃げ出したのは言うまでも無い。
そして、この試練が実際に太助に行われたかどうかは、キリュウのみぞ知る。
<完>
「だいたいルーアン殿は!!」
「なによ、キリュウこそ!!」
ルーアンとキリュウが喧嘩をしている。
「何度試練の邪魔をすれば気が済むんだ!?いいかげんにしてくれ!!」
「あんたこそ試練にかこつけてやり過ぎなのよ!!たー様の体のことも考えなさいよ!!」
どうやら、普段の試練についてのようだ。
キリュウが太助に試練を与えていると、たまにルーアンが邪魔らしきものをしにやってくる。
それが何回かあったため、キリュウは怒っているのだ。
もちろんそれでおとなしく引き下がるルーアンではない。
試練を受けている太助の様子を見ての行動だ、と主張している。
とにかくそんなわけで喧嘩が続けられて・・・という所に。
「おやキリュウさんにルーアンさん。どうしたんですか?二人して喧嘩なんかして。」
「ヨウメイ!ちょっと聞いてよ、キリュウったら非道いのよ!!」
「非道いのはルーアン殿だ!!いつもいつもいつも!!」
やって来たヨウメイをほったらかしてああだこうだと喧嘩を再開する二人。
やれやれとため息をついたヨウメイだったが、そこでルーアンが振り返った。
「ねえちょっと、聞いてよヨウメイ。」
「はあ?・・・ええいいですよ。」
唐突に言われたヨウメイだったが、にこりと笑いながら片手をすっと差し出した。
「・・・なによその手。」
「グチ聞き料。」
「あんたね・・・。まあいいわ、この前とっといたおやつあげるから。それでいいわね?」
「わーい、ありがとうございます。」
早速メモと一緒にサインさせるヨウメイ。そしてルーアンは喋り出した。
「だからあたしは、たー様のことを考えて口出ししてるわけなのよね。
それなのにキリュウったら・・・。」
ぐちぐちぐちぐちと喋りつづけるルーアン。
約三十分後にそれが止まると、ヨウメイは頷きながら答えた。
「そりゃあキリュウさんが悪いですね。ルーアンさんを考慮に入れない。
ただ自分勝手に試練を行っているだけですね。」
「ちょっと待った!ヨウメイ殿、私の次にもらうであろうおやつを渡そう。
私が言いたいのは、ルーアン殿は・・・。」
ルーアンをおしのけ、今度はキリュウが喋り出す。
そしてぐちぐちぐちぐちと・・・。
約三十分後、ルーアンと同じように止まった所でヨウメイは頷きながら答えた。
「そりゃあルーアンさんが悪いですね。キリュウさんを考慮に入れない。
ただ自分勝手に試練の邪魔をしているだけですね。」
「ちょっとヨウメイ!!あたしが言いたいのはね・・・。」
更におやつを渡す約束をしてこれまた喋り出すルーアン。
「ふーん、やっぱりキリュウさんが悪いですね。」
「待ったヨウメイ殿!!私はだな・・・。」
またもやおやつを渡す約束をして喋り出すキリュウ。
「なるほど、そりゃルーアンさんが悪いですね。」
と、そこで二人ははたと動きを止めた。
「あんたねえ、一体どっちの味方なのよ!!」
「はっきりしてくれ!!」
するとヨウメイはにこりと笑って言った。
「私はどっちの味方でもありませんよ。単に愚痴を聞いてあげてただけですから。
だいたい、どっちが悪いかとか判断するなんて正式に言ってませんもん。それじゃあ♪」
ぺこりと頭を下げたかと思うと、ヨウメイは書類片手にスキップしながら去って行った。
「・・・やられた。」
「あたしのおやつ・・・。きぃー!!これというのもキリュウ、あんたの所為よ!!」
「ルーアン殿がヨウメイ殿に聞いてくれと頼んだのが始まりではないか!!」
「なんですってー!?続けてあんたがぐちを聞かせようとしたのがいけないんじゃない!!」
再び始まる二人の喧嘩。
しばらくして仲直りしたものの、おやつをヨウメイに食べられたのも二人仲良く、であった。
<めでたしめでたし?>
「るんるん、やっぱりショッピングって楽しいなあ。」
ここは鶴ヶ丘町にあるデパート。そこへ花織が買い物をしにやって来たのである。
実は一人でいろんなおもちゃ等を買いに来たのである。
「ついいろいろ買っちゃったなあ。でも皆とこのゲームで遊ぶのが楽しみ♪」
大量の手荷物を抱えてエレベーターへと走る。
幸い丁度ついたばかり。更に乗っている人は案内人以外はいないようだった。
「わ〜い、ラッキー。」
喜んでかけこんだ花織。そしてエレベーターのドアが閉まる。
「いらっしゃいませ。御利用階数をお知らせください。」
エレベーターガールが花織に告げる。と、花織がそちらへ振り向くと・・・。
「よ、楊ちゃん?ここでなにしてんの。」
「ちょっとね。さて、御利用階数をお知らせください。」
なんとヨウメイだったのだ。一瞬びっくりした花織だったが、ちょっと悪戯を思いついたようである。
「何階でもいいんですか?」
「ええ、何階でもいいです。」
「それじゃあ・・・冥界!!」
しゃれのつもりでおもいっきり元気良く告げる。
ヨウメイがどんな反応をするか楽しみにして、密かに笑いをこらえていた花織だったが・・・。
「冥界ですね、かしこまりました。」
「へっ?」
さも当たり前のようにヨウメイはそれを返すと、ボタンになにやら操作し始めた。
唖然としてそれを見ている花織。そして・・・。
チーン
「到着いたしました、冥界です。」
「う、うそぉ?」
エレベーターの扉が開く。と、そこに広がっていたのは花織が見た事も無い景色だった。
どんよりと薄暗い。なによりそこに漂っている空気こそ別次元という感じがした。
「お客様?到着したのですから早くお降りになってください。」
「あ、あの、楊ちゃん、ここって・・・。」
「だから冥界ですよ。さ、早く。このエレベーターを御利用になるほかのお客様に迷惑ですよ。」
「と、取り消し・・・。」
「なんですって?わがままはいけませんよ。大丈夫、運が悪くても死ぬくらいですよ。」
「だから取り消すってば〜!!あたしが悪かった、許して楊ちゃんー!!」
涙ながらに必死になる花織。それを見てヨウメイはようやく扉を閉じた。
そこで花織はへなへなと座りこむのだった。
「ふう・・・恐かったぁ・・・。」
「冗談もほどほどにね。それじゃあ天界へ参りま〜す。」
「もう勘弁してってば〜!!!」
<おちまい>