#特別企画≪聖剣伝説2≫のサウンドタイトルで話を作ろう#

♪第百十五ページ『天使の怖れ』

それは昔。アフリカという大地でのお話。
「・・・というところで今日の教授は御終い!」
ぱちぱちぱちぱちぱち
今日も今日とて、ヨウメイの授業が行われていた。
短時間であっさり出来る彼女の教授はとても評判が良く、
子供達はおろか、沢山の大人達もこぞって参加していた。
そのせいか、彼女も大変張り切って授業をしていたのである。
「ふう。教えがいがあるな〜♪」
「ねえヨウメイちゃん。」
「はい?」
生徒達がぞろぞろと帰っていく中、授業終了の余韻に浸っている彼女を一人の女性が呼ぶ。
長い金色の髪を持つ、とても綺麗な人だ。
「毎日そんなに張りきって・・・疲れない?」
「いえいえ。これが私の生き甲斐ですから。」
「でも・・・。」
「さゆりさん、あなただって世界中の人々に愛を振り撒いているでしょう?
それと同じですよ。」
「・・・そっか。ごめんね、変な事聞いちゃって。」
申し訳なさそうな顔をする彼女に、ヨウメイは“いいえ”と首を横に振った。
「私の心配より、もっと別な心配をしてください。ね?」
「・・・大丈夫。月に願えば愛は届くのよ♪」
ちょっぴり不安な顔で見つめるヨウメイに対し、さゆりはふわっと答える。
彼女の少しのかげりに気付いたヨウメイだったが、何も言わずに笑顔で返すのだった。

<少しだけ・・・>


♪第百十六ページ『不思議なお話しを』

誰も喋らない、何も聞こえない。そんな夜が訪れた。
ここは花織の家。珍しくヨウメイがお泊まりしているのである。
ただ、どうも調子にのってはしゃぎすぎたのか、なかなか二人は寝つけないでいた。
「眠れないね、楊ちゃん。」
「ちょっと遊びすぎたね。もうすぐ二時だってのに・・・。」
一般に言う、草木も眠るうしみつどき、という事である。
「・・・そうだ、なんかお話ししてよ。」
「お話?うーん・・・じゃあ恐いじゃなくって不思議なお話しを。」
「やったあ。さ、聞かせて。」
わくわくしながら隣に寝ている親友の方を向く花織。
ヨウメイはゆっくりと語り出した。
「ある所に貧しい貧しい男性がいました。いくら働いてもお金はすべて借金によって消えて行く。
その日の暮らしがやっと、という状態でした。」
じっと聞き入る花織。暗闇の中相槌は打っているものの、声は出さずに居るようだ。
「ある日、いつもの様に働きおわって家に帰ってみると、一つの小包が届いていました。
差し出し人不明のそれに男性は多少疑問を感じましたが、とりあえず家に持ちこみます。
質素な食事を済ませた後、あの小包を開けてみました。と、中に入っていたのは一冊の本です。
真っ黒な薄汚れた表紙。一ページ目を開けると、そこには“統天書”と書かれてありました。」
「楊ちゃん、それって・・・。」
なんとなく先が読めた花織が声を出す。しかし、ヨウメイは構わずに続けた。
「更にページをめくる男性。しかし、中にはなんにも書いてありません。
ただ真白です。数10ページほどめくった所で男性はバタンと本を閉じました。
『なんだよこれ・・・メモ帳にでも使うかあ』男性はそのまんま本を抱えて眠ってしまいました。
はい、これで御終い。」
「ちょ、ちょちょちょ、ちょっと楊ちゃん!」
「何?」
自分の読んだ先とは違う結末に驚く花織。慌てて再びヨウメイを呼ぶのだった。
「なんで楊ちゃんが出てこなかったの?」
「なんでって・・・なんで私が出る必要があるの?」
「だって・・・統天書って書いてあったんでしょ!?」
「さあ、何故でしょう?おやすみ〜。」
「ああん、教えてよ〜。」
「ぐー。」
「ちょっとー!」
話しをしたおかげでヨウメイはあっという間に熟睡。
花織は謎が気になってますます眠れなくなった様である。

<ふしぎフシギ>


♪第百十七ページ『薔薇と精霊』

「ありがとうございました〜。」
花屋を後にする一人の女性。
手に大量の薔薇を抱えている彼女はスキップしながらある場所を目指す。
「さあてと、しっかり言ってもらわないとね〜♪」
ルンルンとしているその様子はただ事では無い様にも見える。
また、ぶつぶつと“今日の目標は・・・”などと呟いていた。
と、そこへ偶然にも目的の場所にいる人物と出会う。
「おやヨウメイさん。随分浮かれてますねえ。」
「宮内さん!良かったあ、これで神社まで行く手間が省けました。」
「え?」
立ち止まると同時に、手に持っていた薔薇を出雲に手渡すヨウメイ。
そして、戸惑っている彼ににこやかに告げた。
「宮内さん、ちょっと簡単な御願いが・・・。」
にこやかながらも少しもじもじしている。
小声でごにょごにょと言われた出雲はひくっと呆れた顔になった。
「・・・なんで私がそんな事を言わなければならないんですか。」
「お願いします。ね?ね?」
なんともいじらしいその姿に、出雲は仕方なく承諾した。
薔薇を胸に抱えて片ひざを地面につく。
「ああ、ヨウメイさん。あなたのその美しさはこの薔薇をも恥らわせ・・・。」
次々と歯の浮くようなセリフを口にする出雲。
原案はヨウメイなのだが、すらすらと言っていくところを見ると、普段から口にしているのだろう。
「・・・こんな花では申し訳無いが、
これは私のあなたに対する想いの一部として御受け取りください。」
「ああ、ありがとうございます、宮内さん・・・。」
その気になってか、ヨウメイもすっかり恋する乙女の顔だ。
幸いなのは、一連の行動をやっている間に通行人が誰も通らなかった事であろう。
すべてが終わった後に、深深とヨウメイは御辞儀した。
「ありがとうございます、私の目標道楽にお付き合いくださって。」
「いえ、どういたしまして・・・って、目標道楽とは?」
「その日、こういう事を必ず実行しよう!と、私なりに決めた道楽です♪」
「なるほどね・・・。」
道楽に付き合わされたとはいえ、ヨウメイの笑顔を見て、出雲はそれなりに満足だった様である。

<綺麗ですねっ♪>


♪第百十八ページ『いつもいっしょ』

授業の休み時間。仲良くおしゃべりしている四人組。
話の内容はたわいも無い世間話や質問である。
「ねえ楊ちゃん。」
「ん?」
「楊ちゃんって統天書を肌身離さず持ってるよね。どうして?」
「それはね、ゆかりん。統天書がないと役目が果たせなくなるからだよ。」
「役目・・・。そっか、楊ちゃんの場合は主に知識を教えるって事だもんね。」
「それじゃあさ、シャオ先輩やルーアン先生やキリュウさんも?」
「うん、大抵はそうだよ。やっぱり、これが無いと自分の役目が果たせなくなるから。」
「なるほどねえ・・・。」
「じゃあ別の質問。お風呂に入る時も肌身離さず?」
「・・・秘密。」
「秘密ぅ!?よーし、今度四人で温泉にでも入りに行こう!」
「その時にばっちり暴いてあげるからね。」
「こらこら。」
結局の所は、ほとんどいつもいっしょということである。

<やっぱりこれが無いとね>


♪第百十九ページ『やさしい思い出』

部屋の窓から壮大と言わんばかりの夕暮れを見つめるヨウメイ。
彼女の脳裏に、昔の記憶がよみがえってきた・・・。
本を開けたのはまだ幼い少女。
それこそ、字を覚えたばかりの幼女であった。
初めて呼ばれた時に、ヨウメイはとにかく戸惑った。
しかし、それでもやはり立派な主様。
懸命に十八番である説明を行い、すべてを理解してもらう。
日に何度も教授を求めてくる少女はそれはそれは可愛らしかった。
ただ、一つ残念だったのは、早くに別れが来てしまった事。
少女の反応により、張り切りすぎて一度に教えすぎてしまったのだ。
気付いた時にはもはや限界、という域に達していたのである。
がっくりとうなだれているヨウメイを少女は優しく慰めた。
『気にしなくて良いのよ。御互い楽しかったじゃない!
別の人にも、私が体験したような楽しみ、そして喜びを分けてあげてね。』
笑顔で送ってくれた少女に、ヨウメイは笑顔で空天書に戻って行った。
そうしないと、なんだか申し訳無い気がしたのだ。
その時も壮大な夕暮れだった・・・。

<いいな・・・>


♪第百二十ページ『少年は荒野をめざす』

「ふう、ふう。たく、無茶苦茶言うなあ・・・。」
時折文句をぶつぶつ言いながら、歩く歩く太助。
キリュウから試練を課せられて七梨家を出たのである。
その内容は・・・
「なにー!?地平線を見てこい〜!?」
「そうだ。」
「壮大な気分になれる事うけあいですよ♪」
「・・・ヨウメイの提案か。」
「そうだ。」
「ついでに言うと、すべて徒歩で移動ですからね。」
「分かったよ・・・。じゃあすぐに出発・・・」
「もう一つ。今日中に達成する事。」
「だから急いでください。」
「今日中・・・もう昼過ぎてんじゃないかー!!!」
・・・という訳で、慌てて家を飛び出したのである。
とりあえずの目的地は町外れ。建物の少ない所を目指しているのだ。
「それにしても・・・地平線が見える場所なんてこの近くにあったかなあ・・・。」
不安になる太助だが、それももっともである。
鶴ヶ丘町に限らず、日本国内で地平線が見える場所はそう簡単にはない。
ましてや半日で、しかも徒歩で探し出せるようなものでもないのだから・・・。
結局この試練は達成できず。
コンパクトにて探しに来たルーアンによって、太助は家に帰る事となった。
「やれやれ、疲れたなあ・・・。」
「ま、普通できっこないわね。あの試練場へもかなりかかるし。」
「試練場?」
「ほら、ずっと前にキリュウとヨウメイの共同試練があったじゃない。
あの場所なら多分見えるわよ。ま、今回は試練の内容が悪かったって事で。」
「だよな〜・・・。」
再び太助が地平線を見る日は来るのだろうか?

<どこまでも>


♪第百二十一ページ『夏の空色』

屋根の上。ヨウメイが寝そべっている。
陽射しを一杯浴びて、実に気持ちよさそうだ。
そこへ来客が・・・キリュウである。
「ヨウメイ殿、何をしている。」
「青空浴です。キリュウさんも御一緒にどうですか?」
「良く分からぬが・・・気持ちよさそうだな。お邪魔するとしよう。」
ヨウメイに並んでキリュウが仰向けになる。
そして彼女の目に写ったのは、なんとも壮大な空の蒼・・・。
「空は・・・こんなにも澄みきった色をしていたのだな・・・。」
「こうでもしないと空を見る機会なんてないですからねえ・・・。」
うっかりすると、二人並んで寝ている姿が空にうつりかねない。
それほどまでに綺麗な空であった・・・。

<爽>


♪第百二十二ページ『踊るけものたち』

御飯の用意。今回は珍しくルーアンとヨウメイが担当である。
「ちょっとヨウメイ、本当にいいの?」
「ええ。遠慮無くやっちゃってください。」
「じゃあ・・・陽天心召来!!」
しゅるしゅるっと黒天筒が回り、そこから放たれる光。
陽天心と化したもの、それは・・・材料である。
肉、野菜といった食材達が次々と動き出したのだ。
「さてルーアンさん、これから私の言う通りにしたがって・・・。」
「・・・ふむふむ、そういう風に踊らせれば良いのね。おっけい!
それじゃあみんな〜、おどっておどって〜!!」
どんちゃんどんちゃんと、材料達が激しく踊る。
その光景はまるで、人間顔まけの御祭りのようだ。
「ねえヨウメイ・・・。」
「だからあ、大丈夫ですって。ルーアンさんの陽天心によって食材達が踊る。
これで要は、正に新鮮ぴちぴちの状態になるんですよ。
普通の材料じゃあ絶対にできない芸当ですよ。」
「まあねえ。確かに筋は通ってると思うけど・・・。」
一抹の不安を抱えるルーアンではあったが、
いざ陽天心が解かれた後のヨウメイが調理したものを味見すると・・・。
「美味い!!へええ、やるわねえ。新しい料理方法だわ。」
「まだまだ開発途中ですけどね。」
「なるほど、だからシャオリンには少し劣るんだ。」
「それは言ってはいけません。」
最後のルーアンの付け足しにちょっぴり不満げな顔を見せたヨウメイ。
しかし、やはりみんなは美味しい美味しいと言ってそれをたいらげたのだった。

<えっほ、えっほ>


♪第百二十三ページ『遠雷』

ぴかっ!!
・・・・・・
ごろごろごろごろ・・・
「ね?こんなもんです。」
「何がこんなもんだ。」
「だからあ、雷の距離ですよ。」
「つーかさあ、他人に被害が及んだら困るだろうが。もういいって。」
「どのくらい遠くまで呼べるか知りたい、って行ったのは主様ですよ?」
「実際に呼ばずに口で言ってくれればいいじゃないか。」
「“それってどのくらい?”なんて訊いたくせに。」
「いや、それとこれとは・・・。」
ぴかっ!
・・・・・・
どどーん!!
二人が言い争っている間に雷が落ちた様だ。
幸い、被害はゼロだった様である。

<ごろごろごろ・・・>


♪第百二十四ページ『妖精族のこども』

「野村さんっ♪」
「何?ヨウメイちゃん。」
「私は実は妖精だったんです♪」
「へえ〜・・・冗談だろ?」
「えへ。妖精は悪戯好きなのでこれから悪戯しまーす。」
「あのさあ、だから冗談なんだろ?」
「来れ、温泉♪」
どしゅううう!!!
勢い良く、下から温泉が噴出した!
「あちあちあちー!!」
「わーい♪それではさようならっ♪」
「だから冗談は止めろってばー!!」
「妖精は悪戯好きなんですもん♪さあて、今度は誰に悪戯しよっかな♪」
「こらー!!」

<えいっ♪>


♪第百二十五ページ『月夜の出来事』

今夜は見事な満月。
ぼんやりと、木々達を町を月明かりが照らしている。
シャオはいつもの様に縁側に座って月に見入っていた。
特に何をするわけでもなく、じっと空を、月を見つめる。
と、月に一点の影が浮きあがった。
しかし、シャオはそれに気付かない。今まで通り座っているだけだ。
そのうちに、だんだんとそれが大きくなる。月の十分の一位になったところで彼女はそれに気付いた。
「あら?何かしら・・・?」
ひょいっと立ちあがって手を額に翳してそれに注目。
そのうちにも影はだんだん大きくなる。丸くて黒い物体だという事が分かった。
「こっちに近付いてくる・・・。」
そう、影は七梨家を目指してきている様であった。
それでも、シャオはただじっとそれを見ている。
其の時、どたどたという音がしたかと思ったら、庭にすたっと誰かが降り立った。
月明かりに照らされて、パジャマ姿で手に書物を持った少女が確認できた。
「・・・ヨウメイさん?」
「古きかの仕掛けによって胎動せし召喚呪よ、その力を元に還さん・・・。
開け、送還の門!!」
ヨウメイが叫ぶと同時に、庭に大きな門が出現。
バン!と開いたそれに、例の黒い物体は急接近。そして門の中へと吸いこまれた。
ドーン!!という衝撃音が辺りにひびくと同時に、バタンと門が閉じる。
そしてヨウメイは開いていた統天書を閉じた。
「・・・あ、あの、ヨウメイさん?」
一瞬の出来事ながらも一部始終を見ていたシャオが恐る恐る尋ねると、
ヨウメイはくるりと彼女を方を向く。
「いやあ、びっくりさせてすいません。
実は今日の満月の夜に吸隕石を呼ぶように、遥か昔に仕掛けられたものを解除して・・・
ま、とにかく無事終わりましたので御心配なく。そうそう、この事は皆には秘密に。」
人差し指を唇に当てて“し〜っ”とするヨウメイにこくこくと頷くシャオ。
それを確認して、ヨウメイは家の中から自分の部屋へと戻って行った。
その後シャオは、ただ何も言えずに月を見ていたが、しばらくするとお月見を止めて寝に入った。
もっとも、すぐに眠れるものではなかったが・・・。

<内緒の内緒>


♪第百二十六ページ『闇の奥』

日曜日、珍しくリビングにてヨウメイの講義が行われていた。
太助が、ちょっと聞きたい事があったのも兼ねて、という事である。
「かくかくしかじか、という訳で宇宙の星々は・・・」
「ヨウメイ。」
「はい?」
「途中だけど質問してもいいかな?」
「ええどうぞ!」
話を区切られたにも関わらずヨウメイはにこにこ顔である。
久方ぶりの教授が行えているという事で、彼女にとってはともかく嬉しい事なのだ。
「ブラックホールについて知りたいんだけど。」
「ブラックホールですか?」
「ああ。ブラックホールの中はどうなってるかとか、どうやって出来るか、とか。」
「ほほお、それはそれは。だったら・・・ちょっと待って下さいね。」
急にヨウメイの瞳がらんらんと輝き出した。
実は太助が聞きたかったのはこの内容である。
もちろん、ヨウメイはそれを知っていた訳では無いのだが、質問内容に興味が沸いたのだろう。
俄然はりきって統天書をめくり出した。
「えーと・・・あった!ブラックホール体験ツアー!!」
「げ!?」
「さ、主様。今から宇宙のブラックホールを実際に・・・あれ、主様?」
ヨウメイが顔を上げた時には、太助は姿をあっという間に消した後だった。
ツアーという事を聞いて、光速並の早さでその場を去ったのである。
「逃げるとは、いい度胸してますね・・・。
・・・あー、腹が立つ!!!八つ当たりに行ってやる!!!」
素早く飛翔球を取り出したかと思うと、それに飛びのってヨウメイは空へ繰り出した。
その日、宮内神社が消えて現れたという事件が起こったそうである。

<すべてをのみこめ>


♪第百二十七ページ『聖なる侵入』

七梨家。今この家では深刻な問題を抱えていた。それは・・・
「えーい!!この、この・・・ああ、くそ。逃げられた!!」
「太助、試練受けててそのざまか?ゴキブリくらいあっさりやっつけろよ。」
「でもなあ、やつらすばしっこくってさ。おまけに狭い所に逃げやがるし。」
そう、ゴキブリだ。四六時中現れては出ている食材をあさってゆく。
その日のおかずだったりおやつだったり非常食だったり・・・。
「うーん、ここは一つ皆に協力してもらうか。」
那奈の提案により、皆に召集がかけられる。
精霊の力でなんとか退治しようというわけだ。
「・・・という訳で、今深刻な状況だ。奴らをこのままのさばらせておくわけにはいかない。」
「だったらたー様、あたしにいい考えがあるわ。
キリュウの万象大乱でちっちゃくなった誰かが、ゴキブリを壊滅させてくればいいのよ!!」
「なるほど、名案だな。」
「それで誰が退治にいくんですか?」
いい案が出たものの、ヨウメイの言葉にしんとなる。
当然だろう。なんといっても並大抵の事で達成は出来ないのだから。
と、発案者のルーアンが立ち上がった。
「じゃんけんで決めましょ!!負けた奴がごみチビをつれて行く。
退治したら報告!!じゃーんけーん、ほい!!!」
勢いにつられて、慌てて皆も手を出す。結果は・・・
「頼んだぞ、ヨウメイ。」
「頑張ってくださいね、ヨウメイさん、離珠。」
「ヨウメイなら安心だな。」
「途中でばてて倒れるんじゃ無いわよ。」
「ぐす、なんで私が・・・。
いっそのこと家を丸ごと焼き払った方が早いのに・・・。」
「コラ、物騒な事言ってんじゃない!」
ぐずっているヨウメイ。
肩に離珠が乗っているのを確認すると、キリュウが短天扇を構えた。
「では小さくするぞ。万象大乱!」
しゅしゅしゅ〜とヨウメイと離珠の体が小さくなる。
そして二人はちっちゃなすきまに侵入して行った。
「離珠、ヨウメイさんをお願いね・・・。」
無事を祈るシャオ。その祈りが通じたのか、その日のうちに、
ヨウメイが全てのゴキブリを退治したとの報告が離珠からシャオへ伝えられた。
元の大きさに戻った彼女ら二人を、シャオは喜んで抱きしめる。
もちろん他の皆も笑顔である。
「それにしてもすごいな。こんなに早くどうやって退治したんだ?」
「ちょっと毒霧を呼んだんです。」
「なるほど・・・。」
「店なんかで売られてる殺虫剤よりも確実に行き渡りますからね。思ったより楽勝でした。」
けたけたと笑うヨウメイに、シャオ、ルーアン、キリュウは感心していたが、
太助と那奈の顔は少しばかり引きつっていたそうである。

<いざ・・・!>


♪第百二十八ページ『熱砂の秘密』

試練実施。ただし、太助の、では無く、キリュウの、である。
「それじゃあキリュウさん、ごゆっくり。」
「砂漠まで作るとは・・・。すまないがここまで熱く乾燥しているのは・・・。」
「何をおっしゃる。頑張って耐えましょうね。」
言いながらヨウメイが灼熱の結界をはる。砂漠の周りに熱い壁を作ったのだ。
ちなみにその砂漠自体は、庭の一部である。
「砂漠も立派な自然の一部。大地の精霊ならこれくらいは慣れ親しんでもらわないと。」
「・・・分かった。暑さに耐える為にも頑張ってみる。」
立っていたキリュウだったが、砂の上に腰を下ろした。
熱さに思わず立ち上がりそうになったが、必死に我慢する。
やがて落ち着いてきたのか、ヨウメイの方へ目を向けた。
「ヨウメイ殿。」
「なんですか?」
「もし地表がすべてこんな砂ばかりで覆われてしまえば・・・生命は終わりだろうな。」
「ええそうですね。しかも人間が砂漠の原因も作ってるし。」
「それなら聞いた事がある。ヨウメイ殿は砂漠を元に戻す方法は知っているのだろう?」
「ええ。後で砂漠と変えたこの地面を元に戻さないといけませんし。」
「だったら、理不尽に広がった砂漠を元に戻す事は・・・」
「できません。」
キリュウの言葉を遮る様に、ヨウメイはきっぱりと告げた。
何も譲らない、そんな口調だ。
「しかし・・・」
「できないものはできません。例えやるにしても、よほどの事態じゃないと・・・。」
「という事は、出来るが無理にはしないという事か?」
「ええそうです。自然を操るのは想像以上に強烈な因果をもたらします。
それが広ければ広いほど・・・。」
「分かった、もう何も言わない事にしよう。」
顔を伏せたキリュウにより、その場は沈黙した。
いつのまにかキリュウは、砂漠の熱さなどものともしなくなった様である。

<さらさらさらさらさらさ>


♪第百二十九ページ『森が教えてくれたこと』

「今度の試練は何にするかな・・・。」
「森へ行きましょう!」
「森?」
「そうです。そこで・・・。」
ごそごそとした試練会議がキリュウとヨウメイの部屋で行われる。
あっさりと決定したのか、次の日には太助は出かける仕度をして家の外にいる状態となった。
「それじゃあ主様、頑張って来てくださいね。」
「ああ・・・。しっかし唐突だよなあ。森にこもって学んでこいってのは一体?」
「自然との・・・あ、いや。とにかく様々な事を学んで欲しい。
難しいとは思うが、とりあえず今の主殿がどのくらい成長しているかを試す意味もあるのでな。」
「んー・・・とにかく行ってくるよ。」
すたすたと歩き出した太助。
今の時間は、シャオですら起きておらず日も昇っていないという時間だ。
そんな時間に起きて出かけた太助。日が昇りかけた頃には森に辿りつき、そこで過ごし始めた。
とにかく自然に溶け込み、慣れ親しむ感覚で・・・。
実は試練の期間は一週間という事になっている。
その事を、その日の朝に初めて知ったシャオやルーアンは大騒ぎであった。
「いくらなんでも黙って出ていくなんて・・・。」
「コンパクトで見つけて探しに行くわ!」
那奈は落ち着いて見ていたが、当然キリュウとヨウメイがそれを止めに入る。
「これは試練だ。邪魔をしてもらっては困る。」
「どうしても行くと言うのなら、私が容赦しませんよ?」
目が本気の二人に、シャオとルーアンも引き下がらざるを得なかった。
そんなこんなで一週間、何かを得た様な顔になって太助は帰ってきた。
「ただいま。」
「太助様!お帰りなさい!」
「たー様、お帰りー!!」
「無事に帰ってきたな、さすが我が弟。」
「それで主殿、成果はどうだったかな?」
「安らぎは得られましたか?」
にこにこ顔のヨウメイの言葉にキリュウと太助が注目。
そして太助は、ふっ、と笑った。
「ああ、ばっちり。それに色々学ばせてもらったよ。近頃の俺の・・・。」
「とにかく成功ですね。良かった良かった。」
何かを仕組んでいたのか?と、疑問の顔になったキリュウだったが、
結果良しということで納得し、それぞれも太助の試練終了を祝うのだった。

<それはね・・・>


♪第百三十ページ『ねがい』

「「「こんにちはー!」」」
七梨家に三人の女の子がやって来た。花織、熱美、ゆかりんである。
遊びに来たのかと思いきやそうでは無いようで、太助に話がある様だ。
リビングにて太助を合わせて四人の状態になる。
まずは、花織が切り出した。
「七梨先輩、楊ちゃんの講義、ちゃんと毎日受けてますか?」
「毎日じゃないけど、まあそれなりに。」
次に熱美が喋り出す。
「それぞれの内容はどれくらいの量ですか?」
「ん〜、そんなに沢山じゃないけど、まあそれなりに。」
最後にゆかりん。
「もっと講義を受けてくれませんか?」
「・・・なんで?」
「「「楊ちゃんが落ち込んでるからです。」」」
三人同時に打ち明けるそれに、太助を目をぱちくりさせた。
「落ち込んでるってどういう事?」
「七梨先輩に教えられなかった事を、あたし達に教えて来たりするんです。」
「普段の教授とはまったく違うような、沈んだ雰囲気で。」
「一緒に遊ぶ時間もそういうので削られたり・・・耐えられません。」
かなり真剣な表情で話す三人に、太助は圧倒される。
しばらく考え込んでいた彼であったが、何か言おうと顔を上げたその時、
がちゃり
と、リビングのドアが開いてキリュウが入ってきた。
「三人とも、嘘はいかんな。」
「「「う・・・。」」」
「キリュウ・・・。嘘って、どういう事だ?」
びくっとうなだれる彼女らに目をやりつつも、キリュウの言葉が気になる太助。
近くにキリュウを座らせて、彼女の言葉を待った。
「ずっと前にも言ったかもしれないが、
ヨウメイ殿はそういう事に関しては必ず何らかの反応を表わす。
しかしだ、親友である花織殿達に不満を出すような事はまずしないはずだ。
もししたとしても、花織殿達がこうやって言いに来る前に自分から言うだろう。
“主様、講義をさせてください”みたいな感じで。ヨウメイ殿はそういう人物だ。」
「でもキリュウさん。」
「やっぱり普段の楊ちゃんを見てたら・・・。」
「明らかにストレスためてますよお。」
キリュウの言う事も最もだと思ったらしいが、三人は反論した。
やはり傍にいる時間が多いためか、それなりにヨウメイの行動が目に見えたのだろう。
とそこで、纏める意味で太助が告げた。
「分かった。要は俺が講義を受けりゃ良いんだろ。
これからはなるべく沢山受ける様にするから。約束する。」
きっちりとしたその瞳に、花織達の顔がほころぶ。
「良かったあ!さすが七梨先輩!」
「よーし、それじゃあ楊ちゃんとこ行ってこよう。」
「二階にいますよね?それじゃあ!」
わいのわいのと騒ぎながら、三人はその場を立ち去っていった。
去り際にキリュウが確認しようとすると、彼女達は当然のごとく頷いた。
“今回の事は楊ちゃんに喋りません”と。
静かに成った所で、太助が“ふう”とため息をつく。
「なあキリュウ、ヨウメイって結構神経質なのかな。」
「昔に比べれば随分柔らかくなったぞ。今の状態になっていれば・・・
まず間違い無く空天書に帰っていただろうな。」
「え・・・それ本当?」
「ああ。教える事が役目だが、教えてもらう事を主が拒めば帰らざるを得ないからな。」
「そういえばそうだよな・・・。けど、今の状態でも結構俺は教えてもらってると思うんだけど?」
「わざわざ講義の時間を設けているからな。ま、もう少しなんでも聞いてみたらどうだ?
ヨウメイ殿にとって、何でも教えられれば良いのだから。」
「夕飯のメニュー訊いたら怒るんだぜ?」
「シャオ殿が作ってる隣でそんな事を聞かれたら私だって怒る。」
「あ、いや、そういう事もあったけど・・・。」
「ともかく、もう少し尋ねるなり講義を受けるなりしてくれ。
私も憂さ晴らしの対象に入っているのでな。」
「・・・わかった。」
さりげなくキリュウもお願いをしている。
“キリュウの場合はまた違う原因もあるのでは・・・”と、密かに思った太助であった。

<心から>


♪第百三十一ページ『夜の魂』

ひゅおおおお・・・
気がついたときには、私は何故か空を飛んでいました。
両手を広げて大の字になって、大地を見下ろして。
かなりのスピードで、冷たい風が顔に当たります。
「気持ちいい・・・。」
なんの疑いもなく、私は空を飛びつづけました。飛翔球を使っていない事も気に止めず・・・。
ちなみに自分の周りは真っ暗。
天には沢山の星々が輝き、大地には人々の町の明かりで輝いています。
「綺麗・・・。」
うっとりとしてそれらに見入ります。
そしてそのままずうっと空を飛んで・・・。
「・・・ん・・・ありゃ?」
次に気がついたときには、私は布団の中にいました。どうやら夢だったようです。
「なんだあ、夢かあ。空を飛んでる夢・・・。
さてと、そろそろ起きようかな。」
ひとつあくびをして辺りを見まわすと、そこは地面の上でした。
しかも、見た事も無い場所です。
「・・・嘘ぉ?」
我が目を疑ってしまいました。
すぐ近くにキリュウさんも寝ていないし、何より鶴ヶ丘町じゃない・・・。
「は、はは・・・。・・・早く帰らなくっちゃ!!」
布団を丁寧にたたみ、幸運にも抱えていた統天書に万象封鎖。
そして飛翔球を取り出して空へ繰り出しました。
これは一体どういうこと・・・?

<・・・>


♪第百三十二ページ『君は海を見たか』

「主様!」
「なんだ、ヨウメイ。」
「海を見たくありませんか?」
「へ?唐突にどうしたんだ?」
「海は良いですよお。見ているだけで嫌な事を全て洗い流してくれて、
そして・・・とっても心が強くなれるんです!!」
「そりゃまあ、海は広いしなあ。」
「よし決定!!というわけで海を呼びますね。」
「は?」
「洪水引き起こせばすぐです!じゃあさっそく来れ・・・」
「待て!!」
「はい?」
「はい?じゃないだろ。海を見るなら、直接海に行こうよ。
それに、洪水なんか引き起こして作った海なんてまがい物じゃないか。」
「よくぞ気付きました。そもそも海というのは・・・。」
と、ヨウメイの講義が始まる。
まんまとそれに乗せられてしまった太助であった。

<広い〜な>


♪第百三十三ページ『危機』

きーんこーんかーんこーん
昼休みを継げるチャイムが学校中に鳴り響く。
弁当持ちでない生徒達はいっせいに購買部へなだれ込む。
いつもいつも大変な作業に終われる出雲だったが、その手伝いとしてヨウメイがかってでた。
出雲を真似て作業を行う。つまり・・・。
「はい、貴方は可愛いですからこのパンを差し上げましょう。」
「まあ、ありがとうございます。」
と、女子生徒に無料でパンを配る出雲。
「はい、貴方はかっこいいですからこのパンを差し上げましょう。」
「うわあ、ありがとう。」
と、男子生徒に無料でパンを配るヨウメイ。
そんなこんなで、昼休みが終わる頃にはパンはすっかりなくなっていた。
当然の事ながら売上ゼロである。
「ヨウメイさん、貴方って人は・・・。」
「え?最初に私が聞いたでしょう?“どうやって手伝えば良いんですか?”って。
そしたら宮内さんは“私がやってるのを見て、それを真似てくれれば良いですよ”
って言ったじゃないですか。」
「だからって男子生徒に無料で配って良いはずがないでしょう!」
「それじゃあ女子生徒に無料で配って良いはずがないじゃないですか!」
怒りつつも出雲は後悔していた。もうちょっときちんと言うべきだった・・・と。
とにかくこのままだと購買部の売上は落ちる一方となるので、
ヨウメイはその日限りで手伝いを止めたそうである。
「たく、楊ちゃんたら・・・。」
「いいじゃない熱美ちゃん。結構楽しめたし♪」
「そういう事を言ってるんじゃないんだけど・・・。」

<ピンチ!>


♪第百三十四ページ『嵐の孤児』

「はいどうぞ。」
「あっ、ありがとうございます。」
すっと差し出されたお茶にぺこりとヨウメイがお辞儀する。
ここはたかしの家。彼女は一人でここに訪ねて来たのであった。
「で、俺に何の用事?」
「ちょっとお話を聞いてもらおうかと。」
「なんで学校とかで言わないの?」
「野村さん一人に話さないとあんまり意味が無いような気がして・・・。」
少しばかり真剣な表情のヨウメイに、たかしは不思議そうな顔をする。
お得意の教授でもないようなので、少し面食らっているのであった。
「それではお話しますね。私の昔の主様についてです。」
「昔の?」
「ええ、今から・・・まあかなり前です。
その主様は何物をも拒む感じの方でした。私が出てきた時何と言ったと思います?」
「うーんと・・・空天書に帰れ、かな?」
するとヨウメイは首を横に振った。
「違います。何故お前は出てきたんだ?って。
そして私は言ったんです。心清い方に知識を教えるのが私の役目。
この空天書の文字を統天書と読んだ方に・・・と。」
「ふんふん。」
「その次、その主様は何と言ったと思います?」
「・・・だから、そこで空天書に帰れ、と言ったんじゃないの?」
するとヨウメイはまたもや首を横に振った。
「それがそうじゃないんです。教えてもらってもいいが、付いてくるな、って。」
「へ?」
「つまり、帰れとも言わず、ただしそばにいることもできず・・・ということなんです。」
「・・・・・・。」
複雑そうな顔をしながら、ヨウメイは一度つばを飲みこんで続けた。
「その時、私は空天書に帰りました、自分の意思で。
・・・野村さん、私はどうするべきだったと思いますか?」
「え?なんで俺にそんな事を?」
「野村さんなら、その人の言ってる意味がわかるんじゃないかって・・・。」
「・・・以前、知識を教えるのに無理強いはできないっていってたよね?」
「ええ。」
「だったら・・・やっぱり帰って良かったんじゃないかな?」
「何故ですか?」
「その人は知識を教えてもらいたかったのかもしれない。
でも、自分みたいな孤独な人間一人に付きっきりにさせるよりも、
もっと別な人に教えて欲しい、と思ったんじゃないのかな。」
「でも、だとしたら無理に付いて行った方が良かったのでは・・・。」
今だ不安げなヨウメイの言葉に、今度はたかしが首を振った。
「もとから人を寄せ付けないタイプのやつなら、付いて行くだけそれは無駄さ。
だからヨウメイちゃんの選択は正しかったと思うよ。」
「そうですか・・・。ありがとうございます。」
たかしは中途半端なような気がしたのだが、ヨウメイが納得したようなのでうんうんと頷いた。
しかし、逆に聞きたいことがあるのか身を乗り出す。
「ヨウメイちゃん、二つ質問がある。主になったのはほんの少しの間だったのに、
その人についてなんでそこまで知れたのか、って事と、
どうやって空天書が次の主へ渡ったかって事を。」
「一つ目の答えは、最後のその主様の言葉を聞いた時に統天書で主様の事全てを調べたからです。
二つ目の答えは、やはり気になったその主様がちゃんとどこかへ送ってくれたのでしょうね。
統天書にそう記述されてますから・・・。」
「へえ・・・。あ、もうひとつ。何で俺にこの話を?太助でも良かったんじゃないの?」
「いえいえ、これは野村さんじゃないとダメなんです。“熱き魂!”なんていう人じゃないとね。」
「そ、そうなの・・・。」
最後の意図が良く分からなかったたかしだが、心の中では少し得意になってたりしたのだった。

<ひゅん>