『きな粉おはぎ』

「あらあら、これは私が作らないといけませんね」
にこやかな秋子さんの声が聞こえる。
秋子さんからそういう事を言ってくれたのなら、ここは頼りにせざるをえまい。
…待て、今は朝だぞ?しかも俺は寝てる最中だぞ?
ベッドの上、布団の中で俺は疑問をまざまざと感じた。
がばっ
飛び跳ねて起きる。
しかし、そこに秋子さんの姿はなかった。
「…夢だったのか?」
枕元の時計に目をやる。7時。目覚しより早く起きた。
「まあいっか…」
てきとーに納得する事にした。
着替えを済ませる。学校へ行くための準備を済ませる。
「…あれ?」
ある物が無い事に気付いた。ある物とは例の本だ。
おかしい、机の上に必ず置いてあるはずなのに…。
「名雪か真琴か…」
一番に浮かんできた容疑者の名前を口にする。
しかし今日に限ってそれはすぐに打ち消された。
「もしかして…秋子さん?」
まどろみの中で聞いた気がする秋子さんのあの声。
あれは夢ではなかったのかもしれない。
「考えていても始まらないな…」
直接本人に尋ねてみるのが確実だ。
なにはともあれ、一階へと俺は足を運ぶのであった…。

そして一階、台所。
「おはようございます、祐一さん」
笑顔で秋子さんが出迎えてくれた。既に朝食の準備…いや、それにしては豪勢だ。
たくさんの天ぷらが食卓に乗っかっている…。
「…朝から油ものですか?」
「いいえ?これは夕飯のおかずですよ」
さらりと言ってのけた。
…夕飯?朝から夕飯の準備?いや、準備どころじゃない、既に作ってある。
しかも台所の奥の方では油をたっぷり溜めた中華鍋が目に入った。
「あの、秋子さん…」
「はい?」
「なんで朝から夕飯のおかずなんか…」
「いいえ?今は夜ですよ?」
「へっ?」
きょろきょろと辺りを見回す。時計は7時をすぎた頃。
…夜?
「あっ、祐一起きたんだね〜…って、なんで制服着てるの?
これから補習でもあるの?」
「そういう名雪はなんで普段着なんだ」
「だって今日はもう学校とっくに終わってるよ」
「………」
もしかして…午前と午後を間違えた?
っていうか、俺は朝から更に12時間寝ていた?
「あっ、祐一!制服なんか着て、一日に二回も学校へお出かけなの?」
真琴も顔を出してきた。
言動から察するに、俺が今日学校へ行ったのは間違い無いらしい。
「祐一さん忘れたんですか?帰ってきてお昼寝するって言ってたじゃないですか」
混乱している所へ、秋子さんが丁寧に説明をしてくれた。
…そうだった、思い出した。今日はどうも眠気が取れなかったんだ。
これじゃあ舞の居る夜の学校へ出かけるのは無理だと思い…昼寝したんだ。
「………」
気落ちしていると、更に秋子さんが声をかけてくれた。
「用意し損ねていたきな粉おはぎも、ちゃんと作ってありますよ」
「きな粉おはぎ?」
聞き返すと、にこりと笑って秋子さんは例の本を見せてくれた。

『●きな粉おはぎ
うるち米ともち米を混ぜて炊き
軽くついて丸めたあと
きな粉をたっぷりとまぶしたおはぎ』

「…なるほど、そういやこれを秋子さんにお願いした記憶があるな」
「祐一、頼んでおきながら忘れてたの?もう…しっかりしないと駄目だよ」
「祐一のボケもどんどん進んできてるって事だね〜」
「あらあら、若いうちから大変ね」
女三人和やかに笑い合う。
その時の俺は気まずいったらなかった。言い過ぎだと心の中で返したが…。

夕飯後。
きな粉おはぎを受け取り、俺は学校へと繰り出した。
背負うほどではないが、ふろしき一杯に包まれているそれは心地よい感触である。
「ちょっと特別なふろしきなんですよ」
出がけに秋子さんはこう付け足した。
何がどう特別なのかはもはや気にしないことにする。
…10数分後、俺は学校に到着した。
するりと校舎内に潜入。月の光を背に浴びながら、舞は廊下に立っていた。
「よお舞」
「………」
呼びかけるとこちらに顔を向ける。だが向けただけだった。
「今日はきな粉おはぎだ。美味いぞ。和風だぞ」
「…嫌いじゃない」
相変わらずの返答。
ここで嫌いだとか言われるとこちらも困るとこだが、舞は決してそう言わない。
…いや、あえて言わないのかもしれない。
密かに心遣いをしているのかな?
さすがは舞…
「…早く頂戴」
「おわあっ!」
気が付くと舞の顔が目の前にあった。
気配を断って近づくとはさすがだ。
単に食い意地がはってるだけなのかもしれないが…。
「まあ待て待て、今準備するから」
床に腰を下ろし、ふろしきを広げてやる。
ぱさっと開梱されたきな粉おはぎ……
「凄い…お茶セット…」
目にした瞬間に舞が呟く。
急須、そして湯飲みが二つ。既に丁度良い色の緑茶が入っている。
その脇にはきな粉おはぎ。しっかりとお皿の上に盛られていた。
「………」
……ちょっと…特別?
というか既に物理現象の常識を無視してないか?
もぐもぐ…
こくこく…
「…凄く美味しい…」
呆然としている間に舞がさっさと食べにかかっていた。
おはぎを食し、お茶を飲む。
…いや待て、お茶?俺が受け取ったときはおはぎだけを包んでいたような…
もぐもぐ…
こくこく…
「って舞!一人で全部食べようとするな!!」
「…美味しい」
「俺も食う!!」
というか忘れていた。
今日はこのきな粉おはぎを、俺はまったく食べていなかった。
元々これを食べるのが目的なのに…。
慌てて頬張る。
「美味い…」
「美味しい…」
夜の校舎に、二人の生徒がひたすら舌鼓を打つ音だけが響いていた。
そして、ふろしきの謎は闇の奥深くに葬り去られた…。

<○ぽけっと付きです>


『キャロットジュース』

来たか、子供達に苦手とされてる野菜の代表…。
カレーなんかでも可哀相に除かれてる光景を昔から聞いていた。
しかし名雪は食べられる。寝言で言ってたしな。
“にんじん食べられるよ…”と。

「…それで、わたしが作るの?」
「そうだ。これは自然の摂理だ」
「う〜、言ってることが無茶苦茶だよ祐一…」
名雪の部屋。俺はここに説得を試みに来たのだった。
案の定名雪は賄賂を求めてきた。しかし俺は屈しないぞ。
「わたし賄賂なんて求めてないよ…」
「本当か?」
「う〜、一言もそんなこと言ってないのに…」
「ならOKだ。さあ作るんだ、キャロットジュースを」
「…うん、わかった。でも…」
ちらりと名雪が本を見やる。
あっけらかんと開かれたその本には、軽く一文が書かれてあったのみだ。

『●キャロットジュース
人参の果汁を使って作ったジュース』

「こんなもの、祐一だけで作ってよ」
「何を言う。俺が作る意味があると思うか?」
「大いにあると思うよ…」
これだから名雪は…。
「よおしいいだろう、俺が今回は作る。また別の料理で頼りに来る。分かったな?」
「うん、そうして」
「じゃあな、名雪。邪魔したな」
「ううん」
あっさりと俺は部屋を後にした。
そう、これは新たな約束を取り付ける為にしか過ぎない。
別の難しい料理で名雪に確実に頼る為だ!
それはともかく、早速台所。にんじんを取り出して、ミキサーでガー…
あっという間にキャロットジュースの出来上がり。
ごくごくごく…
「…ふっ、楽勝だぜ!」
…なんだか空しい。
っていうか、本当はすべてこの程度であってほしい。
辛いとかアメーバとか傷んだとか変な物が登場するからややこしくなるんだ。
しかし!それも一つは確実に名雪に頼れると今回保健を得た!!
「…あんまり意味無いかも」
よくよく考えれば、相談すればいつも快く応じてくれる。
俺の思いつきはもしかして…。
「そうだ。もっとこれを飲んで頭が良くなろう!」
ごくごくごくごくごくごく…
「…げふっ」
何故か非常に苦い味がした。

<意味無し>


『究極のサーロイン』

一瞬俺は目が飛び出た。
「…究極ってなんだコラ」
本にすごんでみせる。しかし本は相変わらず本だ。
ここでドロンと変な爺さんが出てきて、
“これはこれこれこういう事じゃよ。ふぉっふぉっふぉ”
とかいう展開になったら面白いんだが…。
「…んなもん全然面白くねえ」
自分で考えたことに自分でツッコむ。
さてさて、これはどう対処するのがいいかな…
「相沢がおごれ」
「…帰れおまえ」
横から北川がしゃしゃり出てくる。ざけんなって感じだ。
一言目には“おごれ”と繰り出すリピート野郎をクラスメートにもって、俺は実に不幸だ。
「冗談だよ。聞いて驚け、なんと凄いアテがあるんだ!」
「ああそうか、そりゃ良かったな」
笑いながら北川は手を振るが、俺にはどうでもいいことだった。
こいつの言うアテってのは良かった試しがない。
「美坂がご馳走てくれるらしい。やったぜ!!」
「…なにっ!?」
驚きだ。あの香里が?
その本人を見やる…としようとしたが、香里は既に居なかった。
つまり席は空っぽだということだ。
「ふっ、冗談だよ」
「…やっぱおまえ帰れ」
相変わらず北川は笑っている。もはや聞く耳は持たないことにしよう。
「俺が奢ってやるよ、究極を見せてやる」
「どうせ後で倍返しとか言うんだろ?」
「…相沢、そんなに俺は信用ないか?」
「ああ」
きっぱりと言ってやった。普段の行動を見ていれば当然出てくる言葉だ。
「…くっ、ここまでか」
無念そうにがくっと膝をつく。なかなか演技派だ。
そんな北川はどうでもいいとして、結局俺がとるべき行動は…
「秋子さんに頼るしかないな」
ということだ。
結論が出たところで荷物をまとめて帰る準備に取りかかる…
がしっ
俺の足を何かが掴んだ。北川の手だった。
「相沢、俺も食わせてくれ」
「…お前な、いつからそんなに人にタカる奴になったんだ?」
「だって究極だぜ?」
「ま、一応秋子さんに聞いてみるけど…」
仕方ないとかぶりをふり、北川を家まで連れてくる。
すると、やはりというか秋子さんは“了承”の二文字を出してくれた。
ほんとに甘いんだから…。
だが、秋子さんは説明を見るなり目の色を変えてしまった。

『●究極のサーロイン
ステーキの王様。その究極』

「…祐一さん」
「は、はい?」
やけに深刻そうな顔つきだ。
しまった、秋子さんでも用意しきれないものだったか?
「どうしてもっと早く言ってくださらなかったんですか…」
「え?」
「はあ…。今からじゃあ表向き究極なものしか出来ませんね…」
「あ、あの?」
「時間があれば表も裏も猫も杓子も究極なステーキが出来たのに…」
「………」
一体どんな物を作るつもりだったんだろう?
だが結局のところ、俺と北川は究極のステーキ(表向き)を食すことができた。
大きさはかなり小さかったが…。

<そんな究極>


『牛ヒレ肉のステーキ』

「二日連続ステーキか…」
以前も同じような事があった気がする。
いやまあ、昨日のはサーロインって名が付いてたが…
どうもこの本は人の財産の事なんてこれっぽっちも考えてない気がする。
…って、財産問題にしてたら絶対に全部食えないな。
「さてと、ステーキならやはり…」

「了承」
開口一番に秋子さんはOKを出してくれた。
さすがというかなんというか、やはり頼りになる。
そして俺がすべきことは買い物だ。
というわけで秋子さんの言葉を待った。
「牛一頭まるまる狩ってきてください」
「了解…は?今なんと?」
「だから、狩ってきてください」
「………」
俺の聞き間違い、だよな?
「じゃあ秋子さん、商店街で適当なのを…」
「祐一さん」
激しく呼び止められた。
「商店街に牛一頭まるまる置いてあるわけないでしょう?」
「そ、それもそうですね。はは…」
そうだ、牛一頭だ。うーん、スゴイ…。
「えっと、じゃあ市場にでも行ってきます」
正直どの市場に行けばいいのやらさっぱりわからなかったが、そう言っておく。
だが、秋子さんはゆっくりと首を横に振った。
「市場じゃあ狩ってたら犯罪ですよ?牧場を訪ねてください」
「………」
牧場でも狩るなんて行為は犯罪だと思うんだが…。
「大丈夫ですよ。鹿とかと違って牛は簡単に狙えますから」
「あ、あの〜…」
「無事に一頭持ち帰ってこられたら家に入れますからね」
「秋子さん!!」
たまらず俺は叫んだ。秋子さんが言ってるのはどう考えても暴挙に思えたから。
だが、秋子さんは相変わらず…微笑んだまま。
「頑張ってくださいね」
「ちょっと!!本気で言ってるんですか!?」
「もちろんです」
「しかし俺には!!」
「いつまでも人に頼ってばかりでは駄目ですよ?
たまには自力で大料理をゲットしないと」
「う……」
返す言葉がなかった。
そうだ、高級ものとかはすべて人に頼ってきた。
しかし…しかし…!!
「そうそう、本を見せてください」
「俺は、俺は…へ?本?」
「ええそうです」
「は、はあ…」
いきなり話が転換したが、俺はそれに従った。
頭を抱えていた手とは別の手のそれを開けて見せる。

『●牛ヒレ肉のステーキ
惜しげもなく分厚く切ったヒレ肉を
軽く焼いて作ったステーキ』

「…あらあら、これじゃあ一頭なんて必要ありませんね」
「へ?」
「そういうわけで祐一さん、商店街でヒレ肉を買ってきてください」
「………」
秋子さんの指示が一変した。
というか変わりすぎだ。どういう事だ?
「…あの、秋子さん」
「はい?」
「どうして一頭狩るからヒレ肉買うに変わったんですか?」
「たしか昨日究極のなんてのが出ましたよね」
「ええ」
「ですから今回も奮発しないといけないのかと思いまして」
「はあ、そうですか…」
「でも説明を見る限りその必要も無いみたいなので」
「………」
いや、これは明らかに秋子さんにからかわれていた気がする。
だが…詮索しても無駄なことだろう。
おとなしく俺は買い物を行い、美味いステーキを食したのであった。

<じゅー………>


『餃子』

「ラーメン屋へ行って一発OKだな」
品名を見て俺は一瞬でそう決心した。
学校帰りにしょっちゅうラーメン屋へ行く奴が居るくらいだ。
そいつらと同じように俺も食えばいい。
たまに餃子は置いてないラーメン屋もあるが…それはメニューを確認すればいいだけのこと。
「今日の料理はもらったぜ!!」
「騒がしいよ祐一…」
放課後に高らかに叫んでいると、隣からツッコミが入った。
寝起きの瞳をうるうると充血させている名雪だ。
ちなみに北川と香里は既に帰っている。タカり隊のメンバーは3分の1しかいないのだ。
「ふっ、今日は年貢の納め時だな」
「何訳のわかんないこといってるの…。わたし今日部活あるから」
タカり隊の活動は今日はお休みらしい。
それにしても今まで寝ていた奴が何を言ってるんだか。
「完璧に遅刻だろ?」
「今日は開始時間が遅いんだよ」
「そうか。だから寝ていたのか」
「うん、眠かったから」
正確には放課後になって眠りについたのではなく、HRから既に眠っていた名雪であった。
ま、たっぷり寝られたんなら良しだ。
「ところで祐一、今日の料理は何?」
「タカるなよ」
「わたし部活あるからタカれないよ」
部活なければタカるって事かよ。
まあタカられないなら見せてやっても問題はあるまい。

『●餃子
ひき肉やタマネギやタケノコなどを
小麦粉で作った肉に入れた食べ物
煮込んだり、蒸したりと種類は多い』

「へえ〜、これお母さんの得意料理だよ」
「秋子さんは何でも得意だろうが」
「そういえばそうだね」
だから俺は秋子さんに頼らずに食すつもりなのだ。
学校帰りに悠々と食べられる料理。頼むまでもない。
「帰ってきた時にニンニク臭かったら部屋に来ないでよ」
「うるさいな…」
余計な茶々を入れるなら本当に行ってやるぞ?
…なんてやりとりも終え、名雪は部活へ。俺は帰路につく。
店で食べた餃子。なかなかの味だった。
一緒にラーメンも食べた。飯も食った。そう、ラーメンセットだ。腹いっぱいだ。
おかげで秋子さんの手料理はほとんど食えなかった…。

<何やってんだ俺は>


『グランエシェゾー』

「さーて、名雪を起こしにいくかな〜」
今は朝。支度を終えた俺はいつもの通り部屋を出る…
「おはようございます祐一さん」
「どわあっ!!」
扉を開けるとそこには秋子さんが立っていた。
いきなり目の前に現れたのだからびっくりしない方がおかしいというもの。
俺はどしんとひっくり返ってしまった。
「…大丈夫ですか?」
「え、ええまあ…」
「大変ですね、朝からびっくりして」
「はは…」
誰の所為でびっくりしたと思ってるんですか…。
「ところで祐一さん、今日の料理はなんですか?」
「へ?」
「長い間出てませんでしたよね、お酒。そろそろ何か出るかと思いまして」
「………」
朝から待ち構えていたのはお酒の為か?
秋子さんもどんどん大胆になってきたというか見境がなくなってきたというか…
仕方なく俺は、まだ見ていなかった本の中身の確認に走る。

『●グランエシェゾー
立ち上るほどの香りにまず驚き
その熟した味わいに心揺れ動く
ロマネの名を冠するだけはある』

「…酒ですね」
「本当ですか!?良かったです」
俺はちっとも良くない。
それよりも秋子さんの読みはばっちり当たっていたということなのだ。
さすがだ、感服だ、降参だ、秋子さんには…。
「って、これ飲まなきゃならないんですよね…」
「大丈夫ですよ、このお酒なら家にありますから」
こんな高そうな酒が平気であるってどういうことなんだ。
しかしそこは突っ込んではならないことなのかもしれない。
それはそれとして、秋子さんはご機嫌で部屋の前を去っていった。
俺は…名雪を起こしに行くとしよう…。

すんなり起きた名雪に声をかけた後、一階へおりてゆく。
食卓を見て驚いた。いつものコーヒーじゃなくて…瓶が一本。
「おはようございます祐一さん」
「おはようございます…」
いや、挨拶は既に部屋の前でしたと思いますけど。
「さ、召し上がれ」
「あの、秋子さん…」
「はい?」
「俺の飲み物は…」
「そこにあるでしょう?グランエシェゾーですよ」
にこにこと笑みを絶やさない秋子さんが示したそれは瓶。
どうやら朝っぱらから酒をかっくらえということらしい。
これはどうしたものだろうか…逃げるとしようか…。
「…済みません、今日は朝急がなきゃならないんで朝食抜きます」
「あらあら…」
踵を返して玄関へ向かう。と、階段を下りてきた名雪と鉢合わせした。
「あれ、祐一、朝ご飯は?」
「今日は抜きだ」
「ええ〜?お腹空くよ?」
「そういう日もあるんだ。さあ学校へ行くぞ」
「う、うん…」
名残惜しそうに食卓の方を振り返る名雪。
そんな名雪の手を俺は引っ張った。
そして玄関…すると扉には一枚のポスターが貼られてあった。
“おとなしくグランエシェゾーを飲みましょうね♪”
「………」
「わ、祐一、何コレ?」
「…何だろうな…」
「この筆跡はお母さんの字だね。グランエシェゾーって何?」
「…何だろうな…」
朝のあのわずかな時間の間に用意したというのだろうか?
その割にはやけに凝ったポスターだ。瓶の絵やらから香りを表すような効果線やら…。
「あれ?開かないよ?」
そのまま外に出ようとした名雪だが扉の前で右往左往している。
ガチャガチャとノブを回したり引いたり押したり…でも、扉は開かなかった。
「祐一さん」
「おわあっ!あ、秋子さん…」
「どうしますか?グランエシェゾーを飲みますか?それとも学校休みますか?」
こんな脅しありかよ。
っていうか無理に今飲む必要ないんじゃ…
いや、ここでうだうだ言えば飲ませてくれそうにないかも…。
「もしかして祐一がそれを飲まないと学校に行けないの?」
「そうなのよ名雪、困ったわねえ」
なんて白々しいんだ。秋子さん、いくらなんでもわがままが過ぎやしませんか?
「う〜、じゃあ祐一さっさと飲んじゃってよ。わたし学校休みたくないよ」
名雪は名雪で変にノせられてるし…。
しょうがない、ここはさっさと観念しておくとしよう。
「…わかりました、飲みます」
「さすが祐一さんですね。ささ、くいっと」
秋子さんは既にグラスを用意していた様だ。
朝からこんなものを…と思うも、まず漂ってきた香りにビックリさせられる。
これが酒か?こんなうっとりするものなのか?
そして少々味わう。口の中に広がる味わい…素晴らしい!!
「…凄いお酒ですね、秋子さん」
「でしょう?」
「俺、感動しました」
「良かったわ。これで祐一さんも満足ですね」
「ええ!さあ行くぞ名雪、学校へ!!」
用件が済んだ、笑顔の秋子さんとハイテンションになった俺。
そんな2人を名雪はいぶかしげな目で見ていた。
「どうした名雪?」
「早く行かないと学校に遅れるわよ?」
声をかけると、名雪は“はあ”とため息を付いた。
「朝からお酒で騒がないでよ、もう…」
不機嫌そうに言葉を投げかける。
名雪の気持ちももっともである、となんとなく思った。

<どんな酒?>


『クリームシチュー』

学校が終わると…
「外は猛吹雪だった、ってか」
昇降口の所で俺は愕然となった。
横殴りの雪が降っていたのだ。
びゅうびゅうと吹き荒れるそれは、吹雪と言って差し支えないだろう。
しかし傘はない。商店街へ行こうにも、今日は持ち合わせがない。
更に周りから得た情報では、夜までも夜からもずっとこんな調子だそうだ。
「ちくしょう、どうやって帰ればいいんだ…」
「気合いしかありませんね」
「おわっ!…天野?」
横にはいつの間にか天野が立っていた。
俺と同じように、外を見ている。この荒れ狂う吹雪をじっと見ている。
だが、最初に発した言葉以降彼女が喋る事はなく、ただ黙って傍にいた。
海を男二人で眺めるに言葉は要らないなどと聞いたことはあるが、
あいにくこれは海じゃない。しかも男同士じゃない。
「…俺から喋ればいいことじゃないか」
数刻経ってそんな事に気付いた。
「天野、済まないが傘に入れてくれないか?」
彼女の手には一本の傘があった。
薄いグレーの地味なそれは、天野らしいと言えばらしいかもしれない。
「ええ、いいですよ。帰り道が違うから途中までですけど」
「それで十分だ、頼む」
快く天野は承諾してくれた。
相合い傘なんて風景にもなるから断られるかと思ったが…。
バッと傘の花が開く。風の影響を受けて形が曲がるそれを、天野は必死に携えていた。
「ではどうぞ」
「おお、悪いな」
素早く傘の下に潜り込む。傘で防げるのは上半身だけという状態だが、
あるのと無いのとでは大違いだ。
こんな雪をまともに食らってたら、俺はアウトだろう。
「ほんと、天野のおかげで大助かりだ」
「いえ…」
遠慮しがちに目を伏せる。
そう照れるな天野、俺の危機をお前は…
「…校門まで来ましたね」
「え?」
「帰り道が違うので、残念ながら私はここまでです」
びゅごおおお!!
「ぶっ!!?」
天野が持つ傘のガードが解けた。
正確に言うなら、天野が傘を自分専用に持ったということだ。
吹雪にさらされた俺の身体は、雪の直撃をまともに食らう。
「さようなら、相沢さん。お気をつけて」
「お、おい、天野ぉ〜!!」
手を伸ばす俺にも構わず、天野は吹雪の中をすたすた歩き去っていった。
そういやたしかに帰り道はまったく逆だったが…
「だからってこんな吹雪の中に置いてくなー!!」
びゅごおおお!!
…俺の叫びは吹雪の中にかき消されてしまった。
それにしても俺、天野に何かよからぬことしたか?
なんて考え事してる場合じゃない。
いつまでもこんな所に居ては凍死してしまう。さっさと帰らねば。
今更学校に戻る気にもなれず、俺は家に向かって猛ダッシュを始めた。
幸いにも追い風であったために、大した苦労も困難もなく、無事に…着いた。
「うう、全身雪だらけ…ただいまー」
玄関に入ってほっとしてると、秋子さんが出迎えてくれる。
「あらあら、この雪の中大変だったでしょうに。さ、お風呂沸いてますよ」
「すみません…」
まずは冷えた身体を温めないといけない。
勧められるまま入浴。そして上がった頃には丁度夕飯時…
「美汐ちゃんから電話があってね、今日はクリームシチューだよ」
食卓で名雪がメニューを告げてくれた。
「って、なんで天野が電話なんてしてきたんだ」
「さあ?祐一のあの本を見たんじゃないの?」
「………」
天野に見せたっけか?記憶がない…。
腑に落ちない気分で例の本をめくってみる。

『●クリームシチュー
ホワイトソースに肉や野菜を加えて
コトコトと長時間煮込んだシチュー』

「…そういや今日はまだ見てなかった気がする」
「わ。じゃあ美汐ちゃんが極秘にそれを見たのかな?」
「違うよ名雪、美汐は超能力があるんだもん」
横から真琴がしゃしゃり出てきた。
超能力などといいかげんなことを…。
「わ、びっくり。美汐ちゃん超能力者だったんだ?」
「そうなのよぅ、凄いでしょ。えっへん」
なんで真琴が威張るんだ…。
しかも名雪、真琴のそんな言葉をあっさりと信用していいのか?
「さ、用意を手伝ってちょうだい」
「はーい」
「わーいっ、クリームシチュー♪」
秋子さんの号令に名雪と真琴が準備に走る。
まあこんな日にはぴったりのメニューだからよしとしようか。
ただ、天野から電話があって決めたものの割には、
やけに長時間煮込み続けているような印象はあった。
「…っていうか名雪」
「何?」
「お前なんで俺より先に帰ってたんだ?」
「さすがに今日は部活お休みだもん」
「いや、それにしたって…」
俺が先に帰路についたはずなんだけどな…。
つーか俺を傘に入れてけよ。

<コトコトコトコ>


『グリーンポタージュ』

「たまには自分で作ってみましょう」
栞の唐突な提案が俺を襲った。
「…ちょっと栞、人のクラスにまで来ていきなり何言ってんのよ」
そう、香里が言う通り栞がやってきたのは俺達のクラス。
丁度昼休みではあったが、そこに奇襲をかけてきたのだ。
「奇襲なんて人聞きの悪い事言わないでください」
「そうですよーっ。佐祐理も手伝うんですから」
俺は言ってないって…
「って、なんで佐祐理さんも!?」
「あはははーっ、栞さんに助っ人を頼まれたんです〜」
「私感激してます。佐祐理さんのおかげでクラスに入る事ができました」
それは助っ人の感覚がずれてないか?
…まあいい、そういう事なら賛同しておくとしよう。
「わかったわかった。とにかく俺が作るんだな?」
「はい」
「だったら放課後昇降口で待ち合わせとしよう。今は遠慮してくれ…」
「駄目ですよ祐一さん、今作るんです」
「は?」
「既に準備は整ってますよーっ」
佐祐理さんがばっと後ろに示したもの。
それは大きな鍋だった。学食から借りてきたんだろうか?
その横には舞が待機している。
「さあ祐一さん、鍋も炎も用意してあります!」
「後は煮るだけですよーっ!」
やけに力が入っている。
っていうかそんなもんまで用意してくるとは…。
「栞…見境がなくならなきゃいいけど…」
呟く香里。残念だが多分手後れだ。
さてと…

『●グリーンポタージュ
牛乳にとろみをつけたスープに
すりつぶしたほうれん草を加えて
煮込んだスープ』

「…後は煮るだけだって?」
「ええそうです」
「佐祐理のお弁当を元にばっちり準備したんですよ」
…それって…俺が作ってる事になるんだろうか?
まあ深い事は気にせずに、ありがたく煮させていただこう。
こんな機会はまたとないはずだ!だが…
「できるだけ以降は遠慮してくれ…」
「はぇ?どうしてですか?」
「どう考えても目立ち過ぎるだろ」
「そんな事言う人嫌いです」
「膨れて見せても駄目だ」
「…だったらこれは食べさせない」
鍋警備員の舞がするりと言い放った。
ああいいとも、別にこれを食べなくても…
「ってそりゃ困る!!折角作ったんだから、な?な?」
ともかく俺は、作るよりも何よりも、食さないといけないのだ。
だから食べさせられないというのは大問題である。
「だったら佐祐理達の突然お手伝いは構いませんよね」
「私、頑張ります」
「あ、ああ…」
嬉しいやら迷惑やらわからないお手伝いを俺は受ける羽目になった。
肝心のポタージュは、少し苦い味がした。
美味かった、とは思うんだが…。

<さあ、皆で、鍋煮よー!>


『コーンポタージュ』

「つい昨日食った気がするんだが…」
似た料理を並べる趣味がどうやらあるらしいな。
それはそれとして、今日も俺はそれを食すのみ…
「あれ?」
帰宅直後。早速秋子さんに頼ろうと思った。
だが、家には誰も居なかった。っていうか鍵もかけないで…。
不用心だなと思いつつも食卓を覗いてみると…そこには一通の手紙が。
“出かけます。今日は夜遅くなります。済みませんが適当に食べてください。
………秋子&真琴”
「………」
変わった置き手紙だ。
っていうか“&”で結ぶ意味は?
二人はなんでどこかへ出かけたんだ?
更になんか文もてきとーじゃねえか?
「…ま、仕方ないか」
しばらく待てば名雪も部活から帰ってくる。
こうなったら名雪に作ってもらうとしよう。
トゥルルルルル!
「ん?電話?」
突如鳴り響くそれを、俺は素早くとった。
「はい、水瀬ですけど」
「あ、祐一。帰ってたんだ?」
「名雪か?」
「うん、そうだよ。あのね、お母さん居る?」
「残念ながら外出中だ」
「えっ?じゃあ言付けお願いできるかな」
「原稿用紙1枚までならいいぞ」
「そんなに無いよ…。えっとね、今晩遅くなるから夕飯要らないって言っといて」
「は?お前遅くなるのか?」
「うん。部活がらみの会があってね。じゃあ頼んだよ〜」
「あ、おい名雪っ!」
ガチャッ、ツーツーツー…
「………」
呼びかけも空しく、名雪は電話を切ってしまった。
なるほど、そういうわけか。皆して俺をはめたな?
今日は頼らずにやれと、食物を食せと…。
「…あほらし。自分で作ってやるさ」
変な疑惑を持つのはやめて、俺は本を開ける事にした。

『●コーンポタージュ
牛乳にとろみをつけたスープに
すりつぶしたとうもろこしを加え
煮込んだスープ』

「…ほんと、昨日作ったまんまだもんな」
もっとも、あれは俺は煮る作業をしただけだが。
っていうかこんなのはインスタントでもオッケーじゃないだろうか。
確か食品庫に粉タイプのものが…
「…忘れてた。この家にインスタント食品はほぼ無かった」
いつも食事は秋子さんの手作り。
ならば…自ら買いに行くしかないだろう。
「いやいや、ここはやはり自ら作ってみようじゃないか」
煮ただけの作業は空しかった。
その空しさを埋めるためにも俺は作る!!
「…コーンがねえぞ」
結局買い出しにでかけるのは決定のようだ。
財布を持つ。コートを羽織る。商店街へ向かう。
買い物を行なう。家に帰る。そしてキッチンで…
ことことこと
「………」
俺はインスタントのコーンポタージュを煮ていた。
「はあ、なんで俺にこんな本がやってきたんだろ…」
どうにもやるせない気分で、俺は一人さびしく夕飯を食したのであった。

<ことことことことこ>


『豪華なドリア』

「了解しましたっ。佐祐理がお作りしますから家で待っててくださいね」
昼。屋上へ向かった俺は佐祐理さんからこんな宣言を受けた。
それはもちろん、俺が料理を頼ったのが原因でもある。
あいにくと本日の弁当には目的のものはなかったが…
それなら作ろうと言い出したのが佐祐理さんなのだ。
しかもうちで直接作ってその場で食べさせて貰えるらしい。
台所を貸してもらえるかどうかで多少躊躇していたが、
そこは秋子さんが間違いなく了承を出してくれるだろうということで解決した。
そして……

放課後、俺は帰宅した。
「お帰りなさい」
「ただいま。秋子さん、今日の夕飯ですが佐祐理さんに任せてあるんですが…」
「了承」
話しきってもいないうちに了承が飛び出す。
さすが秋子さんだ、頼りになるなあ。
「ところで今日の料理はなんですか?」
「えっと、豪華なドリアです」
「へえ?ちょっと見せてくれないかしら」
「ええ、いいですよ」
特に断る理由もなかったので、俺は本を開けた。

『●豪華なドリア
豪華絢爛たる食材で飾りたてた
虚飾一歩手前の危うい一品』

「…なるほど、凄い料理ですね」
やけに感心している。なんとなく目が怪しい感じもしたが…
そこは気にしないでおくことにしよう。
「じゃあ俺、佐祐理さん達が来るまで部屋で待ってます」
「いえいえ。私がお相手しますから、料理が出来てから祐一さんをお呼びしますよ」
「は、はあ…じゃあそうしてください」
「ええ」
にっこりと笑う秋子さんの表情に後押しされながら階段を上る。
部屋へ向かう途中、やけに二階が静かなのに気付いた。
そういや名雪は部活だっけな。真琴もどこかへ出掛けてるに違いない。
ま、一人の時間を満喫するとするか…。

部屋で雑誌に読みふける。
いくらか時が経ったころ…
「こんにちはーっ」
元気のいい声が階下から聞こえてきた。佐祐理さんやってきたな。
「いらっしゃい、祐一さんから話は聞いてるわ。…あらあら、大勢居るのね」
秋子さんが早速出迎えている…が、大勢?
「はいっ。このたびたくさんの人に手伝って貰えることになりました」
そういや人を集めるとか言ってた気がするな…。
誰を呼んできたんだろ?
「そうなの。それじゃあ早速あがって」
「はいっ。お邪魔しますっ」
「…お邪魔します」
「あぅーっ、疲れたあ…」
「えっと、お邪魔します」
「うぐぅっ!…躓いたぁ」
「大丈夫?あゆちゃん。お母さん、ただいま〜」
…全部で6人?えっと、佐祐理さんに、舞に、真琴に、栞に、あゆに、名雪…。
えらく豪華なメンバーだな。一体どんな料理を作るつもりなんだろ…。
やがてがやがやとした声は次第に小さくなり、聞こえなくなる。
全員台所へと移動したみたいだ。
…とにかく、俺は俺でやはり部屋で待たせてもらうとしよう。

そして待つこと約…まあ適頃だ。
「祐一さん、食事できましたよ〜」
秋子さんの声に反応して部屋を出る。
わくわく感を伴って台所へ顔を出すと、案の定全員が出迎えてくれた。
食卓の上にはドリアが……
「……これ、ドリア?」
問題のブツを見て、開口一番俺はこう告げた。
そのドリア(と思われる)ものの上には…
イチゴがいくつも突き刺さり、隣に肉まんが置かれ、其の真向かいに大きなバニラアイス。
円を描き縁取りの様にタコさんウインナーが並べられている。
中央にはタイヤキが天を目指して設置されていた。
「イチゴ…すごいよねっ」
「この肉まん、とびっきりのやつなのよ」
「アイス、溶けそうで溶けないように作られてあるんです」
「たくさん…タコさんウインナー…」
「タイヤキが見事に目立ってるよねぇ」
………。
馬鹿にされてるのだろうか。それともからかわれてるのだろうか。
一つはっきり言えるのは、これは絶対ドリアじゃねえ。
「どうでしょう、祐一さん。佐祐理頑張って作りました。
皆さんの協力を経て、こんな立派なドリアが完成したんですよ」
笑顔で佐祐理さんが告げる。
頑張ってこうなるなら、俺は佐祐理さんの将来が非常に不安だ。
彼女の空気に影響されてか、他の面々もやけに満足そうだ。
っていうか秋子さん、どうして止めなかったんですか。
何気なく秋子さんの方へ視線を寄せると、彼女は頬に手を当てるおきまりの仕草でこう言った。
「うらやましいですね祐一さん。こんな豪華なものを一人占めできるなんて」
「………」
そんな事言うのなら秋子さんが食べてください。
とはとても言えない。これは俺の為に作られたものだから。
しかし…こんなドリアありか?
「それにしても祐一、これ凄いよね」
「たしかにな…」
「豪華絢爛たる食材。バニラアイスはまさにそれですよ」
「そうだろな…」
「でもって肉まんよ肉まん!もう真琴感激!」
「そりゃよかったな…」
「…いっぱい、タコさんウインナー…」
「たっぷり食べられるな…」
「真ん中のタイヤキがなんとも言えないよね。ほんと虚飾一歩手前の危うい作品だよ」
「ああそうかよ…」
各々自分の好物にだけ夢中だ。
混ざっているという事実に気付いていない。
いや、気付かぬ振りをしているだけかもしれない。
だったらいっそ、一緒に食べてもらうべきではないだろうか?
「さあ祐一さん。佐祐理達が見ている前で食べてください」
「………」
先手を打たれてしまった。
覚悟を決めた俺は、椅子に座ってそのドリアを食しにかかる…。
その日は…久々に大ダメージをくらった気分だった。

<災難は、忘れたころにやってくる>