『ステーキ』

シンプルだ。グラム数の表記が無い分、これ一度限りだと思っていいだろう。
もっとも、変な肩書きのステーキらしきものは前にも食ったが…。
「えっと、秋子さん。ステーキをお願いしていいですか?」
「了承」
あっさりと了承はでた、さすがは秋子さん。
「でも普通のステーキなんですよね」
「ええ、見てくれればわかります」
もったいぶることもせず、俺は本をぱらりと開ける。

『●ステーキ
厚く切った肉を
鉄板で焼いて作った食べ物』

「…普通のステーキですね、本当に」
「ええ。素敵なステーキを期待してますよ」
「………」
しまった、今のは寒かったか。
「寒いよ祐一〜…」
「寒すぎよぅ〜」
「…寒いわね」
うっ、名雪や真琴に合わせて秋子さんまで…いや、最後の声は違ったぞ?
素早く疑問を感じて振り向くと、そこに立っていたのは香里だった。
「おはよう、相沢君」
「…なんでお前がここに居るんだ」
「昨日勉強会と称してお泊まりしたでしょ。だからよ」
「そうだっけ…」
言われてみればそんなことをやったようなやらなかったような…。
まあこの際どうでもいいことだ。
深くは考えずに、俺は秋子さんへ向き直る。
「とにかく秋子さん、ステーキをよろしくお願いします」
「ええ、任せてください。祐一さんの言う素敵なステーキをご馳走しますよ」
にこりと微笑むその姿は、なんとも美しいものであった。
あまりにも美しすぎて…その裏に隠されている企みに気付かないほど…。

夕飯。
予定通りステーキは姿を現した。
素敵だ…なんて素敵なんだ…イルミネーションがついてる…
「って、秋子さんんん!」
「あら祐一さん、素敵に思いませんでしたか?」
「…いえ、素敵です」
素敵に無駄な装飾が素敵です。
豆電球が肉に突き刺さってじゅうじゅうと飛ぶ汁で汚れていく姿とか…。
「さあ、美味しく召し上がってくださいね」
「は、はあ…」
圧倒されつつも、結局俺はそれを食すしかなかった。
ちなみに、他の面々は普通のステーキだ。
素敵じゃなくてもいい、堂々と普通のステーキを食べたい〜…。
「素敵よ、相沢君」
食事中に飛び出した香里の嫌みな言葉が、俺の後悔の念を更に深めるのだった。

<なんでこんなことに…>


『スペシャル炒め』

これはあゆに任せればいい。説明文を読んでそう思った。
「というわけであゆ、スペシャル炒めを料理しろ」
「う、うぐぅっ!?」
商店街。背後から忍び寄って声を掛けてやる。
当のあゆ自身は気付いていなかったらしく、ぴょんと跳ね上がった。
そうビックリした拍子にごくんと大きな音が聞こえてくる。
どうやら、食べかけのたい焼きを喉につまらせてしまったようだ。
「うぐぅっ、うぐぅっ!」
「あ、あゆ!?大丈夫か!!」
正面にまわって顔を確認すると、真っ赤。その涙目からはただ事でない苦しさが伺われる。
原因が俺なだけに、ここは真剣に相手してやらないといけない。
どんどんと背中を叩いて処置してやる。

…数分後。ようやくあゆは落ち着きを取り戻し、ぺたんとそこに座り込んだ。
「うぐぅ、死ぬかと思った…」
「済まない。俺はあゆを暗殺するつもりで声をかけたわけじゃないんだ、信じてくれ」
「そんな極端な事、信じない方がおかしいよ…。料理まで頼んでおきながら…」
言われれてみればそうだな。
そうそう、改めて本題に入る前に、忘れないうちにこれを言っておこう。
「しっかしあゆ…」
「なに?」
「お前、息が詰まっててもうぐぅが発音できるんだな…」
「…うぐぅ、ほっといて」
ふくれてぷいっとそっぽを向く。
あゆはこう言うがほっといていい要素なんだろうか?
実はあゆの声帯と気管支は別に設置されていて、普通の人とは違う方法で発声を…。
いやそうじゃない。実は“うぐぅ”専用の声帯があるんだ!
なんらかの事情で声が出せなくなった時、非常事態に“うぐぅ”を発声させる…。
なるほど、普段の“うぐぅ”はその練習だってわけなんだな。
二つの声帯を使い分けるとはおそるべし、あゆ…。
「…どうしたの、祐一君」
いつの間にか、そっぽを向いていたはずのあゆがこちらをじっと見ていた。
待っても俺からの反応が無かったので不信に思ったのだろう。
「なんでもないぞ。やはりうぐぅはあゆだけのものだと思っていただけだ」
「………」
「そうだよな、元々俺なんかのうぐぅはただの真似でしかなかったんだ。謝るよ」
「う、うん…」
丁寧に頭をたれると、あゆは腑に落ちないながらも頷いてきた。
そんな顔をするな、誇れあゆ。うぐぅを誇れ。
「…で、何を料理しろって?」
「は?」
「は?じゃないよ。祐一君ボクを呼ぶ時に言ったじゃない、料理名を」
「料理?」
…ああ、そういえば。
しかし俺は気が変わった。あゆに頼むのじゃなく…
まあとりあえず料理を見せてやるか。
「これだ」
「どれどれ?」
もっていた本を開けてやる…

『●スペシャル炒め
君のために。そんな熱さを感じる
特別な“野菜炒め”』

あゆは、料理名を見て瞬きを何度もしていた。
よほどこの料理のインパクトが凄かったんだろう。
「…なんだかスゴイね」
「そうだ。実はあゆに頼んだ理由に、この説明文がある」
「説明文?」
「“君”って言葉が入ってるだろ?」
「うん」
「俺の知り合いで、相手を“君”なんて呼ぶ奴はあゆしか居ない。だからだ」
「…うぐぅ、いいかげんな理由だね」
呆れた目つき。だが“うぐぅ”が混じっている。逆らうわけにはいかない。
それに、今のあゆの心境を覆すほどの案を俺は提案する自信がある。
「心配するな。俺が作る、あゆのために」
「え…ええっ!?」
「あゆのために…君のために…俺は精魂込めて作る。…食べてくれるか?」
尋ねたが、あゆはきょとんとしていた。
目はまんまる。どうやらさっきの俺の言葉は頭に入ってないみたいだ。
改めて俺は言ってやる。
「あゆ、お前のために俺はこの料理を作る。…食ってくれるか?」
「えっ…あっ、も、もちろんだよ!!…でも、いいの?」
ぱっと目を輝かせて取り繕う。
しかしすぐに遠慮がちになるのはあゆらしいというか。
「いいに決まってるだろ。俺はあゆのために作るんだ。あゆが食べなくて誰が食べる」
「うぐぅ、嬉しいよ祐一君…」
「任せろ。熱さをこめる。うぐぅの前にすべてはひれ伏すんだ…」
「は?」
感動で潤んでいたあゆの目が一気に疑惑をはらむ。
そんなあゆのために、俺は言わなくてもいいだろう事をぺらぺらと喋り出した。
もちろんそれはうぐぅについてだ。あゆの秘密に気付いた俺。
うぐぅ様と呼んでも差し支えないだろう事を俺はあゆに…
「うぐぅっ!そんな呼び方しないでよっ!!」
「話の途中で怒るな」
「怒るに決まってるよ!…うぐぅ、少しでも祐一君に心を許したボクが馬鹿だったよ」
そこまで言われる俺は何者だ。
「…とにかく俺はうぐぅのために…じゃなかった、あゆのために料理を作る」
「いいけど…その勘違いだらけの思考をちゃんと直してよ」
「なんだ?うぐぅはあゆだけのものだってところか?」
「その、“うぐぅ”に関するすべての事柄だよっ!!」
鶴の一声あゆのおたけび。
ぽかぽか殴られ、どかどかタックルされ、そして俺は…帰宅した。あゆを連れて。

「ほ〜らできたぞー、あゆ」
「うぐぅ、ありがと…」
複雑な表情で、あゆは俺のお手製のスペシャル炒めをみやる。
秋子さんにばっちり手伝ってもらったんだからそう心配するなって。
野菜の切り方がごちゃごちゃしてようと、一部分の味付けが濃かろうと。
…うーん、俺ってやっぱ料理をしようとするべきじゃないのかもな。
秋子さんが居なければどれだけ材料を無駄にしてたかわかったもんじゃない。
「うぐぅ、祐一君も一緒に食べないと」
「なんでだ」
「だってこれ、元々祐一君が食べなきゃいけないものでしょ?」
「…そうだった」
なんてことだ、すっかり忘れていた。
一連の出来事が俺の記憶を狂わせていたというのか…。
「うぐぅはやはり俺にはまだまだ遠い存在の様だな…」
「だから!その曲がった解釈をどうにかしてよ!!」
怒り叫ぶあゆと共に、美味しいような不味いようなスペシャル炒めを、俺は食した。

<誰のために?>


『スライムゼリー』

得体の知れないものが登場した。
スライムなんて名がついてる時点で怪しいが…
ここはやはり秋子さんに頼んでみる事にしよう。

『●スライムゼリー
ちょっぴりビターな
大人の味わい』

「了承」
「ありがとうございます」
さすがだ。おそらく未知なのにすぐさま言ってのける素晴らしさを俺も見習わなければ。
俺一人で素晴らしい思いをしているのもあれなので、色んな人を羨ましがらせてやろう。

まずは名雪。
「名雪、俺はスライムゼリーを食べるんだ。いいだろう」
「…頑張ってね」
冷めた意見だった。

次に真琴。
「真琴、俺はスライムゼリーを食べるんだ。いいだろう」
「あぅーっ、祐一がついに…」
ついになんだよ、続きを言えよ。

そして香里。
「香里、俺はスライムゼリーを食べるんだ。いいだろう」
「はいはい良かったわね」
そっけなく返された。同時に哀れみの視線を投げられた。
…悔しかった。

更に北川。
「北川、俺はスライムゼリーを食べるんだ。いいだろう」
「ふっ、うらやましいぜ…」
台詞とは裏腹に全然羨ましがっていなかった。
ちくしょう…。

でもって栞。
「栞、俺はスライムゼリーを食べるんだ。いいだろう」
「…スライムゼリーってなんですか?」
「それは想像に任せる」
「祐一さん…あ、いえ、なんでもないです」
すべてを悟った様な目で見られてしまった。
栞、そんな目で見ないでくれ…。

ついでに天野。
「天野、俺はスライムゼリーを食べるんだ。いいだろう」
「そうですね。人とは違った物を食べるという点で喜んでおかないと…」
「…おかないと?」
「他に喜ぶ事もないでしょうから」
冷静に見透かされた意見をぶつけられた。
ショック倍増だった。

気を取り直して佐祐理さん。
「佐祐理さん、俺はスライムゼリーを食べるんだ。いいだろう」
「ふぇっ?それって美味しいんですか?」
「………」
「祐一さん?」
素直な疑問は非常に堪える。そんな返答だった。

続けて舞。
「舞、俺はスライムゼリーを食べるんだ。いいだろう」
「………」
おーい、何か喋ってくれよ〜。

最後にあゆ。
「あゆ、俺はスライムゼリーを食べるんだ。いいだろう」
「うぐぅ、大変だね祐一君…」
「何が大変だ。秋子さんがすぐに用意してくれるんだ。大変じゃない」
「台詞が棒読みだよ。…よほど辛いんだね」
辛い?そうか?俺は辛いのか?
面と向かって言われると泣けてくるじゃないか。う、うう…。

そして夕刻。
入手ルートと調理方法不明のスライムゼリーが目の前にあった。
奇麗な緑色がプルルンプルルンと揺れている。
スプーンでそれに触れると、未知の弾力性を味わう…。
…躊躇しつつも、俺はそれを口にするに至った。
相変わらず秋子さんはにこにことそれを見ているが。
「これで祐一さんも大人の仲間入りですね」
「…あの、さすがにそれは無理だと思いますが」
「この料理を食べた後は心置きなくお酒に手を出せますね」
「いや、あの、だから…」
秋子さんの狙いが別にあったとは驚いた。
けれども俺は大人になったわけではなかった。

<だから無理だって>


『ゼラチンステーキ』

ステーキ…
この前食ったばっかりの様な気がするんだがなあ…。
「そこはかとなく怪しい雰囲気を醸し出してますね」
「どわあっ!!」
教室で何気なく本を読んでいると、不意に横から声がした。
当然びっくりした俺は飛びのいてしまったわけだが…
「…天野?」
「はい、私は天野美汐と申します。あなたは?」
「…俺は相沢祐一だけど」
「知ってます」
なら聞くなよ…。
「軽い冗談ですよ」
「どういう冗談だ…」
天野がどんどん変な方向へ飛んでいくのを感じた俺だった。
「ところで何しにきたんだ?教室まで…」
そう、天野は堂々と俺達のクラスに侵入していたのだ。
傍若無人が増したのか度胸が備わってきたのか…
どちらにしろ俺には遠慮して欲しいんだが…。
「今日の料理が気になったものですから」
「そんなものに気をまわす余裕あるなら、もうちっと別の事に気を遣えよ」
正直な俺の意見はそれだった。
いくら毎度人に頼ってはいるが、相手から来られると申し訳なくなる。
それと同時に、なんとも情けない複雑な気分になるのだ。
「まあまあ相沢君。ここは美汐ちゃんに協力してもらいなさいよ」
「香里は黙ってろよ」
これ以上話をややこしくしてほしくない。
「香里さん、今日のお料理はステーキのようです」
「ステーキ!豪勢ねえ。これは作ってあげないとね」
「はい。私頑張ります」
「うんうん、いい心掛けねえ。相沢君は幸せ者ね」
二人で和やかに話を進めてやがる。
俺の意見なんて無視も同然だった。
「あれ?でもステーキってこの前食べたんじゃなかったっけ?」
首をかしげる香里。どこからそんな情報を仕入れたんだか…。
どうせ名雪あたりが喋ったんだろうが…。
「何考えてんの。あの時あたし傍にいたでしょ?」
「…そういえばそうだった」
「モーロクすんのも大概にしなさいよ」
「………」
どさくさに紛れてキツい一言を放つ。俺はお約束どおり落ち込んだ。
「で、どんなステーキなの?」
「実は少し変わったステーキなのです」
「へえ?」
「相沢さん、本を広げて見せてくださいますか?」
ほとんど唐突気分で話をふられた。
けれども俺は素直に見せてやる。

『●ゼラチンステーキ
食感が新しい新感覚のステーキ
意外なスープの馴染み易さに
驚くなかれ』

「…ねえ相沢君、昨日もこんな怪しいもの食べてなかった?」
「ああ、食ってたよ」
「こんにゃくステーキって事かしらねえ…」
さすがの香里も知ってる料理ではなさそうだ。
何故だかここで俺に優越感が芽生える。…空しいだけだが。
「違いますよ香里さん。不定形生物をステーキにしたものです」
「「………」」
天野の解説に二人で沈黙する。
不定形…そういう言い方は語弊があるような…。
「な、なるほど…。が、頑張ってね、美汐ちゃん」
「はい」
香里は退散した。ますます俺の優越感が大きくなる。
同時に、空しさも大きくなる…。
「では相沢さん、放課後を楽しみにしていてください」
「は?」
「ブツを私が懸命に用意致します。文句はありませんね?」
「おい…」
いつから天野はこんなに強引な性格になったんだ?
誰かの影響か?思い当たる人物は…
「栞さんのお話は…いつ聞いても興味が湧きます」
やっぱ栞かよ…。
「とにかく期待していてくださいね」
結局、ほとんど一方的に話をし終わり、天野は教室を出ていった。
なんとも言えない気持ちでその姿を見送る…。
「モテモテだな、相沢」
北川の皮肉も、耳をただすり抜けていくだけだった。

放課後の昇降口。
ビニール袋に包まれた怪しいものを天野から受け取った。
「調理はお任せします。材料の調達が精一杯でした」
「あ、そ、そう…」
袋ごしに一部に触れると、ぐにゃっという奇怪な感触が指をおそった。
慌てて手を離すと、へこんだ部分が更にぺこっとへこむ。
…明らかに得体の知れない生命であると思えた。
「なあ天野…」
「なんでしょう」
「これ…何だ?」
無駄な抵抗に思えたが、やはり俺は聞いてみた。
「謎の不定形のなまものです」
「………」
聞かない方が良かったかもしれない…。
「あ、ありがとうな、天野」
「いえ…」
一応お礼は言っておく。
そのまま天野と別れて帰路につく…。
帰宅して秋子さんに調理を依頼すると、
袋の中身を見るなり目の色が変わった。
「…祐一さん、どこでこれを入手したのですか?」
「えっと、天野から貰ったもので…」
「…なるほど。やられました…」
悔しそうな溜息。秋子さんにとって相当ショックだったということだろう。
結局中を見る勇気が無かった俺には、もはや関与する事は出来ないが…。
あ、でも食わなきゃならないんだよな…。
多分とんでもない味が…でもスープとの馴染みがいいとか言ってたっけ…。
ぼんやりと考え事にふける俺であった。

<味は…まあ、まあ…>


『船中八策』

『●船中八策
キレと辛みの調和
値段にそぐわぬ美味さがある
酒飲みのための酒』

「だからんなもん飲ませるなって!」
少し久しぶり気分でもあるが、酒の登場だ。
酒飲みだと?なら俺は失格だな。はっはっは。
…なんて理由が通るはずも無いか。
「ええ、通りませんよ」
「どわあっ!」
大胆不敵に秋子さんが現れた!
祐一は驚きとどまっている!
「祐一さん、早速召し上がってください」
秋子さんの攻撃!
秋子さんは何かが注がれているコップを差し出した!
酒の匂いがする…飲みますか?
はいorいいえ
………
「いいえ…」
「だったらこちらをどうぞ」
秋子さんは更に別のものを取り出した!
瓶だ!中にはオレンジ色の物体が入っている!
祐一は身の危険を感じた!
…瓶の中身を食べますか?
はいorいいえ
………
「いいえ…」
「…そうですか」
秋子さんの顔色が変わった!静かな怒りが伝わってくる!
秋子さんは何かを考えているようだ…。
祐一は逃げ出した!
ダダダダッ
ぐわし
秋子さんに腕を掴まれた!祐一は逃げられない!
「こうなったら両方を…」
秋子さんは結論を出そうとしている!
祐一はとっさに答えた!
「ま、待ってください!コップの中身を飲みます!」
「あらそうですか。ではどうぞ」
秋子さんの顔色が穏やかになった…。
…って、何をやってんだ俺は。
祐一は我に帰った!
「もういいー!」
「はい?」
「あ、いや、なんでもないです…」
RPG風のノリを取り払い、コップの中身を口にする…
ゴクゴクゴク
「…ごはっ」
バタン
祐一は倒れてしまった!
「あらあらあら。ですから一度に飲まなくていいのに…」
「ぐ、そ、そうでした…がく…」
祐一はそのまま意識を失った…。

<結局RPGに戻った(?)>


『戦慄のグラタン』

見た瞬間俺は思った。なんだか恐ろしい料理名だと。
「っていうか、どんなグラタンだ?」
今までにもあった、形容詞だとか連体詞だとかがくっついてる料理。
何かを言おうとしてるのはわかるが、はっきり言ってこういうのは非常に困る。
具体的にどんな内容の料理だかわからないからな…。
さあて、どうしようかな。秋子さんに頼むのが一番な気もするが…。
「…いっそのこと自分で作ってみるか?」
我ながら自爆的発言かもしれないが、誰に任せても自爆しそうである。
(というのは酷い言い草だけどな)
…ふむ、やってやるか!
「わたしも手伝うよ」
「がくっ…」
やる気を出した途端に、気力がしぼむ声が聞こえてきた。
相変わらずのんびりしている名雪、である。
「お前なあ、俺が珍しくも料理を作ろうとしているのに…」
「いいじゃない、手伝うくらい。無理して一人で作る事無いよ」
「それもそうだがな…」
俺的には非常に一人でつくってみたいのだが…見つかった以上仕方あるまい。
「よし助手の名雪、思う存分手伝うがいいぞ」
「わっ、途端に偉そうになったよ…」
「助手というからには当然使い走りとか肩もみとか…」
「さあて、早く作るよ」
ボケをさらっと流すな…。

なんてやりとりをしながら向かうはキッチン。いざ進めやキッチン。
タマネギが目にしみても、キャベツは忘れないぞ。
「ところで祐一、何作るの?」
ひたってる時に声をかけてくるとは、やっぱマイペースだな、名雪。
「グラタンだ」
「わ、無謀」
悪かったな、無謀で。
「何グラタン?」
「戦慄のグラタンだ」
「…戦慄、って…恐いとかおののくとかの戦慄?」
さすがよく知ってるな。
音楽用語が先に出てこないのが何かを心得ている証拠だな。
「ああそうだ。…ってお前、何作るか知らないのに手伝うって言ったのか?」
「だってこんな天文学的に珍しいイベントに付き合わないと損だよ」
どういう表現だ…。
「ちなみに説明がきはこうだ。これを見れば俺が一人で作ると言い出した理由がわかるだろう」
「へえ?」

『●戦慄のグラタン
とある料理人がこれを食べて戦慄し
己の力量を悟って廃業したらしい』

「…わかんないよ、祐一」
「物分かりの悪い奴だな…」
「うー、祐一の思考なんて読めるわけが無いよ。いいかげんだから」
それは思いっきりけなしてないか?
不愉快になりながらも、息をついて説明を始めてやる。
「いいか、料理人は俺だ」
「祐一?」
「そうだ。そこでこの戦慄のグラタンを作り、食す。
そして自分の力量を悟って料理を作るのは金輪際やめようと誓うわけだ」
「やめてどうするの?自分で料理作らなきゃならない時もあるのに」
「そんなわけはないだろう。ともかく、これですべての人に頼る名目となって…」
「じゃあ今回はわたしが手伝うから成り立たないね」
「………」
急所にツッコミを受けた。
そう、今回は名雪が手伝っている以上、思惑通りに実行すれば名雪も料理をしなくなる。
「…料理、やめるなよ?」
「やめないよ。祐一と違うもん」
どういうことだよ…。
しかし俺は途中でふと考えた。
“自分で料理を作らなきゃならない時もある”
そうなのだ。元々この本の主旨というのは自分で料理を作って食す、だからな。
すっかり人に頼りまくってる俺は外れまくってるわけだが…
「今更な行為だったな…」
「それはいいとして祐一。わたし達で作れるかな?これ」
「なんでだよ。余裕だろ?」
「だって己の力量を悟って、ってのは相当なものだよ。お母さんに頼んだ方が…」
残念だがそれは出来ない相談だな。
「お前なあ、俺が何の為に料理を作ろうと張り切ったか分かるか?」
「無駄な抵抗」
「そう、無駄な抵抗…じゃない!」
「違うの?」
「…いえ、そうです」
「まったくしょうがないよね、祐一は♪」
「………」
もうどうでもよくなった。
結局2人で右往左往を重ねて、問題の料理を完成させた。
しかしさすがに秋子さんを戦慄させるのは無理だろうという結論も出た。
というわけで…

「さあ真琴、食べてくれ」
「わたしと祐一で、真琴の為に作ったんだよ」
「あぅーっ、なんか2人とも目の色が変よぅ」
「気の所為だ」
「気の所為だよ」
「あぅーっ…」
戸惑う真琴をなんとか戦慄させ、その日の騒動は幕を閉じた。

<あぅーっ、なんてものを食べさせるのよぅ!>


『大根の味噌汁』

朝〜朝だよ〜朝ごはん食べて学校いくよ〜
カチッ
朝だ…。目覚めは気持ちがいい。
これで眠気を誘う目覚しじゃなければな…。
さて、誘われた分の眠気を取り払うために料理の本でも見てみるかな。
とんでもない料理だと冗談抜きで目が覚めるのだ。
のそりとベッドから起き上がり、机の上に置かれているそれを手に取る。
冷気にさらされていたページ一枚一枚がやけに冷たい。
今日の料理はなんだろな…

『●大根の味噌汁
大根を具にしたお味噌汁
日本人なら朝はやっぱりコレ』

「ナイスだ今日の料理!」
目はばっちり覚めた。
ばばばばばっとクロスアウト!
ばばばばばっとクロスイン!
ばびゅーん!と弾丸のごとく俺は部屋を飛び出した。

階下にゆくと、既に朝食の用意が為されていた。
しかも和食!味噌汁が食卓の上に乗っている!
「おはようございます、祐一さん」
「おはようございます秋子さん!ナイスです!」
「はい?」
「あ、いえね、今日の料理が大根の味噌汁だったんですよ。いやー、助かりました」
出来すぎている偶然を目の当たりにして上機嫌になる俺。
らんらんと目を輝かせて席につく。
いい日だ。朝一番に良い事があるとこうも元気よくなれるものだろうか。
「いただきます!」
ばしっと高らかに挨拶。早速お椀を手にとって食べはじめる。
…いい香りだ、そしていい味付けだ。
日本人の朝はやっぱり…って、なんだか変だな…。
違和感を感じた俺は、途中でお椀を置いた。
すると秋子さんが申し分けなさそうな顔で話し掛けてくる。
「ごめんなさいね、今日はふの味噌汁なのよ」
「え…」
「今から大根を入れてもいいんですが、それだと遅刻しちゃいますよね。
ですから夜には作っておきますから」
「…すいません」
なんと!これはきょうふの味噌汁だったのだ!
…やられた。
先ほどまでの元気はどこへやら。
俺はしゅんとなって朝食を食すのだった。

<でもちゃんと夜に食えたから良し>


『大福』

『●大福
中にあんこをつめて丸めたお餅
あなたは粒あん派?
それともこしあん派?』

「どこかで見たような説明書きだな…」
細かいことは置いといて、こんな簡単な食物はさっさと食すに限る。
誰かに頼るまでもなく、商店街で買う!これしかない!
思い立ったが吉日、俺は手早く支度を整えて家を飛び出した。
運良く誰にも出会うことなく、目的のものを入手。
その場で悠々とかぶりついてやった。
「ぶはははは!どうだ!!」
意味不明に勝ち誇ってみる。笑いを上げる。
すると…
「…う!?」
息が詰まった。く、苦しい…笑いすぎたか…。
手に持っていた食べかけの大福を地面に落とす。
立っていられなくなり、胸を叩きながらその場に突っ伏す。
このままじゃヤバイ、誰か助けてくれ…。
しかし、薄れる意識の中、俺の傍にやってくる者は誰も居なかった。
もうだめか…そう思った時だった。
「祐一く〜ん!」
…この声は?
まさに意識が途切れようとしたところに…
どーん!
「ぐぼあっ!」
後ろから強烈なタックルをかまされる。
衝撃でごろんごろんと転がる俺の身体。前転を複数回行ったところでようやく止まる。
逆さまになって、目の前に白い景色が広がった。
そして、その向こうには、口元を両手で覆っている少女…あゆがいた。
「ど、どうしたの祐一くん?いつもみたいにてっきり避けると思っていたのに…」
「お前なあ…」
避ける以前にどれだけの力を込めてぶつかってきやがったんだ…。
呆れると同時に、よいしょっと身体を起こす。
そして俺は、顔を背けながら一言呟いた。
「ありがとうな、あゆ…」
そう。あゆのタックルのおかげで喉のつっかえが無事取れたのだ。
意識不明になりそうだった所を助けてくれたあゆは命の恩人と言えよう。
しかし恥ずかしくて、いくらなんでも面と向かっては言えそうになかった。
「…えっ?」
「なんでもない!…ところでどうしたんだ?何か用か?」
「うぐぅ、祐一君の姿が見えたから嬉しくて走ってきただけだよ」
なんだそりゃ…。
「相変わらず犬みたいな奴だな…」
「うぐぅ、ボク犬じゃないよ」
「いつもみたいに廻ってワンって言ってみろ」
「うぐぅ!ボクはいつもそんな事やってないよ!!」
ぷうっと頬を膨らませてすねるあゆ。
もっとも、そんな理由でもあゆがタックルしてくれたおかげだ、俺が助かったのは。
感謝の念を再度かけつつ、俺は地面でつぶれている大福をしげしげと眺めるのだった。

<気を付けよう>


『卵サンド』

冬の日には珍しく、暖かな日差しが降り注ぐそんな日。
俺達は家族でピクニックに出かけた。
秋子さんと名雪お手製のお弁当を詰めたランチバッグを携え、
ある丘へと向かう…。
「今日はほんとあったかいね」
いつになく眩しい光に目を細める名雪。
天を仰げば、見事な青空。そこから感じ取れる温もりを含んだ空気。
暦さえ忘れれば、季節を間違えてしまいそうだ。
「天気予報では快晴だって言ってたわよ」
先頭を歩く真琴がはしゃぎながら得意げに話す。
一番元気なその姿は、時折危なっかしくもあるが。
「そうか。じゃあ曇ったり雪が降ってきたら真琴の所為だな」
「あぅーっ、どうしてそうなるのよぅ!」
「天気予報を見た人間は、その天気を守る義務があると昔から決まってるんだ」
「そんなのあるわけないじゃない。祐一のばか〜」
憎まれ口を叩きながら俺の冗談をひらりと受け流す。
感じられるその余裕から、機嫌のよさが伝わってきた。
かく言う俺も今日は非常に気分がいい。
寒さに弱い俺にとっては、このくらいの気候はまさに天国なのだ。
凍えるような日々などすっかり忘れさせてくれるような、そんな気候…
そうそう、密かにお弁当を紹介しておこう。

『●卵サンド
ゆでた卵を
たっぷり挟んで作ったサンドイッチ』

つまり、お弁当はサンドイッチというわけだ。
ただ食べるだけならすぐだが、こうしてピクニックというのもいいもんだ。
何しろ滅多にないイベントであるがゆえに…
「祐一、ゴメンね…」
浸っていると声をかけられる。
振り返れば、声を小さくして名雪が話しかけていた。
「なんだよ名雪、何がゴメンなんだ?」
「お母さんの張り切りを阻止できなかったんだよ」
秋子さんの張り切り?お弁当の事か?
「いいじゃないか、美味しいサンドイッチをたくさん作ってたんだろ?」
「そうだけど…中にはジャムのサンドイッチもあるんだよ?」
「いちごジャム好きだろ、お前。なら結構だ」
「いちごジャムだけじゃないんだよ…」
「………」
「………」
春が来て、ずっと春だったらいいのに…。
そうだな、真琴はそんな事を言っていた。
俺も同意見だ。寒すぎる冬よりは暖かい春がいい。
ぽかぽか陽気に包まれて、草木の息吹を感じ、生物達の再来を祝う。
まさに春は活動の季節…
「祐一、祐一…」
隣で誰かが呼んでいる。そう、これは名雪の声だ。
せっぱ詰まっているが聞かないことにする。
「祐一ぃ〜…」
楽しもうではないか名雪。楽しい楽しいピクニックを…。

<目的のものは無事食べたが、しかし…>


『魂込めたうに丼』

高そう…。
俺の第一印象はこんなもんだ。うに自体高いので有名だしな。
第一、魂込めたなんてとんでもない肩書きが付いている。
これこそ、日本一高いうに丼だと思って差し支えないだろう。
ちなみに説明書きは…
「祐一ぃーっ!!」
バタン!
やれやれ、五月蝿いのが来たな…。
振り返ると、そこには真琴が立っていた。
「くらえっ、真琴ぱーんち!」
問答無用で攻撃を繰り出してきた。最近の若い奴は元気だな…。
妙な所で感心しながら攻撃を受け止めようとしてやる。
どげん!
「ぐをっ!」
「へへーん、引っかかった〜!」
パンチと宣言しておきながら、真琴はキックを繰り出してきたのだ。
それは俺の脛…つまりは弁慶の泣き所にヒットした。
痛い、痛すぎる…!
俺は座っていた椅子から床に降りて、両手で患部を覆うのだった。
「くうう、真琴ぉぉぉぉ〜…」
「うわっ、泣いてる…」
「…お前な、急所を攻めるなんて卑怯だぞ…」
「え?別の急所が良かったって?しょうがないなぁ、祐一は…」
言いながら真琴は次なる攻撃の準備に入った。
こいつ…やる気だ!
「ま、待て!俺が何をした!?」
「何もしてないわよ。辻蹴りだからおとなしく蹴られなさいよぅ」
「辻蹴り?」
「そ、辻蹴り。辻斬りに習って真琴が考え出したの。スゴイでしょ」
何が凄いんだこのやろう。俺にとっては迷惑千万…
「さあ、いっくわよぅ!」
「う、ま、待てー!」
今だ先ほどの一撃から復活出来てない俺は、小さな抵抗しか出来ないでいた。
いかん、このままでは二撃目が!
…と、身構えたその時だった。
「ん?何これ?…ああ、今日の料理ね」
真琴の興味が別のものにそれた。それは、先ほど眺めていた例の本である。
ひとまず助かった…と息をついていると、真琴が中身を読み出した。

『●魂込めたうに丼
愛に優る調味料は魂。誰も何も
言えない。ただ食すのみ』

「…へぇ〜、じゃあこれは真琴が作ったらいいね」
「なんでそうなるんだよ」
「さっきの真琴の攻撃は魂を込めた攻撃だもの。これを応用すればいいのよ」
がしっとガッツポーズを取ってみせる真琴。
一瞬唖然。
「よぉーしっ、早速秋子さんに手伝ってもらうんだから!」
「あ、おいっ!」
止める暇も無く真琴は部屋を飛び出していった。
あいつ…本気で作るつもりか?うに丼を?
それ以前に、そもそも秋子さんが手伝ってなんか…って、手伝うに決まってるか。
短時間の騒動に、俺は痛みを忘れるほどに部屋の中で呆然としていたのだった。

夕刻。
食卓にでんと、4つのどんぶりが置かれていた。
本気でこれだけ作るとは…おそるべし、秋子さん。
「さあ!真琴が魂を込めたうに丼を遠慮無く食してね」
「わ、これ真琴が作ったの?」
「そうよう。えっへん」
「お母さんが作ったんじゃないんだ?」
「秋子さんには助手をやってもらったのよぅ」
「へぇ〜…」
素直な名雪の言葉に、真琴は必要以上に得意顔。
その横で秋子さんは何も言わずににこにこと微笑んでいる。
色々と手伝ったであろう事が顔を見ても分からないのはさすがだ。
…まあ、俺が言う事は何も無い。下手に文句を言うまでもない。
なにより真琴が率先して作ってくれたんだ。ありがたくいただこう。
「あっ、分かってると思うけど、食べてる間は口をきいちゃ駄目だからね」
「なんだそりゃ」
「何も言わずにただ食してこそこのうに丼の価値があるのよぅ!」
強調する真琴。何故か俺は逆らえなかった。
珍しくも今日は強い。一体何があった?
何があった?何があったんだ?何が…あったんだー!!
…心の中で叫びつつ、俺はただ黙々とうに丼を食していた。

<………>


『珠の光“有機雄町”』

「これは…この雄町って所に行けってことか?」
堂々とそんな名前が付いているもんだから、俺はそう思ってしまう。
まあ何にせよ秋子さんに頼る事になるんだが…
「…いや、たまには自分の力でなんとかしたい!」
料理の名前が“たま”で始まっているからでもある(無理矢理な理由だが)
いつまでも人の力を当てにしては駄目だ!
将来の事を考えて、一度くらいは自ら…
「祐一さん」
「うわあっ!」
決意を固めている途中で現実に引き戻される。
呼びかけて来たのは秋子さんだ。しかし姿は見えない。
…何故なら、今俺はトイレに入ってるからだ。
「あの、今入ってます」
「ええ、分かってます。お酒ですか?」
「…な、なんのことですか?」
ここで秋子さんに知られてしまえば抵抗のしようが無い。
俺は力いっぱいとぼける事にした。
「自分の力でなんてつれない事を言わずに、私に頼ってきてください」
既に聞かれていたか…いや、この状態なら誤魔化しがまだ効く!
「いえいえ、俺が決心してるんです。たまには自分の力で料理を作る!と」
「でも、雄町と言ってましたし…」
ぐっ…い、いや、まだだ!
「あ、ああ、そ、それは、雄町が産地の料理でして…
まあでもよくよく考えればそこまで行かなくてもいいわけですし…」
「あの…お酒じゃないんですか?」
「いいえ、違いますよ」
「そうですか…失礼しました」
秋子さんの足音が遠ざかってゆく。どうやら諦めたみたいだった。
…ひょっとして俺って結構やる奴?
なんてひたってる場合じゃなくて…とにかく家を出て再び考えよう。
用を足し終え、トイレの扉を開ける…
でん!
「おわあっ!」
床にある物が置かれてあるのを見つけた。
一升瓶だ。でかい。
でもって…

『●珠の光“有機雄町”
有機栽培された
雄町米ならではの厚みのある味わい
+αがこの酒の個性』

であるのが明白なほど、瓶に名前が書かれてある!
「…既にばれてたのか」
こうなったら観念するしかない。
俺はその瓶を持って食卓へ向かった。

向かった先には、戸棚をごそごそと探っている秋子さんが居た。
「あら?祐一さん」
「秋子さん、負けました…既にお見通しだったんですね…」
すべてを認める声で、俺は一升瓶を机の上に置く。
と、秋子さんの目がぱあっと輝いた。
「あらあら、一発目で当たりだったんですね」
「は?」
「いえね、祐一さんがあまりにも強情だったもので…
こうなったらと思って人海戦術ならぬ酒海戦術を行使してみたんですよ。
祐一さんの行く先々に様々なお酒を並べ…いずれ祐一さんに引っかかった物が…」
「………」
恐ろしい…なんて恐ろしい事をしてるんだ秋子さんは…。
つーか俺、酒だって言ったか?
「一つ目で当たってほんと良かったわ。
ちなみにお酒だとは確信してましたよ。
祐一さんが慌てて隠す時は大抵お酒ですから。
もう、今更遠慮なんてしなくていいんですよ?」
「あ、あははは…」
色んな意味で勝てない…俺はつくづくそう思った。
いや、酒が絡む際に勝とうなどと考える事自体愚かなのかもしれない…。
「さあどうぞ。めでたく一等賞ですから」
「はい、戴きます…」
乾杯ならぬ完敗の音頭を取り、俺はそれを飲むのであった。

<+αはなんでしょう?>