翔子と紀柳のパラレルワールド日記(「浪漫倶楽部」編)


「不思議事件ファイルIV(お化け銀杏を護れ!)」

穏やかな日差しの中、鳥達がチチチと鳴いている。
うーん、と大きく背伸びをした。日曜の学校ってのもなかなか良いもんだ。
おっと、最初に言っとくけど、授業じゃないぜ。
浪漫倶楽部のみんなで遊びに来ってわけなんだよ。
よくわかんないけど、月夜から電話があって、
「翔子ちゃんとキリュウちゃんに見せたいものがあるから学校に来て。」
だって。何を見せてくれるのかは教えてくれなかったけどな。
でも、すごく大切なものだという事を言っていた。こりゃ楽しみだ。
「翔子ちゃん、ほら、あれよ。」
月夜が指差した方向を見ると、
プランター用の囲いの中に、一つの芽が出ているのが目に入った。
「あれって・・・ただの植物の芽じゃないの?」
「そうよ。でもね、ただの芽じゃないの。」
ただの芽じゃないってどういう事だろう。
「あれはお化け銀杏の芽なのだ!」
あたしが聞き返す前に部長が大声で答えてくれた。
ふーん、お化け銀杏かあ・・・、って、
「銀杏にそんな種類のやつってあったっけ?」
わけもわからず聞き返すと、部長がこけてしまった。
なんなんだよ、そのリアクションは。
「ははは、違うよ。伝説でそう呼ばれているんだ。」
「伝説?」
「そう、この間の創立祭の時に起きた出来事なんだけど・・・。」
笑顔で火鳥がお化け銀杏について説明してくれた。
関東大震災があった時にたくさんの人達の命を救ったという事。
そのときにこの銀杏によってできた井戸が旧校舎にあって、
旧校舎の解体作業時に不思議事件が起こったという事。
創立祭のときに浪漫倶楽部のメンバーだけが体験した、水に関する様々な不思議事件。
また、お化け銀杏の精霊なる人物『水野恵』と友達になったという事等々・・・。
「・・・というわけで、この芽は、その恵ちゃんの生まれ変わりという訳なんだ。」
「へえ〜え。良いなあ、あたしもそういう体験をしてみたかったなあ。
いろんな水の妖怪に会ったなんて、うらやましい・・・。」
それを聞いて、月夜が首を横にぶんぶんと振った。
「とんでもない。ものすごく怖かったんだから。
翔子ちゃんもそんな事言ってられ無くなるくらいにね。」
「へえ、そうなんだ。」
それでもやっぱりうらやましいな。
それこそ不思議事件の最高峰って気もするし・・・。
「それで、恵殿には会えぬのか?」
今までだんまりだったキリュウが口を開いた。
そうだよな、大地の精霊としちゃあ、会ってみたいって思うよな。
「それがさ、この芽を大きな銀杏に育てるために、
長い眠りにつかなきゃ成らないって事で、もう会えないんだ。」
「そうか、それは残念だ・・・。」
火鳥の言葉に肩を落とし、木の芽の前にしゃがみこむキリュウ。
あたしも残念だ。みんなと友達になったっていうんなら、話ぐらいはしたかったなあ。
「見せたい大切なものってのはこの事だったんだな。」
「ええそう。なかなか機会が無くて、こんな日曜日になっちゃったわけだけど。」
「恵ちゃんはオレ達のかけがえの無い友達だからね。」
「そうなのだ。キリュウちゃんも翔子ちゃんも、よろしくなのだ。」
三人の声に再び銀杏の芽を見つめる。
見た目は普通だなあ。でも、言われてみればそんな威厳みたいなものを感じるような・・・。
「コロン殿はどうしたのだ?さっきから姿が見えぬが。」
キリュウがしゃがんだままこっちを振り返って言った。
そう言えば気付かなかったなあ。誰か足りないなあ、なんて思ってはいたんだけど。
「コロンなら・・・」
火鳥が言いかけたそのとき、
『ドサッ!!』
という音とともにコロンが上から落ちてきた。しかも木の芽の横に!!
「コロン!あぶねーな。もう少しで銀杏の芽をつぶすところだったぞ。」
「あうー、ごめんごめん。お空を飛んでたら何かにぶつかったもんだから。」
頭をぽりぽりかきながら応えるコロン。
それを心配そうに見ながら火鳥が尋ねる。
「コロン、頼んどいた事は調査してくれたか?」
「うん。でも全然原因がわかんないよ。
一応、この位置じゃ恵ちゃんが危険なのは分かったよ。」
「そうか・・・。」
コロンと火鳥が深刻そうな顔で話をしているが、他の四人にはさっぱりだ。
「火鳥くん、どういう事なのだ?コロンちゃんに何を調べてもらっていたのだ?」
部長の問いに、コロンが手のひらに石を持って差し出した。
「これだよ。ついこの間、火鳥が水をやりにいったら突然空から石が降ってきたんだって。
だから空が飛べるあたしにその原因の調査を頼んだんだよ。」
さらに火鳥が続ける。
「誰かのいたずらかとも思ったんだけど、近くに人がまったく居なかったんだ。
それにすぐ後に、ばらばらといくつも降ってきたんだ。
幸いそれはすぐやんだから助かったけど。」
石がばらばらと?そんな話どっかで聞いたような・・・。
「そうか、不思議事件というわけなのだね、火鳥くん。」
「え、ええ。そうだと思いますけど。」
真剣な目で火鳥に迫る部長に、少したじろぎながら応える火鳥。
不思議事件か・・・。
いやそれより、どこで聞いたのかなあ・・・。
「それでコロンちゃん、ここは危ないんでしょ。
だったら恵ちゃんをどこか別の安全な場所に移さないと。」
「そうだね、月夜の言うとおりだよ。さっそく作業に取り掛かろう。」
月夜の案にコロンが立ち上がる。
そうだよな、それが一番。
あれ、聞いたんじゃなくて本で読んだのかなあ・・・。
「無理だぞ、二人とも。調べてみたところ、すでに広範囲に根が広がっている。
さすがただの銀杏ではないな。移し変えるのは不可能だ。」
「ええー、そんなあ。」
「せっかくいい案だと思ったのに。」
銀杏の様子を調べたらしいキリュウがすっぱりと言った。
大地の精霊にとっちゃ、こんなもんすぐ分かるってか?
えっと、図書館で読んだのかなあ・・・。
「でも火鳥くん、それならなぜ屋根みたいな物を作っておかなかったのだ?」
部長の問いにみんながはっとなった。
そういやそうだよな。動かせないんならここを護る物ぐらい・・・。
すると火鳥はすたすたと歩いていき、草の茂みからトタン板のような物を取り出した。
「火鳥くん、なんなのそれ?」
「これは銀杏の屋根としてオレが作った物だよ。それも昨日にね。」
「ええっ!?」
火鳥の持っていたトタン板。それは昨日作ったとは思えないほどぼろぼろで、
石をもう一個ぶつければ穴が開くんじゃないかと思えるほどだった。
いくらなんでも一日でこんなになるなんて・・・。
「ひどい・・・。やっぱり誰かのいたずらなのかしら。」
「それだったらわかりやすいんだけど、でも普通こんな事するかなあ・・・。」
月夜の悲痛な声を上げ、火鳥は首をかしげながらトタン板を見つめる。
たしかに、そんな屋根をぶっ壊したところでなんの特にもならないはずだ。
何かの自然現象でこうなったのかなあ、なんて。
「火鳥くん、やはり不思議事件なのだ。
どこからともなく降ってくる石といい、勝手に壊れるトタン板といい・・・。
我々浪漫倶楽部が、この事件を解決しなければならないのだ。」
「部長の言うとおりだよ!恵ちゃんを護らなきゃ!」
そういや不思議事件か・・・あれ?今ちょっと何かを思い出したような・・・。
「それでどうするの?動かせない、屋根を作っても壊されるってことは、
みんなでこの場所に寝泊りするしかないわね。」
「うんそうだね。テントを持ってきてはりこもう。恵ちゃんを護りながら原因を突き止めるんだ。」
うんうん、それが一番。・・・えっと、もうちょっと・・・。
「なら急いだ方が良いぞ。先ほど一個、まさに芽の上に落ちてきたところだ。
私がそれは何とかしたがな・・・。」
キリュウの声にみんながその方を見る。キリュウの手には小さな石が握られていた。
多分万象大乱で石を小さくしたんだな。
「大変だ!部長、早速テントを取りに行きましょう!!」
「わかったのだ!それでは四人とも、私と火鳥くんが戻ってくるまでそこにいてくれなのだ!」
そして火鳥と部長は駆け出していった。その後に慌てて銀杏の芽の周りに集まるあたし達。
しばらくして月夜がぽつりと言った。
「ねえ翔子ちゃん、どうしたの?さっきからずっと黙ったままで。」
「ん?ああ、ちょっと考え事をね。」
あたしは軽く答えた。頭の奥に引っかかっているやつを早く引っ張り出したかったから。
「石が降ってくる原因を考えてたの?」
「ああ、石降り現象をね・・・。」
コロンまで訊かなくてもいいじゃないか。あたしは今必死に・・・
「そうか!石降り現象だ!!」
思わずあたしは大声で叫んだ。
びっくりした月夜が再び口を開く。
「しょ、翔子ちゃん。石降り現象って・・・なに?」
「そのなのとーり、石もない地方に、突然ばらばらと石が降るんだ。」
いやー、やっと思い出せた。すがすがしいったりゃありゃしない。
その時、一個の石がタイミングよく降ってきた。それをばしっと手でキャッチ。
うーん、気持ちいいねえ。
「それで、原因はなんなの?」
「ああ、原因は・・・そういやわからなかったんだ・・・。」
コロンの問いに、とたんにがっくりとなってしまった。同じように力を落とす月夜とコロン。
あちゃー、うかつだったなあ。よく考えたらその本には原因まで書いてなかったんだ。
「翔子殿、きっちりしてもらわねば困るぞ。偉そうにしていてそれでは話にならん。」
そしてキリュウがばしっと石をふりはらった。
「なんだよー。あたしがいつ偉そうにしたっていうんだよー。」
あたしも降ってきた石をぱしっとキャッチする。
「今度それに関する本を調べてみましょ。原因がわかるかも。」
さらに月夜も石を受けとめる。
「うわー、たくさん降ってきたよー!!」
ついにはコロンも石をキャッチ。話なんかしてられなくなってきた。
たくさんの石が雨あられ。皆がそれぞれ石にあたりながら恵ちゃんを必死に護る。
ぼろぼろのトタン板もそれなりに有効活用したけど、すぐに使い物にならなくなった。
十個ほどの石が当たったところで、ばらばらになっちゃったから。
「キリュウ、なんとかしてくれよ!」
「わかった。コロン殿、とりあえずそのかけらを置いてくれ!」
「こ、これ?」
コロンがトタン板のかけらを、恵ちゃんの上にかざす。
「よし、その位置で動かさぬようにな。万象・・・」
『ゴン!!』
突然鈍い音がしたかと思ったら、キリュウの脳天に石がヒットしたようだ。
扇をかまえたまま、キリュウは横に倒れてしまった。
「き、キリュウちゃん!!」
「お、おいキリュウ。・・・う、うわあ!!」
「いたいいたい!!」
石降りがさらに激しさを増し、とてもこの場所に立っていられなくなってきた。
もうだめか・・・と思ったその時、大きな黒い影があたし達の頭上を覆った。
・・・火鳥と部長だ!!
「危なかった。四人とも、遅くなってごめんね。」
「ううむ、キリュウちゃんがすでに倒れているとは・・・。
不思議事件恐るべし、なのだ!!」
分厚いビニールシートの屋根の下で一息つく。しばらくして石降りがおさまった。

「ふう、なんとか助かったみたいだな。皆は休んでて。」
あちこちに転がっている大小の石を隅へ片付けながら、火鳥が言う。
部長は応急処置として、新たな銀杏の屋根を作っていた。
あたし達四人、いや三人はキリュウの看病。
結構大きかったもんな。あれじゃあさすがのキリュウでもしょうがないか。
「早く原因をつきとめないと大変な事になりそうね。このままじゃ・・・。」
「大丈夫だよ月夜。きっと皆で解決できるよ。」
「そうそう。あたし達は不思議事件解決の専門家なんだからさ。
恵ちゃんを護るためにもあせらずに頑張ろうぜ。」
「ええ、そうよね。頑張りましょう。」
励ましの言葉に月夜が少し元気を取り戻したようだ。
「よーし、これでとりあえずは大丈夫だと思うのだ。火鳥くん、そっちは終わったのかい?」
「ええ、それじゃあテントを張りましょう。」
そしてみんなでテント張り。ここに戻ってくる前に、
しっかりと先生の許可は取って来たようなので、怒られはしない。
合宿とかいうのとは違って、みんな真剣な目つきだ。
そりゃまあ、こんな無茶な事件じゃな。
しばらくしてテントが完成。まだ気絶中のキリュウをテントの中へ寝かせ、作戦会議を開く。
「とりあえず調査組と守護組に手分けした方が良いと思うの。
翔子ちゃんがこれは石降り現象だって言うから、本を調べてみましょう。」
「それじゃあ、オレと部長とキリュウちゃんで守護組をやるよ。」
「それが良いのだ。本当ならキリュウちゃんも、
調査組の方が良いと思うのだが、今は気絶してるし・・・。」
「気にするなよ。ちょうど半数同士で良いじゃないか。」
「それじゃあ決まりだね。火鳥、部長、頼んだよー!」
そしてあたし達三人はその場所を離れた。目指すは市立図書館。
学校の図書室はまた授業のある日にでも行けば良いしな。
正直不安な点もあったが、このメンバーならなんとかなる!
改めてあたしはわくわくしてきた。よーし、がんばるぞー!!

調査組3人を見送り、われわれ守護組はテントの中で待機しているのだ。
もちろん石が降ってきたらすぐさま対応できるように、常に目を光らせている。
それにしても、石降り現象とはそのまんまんという気もするのだが、
翔子ちゃんに文句を言うと、後で怖いからなあ・・・。
「部長、ちょっと席外していいですか?」
「な、なんと!?」
いきなり火鳥くんがとんでもないことを言ってきたのだ。
キリュウちゃんがこの状態の今、火鳥くんが居なくなると、私一人になってしまう。
当然私はそれに反対したのだ。
「それはだめなのだ火鳥くん!私一人ではとうてい守りきれないのだ。」
「でも部長、こんなビニールシートじゃすぐにだめになっちゃいますよ。
だからオレがもっと頑丈なものを持ってきます。」
ううむ、確かに火鳥くんのいう事ももっともなのだ。しかし・・・。
「火鳥くん、せめてキリュウちゃんが起きるまで待っていてくれないかい?」
「だめですよ部長。石降りは待ってくれませんからね。一刻も早くしないと・・・。」
「それじゃあキリュウちゃんを起こせば良いのだ。」
すると火鳥くんは、うつむきかげんに首を横に振った。
「無理です。このあいだ部室を掃除した時の事忘れたんですか?
オレ達二人じゃ、絶対に起こせませんよ。」
「うっ、そういえばそうなのだ・・・。」
今は気絶中ではなく、なぜか寝息を立てているキリュウちゃん。
ここでキリュウちゃんを起こそうとすれば、
恵ちゃんを護るどころではなくなってしまうのだ。
「翔子ちゃんに訊いておくべきだったのだ。どうやって起こしたのか。
しかたないな・・・。」
「決まりですね、部長。なるべく早く戻ってきますから。それじゃあ!」
大急ぎで走って行く火鳥くん。
なんだか押し付けられたような気もするが・・・。
それとも、恵ちゃんを護るという重要な使命に、
私を信用して任せた、という事なのか?
それならそれで頑張れるというものなのだ。ここは一つ、浪漫倶楽部部長として・・・
「あいた!!」
さっそくそれから石が降ってきた。
うーむ、せっかく気合を入れていたところなのにしらけてしまっ・・・
いや、ここで負けるわけにはいかないのだ!私一人でここを護・・・
『こんっ!』
くっ、まだまだ・・・
『ごんっ!!』
「うわああ、どうしてこんなにたくさん!!」
私と火鳥くんがテントセットを持って戻ってきたときのように、
たくさんの石が降り注いできた。
ここに居ても意味が無いと思って、石降りのエリアから離れようとしたのだが・・・、
「ああっ!!早くも私の自信作の屋根がぁ!!」
よく分からないのだが、どうやらその辺りは特に石降りがひどかった。
おかげで屋根がぼろぼろ。もはや後わずかももたない状態のように思えた。
「こ、こうなったら!!」
急いで私はテントの中からビニールシートを引っ張り出す。
そしてそれを背中が分厚くなるように体に巻きつけ、
銀杏の芽の上を覆うようにして、体を丸め込んだ。
よーし、これならばっちりなのだ。
恵ちゃん、私が体をはって護るから安心したまえ!!

「うーん、ない。ない。これも違う・・・。
おっかしいなあ、確かに本で読んだのに・・・。」
「翔子ちゃん、どこにも石降り現象なんて載ってないわよ。」
「これじゃあお手上げだね。」
「あきらめないでくれよ。どこかに必ず載ってるはずなんだから・・・。」
今あたし達がいるのは市立図書館。
必死になって石降り現象について探しているところなんだけど、
まったくそれらしき本が見つからない。
もうすでに何十冊と見ているのに・・・。
「あっ、これは!・・・なんだ、星降り現象だったよ。」
空中をふわふわ漂っているコロンが、上のほうの本棚に戻す。
星降り現象?それって流れ星のことかなあ・・・。
「見てよ翔子ちゃん。石降り現象かと思ったら、
“石”じゃなくて“岩”なのよ。おかしな本ねえ。」
月夜は一瞬笑って、すぐに真剣な顔で別の本を探し始めた。
岩降りだあ?そっちのほうがすごいんじゃ・・・!?
「つ、月夜、もう一回見せてよ。何かの参考になるかも。」
「そんなはず無いわよ、翔子ちゃん。
岩降り(いわふり)じゃなくて岩降り(いわおり)よ。
つまり岩をどうやって降りるかって本なの。」
「・・・そうんなんだ。」
漢字一つで読みが違ったりするもんなあ・・・じゃなくて!
あたし達を馬鹿にしてんのか、その本は!?くっそう、腹が立つ・・・。
「あ、これは!?」
本の題名に、まさに石降り現象とかかれてある。
さっそく机に座って、その本を読み始めたんだけど・・・。
「なんだこりゃ。確かに石降り現象について書いてあるけど・・・。
原因なんてひとっことも書いてないなあ。これじゃあ役に立たないじゃないか。」
現象について解説したんなら、原因ぐらい書いとけっての。
残念そうにあたしは本を戻す。
そんなこんなで何時間経ったろうか。
コロンが今までとは比べ物にならないくらい大きな声を上げた。
「これだー!!これだよ、月夜、翔子!!」
当然周りの人がじろーっとこっちをにらむ。
図書館では静かにしろって教わらなかったのか?
あたしと月夜は申し訳なさそうにぺこぺこと頭を下げる。
そんな二人の気も知らずに、コロンはニコニコ顔で降りてきた。
状況わかってんのかなあ。ま、見つかったんなら良しとしようか。
「それでコロンちゃん。どんな事が書いてあるの?」
「とにかくすごいんだよ。机の上でみんなで読もうよ。」
そして三人椅子に座る。コロンが持ってきた本にはこんな事が書かれてあった。

≪『石降り現象』・・・石が全然無い所なのに、家とか道にばらばらと小石が降る現象。
そういった石は、たいてい近くの山や川原の石が吸いあがって飛んでくる。
こういった石降り現象は、今でも各地に、現に起こっている。
原因として、その地域の重力が狂っていると考えられる。≫

「・・・なるほど、そういう事だったのか。」
「ね、ね、すごいでしょ?」
「でも、どういうこと?あの場所の重力が狂っているっていう事なの?」
「多分そういう事なんだろうな。よし、さっそく戻ろう!」
おそらくこれは一つの仮説なんだろうけど、多分これで間違い無いはずだ。
とにかく戻って、キリュウに調べてもらおう。
そしてあたし達は図書館を後にして、学校を目指した。

「・・・ちょう、部長。」
「んん・・・。おや、火鳥くん。」
「おや、じゃないですよ!自分の体で護るなんて無茶して・・・。
大怪我したらどうするんですか!」
どうやら私は、恵ちゃんを護ったまま気絶してしまったらしいのだ。
気が付いたときにはテントに寝かされていた。
「ものすごい根性だな、綾小路殿。私も見習うべきか・・・。」
いつのまにかキリュウちゃんが起きていた。
火鳥くんの話によると、私が気絶している最中にキリュウちゃんが目覚め、
必死に私を守ってくれていたらしいのだ。
その最中に駆けつけた火鳥くんもまた、
雨あられと降る石に応戦していた。というわけなのだ。
「途中でキリュウちゃんが鍋を大きくしてくれて。あれなら当分安心ですよ。
ゆっくり休んで、月夜ちゃん達が戻ってくるのを待ちましょう。」
「そうか、それで二人ともこんなに落ちついているわけなのだね。」
テントの外では、相変わらず石降り現象が続いている。
しかしキリュウちゃんの万象大乱とやらで大きくなった金属製品により、
ばっちりと護られるべき所が護られている。
かなりうるさいのは我慢しなければならないのだが・・・。
「うんうん、これなら安心なのだ。さすがキリュウちゃん。」
「いや、まあ、その・・・。」
少し褒めただけなのに、キリュウちゃんは顔を赤らめてしまった。
まったく恥ずかしがりやさんなのだ。
そしてしばらくの後、とたんに音がうるさくなった。
石降り現象がひどくなったのかな?
外を見てみると、私は信じられない光景を目の当たりにした!!
「ななな、鍋が跳ねてる!?」
「鍋だけではないぞ、辺りの石も!!」
火鳥くんとキリュウちゃんの言う通り、
そこたへんに落ちている石、そして屋根用に設置した鍋が、
まるで意志を持っているかのように跳ね回っているのだ!!
これぞまさしく不思議事件!!
火鳥くんが作ったトタン板の屋根がぼろぼろになったのは、
間違い無くこれのせいだったのだ!!

学校へ続く長い長い階段。
その途中で、なぜかあたしは嫌な予感がした。
二人を促して急いで駆け上ると、信じられない光景を目にした。
たくさんの石が跳ね回ってるじゃないか!!
その様子に圧倒されたが、三人で顔を見合わせて猛ダッシュ。
必死になて恵ちゃんを護っている守護組三人と合流した。
数分間の悪戦苦闘の末、なんとか護りとおす事ができた。
しかし六人ともすでにくたくたのぼろぼろだった。
無理もないよな。自分の体が浮きかけたりもしたんだから・・・。
疲れた体を引きずり、テントの中で話し合いをする。
とりあえず図書館で見つけた本の内容を話した。
最初半信半疑だった内容が、ここへ戻ってきて確信へと変わった。
間違い無くここの重力は狂っている。
六人ともその説にうなずいた。しかし・・・。
「どうやってこれを解決すればいいのだ?重力を元に戻すなんて不可能なのだ。」
と、部長。再度みんながうなずく。
当然だよな。地球の重力を変えるってことなんだから。
「せっかく原因がわかっても、これじゃどうしようもないわね・・・。」
「月夜・・・。そうだ!キリュウならなんとかなるんじゃない?大地の精霊さんだもん。」
そうか、そういえばそうだった。いいところに気が付いたな、コロン。
「無理とは思うが・・・。まあ、一応やってみることにしよう。」
そしてすっと立ち上がり、恵ちゃんのそばへ寄る。
例のごとく短天扇を広げ、地面にあてた。
「この地に宿る力よ、そして銀杏の精、恵殿。大地の精霊である我に力を・・・!!」
しばらくの間静寂な時が流れる。しかしキリュウは、じっと地面に扇を当てたまま動かない・・・。
「・・・キリュウちゃん?」
部長が沈黙を破ったその時!
周りに落ちていた石がものすごい勢いで空へと昇っていった!
高くジャンプしたような、そんな感じだ。
しかし、なぜか空へ昇っていったのは石だけ。
その石も再び降ってくる事は無く、高い空の彼方へと消え去った。
「な、なんなんだ?キリュウ、いったい何したんだよ!」
あたしの声にキリュウが振り向いた。そしてポツリと一言。
「分からぬ・・・。いったい何がどうなっているのやら・・・。」
わからない?どういう事だ。キリュウが石を昇らせたんじゃないのか?
呆然としつつも疑問をめぐらせる。
そのとき、火鳥が銀杏の芽の方を指して叫んだ。
「恵ちゃん!!」
皆がその声に同じ方向を見る。
なんと銀杏の芽の上に、夢ヶ丘中学校の制服を着た小さな小さな女の子が立っているじゃないか!
外見はどことなく月夜に似ているな。この子が恵ちゃん・・・。
圧倒されつつもそばに駆け寄り自己紹介。そして話を聞かせてもらった。
「ごめんなさいね。本当なら長い間眠りつづけなければならなかったんだけど、
キリュウちゃんの呼びかけで眠っても居られなくなって。」
「すると私のせいで目覚めてしまったのか?すまぬことをした。」
申し訳無さそうに頭を下げたキリュウだが、恵は静かに首を横に振った。
「いいえ、今までの石降りは私にも原因があったから・・・。」
そして恵が語り出した。事件の真相はこうである。

《この場所に銀杏の芽が出てから何日もの間、それは火鳥達によって大切に大切に世話されてきた。
どうやらそれが引き金となって、空中やら土中やらを漂っている精気達が、
どんどん銀杏に吸収されていったらしい。
もともとお化け銀杏として、たくさんの人間を守った事も原因の一つだろうが。
とにかく、その集まった精気達によってみるみる成長する銀杏の芽。
しかし、銀杏に属さない精気達は別のものを作り出してしまう恐れがある。
そうなると、様子がおかしくなってしまったものとして、今までのように大切にされないかもしれない。
だから表からは目立たない、根で住み着く事になった。
キリュウが言っていた、広範囲に根が広がっているというのは、これが原因だったんだろう。
ところが、根を張るだけなら良かったのだが、集まりすぎた精気のおかげで、
自然の均衡に異常を来たし、ついには重力が狂ってしまった、というわけだ。》

「なるほど、大切にしすぎるのもかんがえものという事か・・・。」
「でもそれって寂しいですね。加減して大切にしなきゃいけないなんて・・・。」
すると恵がいいえと言った。
「そうじゃないわ、部長さん、月夜ちゃん。
ここに集まってきた精気達は、みんな私を早く火鳥くん達に会わせてあげようと来てくれたものなの。
でも、自分達が火鳥くん達に受け入れてもらえるかどうか不安で・・・。
それでこんな結果になっちゃったのよ。」
その言葉が終わると同時に、恵の周りにたくさんの小さな人影が姿を表わした。
さすが重力が狂うなんてことが起きるだけあるなあ。こんなにたくさん・・・。
「残念ながら言葉を交わす事はできないけど、気持ちは通じるはずよ。
火鳥くん、この人達に何か言ってあげて。」
火鳥はそれを聞くと、にっこり笑っていった。
「みんなありがとう。恵ちゃんと再び会えるようにまで頑張ってくれて。
オレは、いやオレ達は、どんな姿だろうと君達を受け入れないなんてしないよ。
だから安心して恵ちゃんの力になってあげてくれ。」
他のみんなも火鳥に続いて言う。
「我々浪漫倶楽部と君達はもう友達なのだ!だから遠慮せずにしてくれなのだ。」
「そうよ、これからも仲良くしましょう。」
「あうー、よろしくなのだ。」
「こうやって会えて良かったよ。さんきゅな。」
「先ほどの件、そなた達のおかげでかたがついたのだ。礼を言うぞ。」
どうやら恵ちゃん達にそれらが通じたようだ。喜びの表情へと変わるのが分かる。
「ありがとう、みんな。これからはたまにだけどお話もできるようになるわ。
改めて、よろしくね。」
恵が笑顔であたし達に言った。
またもや新たな友達が増えた。喜ばしい事だよな、うん。
「ところで恵ちゃん、不思議事件はもう解決したと見て良いのかい?」
おそるおそる尋ねる部長。
またあんな事が起きやしないか不安なんだな。
「以前みたいに石が降ったりなんてことは無いと思うけど、
砂みたいに小さいものは跳ねたりするかも・・・。
元の状態に戻すのは、結構時間がかかると思うわ。」
「そうか・・・。でもその程度なら大丈夫だな。
これからも俺達がしっかり護ってゆくよ!」
火鳥の気合の入ったへんじにみんながうなずく。
「ありがとう、火鳥くん、みんな。またね!」
そして恵は他の精気たちと共に姿を消した。
この土地を元の状態に戻しに行ったんだろう。
「月夜、ありがとう。本当に大切な良い友達だよな。」
「えっ、うんそうよ。翔子ちゃんもキリュウちゃんも恵ちゃんをこれからもよろしくね。」
「もちろん!なあ、キリュウ。」
「ああ、今度会った時は、もっとゆっくりと話をしてみたいものだ。」
月夜の電話から始まったこの事件。
半日もしないまま終わったけど、すごく大切なものを得たな。
これだから浪漫倶楽部はやめられない。そう思わないかな?

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