第八十四ページ『イライラ』

いつもと変わらない日。花織は元気良く登校した。
「おっはよー!!」
勢いのいい挨拶と共に教室へ入る。するとぴりぴりした空気が漂ってきた。
その違和感を一瞬で感じ取ったのか、肩をびくっと震わせる。
そこへ熱美とゆかりんがぱたぱたとやって来た。
「おはよう、熱美ちゃん、ゆかりん・・・。なんかへんな雰囲気なんだけど?」
「おはよう花織。あれ見てよ・・・。」
「楊ちゃんが・・・。」
小声で告げながら指差す二人。
それにならって花織が見ると、なんとも恐ろしいオーラを発しているヨウメイが居た。
実際にそれが目に見える訳では無いが、花織はそれをまざまざと感じ取り、冷や汗をどっと流す。
「な、なに?楊ちゃん、一体どうしたの?」
「さあ・・・。」
「理由を訊こうとも思ったんだけどなんだか恐くって・・・。」
二人はただただ首を傾げるばかり。
とりあえず刺激はしない方がいいと三人は思い、適当に過ごす事にした。
何もヨウメイが喋ろうとしないので理由はその日が終わってもわからずじまい。
ヨウメイは、
「たく・・・。なんだって私が・・・。」
と、ずうっとぶつぶつと呟いていたようだ。

<イライライライライラ・・・>


第八十五ページ『筒』

「ルーアンさん、一つお願いが。」
「なによ。あんたのいうお願いってのは大抵ろくでも無いもんだってキリュウが言ってたから、
あたしは聞かないわよ。」
「そんなこといわずに。一週間のおやつをゆずるってのでどうですか?」
「おっけい!!さあ、なんなりと願ってやってちょうだい。」
「さっすが。というわけで、黒天筒を貸してください。」
「黒天筒を?」
「そうです。吹き矢に使えるかどうか実際に・・・」
「却下よ!!!!」

<ヒュッ>


第八十六ページ『バサッ』

リビングにて・・・。
「くー、くー・・・。」
寝息が聞こえてくる。誰の寝息かというと・・・。
「うーん、試練だ・・・く〜・・・。」
キリュウである。食後にくつろいでいる間に眠ってしまったのだろう。
と、他の面々は顔を見合わせる。
「キリュウ寝ちゃったなあ。」
「よほど疲れてらしたんですね。試練を頑張ってましたし。」
「そんな事は置いといて、誰が起こすの?このままほっとくわけにもいかないでしょ?」
ここは少し寒いのである。よって、寝かせておくには・・・というわけだ。
「ヨウメイが起こせば?同じ部屋なんだし。な!」
ぽんっ、とヨウメイの肩を叩く那奈。
するとヨウメイはやれやれというように立ち上がった。
「うーん・・・ちょいと新しい方法を試してみるとしましょう。」
机の方に統天書を半分開けておき、そこへキリュウの顔を置く。
なんとも慣れた手つきで、キリュウからの反撃を食らう事も無かった。
「ヨウメイ、何するつもりだ?」
「名付けて、統天書挟みの計!」
不思議そうに尋ねた太助にビシッと答えるヨウメイ。そして・・・
バサッ!!
キリュウの頭に統天書の片方が落ちる。つまり顔を統天書にはさむ形となったのだ。
四人がその音にびくっとなり、キリュウの体も思いきり反応する。
しかし、しばらくの間そのまま動かなくなった。寝息も途切れたようである。
「・・・あれ?起きないなあ・・・。」
首を傾げながら統天書を手に取ろうとするヨウメイ。だがその時!
がしっ!
ヨウメイの手をなにかが掴んだ。・・・キリュウの手である。
統天書のスキマから不機嫌そうな顔を覗かせている。
「あ、おそようございます、キリュウさん。」
「ヨウメイ殿〜・・・。」
「なんですか?」
「もう少しまともに起こそうという気はないのか!!!!」
怒鳴ると同時に勢い良く立ち上がった。
あまりのその凄さに、びくっとする太助、シャオ、ルーアン、那奈。
ぷんすか怒っているキリュウに対して、ヨウメイはにこっと告げた。
「ありませんっ♪」
「・・・そうか。」
がくっと俯いたかと思うと、キリュウは手をすっと離してリビングを後にする。
ヨウメイは統天書をすっと拾い上げて、
「それじゃあ皆さん、おやすみなさい。」
と告げてキリュウの後を追っていった。
四人は、なにも言えずにただそれを見送っていた。

<バササッ!>


第八十七ページ『訪問』

ぴんぽーん
「はーい。」
呼び鈴の音に、一人留守番をしていたヨウメイが駈けて行く。
扉を開けると、そこに居たのはスーツを着た見知らぬ男性であった。
「どちら様でしょう?」
「これはこれは可愛いお嬢様。ちょっと御話をさせてもらってもよろしいでしょうか?」
「ええー!?可愛いだなんてそんな本当の事を・・・。
ま、どうぞそこに座ってくださいな。あ、今御茶を入れてきますね。」
玄関マットの上に座る様に促せ、パタパタと駆け出して行く。
ぱああっと顔を輝かせたその様子に、男性はにやっとほくそえんだ。
手に持っていた鞄をどっかと傍らに置き、ヨウメイが帰ってくるのを待つ。
と、数分も経たないうちに彼女は御盆に湯のみを乗せてやって来た。
「粗茶ですが、どうぞ。」
「いやいや、こりゃどうもすいませんねえ。」
申し訳なさそうにしながらも湯のみを手に取る男性。
そして口をつけて御茶を飲もうとする・・・。
「ぶーっ!!!!!あち、あち熱いー!!!!」
「あれ、熱かったですか?ま、当然かあ。
実はね、そこだけいろいろ調整して200度なんですよ。
すごいでしょう?200度のお茶なんて普通飲めませんよ。」
「!!!!!!!!!」
声にならない声を上げながら、男性はそのまま猛ダッシュで走り去っていった。
ぽかんとそれを見送るヨウメイ。が、やがてくすくすと笑い出した。
「忘れ物ですよ〜・・・ま、いっか。色々使わせてもらおうっと。
それにしても、こんなものが10万円ねえ・・・。ま、相手が悪かったですね。」
男性が置いていった物。それらは化粧品の類、いわゆる訪問販売だ。
台所へ行った時に、ヨウメイは統天書で悪徳商法の類だとかいう事を知り、ちょっと実験を行ったという事だ。
「うーん、よくよく見たら使えない物ばっかり・・・。万象変化で変えればいっかな。」
リビングに戻ったヨウメイは、あれこれと思案。
と、そこで再び呼び鈴が鳴る。
ぴんぽーん
「はーい。・・・あれ、さっきのおじさん。」
「ぐっ・・・。わ、忘れ物を取りに・・・。」
「忘れ物?あ、そうそう。商品買ってあげるから私の実験に付き合ってくれませんか?」
「買う?・・・って、じ、実験?」
「そうです。人間は何度の液体まで飲む事が出来るか・・・」
「わあー!!すいません、帰ります。帰りますからお願いします〜!!!」
もはや男性はパニック状態であった。
「ちぇ。じゃあお気をつけて〜。」
いいながらヨウメイは鞄をすっと差し出した。
男性はうれしそうにそれを受け取ると、最初出ていった時と同様に猛ダッシュ。
にこにこ顔でヨウメイはそれを見送っていた。
「ま、ちょっとは暇つぶしになったかな。」

<がちゃ>


第八十八ページ『バトル!(楊明VS天鶏)』

七梨家の庭。楊明と天鶏が距離を置いてにらみ合っている。
そして、近くでそれを見守っているのはたかしだ。
「たく、何で俺が審判なんか・・・。」
「野村さん、紀柳さんじきじきのご指名なんですからお願いしますよ。」
「ご指名ったって、暑いのやらが嫌だから紀柳ちゃんは逃げたんじゃないか。」
「それを言ってはいけませんよ。」
そう、最初は楊明は紀柳に審判を頼む予定だった。
しかし、熱いのを嫌がった紀柳は早々に家を飛び出して行ってしまったのだ。
ということで、リストアップした人物の中から、審判出来そうなのを選び出したのである。
ちなみに天鶏は、楊明がシャオに頼んで呼び出してもらったのだ。
「とにかくお願いしますね。ごく通常のバトルですから。」
「それってどんなんだよ・・・。」
少し怯えた表情のたかし。自分にどんな被害が及ぶかもわからないのであるから。
それでも逃げ出すなどという事はできないと思い、覚悟を決めた様に合図を出した。
「始め!!」
たかしの声を皮切りに楊明はばっと統天書を開け、天鶏は空高く舞い上がる。
楊明の攻撃に対するけん制の為だ。
「なるほど・・・。しかしそれが命取り。来れ、吹雪き!!」
ビュウウウウ!!
まずは小手調べ。天鶏自体の行動力を制限しようという事だろう。
上空の一部分に強烈な風、そして雪が舞う。
バランスを崩しかけた天鶏だが、キッと下を睨み急速度で垂直移動を始めた。
ビュゴオオオ!
それはまっすぐ楊明へと向かっている。
と、それを予測していたかのように楊明は次なる物を呼び出した。
「来れ、氷柱!!」
地面から巨大な氷の柱がどっかと顔を出す。そしてそれはぐんぐんと天鶏向かって伸び始めた。
しかし天鶏はそれも予測していた様だ。
すいっとそれを交わし、やはり楊明へと向かって飛んで行く。
「すげえ。あれを避けるなんて・・・。」
「だてに鳥さんじゃないって事ですね。では・・・散!!」
力強く楊明が叫び、バタンと統天書を閉じる。その刹那。
バリーン!
氷柱すべてが砕け、氷のつぶてが四方八方へと撒き散った。
天鶏は不意の横からの攻撃をまともにくらい、大きくバランスを崩す。そして・・・
ずーん
と、地面へと崩れ落ちる形となった。そして、ゆっくりと起き上がり一礼。
楊明もそれに習うかのように礼をし、呼び出した全てのものを消した。
「・・・野村さん?」
「あ、ああ。楊明ちゃんの勝ちー!!」
片手を挙げて高々と宣言。それを聞いて、楊明はにこりと微笑んだ。
そしてすたすたと天鶏に近付き、傷の手当てを行う。
「なあ楊明ちゃん。普通に考えたら楊明ちゃんが勝つのはあたり前なんじゃ・・・。」
「だから制限をつけたって言ったでしょう?
氷、及び水に関する術。そして同じ物は使わない、って。」
「でもなあ・・・。」
「もう一つ。私は一歩も動かないって事をね。」
「へ?そ、そういえば動いてなかったなあ・・・。うーん・・・。」
何やら難しい顔で考え込むたかし。
ただ、天鶏は少しばかりの満足そうな笑みを浮かべていた様である。

<楊明WIN!>


第八十九ページ『ヨウメイクイズ(第四問)』

「熱美ちゃん、ちょっと問題に答えて。」
「うん。でも難しいのは却下だからね。」
「そんな弱気な・・・まあいいや。
今の時間を答えてくださいっ♪」
「・・・今って、いつ?」
「今は・・・今!」
「だから、正確にはいつ?」
「ぐっ・・・。さすがあ、きっちりしてるねえ。
ちなみに正解は午後十一時四十五分だよ。」
「へえ・・・ってもうそんな時間!?」
「うん。大西洋の・・・」
「ああー、もういいもういい。たく、そんな事だと思った。」
「手馴れたもんだねえ。さっすが隣に座ってるだけあるね。」
「それって関係あるの?」
「そ。おおありだよ。」
「だよねー。なんでわたしまで廊下で立たされてなきゃならないんだか・・・。」
「まあまあ。次の問題行くよ〜。」
と、其の時。
「こらー!!廊下で御喋りなんかするなー!!」
先生の激しい声が辺りに響く。びくっと縮こまる二人であった。
ちなみに何故二人が廊下に立たされているかというと・・・ちょっとした御喋りが原因である。

<終了だよ>


第九十ページ『勝手に実験』

「来れ、落石!」
「万象大乱!」
「陽天心召来!」
ズドーン!!!!
岩が現れ、それが巨大化し、意志を持ち、家の屋根に・・・。
ところが、屋根は崩れずにその上に岩が乗っかる形となった。
「すっごーい、丈夫ねえ。」
「実験は成功か?」
「ええ。やっぱり豪邸は違うなあ・・・。」
庭に立っていた三人が感心しながら呟く。と、そこへ息を切らせながら翔子がやって来た。
「おまえらー!!人んちで何をやってんだよー!!!」
「大丈夫よ。ちゃんとヨウメイが結界はってるから。」
「家が凄くなるほど強度が増すというものだ。」
「本当なら、核爆弾でもびくともしないものなんですよ。
でも一応キリュウさんとルーアンさんとの連携にも耐えられるかな?って実験を。」
涼しい顔で順に答える三人に、翔子はわなわなと震え出した。
「ふざけんなー!!!家が壊れたらどうするんだー!!!」
「そんな事はまずありませんて。もしも壊れたら万象復元ですぐ直しますよ。」
「そっか・・・って、そういう問題かー!!?七梨の家でやれよ!!!
もしくは羽林軍に頼んで立派な家でも建てれば良いじゃないか!!!」
翔子の激しい反論を聞いて、
ぽんっ
と、三人同時に手をついた。
「その手があったわねえ、うっかりしてたわ。」
「今度からシャオ殿にも頼んでみよう。」
「山野辺さん、いい案をありがとうございました。」
深深と御辞儀して、岩を消すヨウメイ。と、去り際に彼女の腕をがっしとつかむ翔子。
「なんでしょう?」
「なんでしょうじゃないだろ。なんの為の実験なんだよ、これは。」
「・・・山野辺さん、世の中には知らなくて良い事が・・・」
「いいから教えろ!!!」
怒った翔子によって、説明をさせられる三人。
当然ながら、ヨウメイが誤魔化しに走ったのはいうまでもない。

<ずーん>


第九十一ページ『予定は未定』

「キリュウさん、次の日曜日の予定なんですけど。」
「うむ。」
「おそらくいつもの皆さんがやってくると思うんですよね。
もちろん、私は花織ちゃん達とどこかへ出かける予定でいますんで、
だからうちに来るのは野村さんと遠藤さんと宮内さんと山野辺さんです。」
「うむ。」
「ただ、山野辺さんはシャオリンさんと那奈さんと色々やるだろうから、残るは三人。
で、主様が相手をしなければならないと思いますが、そこはそこで、
キリュウさんが試練にかこつけて連れ出しましょう。」
「うむ。」
「そうすれば残る人達のうち、遠藤さんにしっかりするように言っておけば、
多分ルーアンさんと二人で出かけてくれるでしょうから、最終的に残るは二人、です。」
「・・・待った。」
「いえいえ、ご心配なく。ちゃんとキリュウさんが連れ出すはずの主様はシャオリンさんのもとへ。
そうすればキリュウさんがフリーになるから、キリュウさんがお二人の相手をすればいいのです。
遠藤さんが弱気になるなら、私が説得してそれなりに強気に!いかがです?」
「それで私に何をしろと・・・。」
「相手ですよ、あ・い・て!もしネタがないのなら隠し芸をお教えしますよ。」
「ヨウメイ殿・・・」
「さあ、よーく聞いてくださいよ。まず、客が二人ということで・・・。」
とまあ、土曜日の夜に交わされた会話。
果たして、その通りには全くならなかったのである。
のんびりとリビングで七梨家の皆だけがくつろぐ形となった。
「昨日のヨウメイ殿の教授は一体・・・。」
「無駄、ですね。さっすが、色んな精霊の主になってる方に仕えると色んな事がありますねえ。」
「関係あるのか?だいたい、その無駄に付き合わされた私の立場は・・・。」
「試練、ですよ。ま、こんな日もあるという事で。」
「無駄を教えるようになったとは・・・。変わったな・・・。」
「ええ、変わりますよ。こんな・・・まあいいや、今更言ってもしょうがない。」
ちらりと主へ目をやるヨウメイだったが、すぐに目を伏せたのだった。

<・・・あれ?>


第九十二ページ『守りの盾』

北からの風が吹き荒れるそんなある日。キリュウとヨウメイは夕飯の材料を買いに出掛けた。
「久しぶりですねえ、キリュウさんとお買い物なんて。楽しく行きましょうね。」
「う、うむ・・・。それにしても風が強いな・・・。」
外は“ビュウウウウ”という音が存分に響き渡っている。
あちらこちらでは風にあおられて様々なものが飛び交っているのであった。
時折吹く一瞬の強風に舞う砂埃に慌てて目を伏せたりしながら、二人は歩いていた。
「今は冬ですからね・・・って、ここまで強いのは異常だなあ。」
「ヨウメイ殿が呼ぶ風に比べればまだゆるい方だと思うが?」
「それを言っちゃあいけません。それにしても・・・あっ!」
喋りかけて何かを見つけたヨウメイは、とっさにキリュウの後ろに回り込んだ。その直後、
バサッ!
と、キリュウの体を何かが直撃する。
それは一枚の張り紙。この風ではがれてしまったのであろう。
「ふう、危ない危ない。」
「・・・ヨウメイ殿。」
「なんですか?」
「人の陰に隠れるとは・・・。」
顔に張り付いた紙をはがしながら少し怒り気味なキリュウ。
と、そこでまたもや強い風が。
「まただ!キリュウさんバリアー!!!」
叫んで再びキリュウの陰に隠れるヨウメイ。今度は、キリュウは飛んできたものを叩き落とした。
自分の体を盾にした少女に、かなりのあきれ顔だ。
「ヨウメイ殿、何をわけのわからないことを叫んでいる。」
「キリュウさん、試練に使えませんか?キリュウさんが物を飛ばし、主様がシャオリンさんを守るために盾に。
今まで避ける試練とかはやってきましたが、実際に物を受ける試練はやってないでしょう?」
キリュウを盾にした事などどこ吹く風の表情だ。しかし、それも名案かとキリュウは考える。
「えらい誤魔化しだな。・・・とりあえず買い物を済ませて家でゆっくり考えるとしよう。」
「ですね。」
予定が決まったようで、少し早足になる二人。
頼まれた買い物を済ませて家に帰還。そして夕食後、リビングに二人だけで作戦を練っていた。
「さて、今日提案された試練、使えない事も無い。だが・・・。」
「いきなりシャオリンさんを守るのは難しいという事ですか?」
「ああ。」
「なあに。まずはキリュウさんで練習すれば良いんですよ。私がものすごく手加減して行いますから。」
「・・・私で練習する事に意味があるのか?」
「いきなりシャオリンさんでやるのもあれですし。その他の人だとおとなしくしてくれなさそうで・・・。」
言われて太助の周りの女性達を思い浮かべるキリュウ。
しばらくして、確かにそれもそうかと納得してうなずいた。
「分かりましたか?ではキリュウさん、練習をどうぞ。」
「・・・?なんの練習だ?」
「買い物に行く時私がやってたじゃないですか。キリュウさんバリアー!って。それですよ。」
「・・・まさか主殿に対して私がそう叫べというのではないだろうな。」
「そう言ってるんですけど?」
なんとも涼しい顔で言ってのけたヨウメイ。
反論しようとしたキリュウだったが、彼女の顔を見て引き下がった。
絶対に譲らないぞという顔だったのだから・・・。
「しょうがない、言うぞ。」
「ええ。とりあえず練習ですから。」
「・・・あ、主・・・ど、殿・・・ば、ばり、あー?」
「声が小さい!!いいですか?主様を戸惑わせて隙を作るという意味も含んでるんです。
さもなければ、最初っからてきとーにキリュウさんがやればいいんですから。」
「それもそうか・・・。では・・・あ、主殿!ば、ばり、やー?」
「だからあ、なんでそんな疑問風に?すらっと言ってくださいよ。」
最初の目的から多少ズレ出したようだが、二人は気にもとめない。いや、ヨウメイの独壇場である。
それにのって、キリュウもその気になっているのであるが。
「主殿ぉー!バリアー!」
「その調子ですっ!でもなんでいちいち区切るんですか?」
「・・・なんとなく、な。今度は続けて言うぞ。主殿・・・」
がちゃ
キリュウが叫んでいる途中で開いたリビングの扉。顔を覗かせたのは太助である。
「・・・呼んだ?」
「呼んでませんよ。ほらキリュウさん。」
「・・・・・・。」
太助の声もあっさり流したヨウメイだったが、キリュウはさすがに止まってしまった様である。
顔を真っ赤にさせてうつむいてしまっていた。
「ありゃ、こりゃダメだ・・・。部屋で練習しましょう。」
「う、うむ・・・。」
「何の練習?」
すかさず訊いた太助。すると、去り際にヨウメイはこう答えた。
「試練です。今度の試練は手強いですからね。」
「へえ、そうなんだ。よし、気合入れて構えてるからな。」
「う、うむ・・・。」
やる気になった太助とは対称的に、キリュウは相変わらずうつむいている。
その後の練習により、ちょっとばかりキリュウに変な癖がついたとかつかないとか。

<ぴきーん>


第九十三ページ『小騒動』

日曜日。花織、熱美、楊明の三人はゆかりんの家に遊びに来ていた。
彼女の部屋でおしゃべりしたりゲームしたりと、楽しい時を過ごす。
途中の休憩時間に、花織が部屋を見渡していた。
「ゆかりんって部屋綺麗にしてあるねー。」
「ええ、そう?ま、まあこれくらい当然かな。」
誉められて悪い気はしない。照れ照れと顔を赤くするゆかりん。
「いいなあ。私の部屋は紀柳さんと共同だから・・・」
「でも、汚くなる原因は楊ちゃんだよね。」
何故か羨ましがる楊明の横から熱美が突っ込むと、ぐっと口を閉じる楊明。
それほど散らかすわけでもないのだが、熱美の言う通りだからである。
「むむ!?」
「どしたの?」
何やら閃いたのか、急に楊明は統天書をめくり出した。そして・・・
「ゴミ発見!!そこのたんすの裏!!」
「・・・楊ちゃん。」
「そんな細かい事は言わなくていいの。」
「統天書めくって何を調べるかと思えば・・・。」
呆れ顔の三人はやれやれと。
しかしその様子を確認したかと思うと、楊明は問題のたんすの傍まですたすたと歩いて行く。
ごそごそと手を突っ込んで取り出したものは・・・。
「このテレホンカードも〜らいっと。ああいい拾い物した。」
笑顔でそれを懐にしまい、再び元の位置に座る。と、三人はがばっと楊明に詰め寄った。
「ずるいよ、テレホンカードはゴミじゃないよ!!」
「それってずっと前に諦めてた、私の!!楊ちゃん、返してよー!!」
「そういうひっかけは良くない!」
必死になっていた彼女達に対して、楊明はゆっくりと手を出して広げた。
「御代は五百円でございます。」
「「「ええっ!?」」」
「うそうそ。でもね、拾った者の勝ち。だからわたさな〜い。」
「「「そんなあ!」」」
「ほしけりゃここまでお〜いで。」
そんなこんなでしばらく四人の騒動が続いたようである。
結局はゆかりんの手に渡ったのだが・・・。

<がさごそ>


第九十四ページ『ちょこちょこ』

学校帰り。何故か翔子とヨウメイが一緒に歩いている。
明日という日のちょっとした作戦会議なのだ。
「・・・というわけで、明日のバレンタインデーはなんとしてでも妨害を無しにしたい訳だ。」
「それくらいキリュウさんと一緒にやればいいじゃないですか。私がやることはありませんよ。」
「そっか。ところでヨウメイ。」
「はい?」
「ヨウメイは誰かにあげるつもりでいるのか?」
翔子は何気なしに気になっていたようだ。ヨウメイに好きな人は居るのかという事が。
そして、ヨウメイが答えようとする前に更に付け加える。
「言っとくけど、過去の主とか無しにしてさ。」
と、やれやれと首を横に振るヨウメイ。
そのまま歩きながら喋り出した。
「別にあげたいなんて思う人はいませんよ。どうしてもというのなら、山野辺さんに差し上げますよ?」
「いや、そういう事を言ってるんじゃなくて・・・。」
「私は今までそういう事をやったことはありませんから。
それに、あげるくらいなら自分で食べたいし。」
どうやら食い気の方が優っているみたいだ。
“聞くだけ無駄だったな”と翔子がかぶりを振ったその時、にやっとヨウメイが笑う。
「一度くらいは作ってみようか。そうだ、山野辺さんにやっぱり差し上げます。」
「いや、あたしは別に・・・」
「だめです、もう決まったんですから。明日絶対渡しますね。
ちゃーんとその日のうちに全部食べてくださいよ。」
「おい、まさか何キロも作るつもりじゃないだろうな・・・。」
そこでくすくすと笑い出すヨウメイ。当然の様に首を横に振った。
「誰がそんなべたなボケをするもんですか。もっと別の・・・」
「ボケなくていい!!たく・・・。」
“あははは”と笑って、翔子をなだめる。
とにもかくにも妙な仕込みをしたいのは間違いないようだ。
「どうせだったらみんなに配ろうかな・・・。」
「どんなチョコを?」
「直接気体と化す昇華チョコ・・・って、ばらしちゃったあ!!」
誘導尋問にアッサリとひっかかって頭を抱えたヨウメイ。
その日のうちにという事は、一日ですべてが気体と化してしまうという事なのだろう。
「ヨウメイ、もう少しまともな物を作ろうという気は・・・。」
「味は絶対美味しいんです!でも、ネタがばれちゃあ・・・。ま、いいや。今年も無し!」
彼女にとっては大事なものが他人とは違うようだ。
とりあえず翔子は、“妙な物を渡されずに済んだ”と、ホッと胸をなでおろしていた。

<ぱくっ・・・>


第九十五ページ『寒い!』

がたがたがたがた・・・
キリュウが部屋で震えている。あまりの寒さに耐えかねているのだ。
「よ、よよよ、ヨウメイ殿・・・。」
「キリュウさん、いつも私の術に頼っていたのではいけませんよ。
ここは一つ、ダジャレを言って身も心もあったかくしましょう!」
とんでもない発想である。にもかかわらず、キリュウは頷いた。
「分かった。それでは・・・」
「せーの・・・」
「「空気を食う気!?あはははは!!!」」
大声で笑った後に沈黙。そして・・・。
「ヨウメイ殿。」
「なんですか?」
「余計に寒くなったのだが。」
「別に私は平気ですけど寒くなったのは事実ですね・・・。しょうがない、来れ熱気!」
一瞬にして部屋の温度が上昇。そしてキリュウの震えが止まった。
「結局はヨウメイ殿の術に頼らざるをえなかったな。」
「ええ、そうですね。私達はなんて無力なんでしょう。」
御互いにため息をつく。
外の廊下では、偶然二人の会話を耳にしたルーアンがコケていた。
「あんたらのそのセンスに問題があるんじゃないのー!?」

<ぴゅー・・・>


第九十六ページ『ヨウメイクイズ(第五問)』

「シャオリンさん、クイズです〜♪」
「まあ、どこにそのクイズさんが?」
「そうじゃなくって・・・いいから、今から出すクイズに答えてください!」
「はい、分かりましたわ。」
にこにこ顔のシャオ。調子を崩されそうになったヨウメイだが、こほんと咳払い。
「それではいっきま〜す。私が一番好きなシャオリンさんの御料理はなんでしょう?」
「麻婆豆腐ですか?」
「違いまーす。」
「ハンバーグですか?」
「違いまーす。」
「オムレツですか?」
「違いまーす。」
「おでんですか?」
「違いまーす。」
「すきやきですか?」
「違いまーす。」
・・・そんなこんなで三時間。
すっかり日も暮れて、太助達は夕食を待っていたのだが・・・。
「ギョーザですか?」
「違いまーす。」
と、二人はまだクイズをやっていたのだった。
「お〜いシャオ〜、夕飯は作らないの?」
「今大事な所なんですからまっててください!えーと、釜飯ですか?」
「違いまーす。」
「こらー!!ヨウメイもシャオもいいかげんにしろー!!」
「那奈さんは黙っててくださいっ!えーと、お味噌汁ですか?」
「違いまーす。」
「ちょっとシャオリ〜ン、あたしお腹が空いて死にそう〜・・・。」
「私も疲れているのだ。二人も切り上げてとりあえず夕飯を・・・」
「「おとなしく待っててください!!」」
シャオとヨウメイが同時に怒鳴る。そして・・・
「えっと、ホットケーキ!」
「違いまーす。」
と、それは夜中まで続けられていたようだ。
(結局は四人の激しい抗議に、二人がしぶしぶと中断したのだが)

<終了ですう>


第九十七ページ『背中文字』

すっすっすすすすっ・・・
「うーん・・・“試練”か?」
「さっすが!正解です♪」
「なんて当たり前な字を書いてんだか・・・。」
ここはキリュウとヨウメイの部屋。珍しく熱美が一人で遊びにきた。
そして、キリュウ、ヨウメイ、熱美の三人でゲームをしているわけだ。
背中に指で書いた文字を当てるというゲームである。
「楊ちゃん、さっきわたしの書いた文字に文句でも?」
「当たり前でしょ。キリュウさんがその文字を答えられなかったらプロ失格よ。」
「なんでそうなる・・・。」
熱美の抗議にさも当然の様に反論するヨウメイ。
と、今度はキリュウがヨウメイに指示。
「ヨウメイ殿、次は私の番だぞ。」
「おっけい。なんでもどうぞ♪」
「キリュウさん、こんなのは・・・。」
「ふむ?」
ごにょごにょと相談する二人。
まだかまだかと待っているヨウメイは“何やってんだか・・・”と余裕だ。
しばらくして話がまとまったのか、キリュウがすすすっと文字を書き出した。
「きゃうっ!くすぐったいですよぉ。」
「変な反応をするな。えーと・・・。」
かなり難しい漢字の様で、時間が結構かかっている。
二・三分の後、ヨウメイはようやくそれから解放された。
「・・・ひぃ、ひぃ・・・あはぁ・・・。」
「苦しそうだな、ヨウメイ殿・・・。」
「書いてる途中ずっと笑ってたよね。キリュウさん、もう少し普通に書かなきゃ。」
別段キリュウの所為でもないのだが、言われて少し俯く彼女。
ヨウメイは相変わらずひいひい言っていたが、数分後にはようやく落ち着いた様だ。
「で、では正解を・・・あれ?忘れちゃった。」
「何?」
「え〜?」
「冗談だよ、冗談。えっとぉ・・・かなり難しい漢字だったよね・・・。
・・・ふむ、馳嘘菟琥鵜纏(ちきょうくうてん)!!」
自信満々に答えたヨウメイ。驚きの表情で彼女を見る二人であった。
「せ、正解・・・。」
「たく。熱美殿、だから言っただろう?絶対にヨウメイ殿は正解すると。
なんといっても知教空天なのだから。」
「そういう問題じゃないですよぉ。」
「ま、これで熱美殿の負けは決定か。」
「あっ!くうううう・・・。」
二人でちょこちょこ言い争う姿をにこにこしながら見るヨウメイ。
心の中でブイサインを出していた。
実は、最初にヨウメイが熱美に書いた文字は答えられなかった。
答えられずにずっと残った者が罰ゲームを受けるという事だったのだ。
「それじゃあ熱美ちゃん。十分間のくすぐりに耐えましょう!」
「そういう事だ。まあこれも試練だと思って諦められよ。」
「あ、あのう、なんか二人とも顔が恐い・・・。」
「「さあ!」」
「うぇぇぇ・・・。」
二人の強烈なくすぐり攻撃に、熱美はその日別世界を見た、との事である。
苦しそうに笑い涙を浮かべている熱美をヨウメイが慰める。
「でもね、熱美ちゃん。私だって耐えてたんだから。」
「・・・ただ字を書かれてただけじゃないの。次は負けないから!
・・・と思ったけど、楊ちゃんを狙うよりはキリュウさんを狙った方がいいかな。」
「こういうゲームはこれっきりにして欲しいのだが・・・。」
「「だめです!さあもう一回!!」」
「何故二人同時に・・・。」
結局第二回戦が行われ、今度はキリュウが幻想の地を見た、との事である。
その後も納得がいかない者の抗議によって何度もそのゲームが行われたのだが、
罰ゲームを食らったのは結局熱美とキリュウだけであった。
「なんで楊ちゃんが罰ゲーム対象にならないのよ!」
「ヨウメイ殿、ずるをしていないか?」
「し、してませんよ・・・あはははは・・・ひぃ・・・。」
結果的には、三人が同じ様な苦しみを味わった様である。

<すすすすす>


第九十八ページ『およよよよ』

「ねぇーん、主様ぁ。知識を教えて差し上げますぅ。」
「だめだめ、今は別の事で忙しいんだから。
とりあえず後にしてくれよ。」
「ちぇ〜・・・。」
太助の部屋、ヨウメイが太助に背中から抱きついておねだりしている。
たかだか数分間の交渉であったが、見事失敗に終わったようだ。
名残惜しそうに部屋を見ながらそこを後にしようとしたヨウメイ。
だが、太助が彼女を呼びとめた。
「そうだ、ヨウメイ。ルーアンを呼んできてくれ。」
「ルーアンさんですか?分かりました・・・。」
自分よりルーアンの方に用事があったという事に少しショックを受けている。
だが、特に何も言わずにヨウメイはそこから立ち去り、しばらくしてルーアンがやって来た。
「はぁーい、たー様。このルーアンをお呼びになったぁ?」
「あのな、ルーアン。ヨウメイに何を吹きこんだんだ?」
「はあ?」
床に座って太助がぐだぐだと、先ほどのヨウメイの行動を語る。
口調とかねだる姿がまさしくルーアンそのものだったという事を。
「・・・というわけだ。」
「知らないわよ。あの子が勝手にあたしの真似したんじゃないの?」
「どうもそれだけとは思えないんだけど・・・。」
「あたしってもてるから。」
「はいはい、そうですか。まあいいや、関係ないならもういいよ。」
「・・・よく考えたらなんかむかつくわね。ヨウメイに抗議してやる!」
一瞬でルーアンの頭の中が沸騰したのか、彼女は目にもとまらぬ速さで部屋を飛び出して行った。
その直後に、ドカーンとかいう音とか振動音とか激しく言い争う声とかがして、しばらくして静かになる。
毎日起こる妙な騒動に、太助は少しばかりため息をつくのだった。

<ふぅ・・・>


第九十九ページ『解読』

「ヨウメイちゃん!挑戦だ!!」
「はあ?」
ここは七梨家。めずらしく、やってきた御客さんはたかし一人。
その手に持っているのはなにやらごちゃごちゃと書いた紙切れである。
「あのう、野村さん。一体・・・。」
「だから挑戦だよ!俺が考えた暗号を、統天書無しで解いてみてくれ!」
「そ、そうですか・・・。まあどうぞ。」
「おし。」
ヨウメイに招かれてリビングのソファーへと腰を下ろすたかし。
そこへシャオが顔を覗かせた。
「まあたかしさん、いらっしゃい。」
「あ、シャオちゃん。シャオちゃんもついでに見ていてくれ。
俺の熱烈なる暗号を!!」
「ちょっと待っててください、お茶を御入れしますね。」
笑顔でキッチンへと姿を消したシャオを見送ると、ヨウメイも腰を下ろす。
「珍しいですねえ、シャオリンさんに会いに来たんじゃないんですか。」
「だから言っただろ?暗号を解いてもらう為だって。挑戦だって!
・・・あれ?家に居るのってヨウメイちゃんとシャオちゃんだけ?」
「ええそうです。他の皆さんは出かけてましてね。」
太助とキリュウは試練。ルーアンと那奈もそれについて行ってる訳だ。
てきとーに説明している辺りで、シャオが三人分のお茶を用意して戻って来た。
「はいどうぞ。」
「ありがとうございます。」
「さんきゅう。ささ、シャオちゃんも座って座って。」
たかしに促されてシャオも腰を下ろす。
お茶を一口つけると、たかしは持ってきた紙をばっと広げた。
「これは・・・。」
「まあ・・・。」
ヨウメイもシャオも驚きの声を上げる。
まさしく暗号と言わんばかりの奇怪な文字列がそこに並んでいたのだ。
「さて、なんて書いてあるか解いてみてくれ。ノーヒントだ!
もちろん、苦しかったらヒントを求めてくれても良いからな。
そうそう、当然統天書は無し!」
ビシッと条件を付け足したたかしに、シャオはますます驚きの顔だ。
「たかしさん、それは難し過ぎるんじゃ・・・。」
「だから、苦しくなったらヒントを求めてもらってもいいって事。ま、どうせそうなる・・・」
「『お茶が美味しいね、シャオちゃん』ですね。」
「ええっ!!?」
がたっと立ちあがるたかし。突然正解を言われたのだろう。
「たかしさん、正解なのですか?」
「あ、ああ・・・。け、けどまだ一文だけだし・・・」
「『今日の天気は晴のち曇り、暗号文の出来は完璧だ。絶対にヨウメイちゃんを・・・』
後は読むの止めます。なるほどねえ、こりゃ良く出来た暗号文だわ。」
すらすらと読んだ割にはヤケに感心しているヨウメイ。
唖然としているたかしとは対照的に、シャオはヨウメイに拍手を送っていた。
「凄いですわ、ヨウメイさん。」
「いやいや、普段からこういうのには慣れてますから。
それよりも野村さん、良くこんなの考えましたねえ。
一文字ずらし、言葉同士の連結組替え等々、ここまで凝ったのはそうそう無いですよ。」
「・・・そ、そう?」
「ええ。これだけ立派なのなら、暗号コンテストに応募してみては?
・・・あ、だめだなあ。鍵がわからないや。私は読めるけど、他の人は多分読めないだろうなあ。」
「か、鍵?」
「玄関の鍵で良ければ私が持ってきましょうか?」
立ちあがろうとしたシャオを慌ててヨウメイが止める。
「そうじゃないです。暗号解く為には普通鍵が必要なんですが・・・これにはそれがないんです。
統天書の文字と同じ様に・・・。へええ、これを野村さんがねえ・・・。」
始終感心しっぱなしのヨウメイを見て、たかしは少し複雑な気分。
結局はあっさりと彼女に敗北したものの、作った暗号はすごいものらしいのだから。
そして、もう一度別な暗号文を試してみようと密かに張り切るのだった。

<???!!!>