小説「まもって守護月天!」(知教空天楊明推参!番外編)

≪楊明と星神達≫


その1『楊明と離珠』

らんららん♪と、離珠は今日もリビングでお絵かきを楽しむでし。
おや?あっちから歩いてくるのは、ヨウメイしゃんでしね。
「ふう、今日は皆さんお出かけ。私一人でお留守番ですか。」
そう言いながら、ヨウメイしゃんはソファーに腰を下ろしたでし。
なんだかお留守番に不満があるようで、少し不機嫌みたいでし。
贅沢でしねえ。離珠なんかしょっちゅうお留守番してるんでしよ。
机の上でお絵かきしていると、ヨウメイしゃんが離珠に気付いたみたいでし。
「おや・・・?あなたは確かシャオリンさんの星神の・・・。」
離珠でしよ。といってもヨウメイしゃんに声は聞こえないんでしね。
「ああ、思い出しました。珠離さんでしたね。
なんだ、珠離さんが居たんなら一人でお留守番てわけじゃあないんですね。」
ずるっ。離珠はこけそうになったでし。
珠離なんてひどいでし。離珠でし〜。
「ところで珠離さんは私が来る前はしょっちゅう一人でお留守番してたんですね。
それって偉いことですよ。さすがですね。」
いやー、それほどでもないでし・・・って、珠離じゃなくって離珠でし!
よーし、こうなったら絵を描いて説明するでしよ!
そして離珠は一枚の新しい紙を取り出して、そこに書き始めたでし。
ほんのわずかな間に出来あがった、シャオしゃまや離珠達の絵。
さあ、これを見て離珠だって覚えるでし!
「・・・珠離さん、なんの絵ですか?これ。ちょっと汚いような・・・。」
汚くて悪かったでしね。しょんな事より、ちゃんと正しい名前で呼ぶでしよ〜。
「それより珠離さんてなんの役割をする星神でしたっけ?
ちょっと解説していただけませんか?」
くううう、なんでさっきの絵で離珠って分からないんでしか〜!
まあいいでし。とりあえず役割を教えれば、名前をちゃんと覚えるかも。
そう思って、離珠はまたもや絵を書き始めたでし。
もちろん伝達を表わす絵!ピーンというような・・・とにかくそんな感じの絵でし。
「これは・・・なんですか?シャオリンさんと糸でつながってるんですか?」
だあああ。もう、そんなはず無いじゃないでしか。
「そうだ。珠離さんについて調べてみることにしましょう。」
えうー、珠離じゃなくて離珠でしよ〜。
「えーと・・・あれ?珠離さんのことが載ってない。
昔賢人として名を馳せた・・・って、明らかに違いますよね。」
当たり前でし!本当は離珠なんでしから!
でも賢人でしか。珠離もなんだかいいでし・・・って、駄目でし!
やっぱり離珠は離珠なんでし!早く気付いてくだしゃいでしい〜・・・。
「待てよ、ひょっとして・・・やっぱり!あなたは離珠さんなんですね!」
やっとわかってくれたんでしか〜。とりあえず良かったでし。
「失礼しました。なんだ、それならそうと言ってくれれば・・・って喋れないんでしたね。
そうか、伝達が役目・・・さっきの絵はそれを表わしてたんですね。」
ちゅわ、わかってくれたでしか。
ほっとすると同時に笑顔で居ると、ヨウメイしゃんが更に読み出したでし。
「えーと、宮内さんのお母さんが作る蓬もちや薄皮饅頭が大好きなんですね。」
そうでしそうでし。あれは絶品でしよー。
「それで、留守番している間に、戸棚にしまってあるそれらを勝手に食べたり。」
そうでしそう・・・えっ!?ちょちょちょ、ちょっと待つでし!
「厳重に封印してあっても必死で食べようとするんですね。
シャオリンさんがせっかく取っておいてあっても。」
待つでしっ!確かに今まで一回や二回位は、そんな事があったかもしれないでしが・・・。
「しかも何十回とそれをしてきたんですね。
へえー、離珠さんて見かけによらず結構食べるんですね。」
な、何十回でしか!?しょんなに沢山・・・。
結構食べると言ってもルーアンしゃんほどじゃあないでしよ。
「ルーアンさんみたいで結構ですね。食べ物を大切に沢山食べる。
うんうん、良いことです。」
ヨウメイしゃ〜ん。離珠とルーアンしゃんは違うんでし〜。
「そうだ。たしかお饅頭が戸棚にありましたよ。
一緒に食べましょう。」
だからちが・・・お饅頭でしか!?ちゅわ〜ん、早速食べようでし〜。
離珠の顔が知らないうちににやけてたんでしねえ。
それを見たヨウメイしゃんはこう言ったでし。
「急かさなくても無くなりませんよ。
それにしてもルーアンさんとは違うなんて・・・。
私は誉めたつもりで言ったんですよ。」
なんだ、そうだったんでしか・・・ええっ!?
離珠の声が聞こえたんでしか!?
「えーと・・・いえ、そうじゃありませんよ。
人の心と、離珠さんが伝えたいと思ったことは別ですからね。
つまり、離珠さんがそう思った事が統天書に記録されていくわけなんです。
さてと、お饅頭お饅頭・・・。」
なんだか嬉しそうにヨウメイしゃんはキッチンへ向かって行ったでし。
なんともすごい本でしねえ。離珠が伝えたいと思った事が記録されていくんでしか・・・。
「はい、おまちどおさまです。さあ、食べましょう。」
ちゅわ〜ん、お饅頭しゃんでし。いただきますでし〜。
仲良く食べながら、ヨウメイしゃんが言ってきたでし。
「それにしても離珠さんの喋り方って面白いですね。
語尾に“でし”がついたり、“さん”じゃなくて“しゃん”なんですね。」
ほえー、そんな事も分かるんでしねえ・・・。
感心していると、ヨウメイしゃんがにこりとして言ったでし。
「離珠しゃん、これからもよろしくお願いするでし。なーんてね。」
・・・・・・。結構お茶目な人なんでしねえ。まあいいでし。
こちらこそよろしくお願いするでし!
ぺこりと頭を下げると、ヨウメイしゃんも返してくれたでし。
なんだか新しい友達が増えたみたいで嬉しいでしね。

<おわり>


その2『楊明と虎賁』

「よーし、そこで一歩下がって・・・ああ!だから違うって!!」
「え?え?うわー!」
「あちゃー、またぼうずの勝ちか・・・。」
まったく、ここまで運動神経が悪い奴も珍しいな。
今おいら達がやっているのはテニス。ぼうず、そしてヨウメイだ。
なんだかよくわかんないけど、ヨウメイの奴がテニスを教えてくれって言って、
それでテニスの経験者である(ほんの少しだけどな)ぼうずと一緒にやっているんだが・・・。
「虎賁さん、テニスって難しいですね。でも、もうちょっとちゃんと教えて欲しいな。」
「何言ってんだよ。おいらが分かりやすいようにアドバイスしているのに、
全然そのとおりに動いてくれね―じゃね―か。しっかりしてくれよ。」
「アドバイスったって。一歩動いて振り回して・・・ってそんなのばっかじゃないですか。
それは教えてるんじゃなくって、口出ししてるってだけですよ。」
「・・・・・・。」
口が悪い奴だなあ。とても教えてもらってる奴の態度とは思えね―ぞ。
あ―あ、キリュウの言う通りかあ。

≪回想シーン≫
(なんだと?ヨウメイ殿にテニスを教える?)
(ああ、そうだよ。わざわざ月天様に頼んでおいらを呼び出したんだ。
これはばっちり教えてやら無いといけないなって思ってさ。)
(私は止めた方が良いと思うが・・・。後悔されるなよ、虎賁殿。)
(後悔?なんでだ?)
(そのうち分かる。まあこれも試練だと思って耐えられよ。)
(はあ、試練ねえ・・・。)
≪回想終了≫

確かに試練だ。途中でぼうずからこっそりと聞かせてもらったんだけど、
ヨウメイは人から物事を教えてもらうことを極端に嫌うらしい。
ヨウメイが知識を教えてもらうって事は月天様やルーアンの立場から言えば、
逆に不幸から守ってもらったり幸せを授けてもらうって事だ。
普通こんなの、嫌うどころか喜ぶよな。(月天様はちょっと複雑に考えちまってるけど)
キリュウの場合、試練を逆に与えられるって事だ。
(キリュウは試練という言葉に敏感で、それに成るとなんでも耐えてくれる。
でもなあ、なんでも試練で済ますってのはよくないと思うんだけど・・・。)
それでヨウメイの場合は知識を教えられるって事になるけど、なんで嫌うんだろ。
おいらとしてはそこんとこがわかんないんだよなあ。新たな発見が出来て良いと思うんだけど。
「おーい、虎賁。ヨウメイが叫んでるぞ―。」
へ?ヨウメイが叫んでる?
「ちょっと虎賁さん、何やってんですか!
コーチなんだからボーっとしてないで教えてくださいよ!」
「はいはい、分かってるって。」
たくう、教えられるのを嫌うくせに、よくそんな事が言えるよな・・・。
ちなみに今やっているのはテニスの試合。(まあ、それは最初のおいらのセリフからわかるかな。)
なんで練習もほとんどせずに試合かって言うと・・・。

≪回想シーン≫
(練習はちょこっとで良いですよ。そのうち慣れますって。)
(そうだな。ヨウメイの言う通り、少しだけ練習して試合やってみようぜ。)
(おいおい二人とも。おいらに言わせりゃ、それじゃあ絶対に試合になんないぜ。
もっと基礎を練習してからにしなよ。ぼうずも初心者のくせに。)
(何言ってんですか、虎賁さん。主様はテニスの経験者として、こうして付いて来て下さったんです。
大丈夫、なんとか成りますよ。)
(そうそう。前みたいに負けたらどうのとかないんだしさ。)
(だからってなあ・・・。)
≪回想終了≫

というわけで、いいかげんに試合を始めちまいやがったんだ。
おいらがあれほど無理だって言ってるのに・・・。
ぼうずが打つサーブが入ると、ヨウメイはそれを返せない。
そして、ヨウメイのサーブは一球も入っていない。
という訳で、おいらがコーチしてやってるにもかかわらず、
今だヨウメイは一度も勝ってないって訳だ。
まったく、あのへたっぴなぼうずが相手だってのに・・・。
「いっくぜー、それ!」
ぼうずが打つひょろひょろサーブ(実際そうなんだから仕方ない)
気合のこもった顔でヨウメイは構える。
「じゃあ一歩こっちへ寄って・・・そうそう。
そこでラケットを肩の高さに構えて・・・だからそうじゃないって。」
「えーっ?だって私の肩の高さってこれくらい・・・あいた!」
喋っている間にボールがヨウメイに命中した。これも何度目かな・・・。
「もうちょっとぱぱっと言ってくださいよ!遅すぎます!」
口だけは立派に動いてきやがるな。
体ももうちょいそれくらいに動かして欲しいもんだ。
「あのなあ、あんたの反応が遅いんだって。おいらは的確に言ってるぜ。」
「まあ、自分の悪いところを人に擦り付けようなんて。
やれやれ、教えてもらおうなんて思ったのが間違いでしたね。」
あ、あきれたやつだな。まさかここまで言ってくるとは思わなかったぞ!
「あんたが悪いんだろうが!球技の星神の目から見ればそれくらいわかるんだよ!!」
「ああそうですか。どうもすいませんねえ。」
一応謝ってきたものの、どうも謝っている態度じゃない。
腹が立ってきたおいらは、髪の毛をピンと引っ張ってやった。
「いたっ!何するんですか!」
「ちゃんと謝れよ。さっきのが謝ってるような態度に見えないんだよ。」
すると何やらぶつぶつ言いながら本をめくり出した。
あれ?これって確か統天書ってやつだよな。何する気なんだ?
「!!やめろ、ヨウメイ!!」
ぼうずが叫んだものの、それは少し遅かったようだ。
あるページで手を止めたヨウメイが叫ぶ。
「来れ、石降り!」
そしておいらをむんずとつかみ、テニスコートのど真ん中にぽんと置いた。
えらく丁寧に置いたなあ、なんて感心しているうちに、
ヨウメイはとたたっと駆け出して行ってしまった。
それに気を取られているうちに、おいらの周りに上空からばらばらと石が降ってきた。
「いててて!!ちょ、ちょっと、なんだよこれー!!」
頭を押さえて必死に走りまわるも、ここはテニスコート。しかも屋根の有る所には程遠い場所だ。
沢山の石がおいらを何度も直撃する。そういやヨウメイは自然現象を操れるんだっけ。
「・・・って、石降りなんて聞いたこと無いぞ―!」
「ちゃんとありますよ。統天書に載ってるんだから間違い無いです。」
おいらの叫びにご丁寧にも答えやがった。ますますむかつくぜー!

数分後、おいらはぼうずによってなんとか救われた。
ヨウメイの奴はぼうずにおもいっきり叱られてたけどな。
いい気味だ。テニスコートに石なんか降らせやがって・・・。
本日の教訓:『ヨウメイには頼まれても教えようとするな!』
しかし帰った途端月天様になぜか怒られてしまった。
キリュウに今日のことを話すと“自業自得だ”と言われた。
おいおい、慰めの言葉も無しかよ。更にキリュウはこう言った。
「先に暴力を振るったのは虎賁殿だろう?ならば仕方ないことだ。」
だって。そう言えば絶対に最初に暴力を振るわないって言ってたっけ。
けどな、髪の毛を引っ張っただけで石を降らされちゃたまんないっての。
今度からもっと慎重にならないといけねーな・・・。

<おわり>


その3『楊明と軒轅』

「軒轅さん、もうちょっと速く飛びましょう。」
私の声に快く答え、スピードを上げる軒轅さん。
それと同時に心地よい風が私の頬をなぞってゆく。気持ちいいなあ。
見てのとおり、今私は軒轅さんに乗せてもらって空を飛んでいるの。
私がいつも使っている道具(飛翔球)と比べて、
どっちが乗り心地良いのかなあなんて思って、シャオリンさんにたのんだって訳。
結果はもう一目瞭然!断然軒轅さんのほうがいい!!
さすがはいつもシャオリンさんを乗せて飛んでるってだけ有りますねえ。
「とってもいいですよ、軒轅さん。さすがは星神さんですね。」
私の笑顔混じりの声に、軒轅さんも笑顔で答えてくれる。
うーん、最高。いつまでもこうして乗っていたいな・・・。
でもそういうわけにはいかないもの。目的地が前方に見えてきた。
「あ―あ、もう宮内神社に着いちゃうのかあ。まあいっか。帰りも乗れるんだし。」
しばらくして軒轅さんがスピードと高度を下げる。
そして宮内神社に到着。私は軒轅さんから下りた。
「お疲れ様でした、軒轅さん。帰りもよろしくお願いしますね。」
笑顔で頷く軒轅さん。きゃー、可愛いわあ。
とと、さっさと用事を済ませちゃおうっと。
あたりを見まわして宮内さんを探す。
いつもの通り箒を持って掃除している姿を見つけることが出来た。
「宮内さーん!」
呼びかけるとくるっと振り向いた。そして笑顔で答える。
やっぱり女性にはいつも笑顔で答えてるみたいって感じね。
軒轅さんを促して、一緒に傍へと走り寄った。
「いらっしゃい、ヨウメイさん、軒轅さん。何かご用でしょうか?」
「いつもいつもヨモギもちやらお饅頭をいただいているでしょう?それのお礼に来たんです。」
すると宮内さんは髪をふぁさっとかきあげ(その癖いいかげん直せばいいのに)、
にこやかにこう言った。
「お礼なんていいんですよ。うちの母はそういうのを作るのが好きで、
それで家で食べきれない分を配っているわけなんです。
いつも家まで来ていただいて食べてくださる離珠さんや軒轅さんに、
母は“どうもわざわざありがとう”っていうくらいに感謝しているんですから。」
それを聞いて軒轅さんが少しばかり照れる。
ふーん、なるほどねえ。でもやっぱりお礼くらいはしたいな。
「それだったら宮内さん。私もそのお母さんに会わせていただけませんか?
ちょっとお話をしてみたくなっちゃったから。」
「いいですよ。お菓子を食べながらゆっくりどうぞ。」
そして宮内さんは神社に私達を案内してくれた。
応接間に通されて座っているとそのお母さんがやってきた。
「どうも、こんにちは。わざわざ来ていただいてありがとう。
私とお話がしたいそうで、いろいろお話しましょうね。」
「は、はい。」
軒轅さんと一緒にお辞儀。(私は少し慌ててたけど)
ふえ―、それにしてもそっくり。宮内さんはお母さん似なんだ。
「それでは私は失礼します。まだ掃除が残っているので。」
そう言って宮内さんは出ていった。改めてお母さんを見ると、とってもやさしそう。
そして話をしてみると、これまたすごくいい人だった。
なるほどねえ、こりゃあ確かにお礼を遠慮しそうな人だわ。
横で軒轅さんがおいしそうにお饅頭を食べているのにつられて、
私も慌て気味にお饅頭を口にする。やっぱりおいしいなあ・・・。
その饅頭で思い出してお礼の話をしたんだけど、やっぱり遠慮されちゃった。
出雲さんが言っていたこととほとんど同じように。やっぱり親子ねえ・・・。

話を適当なところで終え、深深と頭を下げて宮内神社を後にする。
結局用事を済ますどころかお土産までもらっちゃった。
それにしても軒轅さんて良く食べるなあ。私の三倍は食べてたような・・・。
ううーん、主様の周りの人(軒轅さんは人じゃないけど)って、
食べ物を大事にする人達ばかりなんだ。少し感心しちゃったな。
うんうんと頷いていると、軒轅さんが私の方を見上げて不思議そうな顔をした。
それに気がついて、にこりと笑顔で返す。
「軒轅さん、私ますます軒轅さんのこと気に入りました。
これからもよろしくお願いします。時々こうやって乗せてくださいね。」
軒轅さんも笑顔になって私に答えてくれた。やっぱり可愛いなあ。
「そうだ、もうちょっと空を飛んでまわってくれませんか?
一直線に家に帰るのがもったいなくって・・・。」
そんな私の願いに軒轅さんは快く承諾し、七梨家とは別方向へと向きを変えた。
爽快な空の散歩は長々と続き、帰った時間はかなり遅かったけど。
玄関で軒轅さんと笑顔で頷きあう。ああ楽しかった。

<おわり>


その4『楊明と瓠瓜』

ただいまあたしは七梨の家のリビングで座っている。
もちろん瓠瓜を抱いて。そして目の前に居るのはヨウメイだ。
せっかくシャオに会いにきたってのに、全員出掛けてるんだとさ。
なぜか家に居たのは瓠瓜とヨウメイ。まあ瓠瓜が居るんだし、と思ってこうして居るんだけど・・・。
「なんか喋ってくれよ。あたしはお客さんなんだから。」
「そう言われましてもねえ。・・・そうだ、山野辺さんはどうして瓠瓜さんがお気に入りなんですか?」
なんだか随分いきなりな質問だな。でもまあ、瓠瓜につられて上がったんだからしょうがないか。
「どうしてって、可愛いじゃん。星神の中では瓠瓜が一番のお気に入り。
瓠瓜もあたしが好きなんだよな。なあ瓠瓜?」
「ぐえっ。」
愛くるしい瞳で返事をしてくる。くうう、やっぱり可愛い!!
「なるほどねえ・・・。あの、ちょっとすいませんが私にも抱かせてもらえませんか?」
「ああいいよ。それじゃあ瓠瓜、ちょっとヨウメイの所でな。」
「ぐえ〜。」
そんな悲しそうな瞳をするな、すぐにあたしの所へ戻れるさ。
「・・・あの、山野辺さん?」
「あ、ああ、わりいわりい。ほら。」
瓠瓜をヨウメイが抱き上げると、瓠瓜も笑顔で“ぐえっ”と鳴く。
遠くから見ても可愛いなあ。
「へええ、確かに可愛い。すりすりしちゃおうっと。」
「ぐえっ。」
あ、ああっ!!あたしの瓠瓜にそんなうらやましい事を!
・・・なんて、あたしもしょっちゅうしてたっけ。
「ところで、瓠瓜さんの胃袋にはどれくらいのものが入るんでしょう?」
「さあ?シャオに聞いてみれば?って、統天書には載ってないの?」
するとはたと気付いた様に統天書をめくり出すヨウメイ。
あのな、なんで人に言われるまでそういう事に気付かないんだ。
「あったあった。・・・不明。なるほどねえ。」
「なんだ、そうか。」
もう一度瓠瓜を抱き上げるヨウメイ。真正面に顔を見つめながら尋ねる。
「ねえ瓠瓜さん、どのくらいの物を入れられるんですか?」
「ぐえっ。」
あのな、瓠瓜に聞いたってそんなに分かるもんじゃないだろ・・・
「なるほど、とりあえず限界は自分でもよくわからないのですか。」
「え、ええっ!!?瓠瓜の言葉がわかったの!!?」
ヨウメイはこっちを見て笑顔でこくっと頷いただけ。
す、すごい、さすが知教空天・・・。
「山野辺さんの事好きですか?」
ななな、なんてこと聞いてるんだ!
「ぐえっ。」
「大好きですって。もっと一緒に居られたら良いのに、って。」
「え、ええ?そうなの?瓠瓜ぁ、やっぱりおまえって可愛い奴だなあ。」
なんだか上機嫌に成ってきた。家にお邪魔して正解だ!
「ぐえ。」
「なるほどお、そろそろ翔子さんの元に行きたいと。」
「そ、そうなの?それじゃあヨウメイ・・・。」
近づいたあたしだったが、ヨウメイはあたしからさっと瓠瓜を遠ざけた。
「ヨウメイ?」
「そんなのこの私が許しません。来れ、雷壁!」
途端にヨウメイの周りに壁ができた。しかも電気の壁だ!
「ヨウメイ、どういうつもりだよー!」
「もうちょっと瓠瓜さんと居たいんです。もっとすりすりしちゃおうっと。」
「ぐえっ。」
また瓠瓜がなにか言ったみたい。今度はなんて言ったんだ?
「ヨウメイさんの傍も良いって。というわけでしばらく私が独占させてもらいますよ。」
「あああっ、そ、そんなあ。瓠瓜ああ!!」
そして幾度となく瓠瓜にかいぐりかいぐり、すりすり、ふにふにするヨウメイ。
そうか、ヨウメイも瓠瓜派だったのか・・・って、感心してられないって―!
「ヨウメイ!いいかげん瓠瓜を返してくれよー!」
「駄目でーす。もう時間も遅いし帰られてはいかがですか?」
「そんな事できるかー!瓠瓜ー!!」
まさに指をくわえてみている状態。それが夕方まで続いた。

いつのまにか瓠瓜は眠ったらしく、ヨウメイの腕の中ですやすやと。
とその時、玄関のドアが開く音が。そして・・・。
「ただいま―!ヨウメイ、留守番ご苦労さん・・・あれ、翔子?」
帰ってきたのは那奈ねぇだ。あたしを見てきょとんとしている。
よっしゃ、あたしの親友の瓠瓜派が帰って来た。ここで瓠瓜を!
「まさかヨウメイに瓠瓜を取られて嘆いてたのか?
相手が悪いからあきらめろ。あたしもそれで何度負かされたことか・・・。」
「ええっ!?那奈ねぇも!?」
驚いていると、横からヨウメイが口を挟む。
「ちなみに私はお二人みたいに瓠瓜派じゃないですからね。
瓠瓜さんを取られて悔しそうにするお二人の姿を見たいが為に、こんな事してるんです。
まあ、もういいかげんやりましたね。では、消えよ、雷壁!」
電気の壁がすうーっと消え失せると、ヨウメイはにこにこ顔のまま瓠瓜を手渡してきた。
あたしはすやすやと眠っている瓠瓜を起こさない様に慎重に受け取る。
「ちなみに、瓠瓜さんの翻訳みたいに言ったのもほんの冗談ですから。
いやあ、面白かったですよ。ありがとうございます。」
ヨウメイはぺこりとお辞儀するが、あたしは開いた口がふさがらない。
冗談?面白かった?なんてやつなんだ・・・。
「あたしと瓠瓜が一緒に居る時は必ずといっていいほど妨害に来るんだ。
だから、見かけたら一目散に逃げる事にしてるんだけどね。」
笑いながら言う那奈ねぇ。今一つ疑問が浮かんだからヨウメイに聞いてみた。
「なあヨウメイ、そこまでする理由はなんだ?」
「瓠瓜さんの秘密をいずれ・・・と思いまして。
瓠瓜派の二人によって油断している時を狙ってるわけなんです。」
そこで分からないという顔であたしと那奈ねぇは顔を見合わせる。
「秘密ったって、統天書に載ってない事が分かるのか?」
「統天書は成長するんです。必死に秘密を守ってる・・・かどうかは知りませんが、
とにかく瓠瓜さんが油断すれば、秘密自体が統天書に書かれるんです。
もちろん私自身が傍に居て念じないといけませんけど。」
「なるほど、それですりすりしてたって訳なんだ。」
なんとなく納得した那奈ねぇだったが、あたしは更に突っ込んだ。
「それにしてはあたしから奪ってかなりの間やってたじゃないか。
油断なんて短時間で消えるもんだろ?」
すると、ヨウメイは少し顔を赤くしながら答えてきた。
「だって、可愛いんですもん。何度もしたくなりますよ。」
「「・・・・・・。」」
それこそ瓠瓜派じゃないのか?
しっかし、瓠瓜派でライバルのようなやつが出てくるとはな・・・。
眠っている瓠瓜を見て、あたしはなんとなく気を引き締めるのだった。

<おわり>


その5『楊明と羽林軍』

「万象大乱。」
「うわあああ!!」
ドゴオオオオオン!!
というわけで、(毎度毎度キリュウさんもよくやるなあ)家の一部が破壊されちゃいました。
それを直すのも試練のうちだとかいう事で主様が直してたんですが、どうもよくない。
隙間風ぴゅうぴゅう、雨漏りぽたぽた。全然駄目じゃないですか。
「キリュウさん、主様に直させるなんて無理ですよ。」
「しかしヨウメイ殿、初期の頃に比べればかなり良くなったのだぞ。」
「それでも普通に暮らせるもんじゃないですよ。あれじゃあ・・・。」
壊れている個所を懸命に直す主様。でもやっぱりそんなに綺麗には・・・。
で、結局羽林軍さんたちの出番。シャオリンさんに呼ばれて、一斉に修理を始めました。
「羽林軍さん、だからそこはもう少し強く打ちつけないと・・・。」
「ヨウメイ殿、そんなに口出しするならそなたがやれば良いのに。」
「言う事とできる事は違うんです。ああ、だからそうじゃないって・・・。」
いちいち余計な事を言うキリュウさんを置いて羽林軍さんの傍による。
確かに建築のプロっていう感じの作業。だけどなあ・・・。
しゃがみこんで、作業中の二人に言う。
「いいですか、ちょっと私の言う通りにしてみてください。
まず釘をこういう角度で打ちつけて・・・そうそう、そうです。
で、次に添え木を・・・ええ、そんな感じ。・・・ああ、それは違う!」
ちょっと声を大きくすると、他の羽林軍さんたちがじろっと睨む。
な、なんかすごい威圧感を感じるなあ・・・。
それでも構わず言うのが私のモットーって事だけどね。
「だからその木の板は・・・ああ、そうじゃないのに・・・。」
思わず額を押さえる行動を取る。と、二人のうちの一人が不機嫌そうにその板を差し出してきた。
「あの、ひょっとして私にやれと?」
こくりと頷く羽林軍さん。戸惑いながらも私はその板を受け取った。
でもなあ、私は教える事が専門であって実際にやって見せるなんてできないんだけど・・・。
しばらくの間困ってじっとしたままでいると、他の場所から幾人かの羽林軍さん達がやって来た。
なんだか大工道具を構えてて怒ってるみたい。
「もしかしてできもしないくせに口出しするなっていう事ですか?
そんでもってこれ以上口出しするなら力ずくで追い払うぞ、という事ですか?」
すると二回ほど大きく頷く羽林軍さん達。
なるほどねえ、強行手段に出たわけか。それならそれでこっちにも考えがあるもん。
「分かりました、でもとりあえずじっと見させていただきますね。
もちろん口出ししませんから。これなら良いでしょう?」
そして頷く羽林軍さん達。大工道具を片手にそれぞれの位置に戻ったみたい。
さてと、それじゃあゆっくり拝見させていただきましょうか。
作業を開始する先ほどの二人の羽林軍さん。とんとんとんと釘を打つ音が響く。
しばらくしてそこの部分作業が終わったみたい。意気揚々と他へ向かおうとする。
もちろん私はその二人を呼びとめた。
「羽林軍さん、これで終わりなんですか?」
すると二人ともそれが当たり前かのように頷いた。
よーし、ここで私がそれでは不十分だって証明してやるから。
「でもね、ここをこうすると・・・。」
ちょっと指を引っ掛けてべりべりべりと板をはがす。
“ああー!”という顔で二人とも見てたけど、構わず全部はがしちゃった。
「ね?すぐにはがれちゃうでしょ?だから私が言うようにすれば・・・。」
気がつくと、私は周りを取り囲まれてた。
45人全員が(正確には43人。さっきの二人は落ちこんでたから)、
それぞれ武器を構えてこっちをおもいっきり睨んでる。
うっ、ちょっとやりすぎちゃったかな。でも・・・。
びくつかずにきりっとした顔でいると、その中の一人がずいっと前に出た。
「えーと、自分達なりのやり方があるんだから余計な口出しするなって?
もう我慢できない。一分以内にここから立ち去れ?」
言葉を返してあげると、その羽林軍さんはこくりと頷いた。
もちろんこっちだって負けちゃいられない。表情を変えずに言葉を発する。
「言いたい事は分かります。自分達の仕事は自分達が一番よく分かってるって。
でもね、私だって助言はできます。さっきの板をはがしたのだって、それを分かってもらうためです。
私みたいな非力なものでも簡単にはがせるんですよ。
そんな状態をちょっとの時間でも置いてみてください。
となれば、例え後で修復しようとしても完璧にはならないという事が見えてますね?
だから、その途中途中の過程でも大切に・・・あれ?」
熱心に演説していると、誰かに後ろからひょいっと持ち上げられた。
「はいはい。いいかげんそんなのは羽林軍に任せて・・・。
御飯なんだから早く降りてきてよ。」
ルーアンさんだ。今は御飯よりも大切な事をしてるのに―。
「下ろしてくださいよ、ルーアンさん。まだ途中なんですってば。」
「もういいじゃない。羽林軍達だってヨウメイの言いたい事はわかってるわよ。
それじゃああんた達、家の修理頑張ってね。」
そう言ってルーアンさんはくるりと向きを変えた。
下ろしてもらおうと懸命にもがく。でも、全然効果が無いみたい。
「じたばたしたって無駄よ。あんたの力ぐらいどうって事無いんだから。」
「ちょ、ちょっとー!え―ん、まだまだ言いたい事が―!!」
叫びながら羽林軍さんのほうを見ると、45人とも笑顔で手を振ってくれた。
だああ、だからまだ言い足りない事があるってのにー!!
「羽林軍さん、後でお話しましょう、後で!!」
「そんなもんはこの私が却下するわ。さあて、御飯御飯♪」
「そ、そんなー!なんでルーアンさんが却下するんですか―!」
するとルーアンさんは向きを変えて窓の方へ・・・。
言い忘れてたけどここは二階なの。
「さあて、この状態であたしが手を放しちゃえば落ちるわねえ。」
「ええっ!?あの、冗談ですよね?」
「あ、そうだ羽林軍。この下にとがったくいとか立てとけば?
十中八九このヨウメイに突き刺さる事うけあいよ。」
その言葉に反応するかのようにさくさくっと準備を始める羽林軍さん。
「ちょ、ちょっと待った―!!分かりました、もういいですから許して―!!」
「もういいですから?くいを増やした方が良いかしら・・・。」
「わああ――!!私が悪かったです―!!ごめんなさい―!!」
「そうそう、最初っからそう素直だったら良いのに。それじゃあ御飯食べに行きましょ。」
「ぐす・・・。はい・・・。」
いつのまにか私は半べそをかいてたみたい。
そして、結局私は御飯の場へと連行(?)されてしまったのでした。
リビング。皆が待ちかねたように座っています。
「まあヨウメイさん。なかなか降りてこないんで心配したんですよ。」
「遅いなあ。こっちは待ちくたびれてるってのに。」
「・・・?どうしたのだ、ヨウメイ殿。なにかあったのか?」
「いえ、なんでもないです・・・。」
無愛想に答えちゃったけど、ちゃんと気遣ってくれるキリュウさんてやさしいな。
「まあ何があったにしろそれも試練だろう。頑張って耐えられよ。」
「・・・・・・。」
前言撤回!!人が泣いてる時に試練はないでしょうが。まったく・・・。
不機嫌に御飯を食べ始めると主様が・・・。
「ヨウメイ、いただきますは言わないのか?」
ですって。そういえば忘れてたな。もういいや・・・やっぱり駄目!ちゃんと言わなきゃ。
「いただきまーす!」
「「「「「いただきまーす!!」」」」」

その後、羽林軍さんの手つきが以前より良くなったみたい。
なんだあ、それなりに私の言う事聞いてくれたんだ。
それでもまだまだ言いたい事は残っている。
とはいうものの、あまりにもしつこく言っているとやはり途中で妨害が・・・。
うーん、こうなったらのんびりといくしかないみたい。気長に、ね。

<おわり>