TE−RA
〜寺とYシャツとマハラジャ・・・?〜




 すっかり秋めいてきた。
 少しずつ紅味にお化粧をする風景[けしき]。
 しかし、新しい時代の秋の到来は旧世紀に私が思い描いていたほどに感慨深いもの
でもなく、私はお昼過ぎに古びた寺に向かった。
 一歩一歩あるくごとに砂利の音がする。この音もゴツゴツした感触も私にとって好
きなものの一つだ。
 多趣味と言われる私だが趣味のひとつにお寺巡りがある。荘厳さ、慎ましやかさ、
そこはかとなく漂う歴史。お寺は静かな方がいい。自分を見つめ直す意味でも私にと
って重要だ。
 今年で大学3年生になった私は、就職活動に向けての勉強、またゼミなどに追われ
る日々だが、この古寺に来ては心を休ませている。
「おい、雨が降ってきたみたいだぞ」
 声の主は三坂洸[みさか みつる]。かれこれ付き合って2年と1ヶ月と2日と3時間
になる。そろそろ四捨五入して4時間かしら。彼とは同じ学部で他学科。
 雨に彩られた古寺はとても趣がある。黒くなった木材がまるで雨によって溶けてしま
いそうだ。
 などと思っていられたのも今のうちで雨はやがて本降りになった。
 私と洸は寺院の中に駆け込んだ。
 寺には私達を除いて誰も居なかった。
「やれやれびしょびしょだ」
「そうね。今日は降らないって天気予報で言ってたのに」
と、私はついついぶーたれてしまった。
「瑠宇音・・・服脱げば?」
 瑠宇音とは私、真原瑠宇音[まはら るうね]のことだ。名字がマハラなせいか、子供
の頃はマハラジャとよく呼ばれた私だ。決してそんな柄じゃないのに。今日の服装だっ
てインド系ではない。白を基調に胸ポケットにワンポイントで淡いピンクの花が存在す
るYシャツに白いカーディガンを羽織り、下はブラウンのパンツ。シックにまとめてい
る。ネクタイも着けてる。こちらの色はワインレッド。もちろん、どこかの誰かと違い、
100円ショップで買う様な真似はしていない。
 それはそうと洸の発言は問題ありだ。私は憤慨して言った。
「服脱げ、ですって?このセクハラ彼氏ィ!」
 洸は目を丸くした。
「おいおい〜。よりによってセクハラって・・・。風邪引くだろう!?」
「馬鹿ァ。風邪を引いても風邪薬は保険証をお医者さんに出して薬局に行って、で初診
でもせいぜい1500円程度でしょ。でも脱いだら?私がヌード写真集を出したらいくらに
なるかわからないのよ。もしかしたら10億ぐらい稼げるかもしれない」
 こう見えても私は自分の容姿には自信があった。ちなみに単位はドルのつもりだ。ど
んな時でも私は強気で居たい。
 しかし洸は私の意見を聞き流したのか
「ひょっとして一人で脱ぐと思って恥ずかしがってるの?大丈夫だよ。俺も脱ぐし」
といそいそと濡れた服を脱ぎ始めた。
「キャア!脱ぐなァ!」
 ドン、と私は洸を突き飛ばした。私はそんなに力のある方ではないが、体勢が浮き気
味で虚をつかれた私の彼氏(セクハラ彼氏)は壁に当たった。頭をちょっとぶつけたよ
うだ。
「アイタタタ・・・」
 洸は頭をさすりこっちににじり寄ってきた。
「あのなあ、俺達恋人だろ?」
 困ったような笑顔を浮かべる洸。ああ、やっぱり洸は可愛い。・・・おっとと、私は
ここで見惚れている場合ではない。彼(セクハラ彼)の教育は厳しく厳しく。
「恋人なのは私も認めるわ。例え法廷でも異議は挟まない。だけどね、洸。私はあなた
をセクハラ彼氏としてはその存在を認めていないの?ね、わかって?」
「訳わからん・・・」
「それは貴方がまだ子供だからよ」
「同い年だろーがぁ〜!」
 洸の頬が少し膨らんだ。
 ああ、やっぱり洸は可愛い。私はやっぱり洸が好き。ティラミスよりホンダのフィッ
トよりこのお寺より、そして高校時代の美しくキラメく思い出よりも。
 私は顔が真っ赤になるのを感じながら少しモジモジしながら言った。
「洸。・・・愛してるよ」
「は?」
 彼は虚をつかれた表情だった。洸の彼女としてはもっと喜んだ反応を見せてもらいた
いところだが、この反応の方が今は好都合。私は照れながらも彼に抱き着いた。
 彼はキョトンとしたままだった。

          (完)

制作年月日:2001/09/22
制作者:テール
コメント:今後シリーズ化の可能性も?

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