とある夜、リビングでくつろぐ太助達の耳にある虫の鳴き声が届く・・・。
ちんちろりん
「太助様っ、今聞こえたのはなんですか?」
「これは・・・」
唐突にシャオに聞かれて少し考え込む太助。
と、その傍には何やら目を輝かせて待っているヨウメイの姿が。
飲み掛けの湯のみを持ったままそわそわと・・・。
「・・・松虫だよ。松虫ってのはちんちろりんとも呼ばれたり。
ああいう声で鳴くから、かな。」
「ふええ、そうなんですかあ。」
結局は太助は思い出した様で、その説明に感心した様に頷くシャオ。
そこでがくっとなって、いじけた様にお菓子を食べるヨウメイ。
キリュウはそんな彼女の頭をよしよしと撫でる。
二人のやりとりに呆れながらも那奈は口を開いた。
「けど随分近くないか?庭に居るんならもう少し小さく聞こえるはずじゃ。」
「そういえばそうだよな。家の中に居るのかな?」
ちんちろりん
「あっ、また!」
「どうやらキッチンの方に居るみたいね・・・。」
思わず立ちあがったシャオ。冷静に告げたルーアンもすっと立ちあがった。
「何するつもりだ?」
「ちょっと捕まえに行こうかなって。」
「そんな事したら可哀相ですよ。そっと近寄るだけにしましょう。」
ルーアンを諭しながらもシャオはなんだか落ち着かない様子。
ここで太助も立ちあがった。つまり三人で、という事である。
「よーし、静かに行くぞ。」
「ええ、分かったわ、たー様。」
「なんだかわくわくしますわ。」
そろりそろりとキッチンへ向かう三人。
那奈とキリュウ、そしてヨウメイは静かに見送っていたのだが・・・
ずるっ、すってーん!!
と、シャオが勢い良くこけ、続いてルーアンも太助もこける。つまり・・・
どんがらがっしゃーん!!!
三人ともが大きな音を立てて倒れてしまったのだった。
びっくりして立ちあがる那奈。
「だ、大丈夫か!?」
うめきながらも、三人は“な、なんとか・・・”と答えた。
那奈が座り直した所でぱらぱらと統天書をめくり始めるヨウメイ。
「どうやら今の音で、松虫さんは驚いてどっかへ行っちゃったみたいですよ。
もう見つけられないでしょうね。」
「「「そ、そんなあ・・・。」」」
がっくりする三人をチラッと見ながら、ヨウメイはキリュウに対してすっと手を差し出す。
「さあキリュウさん、どうぞ。」
「・・・試練だ、耐えられよ。」
やはりというかお決まりの言葉で最後を締めくくる。
そこで、三人ともますますがっくりとくるのであった。
<すってんてん>
ある日の事、何気なく雑誌をめくっていた熱美。
ふと、見慣れない言葉を見つけた。
疑問に思い、丁度隣の席で勉強しているヨウメイを突つく。
「ねえねえ、楊ちゃん。」
ヨウメイとしては勉強に集中して居たかったのだが、親友の呼びかけを無視するわけにはいかない。
開いていた本(言うまでも無く統天書だが)をパタンと閉じて、熱美の方へ向いた。
「何?熱美ちゃん。」
「ちょっと教えてほしい事があるんだけど。」
ここでぴくっとなるヨウメイ。
教えてという言葉に敏感だという事は、熱美が何気なく発見した事である。
「どうぞ。」
「えーとねえ、イサドラって何?」
「イサドラ?」
「そ。ダンスに関係が有るみたいなんだけど、この本には言葉だけしか載ってないの。」
言いながら自分が見ていた雑誌を見せる。
確かにダンス関係だと思わせる事が周りに書かれていた。
しかし、イサドラに関しては直接は載っていなかった。
「ちょっと待っててね。え〜とイサドラ・・・。」
早速統天書がめくられ始める。なんとなくわくわくしながらそれを見守っていた熱美だったが・・・。
「!!こ、これは・・・。早速キリュウさんに報告しなければ!!!」
「へ?」
イサドラという言葉を見つけたらしいのだが、突然ヨウメイは立ち上がった。
当然熱美は唖然となる。
「あの、楊ちゃん・・・」
「あ、ごめんね、熱美ちゃん。イサドラに付いてはまた後で教えてあげるから。
さあて、急がなくっちゃ!!」
言うなりぴゅ〜っとヨウメイは廊下へと駆け出していった。
おそらくはキリュウが居る場所へと向かったのだろう。
そのものすごい速さに、熱美はぽかんと口をあけたままそれを見送っていた。
<おどらないで・・・>
「なあヨウメイ、ちょっと相談したい事が有るんだけど。」
「なんでしょうか?」
放課後、唐突ながらヨウメイを訪ねた翔子。
花織達に先に帰ってもらって、ヨウメイ一人が翔子の相手をしているわけだ。
「七梨とシャオをキスさせる方法ってないかな?」
「なんですか、やぶから棒に。」
「どうも上手くいかなくってな・・・。」
以前から、翔子は様々な嘘をついて太助とシャオをキスさせたりしようとしてきた。
けれど、失敗が多くてなかなか思い通りにもいかなかったりなのである。
「そうですねえ・・・こんなのはいかがでしょう?」
「うん?」
「怪我をした時に血を止めるには、傷口を舐めたりしますよねえ?」
「ああ、まあそうだよな。」
「だから、シャオリンさん・・・いや、女性の顔を傷つけるのは良く無いですね。
主様の頬辺りにでもすっと傷をつけて、そこからにじみ出た血を止めるのにシャオリンさんが・・・。」
「・・・なるほど、唇じゃないとはいえ大胆な作戦だな。」
「でしょう?」
思わず感心してしまった翔子。だが、しばらく考え込んだかと思うと首を横に振った。
「やっぱりダメだ。どうやって七梨の顔に傷を?
第一、そんな事したらシャオが怒ってこないかなあ・・・。」
「うーむ・・・それなら試練にかこつけて、ってのはどうでしょうか?」
「試練にかこつけて?」
「そうです。キリュウさんに頼んで刃物かなんか用いた試練を行ってもらいます。
それで、たまたま主様の頬に傷をつけてもらい、そこへ慌てて駈けつけたシャオリンさんが・・・。」
「おおっ!!それいい!!ところで、まさかヨウメイは怒ったりしないのか?」
「いや、試練は理不尽じゃ有りませんから。」
「それなら大丈夫だな。よし、早速作戦開始だ!!」
ものすごく大胆な作戦にも関わらず、翔子とヨウメイ、そしてキリュウ、更には那奈も加わる。
綿密な計画を立てて、太助の運動力等を計算して、刃物を用いた試練へと持ちこんだ。
試練当日・・・。
「なあキリュウ、なんでいきなり刃物なんかを?」
「・・・試練だ、自分で考えられよ。」
「ふーん・・・まあいいや。」
疑問の顔だった太助だが、それを承諾。
そしてシャオには・・・。
「シャオ、太助が血を流したら・・・分かってるな?」
「ええ、分かってますけど・・・。どうして長沙を呼んではいけないんですか?」
「あのさあシャオ、これはシャオ自身にも試練になるんだ。
いかに星神を使わずに七梨を助けられるか。だから・・・。」
「・・・分かりましたわ、翔子さん、那奈さん。私、頑張ります!」
二人の言葉により気合を入れるシャオ。
ちなみにヨウメイは、他からの邪魔が一切入らないように空中に待機中である。
まさに準備万端、いつでも試練が行える状態だ。
「では、ゆくぞ主殿!」
「ああ、いつでも来い!!」
太助の声に対してキリュウが短天扇をすっと構える。
今回の試練は、様々な方向から飛んでくる刃物をいかにして避けるか。
一歩間違えれば死んでしまいそうな試練である・・・。
「万象大乱。」
一声となえると同時に、どこからか一斉に刃物が太助めがけて襲いかかってきた。
ヨウメイの計算のもと降りかかるそれを難なくかわす太助。そして・・・
シュッ!!
沢山のうちの一つが太助の頬を掠める。
その後、刃物の降りは止んだものの、太助の頬からは一筋の血が流れていた。
「くっそう、一つ当たっちまった。」
「(さすが知教空天だな。確かに一筋だけ負わせている・・・。)
主殿!いったん休憩だ!!」
「ええっ?まだ始まったばかり・・・」
ぺろっ
「へ?・・・しゃ、シャオぉ!?」
「太助様、じっとしていてください!」
キリュウの声に異議を唱えようとした太助が固まる。
シャオが太助の頬の血を止めるかのごとく舐め始めたからだ。
しっかりと効果は出ているようで、しばらくして血が止まると、シャオは顔を離した。
「太助様、とりあえずこれで大丈夫ですわ。血が流れるたびに、私がこうして治療致しますね。」
「ち、ちちち、ち、治療って・・・。」
真っ赤な顔になる太助。それを見て、翔子と那奈はパンっと手を合わせる。
取り立ててする事も無かったヨウメイはにこにことをそれを見守っていた。
しかしキリュウは、太助のどぎまぎした様子を見て短天扇をすっと閉じる。
「そんな調子では試練は出来ないな・・・。済まないがこれで終わりだ。」
“ええ〜?”という顔を一斉にする五人。
しかしキリュウの判断は正しい。
あれだけ調子が狂った太助では、次に行う時は必ず失敗して命を落としそうだから・・・。
結局は試練の意図は太助とシャオには秘密裏にされたまま。
中途半端に終わってしまった試練の埋め合わせとして、ヨウメイ自身がこれを受ける羽目となった。
その途中でいつもの喧嘩に発展してしまったのはいつもの事である。
<ドンドンドン>
かりかりかりかり・・・・
必死になにやら書いているヨウメイの姿があった。
その傍には、キリュウはもちろん、ルーアン、太助、シャオ、那奈がいる。
ここはキリュウとヨウメイの部屋。みなが今何をしているかというと・・・。
「出来たあ!はい主様、まずはどうぞ。」
「よしっ。それじゃあたかしに電話してくるよ。」
ヨウメイが書いていたのは一枚の紙に十行程度の文章。
太助が電話して話す内容・・・である。
一番に太助が部屋を出ていくと素早く書き出すヨウメイ。
数分の後に同じようなものが仕上がり、今度はシャオに手渡す。
「はいどうぞ。」
「え〜と、それじゃあ私は翔子さんにお電話してきますね。」
部屋を出ていくシャオ。それと入れ違いに、電話を早くも終えたのか太助が戻って来た。
またもやヨウメイはかりかりかりと文章を書き出す。
「はいっ、ルーアンさん。」
「さあてと、遠藤君の家に電話してこなきゃ。」
今度はルーアンが部屋を出ていく。それと同時にシャオも帰ってきた。
ふたたび部屋の中でこだまする鉛筆が走る音。そして・・・。
「よっし。どうぞ那奈さん。」
「OK!じゃあ宮内の所へ電話してくるよ。」
那奈が部屋を出ると同時に、先ほどまでと同様にルーアンも帰ってくる。
いよいよ残るはキリュウのみだが・・・。
かりかりかりかりかりかりかりかりかりかりかりかり・・・
今度は相当長そうだ。なんと言っても・・・。
「できたあ!!それじゃあキリュウさん、よろしくお願いしますね。」
「・・・何故私が三人も電話しなければならないんだ。」
「嫌なんですか?まあ無理強いは出来ませんけど・・・。」
しゅんとした顔になるヨウメイを見て慌ててキリュウは手を振る。
「わ、分かった分かった、ちゃんとしてくる。だから待っておられよ。」
「よかったぁ。よろしくお願いします。」
途端に笑顔になってぺこりと頭を下げるヨウメイ。
“仕方ない”といった顔でキリュウが部屋を出ていくと、これまた丁度入れ違いになって那奈が帰ってくる。
なにやらとぼとぼと歩いていくキリュウの姿が気になったのか、彼女は少し振り返り気味にこう言った。
「なあ、やっぱりキリュウに最後を任せるのはまずかったんじゃ・・・。」
「大丈夫ですよ。こういう時に一番頼りになる人です。
私はキリュウさんを信頼しているからこそ任せたんです。」
なんの曇りもない顔で告げるヨウメイに、皆は頷かざるを得なかった。
そして待つ事十数分。疲れた表情のキリュウが戻って来た。
「疲れた・・・。ヨウメイ殿、どうしてあの三人はあんなに元気良く喋ってくるんだ。
おかげで私は話に困ってしまって・・・。」
「でも無事済んだんでしょう?」
「まあな。」
「さっすが!これでキリュウさんに任せた甲斐があったというものです。
ともかく皆さん、お疲れ様でした。明日を楽しみに待ちましょう。」
「ああ、明日、だな。」
「けれど本当に良いんでしょうか。皆さんを頼ってしまって・・・。」
「シャオリン、背に腹は変えられないわ。非常事態だもの!!」
「ルーアン、一番の責任はお前なんだからな。」
那奈の言葉にじと目でルーアンを見る太助達。
それに対して、ルーアンは力なくうつむくのだった。
「それではお休み。」
「おやすみなさい。」
キリュウとヨウメイの挨拶を皮切りに、それぞれ解散。
そして明日に備えてゆっくりと睡眠をとる・・・。
翌日。昨日の電話の成果が出たのか、皆がそれぞれいくらかのの手土産を持ってきて七梨家に集まっていた。
同時に来た所為か、それぞれ顔を見合わせて驚きの表情と成っている。
と、大騒ぎし出す前に、ヨウメイが一人玄関前に出た。
「皆さん、いらっしゃいませ!!すいません、どうも家計が苦しくって。
それでどう対策を練ろうかと皆で話し合ったんです。
けれど直接言って頼るのもどうかという事に成って、急遽ああいうまだるっこしい方法を取りました。
お怒りはごもっともですが、とりあえずお土産を戴きたいのです。
私は無くても構いませんが主様達にだけでも・・・お願いします。」
ぺこぺこと頭を下げるヨウメイ。
要するに、家計、食材等に不都合が生じて食べ物に困っていた。
たまには皆に頼ってみようと考案したルーアンにより、ヨウメイが作戦を練ったという訳である。
しかし、本当に困っていたのはただのおやつ。
出雲のお土産だけでは物足りない・・・!というのが本音である。
煙に巻かれたようなこの作戦に、素直に手土産を持ってきた面々は何も言えずに立ち尽くすのだった。
<音がしない・・・>
「ヨウメイ殿、一つ頼みがある。」
「なんですか、改まって。」
「たまには朝起きる計画を立てさせてくれ!」
いきなり土下座しながらキリュウは叫んだ。
当然戸惑いながら、ヨウメイは慌てて顔を上げてもらう。
「ど、どうしたんですかいきなり・・・。」
「・・・良いのか?」
「・・・まさかそんな演技をすれば私が承諾するとでも思ったんじゃないでしょうね?
まあどんな思惑があるにしろ、別にいいですよ。
それに・・・ちょっと試したい事が出来ましたから。」
にやっと笑うヨウメイ。キリュウの意図を読んだものの、別の思惑がある様だ。
その顔に悪意がないことを肌で感じ取ったキリュウはそれに頷く。
「試したいなら勝手に試されるがよろしかろう。」
「良かった。じゃあまず挨拶しておきます。おやすみなさい。」
「おやすみ。」
二人で深深とお辞儀。なにやら初対面の挨拶の様に見える。
「でーは・・・来れ真空!!」
「!!!??」
ヨウメイが叫ぶと同時に辺りに異変が起こる。
真空で息苦しくなると覚悟していたキリュウだが、別段それは無かった。
と、ヨウメイは何やら紙にすらすらと書き出すと、すっとそれを持ち上げて見せた。
『音を消したんです。これでゆっくりと寝られますよ。』
“おお!”と、ぽんと手を打った(実際音はしていないが)キリュウもすかさず紙に書く。
『なかなかやるな。さすがは知教空天だ。』
すらすらすら
『いえいえ。じゃあ頑張って起きる計画立ててくださいね。』
すらすらすら
『うむ。では改めておやすみ。』
にこりとお互いに微笑み合うと、ヨウメイはベッドの上に横になった。
薄明かりの中、静かな時を過ごしながら計画を立てるキリュウ。
まさしく無音の世界。紙に書く音も、時計が時を刻む音も聞こえてこない。
(なんだか寂しい気もするが・・・まあ仕方ないな。)
少しだけ苦笑いしたかと思うと、計画が決まったようで、キリュウはすっと立ち上がった。
そして早速仕掛けを施し始める。
普段ならとてつもない騒音が鳴り響くはずなのだが、今は静かだ。
しばらくして作業が終わる。ふうと息をつくと、キリュウは明りを消して床についた・・・。
翌朝。キリュウの目覚ましより早く起きたヨウメイ。
あくびをしながら部屋を後にする。いつもみたいに起こさなくて良いのだから。
・・・というのは大きな誤算だった。
一階に皆がそろう。だがキリュウだけは居ない。
どうしたんだろうと首をひねり、ヨウメイが部屋へと戻る。
と、そこには今だ幸せそうな顔で眠っているキリュウの姿が。
そう、無音の為に目覚ましの効果が消され、万象大乱が発動しなかったのだ。
“しまった”と舌打ちすると同時に無音状態を消す。当然その程度でキリュウが起きる訳ではない。
仕方なく、ヨウメイは遅れてキリュウの目覚ましを発動させる。
だが、ここにも誤算があった。
キリュウは、起きる時間によって自分がどの位置にいるかを大体予測。(寝返りの回数等で)
今回は遅れて居た為に少々位置がずれていたのだ。
で、目覚ましの思わぬ巻き添えを食らってヨウメイが倒れる。
後から駆けつけてきた太助達によって、二人とも遅刻等は免れたが・・・。
結局、それ以降はキリュウを起こすのはヨウメイの役割、という事に成ったのである。
しかし時々、キリュウ自身が目覚ましをかける事も有るとか無いとか。
<どこかへきえた>
★特別企画≪14の音≫のタイトルで話を作ろう(終わり)★
とんとんとんとん・・・
キッチンにこだまする新鮮な野菜を切る音。
夕飯の用意を行うシャオ、そしてヨウメイが統天書片手に色々と作り方を指示している。
「あ、シャオリンさん、それは成るべく薄く。」
「はい、分かりましたわ。」
食材の切り方にもそれなりにコツがあるのか、細かい所もドンドン告げている。
普通の人が見れば“なんて鬱陶しい”と思ったりするかもしれないがシャオは違う。
事実、ヨウメイの言う通りにやっていると本当に美味しく出来るのだからきちんと聞いている訳だ。
もちろんシャオ自身の料理の腕前も加わっているという事を忘れてはならないが。
「えーと、その鍋には塩をぱららっと。」
「こうですか?」
言われた通りぱららっと塩をふるシャオ。それに対しヨウメイは満足げに頷く。
「さっすがぁ!で、次に油を・・・。」
そんなこんなで次々に仕上がっていく料理。
ついには、煮こみ上がりを待つのみとなった。
「しばらく鍋が吹き零れ無い様に見張っていればいいです。それで完成ですよ。」
「まあそうですか。今日も本当にありがとうございました。」
「いえいえ。私としてはこちらこそお礼を言いたいくらいですから。」
笑顔で言葉を交わすシャオとヨウメイ。
様々な美味しい料理を教えてもらうシャオも嬉しいし、
そういった事を教えられるヨウメイも嬉しい、というわけだ。
そして二人の共同作業によって出来あがる料理を美味しく食べる太助達であった。
<美味!>
「ぼ〜ろ雑巾ぼろ雑巾。どうしてそんなに汚いの。
一つ私がなおしましょっ♪」
跳ねる感じでヨウメイが歌う。その直後に万象復元。
ぼろ雑巾だった物はあっという間にきれいさを取り戻した。
「・・・普通に直せよ、ヨウメイ。」
「これが私の今日の今の普通なんですっ♪」
復元を申し出たのは太助。キッチンでふと目に付いたので頼んだのである。
“物を大事にする、いい心掛けですねっ”と、ヨウメイは快くそれを引き受けたのだ。
(もっとも、たまたまヨウメイが近くに居たからという理由が本当だが)
「なんかいい事でも有ったのか?」
「えへへ〜。主様は知らないでしょうけど、その雑巾は魔法の雑巾なんですよ♪」
「魔法の?・・・で、どんな魔法が使えるんだ?」
あまり驚かない太助。免疫がついてきたのだろうか。
「これで床を拭くとアラ不思議!キレイになりまーす♪」
「・・・そう、よかったな・・・。じゃあ・・・。」
やる気をなくすと同時に、くるりと背中を向けて太助はキッチンから去っていった。
それを残念そうに見送るヨウメイ。
「あーあ、本当なのに。すすっとな♪」
ちょこんと端っこを持って、すすっとヨウメイがキッチンの床を拭く。
すると、あっという間にキッチン全ての床がきれいになった!!
まさに新品同様、という感じでぴかぴかである。
「便利なんだけど一回しか使えないんだよね、これ。ま、いっか♪」
元あった場所に雑巾を置くと、ヨウメイはスキップしながらキッチンを後にした。
料理を作ろうと、後から来たシャオが驚いたのは言うまでも無い。
<ぴかぴかぴかぴか>
「ルーアンさん、今日のお天気はなんでしょう!?」
「テレビを見たら晴れって言ってたけど・・・どうせあんたがてきとーに変えるんでしょ?
そんなの当てられっこないわ。」
やる気なさげなルーアン。もっともといえばもっともなのだが、
ヨウメイはむっとしてそれに反論した。
「そんな事ありません!私は操作しません!次のおやつを賭けてもいいです!」
ぴくっ、とルーアンが反応する。おやつ好きのヨウメイがこんな事を言うのだから。
「・・・言っとくけど、統天書が操作するなんて屁理屈は無しよ。」
「もちろん!」
「よーし、それじゃあ晴れ!!」
「あ、場所を言ってませんでしたね。鶴ヶ丘町じゃなくて北京です!
北京の天気は雨・・・ハズレですね。」
「待ちなさいよー!!あんたそれいんちきじゃない!!」
「何言ってんですか。場所も言わないうちに答えを言ったルーアンさんが悪いじゃないですか。」
「ぐっ・・・だからってなんで北京なのよー!!」
「天気と北京、なんとなく似てると思いませんか?」
言った後にくすっと笑うヨウメイ。それを見てルーアンはやる気を無くし・・・
「もういいわ、おやつでもなんでも持って行きなさい。あーあ、あほらし・・・。」
と、とぼとぼとその場から去って行こうとする。しかしヨウメイはそれを許さなかった。
「ちょ、ちょっとルーアンさん、今の面白くなかったですか!?」
「はいはい、面白いわ。さすがヨウメイね。」
「そんな投げやりにならないで〜!!ルーアンさんてばー!!」
<終了なのよっ!!>
「・・・私の負けです。」
リビングにて、楊明はテーブルの上に乗っかっている饅頭に深深と御辞儀した。
と、偶然それを見かけた那奈が尋ねる。
「楊明、何やってんだ?」
「試合ですよ。御饅頭さんと。」
「はあ?」
訳が分からなくなる那奈。と、再び尋ねる前に楊明が語り出した。
「一時間以上食べずにいられたら私の勝ちだったんですが・・・負けました。」
「は、はあ、そうなの。」
「さすが御饅頭さんは強いですね・・・。」
「そ、そうなんだ・・・。」
「けれどおかしいな、前は勝ったのに・・・ああっ!!?」
突然声を上げて立ちあがる楊明。びくっとそれに後ずさりする那奈であった。
「ど、どうしたんだ?」
「よくよくみたらこれは宮内さんのお母さんの・・・おのれえ、たばかったなあ!!!」
「あ、あのう、楊明?」
急に口調が変わる楊明に恐る恐る尋ねる那奈。
と、楊明はキッと那奈のほうを睨む。
「那奈さん!!」
「は、はいっ!」
「宮内さんは何処ですか!?」
「じ、神社じゃないかな・・・。」
「神社ですね、ありがとうございました!!」
素早く飛翔球を広げ、楊明はそれに乗って外へ飛び去って行った。
当然手にはさっきまでテーブルにおいてあった御饅頭を抱えて。
「・・・やっぱりキリュウの言う通りだ。楊明の頭の中は良く分からん。」
改めてそこで納得し、うなずく那奈であった。
その後、楊明は何故かとぼとぼと帰ってきた。
手には御饅頭では無い物を持っている。またバトルをやるのだろうか・・・?
<御饅頭WIN!>
少女は待っていた。
くらい闇の底で待っていた。
何もせずに考える事すらも止め、ただじっと待っていた。
もう何週間この暗闇で過ごしただろう?
少女はこの時間が嫌いだった。
誰かに、今まで自分が得たものを沢山教えてあげたい!
更には、外の明りに触れて、世界に触れて、もっといろんな事を知りたい!
しかし今の時間はそれが出来ない。
何かを教える事も、何かを知る事も出来ない。
その苛立ちが限界に達する頃に、少女は呼び出される。
待ちに待ったその瞬間。彼女は精一杯の笑顔で告げるのだ。
「初めまして主様。私は・・・。」
この瞬間から、少女にとってなんとも充実した時間が流れる。
それは短いものであるが、だからこそそれで良いのかもしれない。
(あんまり長く居すぎると次に呼ばれる楽しみが無くなっちゃう。なんてね。)
早い時期に帰らなければならない不満を、自分にそう言い聞かせる事で消そうとする。
そして少女は再び待つ。今度はどんな事を知る事が出来るのかな?
今度はどんな事を教える事が出来るのかな?たくさん教えたいなあ・・・。
しかし、次なる期待で胸踊る時間はそう長く無い。
やがて闇が再び少女を包む・・・。
<無となりて・・・>
「おーい、ヨウメーイ。」
太助が二階に向かって叫ぶと、ヨウメイはだだだっと階段を降りてきた。
何かを教えてもらうために呼んだ、そう思ったのだろう。
「何ですか、主様?」
「一つ相談が・・・」
相談という言葉を聞いてすっと手を向けるヨウメイ。
そしていつものように統天書をめくり出した。
「・・・ごみ問題ですか。」
「そう、それで・・・」
「まさか私の万象封鎖を利用しようと言うのですか?」
「いや、まだそうとは・・・」
「言ってなくてもここに書いてあります!!これは主の・・・
って、そんな事はどうでも良くて。一体どういうつもりですか!!」
怒りをあらわにするヨウメイ。太助の考えにかなり腹を立てているのだ。
「・・・分かった。もういい。」
「いいえ、引受けます。どうも主様は・・・。でも今回だけですからね!!」
「う、うん、ありがとう・・・。」
たまっているごみ置き場へ行って万象封鎖。
そしてそれを本当のごみ捨て場へと捨てに行くヨウメイ。
実はこの家のごみ箱は・・・ただいますべて無くなっているのである。
理由は、キリュウの試練。いかにごみを作らずに過せるか、という難しいものだ。
その夜、ヨウメイはキリュウに対して抗議。
「あの、キリュウさん。試練を中止して下さい。」
「それはダメだ。どうもこの家は無駄が多いからな。」
「でも・・・。」
「第一、ヨウメイ殿がごみを作らない方法を教えれば良いではないか。」
「・・・前にも言いましたが、私から無理に教える事は出来ないんですけど。」
「そうか、なら仕方ないな。我慢されよ。」
「はうー・・・。主様のばかぁー・・・。」
泣いてつぶやいたヨウメイ。結局その2日後に試練は終了。
ルーアンから苦情が出たからだ。
「ごみ作らないようにすると思いっきり食べられないじゃないの!!」
<・・・ぽい>
文字とは不思議なもの。今回は数ある文字の一つを紹介しよう・・・。
ここは鶴ヶ丘中学校。ただいま休み時間中の一年三組である。
「ねえ楊ちゃん。」
「なに?熱美ちゃん。」
席が隣同士というだけあって、熱美は休み時間が来るたびにヨウメイに呼びかける。
授業でちょっと分からない事があったりするとヨウメイに尋ねるわけだ。
しかし、今回はいつもの質問とは違う・・・。
「統天書に書かれてある文字ってなんて言う文字なの?」
「ああ、さっき歴史の授業で古代文字について色々言ってたもんね。
この文字はね・・・うーん、そうね“自由文字”かな。」
「自由文字?」
目をぱちくりさせる熱美。そんな名前の文字など初めて聞いたからだ。
「そ。見る人によって形が変わるからね。だから自由文字。」
「それが文字の名前なの?」
「文字の名前もどんどん変わるの。だから自由文字。」
「へ、へええ・・・???」
ますます目をぱちぱちさせる熱美。と、そこへゆかりんがやって来た。
「ねえねえ、二人で何してんの?」
「ちょっと統天書の文字について。ゆかりんこそどうしたの?」
「いや、花織がまた乙女モードに入ったもんだから・・・。」
言われて花織の席を見やる熱美とヨウメイ。
確かに、ぽ〜っと宙を見つめているその姿は、乙女モード。
「ま、いつもの事だよ。それより統天書の文字についてってどういう事?」
「熱美ちゃんがさっきの授業で文字に興味が沸いたっていうからね。」
「へええ・・・。で、その文字の名前は?」
熱美と同じ質問をするゆかりん。
ヨウメイはそれに対してにこりと笑って答えた。
「自然文字だよ。」
「えっ!?さっき自由文字って言ってたじゃない!!」
名前を聞いた途端に声を上げたのは熱美である。
まあまあとゆかりんが彼女を落ちつかせると、ヨウメイは涼しい顔でそれに答える。
「名前も変わるって言ったでしょ。そういう事。」
「うーん、でも・・・。」
「まさか楊ちゃんが勝手に名付けたんじゃ無いでしょうね。」
戸惑う熱美とは対照的にビシッと質問するゆかりん。
しかしヨウメイはたじろがなかった。
「勝手に名付けたってとってもいいよ。そういう文字だもん。」
なんとも淡々とした答ではあったが、二人はしばらくの沈黙の後に同じに口を開いた。
「「なるほど・・・。確かに自由文字だね・・・。」」
二人のハモリに笑顔を返すヨウメイ。
そんなこんなで休み時間は過ぎて行くのだった。
<不可思議な文字達♪>
「ふあああ・・・。」
あくびをしながら太助が階段を降りて行く。
これから食事をして学校へ出かける。いつもと変わらない行事だ。
途中からいつもの包丁の音が聞こえて来る。
太助は洗面所で顔を洗い終わると元気良く扉を開けた。
「おはよー、シャオ」
「あ、お、おはよう主殿。」
キッチンに居たのはシャオではなかった。キリュウである。
鶴ヶ丘中学校の制服を着てエプロンを付けて、料理をしているのだ。
「・・・なんでキリュウが?」
「そ、それは・・・その、守護月天である私の役目だから・・・じゃなくて、その・・・。」
「???」
呆然としている太助。そこへ別の人物がやって来た。
「たー様、おはようございます。今日も良い天気ですことわね。」
「る、ルーアン?」
しずしずと、これまた鶴ヶ丘中学校の制服を着たルーアンである。
「ルーアン殿、喋り方が変だぞ。」
「な、何よ、じゃなかった。なんですか、キリュウ・・・さんこそ変ですわよ。」
「うっ・・・。で、では言い直そう。ルーアンさん、喋り方が変だ・・・ですよ。」
引きつった笑みを浮かべながら言葉を交わす二人。
太助は訳も分からずその光景を見ていたが、不意に何者かに抱き付かれた事によって体がかくっとなる。
「おっはよ〜、主様あん。」
「よ、ヨウメイ・・・。まさか今朝の光景は・・・」
太助が言いかけたその時、丁度シャオと那奈もキッチンへ入ってきた。
「おはよう、太助・・・。」
「おはようござ・・・おはよう、太助様。」
那奈はなんだか疲れた表情である。シャオは普段着でボーっとしている。
「まさか・・・。」
「そのまさかよん、主様あ。今日は4人で役柄を変える事になったのん。
もっちろんじゃんけんで決めたのよん。だから文句はなしね。
ちなみに、私はルーアンさん・・・じゃなかった、ルーアン。
ルーアンは私。キリュウはシャオリンさ・・・シャオリン。シャオリンはキリュウなのー!
ちなみに自分と主様の呼び方は変わらないからあん。そういう事よっ。」
乗りに乗ってる口調で喋り終えたヨウメイ。再び太助に抱き付くのだった。
「うわあ、引っ付くなって。それにしても上手いな・・・。」
説明を聞いて疲れた気分に成ったものの、ヨウメイの口調になんとなく感心する太助。
だが、そこでキリュウが口を挟んだ。
「上手くない!・・・じゃなかった、上手く無いですう!
どうして私の時はすぐに戸惑わずに呼ぶのだ・・・ですか!」
キリュウが言いたいのは、ヨウメイの説明の時の事だろう。
確かに、すぐさまにキリュウと呼び捨てを決めこんでいたのだから。
「特に深い意味は無くてよん、キリュウ。あんたと私の仲じゃないのお。」
「そんなのでは説明にならぬりませぬ!!・・・まあしょうがないから気にしない事にしようましょう。」
どうも喋り口調が変である。と、ルーアンががたっと椅子に座った。
「さっさと食べましょうよー!!・・・っす。」
食事の催促である。しかし、言い直そうとして最後に“っす”なんて付けたのがいけなかった。
太助に抱き付いていたヨウメイがすかさず詰め寄る。
「ちょっと!!私はそんな口調は使わなくってよ!!言い直してくださる!?」
「あ、あんた・・・じゃなかった、あたしだってそんな言い方しないわ・・・しませんわよ!!」
喧嘩してる時も言い直そうという努力は見られるが、結局はあまり変わっていない。
我関せずで那奈は別の椅子に座り、残って立っているシャオに太助が寄る。
「なあシャオ・・・。」
「太助様、試練です。耐えられよ、です。」
その気になっているのか、無理な無表情を作って答えるシャオ。
太助は諦めた様にため息をついて、シャオを促して食事を始めた。
もちろん、それにはキリュウも混ざっている。
ルーアンとヨウメイは喧喧諤諤の言い争いを続けていた。
朝からこんな調子で、学校がますます辛くなったのは言うまでも無い。
<完っ!>
「ねえ主様。」
「なんだヨウメイ。」
「あれは何でしょう?」
「あれ?」
「そうあれです。」
「テレビだよ。」
「テレビ?」
「・・・テレビくらい知ってるだろ?」
「まあね。箱の中に人が入ってる機械・・・」
「待ったー!!」
「と、思っていたのはシャオリンさんですね。」
「・・・あ、ああそうだよ。」
「実はそうなんですよね。テレビというのは、キリュウさんの万象大乱によって・・・主様?」
「分かったからさ、もう試練終わらせてくれよ。」
「何故ですか。いい試練じゃないですか。」
「テレビの中に閉じ込められる事のどこが試練なんだよ!!」
「私の講義も出来る、まさに一石二鳥!!」
「頼むから出してくれ〜・・・。」
二人の様子を外から、テレビの画面越しに見ていたほかの面々は、
ただただ面食らった顔でそれを見ているのだった。
「ヨウメイちゃんて凄い事考えるんだね。」
乎一郎の呟きによってキリュウが深く頷く。
ちなみに試練の内容は・・・如何に視線に耐えるかというもの。
もちろん、これはたてまえに過ぎないのだが・・・。
<ぷちっ>
「野村さん、ちょいと勝負を致しましょう。」
「おう、勝負の申し子と言われたからには受けてたつぜ。で、どんな勝負なんだ?」
内容も聞かずにアッサリと承諾したたかし。
ヨウメイは密かにくすっと笑うと一枚の紙を取り出した。
なんにも書かれていない、真っ白な紙である。
「これを真っ白にしてください。何にも無い状態の。」
「ええっ?だってこれ、白いじゃないか・・・。」
「それはそう見えてるだけですよ。制限時間は十秒です。」
「な、なにー!?」
たかしが叫ぶのも構わず、ヨウメイは自分の分の紙も取り出した。
「よーい・・・」
「げっ。」
「ドン!」
「う、うわわっ!!」
唐突に始められて戸惑うたかし。しかしいわれてすぐに出来るものでも無い。
おろおろとしている間に・・・。
「終了っ!さてと・・・ふむ、引き分けですかね。」
「な、なんで?俺何もして無いんだけど・・・。」
「冗談ですよ。えーと・・・ふむ、やっぱり野村さんには無理だったか。」
言いながらヨウメイは自分の紙と照らし合わせてその紙を見せる。
「・・・なんでヨウメイちゃんの方が白いの?」
「常識にとらわれてはいけません。ちなみに私の方が黒いんです。」
「へ?」
「この紙をよーく見てください。いずれ見えてくるでしょう。」
「は、はあ・・・。」
返事をしつつ紙を受け取ったたかし。しかし、その様子を見てヨウメイは紙をすっと奪い取った。
「よ、ヨウメイちゃん?」
「・・・やはり止めておきます。おそらく発狂すると思うので。」
「へ?」
「統天書に戻しますか・・・。」
呟いたかと思うと、ヨウメイは統天書に紙を挟み込んで念じた。
と、二枚の紙は吸い寄せられる様に書物へと消え去る。
「あの、ヨウメイちゃん、それってなんの紙?」
「・・・万物の根源の偽りを映し、そして真実を白く染める紙です。」
「はあ?」
「気にしないように。ちなみに今回の事はすっぱり忘れてください。」
「は、はあ・・・。」
「明日までに忘れないと、野村さんの人生が真っ暗になります。」
「なに〜!?」
「ただし!!」
「ただし?」
「全部ただの冗談ですので。」
「・・・なんだよそれー!!!」
「そう、ですからすっぱり忘れてくださいね。」
「たく・・・。こんなしょーも無い事忘れるよ!・・・じゃっ。」
怒りながら去って行くたかし。
たかしが去った後にヨウメイは再び二枚の白い紙を取り出した。
「・・・本当に忘れてくれると良いんだけど。」
深刻そうに呟くヨウメイ。
しかし彼女の心配とは裏腹に、たかしは翌日、綺麗さっぱり忘れていたようである。
ホッと息をついたヨウメイであった。
<・・・消>