翔子と紀柳のパラレルワールド日記(「浪漫倶楽部」編)


「不思議事件ファイルV(風邪の恐怖再び!!)」

「はっくしょん!!・・・ごほ、ごほごほ。うー・・・。」
「大丈夫か翔子殿。あまり無理せずに家で寝てた方が・・・。」
「いや、だいじょ・・・ごほごほ!!」
くっそう、冬は過ぎ去ったのになんで今ごろ風邪なんか・・・。
ちなみに今は朝のあたしん家。学校へ行こうというところだ。
なんだか起きた時から調子が悪かった。どうやら風邪をひいたみたいだ。
キリュウの方はいたって元気。
「この前と逆だなあ、ははは・・・ごほごほ!
せ、せめて部活は出てや・・・お、おいキリュウ!」
キリュウはあたしをいきなり小さくし、ベッドに連れていった。
そして布団の中で元の大きさに戻す。
「おとなしく寝ておられよ、翔子殿。
昼は私が作っておくからそれを食べておくように。では行ってくる。」
「お、おーい、キリュウー・・・。」
あわてて起きて追いかけようとしたものの、力が入らない。
この風邪のせいか・・・。
あーあ、浪漫倶楽部の主戦力のあたしが風邪で休まなきゃいけないなんて・・・。
まあしょうがないかな、とりあえず早く治す事を考えようっと。
でもさあ、せめて着替えくらいはさせてほしかったな。
なんとか起き上がって、寝巻きに着替える。
そしてあたしは寝に入った。いわゆる二度寝ってやつだけどね・・・。

翔子殿の昼食の用意(なかなかにてこずったな)をして家を出た。
ふーむ、ひょっとしたら強引に起き上がって来るやもしれぬと思っていたが・・・。
素直で良い事だ。風邪の時は寝るのが一番だしな。
「おはよう、キリュウちゃん!あれ?翔子ちゃんは?」
「おお月夜殿、おはよう。翔子殿なら、風邪をひいて家でおとなしく寝ている。」
その言葉に驚きの顔を見せる月夜殿。
「風邪ってひょっとして、この前流行った不思議事件の風邪かしら・・・。」
不思議事件だと?そう言えばそんな出来事もあったな。
「あれはただの風邪だろう。
例え不思議事件だとしてもその時とは状況が違う。心配されるな。」
「状況って?・・・ああ、男子が全滅で・・・。
で、翔子ちゃんは最後まで風邪をひかなかったわね。
でも、あの元気な翔子ちゃんが・・・。」
月夜殿も心配性だな。風邪で死ぬわけでもあるまい。
一緒に並んで歩いていると、向こうから帽子をかぶった男子、火鳥殿がやって来た。
いつもの通り元気そうだな。それにしてもどうして常に帽子をかぶっているのやら。
「おはよう、火鳥君。」
「おはよう、火鳥殿。」
「おはよう、月夜ちゃん、キリュウちゃん。・・・あれ?翔子ちゃんは?」
月夜殿と同じ事を聞いてきた。やはり普通は気になるものだろうな。
「翔子ちゃんは風邪をひいて寝てるんですって。あの元気な翔子ちゃんが・・・。」
「へえ、そうなんだ。今の時期風邪をひくなんて珍しいよね。
大した風邪じゃなけりゃ良いけど・・・。」
そして三人で並んで歩き出す。
それにしても風邪をひくのに時期などが関係するのか。
そう言えば確かにこの時期、風邪をひく者はほとんど居ないか・・・。
「ねえ、火鳥君。ひょっとして不思議事件じゃあないわよね?」
「不思議事件?翔子ちゃんが風邪をひいたくらいで、そんな事言ってられないよ。」
「そうか、それもそうよね・・・。」
月夜殿はまだそれを疑っていたのか。少し神経質になり過ぎではないのか?
とりあえずそこで風邪の話題が消えた。
丁度よい機会だと思ったので、火鳥殿にちょっとした疑問をぶつけてみた。
「火鳥殿、どうしていつも帽子をかぶっているのだ?
部屋の中でも外でも。どうも気になるのだが・・・。」
「え!?い、いや、それは・・・。」
すると月夜殿も一緒になって火鳥殿の方を見る。
「私も気になる。どんな時も火鳥君は帽子をかぶったまんまだもんね。
泳ぐ時も帽子をかぶってたのはちょっと・・・って思ったんだけど。」
「泳ぐ時も!?それは本当か、月夜殿。」
慌てて月夜殿のほうへ向いて、驚きの表情で尋ねる。
すると、月夜殿はこくりと頷いて話し始めた。
「ええ、本当よ。以前浪漫倶楽部で夏合宿をした時に海へ行ったんだけど、
火鳥君ったらずうっと帽子をかぶったまんまだったわ。」
「ううむ、そうなのか。」
「それだけじゃないの。部長の話ではお風呂に入るときも帽子を取らなかったそうよ。」
「なんと!それは驚きだな・・・。」
ますます気になってきた。これはぜひともその真意を確かめねば!
「火鳥殿!・・・あれ、火鳥殿はどこへ?」
「あれ、ほんとだ!いつの間に・・・。」
月夜殿と立ち止まって辺りをきょろきょろ見まわしたが、火鳥殿の姿は見当たらなかった。
私達が話をしている間に、気付かれないよう先へ行ってしまったに違いない。
そこまでして隠していたいことなのだろうか・・・。
「しょうがないわね。また学校で聞いてみましょう。」
「そうだな。部活の時間にいやがおうでも会うことになるし。」
二人で顔を見合わせて頷き合い、学校へと歩を進ませた。
しかしその途中、少しおかしなことに気がついた。
なんと登校しているのはほとんどが男子で、女子の姿が全くと言って良いほど見えない。
ううむ、これは一体どうしたことだろうか・・・。
「なんだか変な気分。なんでこんなに女子が少ないのかな・・・。」
「ひょっとして・・・いや、なんでもない。」
月夜殿は興味深げに私を見たが、すぐに“そう”と言って前を向いた。
確信は持てなかったのだが、不思議事件という言葉が私の頭を駆け巡っていたのだ。
しかし私はすぐに頭を振ってそれをかき消した。
風邪をあまり深く考えるものではないと思ったから。
そして私と月夜殿は学校へ到着。校舎へ入って教室へと向かった。
教室に入った途端、やはり来る途中と同様に驚かされた。女子が少ないという事に・・・。
「どういう事かしら・・・。どうしてこんなに女子が居ないの・・・?」
月夜殿が唖然として呟く。とその時、 先に来ていた男子の一人(確か矢野殿だったな)が近づいてきた。
「やあ、月夜ちゃん、キリュウちゃん、おはよう。なんだか驚きだよね、男子ばっかりで。」
「ほんと。一体どういうことかしら・・・。」
「なあに、ただの偶然だろう。ところで火鳥殿は?」
教室内を見まわしたが、火鳥殿の姿は無かった。
少し腕組みをしているところで、矢野殿がこう言ってきた。
「火鳥ならもうすぐ来ると思うよ。 さっき教室に入ってきたと思ったらいきなり飛び出しちまったんだ。
何か急ぎの用事でもあったんじゃないのかな。」
「そうか。」
おそらく不思議事件か何かだと思いこんだに違いないな。
まったく、風邪ごときで騒ぐとは本当に平和なところだ。
私は月夜殿を促し、自分の席についた。

「え―と、部長の居るクラスは・・・ここだな。」
教室に着いた俺は、とりあえず部長の姿を探した。ボーっとしたまま座っているその部長を発見。
またいろいろな不思議事件について考えているみたいな、そんな顔だ。
そして近くに居た上級生の男子生徒に言う。
「すいません、浪漫倶楽部の部長、綾小路先輩を呼んでくれませんか?」
「なんだ?あ、君ひょっとして浪漫倶楽部の・・・。
ちょっと待っててくれよ。おーい、綾小路―!」
その人に呼ばれて、部長はすぐさま振り向いた。
俺が手を振ってちょこっと挨拶すると、わき目も振らずに駆け出してきた。
傍に来てぐいっと迫る。その部長に圧倒される前に、俺は呼んでくれた人にお礼を言った。
「ありがとうございました。」
「い、いや・・・。ま、頑張れよ。」
頑張れ、か・・・。確かにこの状況じゃあ・・・。
待ちきれないとばかりに、部長が口を開いた。
「火鳥君、こんな朝からどうしたのだ。まさか不思議事件が?」
「い、いや、確証は無いんですけど・・・。とりあえず、由紀先輩来てますか?」
すると部長はようやく顔を離して、それに答えた。
「それが来ていないのだ。あの由紀ちゃんが遅れてくるなど考えられないのだ。
いつも朝一番に来ては花の水遣りをしてたし・・・。」
「へえ、そうなんですか。」
さすが風紀倶楽部部長。朝一番に来て水遣りなんて普通出来ないなあ。
「で、どうかしたのかい?まさか由紀ちゃんに用があったのかい?」
「いえ、そうじゃないんです。翔子ちゃんが風邪で休んでるんです。」
「なんと!あの元気そうな翔子ちゃんが!!」
やっぱり部長は意外そうな反応を見せた。俺も最初はなんとなくそう思ったし。
「それで、教室に行ってみたら女子のほとんどが来てなかったんです。
部長のクラスもそんな感じじゃないですか?」
「ふむ、言われてみれば・・・別にそういう事は無いのだ、火鳥君。」
部長の言葉に教室を見渡してみる。
果たして、部長の言う通りほとんどの人は来ていた。
「あれ?でも涼先輩も居ませんよね。」
「そう言えばそうなのだ。まさか由紀ちゃんと涼ちゃん、
二人して何処かへ行ってしまったのでは!?」
「なんなんですか、それ・・・。」
変なところで真剣になる部長に、俺は呆れ顔になった。
うーん、ただの思いこみだったのかな。
こんなに来てるんなら風邪が流行ってるなんて訳が無いよな。
「それじゃあ、俺教室に帰ります。また放課後に。」
「あの、火鳥君。結局なんの用事があったのだ?」
そういや、ここに来た真の目的を伝えてなかったっけ。
回れ右をした俺は、再び回れ右をした。
「ちょっと不思議事件かな、って思っただけですよ。でも、関係無かったみたいですね。」
「不思議事件?翔子ちゃんと由紀ちゃんと涼ちゃんが休んでいると不思議事件なのかい?」
「いや、そうじゃなくって・・・。」
俺は以前流行った風邪について話し出した。そして今回、
俺のクラスの女子が大勢居ない事と何か関係があるのかもと思った事。
それで部長のクラスに来たけど、特に大勢休んでいる様子も無いので、
その見解は関係無い事なんだろうという事を。
「なるほど。しかし火鳥君、私はなんとなく気になるのだが。」
“キーンコーン、カーンコーン”
部長が疑問の顔になると、チャイムが鳴り響いた。
うわっ、長くいすぎちゃったな。早く教室へ帰らないと。
「それじゃあ部長、また後程という事で!」
「あ、ああ・・・。」
俺は急いでその場を離れて駆け出した。
やはり他のクラスも、うちと同じように女子が少ないように思えた。
それでも俺は、ただの偶然だろうと頭で片付けた。
あんまり不思議事件にこだわるわけにもいかないし・・・。
しかし、頭の片隅の方では、部長と同じく“なんとなく気になる”が存在していた。

放課後、例によって浪漫倶楽部の部室へ向かう私達。
といっても、一緒に歩いているのはキリュウちゃんだけ。
火鳥くんたらさっさと先に行っちゃうんだもん。
「なあ月夜殿。火鳥殿はちゃんと部室に来るだろうか・・・。」
「ええっ?そりゃあ来るわよ、浪漫倶楽部だもん。」
「しかし、帽子の事を尋ねたら避けられてしまった。ひょっとして逃げたのかも。」
「あ、そういえば朝そんな事を言ってたよね。」
なるほど、それで先に行っちゃったんだ。
キリュウちゃんの言う通り逃げたんだとしたら、よほど知られたくないことなのかな。
だとするとますます気になるな・・・。でもあんまり詮索するのは良くないかも。
なんて考え事をしている間に部室に到着。ノックをして扉を開ける。
と、中に居たのは・・・。
「あ、月夜にキリュウ。」
「コロンちゃん。」
コロンちゃんが私に早速飛びついて来た。
キリュウちゃんがそれを横目で見ながら中へ入り、扉を閉める。
「あれ、二人なのかい?火鳥くんはどうしたのだ?」
部長が唐突にこんな事を聞いてきた。意外なその質問に、慌ててコロンちゃんを床に下ろす。
「部長、火鳥君来てないんですか?」
「見ての通り、ここには居ないのだ。・・・火鳥君に何かあったのかい?」
私が答える前に、キリュウちゃんがさっと前に出る。
「先に教室を飛び出したからてっきり来ていると思ったのだが・・・。
やはり逃げた様だな。」
うんうんと頷いたかと思うとテーブルの傍に腰を下ろすキリュウちゃん。
部長はしばらくぽかんとしていたけど、慌てて口を開いた。
「逃げたとはどういう事なのだ?まさか部活がいやになって・・・?」
「そんなー!」
コロンちゃんが悲痛な叫び声を上げたので、私は急いで頭を撫でてあげた。
「そんな事無いですよ。キリュウちゃんと私で、ちょっと帽子について聞いてみたんです。
そしたら、火鳥君その話題を避ける様にして・・・。
ここに来ていないのは、その事を聞かれるのがいやだったからじゃないでしょうか?」
すると部長もコロンちゃんも落ちついたみたい。ため息を一つついた。
その時点で私とコロンちゃんもテーブルの傍に腰を下ろした。
いつまでも立っているわけにはいかないからね。
テーブルの上には部長があらかじめ入れておいてくれてた、お茶の入った湯のみが並んでいる。
それを一つ手にとって少し口にする。と、部長が真剣な表情で顔を上げた。
「火鳥君の帽子の秘密が気になるのだ。一度徹底的に調べてみるべきでは・・・。」
続いてキリュウちゃんも顔を上げる。
「同意見だな。あそこまでむきになられては気になって仕方が無い。
計画を立てて秘密を暴いてみようではないか。」
もう、無理にそんな事しなくてもいいじゃない。あれ、それよりも・・・。
「部長、翔子ちゃんが居ないのは気にならないんですか?」
「ああ翔子ちゃんか。今朝火鳥君がうちのクラスにやってきてね、
その時に翔子ちゃんは風邪だって聞いたのだ。」
「なんだ、そうだったんですか。」
良かった、忘れてたなんて事じゃなかったんだ。
安心してお茶をすすり出すと、キリュウちゃんが身を乗り出す。
「そんな事よりも火鳥殿の帽子だ。どう計画を立てたものか・・・。」
「うーん、難しいのだ・・・。」
何をそんなに真剣に考えてるのやら。
少しあきれていると、コロンちゃんが横から大きな声で言った。
「あれはね、ハゲを隠してるんだよ。」
「コ、コロンちゃん・・・。」
その声にぴくっとなる部長とキリュウちゃん。
しばらくじっと固まっていたかと思うと、やれやれとため息をついた。
「なるほど、そういう事だったのか。それだったら逃げ出して当然なのだ。」
「火鳥殿にもいろいろ苦労があるのか・・・。そうか、ハゲていたのか・・・。」
私はなにも言えずにじっとしてたんだけど、その時、がらっと扉が勢いよく開いたの。
「誰がハゲだって!?」
「火鳥君!」
火鳥君と私の声に反応し、他の三人も火鳥君を見る。
すると、火鳥君はそれを無視するかのようにつかつかとコロンちゃんの傍へ。
「コロン、誰がハゲだって?」
コロンちゃんのほっぺをむにゅーと引っ張りながら詰め寄る火鳥君。
ちょっとちょっと、そんな乱暴しちゃ駄目だって。
「あう―、火鳥だよ―。」
「違う!俺はハゲじゃない!」
力いっぱい否定すると同時にコロンちゃんのほっぺの伸びも大きくなる。
急いで私はそれを止めた。
「落ちついて、火鳥君。誰もハゲだなんて思っちゃいないから。」
そしてそれとなく部長とキリュウちゃんを見る。
唖然としていたけど、やはり火鳥君をハゲだと思っているみたい。
もう、そんな簡単に信じちゃいけないじゃない。かくいう私もなんとなく・・・。
「部長、俺の頭はハゲてると?」
沈黙していた部長だったけど、やがてゆっくりと口を開く。
「火鳥君、深い事情は聞かないことにするよ。
いくら火鳥君がハゲてても浪漫倶楽部の部員である事には変わりない。
私は部長としてそれだけは言っておくよ。」
くいっと眼鏡をあげたかと思うと、そのまま沈黙した。
もちろん慌てて火鳥君は詰め寄る。
「違うって言ってるじゃないですか!俺はハゲてない!!」
すると今度は横からキリュウちゃんが・・・。
「火鳥殿、それも試練だ。若いうちから大変だとは思うが、頑張って耐えられよ。
私にできることがあったらそれなりに協力する。だから遠慮無く言ってくれ。」
そしてキリュウちゃんはお茶をすすり出す。
なるほど、この二人は完璧にハゲだと思いこんでいるみたいね。
「キリュウちゃん!だから違うってばー!!」
懸命に弁解する火鳥君。それでも、二人は一向に聞き入れようとしなかった。
うーん、これはただ事じゃないわね・・・。
深刻そうに考えていると、突然火鳥君が私の肩をがしっとつかんだ。
そして思いっきり顔を近づけて言う。
「月夜ちゃん、月夜ちゃんはそう思ってないよね?ね?」
「え、あの・・・。」
本当ならすぐさまに安心させる言葉をかけてあげたかったんだけど出来なかった。
なぜかって?状況が状況だもの・・・。
この時の私は顔が真っ赤だったに違いない。
だって、火鳥君は後数センチという所まで顔を近づけてきたんだから。
「月夜ちゃん!」
更に顔を近づける火鳥君。
ちょ、ちょっと、それ以上近づいたら・・・。
「万象大乱。」
『ゴン!』
後ほんのわずか!というところで巨大な湯のみが火鳥君を直撃。
その勢いで火鳥君は横に倒れてしまった。
「か、火鳥君!」
慌てて駆け寄ると、火鳥君は当たった所を押さえながら起き上がった。
「いててて・・・。なにすんだよ、キリュウちゃん。」
そうよ、もう少しだったのに・・・って、何を考えてるのよ、私ってば!!
「月夜殿に無理矢理迫っていたからだ。力づくで真実を否定させるのはよくないぞ。」
更に続けて部長も、
「私も同意見なのだ。火鳥君、月夜ちゃんだけを騙そうなんて酷いのだ。」
と、なにやら真剣な顔で告げる。真実って・・・あのねえ・・・。
もちろん火鳥君はそれを否定するかのように前につんのめった。
「だから俺はハゲてないって!!何度言ったら分かるんですか!!!」
それでも二人は考えを改める気は無いみたい。
必死に叫ぶ火鳥君を無視してお茶をすすりつづける。
コロンちゃんはなんだかおろおろしてたみたい。こうなったら私も一緒に言わないと。
「部長、キリュウちゃん。火鳥君はハゲじゃないって言ってるじゃないですか。
本人が言っている事を信じましょうよ。そこまでむきにならなくても。」
火鳥君は救いの女神を見るような目をしたまま私の手を取る。
「ありがとう、月夜ちゃん。俺は感激だあ!」
なにもそんなに感激しなくても・・・。
ちょっとあきれていると、部長とキリュウちゃんが言ってきた。
「分かったのだ、この件については伏せておくことにしよう。いずれまた。」
「そうだな。まあ、影ながら応援しようではないか。」
なんだかあんまり解決になってないような・・・。
そしてやっぱり二人に詰め寄る火鳥君。
「ちょっと、二人とも!!俺はハゲじゃないんですって!!」
「まあまあ、そういう事にしておくよ、火鳥君。」
「そういう事だ。私はそれで納得しておく。」
あのね、そんなんじゃあ収まらないじゃない。もう一度言おうかな・・・。
「部長、はっきり言ってください!俺はハゲじゃないって!」
「ああ分かった。火鳥君はハゲじゃないよ。」
「私も言っておく。火鳥殿はハゲじゃない、と。これで良いな?」
なんだか投げやりな二人の返事に納得する火鳥君じゃない。
更に怒鳴りながら・・・というわけで、新たな口論が始まっちゃった。
おまけにそれにコロンちゃんまで加わってる。まったくもう・・・。

一時間が経過。いまだにそれがものすごく長く続いてる。
いいかげん頭に来た私は両手で“バン!!!”と机を叩いた。
一斉にびくっと反応する四人。静かになったところで、私は大声で怒鳴る。
「いいかげんにしてよ!!いつまでもハゲだのハゲじゃないだの・・・。
火鳥君!!帽子を取れば済む事じゃないの!!」
「い、いや、月夜ちゃん、それはちょっと・・・。」
なんだか逃げ腰な火鳥君に私はため息をつく。
「まあ、他に事情があるんなら仕方ないけど・・・。
コロンちゃん!!適当にハゲだなんて言っちゃ駄目じゃないの!!
帽子の中を見たわけじゃないんでしょ!!?」
「う、うん、そう・・・。ごめんなさい。」
しゅんとなるコロンちゃんを見て頷く私。
「今度からあんまり軽はずみな発言はしない様にね。
部長、キリュウちゃん!!なんだってそんなにしつこくハゲハゲって・・・。
おかげでちっとも話が進まないじゃないですか!!!二人とも火鳥君の意見で納得しなさい!!!」
おびえながら抱き合ってこくこくと頷く二人。
ふう、ようやく一段落したみたい。無駄な時間を過ごしちゃったな・・・。
「さてと、火鳥君。とりあえず別行動を取ったのは何か他に理由があるんでしょ?
じゃないと戻ってくるはずがないもんね。ねえ、一体何をしてたの?」
しばらくあっけに取られてた火鳥君だったけど、やがて落ちついて喋り出した。
「今回の風邪についてやっぱり気になったから。それで萌ちゃんがいる鳥小屋に行って来たんだ。」
「なんと!火鳥君と萌ちゃんはそういう仲だったのかい!?」
部長が突然叫ぶ。当然私と火鳥君は“何言ってるんですか”という顔で睨み返す。
そしたら部長はおとなしく引き下がった。まったく、何を考えて・・・。
再び火鳥君に話を進めるように促そうとしたら、今度はキリュウちゃんが横から言ってきた。
「火鳥殿、浮気は良くないぞ。月夜殿という人物がいながら・・・」
「「キリュウちゃん!!!」」
二人同時におもいっきり怒鳴る。
びくっとなったキリュウちゃんは“すまぬ”と言いながらうつむいちゃった。
なんだってこんな話が飛び出すのやら。浮気って、あのねえ・・・。
顔を真っ赤にしながらもやはり火鳥君を促せる。
「そ、それでさ、やっぱり萌ちゃん達飼育委員は全員風邪なんかひいてないって。
だけど、やっぱり風見鶏がある方向を向いたまま動かなくなったみたいなんだ。
それでその方向を俺も見てみたんだけど、別に不思議なものは無くて・・・。」
「へえ、なるほど・・・。」
以前の事件は風見鶏の声を聞いたって翔子ちゃんと由紀先輩は言ってたものね。
それに感づいて鳥小屋に行ってみるなんてさすがは火鳥君。でも収穫なしかあ・・・。
「それで火鳥君、他に何か手がかりに成るようなものは無かったのかい?」
「いいえ。で、いったん皆と相談しようと思って戻ってきたら・・・。」
「コロン殿にハゲだと暴露されてうろたえていたという訳だな。」
キリュウちゃんがいまだにそんな事を言ってきた。
なるほど、さっきの事なんて利いちゃいないって訳。こうなったら・・・。
唖然とする部長、コロンちゃん。そしてふてくされている火鳥君を目で促して私は立ちあがった。
「キリュウちゃん、お茶が無くなったから私が入れてくるね。」
「ん?うむ・・・。」
急須と皆の湯のみを受け取ってお茶っ葉の置き場へ。
キリュウちゃんの湯のみにだけ、内緒である物をさささーっと入れる。
そして何食わぬ顔で皆の所へ戻った。
「さあ、どうぞ。」
「ふむ?ではいただくとしよう・・・。」
少し疑問を抱いたキリュウちゃんだったけど、とりあえずお茶をすすり出した。
火鳥君たちもお茶を飲み出した。そして・・・。
『ぶ――っ!!』
と、キリュウちゃんがお茶を吹き出した。激しい咳をしながら私のほうを向く。
「ごほごほ、つ、月夜殿、一体何を入れて・・・。」
「山椒よ。小粒でもぴりりと辛いってのをささ―って入れたの。
どう?美味しかったかしら?」
「しょ、翔子殿から聞いたのだな・・・。み、水を―!!」
苦しみもだえるキリュウちゃん。
三人はびっくりしておろおろしてたけど、私はそれを制して静かに言った。
「今度から火鳥君の帽子については詮索しない事。
そんでもってハゲだなんて決して思わないこと。分かった?」
「わ、分かった、分かったから早く水を―!!」
これ以上やると気絶しちゃいそうだったから、急いでお水を汲んで手渡した。
あっという間に何杯も飲み干してゆくキリュウちゃん。
ふえ〜、これほどまでに辛いのが苦手だったなんて・・・。
まあこれでさっきまでの問題は解決したでしょう。早く本題に入らないと。
落ちついたキリュウちゃんを尻目に、火鳥君に話を戻してもらう。
「それで火鳥君、どうしようか。何処を訪ねるべきだと思う?」
「そ、そうだね・・・。えーと、とりあえず前回廻ってみた所を全部廻ってみようかなって。」
「なるほど。それじゃあ月夜ちゃん、案内をよろしく頼むのだ。」
早速立ちあがる部長。気が早いなあ。でも、善は急げって言うしね。
コロンちゃんを促して私も立ちあがる・・・と、まだ座っている人が一人。
「どうしたの、キリュウちゃん。早く出かけましょうよ。」
「月夜殿、ちょっと・・・。」
何やら深刻そうに手招きするので顔を近づける。
「なんなの?」
「どうして火鳥殿のハゲ説を否定するのだ。そこの所が良くわからな・・・」
「キリュウちゃん!!」
“ばん!”と私はまたもや机を叩いた。
しかしキリュウちゃんは臆さずにこんなことを言い返してきた。
「ひょっとして将来の相手がハゲだから嫌だという事でそう思っているのでは?」
「なっ・・・。まったく、まだ飲み足りないのかしら・・・?」
赤くなりながら、そして呆れながらさっきのお茶を目の前に突き出す。
と、キリュウちゃんは血相を変えて首を横に振った。
「わ、分かった、済まぬ、私が悪かった。」
「ほんとに分かってるの?それより翔子ちゃんに影響されてない?」
「うむ、そうかもしれぬ。まあこれも試練だ、耐えられよ。」
なんの試練なのよ。こっちも負けずに言い返した。
「キリュウちゃんこそ耐えてよ。辛いものでも平気で飲んだり食べたりできる様に。」
「・・・悪かった。この件に関してはきっぱり忘れることにしよう。
さてと、風邪について調べるのだったな。私自身は不思議事件と思わぬのだがな・・・。」
チラッと文句を言いながら立ちあがるキリュウちゃん。
そう言えば前回も最後まで否定してたっけ。まあやっと分かったみたいだし。
「それじゃあ出発しましょう。全部回った後に再び鳥小屋に行くって事で。」
「うん。それじゃあ月夜ちゃん、案内頼むよ。」
「早期発見早期治療が肝心なのだ。出来るだけ今日のうちに事件を解決するのだ!」
「ぶちょうー、難しい事言わないでよ―。」
なんだか歯医者さんみたい。何かに影響されたのかな・・・。
そして無言のままのキリュウちゃんをもう一度促して、私達五人は部室を後にした。

「どうもありがとうござました―。」
丁寧にお辞儀をして職員室を出る。
前回に訪ねた場所を廻りに廻って、残るは校長室のみとなった。
それにしても情報が少なすぎるのだ。何処で聞いても別に何も無いというものの一点張り。
仕方が無いかもしれないな。なんと言っても休んでいる人物がほとんどいなかったから。
唯一人形劇部だけは全滅。つまり中川くんと未央ちゃんはおやすみだという事。
そう言えば月夜ちゃん不思議がっていたな。“前回と逆の人達しか残っていない”って。
途中でその法則に気付いた私達だったが、キリュウちゃんが否定をしてきたのだ。
“逆ならばなぜ月夜殿が元気なのだ?それに萌殿にも会ったのだろう?
ならばそのまま逆に考えるのは不自然ではないのか?”だって。
確かにそうなのだ。クラスも人数的にも逆というわけじゃなかったし・・・。
というわけでほとんど手がかりを得られないまま、最後の部屋へと来てしまったのだ。
「校長室か・・・。たまにはキリュウちゃんが行ってよ。」
「そうだよ。ずうっと赤くうつむいたまんまで・・・。一つくらいは、ね?」
「う、うむ・・・。」
そうなのだ。廻っている間中キリュウちゃんは赤くうつむいたまま一言も喋らなかったのだ。
部屋を去ると途端にきりっとして。それで慎重な意見を述べる。
こんなに人見知りが激しい子だったとは驚きなのだ。
一応キリュウちゃんは火鳥君と月夜ちゃんの声に頷いたものの、やはりうつむいたままなのだ。
ううむ、いきなり(いきなりじゃないけど)言われてもつらいだろうに。
というわけで、ここは浪漫倶楽部部長のこの私の出番なのだ!
「それじゃあキリュウちゃん、私と一緒に行くかい?
もちろん説明するのはキリュウちゃんだけどね、私も横から助けてあげるよ。」
「そ、そうか?うむ、では・・・。」
重い足を前に差し出してキリュウちゃんが進む。
そしてノックをして校長室へと足を踏み入れた。(なぜか他の三人は外で待っているが)
「失礼します。」
キリュウちゃんとともに校長室へ入って戸を閉める。
いつも通りの顔を見せながら校長先生が座って居たのだ。
「なんの用かね?おや、確か君は以前のイベントで一等賞を取った浪漫倶楽部の綾小路君だね。
その後はどうかな?みんな仲良く過ごしているかな?」
「は、はいなのだ・・・。」
思い出したのだ。あの悪夢のようなイベントを・・・。
少し呆然としていると、キリュウちゃんが横から突ついてきた。
「そのイベントとはなんだ?」
「去年の冬にやったのだ。お掃除をして、寒中水泳をして、
それでわれわれ浪漫倶楽部はなんとか一等を取る事が出来たのだ・・・。」
考え込むキリュウちゃん。おやっ、なんだか今回は照れてないのだ。
校長先生が目の前に居るというのに・・・。
「寒中水泳とはなんだ?」
「えっ。」
またもや私は呆然としてしまったのだ。寒中水泳を知らないとは。
それでも私はあんまり説明をしたくなくて、それで黙っていると・・・。
「寒中水泳というのは、真冬に泳ぐ事ですよ。」
と、校長先生が言ってきてくれたのだ。
それにキリュウちゃんも興味津々に振り向く。
「真冬に泳ぐ?そんな事をして大丈夫なのか、校長殿?」
「ちょ、ちょっとキリュウちゃん、校長先生に向かって・・・。」
「校長殿?ははは、なかなか面白い生徒ですね。
もちろん大丈夫ですよ。体が鍛えられること間違い無しです。
君も参加してみてはいかがかな?今年の冬にやる予定ですから。」
「いや、私は寒いのは・・・。」
「何事も経験ですよ。選手として登録しておきますね。お名前を・・・。
っと、確か綾小路君がキリュウちゃんとか言ってたね。
そうか、最近編入してきた子だったね。うん、ばっちり書いておくから心配いらないですよ。」
それを聞いたキリュウちゃんはなんだか必死になって校長先生に詰め寄る。
「ま、待った校長殿。私は出るつもりは無い!それこそ寒さで死んでしまう!」
「何を言うやら。風邪こそひけど、死ぬなんてことはありませんよ。」
「し、しかし・・・!!」
どうも校長先生はその気らしいのだ。それより校長先生の言葉で思い出したのだ!
「校長先生!今日ここに来たのはちょっと聞きたい事があってきたんです!」
詰め寄るキリュウちゃんをなだめて、新たな話を持ち掛ける。
と、校長先生は目をきょとんとさせてこちらを向いた。
「聞きたい事とはなんですか?」
「実は・・・。」
“そんな事より私は寒中水泳などしない―!”と叫んでいるキリュウちゃんをおさえ、
風邪についての考察を述べる。(結局私が説明する羽目になってしまったのだ)
全部話し終えた時に、校長先生はゆっくりと喋り出した。
「なるほど、このあいだの冬に流行った風邪と関係があるかも、と。
あれは団結力があったようですが、今回は気まぐれでしょう。
なあに、一日もすれば元通りになるんじゃないですか?」
「は、はあ・・・。」
なんとなく良く分からなかったものの、それで納得する事にして頷いた。
そしてお辞儀をして出て行こうと思ったら、キリュウちゃんは再び校長先生に詰め寄った。
「校長殿、登録を取り消してくれ!!私は寒中水泳などしない!!」
「駄目ですよ、もう書いちゃいましたから。いけませんなあ、わがままは。
それでは綾小路君、キリュウ君をよろしく頼むよ。」
「は、はい・・・。さあキリュウちゃん、もう行こうなのだ。」
片手をつかんで引っ張り出すと、やっぱりキリュウちゃんは抵抗する。
随分と必死なのだ。でもまあキリュウちゃん、校長先生には勝てないと思うのだ。
「放してくれ、綾小路殿!私の命がかかっているのだ!」
「おおげさですよ、キリュウ君。なあに、ちょっと冬の水につかるだけですよ。」
「それが命にかかわるのだ!私は寒いのは嫌いだ―!!!」
「キリュウちゃん、いいかげんにするのだ。嫌いなんていう理由じゃあ説得力が無いのだ。
それじゃあ校長先生、失礼しました。」
「うむ。それじゃあ寒中水泳楽しみにしているよ。」
笑顔で手を振る校長先生に頭を下げて部屋をでる。最後までキリュウちゃんは暴れていたのだ・・・。
そして廊下。三人ともキリュウちゃんのただならぬ様子に驚いていたのだ。
「なにかあったの、キリュウちゃん?」
「月夜殿、私はもう駄目だ・・・。今年の冬で命を落とす・・・。」
「ええっ!?それってどういう事!?」
続けて尋ねる火鳥君。(もちろんコロンちゃんも一緒)
落ちこんでいるキリュウちゃんの代わりに私が理由を説明した。
「・・・なるほど、寒中水泳ですか。大丈夫だよ、キリュウちゃん。
寒中水泳したくらいで死にはしないって。」
「それにしても校長先生って強引ねえ。それより今年もやるんだ、そんなもの・・・。」
「という事は優勝はキリュウにかかってるんだね。頑張ってよ、キリュウ!」
「・・・・・・。」
コロンちゃん、そんな事を言うと逆効果なのだ。
しばらくなだめたり黙ったりしていたのだが、本来の目的を思い出して四人に告げた。
「それじゃあそろそろ鳥小屋へ行こうなのだ。もう一度風見鶏さんを見に行くのだ。」
「あ、そうでしたよね。じゃあ出発しましょう。」
「ほら、キリュウちゃん。いつまでも落ちこんでないで。」
「・・・・・・。」
「早く行こうよ―。」
今だうつむいているキリュウちゃんを引っ張りながら歩き出す。
途中で火鳥君が聞いてきた。
「それで部長、校長先生は風邪について何て言ってたんですか?」
「それが良くわからないのだ。“前回は団結力があったけど今回は気まぐれだ”って。
私には何がなんやらさっぱり・・・。」
「団結力・・・。そういえば前回確かにそんな事言ってたなあ。」
考え込み出す月夜ちゃん。まあこれは校長先生なりの見解かな。
でも校長先生の言う通り気まぐれなら、それはそれで良い事なのだ。
前回みたく何日も続くと言うわけではないのだから。
そして鳥小屋に到着。風見鶏を見たとき、少し疑問を感じた。
別段普通ではないか。火鳥君は動かなくなったとか言っていたような・・・。
「あ、火鳥君、それに浪漫倶楽部の皆!」
鳥小屋から顔を出したのは飼育委員の萌ちゃん。
それに返事するかのように火鳥君は傍へと駆け出して行った。
「風見鶏さん、元通り動いてるよね。直したの?」
「ううん。直そうと思ったときにはもういつも通りだったの。
多分何か引っかかってたんじゃないかって。」
「そうなんだ・・・。」
首を横に振ってこちらを振り向く火鳥君。
それを見た私はキリュウちゃんに何かの気配は無いか探ってもらったが、やはり何もなかった。
うむむ、ひょっとしてまたしても逃げられてしまったのだろうか・・・。
と、このようにして、結局なんの解決の糸口も得られないまま、その日が終わってしまったのだ。

「おっしゃ―、全快!」
昨日つらかった風邪が嘘の様に治りきった。寝てて正解かな。
いつも通り朝食を済ませてキリュウと一緒に登校。
しかしどうもキリュウの様子が変だ。尋ねても理由を話してくれないし。
教室に着いたときに月夜と火鳥とも出会ったので真相を聞いてみた。
ちょっと時間がかかったものの、昨日の出来事を全て聞く事が出来た
「・・・なるほど、そういう事だったんだ。
ちぇ、惜しかったな。そんな面白いことがあったんならやっぱり来るべきだったよ。」
「翔子殿、人の気も知らないで・・・。」
「それにしても結局なんの事は無い風邪だったなんて。不思議事件かと思ったのに。」
月夜の言う通り、風邪の流行はたった一日で収まり、今日はほとんどの生徒が元気良く来ているのだった。
ひょっとして一日だけの風邪、っていう不思議事件だったんじゃ?なんてね。
「それでも部長はまた逃げられたと思ってるらしいよ。次こそは捕まえてやるんだって。」
「そうなんだ。でもとりあえずそんな事より、あたしはキリュウの寒中水泳が楽しみだな。
寒がりなキリュウがどんな根性を見せて泳いでくれるか。」
「・・・・・・。」
黙り込むキリュウ。それを見た月夜がそれとなしに慰めようとする。
「キリュウちゃん、先のつらい事なんて考えないで、ね?
大丈夫よ。“この程度か”なんてもので終わるかもしれないわよ。」
「そうなら良いのだが・・・。まあ今から落ちこんでも仕方あるまいな。」
少しだけ元気になった様だ。さすがは月夜だな。
「それにしてもまだまだ風邪の事件に振り回されそうな気がするなあ。
早いとこ解決したいね。」
「そうね。皆が突然な風邪の流行に悩まされない様に。」
「よーし、これからも気を引き締めようぜ!」
「やはり私は不思議事件とは思えないのだが・・・。」
最後まで否定の意をとるキリュウ。まったく、この後に及んでそんな事を・・・。
ところで、なんとなく気がついて今度の風邪での、浪漫倶楽部の被害を思い返してみた。
あたし:風邪で寝こんでいたために面白い出来事に参加できなかった。
キリュウ:辛いものを飲まされた。寒中水泳をやる羽目になってしまった。
火鳥:皆からハゲだという疑惑を受けた。
月夜:とにかく火鳥、キリュウのなだめ役でくたくた。
コロン:火鳥に引っ張られたおかげで、ほっぺが少し伸びてしまった。
部長:不思議事件を解決できなくてがっかり。
とまあこんなとこかな。なんだ、結構大変な目に遭ってるじゃないか。
やっぱり本格的に解決に乗り出さないと!

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