小説「まもって守護月天!」(知教空天楊明推参!番外編)

≪楊明と星神達≫


その15『楊明と長沙』

朝起きて、いつも通りに学校へ登校する。
教室に入って、目にとまった友人に元気よく挨拶した。
「おっはよ―!熱美ちゃん、ゆかりん。」
「おはよう、花織。」
「おはよう。相変わらず元気だよねえ。それにひきかえ・・・。」
熱美ちゃんがやれやれというような顔をしながら、ちらりと隣の席を見る。
と、そこには机の上にうつぶせになって、ゼイゼイと肩で息をしているもう一人の友人の姿が・・・。
「おはよ―、楊ちゃん。」
「・・・おは・・・よう・・・。」
なんだか言葉も絶え絶えって様な・・・。近頃楊ちゃんって、毎朝こんな感じだよな―。
「楊ちゃん、相変わらずだるそうだね。そんなに学校へ来るのがつらいの?」
「花織、質問は後にしなよ。楊ちゃんすっごくつらそうだから。」
「そうそう。来てから結構な時間になるけど、ずっとこんな調子なんだよ。」
横から熱美ちゃんとゆかりんがたしなめてくる。
確かにそうだよねえ、これは答えが返ってくる状況じゃないみたい。
「また後で聞くね、楊ちゃん。」
あたしの言葉に楊ちゃんがそのままの状態で頷いた。
そしてその場から離れようとした時、楊ちゃんの鞄にちっちゃな女の子が引っ付いているのが目に入った。
「あれ!?離珠ちゃん!?」
慌ててそこにしゃがみこんだものの、その女の子は離珠ちゃんではなかった。
まあるい帽子、ゆかりんのおさげを細長くして下へ垂らしたような髪型。
離珠ちゃんとよく似たまあるいくりくりっとした目。
ジャンパースカートの様な服の真中には“療”の文字が。
片手には“薬”という文字がかかれてある壷をぶら下げていた。
あたしは思わずその子を両手で拾い上げ、にこやかに尋ねてみた。
「ねえ、あなたは誰なの?シャオ先輩の星神?」
するとその女の子が頷くと同時に上から熱美ちゃんの声が。
「その子は長沙ちゃんって言うんだって。楊ちゃんに聞いたらとりあえず名前だけ教えてくれたんだ。」
「へえ―・・・あ、そういえば前にも会った事があったんだ!」
思い出した様に叫ぶと、二人とも急いで傍に寄ってきた。
「そうなの!?ねえ、長沙ちゃんについて教えてよ花織。」
「名前だけですっごく気になってたんだ。早く早く!」
急かす二人に圧倒されて、うっかり長沙ちゃんを落としそうになる。
なんとかなだめて、長沙ちゃんを熱美ちゃんの机の上に。
「あれは、軒轅さんが大怪我をした時の事なんだけど・・・。」
七梨先輩に呼ばれて、急いで軒轅さんのお見舞いに。
その時に長沙ちゃんが、シャオ先輩のお部屋で寝ている軒轅さんを懸命に看病して・・・。
もっとも、落ち着いた時には支天輪に帰っちゃったけど。
その後野村先輩が五月蝿くしちゃって・・・それで追い出される形になって。
「・・・というわけなの。」
「へえー、見た目の通り看病専門の星神さんなんだ。」
「でも花織、最後の追い出されたってのは別に要らなかったんじゃ・・・。」
長沙ちゃんを見ながらも熱美ちゃんがこんな事を言ってきた。
もう、別にいいじゃない。だいたい野村先輩が・・・って、もういいか。
「でもなんで楊ちゃんは長沙ちゃんを連れてきたんだろう?」
首を傾げるゆかりんにならって、長沙ちゃんも首を傾げる。
「確かにそうだよね。疲れを治してもらうためって訳じゃないみたいだし。」
「怪我した時に治療してもらうためかな。でも、楊ちゃんでも治療はできるよねえ。」
三人、いや四人でうなっていると始業を告げるチャイムがなる。
キーンコーン、カーンコーン
「いっけない、授業始まっちゃう。」
「それじゃあ熱美ちゃん、長沙ちゃんと楊ちゃんよろしくね。」
「え?え?」
ゆかりんと一緒に急いでその場を離れる。
あたしの提案も妥当なもの。だって、楊ちゃんが長沙ちゃんを連れてきたしね。
なんと言っても、その楊ちゃんの隣の席が熱美ちゃんだから・・・。

「まったくもう、いきなり言うなんて酷いなあ・・・。」
とりあえず長沙ちゃんは鞄の所か机の上にいてもらえば良かったけど。
楊ちゃんは今だうつぶせになったまま・・・。
「楊ちゃん、授業始まるよ。早く体起こして・・・。」
「う・・・うん・・・。」
返事は聞こえているものの、どうもすぐにやってくれそうな気配は無い。
長沙ちゃんと顔を見合わせて(結局机の上で居てもらう事にした)やれやれとやっていると、
ガラッと扉が開いて先生が教室に入ってきた。
まずいっ!前に四人一緒に怒られた先生じゃない!
楊ちゃんのこんな姿見たら絶対に何か言うに決まってる!
「楊ちゃん、早く早く。そんな状態じゃあ、先生に怒られちゃうよ。」
「う、うん、もう、ちょっと・・・。」
今度の返事の数秒の後、楊ちゃんの呼吸がだんだんと穏やかになっていった。
やっと落ち着いたみたい。まったくもう・・・。
そしてようやく楊ちゃんが体を起こした時、先生が授業開始を告げた。
ふう、間に合ったみたい・・・じゃない!
「楊ちゃん、教科書出さないと・・・。」
「あ、そうか。え―と、なんの授業だったっけ・・・。」
「社会だよ。早く早く・・・。」
「ちょ、ちょっと待って。えーと・・・。」
楊ちゃんの方を向いてごそごそと。と、後ろからちょいちょいと服を引っ張られた。
振りかえると、長沙ちゃんが前のほうを指差している。
その方向には、なんだか目を引きつらせている先生が・・・。
「何を二人でごそごそやっているんだ?今は授業中だぞ。」
あちゃー、すでにばれてたんだ。
弁解しようと思ったその時、楊ちゃんが取り出した教科書と共に慌てて立ち上がった。
「すいません、私がぐずってたもんですから。熱美ちゃんはなんにも悪くないです。
だから、廊下に立たせるとかいう罰なら私だけにしてください。」
「ちょっと楊ちゃん・・・。」
あからさまに具体的な罰を申し出るなんて。そんな事言ったら駄目だよ・・・。
改めて先生の方を見ると、やれやれといった風にため息をついた。
「別にそんな罰などはするつもりは無い。ちゃんと授業の準備は出来たのか?」
「え、ええ、まあ・・・。」
「だったらそれでいい。あんまり他人に迷惑をかけるなよ。」
「・・・はーい。」
なんだか楊ちゃんは不満そうに腰を下ろした。ひょっとして罰を受けたかったの・・・?
授業が再開されると同時に、わたしは楊ちゃんに聞いてみた。
「ねえ楊ちゃん、何がそんなに不満なの?許してもらえて良かったじゃない。」
「うーん、廊下に出るときに長沙さんも連れて、そこでいろいろ調べたかったんだけど。」
「調べる?って何を?」
「治療能力について。長沙さんの力も応用すれば、疲れて眠る事も無くなるかな?って。」
「そんなの、また休み時間にでもすればいいじゃない。」
「やっぱり時間がかかりそうだから。それこそ何日もかかるかも。」
「そんなに・・・。でも授業をサボってまで、なんて楊ちゃんらしくないよ。
今しかこの先生の授業は受けられないって楊ちゃん言ってたじゃない。」
「あ、そうだよね・・・。ごめん・・・。」
話にキリがついたところで、二人とも前に向いて授業に集中し出した。
いろいろ言っていたものの、やっぱり楊ちゃんは授業を聞くのは好きみたい。
人に物を教えてもらうのは嫌いだって言ってたけど、こういうのは別物なのかな?
ともかくそういう訳で授業時間が穏やかに流れる。
こういう時の楊ちゃんってなんかかっこいいなあ。いつもは全然違うのに・・・。
そんなこんなで授業が終了。先生が教室を後にすると同時に、花織とゆかりんがこっちへやって来た。
「どうしたの、楊ちゃん?いきなり立ち上がって、廊下に立ちたいだなんて。」
「花織、楊ちゃんはそんな事言ってないでしょ。でもそう聞こえてもおかしくなかったよね。
一体どうしたの?普段から真面目に授業を受けているのに・・・。」
やっぱりそういう質問が来たか。さて、楊ちゃんはどう説明するのかな・・・。
「長沙さんについてちょっとね。でも熱美ちゃんにたしなめられちゃったから思い直したの。
だからその事はもう忘れて。ね?」
下から見上げるような感じで二人を促そうとする楊ちゃん。
やっぱりらしいなあ。ちょっと笑って長沙ちゃんを見ると、なんだか一緒にちょっと笑ってくれた。
「うん、分かった。あんまり気にしてもしょうがないしね。」
「それは良いんだけど、長沙ちゃんについてってどういう事?」
新たな疑問が沸いたのか、ゆかりんが更に質問を投げかける。
というわけで一斉に楊ちゃんを見る。と、楊ちゃんはすっと立ちあがって長沙ちゃんの傍へ。
「治癒能力のコツをね。長沙さん、ちょっとその壷を下ろしてくださいますか?」
長沙ちゃんが、自分が下げている壷をさして改めて楊ちゃんを見ると、楊ちゃんはこくりと頷く。
そうして壷を机の上に置く長沙ちゃん。
そのあとに、わたし達三人もその傍に寄った。(わたしはもともと座っていたけど)
「それでは・・・。」
例のごとくおもむろに統天書をめくる楊ちゃん。
いつもながらに思うんだけど、なんか様になってるよねえ。さすがというかなんというか・・・。
「幻鏡よ、彼の物と同じ物を作り出せ・・・幻日複製!」
と、長沙ちゃんが置いた壷の隣に鏡みたいなものが出来たかと思うと、
それに写った壷がみるみるうちに実体化した!
「これでよし。長沙さん、もう壷をかけて良いですよ。間違えない様にしてくださいね。」
楊ちゃんに言われて、不思議そうな顔をしながらも長沙ちゃんが壷を手に取ろうとしたその時!
「はっくしゅん!」
「うわっ!」
花織が大きなくしゃみ!そしてそれにゆかりんが驚いてドンとわたしが押される。
そのひょうしに机が大きく揺れて二つの壷が・・・!!
「大変!!なんとしてでも受け止め・・・きゃっ!」
落ちてゆく壷を受け止めようとした楊ちゃんはバランスを崩してその場にこける。
その衝撃でわたしもバランスを崩して・・・
ドンガラガッシャーン!!
大音響と共に、机と椅子が崩れ、更にその場に四人が折り重なる恰好に。
長沙ちゃんも放り出されて離れた場所にぽふっと落下したみたい。
わたしは上に三人に乗っかられながらも、その痛そうにお尻をさすっている姿が確認できた。
「ふう、まったくもう・・・さっさと起き上がってよ〜。重いんだから〜。」
ため息をつきながら上に乗っかっている三人に告げる。すると、なんだか反論が・・・。
「重いってなによ熱美ちゃん。あたしは重くないんだからね。」
「花織、そんな事言ってないで早く。あんたが一番上でしょう?」
「うう〜、早くう〜。重いよ〜・・・。」
揉めているうちに楊ちゃんが苦しそうな声を上げた。
楊ちゃんが居る位置は丁度わたしの上。なんだってわたしより辛そうなんだろ。
ともかくその声がきっかけとなったかどうかは知らないけど、四人ともなんとか起き上がれた。
机と椅子を起こし、服についた埃をはらってもとの位置に・・・。
「楊ちゃん、なんでまたへばってるの?」
「だって、重かったから・・・。」
ゆかりんの問いに元気なさそうに答える楊ちゃん。
あんなちょっとの時間でもへばるくらい疲れるんだ。こりゃちょっと鍛えた方が良いかも。
「ちょっと楊ちゃん、あたしは重くないって言ってるでしょ。
重いんなら多分ゆかりんが原因だよ。」
「花織!それってどういう事よ!あたしが一番重いっての!?」
「まあまあ、二人とも落ち着きなって・・・。」
いきなり口喧嘩を始めようとする二人をなんとかなだめる。
と、そこでちょいちょいと袖を引っ張られた。振り向くと、机の上で涙目になっている長沙ちゃんが。
「そうか、壷を探さなきゃ。あれが無いと星神の役目が果たせなくなるんだよね?」
ぐすんと泣きながらも頷く長沙ちゃん。それを見て、花織もゆかりんも喧嘩の事を忘れて向き直った。
「心配しなくてもあたし達が絶対探し出すから!」
「でも花織、さっきのいざこざで何処へ行っちゃったやら。」
「そうだよね。あんなに小さい壷、どうやって探せば良いのやら・・・。」
ゆかりんと一緒にうなり出す前に、花織がドンと胸を張って答えた。
「楊ちゃんが居るじゃない!統天書で探すんだよ!!」

自信満々の花織。当然あたしは呆れながらも熱美ちゃんと顔を見合わせる。
「花織、楊ちゃんを見てみなよ。」
「えっ?」
花織が振り向くと、そこには息も絶え絶えの楊ちゃんが。すなわち朝と同じ状態って訳。
あんな出来事だけであそこまでなるなんて・・・。ここまで体力が無い人初めて見たよ。
「ちょっと楊ちゃん、へばってる場合じゃないでしょ。長沙ちゃんの壷を探さなきゃ。」
花織が楊ちゃんの体を揺すりながら呼びかける。
そんな事しても無理だと思うな。あの状態の楊ちゃんはよほどの事が無いと・・・。
「楊ちゃん、楊ちゃんが壷をなんたらかんたらしようとしたからこんなに成ったんだよ。
長沙ちゃんのためにも頑張ってよ。」
花織ってばなんてことを。そりゃまあ、たしかに一理有るけど・・・。
「もとはと言えばあんたが大きなくしゃみをしたのが原因じゃない。
楊ちゃんに責任を問うなんておかしいよ。」
「うっ、そりゃそうだけど・・・。
でも、だからって楊ちゃんに手伝ってもらわないわけにはいかないじゃない。
楊ちゃーん、起きてよ―。」
「う、うん・・・。」
花織の必死な行動が通じたのか楊ちゃんがゆっくりと顔を上げた。
けれどなんだか目がうつろ。大丈夫なのかな・・・。
「よー・・・し。長沙、さんの・・・壷は・・・。」
すごくだるそうにしながらも統天書をめくり始めた。
それに気付いた長沙ちゃんや熱美ちゃんも一緒になって見つめる。
しばらくしてめくる手が止まった。見付かったのかな?
「・・・前から・・・七番目・・・右から・・・三番目の机の・・・下・・・。」
途絶え途絶えに言ったと思ったらそのまま統天書に向かってうつぶせに。
長沙さんを手に抱えて慌てて寄る熱美ちゃん。
あたしは花織と顔を見合わせて急いでそこへ向かった。
丁度そこには一人の男子生徒が座っていたけど・・・。
「ど、どうしたの?愛原さん達・・・」
「いいから!!さっさとのいてよ!!」
おびえる男子生徒を押しのけて散策を始める。
と、果たして壷はあっさり見付かった。
「あったよ花織!」
「こっちもあった!よし、無事二つ見付かったね。」
笑顔で頷き合って、素早く三人のもとへと戻る。一応男子生徒に礼は言ったけどね。
「見付かったよ、長沙ちゃん。」
「さすが楊ちゃんだよね。はいどうぞ。」
にこにこがおで二人して壷を差し出すと、長沙ちゃんは何やら困ったような顔になった。
首をいろいろ傾げたりして、なんだか戸惑っている様に見える。
あれ?どうしたんだろ。せっかく壷が見付かったのに・・・。
花織と首を傾げながら顔を見合わせていると、熱美ちゃんが口を開いた。
「ねえ二人とも、どっちが本物の方なの?」
「「えっ?」」
なるほど、そういう事か。そう言えば片方は楊ちゃんが作り出した物だもんね。
「うーん、本物は多分あたしが持ってるほうだよ。」
「花織、その理由はなんなの?」
「女の勘よ!」
「女の勘・・・。ちょっと、そんないいかげんなものじゃあ駄目じゃないの。」
「じゃあゆかりんの方が本物なの?」
「そうは言ってないけどさ・・・。」
うかつだったな、これは。
でもそんなのは心配無用。なんといっても楊ちゃんが・・・。
って、その肝心の楊ちゃんがこんな状態じゃあねえ・・・。
やはりと言うか机の上にうつ伏せ状態に。(今は統天書に顔をうずめる様に)
今度は花織じゃなくて熱美ちゃんが必死になって揺すっている。
「楊ちゃん、疲れてるとは思うんだけど頑張ってよ。
長沙ちゃんの壷はどっちなのか教えて。」
「教えて・・・か。うん、頑張る。」
ええっ?さっきはなかなか起き上がらなかったのに一発で!
教えてって言葉に弱いのかな。知教空天ってだけのことはあるねえ。
それをしっかり心得てる熱美ちゃんはさすがってことだね。
「えーと・・・ゆかりんが持ってるほうが本物だよ。」
「がーん!あたしの女の勘があ!」
「花織、あんたねえ・・・。」
苦笑いしながらも長沙ちゃんに持っていた壷を手渡す。
長沙ちゃんはうれしそうな顔をしながらそれを受け取ってそれを手に下げた。
やれやれ、一件落着ってことね。
「花織、それじゃあその壷楊ちゃんに返しなよ。」
「うん。はい、楊ちゃん。」
「ありがとう。」
「ふう、それでそれから先は何をするの?」
熱美ちゃんがため息を付いて尋ねる。それに楊ちゃんが答えかけると・・・
キーンコーン、カーンコーン
「ありゃ、チャイム鳴っちゃった。またあとでね。」
「そうだね。それじゃあ。」
いつの間に体力が戻ったのかにこにこ顔の楊ちゃん。
壷を両手で抱き抱えてうれしそうな顔の長沙ちゃん。
そして少しの笑顔で手を振る熱美ちゃんに挨拶して、花織と一緒に自分の席へ戻る。
さあて、二限目だ。数学かあ。たしか新しい教科書やるって言ってたな・・・。
で、あっという間に授業が終わる。しかもいつもより早く終わったような・・・。
楊ちゃんのおかげだという事は分かりきってるかもね。
(だって、いきなり前へ出ていって新しい教科書の説明とか始めるんだもん。)
例のごとく楊ちゃんの席へゆく。
今度は長沙ちゃんの壷から作り出した複製でいろいろするみたい。
興味津々に四人で(あたし、花織、熱美ちゃん、長沙ちゃん)机に置かれた壷を見る。
「さて、壷に何かしらする前にちょっとする事が有るから。見たら絶対驚くよ。」
「へえ―、なんだろう、一体。」
ますます興味津々となってそれを見る。と、楊ちゃんが統天書をめくり出した。
「我空の精が地の精の力を借りん・・・万象大乱!」
「「「えええっ!!?」」」
万象大乱って紀柳さんの能力じゃ!?と、驚いている間にも置かれた壷が少しずつ大きくなってゆく。
しばらくして、元の約五倍くらいの大きさに成った。
「ふう、これでよし、と。やっぱり近くに居ると楽だなあ。」
ほっと一息ついてにこにこ顔の楊ちゃんに花織が尋ねる。
「ねえ楊ちゃん、万象大乱って紀柳さんの能力でしょ?
楊ちゃんはそんなものも使えるってことなの?」
「まあ、ね。自然の物の精霊さんならその力を借りる事が可能なの。
もっとも、そうめったに出来るもんじゃないけど。一応タイミングを見計らってやってるんだけどね。」
「ふえええ・・・。」
「楊ちゃんて万能なんだね・・・。」
熱美ちゃんが更に感心したような目で見つめると、楊ちゃんは首を横に振った。
「万能な訳ないでしょ。ちょっと力を借りてるってだけなの。だからそんなに大きな事は出来ないし。」
「それでも色々出来るって事なんでしょ?要はオールマイティって事じゃない!」
あたしも一緒になって誉める。すると、楊ちゃんは照れながらもこんな事を言ってきた。
「オールマイティでも、それぞれが完璧に出来ないと自慢にならないよ。
一つの事がほぼ完璧に出来ればそれで十分だと思うよ。
私の場合人に物事を教えるって事かな。長沙さんなら星神さんや人の看病や治療って事だね。」
確信したような目で長沙ちゃんを見る楊ちゃん。
あたし達も一緒になって長沙ちゃんを見つめる。
最初は少し戸惑っていてきょろきょろしていた長沙ちゃんだったけど、やがて顔を赤くして照れ始めた。
うわ―、可愛い―。今まで気にしてなかったけど、長沙ちゃんてとっても可愛いじゃない!
「それで楊ちゃん、話を戻す様で悪いけど、その壷で一体何を?」
改めて熱美ちゃんが尋ねる。
それもそうだ。もともと何をするつもりかを聞いておかないとね。
「それはね・・・の前に、次の授業ってなんだったっけ?」
もう、もったいぶってるなあ。でも一応それは気になる事か。
ちょっと上を向いて考えていた花織がそれに答えた。
「次はたしか体育だよ。」
「そう。え―と、この壷を調べ・・・体育うぅ―!?」
説明し始めようとした楊ちゃんがいきなり大声を上げた。
もう、またもったいぶって・・・ってそういう場合じゃないか。
「体育だったらそろそろ着替えに行かないと。」
「ゆかりん、それよりもっと大きな問題が・・・。楊ちゃん、大丈夫?」
熱美ちゃんが楊ちゃんを心配そうに見つめる。
そうか、体育なら楊ちゃんにとっては地獄みたいなもんだよね。
「・・・なんとか、頑張ってみる・・・。え―ん、嫌だよお・・・。」
頑張ってみるなんて言った割にはだだをこね始めた。
まったく楊ちゃんって・・・。
「それじゃあそろそろ行こう。壷の説明はまた今度って事で。」
「長沙ちゃんも一緒に連れて行かなくっちゃ。さ、行こう。」
熱美ちゃんが手を差し出すと長沙ちゃんがぴんとそこに飛び乗る。
「よし、れっつごー!・・・楊ちゃん、早く。」
教室を四人で出ようとした頃にも、楊ちゃんは自分の席でぐずっていた。
しょうがないなあ、こうなったら・・・。

「やだやだー、離してよ―。」
「わがまま言わないの。大体、体育だけ授業サボるなんていけないよ。」
「そうそう。ちゃんと全部出席しなきゃ。」
ただいま女子更衣室へと連行されてる途中の私。
片腕をゆかりん、もう片方の腕を花織ちゃんがしっかりと捕まえて引っ張っているって訳。
熱美ちゃんはそれを先導するような形で、手に壷と長沙ちゃんを抱えている。
「あ、私病気なんだ。うう、お腹が・・・。」
「そんな見え見えの仮病使ったってダメだよ。ほら、もう更衣室なんだから諦めなさい。」
「今日の体育は何するんだっけ?」
「たしか・・・校庭でマラソンだったかな。」
「「「ええーっ!?」」」
私と一緒にゆかりんと花織ちゃんも声を上げた。
「マラソンなんて嫌だなあ。大体そんなもん無理に体育の授業でする事なのお?」
「私に言わせれば絶対にしなくて良いよ。」
「そうだよね、走るくらいなら普段の日に出来るもんね。」
なんだか意気投合した様で、三人で輪になってさぼる計画が出そうに成ったその時。
「楊明殿!さっき私の力を使って何をしたんだ!!」
いつのまにか紀柳さんが傍へやってきていた。
あれ、おっかしいな。ちゃんとばれない様にしたつもりだったのに・・・。
「別に大した事じゃ有りませんよ。複製の壷を大きくしただけです。」
「そうか・・・ってそういう問題ではない!勝手に人の力を使うな!!」
「良いじゃないですか、減るもんじゃ無し・・・。
ああそうか、プロテクトをかけるの忘れてたからばれたんだ。」
「何をぶつぶつと言っている。今度やればただでは済まさぬからな。」
「はーい、ごめんなさい。」
一言謝ると、紀柳さんはそのまま去って行った。
やれやれ、失敗しちゃったな。まさかばれてるなんて・・・。
「ねえ楊ちゃん、ひょっとして他の精霊さんの力を借りるのって良くない事なんじゃないの?」
熱美ちゃんが尋ねてきたけど、私はそれに対して首を横に振った。
「そんな事無いよ。紀柳さんがケチなだけなの。」
「誰がケチだ!」
「うわっ!」
再び紀柳さんが後ろに立っていた。
びっくりするなあ。知らない間に戻って来ていたなんて・・・。
「なんなんですか、いきなり。」
「なんなんですかではないだろう!人を陰でケチ呼ばわりするとは許せぬ。」
「だって本当にケチじゃないですか。ちょっと力を借りただけなのに。」
「そういう問題ではないと言っているだろう!勝手に人の力を使う事がいけないと言っているんだ!」
「紀柳さんだって、出てきた時には勝手に試練与えていたくせに。」
「それは関係あることなのか?とにかくもう一度謝ってもらう。」
「うわあ、しつこい。・・・って、私はこれから授業なんですけど。」
「どうせ嫌々ながらに来ているのだろう?ならば一言くらい謝っても良いのではないか?」
「うっ・・・。ごめんなさい、ケチだなんて言って。今度はもっと嘘らしい悪口を言います。」
「そういう事を言っているのではない!!それに悪口など無理に言うな!!」
「はーい、ごめんなさーい。」
「まったく・・・。」
ぺこりと頭を下げた所でようやく去って行った紀柳さん。今度は本当に去って行ったかな・・・。
落ち着いたところで辺りを見まわすと、すでに着替えた後の三人が。
「楊ちゃん、さっさと着替えないと。授業始まっちゃうよ。」
「早く早く。」
「ええっ?ちょっと待ってよ―。」
慌てながらもなんとか着替えを終える。
そして、もっとも嫌な授業である、体育へと突入した・・・。

そんでもって現在地は鶴ヶ丘中学校の校庭。大勢の生徒が走っております。
やっぱり走るだけの授業なんて無駄だよなあ・・・。
「楊ちゃん、ほらしっかり。」
「う、うん・・・。」
結局は走っているんだけど、私がそんなものに耐えられるわけが無い。
二、三週したほどでものすごくばててきた。
「はあ、はあ、・・・もう・・・だめ・・・。」
五週目を終えたところでばたんと前に倒れた。
息が苦しい。動けないよー・・・。
「楊ちゃん、しっかり!」
「熱美ちゃん、私はもうダメ・・・。これ以上走れない・・・。」
「何言ってんの!もう走るのは終わりなんだから。気をしっかり持ってよ!」
「へ?」
言われて顔を少し上げてみてみると、みんなが座ってこちらを見ている。
近くに寄ってきた先生もなんだか笛を持ったままじいーっと。
「おーい、楊明は大丈夫か?」
「ええ、なんとか。さ、行こう楊ちゃん。」
「う、うん・・・・。」
言われるままに体を起こして立ちあがる。
なんだ、ウォーミングアップって事だったんだ。でもこの後何をするんだろう・・・。
「楊ちゃーん、早く早く〜。」
花織ちゃんが何やら一人立ち上がって手を振っている。なぜかゆかりんも一緒。
「待って、今行くから・・・。」
返事をしてから、熱美ちゃんに連れられて皆の所へ。
そこでなぜか先生が退いて、花織ちゃんが説明を始めた。
「え〜、皆さん。怪我とかをした時の応急処置はとっても大事ですね。
しかし、いざって時には道具が無かったりとか慌てちゃったりとかして大変です。
そこで!今から長沙ちゃんと楊ちゃんにその解決方法を解説してもらおうと思います。
それではお二人さん、どうぞ!」
「え?え?」
ゆかりんが目の前に、掌に乗った長沙ちゃんを差し出してきた。
「ほら楊ちゃん。これなら実用的な体育の授業になるでしょ?」
「う、うん・・・。」
戸惑いながらも長沙さんを受け取った所でようやく頭がまとまった。
なるほど、いつの間にやら体育の先生の了承を得て、そういう事をしようって訳なんだ。
そうか、それで走るのが途中でやまったんだ。それにしてもいつのまに・・・。
再び考え事をしているうちに、ちょいちょいと長沙さんに引っ張られる。
「ああ、すいません。それじゃあ始めましょうか・・・って何をすればいいのかな・・・。」
いざすっくと立ちあがったものの、何をすれば良いかが見えてこない。
ずるっとこけそうになった花織ちゃんが改めて説明をしてくれた。
でもなあ。長沙さんがいるからってそういう事って可能なのかな・・・。
「まあ一応やってみますね。ここに長沙さんが持っている壷のレプリカがあります。
これを長沙さんになぞらって・・・。」
とりあえず壷を使いながら説明。
そんでもって、何も無い状態での治癒方法をしっかりと説明。
天然の消毒液入手方法とか、傷口を塞ぐものの確保の仕方とか・・・。
とにかくそれに夢中になって説明していると、チャイムが鳴る5分前というところで先生が笛を吹いた。
「もう体育の授業は終わりとする。それじゃあな。」
なんだかとぼとぼと去ってゆく先生の後ろ姿を見て私は“はっ”となった。
「いっけない!あの先生の授業を取っちゃった!」
「まあまあ、楊ちゃん。皆とっても勉強になったって喜んでるよ。」
「そうだよ。これぞ体に気を遣う体育の授業って感じだよね。」
「横で長沙ちゃんもすごく真剣に頷いてたんだよ。」
三人の友人の言葉に、長沙ちゃんを見る。
すごく真剣な目つきになっていたと思ったら、途端に笑顔になって、精一杯拍手を送ってくれた。
その様子を見たのか、クラスのみんなも拍手。
やっぱりそれに照れながら、私はぽりぽりと頭を掻いたのでした。

なんだかんだで無事に体育の授業が終了。
やっぱり楊ちゃんてすごいなあ。あんなに事細かに説明なんて、普通できるもんじゃないよね。
来る時とは大違いに上機嫌な楊ちゃんを横目で見る。
熱美ちゃんもゆかりんも長沙ちゃんも、なんだか一緒になって上機嫌みたい。
うんうん、やっぱりこうでなくっちゃね。ところで・・・。
「ねえ楊ちゃん。朝来た時にものすごく辛そうだったよね。それってどうしてなの?」
唐突だけど聞いてみた。朝からずっと聞けなかったもの。
さっきまでの上機嫌な顔から、少し苦笑いしたような顔になったかと思うと、楊ちゃんは喋り出した。
「紀柳さんにね、ちょっと・・・。長沙さんを連れてきたのもそれが原因だけど。」
「紀柳さんに?」
「ねえねえ、それってどういう事なの?」
あたしの質問がきっかけとなり、他の二人も楊ちゃんの方に寄った。
「朝来る時、私が歩いている様子があまりにもだらしなく思えたんだろうな。
それで、『朝の登校時に体力を付ける様、私が少し鍛える』なんて言い出して。
主様がいつぞや行ったような試練と同じような事やり出して・・・。」
「試練てどんな事?」
「いろいろ大きな障害物をつけたり、変なものが上から降ってきたり・・・。」
そういやあ七梨先輩ってそういう試練を主に受けてたよね。
そこまで話した辺りで、楊ちゃんはその事を思い出した様で、少しげんなりし出した。
長沙ちゃんがそんな様子に気付いたのか、楊ちゃんの頭の上でなでなでしている。
楊ちゃんは少し上目遣いに成りながらも、
「はあ、ありがとうございます、長沙さん・・・。」
なんて言ってたけど。端から見れば、思わず微笑みたくなる光景だな・・・。
熱美ちゃんと顔を見合わせて少し笑っていると、ゆかりんが横から、
「それにしてもそうまで鍛えている割には、体育嫌いは治んないんだね。」
と、なんとなく不思議そうな顔で言ってきた。
「体力が仮についたとしても、そんなものは治るはずが無いよ。
紀柳さんのそういう例で、それは証明済みだから。」
「えっ?紀柳さんは体育みたいなのは嫌いじゃないと思うけど・・・。」
すかさず熱美ちゃんが聞き返すと、楊ちゃんは少し首を横に振った。
「そういう事じゃないの。紀柳さんは暑さが苦手でしょう?
あれは体が暑さに弱いんじゃなくって、そういう性分って事なの。」
「へええ・・・。」
楊ちゃんったらいつのまにそんな事証明したんだろ。
そんな事より、それはそれでまた意味が違ってくる様な気もするんだけどな・・・。
「ところで次の授業は何?これが終わればお昼休みだよね。」
「次は・・・確か理科のはずだよ。」
「実験か何かかな。でもこの前に楊ちゃんがほとんどやっちゃったから。」
「やる事はいくらでもあるよ。さ、早く用意して理科室行こう。」
着替えは終えていたので、教科書等を持って教室移動するだけ。
あ、そういえばまだ途中だった!
「ねえ楊ちゃん、なんで長沙ちゃんを連れてきたのか、詳しい理由を聞いてないけど。」
「ええっ?あ、そうか。えーとねえ・・・そうだ、理科の時間にそれをやろうっと。」
「あ、待ってよ楊ちゃん。」
答える前に楊ちゃんったら急ぎ足で教室へと向かって行っちゃった。
慌てて後を追いかけるゆかりん。あたしと熱美ちゃんはゆっくりとその後を追う。
「ねえ花織、やっぱり楊ちゃんって研究みたいなのが好きなのかな。」
「どうしたの?突然。」
「理科の授業中にやろうと言い出すなんて、朝の社会の時と同じ様なもんだよ。
そんなにしてまで長沙ちゃんについて調べたいのかなあって。」
「確かに普段の時とは違うよね。なんとなしに夢中に成ってるな、って気はするけど。」
その後は二人して頷いただけだった。
理科室に到着すると、果たして楊ちゃんが何やら実験(?)の様なものを。
手前に複製して大きくした壷を机の上に置き、その傍で統天書をめくっている。
近くにはゆかりんと長沙ちゃん。そして大勢の生徒たちもそれを見守っていた。
「何してんの?」
熱美ちゃんと一緒にその輪に加わると、ゆかりんが人差し指を唇に当てながらしい―っと。
そういえば皆静かにしてるな。音を立てちゃいけないってことなのかな。
「・・・ふむふむ、よし、これなら・・・。」
少し呟いたかと思うと、楊ちゃんがその壷を片手に持ち上げて詠唱のようなものをはじめた。
「守護月天の星神長沙、その物の持つ壷の力により、我は新たな力を求めん・・・。」
ぱあっと壷が光り始める。
驚いたものの、やはり声も立てずにそれを見守るみんな。
もちろんあたしだって喋ってない。
「復元にその力を追加させよ、精神、そして疲労を癒す力・・・。」
なんだか長い詠唱・・・。けれど聞いている限り、これは疲れをも癒せる術になるんだ。
なるほどねえ、それで長沙ちゃんの壷を・・・あ、いけない・・・。
「万象・・・」
「はっくしょん!!!」
「うわっ!」
とうとう我慢できなかったくしゃみ。それをした途端に楊ちゃんが驚き、壷を落としてしまう。
そのひょうしで光も消え失せ、壷はこなごなにパリンと割れる。
・・・しばしの沈黙。気まずい顔になりながら頭を掻くあたしを、じろりとみんなが睨む。
その中でも楊ちゃんの顔は印象的だった。ものすごく悔しそうな、涙目になって・・・。
「ひどいよ、花織ちゃん。なんだってこんな時に・・・うわーん!!」
おもいっきり泣き出した楊ちゃんに慌てて駆け寄る熱美ちゃんとゆかりん、そして長沙ちゃん。
もちろんあたしも急いで傍に駆け寄った。
「ごめん、ほんとにごめん!許して、お願い―!」
ついには土下座までし出して、とにかく平謝り。
他の皆は残念そうな、心配そうな顔で楊ちゃんを気遣っていた。
そのあとの理科の授業。ほとんど授業にならなかった。
楊ちゃんは少し笑って許してくれたけど、やっぱりあんなに落ちこんでる姿を見ちゃあ・・・。

そして昼休み、長沙ちゃんといつもの面々、つまり五人でお弁当を食べる。
その時に楊ちゃんはこう言っていた。
「また今度やり直せばいいと思うんだけど、同じ方法は無理だろうなあ・・・。
というわけで、もしかしたら協力を依頼するかもしれないけど、いいかな?」
いいかな、なんて・・・。もちろんあたしは急いで楊ちゃんの手をとった。
「そんな遠慮なんかしなくてもいいよ!必要な時はどんどん言ってね!!」
「花織、あんた後ろめたいからそんな事を・・・。」
「まあまあ、ゆかりん。楊ちゃん、わたしもゆかりんも花織と同じ気持ちだからね。」
にこりと笑う二人に、楊ちゃんはただ一言。
「ありがとう。」
うう、なんか謙虚だなあ、今の楊ちゃん。
チラッと見ると、長沙ちゃんも何やらお辞儀のようなものをしている。
これは二人して相談してたって事なのかな?まあいいや。
その後も、相変わらず楊ちゃんは朝、ほとんど死に掛けの状態で教室に居る。
もちろん長沙ちゃんをしっかり連れてきているけどね。そんでもってその二人の世話役は・・・。
「あっ、もうすぐ授業が始まっちゃう。」
「熱美ちゃん、お願いね。」
「ちょ、ちょっと待ってよ―!!」
そう、熱美ちゃんしかいないのだ。やっぱり席が隣だもんね。
けれど、それが祟ってか、そのうち熱美ちゃんも朝に疲れを見せるようになってきたみたい。
そりゃあ、あれだけ疲れきっている楊ちゃんの世話をしてちゃあ・・・。
早く疲れを取る術が開発できるといいね、楊ちゃん。
「花織、もとはといえばあんたがくしゃみなんかするから・・・。」
「それは言わない約束だよ、ゆかりん。大丈夫、いつかきっと・・・!」

<おわり>