第百七十一ページ『ごっこ遊び(ぱーと3)』

リビングにて、四人の精霊が煎餅をかじり、お茶を啜りながらくつろいでいる。
特に何もする事の無い日、なのである。と、相変わらず統天書を見ているヨウメイがふと顔を上げた。
「キリュウさん、シャオリンさん、ルーアンさん、ちょっとお遊びをやりませんか?」
「・・・ろくでも無いものならすぐに行動に出るからな。」
「やだなあ、そんな恐い顔しなくても。一番最初にキリュウさんがこの家に来た時の事をやりたいなって。」
「私が?」
不意のヨウメイの提案に、キリュウだけでなくシャオもルーアンも注目。
“えへへ”と照れ笑いを浮かべながら、ヨウメイはパタンと統天書を閉じた。
「キリュウさんが最初に来た時、自己紹介等をやりましたよね?」
「ああ。」
「丁度メンバーは、私じゃなくって主様っていう今の状態で。」
「言われてみれば・・・。」
「だからそれを、私が主様になったつもりで再現演技したいなって。」
「なるほど・・・。」
一見意味不明な事にも見えるが、過去の体験していない事を実際に演じたいというのは、
なかなかに興味深いものであろう。そしてキリュウはそれを了承した。
シャオとルーアンも、同じくそれぞれ頷いた。
「ありがとうございます。あ、でも喋り方は変えないで行きますからね。」
呼び方も別に変えないでいいですから。では・・・前略しまして・・・。
“追伸、おまけの扇は心の清いものだけが開ける不思議な扇だそうだ”」
太郎助の手紙部分であろう。そうすると、ヨウメイはがたっと立ちあがった。
「ちょこんと書かないでくださいちょこんとー!!
普通こっちが本題でしょーが!!」
なかなかの迫真の演技である。感心しながらも、ルーアンが次なる台詞を喋る。
「いやん、おとー様ったらお茶目さん♪」
多少違うのはいたしかたない。そしてキリュウがすかさず・・・。
「ヨウメイ殿。試練だ、素直に受け入れられよ。」
それをきいてヨウメイは“はあ”とため息をつく。そしてソファーに座った。
「まあいいです。こーなれば二人も三人も変わらないですし。
とりあえずもうちょっと自己紹介を・・・。」
尋ねるヨウメイ。するとキリュウは下を向いて、
「試練だ、自分で調べられよ。」
と、返す。“え”となるヨウメイ。それを助ける様にシャオが横から告げた。
「キリュウさん・・・。」
多少困ったような顔。と、そこでヨウメイは何故かにこりと笑った。
「わかりました、自分で調べますね♪」
過去には太助が言わなかった台詞である。
驚いて三人がヨウメイを見た時には、既に彼女は統天書をめくり始めていた。
「あの、ヨウメイさん・・・。」
「だって、調べられよと言われたからには調べないと。」
「はあ、そうですねえ・・・。」
不思議と納得してしまったシャオ。そこで、ルーアンはぴんときたのか、ふうとため息をついた。
「あんたねえ、それがやりたかったの?」
「何がですか?」
「だからあ、調べられよと言われて調べるって事よ。」
「あははは。私だったらそうするな〜って。あ、あったあった。
えーと、キリュウさんのスリーサイズは・・・」
「万象大乱!」
どごっ!!
「ふがっ!」
キリュウの提唱により、コーヒーカップが巨大化。
過去の太助と同じ情けない声を、ヨウメイは上げてのけぞった。
「試練だ、耐えられよ。」
「う、ぐ・・・さすが万難地天、容赦無いですね・・・。」
妨害される事はある程度予測していたのだろうが、やはりヨウメイは辛そうだ。
そしてそんな彼女を見ているシャオの顔も、以前の太助と同じく心配そう。
またルーアンも、前回とは別の意味で唖然としていた。
「そ、そうですかあ。これがキリュウさんの能力なんですかあ・・・。」
負けじとばかりに再現の続きを行おうとするヨウメイ。
そうして、無事に再現は始まり、ひと区切りつくまでそれは続けられたのだった。

<完〜>


第百七十二ページ『ど忘れ』

今日もヨウメイ曰く楽しい講義の時間がやってきた。
太助が一週間にいくらかの時間を設けているのである。
「それでは主様、知識をばしっと教えましょう!」
「ああ。で、今日は何を教えてくれる?」
「それはですねえ!えーっとぉ・・・。」
張り切っていた笑顔がなにやら曇った顔になる。
出鼻をくじかれてしまった太助はもう一度尋ねてみた。
「あの、何を教えてくれるんだ?」
「あ、えーと、その・・・そう!地底人になる方法!・・・じゃなくて・・・。」
「頼むから変な物は教えないでくれよ。」
「やだなあ、冗談ですよ、冗談。」
笑って誤魔化しているヨウメイだが、明らかに焦っている。
慌て気味に統天書をめくっている姿は正にそんな感じだ。
「・・・もしかして教える内容を忘れたのか?」
「うっ・・・はい。・・・ぐすん、私って知教空天失格ですね・・・。」
図星をさされて涙ぐむヨウメイ。最初にはしゃいでいただけに相当辛そうだ。
やれやれとため息をつきながらも、太助は優しく話し始める。
「誰だって忘れる事くらいあるさ。そう気にするなって。
今すぐ見付からないとか思い出せないなら、また別な時間をとりゃいいだろ。」
「でも、試練とかもありますし・・・。」
「他にも出来そうな時間があるだろ。今度探しておくからさ。」
「ありがとうございます。」
静かに統天書を閉じて丁寧にお辞儀をするヨウメイ。
今日の講義は仕方なく中止ということになったのだ。
そして太助が見付けた時間とは・・・通学途中だったりである。

<あ、あれっ・・・?>


第百七十三ページ『購買で』

購買部。文房具や昼食用のパンなど、様々なものが売られている場所である。
鶴ヶ丘中学校ないのそこで売り子をしているのは・・・
「いずピーさん。」
「がくっ・・・。な、なんだヨウメイさんですか。いずピーさんはやめてください。」
「消しゴムを一個戴きたいのですが。」
「ああ、ちょっとお待ち下さい。」
品物が並べられていなかったのか、もしくは売り切れていたのか、消しゴムはそこには無かった。
ごそごそと消しゴムが入った箱を開封する出雲。
「そういえばめずらしく今日はお一人なんですか?」
「ええ、消しゴム一個程度のお買い物だったもので。」
「なるほどねえ・・・。はいどうぞ。」
「いずピーさん、おいくらですか?」
品物を手渡そうとして、尋ねられた質問に出雲はがくっとなった。
「あ、あのう、いずピーさんはやめていただきたいのですが・・・。」
「おいくらですか?いずピーさん、私急ぐんです。」
「人の話きいてませんね・・・。」
「聞いていないのはいずピーさん、あなたでしょう?私は“いくらですか?”と聞いているのに。」
結果的にはどっちもどっちといった感じだ。
譲らない態度のヨウメイに、出雲は諦めた様に値段を告げる。
「五十円です。」
「分かりました。えーっと・・・十円玉五枚でもいいですか?いずピーさん。」
「・・・ええ、全然構いません。」
既に呼び方などどうでも良くなったようだ。
答えを聞いたヨウメイは、それでも申し訳なさそうに代金を払い、品物を受け取る。
「ではいずピーさん、ありがとうございました。」
「いえいえ。」
お辞儀をして去って行く彼女の後ろ姿を見ながら、いそいそと作業に戻る出雲。
その顔には疲労の汗が濃く浮かんでいたのは言うまでも無い。

<いっずピ〜♪>


第百七十四ページ『とある授業風景(4)』

地理の授業。花織のクラスでは国名と首都名を覚えるものが成されていた。
「ではこの国の名称と首都名を・・・愛原さん。」
「はいっ!中華人民共和国!首都は北京です!!」
「そうです、良くできました。たしか知教空天さんの故郷でもありますよね。」
授業を行っていた先生がふと話題を持ち出す。
それで注目されたヨウメイは・・・寝ていた。
「ぐー。」
「・・・知教空天さん。」
「ぐー・・・んぐぅ、セントクリストファーネイビスの首都はバセテールですってばあ・・・ぐー・・・。」
寝言で国名と首都名を告げている。状態は良くないが授業的にはよろしいかもしれない。
「ちょっと楊ちゃん、寝てちゃ駄目だってば。」
「ん・・・きゃはははは!違うよ、日本の首都は沖ノ鳥島じゃ無いです!ぐー・・・・。」
「・・・・・・・。」
一体何の夢を見ているのだろうか。
随分と楽しそうではあるが、具体的に知るのは恐い気もする。と、熱美達は感じた。
「すいません先生。楊ちゃんこのところ疲れてるのかもしれません。」
「そ、そうですか。では無理に起こさずに・・・」
「何遍言ったらわかるんですか!キリキリ国なんてのは無いんです!!ぐー・・・。」
今度は叫び声だ。さすがに耐えられなくなったのか、社会の先生はため息をついた。
「やはり無理にでも起こしてください。」
「は、はい・・・って、わたしが?」
頷いたもののとんでもない役を引きうける羽目となった熱美は思わず聞き返す。
これにはクラス中が頷き、彼女はしぶしぶながらも寝息を立てる親友を起こすのだった。

<To Be ConTinueD>


第百七十五ページ『投げろ!』

「えいっ!」
ひゅ〜ん・・・すとっ
ヨウメイが石を投げたのである。しかしそれは的まで到達することなく、手前で落ちたのだ。
「ヨウメイ・・・ほんっと力無いなあ。」
「そう言われましても・・・。」
「野村の試練にならないだろ〜が。」
今翔子が、試練だという事にしてそれを行っているのである。
「おい山野辺!この縄を解けよ!!」
「あのなあ、この程度どうって事無いだろ?超非力なヨウメイが投げる石を受けるだけじゃないか。」
「受けるんじゃなくて当てられるって言うんだよこれは!!」
「熱き魂に不可能は無いんだろ?だったらそれくらいは平気なはずだ。
しっかしヨウメイがこれじゃあなあ・・・。」
そう。木に縛り付けられたたかしを的に、ヨウメイが狙って石を投げているのだ。
しかし結果は思わしくなく、一球たりともたかしまで届いていない。
「うう、なんか嫌になってきた・・・。」
「頑張れヨウメイ。立派になって愛原達に自慢してやろうぜ?」
「俺の立場はいったいどうなるんだよー!!!」
結局は一球も命中しなかった、いや届かなかった。
単に投げる位置が悪すぎたのだろうと翔子は思っていたが、ヨウメイはそうではなかった。
「あれじゃあちょっとやる気が・・・。」

<ひゅ〜・・・>


第百七十六ページ『ばつげえむ』

ある朝の事だ。いつもの通り朝食をとっていた七梨家の者達。
と、太助が聞きたい事があるのか、食べる手を止めた。
「なあキリュウ、今日の試練は何をするんだ?」
するとキリュウは、真っ直ぐに向いて答えた。
「試練だ、耐えられよ。」
「いや、だから何をするのさ。」
「試練だ、耐えられよ。」
「・・・なるほど、自分で考えろって事だな、よし!」
何か分かった様な顔になり、太助は再びご飯を食べ始めた。
しかし、キリュウの行動を不信に思ったのか、今度は那奈が手を止める。
「なんで“試練だ、考えられよ”じゃないのさ。」
「試練だ、耐えられよ。」
「だから何に耐えるんだよ。」
「試練だ、耐えられよ。」
「・・・・・・。」
がんとして譲らないキリュウに、那奈は諦めて食事を再開した。
この一連の状況にも構わず、シャオはといえばにこにこしている。
「キリュウさん、何かいい事を思いついたのですか?」
「試練だ、耐えられよ。」
「あ、ところで、朝食は美味しいですか?」
「試練だ、耐えられよ。」
「・・・すいません、美味しく無いんですね。」
「試練だ、耐えられよ。」
「キリュウさん・・・。」
さすがにシャオも悲しげな表情になった。
それにつられてか、キリュウ自身も何やら困った表情になる。
と、最初からずっとがつがつ食べていたルーアンはふいっと手を止めた。
「ヨウメイ、あんた何かしたんでしょ。」
すると、ルーアンと同じくではないがずっと食べていたヨウメイも手を止める。
「別に何も。ね、キリュウさん?」
「試練だ、耐えられよ。」
「わかりました、耐えます。」
一言尋ねただけで、ヨウメイは再び食事に戻った。
だが、キリュウの顔はかなりひきつっている。
彼女の返事の様相は一日中続き、学校でもかなり不思議がられていた様だ。

<試練だ、耐えられよ>


第百七十七ページ『必勝法』

「野村さん、喧嘩で勝負をしましょう。」
「あのなあ。俺がヨウメイちゃんに勝てる訳無いだろ?」
「必勝法を御教えします。私は統天書を奪われるとほぼ無力です。だから・・・」
「そうか!先に統天書を奪えばいいんだな!よっし、その勝負受けた!!」
「では遠藤さん、審判お願いします。」
ちゃっかりヨウメイが連れて来ていたのか、傍には乎一郎が待機中だ。
「たかしくん、やめといた方がいいって。」
「何を言う。さあ、早く!」
言いながら、たかしとヨウメイの二人は距離を置いて位置についた。
「どうなっても知らないよ・・・始め!」
上げていた手をさっと下ろしての合図を出す乎一郎。
それと同時にたかしはヨウメイに向かってダッシュしだした。
「うおおお!!!」
と、ヨウメイの持つ統天書に彼の手が届く寸前で、彼女は叫んだ。
「来れ、強風!」
びゅごおおお!!
強烈な風がたかしを襲う。それに吹き飛ばされて・・・
どがっ!
「ぐおっ!?」
壁に激しく激突。そして床に崩れ落ちた。それを見て、ヨウメイは開いていた統天書を閉じる。
「ヨウメイちゃんの勝ち・・・。やっぱりずるいって。」
「何がずるいんですか。最初に必勝法を言ったけど実行できなかったのは野村さんですよ。」
「でもなあ・・・。普通無理じゃないの?統天書を奪うなんて。」
「でも、それが喧嘩においての私に対する必勝法です。それは事実。
野村さんにはそれを行うだけの実力がなかっただけの事です。」
「うーん・・・。」
「というかねえ・・・。絶対に断ると思ってフッかけた喧嘩なのに・・・。」
「それはたしかに言えてるけどね。」
苦笑している乎一郎を横目に、ヨウメイはたかしの治療を行う。
そして、今回の出来事は幕を閉じた。

<うりゃっ!>


第百七十八ページ『バトル!(楊明VS花織)』

放課後の校庭。既に皆は帰った後なのか、誰もいない。
そんな場所に、花織達四人はいた。
「さあて、楊ちゃん。手加減しないからね。」
「もっちろん。望むところだよ!」
目線を合わせて、火花を散らしている花織と楊明。
そして傍には絨毯となっている飛翔球。それに座って乗っているのが、熱美とゆかりんである。
二人とも、凄く嫌そうな、ダルそうな、虚ろな目をしていた。
「じゃああたしからね。」
「二人とも、しっかり審判してよ。」
花織が飛翔球に乗って、楊明は乗らずに熱美とゆかりんを促す。
二人は嫌々ながらもこくりと頷いた。
「じゃあ、出発!!」
ふわっと飛翔球が浮き上がる。そして勢いよく校庭の上空を飛び出した。
「「ひ、ひええええ!!」」
花織の運転のもと、他の二人の悲鳴が上がる。相当素早い、いや、激しい運転なのだろう。
何周かした後、飛翔球は元の位置に戻って来た。
「終わりっと。次は楊ちゃんだよ。」
「さすが花織ちゃん、なかなかやるねえ・・・。」
感心にも似た呟きをしながら、花織と入れ違いに楊明が飛翔球に乗りこむ。
そして、飛翔球は再び校庭上空へと滑り出した。
「「きゃああああ!!!」」
先ほどと同じく悲鳴が上がる。運転のほどは、似た様なものだ。
同じく何周かした後に、飛翔球は元の位置へと戻ってきた。
「楊ちゃんもやるじゃない。さすが持ち主ね。」
「当然!さて、後は二人の審判を待つだけ・・・。」
花織と楊明は言葉を交わし、そして飛翔球に乗ったままの二人を見やる。
しかし、審判だとかいう言葉は無く、問題の二人はぐったりしたまま呟きあっていた。
「ねえゆかりん。」
「なに。」
「なんでわたしたちがこんな目に?」
「こっちが聞きたいよ・・・。」
「飛翔球の操作の腕比べなんて・・・。」
「あたしたちが無理に見なくたって・・・。」
「「二人とも!」」
しびれを切らしたのか花織と楊明が呼びかける。
びくっとなった熱美とゆかりんは、慌てて顔をそちらに向けた。
「審判はどうしたのよ。」
「花織ちゃんと私、どっちがぐれいとだった?」
「「・・・・・・。」」
一瞬二人は言葉に詰まった。どっちもどっちだと言いたかったのだが、
そんな事を言えば再び悪夢の様な運転に付き合わされるのがオチだろう。
だが、しばらく黙っていたのもいけなかった。
“はあ”とため息をついた花織と楊明が、もう一度運転をやると言い出したのだから。
数刻の後・・・
へとへとになった熱美とゆかりんの状態により、引き分けという形でその日は落ち着いた。
だが、後日機会があればまたやるらしい。
「「今度こそ決着つけるからね!」」
燃えている花織と楊明をよそに、熱美とゆかりんの心中はおだやかではなかった。
「うう、もういいかげんにして・・・。」
「あたし、次回は仮病使ってやろうかしら・・・。」

<DRAW?>


第百七十九ページ『訪ねてみれば・・・』

ぴんぽ〜ん
七梨家の呼び鈴が鳴る。
「はーい、どちら様ですか〜?」
玄関のドアをシャオが開ける。と、そこに居たのは見知らぬ女性であった。
チェック柄の服。そして同じ柄の帽子の隙間から金色の髪をのぞかせている。
「こんにちは。私は近澤愛奈と申します。ヨウメイさんに会う為にここにやって来ました。」
「そうなんですか。でも、今はヨウメイさんはいらっしゃいませんが・・・。」
「知っています。先ほど出て行った女性がそう言ってました。」
「那奈さんが・・・。あ、遅れてごめんなさい。私はシャオといいます。」
「あなたが?」
名前を聞き、愛奈は改めてシャオをまじまじと見つめる。
すると、初対面ながらも彼女はどこかで会った様な気がした。
だが、どことなく知り合いと似ているだけだった様で、すぐに首を横に振った。
「あの?」
「ああ、すいません、こっちの事です。とりあえず中で待たせていただけないでしょうか。」
真っ直ぐな瞳で要件を告げる。
するとシャオは、にこりと笑って快くそれを承諾した。
「ええ。それでは中へどうぞ。」
「お邪魔します。」
ぺこりとお辞儀をし、愛奈が中へ入っていこうとすると・・・
ピリリリリ!
彼女の持つ携帯が鳴り出した。“ふう”とため息をついた愛奈だったが、
それと同時にシャオが家の中へ慌てて駆け出した。
何事かと愛奈が見ていると、シャオは家の中の受話器をさっととる。
「もしもし。」
どうやら、鳴った電話を勘違いした様だ。
当然音は止むはずもない。電話自身が違うのだから。
「もしもし、もしもし、あら?」
「あのう、今鳴っているのは私の携帯ですので。失礼します。」
「え?そうなんですか?」
シャオが受話器を持ったまま振り向くと同時に、愛奈は家に背を向けて電話に出た。
「もしもし・・・なんだ、またあなたですか。
え?ふむふむ、それはそれは・・・っていつの情報言ってるんですか。
だから、もうそれは済んだんです!私はこれから・・・あ、切れた!!
話の途中で切るなんて最低・・・。」
不機嫌そうに呟くと、愛奈は懐へと電話をしまった。
それと同じ様に、シャオも持っていた受話器を元あった位置へと戻す。
「ごめんなさい、ごたごたして。」
「い、いいえ。えと、それじゃあどうぞ。リビングへ御案内しますわ。」
「では改めてお邪魔します。」
再度礼をして、愛奈は七梨家に足を踏み入れた。
そして、この家の客がまず最初に招かれる、リビングへと向かうのだった。

<お邪魔します〜>


第百八十ページ『小と大』

「シャオリンさん、とってもいいものを見せましょう。」
「まあ、なんですか?ヨウメイさん。」
ヨウメイの言葉に興味津々のシャオ。
と、ヨウメイは二つの豆を取り出した。
「これは?」
「小豆と大豆です。」
「なるほど。・・・なんだか大きさが違うような?」
「そうです。これは、小豆より小さい大豆と、大豆より大きい小豆なんです!!」
「まあ!!それはすごくいいものですね!!」
「でしょうでしょう!?」
二人してわいのわいのと騒ぐ。
それを陰からちらりと覗いていたのは那奈、そしてキリュウ。
「なあキリュウ、あれってあんたが大きさを変えたのか?」
「・・・ああ。」
「くっだらない事だけど楽しそうだよな、なんか。」
「ヨウメイ殿は世紀の実験だとか言っていた。まったく・・・。」
呆れているキリュウの肩を“まあまあ”と那奈が叩く。
ただ、ヨウメイが二つの豆を見せたのはシャオだけだった様だ。

<大と小>


第百八十一ページ『儲けよう』

「ねえヨウメイ、お金儲けのいい案を思いついたんだけど。」
「ルーアンさんのそういうのはあんまり良いものじゃ無いと記憶してるので却下です。」
「何よ、内容を聞きもしないで。」
するとヨウメイは手のひらをルーアンの方へすっと向け、統天書をめくりはじめる。
それはほんの数秒で終わり、パタンと閉じられる書物。
「やはり却下です。怪我人を治療して儲けようだなんて・・・。」
「なんでよ。」
「私がすぐに眠ってしまうでしょう!?万象復元はそれだけ大変なんですよ!」
「でもしばらくすれば起きるでしょうに。」
「冗談じゃ無いです。他に色々やる事があるのに。」
「お金が溜まればおやつ買い放題よ。」
「そんなものは必要ありません。」
「ええー!?なんでよー!」
「キリュウさんに大きくしてもらえばいい事ですもん。」
「あ、そうか・・・。」
「だから金儲けは必要無いです。」
「なるほど、うちにはいい金づるがいるって訳ね。」
「いや、そういう意味では・・・。」

<人を金儲けの道具にするな!>


第百八十二ページ『単純明解』

「熱美ちゃん、いい物をプレゼントしようか。」
「なに?」
「じゃーん!統天書のコピー!!」
「え、ええっ!!?」
ヨウメイが得意げに取り出したそれは、たしかに統天書そっくりであった。
ただ、ちょっと外見が違ってて・・・。
「かなり分厚いね。」
「まあコピーだからね。」
熱美に手渡されたそれの厚さは、電話帳や広辞苑の比ではない。
それこそ、世界で最も分厚い本だと言っても差し障りがないほどであった。
「うーん、これはちょっと使いにくいなあ。」
「持ち歩かなくても、家にでも置いておけばいいよ。」
「そうかあ。でも、なんでこんなに分厚いの?」
「それはね・・・。」
ぱらっとヨウメイが統天書を一枚めくる。するとそこにはおっきな文字が一つ書かれていた。
「・・・何これ?」
「見て分かるでしょ。一ページに一文字しか書かれてないの。
単純明解!!これで統天書のコピーが分厚いのも頷けるよね。」
「・・・・・・・。」
にこにこと解説してるヨウメイであったが、熱美の顔は険しい。
と、立ち上がったかと思うとその本を手に抱え・・・
バシバシバシバシ
「い、いたいいたい!熱美ちゃんやめてってば!」
「期待してたのに・・・楊ちゃんのバカー!!」
「い、いたいいたいいたいいたいってばー!!」
「絶対許さないんだからー!!」
たまらず教室内を逃げ出したヨウメイ。そしてそれを、
目に少しの涙を浮かべながら、統天書のコピーを降りまわしながら熱美が追いかける。
結局このコピーは、本物の統天書内へ万象封鎖される事となってしまった。

<あ>


第百八十三ページ『ことわざでGO!(一)』

「主様、私が教える知識は様々ですが・・・何故世界構成だとかを教えてると思いますか?」
「そりゃあ、自分が住んでる世界だから知っておいた方がいいって事じゃ?」
「いえ、そういう事ではないのです。ことわざにこういうのがありまして・・・

☆管をもって天をうかがう:
人は、自分の知っていることだけが世の中のすべてだと思いやすい。
それで自分の知識の狭い事は忘れて、その狭い知識をもとにして、
大きな問題に突いても自分勝手な判断を下す。

つまり!間違った判断を下させない為でもあるのです!」
「・・・あのさあ、普段判断下すどうこうに世界構成って関わってこないんじゃ?」
「ほらあ!今そんな判断してるじゃないですか!
いいですか、世界構成を知る事によって・・・。」
「う、うん・・・。」
これは、ヨウメイが言わんとしていること、そして知識についてよく分かる講義であった。
ただ、現段階の太助にとって、多少難しい事だったみたいである。

<次は二>


第百八十四ページ『もしもその壱』

もしも更に精霊(五人目)がやってきたら・・・。
「主様、その方はどこで寝ればいいと思いますか?」
「いや、別にうちに来るとは限らないし。」
「何をおっしゃる。来たらどうするかってことですから。」
「そうか・・・。うーん、これ以上部屋なんて無いよなあ・・・。」
腕組をして真剣に考えこむ太助。
男性ならば太助の部屋で寝れば問題なく事が済む。
しかし女性ならば・・・もう部屋が無くなるのだ。
「シャオと一緒に寝てもらうしかないかなあ。」
「そういう事になりますね。主様が。」
「へ?」
「だからあ、五人目の方はシャオリンさんのお部屋で寝てもらって、
シャオリンさんには主様と一緒に寝てもらえばいいんですよ。」
「ちょっと待て!なんでそうなる?」
「常識です。ね、那奈さん。」
「そういう事だ。」
「!!那奈姉、いつの間に・・・。それよりもなんでそういう案になるんだよ!!」
「サービスだ、なあヨウメイ。」
「そうですね。」
「こらー!!」

<もしも…>


第百八十五ページ『もしもその弐』

もしもキリュウに好きな人が出来たら・・・。
「私は間違いなく応援します。だから期待してください♪」
「いきなり何を言い出すかと思ったら・・・。頼むから余計な事はしないでくれ。
それ以前に、私がそんな状況になる事があるのか?」
「めんくいで照れ屋なキリュウさんでも、バッチリですってば。」
「何を訳の分からない事を言っている。私はそんなではない!」
「冗談ですよ、冗談。第一私は恋愛には詳しく無いので・・・。」
「そういえば以前そんな事を言っていたな。」
「ですから、せめて“遊ぶ”とか“からかう”のに全力投球で行きます。」
「だからそういうのはやめてくれ!!」
顔を真っ赤にして怒るキリュウに対しても、ヨウメイはカラカラと笑うだけ。
既に遊ばれているという事実に、キリュウはまだ気付いていない・・・。

<もしも……>


第百八十六ページ『違法』

図書室。ゆかりんとヨウメイは本を読むためにここに来ていた。
いや、それはゆかりんで、ヨウメイはただの付き添いといったところか。
何故なら、本を選び出すゆかりんに構わず、ヨウメイは適当に座って統天書を読み出したのだから。
読みたい本を見つけ、それを手に抱えてゆかりんが席にやって来る。
その顔は少々呆れ気味であった。
「楊ちゃんってば、いつもそれしか読んで無いんじゃない?」
するとヨウメイは顔も上げずにそのまま答えた。
「どうせ他の本の内容はこれに載ってるもの。
それに、この部屋にある本のすべてのリストだってここにあるしね。」
「へええ、なるほどねえ・・・。」
結局は素直に答えただけ。そして二人一緒に本を読み出す。
と、数分の後にゆかりんの様子が変になった。
読んでいた本のページを夢中でめくっていたかと思うと、カバー裏をみてがっくりする。
その後にまた読み出したかと思うと、再びカバー裏を見てがっくり。
そんな彼女の様子に気付いたヨウメイは、統天書を読む手を止めて顔を上げた。
「どうしたの?」
「え?」
「ゆかりん、さっきから様子が変じゃない。」
「うん、あのね。この本がね・・・。」
とつとつと訳を話すゆかりん。
非常に気に入ったこの本、なんとしてでも家で読みたくなった。
しかしこれには“貸し出し禁止”の印がついている。つまりは持ち出せないのだ。
「かといってここで読むには時間がかかりすぎるしねえ・・・。」
本の厚さは下手な辞典より凄いもの。しかも中に書かれてある字は相当小さかった。
「ふうむ・・・コピーしようか?」
「コピー?駄目駄目。ここにはコピーするための・・・」
「だから統天書でコピー、だよ。えーと・・・
幻鏡よ、彼の物と同じ物を作り出せ・・・幻日複製!」
短いながらもヨウメイが念じたその後には、
ゆかりんが持っていた本とまったく同じ物がそこにあった。
「なるほど・・・。」
「でしょ?統天書を貸すわけにもいかないからね。ほい。」
出来あがった複製をゆかりんに手渡すヨウメイ。
これで彼女の手元には同じ本が二冊そろったわけだ。
「でも、これって違法じゃないの?」
「当然。」
「・・・・・・。」
あっさりと答えたヨウメイに、ゆかりんは非常に複雑な表情になる。
だが、ちゃっかりと“違法にならない方法”を教えてもらって、
複製を持ったまま図書室を後にしたのだった。

<シャットダウン>


第百八十七ページ『すぐわかる?』

「あーら、こんなところに美味しそうなお饅頭ちゃんがあるじゃないのーん。
きっとあたしに食べられるためにここにあったのね。じゃあいっただきまーす。」
キッチンを物色していたルーアンは、テーブルにおかれてあったそれをぱくっと口に入れた。
とその時、
ガチャリ
と音がしたと思ったら、太助とヨウメイが入ってきた!
慌てたルーアンは、急いで口をもごもごと。
懸命に、両手で口元を押さえている。
「ルーアンさん?ひょっとしてつまみぐいしましたか?」
「ふぁふぁひはほんはほほふるはふぇふぁいふぇふぉー。
(あたしがそんなことするわけないでしょー)」
必死になって弁解しているが、それも無駄な行為だ。なぜなら・・・。
ぱらららっ
「ふふん、統天書に書いてありますよーだ。お饅頭を食べましたね!
つまりはつまみ食いをしましたね!!」
「ぐっ・・・。」
ヨウメイが携帯している切り札により、ルーアンの隠ぺい工作は敗れたのだ。
しかし・・・
「別に統天書みなくたって、皿に残ってる饅頭とルーアンの様子を見れば誰だってわかるんじゃ・・・。」
と、太助は誰に聞こえるともなくつぶやいていた・・・。

<そりゃそうだろ>


第百八十八ページ『揺れる』

それはある休日の事だった。
ぐらぐらぐらぐら
七梨家が大きく揺れる!どうやら地震の様だが・・・
「きゃあっ、食器が!!」
「しゃ、シャオぉ!!」
丁度キッチンにいた太助とシャオは、棚のものが壊れない様にと大慌て。
懸命になって、支えたり抑えたりしている。
と、そんなところへヨウメイが顔を出した。
「ふああ、おはようございますう。」
「あ、ヨウメイさん!手伝ってください!!」
「ふえ?何をですか?」
「地震だよ地震!危ないを家具から支えて揺れてって言ってるんだよ!」
相当慌てているのか、太助のセリフは無茶苦茶。
しかしヨウメイはそれを瞬時に理解したのか、統天書をばっと開いた。
「地震を止める方が早いです。静まれ、地震!」
力強く唱えた彼女だったが・・・
ぐらぐらぐらぐら
「と、止まらない!?」
「きゃああ!た、倒れてきますう!!」
「くっ、もう駄目か・・・。」
何故か地震は収まらなかった。これにはさすがのヨウメイも大慌て。
更にはシャオと太助の方も限界が近い・・・。
しかし、その時、地震はぴたりと止まった。
しばらく呆然としていた三人だがへなへなとそこに座りこむ。
「と、止まったあ・・・。」
「危なかったですわ。」
「助かったな。でもヨウメイ、どうして地震が止まらなかったんだ?」
ほっとしながらも、三人にとってそれは疑問だ。
自然現象を操る彼女が地震を止められなかったのだから。
「ひょっとして・・・。」
何やら思いついたヨウメイは統天書をめくりだす。
目的の物をすぐにみつけたのか、ぱたんとそれを閉じた。
そしてその目はかなり不機嫌そうだ。
「どうしたんですか?」
シャオが尋ねると、ヨウメイはばっと立ち上がる。
「ルーアンさんですよ!寝ぼけて陽天心を家に・・・許すまじ!!」
叫んだかと思うと、彼女は脱兎のごとく二階へと駈けて行った。
寝ているルーアンの所へ文句を言いに行ったのだろう。そして・・・
ぐらぐらぐらぐら
「わわっ!また揺れ出したあ!!」
「た、太助様、棚がああ!!」
「なんだって!?くっそう、暴れるのは外でやれってんだ〜!!!」
結局家は更に揺れつづけ、キッチンも悲惨な状況となってしまった。
もちろんそれをヨウメイが万象復元で直したものの、
ルーアンとヨウメイは、太助からしっかりと大目玉を食らっていた。

<ぐらぐらっ>


第百八十九ページ『無駄な抵抗』

「楊ちゃんの弱点みーつけた!」
休み時間。唐突に花織がヨウメイを指差しながら叫んだ。
机に座って親友と語らいで居た彼女はきょとんとした顔である。
「花織ちゃん、私の弱点って?」
「そ。でも教えなーい。あたしの胸の内にしまっておくね。」
にこりとした顔で言われてもちっとも嬉しく無い。
なんと言っても弱点なのだから。
慌ててヨウメイは統天書をめくろうとしたが・・・。
「そういえば心までは読めなかった。花織ちゃん、教えて?」
「だあめ。あたしは楊ちゃんみたいに教えるのが大好きっ娘じゃないもん。」
「えええー!?気になるから教えてよ〜!!」
「だめだよーだ。」
「花織ちゃんってばー!!」
ついには、教室内をどたどたと走りまわる追いかけっこが始まった。
ついさっきまでヨウメイと花織がいた場所にとりのこされたのは熱美とゆかりん。
「ねえ熱美ちゃん、花織の言ってる事って本当かなあ?」
「冗談じゃないの?どうせ、後で“なーんてね、うそ”とか言ったりするんじゃ。」
「ありえるなあ。それに楊ちゃんの力じゃあ花織に口を割らせられないような。」
「いやいや。楊ちゃんは二つの意味でキレモノだから案外あっさり終わるかもよ?」
「でもねえ・・・あ、統天書奪われてばててる。」
「こりゃ楊ちゃんの無駄な抵抗に終わりそうだわ。」
結局最後は花織のおふざけという事でこの騒動の幕を閉じた。
しかし、心が読めないという現実にヨウメイはちょっぴり頭を痛めたのであった。
そして授業中、
「くうう、悔しい〜。花織ちゃんに遊ばれた〜。遊び返してやる〜。」
としきりに呟いていたヨウメイに、熱美は、
「花織ったら余計な事を・・・。わたしはしーらないっと。」
と、傍観体勢を決め込むのであった。

<むだむだー!>


第百九十ページ『ヨウメイクイズ(第七問)』

「遠藤さん、クイズです!」
「そういうの好きだねえ、どうぞ。」
「はい。これはなんでしょう!」
ヨウメイが指差したものは・・・
「眼鏡じゃないの?」
「ぴんぽーん、正解でーす!!賞品として、偉大なる眼鏡伝説をお教えしましょう!!」
「い、いや、いい・・・」
「いいですか、眼鏡の起源というのは・・・。」
結局ヨウメイは熱く語り始めた。
すべてが終わったころにはすっかり日が暮れて・・・。
「・・・と、以上です!!何か質問はございませんか?」
「あのさ、どうして普通に説明しようとしないの?クイズなんか出さなくても僕聞いたのに。」
最初は遠慮がちだった乎一郎だが、聞いているうちに夢中になった様だ。
時間がかかったとはいえ、今は上機嫌なのであった。
そんな彼の問いに、ヨウメイはこう答える。
「だって普通にやったんじゃ面白くないでしょう?
これからもよろしくお願いしますね。」
「へええー、うん。・・・って、これからってどいうこと?」
「まだまだ眼鏡ネタはありますから。次回は文学的視点の眼鏡、です。」
「は、はは、そうなんだ・・・。」
珍しいものがきけて嬉しいような疲れたような、複雑な気持ちの乎一郎であった。

<終了だよ・・・>


第百九十一ページ『夢遊病?』

ヒュウウウウ・・・グサッ!!
巨大な包丁がベッドに突き刺さる。キリュウの目覚ましが発動したのだった。
ところがそのベッドに寝ていたのは・・・。
「あ、あぶ、危ない・・・。ちょっとキリュウさん!!私がベッドに寝てるのに!!」
ヨウメイである。危うく串刺しになりかけた彼女は、床で寝ているキリュウを叫び起こした。
しかし、あっさり目を覚ましたキリュウは首を傾げてばかり。
「おかしい。昨日たしかに私はベッドで眠ったはずなのだが。」
「じゃあなんで私がベッドに寝てキリュウさんが床で寝てるんですか。」
「もしかしたら新たな試練が・・・」
「そんなわけ無いでしょう!?いいです、統天書で調べてみます。」
怒りながらぱらぱらと本をめくるヨウメイ。
そして、あるページで手を止めて目を点にする。
「どうした?ヨウメイ殿。」
「どうしたもこうしたも・・・寝ぼけてキリュウさんが私と寝る位置を入れ替えてます!」
「な、なんだと!?」
「恐ろしい犯罪ですねえ。私を殺そうだなんて。」
「ちょ、ちょっと待った。私にはそんなことをした覚えがないのだが?」
「なくてもここにしっかりと書かれてあります!・・・夢遊病ですかねえ?
キリュウさん、かなり疲れてらっしゃるんじゃありませんか?」
「そうかもしれない。しかし、まさかこんな事態になるとは・・・。」
結局こんな騒ぎはその日限りで終わったのだが、
キリュウが目覚ましをしかける機会は、ますます減ってしまったようだ。

<むにゃ・・・むにゃ?>