小説「まもって守護月天!」(知教空天楊明推参!番外編)

≪楊明と星神達≫


その6『楊明と八穀』

なんだか今日は平和・・・なんて時にはたいてい何かが起こるんだけど。
というわけでそれなりに周囲に気を配りながらリビングでお茶をすすっていた私。
すると予想通りどたばたという音が。ほーらやっぱり。
顔を上げると、寝起きの顔のシャオリンさんが姿を見せた。そういえばお昼寝してたんだっけ。
「あ、ヨウメイさん。申し訳有りませんが、お買い物を頼んでもいいですか?」
「お買い物ですか?全然構いませんけど、どうしてまた。」
「材料がないってことすっかり忘れてたんです。これからお掃除しないといけないのに・・・。」
なんとそういう事だったのね。それにしてもどうしてシャオリンさんしか家事をやらないんだか。
なんて、今までのほほんとお茶を飲んでた私が言えることじゃないけど。
「それじゃあ早速行って来ますね。何を買えば良いんですか?」
「あ、それは今から紙に書きます。ちょっと待っててください。」
あわただしく駆けて行くシャオリンさん。私もその間に準備をと思って買い物の準備をする。
そして、丁度私が玄関にて立っている時にシャオリンさんがやって来た。
「買うものはこれだけです。あと八穀と一緒に行ってくださいね。」
紙切れと一緒に、八穀さんが付いてきた。
よろしくと言わんばかりにお辞儀するのでこちらも慌てて返す。
「それじゃあよろしくお願いしますね。」
「ええ、行ってきまーす!」
元気よく挨拶して家を出る。
当然歩いてじゃなくって飛翔球を使って目的地へ向かう。
だって遠い所だし・・・。ふふん、こんな事もあろうかとちゃんと統天書で安い所を調べておいたんだから。
少しばかり鼻歌を歌っていると、八穀さんがちょいちょいと突ついてきた。
「えっ?スーパームサシに行かないのかって?
ちょっとお金の節約に別の場所へ行くんですよ。」
それにすんなり納得したようで、別段疑問の顔にもならなかった。
しばらくして目的の場所に到着。スーパーだってのは変わらないけどね。
中は結構広く、品数も沢山。沢山買い物をするにはやっぱいいわね。
「さてとまずは野菜から。それじゃあ八穀さん、品物選びお願いしますね。」
買い物カートを押して八穀さんに告げる。
一応口でこんな事言ってるけど、実は統天書を見ながらだったり。
そして一つの品物を八穀さんが指差す。まずはきゅうり。
それは統天書の内容とは違う品物。私は八穀さんの言った物の一つ隣の物を手に取った。
当然八穀さんは不思議そうな顔で私を見る。それでも私は得意げにに答えた。
「だって、統天書にはこっちの方が良いって書かれてるんですよ。
八穀さんをちょっと試したんですよ。」
くすっと笑ったけど、八穀さんは別段顔色を変えなかった。
随分余裕だなあ。それにしても細い目。というよりは閉じてるのか。
どんな目をしてるのかなあ。ちょっと気になったり・・・あ、今はお買い物の途中なんだ。
再び品物選びに戻る。当然私は統天書に従って入れてたから。
ところが、野菜コーナーを抜けた所で八穀さんがちょいちょいと突ついてきた。
「なんですか、八穀さん。え?統天書をもう一度見てみろって?」
こくりと頷く八穀さん。なんだか自信に満ちた表情だったので、
言われた通り野菜の所をめくって見てみる。すると・・・!
「あれれ!?良い品物が変わってる?そうか、これって未来が読めないから。
やれやれ、戻って選びなおしかあ・・・。」
カートを逆戻りさせる。そして統天書の通り選んで行くと・・・。
「あれ!?これって八穀さんが選んだやつ・・・。
なるほど、それで自信ありげに言ったんですね。」
そこで再び自信たっぷりに頷く八穀さん。うーん、完璧に私の負けだあ。
つまり八穀さんは、未来における品質も見抜いてしまうって事なんだ。
「参りました。すみませんね、試したりなんかして。」
深深と頭を下げると、八穀さんは“いやいや”というような顔で返してくれた。
やさしいなあ。普通の人なら怒っていろいろ言ってくるのにね。

というわけであとは二人で楽しくお買い物。
野菜に続いて、肉、魚、果物等々・・・。
とりあえず値段だけは安いことに変わりないからその事でだけ面目を保てたけど。
そして無事買い物が終了。安くて良い品物を大量に買って、いざスーパーを出よう、
という所になって、一つの問題が発生。
「しまった。こんなに沢山は私一人じゃ持てないな・・・。」
私はあんまり力が無いから四袋も持てない。
かといって八穀さんに持ってもらうわけにもいかないし・・・。
八穀さんと顔を見合わせて困り果ていると、見知らぬ一人の男性が近づいてきた。
「どうしたんだい、お嬢ちゃん。なにか困った事でも?」
親切そうな人・・・。でも一応調べておこうっと。
ぱらぱらと統天書をめくり、本当に親切に来たって事を確認。
もちろん心がわかるわけじゃないので、状況判断なんだけど。
「荷物が多くて、一人じゃあ持ちきれなくて困ってるんです。」
「なんだそうかい。それじゃあ俺が持ってあげるよ。」
言うなり四袋全てをひょいっと持ち上げた。うわあ、さすが。
外の適当な所まで運んでもらう。そしてお礼を言った。
「ありがとうございました。おかげで助かりました。」
「いやいや。か弱い女性にこれくらいは当然だよ。」
そしてふぁさっと髪をかきあげるという、誰かさんと同じ行為を・・・。
そのまま男性が去って、見えなくなった所で八穀さんと顔を見合わせる。
もちろんすぐに二人して笑い出した。(八穀さんはそんな風に見えるってだけだけど)
「あははは、なんだか宮内さんそっくりな方でしたねえ。」
しばらくの間、笑っている時間が続く・・・。
いいかげん笑った所で落ちつき、飛翔球を絨毯へと変える。
傍にあれば私一人でも荷物は乗せられるからね。
横でなんだかはらはらしながら見ている八穀さん。
「大丈夫ですよ。ちゃんと慎重に一つずつ乗せてますから。」
しばらくして無事に全ての荷物を乗せ終える。八穀さんが“ふうー”と息をついたみたい。
よほど心配してたみたい。すっごく良い人だなあ。
なんだか星神にしておくのがもったいないくらい・・・。
「さてと、それじゃあ早いとこ帰りましょう。
シャオリンさんが待ちくたびれてることでしょう。」
頷き合ったところで飛翔球を出発させる。
もちろん荷物が落ちないようなスピードで飛んでいるわけだけど。
「今回のお買い物、なんだかとっても勉強になって楽しかったです。
どうもありがとうございました、八穀さん。」
改めて深深とお辞儀すると、なんだか八穀さん照れて真っ赤になっちゃった。
うふふ、なんだかキリュウさんみたい。
それにしても教えられてこんな気分よくなれるなんて。
まあ、それも八穀さんだけなのかもね。
「八穀さん、また今度一緒にお買い物しましょうね。」
笑顔で言うと、八穀さんも笑顔でこくりと頷いてくれた。
今度からお買い物担当は私と八穀さんかしら。なーんてね。

<おわり>


その7『楊明と女御』

「キリュウさん♪ちょっとお願いがあるんですけど。」
唐突にヨウメイ殿がこんな事を言ってきた。
どうせろくなものではないと思うが、まあ一応聞いてみるとしようか。
「お願いとはなんだ?」
「はい。実はいろんな服が手に入りまして。それで手伝って欲しいんです。」
「???」
まったく意味がわからぬ。服が手に入ったからといって私が何を手伝うのやら。
ここはさっさと退散した方が良いかも知れぬな。
「心配しなくても女御さんが手伝ってくれますよ。キリュウさんは立ってるだけでいいんです。」
「立ってるだけだと?まさか・・・。」
私を着せ替え人形にでもしようというのだな。
冗談ではない。そんな事をしてる暇があったらもっと別の・・・
「あ、最初に言っておきますけど、シャオリンさん直々のご指名ですからね。
ルーアンさんも那奈さんも忙しかった様なので、急遽キリュウさんという事になったんです。」
「・・・そうなのか。」
頼む前からそういう事が決まっていたとは。ヨウメイ殿、それはお願いではないぞ。
「それじゃあ早速キリュウさんの部屋へ行きましょう。さ、女御さんも。」
ヨウメイ殿の傍に女御殿が浮かんでいた。
なるほど、準備万端という事か。仕方ないな・・・。
観念した様にため息をついて自分の部屋へと向かう。
と、部屋の真中に等身大の鏡が置かれていた。
「ヨウメイ殿、なんだこれは・・・。」
「見ての通り鏡じゃないですか。これでキリュウさんも自分を見られるということですよ。」
「・・・・・・。」
いつの間にこんな物を・・・。
相変わらずしたたかなヨウメイ殿に、私は感心せざるをえなかった。
「それじゃあ始めましょう。キリュウさん、そこに立ってください。」
「ここか?」
言われた位置に立つ、と、ヨウメイ殿が統天書をめくった。
守護月天キリュウ? 「女御さん、まずはこの服をお願いしますね。」
女御殿が私の周りをすうーっと飛び回る、と私の服は別のものに変わっていた。
本来ならシャオ殿の身の回りのものを司る女御殿なのだが、
ヨウメイ殿がいろいろ言って、他人の物も十分可能になった、という訳だ。
「うん、なかなかのもんですね。でもやっぱりシャオリンさん向けですね。」
「当たり前だ・・・。」
最初の服は、シャオ殿の基本こすちゅーむというもの。
まったく、私がこんな服を着てどうしようというのだ・・・。
「それじゃあ次、この服お願いします。」
再び女御殿が宙を舞う。今度はルーアン殿の基本こすちゅーむだ。
「うわあ・・・似合いませんね。やっぱりもう少し色気が無いと・・・。」
「いちいちうるさいぞ、ヨウメイ殿。それなりに似合っているではないか!」
慶幸日天キリュウ? 少しむきになってしまった。ま、まあたまにはよいだろう。
「それじゃあ次は・・・あんまり気が進みませんけどこれを。」
なんだか女御殿もいやそうな顔だ。
順番からしてヨウメイ殿の服だろう。気が進まないなら止めれば良いのに・・・。
そして服が変わる。と、なんだか急に体が重くなった。一体何を・・・!!
「うーん、見事なまでに似合ってますねえ。どうですか、暑さ我慢大会用の服は?」
「こんな服を着せるな!!あ、暑い・・・!!!」
マフラーを何重にも。分厚い服を約十枚。
つまり、ものすごく厚着という事だ。ちなみに今の季節は冬ではない・・・。
「あ〜あ、変なもん見ちゃった。女御さん、次はこれを。」
変なもん見ちゃっただと!?そんな事を言うのならするな!!
再び女御殿が周りを舞う。と、今度は異様なまでに体が軽くなった。
なんだ?随分と涼しすぎるような・・・!!!
「うわー、すっごいなあ。キリュウさん、今度の夏泳ぐ時はそれを着てみては?」
「な、何を、馬鹿な・・・。こ、これは・・・。」
今度は水着。だが、これは・・・。表現するのも恥ずかしい、そんな水着だ・・・。
「顔真っ赤ですね。まあそんな水着じゃあしょうがないか・・・。
そうだ!主様を呼んできて見せてあげましょうよ。」
「や、止めてくれ、恥ずかしい・・・。」
「冗談ですよ。女御さん、次はこれを。」
頷いた女御殿が真剣な目つきで服を変える。ふう、やっとまともな服のようだ。
知教空天キリュウ? 今度はヨウメイ殿の基本こすちゅーむ。しかし、黒い服だな・・・。
「へえ、なんだか別人て感じがしますよね。馬子にも衣装ってほんとなんだ。」
「ヨウメイ殿・・・。」
馬子にも衣装・・・。この服はそんなに良い服なのか!?
こんな真っ黒な服が!?なんの飾り気も無いこの服がか!!?
「こんなのよりは先程の方がましだな。」
「悔し紛れに嘘はいけませんよ。こっちの方が断然かっこいいじゃないですか。」
「分かった、そういう事にしておく・・・。」
無駄に文句を言っても跳ね返されるのがオチだしな。
「それでは次はこれです。女御さん、お願いしますね。」
またもや真剣な目つきになる女御殿。今度は鶴ヶ丘中学の制服だ。
「なんだ、結構似合ってるじゃないですか。キリュウさんも生徒として来れば良いのに。」
「そういう問題ではないだろう。私は試練を与えるためについていっているだけだしな。」
私のほうを見ながら、なにやら女御殿も頷いている。
そんなに見るほどのものなのだろうか・・・?
「それじゃあ次。女御さん、これをお願いします。」
次に女御殿が作り出した服。それは・・・。
「なるほどお。これはなかなか美人ですねえ。たまには着てみてはどうですか?」
「い、いや、その・・・。」
なんとドレスである。これは余りにも派手過ぎるのではと思うくらい大きい。
ひらひらだのびらびらだのが大量についている。これは普段着るようなものではないような・・・。
「ほんと、綺麗ですよねえ・・・。普段そういう服を着ないもんだから・・・。
キリュウさん、シャオリンさんみたくいろいろオシャレしてみてはどうですか?」
「これを着たからといってそれはまた違うような・・・。」
それでも、なんだか悪い気はしなかった。なんとも不思議な気分だな。
服一つでこうも変われるものなのだろうか・・・。
「それでは次行きましょうか。女御さん、これをお願いします。」
なんだか残念な気がしたが、まあ仕方がない。
そして服が変わる。今度はいつもシャオ殿が着ているような服だ。
「うーん、なんだか万難地天というよりは別の、って感じがしますね。
なるほど、これで油断させて試練をドーンと。なんだか卑怯だなあ。」
「何を一人でぶつぶつ言っている。私がこういう服を着るのは変か?」
「別に変じゃないですけど、不意打ちは卑怯だってことですよ。」
「・・・・・・。」
この服からどうしてそんな単語が出てくるというのだ。
やっぱりヨウメイ殿の頭の中は良く分からぬな・・・。
「さてと、それじゃあ次行きましょう。女御さん、これをお願いします。」
今度は白い服に・・・これは巫女の衣装では?
「なんだつまんない。別段大した事無いじゃないですか。」
「どうしてそうずけずけと失礼な事を・・・。この格好の何が不満なのだ!」
するとヨウメイ殿はしばらく考え込み、そして顔を上げた。
「似合ってますよ。髪の毛と下半身の部分が同じような色で良かったですね。」
「ヨウメイ殿!!」
「冗談ですよ。まあ私が見るよりは野村さんとかに見てもらった方が良いでしょうね。
多分喜ぶ事間違いなしですよ。まあ、シャオリンさんの方が良いかもしれませんが。」
「・・・もういい。」
それなりに似合ってはいないのだろうか。うーむ、複雑な気分だ。
「それじゃあ次行きましょう。女御さん、これをお願いします。」
またもや変わる服。今度は・・・那奈殿の服のような・・・。
つまり、GジャンにGパンという格好だ。
「おおっ、かっこいい!キリュウさんは那奈さんタイプなんですね。」
「なんだそれは・・・。」
まあ普段からこれと似たような服しか着ていないしな。
それにしてもかっこいい、か。ふふ・・・。
「さてと、それじゃあ次行きましょう。女御さん、これをお願いします。」
女御殿によって変わる服。今度は日本の着物。つまり和服だ。
が、なんだかするっと服が落ちそうになった。慌てて手で押さえる。
「ありゃ!そうだった。女御さんは帯の結び方はまだ慣れてないんでしたっけ?」
おろおろしながら女御殿が頷く。と、ヨウメイ殿がすっくと立ちあがった。
「それじゃあ女御さん、ここまでにしましょうか。お疲れ様でした。」
そして女御殿はふわふわとヨウメイ殿の元へ。そしてそのヨウメイ殿も部屋を出て行こうとする。
つまずきながらも、当然私は急いで呼びとめた。
「ま、待った!せめて服を元に戻してから!」
するとヨウメイ殿はため息をついて振り返った。
「何言ってるんですか、キリュウさん。女御さんは何着もやってお疲れなんです。
これ以上させようなんて虫が良すぎますよ。自分で何とかしてください。」
「し、しかし・・・!!」
またもや着物がずるっと落ちそうになる。
なんとか押さえながらそこに居ると、しばらくしてヨウメイ殿はこう告げた。
「試練ですよ、耐えましょう。ね、女御さん。」
ヨウメイ殿の呼びかけにこくりと頷く女御殿。なんとなく少し笑っているような・・・。
ひょっとして・・・図られた!?
「一体なんのつもりだー!!」
「そうだ。私やる事があったんだ。行きましょう、女御さん。」
またもや頷き合ったかと思うと駆け出して行ったヨウメイ殿と女御殿。
慌ててその後を追おうとする。と、案の定途中でつまずいてしまい、どたっと前にこけた。
「いたた・・・。ん!?起きあがれぬ!だ、だれかー!!」
着物のすそとすそが絡まり合って、じたばたしかできない状況であった。
そして幾分かの後、呆れながらやって来た那奈殿に助けてもらった。
主殿でなくてよかったと思うのは、起きあがって着物の前が完璧にはだけていた自分に気付いた時だ。
まったく、どうして私がこんな目に・・・。

後でシャオ殿に話を聞いてみた。すると、
「なんでも、キリュウさんで遊ぶとか遊ばないとか。
なんだか女御も張りきってたみたいですけど・・・。」
だそうだ。私で遊ぶだと!?どうしてシャオ殿はそれを止めぬのだ!!
しかし更にシャオ殿が言ったのは、
「ヨウメイさんは女御さんと是非ともお友達になりたかったそうなんです。
だからなんだか止めづらくて・・・済みません。」
という事だ。そんなものはヨウメイ殿のたてまえという気もするが・・・。
それより、人で遊んで仲良くなろうなど、なんだか許せぬ・・・。
ともかく今回の件でヨウメイ殿と女御殿は仲が良くなったらしい。
しかし、ちょくちょく私に着せ替えをさせに来るのはいただけない。
本当にこれで良いのか!?これは私に対する試練なのか!?
後で聞いた話。ヨウメイ殿が女御殿と仲良くなろうとしたのにはそれなりの理由がある。
なんでも、世界中の服をすぐさま着られるような“ふぁっしょんしょー”とやらをしたかったからだ。
ということで、それを寝る間際によく私に見せつけてくる。
おかげで私の睡眠時間は相当削られる羽目に。なぜ私がこんな目に遭わねばならんのだ・・・。

<おわり>


その8『楊明と折威』

普段私は知識を教えるのが役目。だから頭はいい!(自信大いに有り)
だけど、体力はからっきし。でもいいもん。知識を教えるのに体力は必要無いもん。
・・・なんて言ってられなくなってきた。最近ちょっと走っただけで息切れが。
しかも、学校までの距離を歩くだけで午前中は授業にならない。
このままじゃ駄目だ、何とかしないと!というわけで思いついたのが・・・。
「え?折威を貸して欲しい?」
「そうなんです、シャオリンさん。折威さんに鍛えてもらって、少しでも体力をつけないと。」
「でも、それだったらキリュウさんに鍛えてもらえば良いんじゃないですか?」
そこで言葉に詰まった。そうなんだよねえ、キリュウさんに鍛えてもらうのが確実。
でも、普段いろいろ遊んでいるからここぞとばかりに仕返しをされそうな・・・。
「き、キリュウさんは主様に試練を与えるので忙しいじゃないですか。
ですから、比較的余裕のある折威さんにお願いに来たって訳ですよ。」
「なるほど、それもそうですね。分かりましたわ。来々、折威!」
支天輪から折威さんが登場。重そうな球を背負った三人の星神。
二人の男の子と一人の女の子が居るのよね。
「それじゃあ折威、ヨウメイさんをしっかり鍛えてあげてね。」
シャオリンさんの言葉に任せてくださいと言わんばかりに頷く折威さん。
「よろしくお願いします、折威さん。」
ぺこりとお辞儀をすると、やはりお辞儀で返してきてくれた。
星神さんてどなたも丁寧ですねえ。やっぱこうでなくっちゃ。
「それじゃあ庭へ行きましょう。そこでお願いします。」
「頑張ってくださいね、ヨウメイさん。」
笑顔のシャオリンさんに目で挨拶して庭へ出る。
横に三人並んだ折威さんはやる気満々の表情だ。よーし、やるぞー!

「とりあえずお一人。それを私が持ち上げます。そして次の段階ゆきましょう。」
何やら“やれやれ”というような顔をする折威さん。
むっ、何がそんなにおかしいんですか。
「持ち上げるなんて無理だろうから動かすくらいにしとけ?
・・・それもそうですねえ。それじゃあまずはそれくらいから。」
今回ばかりは謙虚にやるしかない。ああ、私って健気・・・とと、ルーアンさんを真似てる場合じゃない。
私の前に一人の折威さんがどっかと腰を下ろす。よーし!
「ではいきますよ。よっ!!」
力いっぱい押したけど、折威さんはびくともしない。
こんなちっちゃい体の何処にそんな重さがあるっていうんだろう・・・。
顔を真っ赤にしながら必死に力を入れる。と、ようやくずずっと少しだけ動いた。
それを確認した私は押すのを止めて地面にへたり込む。
「ふう、ふう、どうですか、見事、動きましたよ・・・。」
笑顔でいうと、折威さんも“お見事”というような顔で返してくれた。
「さあて、次いきましょう・・・。」
落ちついた所で立ちあがる。いつまでも休んでられないもの。
すると二人の折威さんが腕をがしっと組んでそこに座った。
「二人同時に動かすんですね。では・・・!!」
さっきと同じように気合を込めて押す。声も立てずに押す!!けれどやっぱり動かない。
早くも負けてたまるもんですか!絶対に動かしてやる!
ちなみに座っているのは男の子の折威さん。
横では女の子の折威さんが旗を振りながら応援している。
いつの間にこんな物を用意したんだろ。よーし、頑張らなきゃ!!
「ふんぬ〜!!」
これ以上はないという極限の力を入れ、そして、ようやくずずっと動いた。
そこで頭が酸欠状態になったみたい。くらっときてどさっとそこに倒れる。
「ふえー・・・。や、やりましたよ・・・。」
倒れている私を心配そうに覗きこんでいた折威さん達だったけど、
私の笑顔の混じった言葉を聞いて安心したみたい。
それにしても二人を動かすのにこれなんて・・・。これじゃあ三人は無理かも。
なんとなく弱気になっていると、折威さんが顔をぺちんとはたいた。
「いたっ。何するんですか。」
見ると、私の弱気な心を読み取ったのかな、渇を入れるような顔で三人が立っている。
「そうか、そうですよね。早くも諦めるわけにはいかないですよね。
ようし、三人を見事動かして見せます!!」
再度気合を入れて起きあがる。そうだ、自分から決心したんなら弱気になっちゃいけない。
三人の折威さんががっちり腕を組んでいる。
「よーし、いきます!!」
声を上げて折威さんを押しにかかる。
しかしさっきまでの力じゃあ動かせないのは分かりきっている。
極限を超えた、限界以上の限界の力を出す!
「え〜い!!」
声も上げる。声を上げないとそれなりに力が出ない事が分かったら。
そして、懸命に押しつづけること数秒間。
ズズ・・・と、三人の折威さんの体が動いた!!
それを確認した途端に私は押すのをやめ、折威さんは立ちあがる。
疲れで倒れてなんかいられない。私はやったんだ!
「折威さん、やりました、やりましたよ!!」
三人で拍手している折威さんに照れながら、私は感動に胸を躍らせていた。
これで私にも少しは体力がついたはず!これからは少しでも普通通り動ける!
でも一応言っておかないと・・・。
「ありがとうございました、折威さん。私、とっても力がついた気がします。
とりあえず今日はここまでにしましょう。また今度よろしくお願いしますね。」
そして四人一緒に特訓終了の礼。
「お疲れ様でしたー!」
その日の夕食はなんだかとても美味しかった。
ああ〜、運動の後のお食事が美味しいってこういう事だったんだ。
ルーアンさん並に食べる私を見て、皆さんとっても驚いていました。
「ヨウメイさん、今日は頑張りましたね。折威も、ご苦労様。」
そう。当然功労者である折威さんも一緒にお食事をしている。
顔を見合わせてにっこりと微笑み合う。ああ、やっぱりいいなあ・・・。

けれどその翌朝。いつもの通り目覚めたんだけど、起きようとした途端。
ビキビキビキッ!!!
と、全身に激痛が。とても起きあがれるようなものじゃなかった。
キリュウさんは心配そうに私の様子を見ていたかと思うと、一つため息をついた。
「おそらく筋肉痛だな。まったく、自分の体を考えずに運動したりするからだ。」
「嘘でしょう?あれだけの運動で筋肉痛・・・うぐっ!!」
どうやらキリュウさんの言う通りみたい。でも、なんで起きあがれなくなるくらいまで?
しばらくしてキリュウさんの話を聞いたみんなが部屋へやって来た。
その中には折威さんも一緒。何やら申し訳ない顔をしている。
「大丈夫ですか、ヨウメイさん。折威が無茶をさせたんじゃないんですか?」
「そんな事無いですよ。この程度なら平気・・・はうっ!!」
ちょっと体の向きを変えるだけでも激痛が走る。
ふえ〜ん、こんなんじゃあ学校なんて無理だよお・・・。
「仕方ないな。あたしがヨウメイを見てるからみんなは学校へ行ってなよ。
あ、そうそう、折威も一緒に居てくれよ。」
那奈さんの申し出に“?”という顔をするシャオリンさん。
「あの、なぜ折威が?」
「ヨウメイが無理をして起きない様に押さえつける役だよ。
押すだけでも一苦労って状態なんだ。乗っかってれば絶対に起きあがれないさ。」
「なるほど。さすがは那奈殿だな。」
あの〜、感心しないで欲しいな。押さえつけられてるって事はなんにも出来ないって事で・・・。
「それじゃあ那奈姉、後は頼んだよ。みんな、早く学校行こう。」
「じゃあね、ヨウメイ。」
「折威、那奈さんのいう事を良く聞いて、しっかりヨウメイさんを押さえるんですよ。」
シャオリンさんの言葉にこくっと頷く折威さん。
あの〜、あんまり真剣にならなくても・・・。
「ヨウメイ殿、今度からはあんまり無理はせぬようにな。」
無理かあ、確かにそうだったかも・・・。
そして折威さんが傍でしっかり待機している中、私は二度寝に入る。
これに懲りて、あんまり頑張らないことにしよっかな・・・。
「折威、ヨウメイがほんのわずかでも動きかけたら乗っかるんだぞ。」
ちょ、ちょっと那奈さん!!
というわけで、今日一日はまったく動けない状態でした。
そんなことがあっても、体力をつけようと日夜折威さんに頼んで努力に励むことを続ける。
ああ、私って何て一生懸命なんだろ・・・いけない、またルーアンさんを真似ちゃった。

<おわり>


その9『楊明と車騎』

ざっざっざっざっと箒を動かす音だけが神社に響いてます。
今日もいい天気ですねえ。そうだ、これが終わったらシャオさんに会いに行きましょう。
確か蓬もちがありましたね、それを手土産に・・・。
というわけで、少し上機嫌になって(まあ、いつもの事だという気もしないでもないですが)
私は掃除をしていたのです。すると、遠くの方の上空に何やら影が・・・。
「あれは・・・ヨウメイさん?」
軒轅さんではなく飛翔球とやらに乗ってこちらへ飛んでくるヨウメイさん。
しばらくというほどの時間が経って、地面に降り立ちました
で、一緒に来たのがなんと車騎さんでした。一体何をするつもりなんでしょう・・・。
「こんにちは、宮内さん。」
相変わらずにこにこと挨拶するヨウメイさん。もちろん私も笑顔で返しました。
「こんにちは、ヨウメイさん。車騎さんがご一緒とは珍しいですね。なんの御用ですか?」
私は結構余裕の表情で居ました。近頃はそう邪険にも扱われないし、なんと言っても女性ですしね。
すぐに用事を済ませて帰るだろうし、あわよくば一緒に乗せてもらって太助君の家に行こうかとも考えてました。
「実は少し手伝って欲しい事がありまして。お願いしてもよろしいですか?」
具体的な内容を告げない所がなんか怪しいですが、まあいいでしょう。
笑顔を見せ、私はそれを快く承諾しました。
「いいですよ。私にできることなら何なりと。」
「ありがとうございます!車騎さん、良かったですね。
これでスランプから抜け出せそうですよ。」
喜びの笑みを浮かべて頷き合う車騎さん。(車騎さんは二人一組ですから)
ヨウメイさんの言葉が気になった私は少し尋ねてみました。
「あの、スランプってどういう事ですか?」
すると、ヨウメイさんは深刻な顔になって事情を話し始めました。
「実は、車騎さんの命中率が落ちているようなんです。
長い間呼び出される事も無かったからかどうかは知りませんが、
とにかく、星神の役割が十分に果たせない状態なんです。
このままじゃあ可哀相だ!というわけで、私が協力する事になったんです。」
「な、なるほど・・・。」
なんとなく嫌な予感がした私はどう話を断ろうかと考えていました。
命中率なんて・・・。ひょっとして私がする事って・・・。
「それじゃあ早速始めましょう、宮内さん。
車騎さんが放つ大砲を避けるんです。簡単でしょう?」
(や、やっぱりですかー!?)
「あ、あの、ヨウメイさん。私、ちょっと急用を思い出しまして、その・・・。」
「シャオリンさんに会いに行く事ですか?終わったら私が連れてってさし上げますよ。
車騎さん、準備はいいですか?」
がーん。行動を読まれているという訳ですか?
それよりいきなり始めないでくださいよー!
「ま、待ってください。私にもそれなりに準備というものが・・・」
「車騎さん、どうぞ!」
『ドーン!』
という激しい音がしたかと思うと、車騎さんが発した球は私の頭上を掠めて飛んで行きました。
一瞬の事に呆然としながら立ち尽くす私・・・。
「ね、こんなもんなんです。それじゃあ次行きましょう。」
「ちょ、ちょっと、うわー!!」
箒を投げ出して慌ててそこから逃げ出します。と、次の砲撃が!
『ドーン!』
今度は私のほほを掠め、目の前にあった木に命中した様です。
激しい爆発が起こると同時に、木が真っ二つに折れました。
「車騎さん、今のは惜しかったですね。では次!」
「や、やめてくださいー!」
『ドーン!』
私の叫び声もむなしく、第三撃が発射されます。
またも私のほほを掠めて近くの別のものに当たる。
それは原型をとどめないほどに破壊されてしまいました。
こ、このままではここは荒地になってしまうのでは・・・!?
しかし結局私は逃げ惑うばかり。何時間もの後、ヨウメイさんがようやく終了の合図を出しました。
「お疲れ様でしたー!車騎さん、なかなかのものでしたよ。」
拍手するヨウメイさんに、車騎さんは何やら照れている様子。
あのね、私にはなんにもなしなんですか・・・?
ふらふらとよろめきながら傍に近づくと、ヨウメイさんがにこりとして言った。
「ありがとうございます。おかげで車騎さんも自信が持てたようです。
宮内さんに当てずにいかに発砲するか。この調子なら大丈夫ですね。」
「へ?」
ヨウメイさんの言葉に目が点になる私。当然でしょう。
私に当てようと思って発砲してたんじゃないというんですから・・・。
「あの、ヨウメイさん、それは一体どういう事ですか?」
「だからあ、車騎さんは宮内さんに当たるすれすれというところを狙ってたんですって。
でも、なんだか宮内さんたら走りまわって・・・。
それでも全て命中させずに終えたのは、さすが車騎さんという事ですね。」
なんとなく照れている様子の車騎さん。
そして更に唖然とした顔になる私。もちろん抗議しはじめました。
「ちょっと待ってくださいよ。最初にヨウメイさんは避けろとか言ってたじゃないですか。」
「動き回って避けろなんて言ってないじゃないですか。
とりあえずじっと立っていれば避けるってことになるんですから。」
(それって避けるとは言わないのでは・・・。)
「とにかくありがとうございました。それよりシャオリンさんに会いに来るのはまた今度ですね。
こんなに散らかってたんじゃあお掃除しないといけませんよね。」
その言葉にはっとして辺りを見回しました。大量の瓦礫の山が・・・。
「それじゃあさようなら、宮内さん。さ、車騎さん、帰りましょう。」
一つお辞儀をして空へと繰出すヨウメイさんと車騎さん。
しばらく放心状態だった私は、数分後に我に帰って掃除を始めました。
それにしてもどうしてわざわざ私の所へ・・・。
太助君の試練にでもすればいいじゃないですか・・・。
でもただ立っているだけなら試練でも何でもないですね・・・。
まったく、ヨウメイさんも最初にそういう事を言ってくれれば良いものを・・・。
あんまりですよ。一体私が何をしたって言うんですか・・・。
心の中でぶつぶつと文句を言いながら掃除を続ける私。
結局この日は掃除だけに一日を費やしてしまいました。

そして翌日。昨日妙に走りまわったおかげで体が少し痛い・・・。
で、昨日と同じように掃除をしていると、またもやヨウメイさんがやってきました。車騎さんと一緒に!
「こんにちは、宮内さん。」
「こんにちは、ヨウメイさんに車騎さん。今日はなんの用事で来たんですか?」
たのみを言って来たら即断ろう、そう思いながら答えを待ちました。
「実はたの・・・」
「うわー!駄目です!」
「まだ何も言ってないじゃないですか。」
「駄目ったら駄目です!という訳でお引き取りください!」
ちょっと必死になってしまいましたが、これだけ言えばいいでしょう。
しゅんとしたかと思うと両方ともくるりと回れ右をしてしまいました。
よしよし、今日はおとなしく帰ってくれそうですね。
「あーあ、楽しいパーティーの招待に来たのに・・・。
しょうがないですね。私達だけで楽しみましょう、車騎さん。」
こくりと頷いたかと思うと飛翔球に乗りこみました。慌てて呼びとめます。
「あの、ヨウメイさん、楽しいパーティーってなんですか!?」
「車騎さん復活記念パーティーですよ。主様の家でやるんです。
功労者の宮内さんには車騎さんが直接誘いにきたってのに・・・。
それじゃあさようなら。」
「ああっ、待ってくださ〜い!!」
私の声は空しく空に響いただけ。そんなのってないですよ。
なぜ私が・・・。・・・というより、
「どうして車騎さんのパーティーだと最初に言わないんですか!
楽しいパーティーなんて言わなくってもいいじゃないですか!!」
と、一人でおもいっきり腹を立ててました。
その数十秒後、なんとヨウメイさんと車騎さんがひょこっと戻ってきました。
すまなさそうな顔をしながらもヨウメイさんが言います。
「やっぱり車騎さんがぜひきて欲しいそうです。宮内さん、来て頂けますか?」
とこんな事を。当然私は顔を輝かせて答えました。
「もちろんですよ!喜んで行かさせていただきます!」
その声に車騎さんも嬉しい表情をした様です。よかった・・・。
というわけで、なんだか絆が深くなったような私と車騎さん。
まさかヨウメイさんはこれを狙っていたのでしょうか・・・?
・・・まあとりあえずヨウメイさんに感謝、ですかね。

<おわり>