第三十ページ『じゃんぷ!』

「野村さん、お願いがあります!!」
ここは2年1組の教室。休み時間に突然ヨウメイがやって来たのだ。
内容をとりあえず告げない彼女に、たかしはかなり嫌そうな顔をする。
「な、なんだい、ヨウメイちゃん。」
「野村さんの熱き魂で、屋根より高くジャンプしてください!!今ここで!!」
「な、なんだって!?俺の熱き魂で!?」
熱き魂という言葉にぴくっと反応したたかし。
最初の嫌そうな顔はどこへやら、やる気満々の顔で立ちあがった。
「任せろ!!いっちょやってやるぜ!!」
少しの準備運動、そして・・・。
「うおおおっ!!」
気合をおもいっきり入れてジャンプしたたかし。
それはまさしく屋根よりも高く、というジャンプだった。つまり・・・。
ガン!!
「ほの・・・!!」
ドガシャッ!!
天井におもいっきりぶつかって床に崩れ落ちた。
「・・・う、うう・・・。」
「野村さん、そんな・・・。」
心配そうにたかしを見つめるヨウメイ。そこへ翔子がやって来た。
「あのな、屋内で屋根より高くジャンプしようとしたら天井にぶつかるのは当たり前だろうが。」
「あ、そうか。すいません、野村さん。」
申し訳なさそうに頭を下げたヨウメイ。
そしてたかしの傷を少し治療したかとおもうと教室から去って行った。
それを見送っていたキリュウは・・・。
「わざとだなヨウメイ殿・・・。しかし最初に言われた時に気付かない野村殿も・・・。」
と、呆れたようにため息をついていたのだった。

<・・・おわり>


第三十一ページ『漫才再び!(第二幕)』

・・・たかしに案内されてリビングへと落ち着いたキリュウとヨウメイ。
「それでさ、どんな漫才を・・・。」
「さっきので心配しているのか?なに、あれはほんの小手調べだ。」
「パワーアップした漫才を見てくださいよ。」
気合を入れたかのように説明する二人であった。
「漫才といえば・・・どうしてヨウメイ殿はボケないんだ。私が突っ込んだ方が良くないか?」
「なにごたごた抜かしてんじゃあ!!
くだらんこと言っとると竜巻呼んで空の彼方へへふっとばしたるでえ!!このダホッ!!」
突然関西弁になってキリュウに突っかかるヨウメイ。
圧倒されたたかしだったが、なんとかダメージを受けずに済んだ!
「・・・ヨウメイちゃん、やり方が変わったな。」
感心したように呟くたかし。すると、それに対してヨウメイは突っかかった。
「だれがヤドカリやねん!!訳分からんこというてると火山呼んでドタマかち割ったるでェ!!このボケナス!!」
「うひー。」
いきなり迫られてうろたえるたかし。不意を突かれて十ポイントの精神ダメージを受けた!!
そこで、キリュウが思い出したように手をぽんと打つ。
「おおー、ヤドカリといえば芝生を刈ることか。」
「それは芝刈りでんがな。」
「・・・思いつかん。」
「なんやてえ!?パワーアップした意味あらへんやんか!!」
「ま、まあまあ、これも小手調べという事で・・・。」
気まずい雰囲気になったが、キリュウは慌てて誤魔化そうとする。しかし・・・。
「こけにしたぁ!?しょーもないこというてると灼熱地獄へ放りこんで脳みそカタカタいわすたるでェ!!!!」
「あか味噌?しろ味噌?あわせ味噌?」
「なんでやねんなんでやねん!!」
「白熱?炸裂?卓越?」
「責任者でてこーい!!!」
ひたすらダメージを受けながら二人を見ていたたかし。
収拾がつかなくなった事に気付き、なんとか二人を落ち着かせた。
「あ、あのさあ、もう少し普通に・・・。」
「心配入らない。これはつかみだ。」
「やれやれ、関西弁って難しいですねえ。それじゃあ次行きますよ。」
「そうだ。電話番号117。」
「もう、それは時報でしょう?次鋒ですよ。」
「「あははははは。」」
「・・・・・・。」
訳も分からず二人の攻撃!!たかしは今回で計五十ポイントの精神的ダメージを受けた!!
まだまだ悲劇は続く・・・。

<第三幕へ続く・・・。>


第三十二ページ『花壇にて』

早朝。七梨家の庭では花壇に水をやる人物の姿があった。
「おはよう、お花さん。今日も一日元気で居てね。」
シャオである。鼻歌を歌いながら、そして花に話しかけながら水をやっている。
そう、この花壇はシャオが太助へのプレゼントとして作ったものだ。
毎日の水遣りは、ほとんどシャオと太助の日課である。
と、シャオに加えて更に一人姿を現した。
「ふああ、おはようございます、シャオリンさん。」
「おはようございます、ヨウメイさん。今日は早いですね。」
眠たげな目をしたヨウメイだ。まだパジャマ姿である。
「キリュウさんの仕掛けた目覚ましの誤作動で起こされたんですよ。
肝心のキリュウさんは二度寝しちゃって・・・。」
理由を告げた後に再び大きなあくびをするヨウメイ。その気になればヨウメイも二度寝できそうなものである。
シャオはそんな彼女を見てくすっと笑うと、傍に来る様に手招きした。
「見てください、ヨウメイさん。綺麗なお花さん達でしょう?」
「そうですね・・・。たしか、シャオリンさんが主様に一周年記念としてプレゼントしたんですね?」
「ええそうです。太助様、とっても喜んでくださいました。」
その時の事を思い出しながら笑顔で語り出すシャオ。
ヨウメイもまた笑顔で聞いていたのだが、途中で少し考え込み始めた。
「それでね・・・どうしたんですか?ヨウメイさん。」
「いえ、私も何か主様に贈り物をしようかなって。」
「それはいい考えですね。何を贈るつもりなんですか?」
「まだ考え中です。その時になったら相談してもよろしいですか?」
「もちろん。遠慮無くどうぞ。」
「お願いします。」
ぺこりと頭を下げるヨウメイ。それにつられてか、シャオも笑顔で頭を下げるのだった。
しばらく二人の話に花が咲き、少し遅れた朝食がとられる事となる。

<END♪>


第三十三ページ『仲良し?』

いつもいつも笑顔を絶やさずに明るいヨウメイ。しかし・・・。
「ふう・・・。」
リビング。くつろいでいるのはルーアン、キリュウ、ヨウメイの三人である。
「ふう・・・。」
何故かため息をついているヨウメイ。気になったルーアンが尋ねてみた。
「どうしたのよヨウメイ。いつもの明るさはどこ行っちゃったのよ。」
「いえね、ちょっと。ふう・・・。」
軽く答えてまたもやため息をつくヨウメイ。今度はキリュウが尋ねた。
「ヨウメイ殿、もしかして何か悩みがあるのか?」
「いえいえ、ちょっと落ちこんでるだけですから。ふう・・・。」
「ええっ!?」
ルーアンが唐突に叫び声を上げた。それに反応した二人。
「なんだいきなり。」
「どうしたんですか?」
「だって、ヨウメイが落ち込んでるなんて・・・。
あの自身満々唯我独尊傍若無人のヨウメイが落ち込んでるのよ。」
「あのね・・・。」
呆れ顔になるヨウメイ。しかしキリュウは感心したように頷く。
「うーむ、適切表現だ。」
「ちょっとキリュウさん・・・。」
ますます呆れ顔になるヨウメイ。一つため息をついて統天書をめくり始めた。
「ちょっと、何する気?」
「・・・うさ晴らし。」
「なんだと?そういうはた迷惑な事をするのなら容赦しないぞ。」
ヨウメイの詠唱より早く短天扇を開くキリュウ。ルーアンも同じく黒天筒を構えた。
しかしヨウメイは気にせずにめくりつづける。そして・・・。
「あ、あったあった。ぱんぱかぱーん!ここでキリュウさんの秘密を発表しま〜す!!」
「ええっ!?」
「な、なんだと!!?」
明るいヨウメイの声に黒天筒の構えを解いて駆け寄るルーアン。
キリュウは危うく短天扇を落としそうになった。
「ま、待ったヨウメイ殿!そんな事をされては困る!!」
「まあまあ、これも試練ですよ。」
「そうよ〜。ねえねえ、早く発表してよ。」
「万象大乱!!」
返答を聞いて素早く万象大乱を唱えるキリュウ。
あっという間にソファーが縮小化し、ルーアンとヨウメイはずでんとこける形となった。
「いった〜い、何すんのよキリュウ。」
「ああ〜、せっかく探したのに〜。もういいや、シャオリンさんの部屋でもう一回やろうっと。」
「ま、待った待った!!次は私はもっと容赦しないからな!!」
必死になっているキリュウ。それを見てヨウメイはくすっと笑った。
「冗談ですよ。おかげで少し気が楽になりました。ありがとうございますキリュウさん。」
にこっと笑って丁寧にお辞儀。キリュウもつられてお辞儀する。
「さあってと、私もう寝ますね。おやすみなさい。」
「「お、おやすみ・・・。」」
少しばかり上機嫌になったヨウメイがリビングから去って行く。
そこでキリュウとルーアンはやれやれと腰を下ろした。
「たくう。ほんとらしいわねえ、あの子。」
「昔からそうだ。人で遊ぶのがとにかく好きだからな。」
「でもまあ実質の害が無い分いいじゃない。ま、がんばんなさいよキリュウ。」
「なぜ私に・・・。」
「だって、一番の親友でしょ?」
「なんだと?」
「キリュウくらいのもんよ、あんなにあからさまに接してるのって。」
「そういう問題ではないと思うが・・・。」
「まあまあ。同じ部屋に住んでる事だし。仲良くね。」
「うーむ、そういう事なんだろうか・・・。」
「そういう事!じゃあお休み♪」
そしてルーアンもリビングを去って行った。残されたのはキリュウ一人。
「私が一番の親友だから遊んでいるという事か?
その割にはルーアン殿も一緒になって遊んでいるような気がするが・・・。」
今のところ、真実は謎のままである。

<お・わ・り>


第三十四ページ『とある日の部屋の中で』

「あん・・・気持ち良いです、太助様・・・。」
「そっか。えい・・・。」
「うっ・・・はあん・・・。」
「へえ〜、主様って結構上手なんですねえ。」
「どうも・・・。それでヨウメイ、次は?」
「次は・・・シャオリンさん、何処が良いですか?」
「お二人にお任せしますわ。あっ、太助様もうちょっときつく・・・。」
「うん。・・・じゃあヨウメイ場所指定頼む。」
「ふむふむ・・・それでは現在の位置から時計回りに指で円を描いて下さい。」
「・・・こうか?」
「く、くすぐったいですう!」
「・・・それでその中心をドンと突いてください。」
「・・・えいっ。」
「きゃっ!・・・あ、なんだか浮いてる気分ですう・・・。」
「シャオ、浮いてる気分って一体・・・。」
「体が軽くなったって事ですよ。それで次は・・・」
がらっ!!!
「ちょっとあんた達!!シャオリンの部屋で三人で一体・・・何を・・・。」
「ルーアンさん、邪魔しないで下さい。これからが重要なんですから。
それでは主様、もう片方の手でさっきついた手をぽんと押してください。」
「・・・こうかな?」
「いたっ、いたっ・・・あ、でも、気持ち良いですう・・・。」
「それで最後に・・・あ、もう後は何もしなくても良いです。適当に止めてください。」
「そうなんだ、そうれじゃあ・・・。」
「・・・もう終わりなんですかあ?でも、すっごくからだが楽になりましたわ。」
「そっか、良かったなシャオ。」
「はい。これもヨウメイさんのおかげですね。」
「いえいえ。主様がちゃんとしてくださったおかげですよ。他の人じゃあこうはいきませんし。」
「あの・・・三人で一体何をやってたの?」
ぽかんとしてみていたルーアンが口を開く。と、太助がそれに答えた。
「マッサージだよ。シャオの体が疲れてるってヨウメイが言うもんだからさ。
それで、疲れが取れて楽に成れるマッサージの仕方でそれをやってたって訳。」
「・・・なるほど、それで服を着てシャオリンはうつぶせで。あれ?万象復元は?」
「ルーアンさん、服を着ててもおかしくないでしょう?ただのマッサージなんですから。
万象復元では疲れが癒せないんです。まだ研究途中ですから。」
「そうなの。だけどねえ、扉の外から聞いてりゃ・・・。」
「聞いてりゃ・・・何ですか?」
「何でも無いわよ。」
「変な誤解はしないで下さいよ。あの程度で言われてちゃあたまったもんじゃないです。
本当にやってたんならもっとすごいはずなんですから。」
「・・・それもそうね。」
言葉を交わすルーアンとヨウメイ。シャオはぽけっとそれを見ていたが、太助の顔は赤くなる。
「あ、あの、変な、誤解・・・って?」
「たー様、教えて欲しい?」
「むっ。ルーアンさん、それは私の役目です!!」
「何言ってんの。慶幸日天の名にかけて、それだけは譲れないわね。」
「関係あるんですか・・・。とにかく、私も譲りませんからね。」
かってに目線を合わせて火花を散らし始めるルーアンとヨウメイ。
良く分からなかったシャオは太助に尋ねた。
「太助様、変な誤解ってなんですか?」
「い、いや、それはその・・・シャオは気にしちゃ駄目だよ。はは・・・。」
「ふええ、そうなんですかあ。」
適当に納得するシャオ。ちょっとどぎまぎしている太助。
そしてルーアンとヨウメイは相変わらず火花を散らすのだった。

<おわりん>


第三十五ページ『電話』

トゥルルルルル!!
けたたましく鳴る電話。それに駆け寄って受話器を取る太助。
「はい、七梨です。」
「あっ、主様。ヨウメイです♪」
「ヨウメイ?どうしたんだよ。」
「ちょっと主様に教えたい事が出来まして。それでお電話したんです。」
「あのな・・・。それで教えたい事って?」
「はい。星に関する事です。」
「星?」
「そうです。御存知の通り、この宇宙には数多くの星が・・・」
がちゃん。
長そうな説明を始めたところで太助は電話を切った。
当然ヨウメイに断りも無く。つまり・・・
トゥルルルル!!
「もしもし。」
「主様!!いきなり電話を切るなんてどういう了見ですか!!」
「長くなりそうだったからだよ!!そんなもん電話じゃなくて家に帰ってからにしろよ!!」
「どうしてですか?」
「電話代がもったいないだろ!!」
「だって・・・普段教えようとしてもなかなか聞いてくれないじゃないですか!」
「・・・分かった分かった、これから帰って来いよ。ちゃんと聞くから。」
「本当ですか?わ〜い♪それじゃあすぐに帰りますね。」
がちゃん。
陽気なヨウメイの声を残して電話は切れた。
そしてため息をつく太助は受話器を置く。
「こんな面倒な事して教えようとしなくても・・・。
まあ確かに最近はほとんどヨウメイの講義なんて聞いてないし。
たまにはしっかり聞いてやるとするか。」
数分の後に家に帰ってきたヨウメイは上機嫌で太助に知識を教えるのだった。
最初は乗り気で無かった太助も途中からは夢中になって聞くようになる。
それが終わってから太助は変わったかと思いきやそうではない。
あいも変わらず試練に夢中。それで、ヨウメイはまた新たな作戦を練るのだった。

<御終い>


第三十六ページ『バトル!(楊明VS離珠)』

「離珠さん、勝負です!!」
(受けて立つでし!!)
ここは太助の部屋。椅子に座っている太助を目の前にして、離珠と楊明が火花を散らしている。
それで、なんの勝負をするかというと・・・。
「お絵かき勝負?」
「そうです!離珠さんと私で、共通の言いたい事を絵で描いて、主様にとってどちらが分かりやすいか!」
(という事でし!)
「分かったよ。制限時間は五分だったな。それじゃあ始め!」
太助の合図の後に、二人はばっと絵を描き始める。
当然お互いが見えない様に背中合わせだ。
いつも通り筆を取り出して描き描きする離珠。
不公平になるといけないので、楊明も似たような道具を使う。
そして五分が経過・・・。
「そこまで!よーし、それじゃあ二人とも絵を見せてくれ。」
太助が二人を止める。まず離珠が絵を差し出した。
普段から描いているだけ会って、自信ありげな顔だが・・・。
「・・・なんなの、これ?」
(しょ、しょんな・・・。)
どうやら太助には分からなかった様だ。当たり前の事だが、お題は太助に伝えていない。
ちなみに離珠が描いたものとは、にっこりと微笑んでいるシャオ。
その横に、これまた笑顔の太助の顔が描かれてあった。
「うーん・・・俺とシャオを描いてあるってのは分かるけど、何が言いたいのかは分からないなあ。」
(はう、そうでしか・・・。)
がっくりとうなだれる離珠であった。
「ふふん、離珠さん。どうやら私の勝ちはもらったようなもんですね。さあ主様、私の絵を!!」
横目で見ながら離珠を笑い飛ばすと、楊明は自分の描いた絵を差し出した。
最初の離珠と同じく自信ありげな様子。しかし・・・。
「・・・汚い絵だな。」
「な!!!何てこと言うんですか!!これでも昔は画家に仕えていたんですよ!!」
「そんなの関係無いだろ・・・。とりあえず俺とシャオの絵だってのは分かるけど・・・。」
楊明が描いた絵とは、離珠と同じく太助とシャオ。
違うのは、二人がお互いに向き合っているという事。更には目を閉じている。
「・・・もしかして、き、キスなんてしてる所か?」
「ええー!!?はあ・・・分からなかったか・・・。」
これまたがっくりとうなだれる楊明。横では離珠がふふんといった顔でそれを見ている。
「なあ、二人とも何を描いたのさ。教えてくれよ。」
結局は答えが分からなかった太助。すると、楊明がやれやれと口を開いた。
「お二人で布団の中で眠っている所ですよ。つまり結婚初夜です。」
(そうでしそうでし。結婚してシャオしゃまも太助しゃまも幸せ・・・でし。)
「へええ、結婚初夜ねえ・・・って、そんなの分かるかー!!!」
突然大声で怒鳴りながら太助は立ちあがった。もちろん顔は真っ赤である。
「分かってくださいよ。だからあえて二人とも服は着せなかったのに・・・。」
(離珠も布団をちゃんと描いたんでしよ。)
「こここ、こらー!!ふふふ、ふく、ふくをきせ、きせ・・・あのなー!!!」
しどろもどろになりながらも必死になる太助。
結局この勝負は引き分けになったようだ。

<DRAW!>


第三十七ページ『楽器に触ろう(第二楽章)』

チャラララ〜ン♪
「どうです!この見事なバイオリンの音色!!」
音楽講義室。例のメンバーが集まってヨウメイの音楽講座を受けている。
たった今、ヨウメイが持参のバイオリンを弾いて聴かせた所だ。
もちろん弾きおわった後に皆は拍手。ヨウメイもぺこりとお辞儀する。
「ねえ楊ちゃん、今のは何て曲?」
「それはね、“ツィゴイネルワイゼン”って曲よ。これを弾いてると私は・・・。
ああ、幸せな気分・・・。」
「おーい・・・。」
質問して、その後再度呼びかけるゆかりん。それによってヨウメイは我に帰る。
「はっ、失礼しました。とにかく、バイオリンってのは済んだ音色が出るので有名ですね。
主にメロディーを奏でたりして、まさに王道!ま、どうでも良いけど。」
最後に付け足したヨウメイにずるっとこける面々。
その中からいち早く復活した出雲が前に出た。
「あの、ヨウメイさん。私にも弾かせていただけますか?」
「ええっ?宮内さんバイオリンが弾けるんですか?」
「少しですけどね。」
余裕の笑みをたたえている出雲に、当然皆は驚きの声を上げた。
「すっげー!!さっすがナンパ師!!」
「おまけにキザだな。」
「あのね・・・。」
けなし言葉が多かったにもかかわらず出雲は改めてヨウメイの方を向く。
「それでは渡してもらえますか?」
「良いですけど・・・壊さないで下さいね。これ一つで、宮内さんが百個買えるんですから。」
「・・・・・・。」
ヨウメイの笑えない冗談に出雲は顔を引きつらせてそれを受け取る。
とにかく、相当高価だという事は間違い無いようだ。
遠くからそれを見ていたシャオが翔子に告げる。
「翔子さん、出雲さんて何処かで売られてるんですか?」
「そんな訳無いだろ・・・。それにそうなったら実際犯罪だしな。」
「それじゃあ、出雲さんて百人いらしたんでしょうか・・・。」
「違うって・・・。それにしてもあれが一億円だったとしてもおにーさんは百万円の価値しかないのか・・・。」
そんなやりとりは幸いにも出雲の耳に届く事は無く、彼は華麗な演奏をするのだった。
曲目は“G線上のアリア”。当然聴いているうちに大半の人間は眠ってしまった。
最後まで頑張って聴いていた那奈が一言。
「ちゃんと最後まで聴いてやったんだから後でなんかおごってくれよ。」

<ちゃらん♪>


第三十八ページ『じゃらじゃら』

今日も気分は晴れなのだろうかと言わんばかりに、ヨウメイはご機嫌だった。
鼻歌を歌いながら、ルンルンとスキップしながら道を進んでいる。
それはなぜか?秘密はヨウメイが手に持っている物にある。
「やあヨウメイちゃん!」
「随分と楽しそうだね。どうしたの?」
ばったりと出会ったのはたかしに乎一郎。
二人ともおそらく、いつものように太助の家へ向かっているのだろう。
「こんにちは野村さんに遠藤さん♪実はすごい物が手に入ったんですよお。」
ぴたっと止まって挨拶した後、そのすごい物をすっと差し出す。
たかしと乎一郎は、“ヨウメイをご機嫌にさせるすごい物とは一体?”という事で、思わずそれに見入るのだった。
しかし、一目見ただけでは良く分からなかったようだ。たかしが疑問の目でヨウメイを見る。
「・・・何これ?」
「“じゃらじゃらの鉛筆”です!!」
「じゃらじゃらの鉛筆?」
聞き返す乎一郎。そこでヨウメイは得意げに胸を張るのだった。
「そうです!!見ての通りじゃらじゃらしてるでしょう?」
「「まあ、確かに・・・。」」
じゃらじゃらしているというのは飾りの事。とにかく何らしかの飾りが沢山ついている。
実際にじゃらじゃらと音を立てさせるヨウメイ。二人はあっけにとられてそれを見るのだった。
反応がいまいちな二人に対し、ヨウメイは更に付け加える。
「しかも音が出るんですよ!!ほら!!」
「「はあ、そうなんだ・・・。」
いかがわしげなスイッチを押して“ぷわわわ〜ん”という音を出させるヨウメイ。
しかし、やはり二人の反応はいまいちである。
「そ、そのうえ光るんですよ!!ほらほら!!」
「「へええ・・・。」」
みょうちくりんな紐を引っ張って“ぴかっ”とそれを光らせるヨウメイ。
それでも、二人の反応は大したものではなかった。
「・・・もういいです。お二人には、
フェティッシュな感覚を全て結晶させたと言われる伝説の鉛筆は気に入らなかった様ですね。
あーあ、早く花織ちゃんとこ行こうっと。」
そっけなく言うと、ヨウメイはすたすたと歩き去って行った。
しばらくの後に、二人に会う手前の様なスキップに戻る。
ぽかんとしてそれを見送っていたたかしと乎一郎だったが・・・。
「一体なんだったんだろう。ねえ、たかしくん。」
「良くわかんないけど、必死にアピールしてたな。そんなにすごい物なんだろうか・・・。」
一つ首をお互いに傾げたところで、二人は七梨家に向かって歩き出した。
その途中に、だんだんと“じゃらじゃらの鉛筆”が欲しくなってきた自分達に気付くのであった・・・。

<驚くべきことに終わる>


第三十九ページ『そっくりゲーム』

「本物は、だぁれでしょぉー!!」
ぱっぱらぱっぱっぱ〜♪
「え〜、皆様、宴もたけなわではございますが、再びあのゲームをやりたいと思いま〜す!!」
ぱちぱちぱちぱち〜
「それではステージにご注目下さい。解答者のお嬢さんでぇ〜す。」
「こ、こんにちは。お嬢さんなんて照れちゃうな。」
「照れてどうすんの花織ちゃん・・・。さてさて、ルールを説明しますね。
幻術によって主様と姿を同じくした人が四人。そして更に本物の主様。
この五人の中から、本物を当てていただく、というゲームです。」
ここでちらっと周りを見る花織。と、ルーアンの姿が目に入った。
「今回もルーアン先生は審判ですか?」
「そうよ。ま、せいぜいがんばんなさいね。」
「それではまず、一人目の主様どうぞ〜!!」
姿は太助、という人物が現れた。
「・・・七梨太助だ。」
「・・・二人目どうぞ!」
またもや姿が太助なる人物が現れた。
「七梨太助です。」
「・・・三人目どうぞ!」
更に姿が太助なる人物が現れた。
「七梨太助です!!」
「・・・四人目どうぞ!!」
またまた姿が太助なる人物が現れた。
「どうも、七梨太助です。」
「・・・五人目どうぞ!」
最後の姿が太助なる人物が現れた。
「はは・・・七梨太助で〜す。」
「さあ、花織ちゃん。本物の主様は誰でしょ〜!?」
「・・・わかんない。」
小声でぽそっと答えた花織だったが、それは誰の耳に届く事も無かった。
ルーアンとヨウメイはにこにこと。五人の七梨太助はいかにもという顔をしている。
前回と比べると、遥かに難しくなっているのが見てとれた。
「楊ちゃん、何かヒントを・・・。」
「贅沢だねえ・・・。それじゃあ何か質問してみて、五人ともに。」
「う、うん・・・。」
つかつかと五人の近くに寄る。そしてきりっと顔を上げて尋ねた。
「七梨先輩の好きな人は誰ですか!?」
勢いがかなりある。さすがに五人ともたじっとなった。
それでも、体勢を立て直してその質問に答えるべく口を開く。
「シャオだ。」
「シャオちゃ・・・シャオです。」
「シャオせ・・・シャオです!!」
「・・・その・・・シャオ・・・。」
「・・・愛原だ♪」
五人目は何故かにやついている顔。
他の四人(那奈、乎一郎、ゆかりん、太助)はその顔を一斉に見て確信した。“遊びで答えたな”と。
もちろんヨウメイとルーアンもそんな顔。しかし花織は・・・。
「この人!!この五番目の人が七梨先輩です!!ああ、やっぱり先輩は花織の事を・・・。」
いきなり迫って腕をぎゅっと絡ませる花織。
それに呆れると同時に、ヨウメイが告げる。
「花織ちゃん、それは偽者・・・」
「違うもん!!もし偽者だとしても良いもん!!さ、七梨先輩、行きましょう♪」
五番目の太助の腕をしっかりつかんでステージから一緒に消えようとする花織。
当然その太助は抵抗する。
「ま、待て、愛原。ヨウメイが偽者だって言ってるじゃないか。」
「ダメですよ。間違えて選んだとしても連れて帰らなきゃ。先輩、二人っきりでたっぷり遊びましょう。」
トロンとした目で訴える花織。ますます五番目の太助はうろたえる。
「愛原ぁ〜!!あたしは翔子だ、七梨じゃないよー!!」
「・・・あたしにはなんにも聞こえません。さ、早く・・・。」
「ちょっとー!!誰か助けてくれ〜!!!」
必死になって周りに呼びかける太助の姿の翔子。
それに我に帰った周りの皆が助けようとするが、花織にあっさりと逃げられてしまうのだった。
翌日、翔子は遊び疲れてくたくたになった姿を皆の前に見せたそうな。
「・・・自業自得だな、山野辺。」
「うるさい・・・。」
ちなみに翔子の捜索隊は、謎の罠に引っかかってことごとく全滅したそうである・・・。

<BAD END>


第四十ページ『楊明日記(その2)』

×月△日晴れのち曇り。今日はキリュウさんと一緒にお買い物に行きました。
日用品とか売ってる・・・いわゆる雑貨屋さんです。
「ふむ、このやかんなどは試練に使えそうだな。」
「何の試練ですか・・・。あ、この包丁よさそうだな。シャオリンさんにプレゼントしようっと。」
二人とも目的の品をどんどん見つけて行きました。
十分も経たない内に買い物篭は商品でいっぱいです。
「・・・買い過ぎじゃないですか?」
「心配要らない。小さくすれば全部持てる。」
「そうじゃなくて、お金足りるんですか?」
「ヨウメイ殿が持っているのでは?」
「私はそんなにお金持ってきてません。いくらなんでもこれだけも買えませんよ。」
「ううむ、困ったな・・・。」
少し頭を抱えてしまったものの、結局は商品を戻す事に。
もちろん私が統天書で調べてキリュウさんが返す係です。
「あ、キリュウさん、このやかんはあっちのコーナー・・・」
「なんだと!?このやかんを返すわけにはいかないな。」
「はいはい。それじゃあこのモップを・・・っていつの間にモップなんか・・・。」
「部屋の掃除に使おうかと思ってな。よく考えたら家にもあったな。」
「え〜と他には・・・。」
「このフライパンはどうだ?」
「だ、駄目ですよ!これは私の防具なんですから。」
「なんだそれは・・・。」
とまあこんな調子で次々と商品を返していきます。
最初に選んだ時よりも時間を費やして、ようやく買えるだけの量になりました。
で、やっとこさレジに到着したんですが・・・。
「さてヨウメイ殿、この場は任せた。」
「な、何言ってるんですか。キリュウさんの出番でしょう?」
「何を言う。お金の支払い方を教えてくれ。」
「そんな事言って誤魔化そうったってそうはいきませんよ。キリュウさんが行ってください。」
「いいや、ここはヨウメイ殿が・・・」
「ちょっとあんたたち!!後がつっかえてんだからさっさと渡してよ!!」
二人で言い争っていると、レジのおね―さんに怒られました。
後ろを振り返ると、沢山の人が腕組みをしてこちらを睨んでいます。
私とキリュウさんは慌てて商品が入った籠を差し出してレジを打ってもらいました。
ところが・・・。
「はい、全部で4350円です。」
「さてと、私が2150円払っておきますね。」
「密かに自分が少なくなる様に・・・。まあいい、私が2200円・・・あれ?」
「どうしたんですか?」
「1000円札1枚しかない・・・。」
「えーっ!?私3000円までしか持ってきてませんよ。」
「困ったな・・・。」
改めて二人して困っていました。するとレジのおね―さんがわなわなと・・・。
「ふざけんなー!!お金はちゃんと用意しておきなさーい!!」
「でも、今気付いたんですから・・・。」
「そうだ。それに合計いくらになるとかまではよめないし・・・。」
「だったらくだらない事で言い争ってんじゃなーい!!ほら、さっさと返品!!」
言われて籠の中から商品を戻そうとする。
けれど、どれもこれも返品するには・・・。
「キリュウさん、そのおたまは要らないんじゃ。」
いいかげんにしなさい!! 「ヨウメイ殿こそ、無理に今ここで鍋を買わなくても。」
「いいえ、これは必要なんです。」
「だったら私も譲れないな。」
三度目、二人して言い争っているうちに、これまた三度目の怒り声が。
「さっさと決めなさーい!!」
結局は包丁を戻す事に。(しくしく)
けれども、買い物は無事終わりました。
ちなみにそれぞれの用途は秘密です。試練と教授と・・・あら、書いちゃった。

<続く・・・>


第四十一ページ『本屋にて』

とある本屋。学校帰りの女子中学生二人が騒いでいる。
「ねえねえ、この子かわいーよねえ。」
「ゆかりん、なんの本を見てんのよ・・・。わたし達が探しに来たのは植物の本でしょ。」
「別にいいじゃない。楊ちゃんに任せておいてあたし達は立ち読み・・・」
「うおっほん!!」
ゆかりんが言いかけたその時、二人のすぐ傍で席払いをした男性が居た。
はたきを持って鋭い目で睨んでいる。この本屋の店長の様だ。
「立ち読みになんか来ないでもらいたいね。」
「あ、いえ、親友二人が本を選んでるから、その間に・・・」
熱美がゆかりんに代わって言い訳。そこでちょうどその親友二人がやって来た。
手に本を持っている訳ではないが、何やらにこにことしている。
「お待たせ、熱美ちゃん、ゆかりん。」
「本は買わずに読んで覚えたよ。ま、あの程度の本なら軽い軽い。」
けたけたと笑っているヨウメイ。
読んで覚えたと言っているが、万知創生を使ったのは暗黙の了解の様だ。
ところが本屋の店長はそんなものは知るわけもない。
ぶるぶると震えていたかと思うと、おもいっきりはたきを振り上げた。
「立ち読みになんか来ちゃいかーん!!」
「うわわっ、ごめんなさーい!」
「花織、楊ちゃん、早く逃げるよ!!」
「「え?え?」」
慌てて走り出すゆかりんと熱美にそのまま引っ張られて行く花織とヨウメイ。
ちょっとした本屋での騒動であった。

<立ち読みは駄目だよっ(そういう問題じゃない)>


第四十二ページ『壁』

「もう頭にきました!!キリュウさんは二度と私と口をきかないで下さい!!」
「こちらこそお断りだ!!それに、私の半径三メートル以内に近付くんじゃないぞ!!」
二人の部屋。なんとも激しい喧嘩をやっているキリュウとヨウメイ。
喧喧諤諤と言い争った所で、ヨウメイがすっと部屋の真中を指差した。
「分かりました!!ここからここまでを境界線とします!キリュウさんはこっち側に入ってこないで下さいね!!」
「それだと私が部屋から出られないではないか!!もう少しこちら側に寄せるんだ!!」
「窓から出ればいいじゃないですか。そして泥棒と間違えられて警察行きに成ってくださいよ!」
「なんだと!!」
口答えしたキリュウだったが、その直後にヨウメイは統天書を開いた。
おもいっきりにやりと笑って大きく叫ぶ。
「来れ、絶壁!!」
先ほどヨウメイが指定した線上になんとも不気味などす黒い壁が出来あがった。
あっけに取られてキリュウが見ていると、ヨウメイが説明を始める。
「この壁に触れようものなら、あっという間に体に激痛がはしって気を失います。
絶対に触れ無い様にしてくださいね!!」
「くっ・・・。私はもう寝る!!」
「はーい、おやすみなさーい!!」
ぷいっと横を向いたかと思うと、部屋の明かりを消して二人とも寝に入った。
そう、今の時間は一般に言うと夜。寝る時間である。
そして二人が寝静まってから約一時間後。
普段寝ているときと全く同じように寝返りを打つキリュウとヨウメイ。そして・・・。
「「うわあぁー!!!!!」」
ばりばりばりと激しい音がしたと思ったら、二人の意識は一瞬にして途絶えた。
幸いそれに気づくものは誰もおらず、そのまま朝を迎える。
二人は同時に目が覚め、昨日の晩に何が起こったかをさとるのだった。
「・・・二人して絶壁に触れたようだな。」
「たくう、どうしてそんなに寝相が悪いんですか。わざわざベッドから離れた位置に壁を張ったのに。」
「というより前に、どうしてあんな境界線の引き方をしたんだ。
あれでは、自分は絶壁に触れますよと言っているようなものだ。
だから私は、最初にこちらへ寄せろと言ったのに・・・。」
「しょうがない・・・今回は引き分けという事で。」
「そうだな。では行こうか・・・。」
お互いに握手をして二人は立ち上がり、朝食をとりに一階へと降りて行く。
太助達は、外見が何故かぼろぼろの二人を何も訊けずに見ているだけであった。

<めでたしっ>