研究展示室 Gallery トリアエズ同人誌オイテマス TOP / 大槻心理科學總研 / 過去 DIARY / 研究 LAB. / 展示 GALLERY / 対面診察室 BBS / 接続負荷実験室 LINK ANOTHER ONE 『Fの記憶』 シナリオ:大槻
オデッセウス刊、PC-Angel誌上にて連載させていただいていたコラム『北の国から』より第20話。
『シュレーディンガーの猫』の後日譚ともいうべきモノ。
せっかくなので(というか、HPのテキストなんて読んでくれる人はそんなにいないと思うので・笑)
原稿納入時のテキスト指定形式で。
こんなカンジで編集さんにテキスト(とレイアウト指定)を送ると、
向こうでいい感じにページをあげてくれるのです。
よかったら、読んでみてね。
タイトル 北の国から 大見出し Fの記憶 本文1(18*14) 「しずちゃんは、孤独だったのよ」 ――事が終わると彼女はお腹が空いた といってサイドボードに手を伸ばし、コ ンビニの袋から奇跡のように大きなジャ ムパンを取り出した。 次にビン詰めのオリーブの実。 彼女はそれをジャムパンに載せ、嬉し そうにモフモフと食べ始めた。まったく、 こういう時にものが食べられるのは女の 子だけだとボクは思う。 それともそれはボクが――ひいては男 が?――幼稚でロマンチストに過ぎるだ けなのだろうか。 本文2(18*44) ボクは小さくため息をついて、彼女の 言葉を胸で反芻した。 ――しずかちゃんが、孤独? 「どういう意味?」彼女が勧めるパン を手で断りながら(オリーブ載せのジャ ムパンなんて喰えるもんか。特に身体を 重ねた後になんて)聞くと、彼女はさら にコンビニの袋から『黒ゴマ入り低脂肪 乳』を取り出してコクコクとそれを飲ん だ。黒ゴマ。やれやれだ。まったく最近 のコンビニは世界のすべてをでも売るつ もりらしい。そして彼女が答える。 「そのまんま」 ボクは少しばかりイライラする。 「だから――」 「だから彼女はとても不幸だったの。 人生に、孤独である事ほど残酷な事があ る?風邪で学校を休んだあくる日、みん なの話題についていけるかどうかこっそ り悩んだ事はない?それが恐怖だったこ とは?孤独であることが。それが死を思 わせるものだったことが。 死は大人より子供の方がよく考えるも のなのよ。子供にとっては日々の問題1 つが人生そのものだから。わかる?子供 たちに逃げる場所はないの。彼、彼女達 にとっては日常そのものが…逃げられな い、逃げる事さえ思いつかない『凡て』 なのよ。 教室で失禁してしまう。友達とケンカ をしてしまう、母親の大事にしていた指 輪をなくしてしまう。 そこから死を想起する。 なにより、孤独は子供に死を考えさせ る――そうは思わない?」 「…思うよ」 甘酸っぱい郷愁を交えて心からそう思 う。言われてみれば…確かにボクも、あ の頃は孤独をなにより恐れている子供の ひとりだったような気がする。ひとりで いる事。それはボクの自慢だったマンガ 本文3(18*44) のコレクションでも、ラジコンの飛行機 でさえも癒せぬ確かな恐怖だった。 ひとりでいる時、何か失敗した時、ボ クはこのまま死ぬのではないか。誰に顧 みられる事もなく、誰かに愛される事も なく、世界から千切り獲られ、ただ1人 消えるのではないか。 無意識の胎内の意識だったかもしれな い。でもボクは子供らしいリアルさをも ってそれを…確かに感じていたような気 がする。 だからそれら――様々なおもちゃ―― を友達に貸し与え、時に奪われるという シチュエーションを提供する事でボクは …子供時代の『彼』は、孤独を振り払っ てきた。誤魔化そうとしたのだ。本当は、 彼の方が友達に多くを与えられながら。 「見ていて…気がつかなかった?彼女 は孤独だったの。可愛くて頭が良くて優 しい子なのに?いいえ、だからよ。可愛 くて頭が良くて優しい女の子が同じ女子 に好かれると思う?嫉まれる事の方が多 いとは思わない?例えば彼女が…女の子 と遊んでいるのを見たことがある?」 「あ――」 コロンブスの卵だ。 彼女が同性の子と遊んでいるのをボク はほとんど―― 「確かに…見たことが…ない?」 「でしょ。女の子はある意味で『八方 美人』を嫌うわ。…彼女は独りだった。 小学生くらいの女の子にとって、同性 の友達はなにより重要な『世界』である はずなのに」 そこまで話して彼女は再び『黒ゴマ入 り低脂肪乳』をのむ。彼女の細い喉元が ゆっくりと動くのを見つめながら、ボク は過去へと思いを馳せる。 本文4(18*54) ボクも入れて男3人の中に…何故かい つも自然に収まっていた紅一点のキャラ クター。 いつも彼女は彼らといた。そう、いつ も。不自然なほどいつも。 確かに野球をしている時などはいなか ったかもしれない。でも、ここぞという 要所要所では必ず行動を共にしてきた。 冒険に巻き込まれる時だって、いつも。 「彼女…孤立してたのか…?」 それは全てに整合のつく不思議な事実 だった。不自然なほど自然に、いつも彼 らと一緒にいた彼女。そして彼女の周囲 の人間の存在感の希薄さ。 ボクらはそれをずっと見逃してきたの だろう。多分、彼女だって必死に隠して きたのだろう。孤独である事を。 ボクと――同じように。 「なにも驚く事じゃないじゃない。あ なただって…それに兄さんだって」 「え?」 ボクは再び驚く。孤独だったのはボク や彼女だけじゃないのか?まさか…あの ガキ大将そのものだった彼に限って。 「そんな…まさか」  驚くボクに、彼女が微笑む。 「野球の助っ人で呼ばれる時以外はい つもあなた達しか遊び相手はいなかった わ。結局、チカラでつながる友達は限界 があるでしょ?体良く避けられていただ け。あの空き地であなた達と遊んでいる 時だけが兄のガキ大将の時間だった。 …家ではいつも寂しそうにしてたわ」 「彼…が?」 足元がグラグラ揺れるようだった。あ の頼もしかったガキ大将が…いや、ガキ 大将だったハズの彼が…彼もまた…。 驚きに呆けるボクを心配してか、彼女 が話題を戻す。 「とにかく、今はみんな幸せなんだか らそれでいいじゃない。今日だってしず ちゃん、彼と幸せそうで…」 どうだか。ボクは心の中でそう思う。 アイツが彼女を幸せになんてできるの だろうか?はッ、アイツは――がいない となんにも出来な―― 「!?」 本文5(18*18) ハッと気がつく。 ――ボクは今なにを思ったのだろう? 誰の事を――思い出しそうになったの だろう?そもそもさっきだって何故『冒 険』などという事を考えたのだろう?冒 険?…そんな大げさな単語で表現するよ うな事をボクらはしただろうか?それら の殆どをボクは…ボクらは忘れている。 「さて、私は仕事しなきゃ。次の〆切、 少し早めだから…」 ボクの親友の妹、婚約者、同時に大人 気マンガ家“クリスチーネ剛田”である 彼女はそう言ってボクの額にキスをし、 そしてそっとベッドから出ていった。 ボクは独り残され、自分の過去との対 話を続ける。 本文6(18*18) 思い出した。そうだ。ボクらは放課後 みんなで集まり、他愛も無い空想を語り 合うような子供たちだった。ボクらは… いじめられっ子だった。傷をなめ、身体 を寄せ合うはみ出し倶楽部の仲間だった。 そんな中、アイツの…のび太の空想が よくボクらの心を捕らえて離さなかった のを覚えている。未来の世界のロボット。 「ド…ドラ…何て言ったかなぁ…」 時々夜、夢から醒めたばかりの現実と 夢、現在と過去の狭間で全てを思い出す ときがある。恐竜や、宇宙や、海賊や魔 法。そんな『冒険』を思い出す事がある。 ――何時しか、ボクは少し泣きながら 眠りに就いていた。
そういえば、しずかちゃんって……女友達いないなあ。
そんなワンアイディアから思い浮かんだ話。
スネ夫とジャイ子という、他にはないであろう珍しいカップリングのお話です(笑)。
童話の裏の残酷な真実。




BACK