第百ページ『とある授業風景(番外編)』

「はぁ〜い、今日も華麗なるあたしの授業の時間がやって来たわよ〜ん♪」
二年一組。毎度毎度張り切ってのルーアンの御登場である。
大半の生徒は呆れ顔。また、それとは逆に拍手をするものも居たりする。
「でね、今日はスペシャルゲスト登場なの〜ん。
拍手で迎えてあげて、ヨウメイよーん!!!!」
教壇に立ったまま手を扉の方へとかざすルーアン。
それと同時に扉がガラッと開いてヨウメイが顔を見せた。
「どうも、こんにちは・・・。たく、授業が無いからってこんな・・・。」
そう。一年三組はたまたま自習となったのである。
それを偶然聞きつけて、ルーアンはヨウメイに授業の依頼をしたのだ。
「ほらほら、教壇に立って立って。という訳で、ヨウメイが授業するからねー♪」
教壇にヨウメイを連れて行き、ルーアンは別の空いてるてきとーな席に座る。
授業開始時に拍手をしていた生徒は不満そうな顔になったが、
呆れ顔を浮かべていたものは途端にやる気だ。
と、更に後ろの扉が開いて三人の女子生徒が入ってきた。花織、熱美、ゆかりんだ。
「えー、そこの三人は授業参観の気分で来てるだけだからね。
さ、ヨウメイ。授業始めて。」
てきぱきとルーアンが説明する中、その三人が後ろに用意されていた椅子に腰を下ろす。
ますますだるい顔になったヨウメイだったが、
すぐにきりっとした表情になって授業を始めるのだった。
「それでは、空間を構成する次元について・・・。」
その内容はとてつもなく難しい、ちんぷんかんぷんのものだったようである。
それでも、ほとんどの者は大体を理解できたとか。

<きーんこーんかーんこーん>


第百一ページ『楊明日記(その3)』

●月×日雨。今日は那奈さんと一緒に宮内さんで遊びました。
場所は宮内神社。当然宮内さんのお母さんお手製の御饅頭つきです。
「・・・とまあ、そういうわけで宮内のレッテルは確定したわけだ。」
「だから何故私がロリコンだと一般に言われなければならないんですか。」
「シャオリンさんを狙ってるという理由で十分ですよ。」
「そんな無茶な・・・。」
そう、前々から那奈さんが公言している事。これをネタにからかいに来たのです。
もう楽しいったらないんですから・・・おほん、とまあそういう事です。
ちなみにこの日の雨は相当激しく、ここに来るのにも結構苦労しました。(嘘ですけどね)
「あの、那奈さん。街中に私の要らぬ噂を広げるのはやめてくださいませんか?
「それにしてもこの雨じゃあ帰るに帰れないなあ。」
「人の話聞いてます?だいたい、雨くらいならヨウメイさんに頼めば・・・」
「なんですって!?」
わざと言葉を遮りました。だって当然の事ですもん。
自然に降らせる雨を止ませるのは・・・まあ、
時と場合にもよりますけど、あんまり好きじゃないですから。
「ロリコンのくせに見た目年下の私にそんな事を注文してくるなんて!
え〜ん、宮内さんのばか〜!」
那奈さんの胸に寄り添って泣きじゃくると、那奈さんは頭をなでなでしてくれました。
「かわいそうに、ヨウメイ。たく、宮内、お前は非道い奴だな。」
「・・・すいません。」
ありょ、あっさり謝ってきちゃった。それならこちらも素直に泣きやまないと。
ぴたっと泣くのを止めて顔を起こした辺りで、那奈さんがすっくと立ちあがりました。
「電話借りるよ。ちょっと遅くなるって太助の家に。」
「ええ。構いませんが・・・」
「待ってください、那奈さん!!那奈さんがお電話している間、私は宮内さんと二人っきり!
という事は、襲われちゃってあーんな事やこーんな事をされちゃいます!!!」
「なに!?そうか、そうだよな。たくう、なんて奴だ宮内。
そんな手を使ってまであたしに電話させたく無いのか!?」
「ちょ、ちょっと、どこからそんな発想が!それに那奈さんの場合論点がずれてますよ!!」
そう、宮内さんの言う通り確かに論点がずれてるかも。
けれどそんな事はお構いなし。ノリにノってとことんやる!
「そうですよ那奈さん!そのうち暗いところに私達二人を閉じ込めて・・・きゃー!!」
「なるほど、連絡を取れないという事を利用して・・・卑怯者〜!」
「なんでそうなるんですか!!!いいかげんにしてください!!!」
いいかげん叫んで抵抗し出した宮内さん。その後はてんやわんやの大騒ぎ。
結局はただの言い争いに終わったんだけど、なんか楽しかったな♪
帰りがけに那奈さんが呟いていた事なんだけど・・・
「なんか疲れた。ヨウメイと居ると何故か次々に妙な発想が浮かんでくるなあ。」
ですって。なんで私が関係あるんですか。
けれど今回は言葉だけで終わっちゃったからなあ。もう少し色々使ってみようっと。

<続く・・・>


第百二ページ『名探偵楊ちゃん』

七梨家のリビング。いつもの面々が勢ぞろい。
ただ、重苦しい空気がそこに漂っていた。
ちょっと皆が目を離したすきに、出雲の御土産が無くなっていたのだから。
「さあ、誰が食ったの!?白状しなさい!!!」
バン!と机を叩いたのはルーアン。
新製品だという事を聞かされて楽しみにしていたので、ものすごく怒っているのだ。
机の上で、これまた左右に歩きながら不機嫌そうにしているのは離珠。
宮内家の銘菓のツウとしては、これほど許せない事件は無いのだろう。
ただ、その二人に怯えてか、誰も名乗りをあげるものはいない。
このまま隠しとおせるものなら通したい、という念で一杯なのである。
「くう、このままじゃあ埒があかないわね。一人一人陽天心で拷問にかけて・・・。」
恐ろしい事を呟き出したルーアン。
離珠と御互いに顔を見合わせて頷き合う所を見ると本気のようだ。
そこで素早く手を上げたものが・・・ヨウメイである。
「な!?ヨウメイ、やっぱりあんたが犯人だったのね・・・。」
「違いますって。見事私が犯人を当てて見せましょう・・・。」
冷静な顔で立ちあがり、皆の顔をゆっくりと見まわす。
考え込んだ表情を浮かべたかと思いきや、ビシッとたかしを指差した。
「野村さん、犯人はあなたです!!」
「お、俺!?しょ、証拠はあるのかよ!!」
「山野辺翔子さんはそこにいらっしゃいますね・・・」
ぼかっ
「あいたっ!」
「くだらない事言って無いでとっとと野村が犯人だって証拠を言え。」
ヨウメイの頭にヒットしたのは小さな御菓子。放り投げても割れない程度のものである。
不機嫌そうに御菓子を元の位置に戻すと、ヨウメイは喋り出した。
「まずその口元。よおく洗ってありますが、かすかに食べた跡がついてます。
それからにおいですね。ちょっとだけじゃあ分かりませんが、
野村さんのすぐ前に居た私にはぷんぷん匂いましたよ。
それから・・・」
「おいヨウメイ。統天書を見たんじゃないのか?」
言葉を遮って太助が突っ込むと、はたと皆が黙り込む。
と、ヨウメイは観念した様にうなだれた。
「ええそうですよ、統天書を見ました。たく、これからがいいとこなのに・・・。」
「カンニングしてなにカッコつけてんだか・・・。とにかく野村君が犯人!
さてと、どうおとしまえつけてもら・・・あれ?」
「逃げたみたいですね。」
「追うわよ!!」
(追うでし!)
離珠がルーアンの肩に飛び乗り、ルーアンが猛然とダッシュ。
二人が姿を消した所で、よいしょとヨウメイは統天書を開けた。
「楊ちゃん、何するつもり?」
「さっきコピーしといた御菓子を出そうと思って。」
「コピー?」
「そ。幻の鏡を呼び出して、複製を作り出す術で・・・」
「それを最初っから出しなさい!!!・・・ま、くいぶちが減ったからいっか。」
質問しながらも、最後には適当に納得した花織。
それもそうだと皆は思い、美味しくそれを戴いたのである。

<犯人は・・・あなたです!>


第百三ページ『お昼寝』

さんさんと降り注ぐ日の光を浴びて、屋根の上で少女が眠っている。
手を体の前で組んで、いかにも行儀良く眠っているその姿はとても気持ちよさそうだ。
時折、彼女の隣に小鳥が舞い降りて囀ったり。
ところが、少女はそれを五月蝿いとも思わずに、
眠りながらも鳥達が来るたびに顔を微笑ませている。
“ようこそ”と言わんばかりのその顔は、全てのものを受けているかの様でもある。
と、太陽が翳り出した。雲が出てき始めたのである。
それでも少女は目を覚まさない。そうこうしているうちにポツリポツリと雨が降り出した。
とうの昔に鳥達はその場を去っていたが、彼女だけはまったくそのままの状態であった。
雨が降っている中でも、少女は笑みを絶やさずに眠りつづけていた。
やがて雨が上がり、再び日の光が辺りを照らす。
そこでようやく少女は目を覚ました。上半身を起こしてうーんと伸びをする。
「ふあ〜あ、良く寝た。ありゃ、びしょびしょ。寝てる間に雨が降ったのかあ。
さてと、お昼寝の時間はおしまいっと。」
再び大きなあくび。そして少女はついっとそこから降りて家の中へ。
当然、家の中のものを濡らさない様に気を配りながら、である。
「まあヨウメイさん!どうしたんですか、そんなにずぶ濡れで。」
「ああ、大した事ないですよ。お昼寝してて雨に濡れただけですから。」
「風邪をひくと良くありませんわ、早くお風呂にはいってください。」
「別に平気なんですけど・・・まあいいや。じゃあすぐに入りますから。」
心配そうに見つめる彼女に、心の中で少し申し訳なさそうにしながら風呂場へ向かう。
しかし、湯船につかっても、ちょっぴり眠りに入る。
なんとものんびりした時間の流れを感じているのだった。

<ぐー・・・>


第百四ページ『街角で』

「えーっとぉ、頼まれたお買い物は・・・おっけい、これで全部。」
道を歩いているのは熱美。御使いを頼まれ、それを済ませて帰る途中である。
荷物自体はそれほど多くなかったのだが、
ちょっと複雑な買い物だった所為か考え込んでも居た。
“おっけい”と言ったものの、やはりまだ買い忘れがないかどうか不安なのだ。
ついつい俯きかげんに歩く。その所為か、曲がり角から出てくる人に気付かなかったのだろう。
ドンッ!
とぶつかって、出てきた人と熱美は互いに後ろに倒れてしまった。
「ご、ごめんなさい!わたし、下向いてたもんですから・・・。」
「いえ、こちらこそちゃんと左右を見ずに行ったものですから。」
彼女がぶつかったのは一人の女性だった。
赤と緑のチェック柄による服とスカート、帽子を身に付けた金髪の女性である。
「・・・楊ちゃん?じゃないな。大丈夫ですか?」
慌てて立ちあがって、女性の手を引っ張って起こす。
と、その女性は首を傾げながら質問してきた。
「すいません、さっき誰と間違えられました?」
「え?あ、楊ちゃん・・・えっと、ヨウメイ、っていってわたしの友達です。」
「・・・そんなに私と似てるのですか?」
「ぱっと見なら。」
いわれて考え込む女性。と思いきや、すぐに顔を上げた。
「すみません、自己紹介がまだでしたね。私は愛奈と申します。」
「あ、わたしは熱美です・・・なんで名前だけ?」
「いえ、別に。それに愛奈という名前だけでも知ってもらえればいいので。」
「え?それってどういう・・・」
ぴりりりりり
熱美が言いかけた時に鳴り響く電話の音。
片手を挙げて熱美に待ったをかけた後、愛奈はポケットの携帯電話を手に取った。
「もしもし。・・・ああ、はいはい。え?・・・やっぱり、どうせそんな事だろうと思った。
別に、私事ですよ、私事。・・・ほうほう、なるほどねえ。分かってますよ、それくらい。
はい?・・・もうその手にはのりませんよ、二回もやったじゃないですか。
だからそれは・・・はあ?もう一度ちゃんと・・・。」
かなりの長電話である。とりあえず熱美に背を向けて喋っているものの、声はまる聞こえ。
それでも律儀に熱美が待っており、彼女が“待つ”という行為に慣れ始めたその時。
「なんですって!?やっぱり、おかしいと思いましたよ。
・・・分かりました、すべて彼女に尋ねてみます。ええ、分かりました。
・・・はいはい、それは心得てますよ。今までどうも、それじゃあ。」
愛奈が大声を突然出したかと思うと、話に決着がついた様だ。
とんとん拍子ですべてが終わったかと思うと電話をプチっと切る。
そして愛奈は熱美にくるっと向いた。
「熱美さん、お願いがあります。」
「は、ハイ、なんでしょう・・・。」
「と思いましたが、用事の途中の様ですね。終わってからでいいです。」
「い、いえ、これを家に持って帰れば終わりですから・・・。」
「そうですか?だったら家まで付いて行きますから、その後案内してください。」
「どこにですか?」
「ヨウメイさんが居る場所にです。」
最後に真意を伝え、愛奈は熱美の背中を押し始めた。
戸惑っている熱美の様子もお構い無しである。
そして彼女達二人はまずは熱美の家へ、その後に七梨家へと向かうのだった・・・。

<ばったり>


第百五ページ『却下』

「それではただいまから会議を始めます。」
議長を出雲とした、却下会議が七梨家のリビングで始められた。
ばっちりと全員が集まっている状態である。
「ではまず、シャオさん。」
「はい。支天輪を輪投げに使わないで下さい。」
「つぎ、ルーアンさん。」
「黒天筒をストローなんかに使わないでよ!」
「つぎ、キリュウさん。」
「短天扇をヨイショの道具などに使わないでもらいたい。」
「つぎ、ヨウメイさん。」
「統天書を踏み台とか漬物石代わりに使わないで下さい!」
「・・・以上です。」
何を宣言したかというと、これこれこういう事は有無を言わさず却下だ、という事である。
とまあ、そこまででアッサリと会議は終了。てきとーに皆はくつろぐのだった。
「しっかしなあ、誰があんなわけのわかんない目的で使うのやら。」
「考えそうなのはヨウメイくらいだと思うんだけど・・・。」
ひそひそと言葉を交わす那奈と翔子。もっともな意見である。

<却下っ!!!>


第百六ページ『雨晴降れ降るな』

ある日の夜、ヨウメイがリビングでくつろいでいるとルーアンが傍へやって来た。
「ねえヨウメイ、あんたって天気の調整が出来るのよね?」
「そういう訳じゃないですが・・・そんなもんです。」
「じゃあ雨を降らせてくれない?明日雨が降ってくれたら学校休めるから。」
「そんなもので休める様に成るとは思えませんが・・・まあ、ちょっとだけなら。」
「ありがとぉん。」
上機嫌で去って行くルーアン。やれやれとため息をつくヨウメイであった。
「たくう、お天気は私が管理しているものじゃないのに・・・。」
ぶつぶつと彼女が呟いていると、そこへキリュウがやって来た。
「ヨウメイ殿、明日は雨が降るのか?」
「え?どうしてですか?」
「明日行う予定の試練は少々危険だからな。雨でも降られると困るのだ。
だから、ほんのわずかでも降らない様に天気を調整して欲しい。」
「試練の為に雨を降らせるな、って事ですか?」
「一滴の雨が主殿の命に関わるんだ。」
「何をやるつもりなのやら・・・。うーん、何とかしましょう。」
「うむ、頼んだぞ。」
真剣な顔をしながら去っていくキリュウを見送り、これまたやれやれとため息をつくヨウメイ。
「困ったなあ。なんとか誤魔化せばいいかな・・・。えーっとぉ・・・。」
と、悩んでいるそこへシャオがやって来た。
「あの、ヨウメイさん、お願いが。」
「なんでしょう?」
「近頃まったく雨が降ってなくて、お庭の草木達がぐったりしてるんです。」
「・・・それで?」
「雨を少しでも降らせていただけませんでしょうか?」
「・・・分かりました。」
「まあ、ありがとうございます。」
ぱあっと顔を輝かせて去って行くシャオ。これまたため息をつきながらそれを見送るヨウメイ。
「うーん、七梨家の庭だけに降らせればいいかな。
・・・って、まさかその雨が影響して試練に大災害が・・・無いとは言えないなあ。
ちゃんと調べて降らせれば大丈夫・・・かな・・・。」
と、そこへ今度は那奈がやって来た。
「ヨウメイ、お願いがある。」
「・・・なんですか?」
「明日はハイキングに行く予定だから、ばっちり雨が降らないようにしてくれ。」
「あのう、私はそういうお天気便利屋じゃあ・・・」
「頼んだからな。」
四人目で反論しようとしたヨウメイだったが、那奈はそれを聞く耳持たず。
結局は言葉を返させないままにその場を去っていった。
「・・・ま、まあこのくらいの天気調整ならなんとか、なる、かな・・・。
・・・本当は自然のバランスを崩しかねないからあんまりしたくないんだけど・・・。」
トゥルルルルルル
ぶつぶつヨウメイが呟いている途中で鳴り響く電話。
太助が受話器に出て受け応え。と、リビングに向かって呼び声が。
「おーい、ヨウメイ。愛原からだぞー。」
「花織ちゃん?」
ぱたぱたとかけだし、太助から受話器を受け取る。
「はい、もしもし。」
「あ、楊ちゃん?明日のお天気って大丈夫かなあ?」
「明日?」
「もう、忘れちゃったの?明日熱美ちゃんとゆかりんと、遊園地行くって言ったじゃない。」
「へ?あ、ああそうだったね。」
「でね、もし雨が降りそうだったら、楊ちゃんがなんとかできないかな?って。」
ここでヨウメイはパニックになったのか、ふるふると震え出した。
しばらく続く沈黙の時間。
「あの、楊ちゃん?」
「・・・それで花織ちゃん、私にどうしろと?」
声が一段と低くなった。素早くそれを感じ取った花織は慌てた声になる。
「い、いや、だから、お天気を・・・」
「私はお天気管理人じゃないんだよ!!!!!
なんなのよ、一体。自然現象操れるからってどんどんどんどん注文付けて!!!!!
一部雨降らせて一部晴にして、決して雨を降らせないでちょこっと降らして・・・
いいかげんにしてよー!!!!!!!!!!・・・うわーん!!!!!!」
ついには泣き出してしまったヨウメイ。
たまたま近くに居た太助は慌ててほったらかしの受話器に代わって出る。
「も、もしもし?」
「あ、七梨先輩!ど、どうしたんですか、楊ちゃん。」
「いや、俺にも何がなんだか・・・。とにかく後でかけなおすから。」
「は、はあ・・・。」
とりあえず電話を切る太助。そして泣きじゃくるヨウメイを落ち着かせて、理由を尋ねる。
異常なまでにぐずる彼女を説得するのは大変だったが、太助はなんとかすべてを聞き出した。
「なるほどな・・・。分かった、ヨウメイは特に心配せずに何もするな。
シャオ達には俺がしっかり言って説得しておくから。」
「でも、ルーアンさんは・・・。」
「学校休むためだろ?そんなとんでもない理由にわざわざ協力しなくていいよ。」
「でも、キリュウさんは・・・。」
「そんな危険な試練、俺の判断でなんとか乗り越えるさ。」
「でも、シャオリンさんは・・・。」
「庭木の水くらい、俺が早起きしてやっておくから。」
「でも、那奈さんは・・・。」
「姉貴の道楽にいちいち付き合わなくていいって。だいたい、ヨウメイはオッケーを出して無いのに。」
「じゃあ後は、花織ちゃん達と・・・。」
「それこそよおく相談して決めろよ。
友人をあてにする、なんて事はあんまり良くないと俺は思うけどな。」
それぞれの人に対しての太助なりの意見を返す。
しばらく考え込んでいたヨウメイだったが、元気良く頷いて立ちあがった。
「ありがとうございます、主様。なんだか気が楽になりました。」
「それなら良かった。あんまり何でもかんでも引き受けるんじゃないぞ。」
「いや、ただの成り行きなんですけどね・・・。
でも・・・本当にありがとうございますっ♪」
さっきとはうってかわって明るい様子で、ヨウメイは電話をかけ始めた。
楽しい御喋りに時折笑い声が混じる。完璧に気分を取り直した様だ。
それを見て安心した太助は皆を説得しに四人の部屋を廻る。
その懸命さが伝わったのか、皆は申し訳なさそうに納得したのだった。
翌日、各々天気に左右されながらも思い思いにその日を過ごした様である。

<雨雨雲雲晴晴大雪>


第百七ページ『いらっしゃいませました』

ぴんぽ〜ん
七梨家の呼び鈴が鳴り響く。そして家のものが出向かえる前に扉が開いた。
「うおおーい、太助ー!!」
「七梨せんぱーい。」
「楊ちゃ〜ん。」
「勉強教えて〜!」
「ルーアンせんせ〜い。」
「シャオさーん。」
「那奈ねぇ〜。」
口々に名前やら目的やらを端的に叫ぶ。
と、そんな客達を出迎えたのは太助とヨウメイであった。
「たく、毎度毎度騒がしいなあ・・・。」
「ようこそ、いらっしゃいませました。ささ、どうぞ。」
愚痴をこぼす太助、丁寧に招き入れようとするヨウメイ。
おそらくリビングでは那奈、ルーアン、キリュウが座って待ち、
キッチンではシャオがもてなしの用意をしているに違いないだろうが・・・。
「お邪魔しまーす。」
たかしの声を皮切りに、次々と足を踏み入れる。
と、途中の乎一郎が靴を脱いで足を上げた時、ヨウメイはバッと統天書を開けた。
パパパパーン!!
ど派手に鳴る火薬音。その音の大きさに皆が一瞬立ち尽くして耳を塞ぐほど。
「おめでとうございまーす!!」
「へ?へ?」
「あなたは、ある時期から勘定してこの七梨家に足を踏み入れた、丁度7123人目ですー!!」
「・・・・・・。」
なにかの記念かと思いきや、ヨウメイの出した数字を見て唖然とする面々。
きっちりした数字ではなかったのだから。
「あの、ヨウメイちゃん・・・」
「はーい、賞品はこちらに御用意してございます。さあさ、奥へ奥へ!」
有無を言わさず乎一郎を引っ張って行くヨウメイ。
授与は短時間で行われたのか、皆がリビングに集まる頃に二人は帰ってきたのだった。
「なあ乎一郎、何もらったんだ?」
「・・・数値計算の書、だって。なんでも計算が素早く出来るようになるらしいよ。」
「へえ、そいつあ良かったなあ・・・。」
いつの間に用意していたのかはわからないが、とにかく賞品の様だ。
「楊ちゃんの気まぐれイベントも色々出すようになったねえ。」
「花織ちゃん、勝手にそんなもん名付けないでよ。」

<らっきー!>


第百八ページ『御調べ』

「なあヨウメイ、教えて欲しいことがあるんだけど。」
「はい!なんでしょう!!」
目をきらきらっとさせて返事するヨウメイ。
実際、太助からこんな質問が来るのは久しぶりなのだ。
「今日の試練の動向について。」
「はい!・・・はあ?なんですって?」
元気良く応えたものの、試練という言葉に引っかかった様だ。
しかも、動向などという言葉付きである。
「いや、だから、試練の動向について。」
「・・・そんなもん調べて何をしようっていうんですか。
第一、私は試練についてはあまり関与しない約束なんです。
それこそ、キリュウさんが望まない限り・・・。」
そう。試練は試練、教授は教授というわけだ。
だから、互いに役目の干渉は御法度ということである。
「うーん、けどなあ。どうもあのキリュウの行動が気になって・・・。」
「キリュウさんに何か?えっと、ふむふむ・・・。」
統天書をぱららっとめくって調べるヨウメイ。
いつものごとく相手側に待ったをかけないのは、太助が別に説明しようとしなかったからである。
「ヨウメイ?」
「あ、はい、分かりました。なるほどお、野村さんや遠藤さんも巻き込んでますねえ。」
どうやら、今度の試練ではたかしや乎一郎も協力するらしい。
更に調べた所によると、翔子や那奈、そして花織達も絡んでいる様だ。
「・・・どうしよう?」
「どうしようといわれましても・・・頑張ってください。」
「うーん、そうじゃなくて、俺だけが頑張るのでいいのかな〜って。」
「え?」
「いや、ひょっとしたらかもしれないけど。今回はヨウメイも一緒に鍛えようという試練なのかも。」
太助の考えにしばし沈黙。そして黙って二人は頷いた。
「この様子だとありえますね・・・。」
「だろ?体力中心だろうなあ。しかもとびっきりきつく・・・。」
「うぐう、恐れていたことがついに・・・。でも頑張るもん!主様、よろしくお願いします。」
「あ、ああ・・・。」
果たして、試練は二人の予想通りであった。
学校の行き帰り、学校で居る時間、そして家に帰った後も・・・。
体力をつける試練が行われ続けたのである。
障害物競争のみならず、ありとあらゆる運動を・・・。
「ふう、ふう、皆が友達思いで良かったな、ヨウメイ。」
「そういう問題じゃないですよおぉ・・・。」
たまに良いことがあると思ったら妙な目に遭う、という事をなんとなく感じ取ったヨウメイであった。

<すてっぷすてっぷ>


第百九ページ『劇』

「というわけで、一年三組はシンデレラの劇となりました〜!」
ぱちぱちぱちぱち
一年三組では、クラス会が開かれていた。
今度行われる文化祭におけるクラスの出し物について、というものだ。
「さて、とりあえず配役ですが・・・」
「はいっ。」
「ヨウメイちゃん、どうぞ。」
配役の話に入った途端、ヨウメイがすっと手を上げた。
前で司会をしていた男子生徒が指名すると、彼女は立ちあがる。
すんなり配役を決めるという良い方法を提案してくれるに違いないと期待したからだ。
「私は衛兵Cがやりたいです!以上。」
投げやりではなくて思いっきり力をこめて告げたかと思うと、ヨウメイはその場に座った。
一瞬の沈黙の後にざわつく教室。隣に入た熱美は慌てて訊いてみた。
「ちょ、ちょっと楊ちゃん。なんであんな発言を。」
「だって、私衛兵の役やってみたかったんだもん。」
「いやそういう事じゃなくて・・・。しかもCだなんて。」
「とにかく、私はそのつもりだから。あ、いい配役の決め方なら提案するけど?」
「・・・じゃあそれお願い。」
結局はすんなりとそれぞれの配役等が決まっていったものの、ヨウメイは最後まで役を譲らなかった。
別段それが問題となったわけでもなく、劇は無事に成功を収めた様である。
「なあ花織ちゃん、ヨウメイちゃんってなんの役をやってたんだ?」
「衛兵Cです・・・。」
「・・・何それ?」
「端っこの方に武器を持って立ってたでしょう?あれですよ。」
「・・・なんでそんな役を?」
「さあ・・・。」
後でのたかしと花織のそんな会話も気にせず、ヨウメイは次なる役を狙っていた。
「さて、次は白雪姫!で、草木その4だ!」
「・・・頑張ってね、楊ちゃん。」

<ぴっ>


第百十ページ『漫才再び!(第三幕)』

たかしの家のリビングにて座っていた三人。だが、キリュウとヨウメイが立ちあがった。
「さてさて、それじゃあ次のテーマ行きましょうか。」
「うむ、テーマはしばらく後のお楽しみ!」
「「ちゃっちゃかちゃっちゃか♪」」
「・・・・・・。」
たかしが見守る中、二人は変なテーマ曲を口ずさみながら舞台設定を始めた。
密かに隠し持っていたのだろう。妙な作りの町のミニチュアセットだ。
「ぴんぽろぱんろん♪」
「くっくるっく〜♪」
「・・・あのう・・・。」
「もうちょっと待ってくださいね。ろろろろんろんど♪」
「とてちてとてちて・・・完成だ!」
「わああああ!!!」
完成したと思ったらいきなりヨウメイが叫ぶ。
慌てて耳を塞ぐたかしだったが、そこで素早くキリュウが突っ込んだ。
「ヨウメイ殿、完成したのに何故叫ぶ?」
「だって、歓声を上げなきゃ。」
「なるほど!」
「「あはははははは!」」
「・・・・・・。」
準備してる時にも欠かさず攻撃!たかしに十二ポイントの精神ダメージ!
「さて、信号!」
ヨウメイがあっさりテーマを宣告。
なるほど、確かに出来あがったミニチュアには信号がある。
と、その近くへ上半身を前に曲げた状態でヨウメイが待機。
そこへキリュウがやって来た。
「うーん、うーん・・・。」
「どうなされた、御老人。」
「なかなか渡れ無くて難儀しておりますのじゃ。この信号は短くて・・・。」
「ならば私に任されよ。万象大乱!」
キリュウが扇を構えて唱えると、信号が巨大化。
重さを支え切れなくなった柱がずーんと向こう岸へと倒れた。
「ささ、それを橋にして渡られよ。」
「おお!すごいですのう。じゃが、私はあっちでは無くこっちへ渡りたかったのじゃが・・・。」
ヨウメイが指差した方向は、キリュウが倒した方向からみると垂直方向。
つまり、別の信号ということだ。
「済まない、これは失敗してしまったな。」
「もう、いやですよお嬢さんたら。」
「「あはははは!」」
「・・・・・・。」
どうやらここで終わりらしい。
だが、たかしには意味が通じなかった様だ。
「・・・ちょっと野村さん、何か反応してくださいよ。」
「遠慮しなくても、抱腹絶倒してくれて構わないぞ?」
「は、はは・・・。」
ここで改めて笑みを浮かべた。おもいきりひきつっていたが・・・。
「野村殿は照れやだな。」
「ま、後がもっと控えてますしね。ここで大笑いしてちゃあ持ちませんし。」
「げ・・・。」
後がもっと控えているという言葉にショック!
たかしは百二十八ポイントの精神ダメージを受けた!!!
「ご、御免、ちょっと休憩を・・・。」
「もうですか?まあ少し休みますかね。」
「後片付けもあるしな。」
キリュウとヨウメイがセットの片づけをしている間にたかしは席を外す。
そして、慌てて電話をかけに走るのだった・・・。

<第四幕へ続く・・・>


第百十一ページ『ふぃーばー』

「うーん、うーん・・・。」
「大丈夫か、ヨウメイ殿・・・。」
キリュウとヨウメイの部屋。今、ベッドにヨウメイが寝ている。
なんと、熱を出して寝こんでいるという訳なのだ。そこでキリュウが看病しているのである。
「まったく、こんなに高音の熱を出すとは・・・。」
「何度くらいありますか?」
「かなり高いぞ。そんな事は気にせずにゆっくり寝ておられよ。」
「はーい・・・。」
氷嚢を額に当てているその姿はものすごく辛そうだ。
ちなみに、しっかり長沙も傍についているもののかなりのお手上げ状態らしい。
と、コンコンとドアをノックする音が。
キリュウが返事をすると、そこに入ってきたのは花織、熱美、ゆかりんの三人である。
「どうですか?楊ちゃんの容態は。」
「慌てて飛んで来たんです。」
「あ、これ御見舞・・・。」
口々に気遣いの言葉をかけて傍に座る。
御見舞として持ってきたのは、色とりどりのフルーツ。
キリュウと長沙は、ただ黙礼してそれに応えた。
「皆・・・。わざわざ御見舞に来てくれたの?」
「何言ってんの。私達親友じゃない!」
「こういう時に来なくてどうするのよ。」
「そうそう。早く良くなってね、楊ちゃん。」
「ありがとう・・・。」
三人の心配そうな顔を見て、ヨウメイは軽く笑顔で返す。
やがて安心した様にすーすーと寝息を立てて眠り出した。
「随分と安らかだな・・・。花織殿達が来たおかげかな。」
キリュウがそう呟くのも無理は無い。
三人が来るまで、ヨウメイは寝ていても凄く辛そうな顔をしていたのだから。
しばらくの間寝顔を見守り、彼女達はそのまま帰って行った。
キリュウが見送りに部屋を出た後、残っていた長沙はヨウメイのこんな寝言を聞いたとか。
「みんな、ありがとう・・・。」

<ふう・・・。>


第百十二ページ『くいっ』

「那奈さん、一つ面白い遊びを提案致します。」
「ろくでも無い遊びか・・・良いだろう、あたしに被害が及ばないのならのってやる。」
「なんかひどい言われよう・・・あのですね・・・。」
ごにょごにょと那奈に耳打ちするヨウメイ。
こんな耳打ちをする時点ですでにろくでも無さそうであるが・・・。
「ね?いかがですか?」
「うーん、シャオにはやりたく無いなあ・・・。とりあえずルーアンかキリュウで。」
「じゃあキリュウさんにしましょう!」
「・・・そういうと思った。」
そして二人はキリュウがいる場所へと向かって行った。
というわけでキリュウと向かい合って座る那奈。そしてキリュウの後ろにはヨウメイが。
「・・・那奈殿。」
「なんだ?」
「話をするのはいいが、どうしてこういう配置になる?」
「それはだな、海よりも深い事情があってだな・・・。」
「・・・・・・。」
那奈が語り出す。キリュウは呆れながらもそれに聞き入る。その時。
くいっ
「うっ!」
キリュウの髪の毛をヨウメイが引っ張る。
丁度、後ろの一番長い部分の髪の毛だ。
「ヨウメイ殿ぉ〜・・・。」
くいっ
「うっ・・・やめぬか!!!」
ヨウメイの手を振り払って振り返る。
しかし、キリュウがヨウメイに迫るその手前に。
くいっ
「うわっ!」
今度は那奈がキリュウの髪の毛を引っ張った。
「なるほど、この配置はそういう理由が・・・。」
くいっ
「だから止めろと言っているだろう!!」
いいかげんキリュウが切れそうになったところで那奈が手を止める。
そこでヨウメイが深深と御辞儀した。
「どうも、遊ばせていただきありがとうございました。」
その言葉に呆然とするキリュウ。更に呆れ気味にため息をついた。
「謝らずに御礼を言ってくるとは・・・。」
「どうせ謝っても許す気なんて毛頭無いでしょう?そういう事です♪」
「なるほど・・・って、そういう問題なのか!?私で遊ぶなと前々から言っているだろう!!」
「だから、改めて御礼をいわせていただきました。」
「だからそういう問題では無い!!!」
怒ったキリュウと、涼しい顔でそれに受け応えするヨウメイ。
確かに那奈が出した最初の条件として、彼女は被害を食らってはいなかった。
「さすがヨウメイ・・・。よし、今度は宮内で徹底的にこれをやるか!」
更には翔子までも誘おうかと彼女が心の中で作戦を練っている中、
やはりキリュウとヨウメイは言い争っていた様である。(結局はヨウメイが謝って幕を閉じたが)

<ぐきっ>


第百十三ページ『チェーンジ!』

ぴんぽーん
「はーい。」
呼び鈴の音を聞いて乎一郎がドアを開ける。
と、そこにいたのはキリュウとヨウメイであった。
「キリュウちゃんにヨウメイちゃん・・・どうしたの?」
「遠藤さん、ちょいと眼鏡を貸してください。」
「え?う、うん・・・。」
特に疑う事も無く眼鏡をヨウメイに手渡す乎一郎。
やさしいのか、用心する事を知らないのか・・・。
「それではキリュウさん、お願いします。」
「分かった。」
ヨウメイも眼鏡を外して、それをキリュウに手渡す。
二つを手に持ったキリュウは、短天扇をすっと構えた。
「万象大乱。」
乎一郎の眼鏡がすすすっと、ヨウメイの眼鏡もすすすっと同時に変化する。
と、二つの眼鏡の形状がすっかり入れ替わった様に大きさが変った。
「うむ、ばっちり!さ、遠藤さん、お返しします。」
「・・・あのう、ヨウメイちゃん。これって・・・どういうこと?」
「だから見たまんまですよ。めがねちぇーんじ!です♪」
「ついでに、二つ同時に万象大乱の実験も兼ねていた。上手くいって何よりだ。」
笑顔で告げたかと思うと、二人はくるりと向きを変えてその場を去って行こうとする。
慌てて乎一郎は呼びかけた。
「ちょ、ちょっと待ってよ!元に戻してってば!!」
ところが、二人はちらりと振り返った直後にダッシュ。
あっという間にそこからいなくなってしまったのである。
しばし呆然となっていた乎一郎は諦めた様に、
大きさが変わった自分の眼鏡をかけてその日を過ごすしかなかった。
夕方、二人が大きさを元に戻す為に再び訪ねに来るまで。

<ちぇーんじ!>


第百十四ページ『妖刀騒動』

ある日七梨家に小包が届いた。差し出し人は太郎助である。
今までの事で慎重になっている太助は、とりあえず家の者を召集。
荷物に手は触れずに、皆の前で手紙を読み始めた。
「『ニイハオ太助!父さんは相変わらず中国奥地を旅している。
この間虎に襲われた時は懸命に戦って・・・』
危険なので省略な。」
「おい太助、危険ってどういう事だよ。」
「いや、なんかものすごい事書いてあるから・・・。」
太助の説得では当然皆は納得しない。
さりげに統天書を開けたヨウメイの傍に四人は寄った。
「ふむふむ、虎と戦って腕を一本失っていない、という訳ですね。」
「なに!!・・・はあ?失って無い、って?」
「えっと、まあ、無傷だって事です。」
「おい・・・。」
まどろっこしい言い方をされて不機嫌な那奈。その横ではキリュウが感心していた。
「虎と戦って無傷とは・・・さすがだな。」
「虎はもういいでしょ。で、たー様。肝心のそれは?」
「えっと・・・。」
妙に話がそれ出したのを慌ててルーアンが戻し、太助は手紙の最も重要と思われる部分を読み始めた。
「『今回送ったそれは、あらゆる物を一刀両断にするという刀だ。
しかし、心の清い者しか扱え無いようで・・・。』なるほどな、○天シリーズか・・・。」
途中でバサッと手紙を下におろす。と、ヨウメイががたっと立ちあがった。
「主様!その刀に触れてはいけません!」
「分かってるよ。清い者だけがその刀をさやから抜く事が出来て・・・」
「違います!その刀に触れると呪われます!それは妖刀なのです!!」
唐突な彼女の言葉に一同唖然。
心の清い者がどうたらという話から、突然妖刀という言葉が飛び出したのだから。
「あのさ、ヨウメイ・・・」
「いいから聞いてください!もし主様が呪われて、あたり構わず刀を振るって、
それで誰も手の施し様が無く、最後に私の出番となって、
“真剣しらはどり、とう!!”とかやって失敗したらどうするんですか!!」
「・・・・・・。」
最後の余計な部分に、辺りがしらけた空気に包まれる。
と、そこでシャオがすらりと言葉を挟んだ。
「あの、ヨウメイさん。冗談ですよね?」
なんとも正直なその言葉に、これまたしばしの沈黙。
と、ヨウメイはぺろっと舌を出した。
「・・・えへへ、そうです。それは妖刀でもなんでもありません。普通の刀です。
主様、太郎助さんの御手紙をちゃんと最後まで読んで見てください。」
「・・・あ、ああ・・・。」
しばらく止まっていた時間がやっと動き出した、というように反応した太助。
ちなみにルーアン、那奈、キリュウは今だ固まったままである。
「なになに・・・『というのは無いらしい。その証拠に、父さんもばっちり使えたからな!
切れ味が良いので包丁代わりにしても上等だ。生活の必需品にしてやってくれ!』
・・・。ほほう、なるほどお・・・。」
「おわかりですか?要は、切れ味の良い刃物、って事ですね。」
「まあ。でしたら早速今晩から使ってみますわ。ちょうど包丁の切れ味も悪くなって来ましたし。」
「それなら私が加工いたします。ちょっと手伝ってください。」
「はい♪」
にこにこしながら、シャオはその刀を持ってヨウメイとキッチンへ姿を消す。
疲れたように太助が息をつくと、彼の目には今だ固まっている三人の姿が目に入った。
どうやら、刀がどうとかより、ヨウメイの真剣な語りがよほど効いた様である。

<ズシャッ!!!>