僕は小森敦之。21歳、大学生だ。 冬休みで退屈だし、金欠でもある為、バイトをすることにした。 そのバイトとは臨床実験。場所は長野の白樺湖にひっそりと設立された小さな研究所である薬を服用することに なった。 ある薬――、それは透明人間になる薬だった。 僕が透明人間になる薬を飲むと透明になっていく。 少しずつ自分の体が薄くなっていく。 自称若い頃モテモテだった博士は満足そうに頷いた。 「よし、君は影が薄い人間じゃな」 しょうもないことをぬかしているがこの博士こそが透明人間になる薬を作ったのだ。恐るべし頭脳である。 「さて、君は透明人間となるが服を着たままでは実験結果の確認にならん。脱いでもらおうか」 「はっ、はい」 男色趣味かもしれない怪しい博士だ。透明じゃなかったら絶対脱がないところだ。だが、透明人間なので僕は服を、 ――待てよ? もし透明になる薬の効果が切れたら全裸で博士の前に登場するかもしれない。 うわっ・・・ヤダな、猛烈に。 でも見られても減るもんじゃないからいいか・・・ ――待てよ?(その2) 効果が切れなかったらどうするんだろう。 雨の中、透明人間の僕が歩道を歩く。普段なら車の運転手は水溜りを考慮して歩行者が居れば減速するものだが、 相手が透明人間の場合は運転手もその存在にも気づくまい。僕は運転手の配慮を受けずにモロに泥水を顔から被るの ではないか? 車にひかれることだってあり得る。いくら透明人間だと言っても物理的な打撃を避けられる訳ではない。 それに、憧れの御坂道大3年のミス・御坂道こと小山千早さん。彼女とはよくエレベーターで一緒になったりす るが、僕が透明人間になって、エレベーターに二人で乗ったらどうなるか。千早さんが透明人間である僕に気づくこ となく「1人だから思い切ってしちゃえ」とばかりオナラでもしたら・・・。 耐えられないっ。ああ、眩暈がする。どうして透明人間になんてなったんだろう。 博士は千早さんのオナラを阻止する薬こそ作るべきだ! ああっ・・・、いつの間にか僕は気を失っていた。 目が覚めると病院のベッドの上だった。そこは博士の親友が院長をやっているという名古屋の病院だった。僕は丸1日気を 失っていたそうだ。 目覚めて最初に自分の手を確認すると肌色の手が見えて薬の効果が切れたことを知った僕は心底ほっとした。 安堵する僕に博士が顔を覗き込む。僕はきっと顔をしかめたに違いない。どうもこの顔は好色爺としか思えないし、苦手だ。 「気がついたか。良かった良かった」 「あの、僕は・・・?」 「あの薬はどうも人体の鉄分不足を招く副作用があったようでな、もう一度透明人間になる為の研究を見直そうと思う」 「そうですか」 「夏にでも試作できると思うから。また是非協力してくれ」 博士は手を差し伸べる。 「はい」 と僕は握手を交わしたが、もう二度と博士の臨床実験に協力しようとは思わなかった。 僕は愛車のホンダ・インサイトで東名自動車道を走って帰ってきた。かなり渋滞だったが無事に帰って来られた。 まだ頭がクラクラする。もう透明人間なんてこりごりだ。東名人間の方がよっぽどいい。そう思った。 END |
|
|
制作年月日:2004/01/02 制作者:テール 注意:フィクション(ダジャレ付) |
|
[←前] / [次→] / [ぶんしょう一覧] / [TOP] / [2004年の新作はこの程度ですか・・・] |