北の国から
第25話
カンサツニッキ
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COLMN
『禁断のペット』
大槻涼樹
オデッセウス刊、PC-Angel誌上にて連載させていただいていたコラム『北の国から』より第25話。
ドリームキャスト版、『シーマン』を下敷きとしたノンフィクション(?)です。
当時、相棒のヨシザワがシーマンを買って(飼って?)いて、
となりで見ていたのがそもそものアイディアの核、
自分自身ははそもそもソフトを持ってなかったり(笑)。
HP掲載にあたって、
改行等を心もち読みやすいように改編しています。
ただしテキスト自体には手をいれていません。
タイトル
北の国から
大見出し
禁断のペット
本文1(18*20)
△月13日(一日目)
話題のソフト、『パーMAN』を購入。
早速卵と餌のケースから卵を取りだし水槽に入れ、
ヒーターをつけ環境を整え準備OK。
孵化が楽しみだ。
△月14日(ニ日目)
パーMANが見事孵化。
どうやら稚魚らしく、
オタマジャクシがヘルメットをかぶったようなヘンな姿をしている。
水槽を指でつつくと寄ってくる。
可愛いような気もするが…微妙に不気味だ。
△月15日(三日目)
水槽を見るとビックリ、
パーMANが少し大きくなっていた。
既に頭に小さな手足が生えたような、
異常に頭のデカい人間のような形態になっている。
話しかけてみると、
小さな声で
『パワッチ』
と鳴く。
まだ言葉はよくわからないらしい。
本文2(18*44)
△月16日(四日目)
パワッチパワッチと1日中うるさい。
△月17日(五日目)
結局孵化したのは総勢4匹。
水槽の中でのんきに泳いでいる。
面倒臭いので端からメットの色が青いのを1号、
黄色を2号、
赤を3号、
緑を4号と名付ける。
△月18日(六日目)
パーMANがずいぶんと大きくなっている。
相変わらずヘンなカタチのヘルメットをかぶっていて、
マントとフンドシのみを身につけた筋骨隆々としたカラダをしている。
マッチョだ。
ただし2号は異様に手が長い上に毛深く、
3号はしなやかなカラダと胸に2つの養分袋。
4号はデブ。
…っていうかよく見ると3号はメスだ。
△月19日(七日目)
言葉もずいぶんと話すようになってきた。
ちゃんと個体差があるらしく、
1号と3号は標準語を使うのに対し、
デブの4号は関西弁を操る。
口癖は
『1号はん、パーMANの義務を忘れたらあきまへんで』
の模様。
気になるのが2号。
何故か言葉を覚えない。
この日もしゃべったのは
『ウキッ、ウキー』
のみ。
言語野の発育不全?
育て方を間違えたのか?
不安だ。
△月20日(八日目)
1号と3号は仲が悪いらしく、
よく喧嘩をする。
2号が大喜びでそれをキーキーとはやし立てる。
結局喧嘩を止めるのはボクか4号の役目だが、
それでも2匹はいがみ合いを止めない。
困ったものだ。
△月21日(九日目)
今日も1号と3号が喧嘩。
3号は最後には泣き出してしまい、
それを2号と4号が慰める。
1号は少し後悔している素振りを見せていたが、
最後には意地が勝ったのか水槽の端へと行ってしまった。
本文3(18*43)
△月22日(十日目)
昨日の1号と3号の喧嘩で、
4匹の何らかの均衡が崩れてしまったらしい。
『1号はん、
悪いがワイは3号はんにつくで。
いわばこの水槽内の4人は運命共同体や。
しかしあんさんはその共同体の平和を…己が欲望で乱した。
パーMANとしてそれを見過ごすことはできん』
『キー、ウキー、ウキキッ』
そう言って4号と2号は3号の傍へと去っていった。
この展開には、
逆に1号と3号の方が困惑しているようだ。
△月23日(十一日目)
今日も1号は孤立し、
多くの時間をぼんやりと過ごしている。
感情を持つ生物は、
如何なるものも孤独下では生きられない。
そもそも独り生きる事ができる生命に感情は不要なのだ。
パーMANに自殺はあるのだろうか?
心配なので、
できるだけ1号をかまってあげる事にする。
△月24日(十二日目)
今日も1号は孤立。
そして孤独でこそないが、3号もまた元気がない。
2号と4号が半ばかしずくようにして3号を世話しているが、
その効果もない。
ゲームとはいえ、
生物の育成は難しいものだ。
△月25日(十三日目)
「…元気かい1号?」
『元気元気って、
元気じゃなかったらなんて応えればいいんだい?
“いえ、死にまーす”とか?
そう言や満足かい?』
受け答えは相変わらずだが、
日増しに1号が弱ってゆく。
なんとかしてやりたいが、
2号と4号…特に4号は頑なに1号との和解を拒んでいる。
3号はそんな2匹に囲まれ、弱っている。
そして1号は…とうとうエサも食べなくなった。
△月26日(十四日目)
『ボクは多分、3号の事が好きだったんだよ。
本文4(18*54)
だから…つい意識して喧嘩ばかりしちゃったんだな。
はは、小学生並だね。
気がついても…もう手遅れだけど』
少し頬ポリゴンのこけ始めた1号の口から、
そんな意外な言葉が飛び出した。
「そうか…」
ボクがマイクに向かいその続きをしゃべろうとした時…モニタの隅に3号たちが現れた。
『そうだったの1号…?』
『3号!?…いや、その…』
『答えて1号、本当に…私…の事…』
『…ああ、そうだよ。ボクはキミの事が…好きだったんだ』
『…嬉しい』
「!?」『え!?』『ウキ!?』『ムゥ!?』
驚くボクと1号。そして2号と4号。
『私も…私も気がついたの。
私…貴方のことが好きだったんだって…ゴメンナサイ2号、4号。
私…1号と仲直りしたいの…』
『ワ、ワイらは…3号はんがそれでええなら…な、2号?』『ウキ、キー!』
…突然の展開により4匹は仲直りをする事になった。
よかったよかった。
△月27日(十五日目)
“雨降って地固まる”とはよく言ったものだ。
欠けた間を埋めるように、
1号と3号の仲が接近してゆく。
逆に立場が無いのは2号と4号である。
急接近している2匹を見守るその表情は複雑な様だ。
△月28日(十六日目)
1号と3号は今日も仲がいい。
放っておくと岩場の上で仲睦まじく談笑している。
反面、2号と4号の様子がおかしい。
2匹は水槽の隅から、
たわわに揺れる3号の胸を凝視したまま動かない。
時々4号が
『ワシらやない…悪いのはワシらやなくてあのスケや。
あれだけようしてやったのに裏切りくさって…』
などと呟いている。
…イヤな予感がする。
△月29日(十七日目)
悲劇は起こった。
泣き叫ぶ3号。それを察知し救出に向かう1号。
が、2匹に攻撃され敵う筈もない。
敢え無く倒れる1号。
そしてその動けぬ1号を眼下に見おろし、
4号が醜悪に笑う。
『1号はん。
独り占めっちゅーのはちと、ムシがええとは思いまへんか?
ええとこ取りは嫌われますのやで。
ちぃとワシらもご相伴させてもらわんとなぁ?2号はん』
『ウキャッ、ウキャーッ!!』
本文5(18*28)
『やめろ、頼む!やめてくれ!!』
『ほな、ゴチになりまっさ』『ウキ』
思考する事を停止したように、
抵抗さえしなくなり表情を殺した3号を、
2号と4号がかわるがわる犯してゆく。
モニタから溢れ出る絶望と悪意にボクは気分が悪くなり、
マシンの電源を切った。
△月29日(十八日目)
気が進まないながらもマシンに灯を入れる。
データのローディングが始まり…モニタに映ったのは、
五体をバラバラにされ死んでいる2号と4号。
そして冷たくなった3号をその胸に掻き抱きながら泣きつづける1号の姿だった。
『3号は…ボクに“ごめんね”って言ったよ。
謝るのは…謝るのは無力なボクの方なのに…』
1号はそう言って泣きつづけた。
ボクは彼にかけるべき言葉もなく、ただ、黙っていた。
彼は結局、1匹になったのだ。
□月3日(二十二日目)
――あれから四日余が経過した。
彼は三日三晩日間泣きつづけ、
そしてその翌朝忽然と水槽から姿を消した。
後に3つの墓標と(2つは水槽の奥に、1つは日当たりのいい岩場にあった)
そし
本文6(18*28)
て小さな置手紙を残し。
『自分を進化させる旅に出ます。
自分の罪をあがない、自分を赦すために。
今まで育ててくれてありがとう。
また、どこかで』
ボクは誰も反応しないマイクデバイスに向かってそれに応えた。
「そうだね。また、どこかで」
○月2日(経過日不明)
今日もボクは会社へと向かう電車に乗る。
流されるように人の波に揺られていると時々、
自分が何処かのプレイヤーに覗かれたパーMANであるような気分になる。
だがボクの人生を見守るプレイヤーは、
ボクに話しかけてはくれない。
神様ってのは案外、
マイクを無くした無力な観察者でしかないのかもしれない。
そんな事を考えボーっとしていたせいだろう。
電車を降り、
改札を抜けた時に誰かと肩がぶつかってしまった。
「あっ、すいませ…」
『パワッチ』
小さく、そう、聞こえた。
「…えっ!?」
振りかえった時、
ボクは人ごみの彼方に消え行く青いヘルメットを見た――ような気がした。
了
終盤のくだりはオオツキの個人的な神様観です。
また、オオツキは強姦やアンハッピーエンドをひどく苦手としているので、
そういう意味ではとても異色なお話。
自分としては、連載中でも1〜2を争うくらい
好きなテキスト。