その日、俺は自分の意識を疑った。
「そうだ、これは実は夢か異次元の世界で、本当の俺は意識を失って別の箇所で…」
「わ、三冊目があったんだね…」
「凄いね。ボクもびっくりだよ」
妄想をしている俺の隣から名雪とあゆの二人が覗き込んでくる。
やいのやいのと騒ぎ立てるその姿は、まるでびっくりしてるわけでもなく、
ただ傍観者を決め込むのが丸わかりだ。
「なになにーっ、どうしたのー?」
騒いでると(実質騒いでいるのは二人だけだが)更には真琴までやってきた。
やかましいのが二人というのが三人になる。デシベルの値は当社比約1.5倍だ。
さて意識を疑った原因とは、こいつらの騒ぎからも分かるように、再びあの本がやってきたのだ。
もはや呪われているとしか言いようがない、あの本が…。
ふっ、また会ったの。ゆっくり余生を暮らそうと思ったのじゃがお主が忘れられなくての。
こうして再び舞い戻ったというわけじゃ。ふははははは!
すっかり宇宙ヒーローじゃの?ふふはははははははははは!!
ふざけやがって。こいつの頭はもはや宇宙一救えなくなってるに違いない。
一体俺の人生はどうなってしまうんだ。こんな奴に好かれたとなっちゃあどん底間違いない。
そうだ、ボロアパートでも借りてそこに住もうか。そんでもってどん底の歌でも歌ってやる。
…などと考えていたのだが、どうやら今回は事情が違うみたいだ。何故なら…
今回は一味違うぞ。今までは相沢祐一にのみ食してもらっていたが、
前回の最後の食物に関わった者達すべてに食してもらうことにしようぞ。
つまりは、食物のたびに食べる人間が変わるという事じゃ。
食べる人間の元に本が出現する。だから分かりやすいぞい。
と記されていたからだ。
前回の最後の食物は1upプディング。あの時は、たしか全員が…
すなわち、俺、名雪、あゆ、秋子さん、真琴、天野、栞、香里、北川、舞、佐祐理さん、そして久瀬が関わった。
(正確には、全員が俺の元に集まっていた)
ということは…
「名雪、今すぐ秋子さんに知らせて、そんでもって皆を集めてくれ」
「う〜、祐一、この本もしかして…」
「早く」
「う〜、わかったよ…」
しぶる名雪。あゆと真琴を連れて、人員召集に乗り出した。
嫌そうな顔の彼女らであったが、俺は内心ほくそえんでいた。
この条件なら、俺ばかり苦しまなくて済む!と。
数刻後。水瀬家に全員集合。
代表して俺が本の内容を告げると、皆から文句が流れ出した。
だが、いくら文句を言ったところで仕方ない。
料理を食べなければ成らないのはもはや決定なのだ。この本が勝手に決めたことだけどな。
「納得いかないわ、相沢君」
「香里、お前が納得いかなくても従うしかないぞ」
「あの、祐一さん。私できればアイスの時の方がいいです」
「栞、そういうのは俺に言われても知らん…」
「相沢、せめてまともな料理にまわしてくれよ」
「北川、だから俺に言っても仕方ないっての」
「…祐一も食べる」
「舞、できれば協力してやっから」
「うーん、これでは祐一さんのいっきはあまり見られませんねぇ」
「佐祐理さん、誰かに影響されてませんか?」
「まったくいい迷惑だ。どうして僕が巻き込まれなければならないんだ」
「久瀬、諦めろ。未知なる事情ってやつだ」
「あぅ…真琴は肉まんだけでいい…」
「真琴、これを機会に色んなものに挑戦してみろ」
「私は一人では倒れません。ですから相沢さん、お願いします」
「天野、倒れるって…不吉なことを言うな」
「うぐぅ、ボクまたひどい目にあうのかな…」
「またってなんだあゆ。人聞きの悪いことを言うな」
「祐一、しっかり協力してよね?」
「分かってるって。でも俺は料理は下手だからな」
勝手なことを皆が言っている。
だいたい俺の責任でもないんだし、そう突っかかってほしくないぞ。
ちなみに秋子さんは、俺に対する文句より本に対する文句があるようだった。
何故なら…
残念ながら、今回は酒が無いぞ。未成年も居るしのう
という事が書かれていたからだ。
そう、いつも楽しみにしている彼女には申し訳ないが、今回は酒がないのだ
俺にとってはかなり嬉しいことなのだが…
と、ゆらりと秋子さんは立ち上がった。
「…祐一さん」
「はい?」
「この本、消滅させましょうか」
「え!?」
「皆でペンギン人生というのも悪くないかもしれませんよ」
秋子さん…物凄く怒ってる。静かな怒りをばっちり見せている。こあいよ〜…
と、逃避している場合じゃない。ここは主人公らしく説得しなければ。
「あ、あのう、秋子さん」
「なんですか?」
「別に、無理に料理として出なくても、ついでに飲むとかできますし。
でもその、あんまり大量は無理ですけど…」
無難な案(すごく後悔しそうだが)を出すと、秋子さんは納得したように、ゆっくりと元の位置に座った。
「…そうだったわね。もう祐一さんは立派な大人ですものね」
いえ、その認識は間違ってます。俺はまだ高校生です…。
「堂々とお酒は飲めますよね」
いえ、飲めません…。
声に出さず思っていると、横から名雪が口を開いた。
「お母さんお母さん。お母さんも料理を食べなきゃいけないんだから。
お酒がどうとか言ってる場合じゃないよ?」
「…それもそうね。分かったわ。今回はお酒について必要以上に熱くなるのはやめておくわね」
「うん、それがいいよ」
あっさりと名雪の案が成立した。
ナイスだ名雪!俺はお前を尊敬するぞ!
…かくして、全員が全員に不意の試練がやってくるという、とんでもない状況になったのであった。
俺にとってはとんでもないわけでもなく、かなりラッキー、な状況だったが。
「ところで祐一、このBSって何?」
「知るか。某衛星放送のことじゃないのか。デジタルとかなんとか」
「それが何で食物と関係あるの」
「それこそ知るか…」
「うーん…。ねえねえお母さん、BSって何か分かる?」
「ええ、私は知ってるわよ」
「ええっ!?そうなんだ〜」
「秋子さん、BSって何なんですか?」
「それは最終回のお楽しみにね」
「「ええ〜?」」
<はてさて…?>
まず最初は俺、相沢祐一であった。
まあ当然だろう。いきなり別の奴の手元にあったならばそれこそ俺が文句をぶつけられかねない。
そして料理も無難であった。早速秋子さんに頼んでみようかと思ったのだが、説明文を見て愕然となった。
『●あさりバター
アサリをバターやお酒で
蒸し焼きにしたもの』
これはやばい。秘密にして、誰か他の人に…
「あったじゃないですか、お酒。よかったですね、祐一さん」
「ぬわっ!」
いそいそとその場を去ろうとした所へ秋子さんが声をかけてきた。
その場というのは俺の部屋。脱出は見事に破られたというわけだ。
「…って、秋子さんいつの間に…」
「今晩はお酒ですね、分かりました」
お願いします、人の話はちゃんと聞いてください。
まあ、いつやってきたとかどうとかはどうでもいいとして…。
「秋子さん、お酒じゃなくてあさりバターですよ?」
「お酒を使うと書いてあるじゃないですか。これはついでにたっぷりお酒を飲めということですよ」
そんなわけないです…。
「この機会を逃すと、今後いつあるかわかりません。張り切って準備しますよ」
「そ、そんな張り切らなくても…」
「腕が鳴るわ。どんなお酒を用意しようかしら♪」
鼻歌を歌いながら秋子さんは部屋を出て行った。
ちゃんと料理のことは頭の中にあるのかどうか非常に心配だ…。
もっとも、心配しても仕方ないんだがな。
「ええい、大サービスだ。来るなら来い!」
こうなったらでんと構えることにしよう。
大サービスなんて言ったのは景気付け。俺のやる気をとことん見せてやる!
…で、夜。
大量の酒瓶に囲まれながら、ほっぺが落ちそうなあさりバターをたんといただいた。
「うぐぅ、祐一君お酒飲んでばっかり…」
うるさいぞあゆ。
「知らなかったのあゆ。祐一はね、酒におぼれてるんだよ」
うるさいぞ真琴。
「もぅ、祐一が大酒のみの土座衛門になったらお母さんの所為だからね」
うるさいぞ名雪。
「大丈夫よ。祐一さんはもう通になること間違い無しだから。ね?祐一さん」
「はい秋子さん!その通りです!」
さながら秋子さんは、このあさりバターみたいに、
固い殻を閉ざしていた俺の酒根性を開かせてくれた人かもしれない。
って、これで本当にいいのか?
<何度もやった自問自答>
朝起きると、手に硬いものが触れた。
見ると、それは分厚い本の背表紙だった。
「うぐぅ、ボクの番なんだ…」
早速くるなんて嫌だなあと、ありったけのけだるい息を吐き出す。
あまりにそれが勢いありすぎたのか、ぱらぱらと本が捲れ出す。
そこには、今回の料理名と説明とがばっちり書かれてあった。
『●味付けゆで卵
ゆで卵に
じっくりと味付けをした食べ物』
「あれ?こんな簡単でいいの?」
思わず目を疑う。だって、これならボクでも簡単に作れそうだよ。
そうだ、美味しく作って祐一君に食べてもらおうかな。
もちろん秋子さんや名雪さんや真琴ちゃんにも食べてもらうけど…。
そんでもってびっくりさせよう。よし、今日の計画は決まりっ!
意気込んで朝の仕度。下に降りてゆくと、既に秋子さんが朝食を作り終えていた。
「おはようあゆちゃん。今日の朝は目玉焼きよ」
「うぐぅ…おはようございます」
意気込みが急にしぼんでゆく。
うーん、朝作ろうと思ったのに…間が悪いなあ。
「どうしたの?元気なさそうだけど」
「えっと、実は…」
事情を説明。すると秋子さんはにっこり笑って…
「了承」
と答えてくれた。
「朝は無理だけど夜にでも挑戦してみたらどうかしら。
味付けをするのは時間がかかるから…そうね、今のうちに仕込みをしておきましょう」
すたすたと秋子さんはキッチンへ向かう。
わっ、このままじゃあ秋子さんに作られちゃう!
「あ、あの、秋子さん!ボクが全部するよ!」
「あらあら、こう見えても結構仕込は大変なのよ?私もお手伝いするから」
「そうなんだ…」
うぐぅ、説明だけだとすっごく簡単に見えたのに…。
そういえば…おでんの卵って一晩置いてやっと中に味が染みてたりしたような…。
そっかあ、簡単にはできないってことだね。
「どうしたの?」
「うーん、実は朝ごはんにと思ってたんだけど…」
「できなくは無いけど、朝じゃあ時間が足りないんじゃないかしら。
どうせ食べるならもっと美味しく食べたいでしょ?」
「うん、そうだね」
秋子さんの言う事ももっともだと納得。ようし、頑張って仕込むぞ〜。
「えっとそれじゃあ秋子さん。仕込みの仕方、よろしくお願いします」
「ええ、あゆちゃんは座って待っててね」
「うぐぅ、ボクも作るよ〜…」
「冗談よ」
悪戯っぽく微笑む秋子さん。
そんなこんなで、朝のうちに仕度して、夜に料理を食べる。
もちろん祐一君達には好評だったよ♪
卵が朝夜と続いちゃったけどね。
<たっぷり>
「うわ、あたしの番なのね…」
目覚めて一番、一日が憂鬱になりそうなものを発見した。
寝ている栞に押し付けちゃおうかしらなんて考えたけどやめておく。
そんなことをしても結局災いは免れないだろうし…。
「あたしも諦めよくなったわねえ」
以前からそうじゃないかとかっていうツッコミは無しね。
「ま、いいわ。食べながら考えましょ」
食べるのは朝食。朝の活力を養うためには欠かせないもの。
とっとと着替えを済まして食卓へ…。
準備されていたトーストをかじりながら本を開ける。
とその時、栞が顔を出した。起きたのはあたしと同じくらいかしら。
「おはよう、お姉ちゃん」
「おはよう栞。見てよこの本、あたしにまわってきたのよ」
「そうなんだ…。頑張って、私応援するから」
両手で握りこぶし、つまりはガッツポーズを見せてくる。
応援ねえ…だったら今後あたしに降りかかってくる料理は全部栞が作ってくれないかしら。
…なんて、そこまで頼ってちゃいけないんだけどね。
で、まず考えたいことがあったのでまずはそれを栞に相談することにした。
「ねえ栞、なんであたしにこの本がまわってきたのかしら?」
「そりゃあ…偶然じゃないの?」
「多分一定の法則か何かがあると思うのよ。そうすりゃ事前に心構えが出来るでしょ」
「そんな事言っても何の料理がくるか分からないのに…」
言われて思った。確かに何の料理がくるかわからないんじゃ心構えのしようもない。
まったく嫌なこと突いてくるわねえ。さすがあたしの妹だわ。
「そうだ、今日は何の料理?」
「ああ、そういえばまだ確かめて無かったわね。ええと…」
『●厚焼き卵
簡単な卵焼きだが
美味しく作るにはコツがいる』
「へえ、簡単ね。お弁当の定番でもあるし」
「あ、わかったよお姉ちゃん」
「何がよ」
「うちに来た理由」
「へえ…まさか説明書きに“美”って文字があるからなんて言わないわよね?」
「う…」
先に言ってあげると黙り込んだ。
まったくなんて考えしてんのかしら。あたしの妹なのかどうか疑わしくなってくるわ…。
なんてやってないで、そろそろ行かなきゃ。
「楽勝なので助かったわ。学食ででも食べましょ」
「あ、あの、お姉ちゃん」
「何?」
「一応私、お弁当作って、その中に入ってるんだけど…」
栞が指差す先には、重箱がででんと3,4つ積み重なっていた。
毎回思うんだけどやっぱ作り過ぎよね…。今度ちゃんと言い聞かせておかないと。
でもこの中に厚焼き卵が…なるほど、さすがあたしの妹!頼りになるわ。
「って、いつ仕込んだの?さっき起きてきたばっかでしょ?」
「実は朝凄く早く目が覚めちゃって、それで用意したの。
作り終わったらまた眠くなってきて…二度寝したの」
「へえ…」
なかなか渋い朝を送ってるじゃないの。完敗だわ。
ま、とりあえず…。
「栞、あんたのお弁当もらっていくからね♪」
「うん。お昼一緒に食べようね」
「ええ。たっぷり感謝していただくわ。ありがとう」
「えへへ…」
ちょっぴり照れ笑い。いい笑顔よ栞。この調子でこれからもよろしく頼むわ!
…なんてそう上手くはいかないか。
<今回は無事よ>
「あら汁…」
家で本とにらめっこ。今は昼で祐一達は家に居ない。
朝、この本のことは話題に出さなかったけど、起きたら真琴の頭にかぶさってるんだもん。
ほんっと腹が立っちゃう!
「だいたい、真琴はこんな料理作れないのに…」
『●あら汁
魚の色んな部分が
入った味噌汁』
いつも祐一がやってたように秋子さんに頼むしかないのかな。
けどそんなこといきなりやってたら祐一からまた馬鹿にされそうな…。
“やっぱり真琴は秋子さんに頼るしかできないんだな”
“なによぅ。祐一だって頼りまくってたじゃない!”
“全部じゃないぞ。けど真琴は全部頼るつもりだろ?”
“真琴そこまで頼らないもん!”
うー、そうやられるのはすっごくしゃくよねえ。
何言っても祐一はしつこくやり返してくるから…。
けど…やっぱり真琴には作れそうに無いなあ…。
「にゃ〜ん」
隣でぴろが鳴き声をあげる。
「え?ぴろも食べたい?」
「にゃー」
「そっか、お魚は猫の大好物だもんね」
「にゃん♪」
笑顔で答えている。うー、やっぱりぴろってかわい〜♪
思わずほお擦りほお擦り。
「そういえば…」
他にも魚好きなのがいたわよねえ…。
びっくり。なんと同じ家に二人も魚好きが!
これは…ひょっとして真琴ってば頼られてる?
もう一度ぴろの顔を見てみる。
「にゃ〜ん」
うーん、かわい〜♪
ほお擦りほお擦りほお擦り…
「ってやってる場合じゃない!よぉーし、ぴろのためにも真琴が頑張らないと!」
気合新たに立ち上がる!
今真琴のバックには巨大な炎がめらめらと燃え上がってるのよ〜。
「…でも、結局秋子さんに聞かないと作り方わかんない…」
やっぱりしょぼんと落ち込んじゃう。
「ううん、できる。真琴にならできるはず!だってぴろがついてるんだもの!」
「にゃう〜」
「うんうん、真琴頑張るからね。さてと…」
改めて本を見直してみる。
魚の色んな部分ってことは、とにかく色んな部分を入れて作ればいいのよね。
で、味噌汁ってことは朝秋子さんが作ってるのをまねればいいから…
「な〜んだ、簡単じゃない♪」
めどは立った!後は魚を用意して…
「って、魚を用意なんて簡単じゃ無ーい!」
商店街に買いに行こうにも、今は持ち合わせが無いし…。
「しょうがない、秋子さんに頼んでみよーっと。
…言っとくけど、材料だけを頼むんだからね、ぴろ」
「にゃ〜ん?」
「そう。くれぐれも勘違いしないようにね」
「にゃん」
「うむ、よろしい」
ぴろに確認をとって促し、秋子さんの所へ!
「お魚?お料理するの?」
「え、えっと…うん。あら汁を作るんだけど…」
「あら。焼くんじゃなくて煮るの?さばけないと辛いわよ?」
「えっと…」
「無理しないで。私が作ってあげるから」
やさしい笑顔で秋子さんはこう言ってくれた。
でも、それじゃあ駄目なの!
「真琴が作らないと意味が無いの〜!」
「どうして?」
「だってだって、祐一みたいに頼りっぱなしになりたくないもん」
「真琴…。そうね、これを機に色んな料理を覚えていくのもいいわね」
「うん!」
今回みたいな場合じゃなくても、真琴は率先して秋子さんに料理を教えてもらってたけどね。
「それじゃあこっちへいらっしゃい。まずは魚のさばき方から教えてあげるから」
「うわーい!」
さっすが秋子さん!
ふっふっふ、祐一見てなさいよぅ。
とびっきりの料理を仕上げて驚かせてやるんだから!
…で、夕食。
結局お魚さばくのは難しくて無理だったけど…ちゃんと煮たんだもん。えっへん!
「しっかし秋子さん、毎回思うんですがよくこんな魚さばけますねえ。
一体どうやって覚えたんですか?」
祐一ってば別のことに感心してる…。
真琴が煮たことに注目しなさいよぅ!
「それは企業秘密ですよ。コツが分かれば簡単なんですけどね。
真琴、次はもっとさばきやすい魚で頑張りましょうね」
「うんっ!」
もう次のこと考えてくれてるんだ。さすが秋子さん。
「ところであゆ、嬉しいでしょ」
「え?」
「だってあゆの好きな鯛のあら汁だしね」
「うぐぅ、たしかに美味しいけど…ボクが好きなのはたい焼だよ?」
「あれ、そだっけ?」
えへへ、失敗失敗。
「ぴろは満足してるよね?」
「にゃ〜ん♪」
「よしよし」
なんにしても今回の料理は大成功!
次も頑張るわよぅ。
<あらあら>
…屋上前の踊り場。そして昼休み。
いつものように、佐祐理と祐一とお弁当を食べる。
今日のお弁当の内容は…
「今日は新鮮な魚介類をふんだんに使ったスペシャルお弁当ですよーっ」
…だ。
海老さん、海栗さん、鮪さん、その他色々…。
美味しそう。
「しっかし佐祐理さん、こんなにたくさんよく用意できたよなあ」
「あはははーっ。偶然今朝収穫があったんですよ」
佐祐理は凄い。一体何時に起きているのだろう。
一人で用意は大変そう。だったら今度は私も手伝わないと。
とここで、ふと気付いたことがある。例の本は朝うちにあった。
そういえば今日のお料理はなんだったっけ…
と、頭の中で思い出してみる…。
『●あわびステーキ
高級あわびのステーキ。
とっても美味しい!』
そういえばこれだった。
目の前にじゅーじゅーと音を立てているあわびが正にそれだった。
熱そうな鉄の網上に乗っかっているのが見てわかった。
いただきますの後、一番目にそれを食べてみる。
「…とっても美味しい」
「本当?よかった」
「佐祐理のお弁当は、いつもとっても美味しい」
「あははーっ、ありがとう舞」
佐祐理が笑う。そんな佐祐理は、見ていてとっても嬉しい。
「ところで佐祐理さん」
「なんですか?」
「その…この鉄板どうやって保温してたの?」
「あはははーっ、企業秘密ですよ」
「けどさあ…」
相変わらず祐一は細かい。
佐祐理が困っている、助けないと。
ぽかっ
「いてっ!」
「祐一は細かい」
チョップを入れておく。
「いいや、俺の疑問は出て当然のものだ!」
反論してきた。負けてられない。
ぽかっ
「いてっ!…舞、暴力で納得させるつもりか?」
「………」
ぽかっ
「いてっ!わ、わかった、わかったから!」
「………」
分かったんだったらよしとしよう。
再び佐祐理のお弁当を食べに戻る。
「みまみま」
「舞、食べながら喋ろうとするな」
「…ごくん」
言われて食べ物を飲み込んだ。
「今日の料理は、これだった」
「え?…ああそっか、舞のところに本が行ってたんだね。よかった、このあわびのステーキだったんだね」
「うん、佐祐理のおかげ」
「あはははーっ、よかった」
本当によかった。佐祐理が居なかったら大変だった。
「…舞、まさか本のことを忘れてたんじゃないだろうな?」
「………」
祐一は意外に鋭い。
「祐一さん、舞に限ってそんなことはありませんよ。ね?舞」
「………」
こくり
頷いておく。
「おい舞、今の間はなんだ」
「…なんでもない」
「そう、なんでもありませんよーっ」
「いや、佐祐理さんに聞いてるんじゃなくて…まあいっか…」
「あはははーっ」
…祐一は鋭い…でも…いいかげん。
<あわあわ>
俺は最初目を疑った。本はともかくとして料理の内容だ。
『●イチゴジャム
新鮮なイチゴたちを煮つめて
ジャムにしました』
…だって。
これは俺のとこじゃなくて水瀬さんにこそ行くべきものじゃないのか?
一体この本は何を考えてやがるんだ?
相沢みたくほとんど何も考えてないかもしれないな…。
だがそれは俺も同じだったかもしれない。
ついついこの内容について、学校で美坂達に相談してしまったのだ。
と、水瀬さんが開口一番に怒りをぶつけてきた。
「ひどいよ北川君」
「いや、そう言われても…」
「わたし、北川君のこと一生うらむからね」
彼女の悲痛な叫びが、闇のオーラが俺に伝わってくる。
たまらず俺は助けを求めた。
「美坂〜、なんとかしてくれ〜」
「どうしようもないでしょ。北川君が名雪の十八番を横取りしたんだから」
「横取りしたわけじゃないって!強制的に俺の部屋にあったんだよ!」
「分からないわよ。知らない間に名雪の部屋から奪ってきたのかもしれないじゃない」
「そんなこと俺がするわけないだろ!?」
とここで、更に水瀬さんがずいっと非難の視線を浴びせてきた。
「北川君、極悪人だよ…」
「だから!俺はわざわざ水瀬さんの分を奪ったりしないって!」
「どうでもいいけど北川、お前呼び方本当は“水瀬さん”じゃなくて“水瀬”じゃないのか?」
ほんとどうでもいいな、相沢…。
「原作中には直に出てきてないからいいんだよ!人の勝手だろ!?」
「でも勝手にわたしのイチゴジャムを奪うなんて許せないよ」
「だ・か・ら!俺は奪ってないって!」
「しらを切るなんて酷すぎるよ」
相変わらず水瀬さんの怒りは収まらない。
駄目だ。こりゃ何を言っても無駄そうだな…。
こうなったら…相沢の十八番を出すしかない!
「分かった。百花屋でいちごサンデーを奢るから」
これならどうだ?と思っていたら、いや、思う暇も無く水瀬さんの目の色が変わってゆく。
「ええっ!?北川君が好きなだけおごってくれるの!?」
げげっ!?
「い、いや、好きなだけとは…」
「太っ腹ねえ北川君。あたしも便乗していいかしら?」
「美坂、お前まで…」
「俺も便乗するぞ。なんと言ってもよき友だからな」
「相沢ー!てめぇは自費だ!」
とかなんとかやってるうちに…。
「来ちまった、百花屋…。しかも相沢にまで振舞ってるし…」
「ありがとう、北川君♪」
まぁ、水瀬さんの怒りが収まったんだからよしとしようか…。
「自業自得ね、北川君。ま、その分あたしはご馳走にありつけたからいいけど」
言いながら美坂はとびきり高い品を注文してやがった。
「美坂ぁ、少しは遠慮してくれよ〜」
「そうねえ、少しは控えるべきかしら…」
「おおっ!」
「でもな、香里。北川が珍しく奢ってるときに遠慮したら失礼じゃないか?」
「それもそうね」
「くぬやろー、相沢ぁぁぁ!」
結局は嫌になるほどの品々が目の前で消化されていった。
相沢の気持ちがしみじみ分かった気がするぜ…。
そうそう、肝心のイチゴジャムはどうしたかっていうと…
商店街でてきとーに買って食した俺であった。
空しすぎる…。
<イチゴジャムの恨みはおそろしいんだよ>
「鰻といえば鰻いっき」
…と、言ってみたものの、いつも喜んでいっきをしてくれる祐一さんがここには居ませんねぇ。
はぇ〜、困りました。
「困ってる場合じゃないね。これは佐祐理が食べなきゃいけないんだから」
でも…一人で食べても味気ないというものです。
「ここは一つ、お弁当として作って舞達にも食べてもらおうっと」
うんそうしましょう。
一人より二人。二人より三人。
大勢で食べるお弁当は格別なはずですよーっ。
さてと、それでは…
『●鰻厚焼き卵
おっきな厚焼き卵の中に
うなぎがタップリ!』
と、本の内容には無難な説明が書かれていました。
うーん、タップリという言葉をアピールしたかったんでしょうけど、これでは当たり前すぎですねえ。
厚焼き玉子と鰻とを用意すればことが済んでしまいます。
…うん、それならばタップリという言葉に習って、タップリ作ってみましょう。
「タップリなんていう説明が入っていたならば、タップリいっきをしてくれるはずですし」
あ、呟いたものの誰がいっきをしてくれるのでしょうか…。
なんて、祐一さんに決まってるじゃないですかーっ。
「あははははーっ」
嬉しくなって、笑みがこぼれてくる。
今日のおひるは楽しみですよーっ♪
そしてお昼休み。
待ちに待った昼食会がやってきましたーっ。
ところが、佐祐理が思っていたのとは違うメンバーでした。
普段どおりに屋上へ行こうという途中。舞はいつもの通りなんですけど…
「栞さん?」
「は、はい。丁度さっき、舞さんに会って、
今日は祐一さんに勧められていたもんですから。
“たまには舞や佐祐理さん達とお弁当でもどうだ”って」
「はぇ〜」
祐一さんにちょっとやられてしまった気分です。
楽しみにしてたんですけどねえ…いっき。
でも、栞さんが一緒でも、楽しくお弁当は食べられます。
「それではご一緒に召し上がりませんか?佐祐理のお弁当」
「えっと…いいんですか?」
「もちろんですよーっ。ね?舞」
「………」
こくり、と舞は頷きました。けれどもその顔は、まっすぐに栞さんを見てはいません。
もうっ、舞ったら相変わらず照れやさんなんだから。
「それではよろしくお願いします」
「あはははーっ」
「………」
こうして、三人でお弁当を広げて、楽しく食べました。
「あっ、それは今日のお料理ですか?」
「はいっ、そうです。タップリ作ってきたのに祐一さんにいっきしてもらえませんでした」
「うーんそれは残念でしたね…」
「はい、残念です…。ね?舞」
栞さんと二人で頷き合っているのもあれなので舞にふってみました。そしたら…
「………」
ぶんぶん、と舞は首を横に振りました。
「舞さんにとっては残念ではないみたいですね」
「舞なりに慰めてくれてるのかな」
じっと舞を見つめていると…
「…美味しい」
ぽつりと呟いた。とっても嬉しい笑顔で。
その笑顔を見てると…なんだか心から嬉しさがこみ上げてきました。
じんわりとあったかい、芯を震わさずにはいられないような。
そうだよね、皆で美味しく食べるのが一番だよね、舞。
<よかったっ>
「………」
いつもながらに、ふざけてるとしか思えない料理だな…。
「っていうか料理じゃなくってこれお菓子だろ?」
自分で思ったことに素早くつっこんでおいた。今日の一等賞だ。
「8000本納品するとバイトのおにーさんは大変だな」
そう、大変なのだ。箱を目の前にするとさぞかし圧巻だろうな。
一本ならば買えばあっさり済むだろうに何故に8000本も…。
…まあそれはおいといて、と。
『●うまいぼうサラミ
おつまみとしてもいける?
サラミ味』
平凡な説明文だな。
おつまみ、ねえ…ん?おつまみ?
「よかったですね祐一さん」
「ぐわあああ!!」
いきなり隣に立たれてしまった。
さすが秋子さん、微塵も気配を感じさせなかったな…。
「あ、あの、秋子さん。何か用ですか?」
「今日はお酒でしょう?心得てますよ」
その心得は何かを間違えてると思うんですが。
「どこからお酒が?」
「おつまみといえばお酒じゃないですか。幸せですねえ、祐一さんは」
「………」
いくらなんでも繋げ方があんまりじゃないか?
別につまみってのは酒以外にも…。
「早速今夜たっぷり用意しますからね」
「いや、ちょっと、あの、秋子さん!?」
ばたん
扉は閉じられた。
そうそう、いい忘れていたがやはりここは俺の部屋だったのだ。
つまりは、自室で本を眺めていて…。
「んなもんどうでもいい」
今夜は酒だ、酒に決定だ。
…今回の本の中にはじかに料理名が酒のものなんて無いはずなのにどうしてなんだろう。
そして夜。夜がやってきた。
サラミがなんだ、うまいぼうが何だ。俺のメインディッシュは酒だこんちくしょー。
「…いつもながらに大味ですね」
「いえいえ、祐一さんほどじゃあありませんよ」
いつもの微笑を秋子さんは浮かべている。
そして俺の座席の目の前には、もはや一升瓶しか置かれていなかった。
申し訳程度の中皿には目的の料理が乗っていた。買ってきたのではなくて、秋子さんのお手製らしい。
こんなものまで作るなんて、昔何かに関わってたのかなあ…。しかしこの量は…
「明らかにこれは陰謀工作であります、隊長!」
「誰に向かって敬礼してるの祐一…」
「民衆だ」
「隊長が民衆なんだ…」
くっ…ああそうさ、俺は民衆に踊らされる一般市民なのさ〜。
「祐一さん、そんなにお酒が楽しみなんですね」
「ま、いつものことだけどね〜。あ、真琴は肉まんー!」
「いつも祐一君ってお酒飲んでるの?」
「いつもってわけじゃないけどね。お母さんが…」
周りで何か言っている。遠くから声が聞こえてくる。
いいさ、もうどうでもいいさ。
うまいぼうをつまみに、俺は酒を!
「…そういやこれ、何ていうお酒でしたっけ?」
「ああそれは珠の光“有機雄町”ですよ」
「そうですか…。珠の光“有機雄町”にかんぱいー!」
力いっぱい腕を振り上げる。
…今日の俺は栄養失調に成らないだろうか。
<ヤケヤケ>
「来たか…」
ため息が出る。出しても出しても出したり無いほどに。
できるなら来ないで欲しいと思っていたのだが…そうもいかなさそうですね、この本は。
8000本納品するとバイトのおにーさんは大変だそうですが…
だがしかし、初回にやってきた料理がこの程度ならなんとかなるでしょう。
買ってしまえば終わりですからね。
『●うまいぼうソース
懐かしの味
とんかつソース味』
懐かしの…ですか…。
そう、あれは幼少の頃。倉田さんを囲んで…
…囲んだ記憶なんてありませんね。
「さっさと買いに出かけるとしましょうか」
いつまでもくだらないことを考えていても仕方ありません。
とっとと出かけてとっとと用事を済ませておくことにしましょう。
そして商店街。目的のものがありそうな店に立ち寄り、目的のものを何本か購入。
複数本買ってしまったのは、つい、というところですかね。
袋を開けてひとかじり。これで目的は達成です。
「…やけにあっさり済みましたね」
「あっ…えっ、と…久瀬さん?」
声をかけらました。戸惑ったこの声は…と思いながら振り向くと、
既に見知ってはいるものの僕にはそう馴染みの濃くない女性が立っていました。
「おや、これはこれは…美坂栞さんでしたっけ?」
「はい、そうです。あのう、久瀬さんが食べているそれって…」
「これですか?今日の料理ですよ」
簡潔に本の経緯を説明。こんなにことが簡単に済んだ自分は幸者であるとも付け足しました。
「…では、いっきをお願いしていいですか?」
「はい?」
「今回、本は色んな人をめぐるので祐一さんがいっきをする機会が減ってしまうんですよ。
ですから、せめて違う人の男らしいいっきを…と思いまして。ご協力お願いできますか?」
「………」
やれやれ、どうして彼の知人にはこういう人達が多いのでしょうか。
寝ながら登校するだとかうぐぅを世界に広めるとか、挙句の果てにいっきときましたか。
「君は、僕を何かと勘違いしていませんか?僕は相沢君の代わりではないのですよ」
「分かってるんですけど…佐祐理さんとも話し合って落ち込んでたところですし…」
「く、倉田さんと!?」
なんという意外な落とし穴。いっきに倉田さんが関わっていたとは!
これは…アピールをしておくべきなのでしょうか。
いえ、しておくべきですね、ここは。是が非でも。
「分かりました、不肖ながらこの久瀬が。美坂さんの願いを叶えて差し上げましょう」
「ほんとですか!?」
「ええ。倉田さんにもよろしく伝えておいてください」
「はいっ!」
元気よく頷いたかと思うと、羨望のまなざしで彼女は僕を見つめ出した。
ふっ、こんな注目されるというのはなかなかに無いことですね。
「では…」
買っておいたもう一本を開け、いざ…
「あ、待ってください」
「はい?」
「祐一さんは串3本は軽いんです。うまいぼう…5本はダメですか?」
「………」
無茶苦茶を言う。あの大きさを5本…しかし、ここは相沢君と差をつけなければ。
「わかりました、5本いきましょう」
「はいっ!」
ますます彼女の視線が熱くなる。ここは決めなければ…。
「ではいきますよ!」
「はいっ!」
ばくばくばくばくばくっ!
…食べた、食べつくした。
なるほど、いっきもそう難しいものじゃないな。
そう思った僕は…何かを失ってしまったことに気付いていなかった…。
<やっちまった>
「イチゴじゃない…」
自分の所に本がやってきた、と思ったらイチゴじゃなかった。
このままイチゴが出なかったらどうしよう。
仮に出たとしてもわたしじゃなかったらどうしよう。
北川君にいいところを持っていかれたのが本当に悔やまれるよ。
まったくもう…北川君許すまじだよ…。
ぶつぶつぶつと、文句がいくらでも出てくる。
今のわたしは本がやってきたことよりも、イチゴが出なかった事でとにかく頭がいっぱいだった。
「…いけないいけない、今回の料理もちゃんと食べないと」
途中で我に返って頭の中を元に戻す。
そして本に見入った。
『●うまいぼうサラダ
新鮮な味
野菜サラダ味』
うまいぼう…
そういえば聞いたことがあるよ。
「8000本納品するとバイトのおにーさんは大変なんだって」
どこで聞いたのかは忘れちゃったけど、これが今回のきーわーど。
「…なんてわけないよね」
とりあえずこの料理だったら買って食べても十分。
お母さんに頼らなくても、自分のお小遣いで十分。
よーし、早速商店街へ行こうっと。
でも…一人で食べるのもなんだかさびしいな…。
「…で、あたしを呼んだわけ?」
「うんっ」
香里を誘ってみた。
怒ってるように見えるけど、嬉しそうなのはわたしにはちゃんと分かった。
よかった。
「良くないんだけど…」
「どうして?」
「あのねえ、何が楽しくてうまいぼうなんて買い食いしにわざわざ家から出てこなきゃいけないのよ」
「だって、二人で食べた方が美味しいよ?」
「そういう問題じゃないでしょ!?」
「心配しなくても今回はわたしのおごりだから」
「そういう事を言ってるんじゃなくて!…はあ、もういいわ。とにかくさっさと買いましょ」
躍起になっていた香里だったけど、すたすたと早足になり始めた。
やっぱり嬉しいんだね。
「嬉しくないわよ」
「照れちゃって」
「照れてない!」
「早く食べたくてたまらないんでしょ?」
「違うったら!」
わざと怒ってる様に振舞ってる香里はとても楽しそうだった。
やっぱり誘ってよかったよ。今度も誘わなくっちゃ。
「…言っておくけど、今度誘う時はもっとマシな料理にしてよ?
たかがお菓子に連れ出されるなんて冗談じゃないわ」
「え〜?」
「え〜、じゃないっ!」
…そんなこんなで、香里と楽しい会話を交わしながらうまい棒を買って食べた。
二人で二本。もちろんわたしのおごりだよ。
とても美味しいよ〜、サラダ味。
「ほらほら香里、新鮮だよ」
「あのねえ、駄菓子に新鮮もへったくれもないでしょ」
「だって本の説明書きには…」
「んなもん本気に捉えてんじゃないの!」
ぶつぶつ言いながらばりばり食べてた香里。その食べっぷりは見事だったよ。
「…あー、なんか腹立つ。名雪、もう一本奢ってよ」
「うん、いいよ。なんだかんだ言って香里ったらお気に入りなんだね」
「あーはいはい、そういうことにしとくわ」
ばりばりばりばり。
やっぱり香里はいい食べっぷりだよ〜。
<ご馳走様だよ>