小説「まもって守護月天!」(知教空天楊明推参!番外編)

≪楊明と星神達≫


その13『楊明と天高』

「シャオリンさん♪ちょっと天高さんを呼び出してくれませんか?」
「天高ですか?いいですよ、来々、天高!」
支天輪から飛び出す天高さん。ばさばさと舞ったかと思うとあたしの腕に止まってくれた。
うーん、かっこいいなあ。この角がなんとも言えないっていうか・・・。
「あの、天高で何をしようというんですか?」
そういえば詳しい理由を言ってなかったっけ。
不思議そうな顔で尋ねてくるシャオリンさんに笑顔で答える。
「ちょっとルーアンさんとキリュウさんとかくれんぼをと思いまして。
それで是非とも天高さんの協力が必要なんです。それじゃあ行きましょう、天高さん。」
今だ疑問の顔だったシャオリンさんと天高さんだったけど、やがて納得したような笑顔に。
よーし、これでばっちりだ。絶対に二人に勝つぞー!
意気揚々と玄関へと向かい、外へ出る。
そう、かくれんぼってのはこの町内でやろうって訳。広くないと面白くないしね。
「なるほどね、後一人誰を連れてくるかと思えば・・・天高を連れて来たって訳ね。」
「よくシャオ殿が承知したな。断るかと思ったのだが・・・。」
「そこは私の人徳ってやつですよ。えっへん♪」
というよりは別に深い理由を告げてないからなんだけどな。
真の目的を知ったら多分貸してくれなかったかも・・・。
「それじゃあ始めましょうか。見事あたしとキリュウを見つけて捕まえてごらんなさい。」
「制限時間は一時間だったな。」
「ええそうです。それではゲームスタート!!」
私の合図と共に、ルーアンさんとキリュウさんはさあっとこの場からいなくなった。
さあて、カウントしようっと。
「いーち、にーい、さーん、しーい・・・。」
一応玄関の壁に向いて数を数える。わーい、なんだかわくわくしてきたあ。
ちなみに天高さんは私の足元で待機。
で、なんだか上機嫌になってカウントを続けていると、後ろから声が。
「何やってんの、ヨウメイちゃん。」
振り返るとそこに立っていたのは野村さんと遠藤さん。
多分シャオリンさんとルーアンさんに会いに来たんだろうな。
「かくれんぼの鬼ですよ。お二人はシャオリンさんとルーアンさんに会いに来たんですか?」
「ま、まあそうなんだけど・・・。」
「でもどうしてかくれんぼなんかしてるの?」
興味津々と聞いてくる遠藤さん。そうだ、ちょっと遊んじゃえ。
「実はかくれんぼの相手はルーアンさんとキリュウさんなんですけど、
一時間以内に見つけられれば何でも言う事を聞いてくれるという約束なんです。
隠れている場所は鶴ヶ丘町のどこか、という訳ですけどね。
そんでもって見つけた方にはシャオリンさんから多大なるご褒美が・・・」
「「なんだって!!?」」
言葉を遮って叫ぶお二人さん。
まあまあ、落ち着きなさいって。まだ続きがあるんですから・・・。
「乎一郎!早く探しに行こう!!」
「うん!!ルーアン先生を見つけるんだ―!!」
お互いに顔を見合わせたかと思うと猛ダッシュでその場を去って行った。
あーあ、落ち着きがない二人だなあ・・・。
「最後にそんなのは嘘ですって言うつもりだったのに。
まあ最後まで話を聞かなかったあの二人が悪いですよね。」
悪戯っぽい笑顔を浮かべて天高さんを見ると、なんだか呆れ顔に・・・。
やっぱりねえ、そういう反応をするのが普通かあ。
「心配なさらなくっても、ついでにあの二人を探すってことで良いでしょう?
さあてと、続きを数えなきゃ。よんじゅういち、よんじゅうに・・・。」
またもや上機嫌になって数を数える。
けれどそんな時に限って人は来るもの。またもや後ろから声をかけられた。
「こんにちは、ヨウメイさん。シャオさんはいらっしゃいますか?」
今度は宮内さんだ。いつもの様にふぁさっと髪をかきあげる。
毎度毎度飽きないなあ。まさかそれをやるためにそんな髪型してるのかな・・・。
やっぱり遊んじゃえと思い、私はにこやかにこう告げる。
「シャオリンさんはこの町のどこかにいらっしゃいます。
最初に見つけたならば、すっごくいい事をしてくれるとかくれないとか。」
「な、なんですって!?なるほど、かくれんぼというわけだったんですね。
これは貴重な情報をありがとうございました。では!!」
手に持っていたお土産を私に素早く手渡したかと思うと、宮内さんも猛ダッシュでその場を去る。
なるほどお、薄皮饅頭ですか。後で皆と食べることにしましょう。
「それにしても単純って言うかなんて言うか・・・。
あまりにもうのみにし過ぎじゃないかな。まさか主様は引っかからないでしょうね・・・。」
さっきと違って天高さんの方を見て苦笑いする。
すると天高さんはやれやれというような顔つきで返してきた。
「だってそう思うでしょう?・・・まあいいや、続きやろうっと。
ななじゅういち、ななじゅうに・・・。」
再び上機嫌に成っていたんだけど、二度ある事は三度あるって言うのかしら。
もうすぐ百っていう時に後ろから声をかけられた。
「何やってんだ?ヨウメイ。」
振り返ると、今度は主様。なぜか山野辺さんと一緒・・・。
「主様こそどうしたんですか。珍しく山野辺さんと一緒じゃないですか。」
「あたしが七梨といると変か?たまたま出会ったから遊びに来たんだよ。」
「それよりヨウメイ、おまえ何やってるんだ?壁に手をついて数なんか数えて・・・。」
ちゃんと説明しようと思ったけど、ある一抹の不安が頭をよぎった。
もしかしたら・・・と思って、二組の時と同じようににこやかに告げる。
「かくれんぼですよ。この町に隠れているルーアンさんとキリュウさんを、これから探すんです。
それで、見事一時間以内に見つけられたら、シャオリンさんからそれはもう・・・っていうご褒美が。」
「へーえ。なるほどねえ・・・。」
主様はそっけない反応を見せた。
良かったあ。あの三人と同じ様に飛び出しちゃったらどうしようかと思った。
ほっと胸をなでおろしていると、山野辺さんが何やらごにょごにょとやっている。
ちょ、ちょっと。これはひょっとしてまずい展開なんじゃ・・・。
少しおろおろしていると、する事を終えた山野辺さんがこちらを見る。
「七梨が先に見つけてもいいよな?」
「へ?ええ、多分いいと・・・って、ちょっと待って下さい!!」
「行け、七梨!!」
「おっしゃー!」
呼び止める間もなくそこからいなくなる主様。
“あーあ・・・”という顔で山野辺さんを見上げる。
「まったくもう、なんてことをしてくれたんですか・・・。」
「別にいいだろ。ヨウメイより先に見つければ大したもんじゃないか。
それこそシャオのご褒美も貰えるんだし、これぞ一石二鳥ってやつだよ。」
けたけたと笑う山野辺さんに少しの間あっけに取られる。
やれやれ、とりあえず数を数えなきゃ・・・。
「えーと。きゅうじゅうはち、きゅうじゅうきゅう、ひゃーく!
それじゃあ天高さん、早速主様を探してください。急いで連れ戻します。」
“やっと出番か”というような顔をしたかと思うと、天高さんは空高く舞いあがる。
それと同時に私も統天書を開き、早急に準備を整える。
「ちょっと待てよ、ヨウメイ。七梨の努力を邪魔しようってのか?」
「だからあ、あれは嘘なんです。私とルーアンさんとキリュウさんとで、
ただかくれんぼをしてるだけなんです。」
「はあ?ってことはシャオのご褒美ってのは・・・。」
「そんなもの有るわけがないでしょう。だから待って下さいって言ったのに・・・。」
ぶつぶつと文句を言いながら統天書をめくる。
なんだか山野辺さんは呆然としていたけど、すぐに私に詰め寄ってきた。
「なんで嘘なんかつくんだよ!完璧に信用してたぞ!!」
「試したんですよ。お二人が声をかける前にも二組来た人がいるんです。
同じような事言ったら疑いも無く駆出して行っちゃって・・・。
それでまさか主様は、と思って試したんです。最初の反応で安心してたのに・・・。」
「あのな・・・。」
呆れながらも山野辺さんは引き下がった。なんだか困ったような顔をしている。
いくら困られたって、最後まで人の話を聞かないのが悪いんですよ。
まったくもう・・・今度その辺をきっちり言っておかないと。
と、天高さんが主様を見つけたみたいで、何やら合図のようなものを送る。
それが当然統天書に示される。いちいち降りて来なくても良いようにね。
「ふむふむ、この位置か。では、来れ、強風!」
天高さんが示した位置に超強力な風を吹かせる。
案の定、主様だけが空に巻き上げられ、こっちへと飛んで来た。
「うわあああ!!」
ヒュウウウウ・・・ドーン!!
カッコ悪い着地だったけど、なんとか連れ戻す事に成功。
さあてと、肝心の二人を探さないと・・・。
上を向いて天高さんに合図を送る。そして天高さんは別の場所を探し始めた。
「いたたた・・・げ!?なんで俺ん家に!?ヨウメイぃぃ!!」
「お、落ち着けって七梨!」
今にも私に向かってきそうな主様を山野辺さんが必死に止める。
そしてなんとかその状態で主様を説得したようだ。へなへなと座り込む主様。
「あのなあ・・・。嘘なんてついてんじゃないよ・・・。」
力無くも文句を言ってくる主様に、当然私は“きっ”と睨んで返した。
「人の話を最後まで聞かないからじゃないですか!!
今度それに関してみっちり鍛えるつもりでいきますからね!!」
「・・・・・・。」
無言になったかと思うと、二人ともいそいそと家の中へ入っていった。
やれやれ、とんだ時間くっちゃった。急いでやらないと・・・。
統天書をじっと見つめる。と、天高さんからの合図が。
「なるほど、ルーアンさんはあの位置か・・・。
何が効果的かな・・・よし。来れ、落石!!」
町のとある場所で、何も無い所からわいて出た岩が降り注ぐ。
いいかげん岩の山ができたところで、私は統天書を閉じて飛翔球を絨毯に変えた。
素早く空へ繰出すと同時に、天高さんも私と同じ位置へと飛んでくる。
お互いを確認して頷き、そしてルーアンさんが居る場所へ向かった。

数分後にその目的地へ到着。落石によってあちこちが壊れているみたい。
地面に降り立つと、瓦礫の下敷きになってうめいているルーアンさんを発見できた。
「ちょっと―、なに無茶苦茶やってんのよお。限度ってもんを考えなさいって・・・。」
「だって、これくらいしないとすぐに逃げられちゃうじゃないですか。
とりあえずルーアンさん、つかまーえた♪」
はねる感じで宣言するとルーアンさんはこくりと頷いた。
それを確認して統天書より呼び出した岩を全て消す。
やれやれというような感じでルーアンさんはそこから起き上がった。
「まったくとんでもないわねえ・・・。さてと、後はキリュウだけど・・・。」
「ルーアンさんは一足先にお家で待っていてください。キリュウさんを連れて帰りますから。」
「ま、頑張りなさいね。それにしても・・・。」
ルーアンさんが辺りを見回すと同時に、沢山の人の視線が目に入った。
手加減なしに落石を呼んじゃったもんだから、崩れた建物が沢山。
ルーアンさんの言う通り、ちょっとやりすぎちゃったかな・・・。
「じゃあね、ヨウメイ。後始末とか頼んだわよ。」
「ええっ?私がそんなものしなくちゃいけないんですかあ?」
「これだけやっといて何無責任な事言ってんの。ちゃんとやんなさいよ。」
それだけ言うと、ルーアンさんは手近に有るものに陽天心をかけて飛んで行っちゃった。
はあーあ、こういうのを自業自得って言うのかな・・・。
「しょうがないですね。私が後片付けをしている間にキリュウさんを探していてください。」
天高さんは“承知した”と言わんばかりに頷いて空高く舞いあがった。
「さあてと・・・どれから手をつけようか・・・。」
とりあえず壊れてしまった建物を直すべきか。というわけで・・・。
「万象復元!」
瓦礫がずずっと動いて行き、あっという間に元通りになってゆく。
さすが生物じゃないだけあって早いなあ。あんまり疲れないしね。
で、全てが完全修復した時に統天書に合図が。
「早い!もう見つけたんだ。どれどれ・・・。」
統天書を見ると、なるほどキリュウさんの位置がわかったようだ。
「よーし、今度は後片付けなんてしなくて良い様に、っと。」
飛翔球を取り出して空へと舞いあがる。
そこらへんにいた人達は唖然とした表情で見送っていたけど・・・ま、いいよね。
壊れていたのは建物に限らなかったんだけど、何とかしてくれるでしょう。
「さてと、キリュウさんはあの場所ですね。では、来れ、吹雪!!」
町のとある場所が吹雪で荒れ狂う。天高さんを促して二人でそこへ直行。
そこまで距離がちょっとあったので、少しお話をする。
「それにしてもさすがですねえ。ルーアンさんをああもあっさりと見つけるなんて。
キリュウさんにしたってすぐに見つけたじゃないですか。やっぱりすごいですよ。」
激励の言葉をかけると、天高さんは別に照れる様子も無く・・・。
「え?偵察用の星神だからそれぐらいは出来なければいけない?
なるほどねえ、この程度は当然という事ですか。お見逸れしました。」
少し頭を下げると、天高さんは当たり前というような感じの顔になった。
随分とクールに返してきたなあ。でも、それだけ頑張ってるって事だよね。
そうか、そういうことか・・・。私も少し見習うべきかな・・・。

で、そうこうしているうちに目的の吹雪いている場所へと到着。
果たして、そこには凍りついたような格好で立ち尽くしているキリュウさんが居た。
早速吹雪を止めてキリュウさんに寄る。
「キリュウさんつかまーえた。えへへ、所要時間三十分とかかりませんでしたよ。」
「さ・・・さむ・・・よ・・・。」
せっかくにこやかに言っているのになんだか反応が・・・。
「やれやれ。来れ、灼熱!」
あっという間にキリュウさんの体が凍結から解け始める・・・。
「あ、暑い!!やめろー!!」
「はい、止めました。ともかくもう一度言いますよ。キリュウさんつかまーえた♪」
「まったく・・・もう少し普通に捕まえられぬのか?」
「だって、油断してたらすぐに逃げられちゃうじゃないですか。
私は手加減して捕まえられるなんて思っちゃいませんからね。」
「なるほどな。それもそうだな・・・。」
ここまで言ってようやくキリュウさんは納得した。
まったくもう、自分の事くらいちゃんと把握しておいて欲しいな。
「ところでルーアン殿は?」
「とっくに見つけて捕まえました。今ごろは主様の家で待ってるんじゃないですか?」
「なんだと!?という事は私達の負けか・・・。」
「そうです。これも天高さんのおかげですね。」
改めて天高さんを見ると、やはり照れた様子も無いみたい。
どうしてそんなにクールでいられるんだろ。すっごいなあ・・・。
「それでは帰るか、ヨウメイ殿。」
「あ、そうですね。約束はちゃんと守ってもらいますよ。」
「ああ、分かっている・・・。」
キリュウさんに促され、三人で空へと繰出した。
帰る途中で天高さんがなにやら不思議そうな顔で聞いてくる。
「え?約束って何かって?それはですねえ、二人がこれから一週間私の言う事を聞くって事です。
そうそう、もちろん今回の功労者の天高さんにもそういう恩恵がいきますから。」
すると天高さんはなにやら困った表情に。どうしたんだろう・・・。
「一週間もそうやって支天輪の外にいるわけにはいかない?
もう、そんな堅い事言いっこなしですよ。シャオリンさんも快く承諾してくれますって。」
それでもやっぱり難しい顔をしていた天高さん。
けれど、家に着く頃には“まあ良いかな”というような表情で頷いた。
良かったあ。これで天高さんが遠慮なんかしちゃったら、私まで恩恵が受けられなくなるところだった。
そして七梨家に到着。玄関の軒先でルーアンさんが腕組して立っていた。
「おかえんなさい。結局時間内にキリュウも捕まったのね、やれやれだわ。」
「済まぬ、ルーアン殿。まさかこんな短時間で見つかるとは思ってもみなかったから。」
「それもこれも天高さんのおかげですね。天高さん、ありがとうございます!」
改めてお礼を言ったけど、やはり天高さんは照れている様子は無し。
・・・なんだか悔しい。よーし、絶対照れさせてやるんだから。
別の事で心の炎を燃やし出したとき、玄関のドアがガチャッと開く。
「おーい、三人とも。夕御飯だから早く中に入れよ。」
主様だ。夕御飯?もうそんな時間なの?
「主殿、昼御飯の間違いではないのか?まだこんなに明るいのに。」
「そうよ、たー様。それで無ければおやつじゃないの?」
キリュウさん、いくらなんでも昼御飯は一度食べたじゃないですか・・・。
私はルーアンさんの言う通りおやつだと思うんですけど。
「・・・そういやあそうだった。おやつだおやつ。
いや、ちょっと頭の中がごっちゃになっちゃってさ、ははは・・・。」
笑ってごまかした主様だったけど、それをじと目で見る私達。
そりゃそうでしょうねえ。おやつと夕御飯がどうやってごっちゃになるのやら・・・。
まあいっか、細かい事は気にしない。それに丁度良かったし。
という事でご機嫌になって家の中へ。
リビングではシャオリンさんと山野辺さんと那奈さんがお菓子を広げていた。
「あ、三人ともお帰りなさい。これ四人で作ったんですよ。」
「どうだ、なかなか上手く出来てるだろう。いやあ、作るのも楽しいもんだな。」
「それにしても三人でかくれんぼしてたんだって?よくやるよなあ、まったく。」
三人の言葉にはにかみながらソファーへと腰を下ろす。
豪華ですねえ。うーん、これなら夕御飯と間違えても仕方ないかも、なーんてね。
ますます上機嫌になっていると、ルーアンさんが尋ねてきた。
「ところでヨウメイ、その手に持ってるのはなんなの?」
「ああ、これですか。これは宮内さんが・・・いっけない!!」
慌てて立ちあがる。と、皆が何事かと言わんばかりにこちらを見た。
「どうしたんだよ、ヨウメイ。」
「三人を探すのを忘れてました。ああ、急いで探しにいかないと!」
急いでリビングを出ようとする、とキリュウさんが不思議そうに言った。
「三人とは誰だ?まだかくれんぼをしていたのか?」
「いえ、その、まあそんなとこです。ふええん、おやつはおあずけだあ・・・。」
少しなきそうになりながらも外へ飛び出す。と、後から天高さんが付いて来た。
「天高さん・・・手伝ってくださるんですか?」
すると天高さんは“なにをおっしゃる”と言わんばかりに頷いてくれた。
う、嬉しいよお。やっぱり天高さんはいい星神さんだあ。
「それじゃあちゃっちゃと探しましょう。再びお願いします!」
合図と共に空高く舞い上がる天高さん。私も例のごとく統天書を開ける。
つまり、かくれんぼの時と同じ要領だって事。そして・・・。

あっさりと三人とも見つかり、なんとかことなきを得た。
野村さんと遠藤さんはルーアンさんの居た場所のすぐ近く、瓦礫に埋もれてたみたい。
宮内さんはキリュウさんの居た場所の近く。案の定凍り付いて動けなかったもよう。
で、帰って来た時に嘘だという事を話すと、へにゃへにゃと三人とも座り込んだ。
反論してくる前にしっかりと言いくるめたけどね。
ところが、おやつにありつけたまでは良かったんだけど、真の目的を知ったシャオリンさんが激怒。
ルーアンさんとキリュウさんと交わした約束は無効にされちゃった。
更には天高さんのために私がいろいろとする事に。えーん、どうして?
いろいろするって言っても、天高さんが望む場所とかを作り上げたり・・・。
でも、天高さんはほとんどわがままを言わないのでかなりらくちんだったり。それにしても・・・。
「どうしていつもいつも天高さんはそんなに落ち着いてるんですか?」
すると、なんとこんな答えを返してきた。
「壮大な空からいつもしたを見下ろしているから、ほとんどの事はちっぽけに思えてくる。
はあ、なるほどねえ。確かにそうですねえ・・・。」
なんだかキザって感じもするけど、それだけ心が広いって事なのかな。
たまにはこういうひとが居たっていいよね。私も少し見習おうっと。

<おわり>


その14『楊明と塁壁陣』

今日は日曜日。別段用事も無かったし、何事も無く平和に終わるはずだった。
ヨウメイちゃんが来るまでは・・・。

「こんにちはー。」
“ピンポーン”という音と共に聞こえてきた女の子の声。急いで僕はそこに駆け付けた。
「はーい・・・ヨウメイちゃん。珍しいね、一人で僕の所に来るなんて。どうしたの?」
「ちょっと試したい事がありまして。」
いつも通りにこにこ顔のヨウメイちゃん。ほんと、笑顔を絶やさない子だよなあ。
「試したい事って何?」
「単刀直入に申し上げますね。遠藤さんはルーアンさんの事がお好きなんでしょう?」
「ええっ!!あ、いや、その・・・うん。」
確かに単刀直入だ。言うまでも無く僕の顔は真っ赤になる。
それでも否定はしなかったのは、僕も少し成長したのかな・・・なんて。
「それでね、是非とも二人の仲を進展させようと思ったわけなんです。
とその前に試してみたい事がありまして・・・。遠藤さん、協力してくださいますか?」
「ええ?それってどういう事なのかな・・・。」
「つまり、私がお二人の仲を取り持つ代わりに、私の試験に付き合って欲しいと、そういう事です。」
「そ、そうなんだ・・・。」
へえ、交換条件でヨウメイちゃんが僕とルーアン先生の仲を取り持ってくれるんだ。
でも試験ってなんだろう。一応そこんところを聞いておかないと。
「試験って何をするの?」
「それは秘密です。どうですか?協力してくれますか?」
当然僕は考え込んだ。協力してって割には秘密なんだ。
なんだか怪しいなあ。でも、ルーアン先生と親密になれる絶好のチャンスだし。
でもでも、とんでもないものだったらそんな事言ってられなくなるし。
けど、深く聞いたって教えてくれるなんて事は無いだろうな。どうしよう・・・。
一人頭を抱えて悩む。そのうちに心を決めた。
「よし、やるよ。何をするのかは知らないけど、とりあえず頑張ってみる!」
「その意気です!いやあ、やっぱり遠藤さんの所へ来て正解でした。
それじゃあ参りましょう。主様の家で行いますので。」
にこやかに告げるとヨウメイちゃんは飛翔球を取り出した。
「あの、便利でいいとは思うんだけど、歩いて行かないの?」
するとヨウメイちゃんはびくっとそれに反応した。
あれ、なんでそんな反応なんだろう。余計な事聞いちゃったかな・・・。
「歩いて行くと私がかなり疲れちゃうので、その・・・。」
疲れる?そんなに距離あったかなあ・・・まあいいや。
「ごめん、余計な事言っちゃったね。それじゃあ飛翔球で飛んで行こうよ。」
「あ、はい・・・。すいません。」
一瞬気まずい雰囲気に。でもすぐに元通りになって空へと繰出した。
そして数分もしないうちに太助君の家に到着。やっぱり空を飛ぶと早いなあ。
飛翔球から降りるとそれを小さな球に戻すヨウメイちゃん。うーん、便利だ・・・。
感心していると、ヨウメイちゃんがすっと手を玄関の方へと向けた。
「さあどうぞ、遠藤さん。」
「ん?うん・・・。」
なんで先に行かないんだろう。それになんかにやついているような・・・。
この先に何かあるのかなあ。・・・なんて思いつつも僕は玄関に向かった。そしたら・・・!
「あれっ!?これ以上進めない!?」
そこにはなんだか透明な壁があるようで、いくら歩を進めようとしてもそれ以上前には行けなかった。
いったいこれは・・・!!?
「進めませんか?実は塁壁陣さんがこの家に入れないようにしてるんです。」
にこにこしながら言うヨウメイちゃん。驚いて僕は振り向いた。
「ちょっと!それじゃあ何のためにここへ連れてきたのさ!」
「最初に言ったでしょう、試験に付き合ってくださいと。
遠藤さん、見事塁壁陣さんの結界を貫いてください。
人に対する想いの強さがどれほどのものなのかを知りたいのです。」
「それってつまり・・・。」
「遠藤さんが本当にルーアンさんを想っていらっしゃるなら、塁壁陣さんの結界も破れるんじゃないかと。
そう思って、私は遠藤さんをここに連れてきたのです。」
その言葉に僕は愕然となる。塁壁陣さんってシャオちゃんの結界用星神じゃないか!
確か、シャオちゃん以外は通りぬけられなくなるような透明な壁を作る・・・。
そんなすごいものを僕が通りぬけられるわけが無いじゃないか。
途端に落ちこんでいると、ヨウメイちゃんは顔色一つ変えずにこう言った。
「諦めるんですか?まだほとんど何もしてないのに?」
「だって、ルーアン先生みたいに力があるんなら分かるけど・・・。
僕は普通の人間なんだよ。無理に決まってるじゃないか。」
「ふーん、そうなんですか。つまりは、
遠藤さんのルーアンさんに対する想いはその程度だったという訳ですね。」
そこでさすがの僕もカチンと来た。思わずヨウメイちゃんにつかみ掛かる。
「その程度なんてどういう事だよ!無理だって言ってるじゃないか!」
「無理かどうかは試さないとわかりませんよ。やる前から諦めてる人にそんな事言う資格は有りません!」
臆さずに言うヨウメイちゃんに、僕はつかんだ手を離す。
そうか、そうだよな。やる前から諦めてちゃ・・・。
「分かった、なんとか頑張ってみるよ。」
「その意気です!見事通りぬけられたら、約束はちゃんと果たしますから!」
「よーし!!」
気合を入れて再び玄関へと向かう。
だけど、気合が入ったからって何かが変わるわけではなく、やっぱり通り抜ける事は出来なかった。
「ふんぬー!!」
「ガンバレー!」
なんだか旗を振って応援しているヨウメイちゃん。どこからそんな物・・・。
壁を押す事十分間。そのうちに息が切れてきたのでその場に座り込んだ。
「ふう、ふう・・・。やっぱり無理だよ―・・・。」
「遠藤さん、まだ挑戦し始めたばっかりじゃないですか。そんな簡単に諦めないでください。」
「ご、ごめん。でも、ちょっと休憩・・・。」
荒い息で告げると、やれやれというような顔をしてヨウメイちゃんは何処かへ行ってしまった。
なんだよ、すこしくらい休憩したっていいじゃないか。
心の中で反論しつつ、結局は休憩時間となった。疲れた体をゆっくりと休める。
と、ようやく息が落ち着いたところで立ちあがった。さあて、続きを・・・あれ?
いよいよ再開しようという時に、ヨウメイちゃんが血相を変えて走って戻って来た。
「どうしたの?ヨウメイちゃん。」
「遠藤さん、早く!早く通りぬけてください!!」
なんだか様子が尋常じゃないけど、言われるままに通り抜けにかかる。
けれど、急かされたからって出来るもんじゃない。
さっきと同じように、力を入れても前に進まない状態だ。
「くっそおー・・・。」
すぐに諦めてなるものかと頑張っていると、ヨウメイちゃんが後ろからとんでもない事を言ってきた。
「もし通りぬけられなかったら、お二人の仲をとことん邪魔してやりますからね!!」
「ええっ!!?」
ちょ、ちょっと待ってよ―、なんでそんな事に・・・。
驚きつつも、そんな事になってはたまらないと必死になる。
だけど、必死になったところでやっぱり結果は変わらない。
そんな・・・。このままじゃあ僕の人生が・・・!!
「早く早く!!ああ―、もうなんでそんなだらしないんですか!!
男なら結界の一つや二つ、ぱぱっと通りぬけてくださいよ!!」
「そんな無茶な・・・。」
男なんて関係無いじゃないか。だいたいどうしてヨウメイちゃんがそんなに必死なんだよ。
でも文句ばっかり言ってられない。通りぬけられなかったらルーアン先生と・・・!!
「負けてたまるかあ―!!」
今まで以上の限界の力をこめる!!と、体から抵抗が急に消え、勢い余って前に倒れてしまった。
「うわっ!!」
ドシーン!
「遠藤さん!」
気付いた時には僕の体は玄関のドアの前に居た。
脚の向いた方向に手をかざすと、見えない壁の感触が。ひょっとして・・・。
「おめでとうございます、遠藤さん!!見事通り抜けられましたね!!」
「へ?・・・そうか。ばんざーい!!僕は見事やったんだ―!!」
喜び勇んで駆け寄ってくるヨウメイちゃん。
それを受け止めるべく僕は両手を思わず構えたんだけど・・・。
ドーン!
「「え?」」
ヨウメイちゃんは見えない壁に当たってあえなく撃沈。そこに崩れ落ちる格好となった。
痛がりながらも起きあがるヨウメイちゃんを気遣う。
「大丈夫?ヨウメイちゃん・・・。」
「いたたた・・・。ええ、なんとか・・・。
それより塁壁陣さん、どういう事ですか!!
遠藤さんが通り抜けたら結界を解くはずじゃなかったんですか!!?」
へえ、そういう約束だったんだ。あれ?じゃあどうして?
「・・・遠藤さんは通り抜けたんじゃない。私が通したんだ??
ちょっと、どういう事ですか!!」
え、塁壁陣さんの言葉がわかるの?
「あまりにも私が横暴に見えたのでわざと通した!?
だってだって、お饅頭さんがー!!」
お饅頭さん?まったく、ヨウメイちゃんは・・・。
「ヨウメイちゃん、途中から乱暴になったかと思ったらそういう事だったんだ。」
「うっ、ごめんなさい・・・。と、とりあえずおやつを食べてからもう一度やりましょう。ね?」
改めて僕の方へと歩いてきたヨウメイちゃんだったけど、やっぱり壁に阻まれた。
「お願いしますよ、塁壁陣さん。いいかげん通してください―。」
なんだか目がうるんでる。でもなあ、なんか動機が不純のような・・・。
「え?おやつタイムが終わったら通してやる?
・・・ふざけないでくださいよ!!今通してもらわないと意味が無いんです!!
さあ、早く私を通しなさい!!!」
うわあ、なんだか怒ってるよ。ここまでヨウメイちゃんを必死にさせるお饅頭って一体・・・。
「通りたければ実力で来い?望むところですよ!!来れ、雷撃!!」
「うわあっ!!」
塁壁陣さんの結界に強烈な電流が走る。いきなりなんてことを・・・。
それでも塁壁陣さんはけろっとしてる。さすがは結界用の星神だなあ。
「その程度か・・・って!?いちいちうるさいですよ!!
来れ・・・ブリザード!!」
一瞬で家の周りが極寒地獄に。確かこれってキリュウちゃんを凍らせた・・・。
「もういっちょ。来れ、ファイアストーム!!」
次の瞬間にはあたりは炎の嵐に巻き込まれる形となった。
ちょっと!!こんな所でこんなの使ったら!!
「無駄だって?ふふん、そんなセリフを吐いて後悔しないでくださいよ。
来れ、竜巻!!落石!!」
二つ同時!?吹雪と炎が消え、途端に竜巻が起こり、そこに巨大な岩が落ちる。
竜巻はその岩を巻き込んで・・・つまりは塁壁陣さんにどかどかと当たるような格好で・・・。
さっきの急激な温度変化も堪えてるんだろう。塁壁陣さんの様子がなんだか・・・。
「さあ、参ったといいなさい!!強情張ってると死にますよ!!」
死ぬ!!?そんな事しちゃあ駄目だよ―!!!
「もう止めてよ、ヨウメイちゃん!!これ以上やったら・・・!!」
すると、ヨウメイちゃんは統天書をパタンと閉じた。それと同時に竜巻も岩も消える。
「さすがに参った様ですね。まったくもう・・・。
でもいい経験になったでしょう?これのおかげで少しは丈夫になったと思いますよ。」
塁壁陣さんに笑顔でこんな事を言っているヨウメイちゃん。
こじつけもいいとこだよなあ。最初はとてもそんな事をしてる様には見えなかったし・・・。
「さあてと、遅くなったけどおやつおやつ♪」
さっきとはうってかわって上機嫌になったヨウメイちゃん。
なんだか鼻歌を歌いながらこっちにやって来たんだけど・・・。
ドン!
と、見えない壁にぶつかってそこに沈む。と、その直後に見えない壁が消え去ったみたいだ。
やるなあ、塁壁陣さん。黙ってやられるような星神じゃないって事か・・・。

そんな事もあったけど、なんとかおやつにありつけたヨウメイちゃん。
それが終わった後ももう一度やると言い出したんだ。
もちろん、出来なければ邪魔をするなんてことは抜きにして・・・。
でも、夜中までかかっても結局塁壁陣さんの壁を通りぬけるなんて事は出来なかった。
どう考えても僕には無理だって言ってるのに―!
へとへとになったところで、ヨウメイちゃんはやっと僕を開放してくれた。
塁壁陣さん曰く、「もし通り抜けられたら私の存在意義が無くなるのでは」との事。
普通に考えればそうじゃないか!ヨウメイちゃんはどういうつもりで僕を誘ったんだよ!!
で、喧嘩(?)をしたヨウメイちゃんと塁壁陣さんは、その後も合戦みたいなものをやっているとか。
そのたびに付き合わされてる僕って一体・・・。
後から、なんで他の人を選ばなかったのかを聞いてみた。
まずシャオちゃん、ルーアン先生、キリュウちゃんは、精霊という事で問題外。
花織ちゃん、熱美ちゃん、ゆかりんちゃんは親友なのでそんな事はさせられない、との事。
那奈さんは、そんな事をやらせると後が恐いので拒否。
山野辺さんは、すぐに面倒くさがってやるわけが無いという事で駄目。
太助君は、主だから星神と戦わせるわけにはいかないのでバツ。
たかし君は、ただ突っ走るだけで全然結果がよろしくならないので却下。
出雲さんはヨウメイちゃんから見ればどう頑張ったって無理に決まってるとの事で除外。
というわけで僕が選ばれたんだって。
まったくいい迷惑だ。そんな個人的理由で僕を選ばないでよ―!!
と思いつつも、ルーアン先生との仲を深めてもらおうと頑張っている僕でした・・・。

<おわり>