2001年
奄美ぐうたら紀(奇?)行 pt.4

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'01/ 8/ 3 実久にて。唄者、ヒロおじさん。
撮影者:quickone

 さて、ぐうたら紀(奇?)行もついにpart4。
 ようやく本題に入ります。
 長い長い前置きにお付き合いいただき、まことにもって恐縮です。
 これより先は、いよいよ以って傍若無人にええ加減なことばかり並べ立てて行きますので、
 どうか皆様も、読みはじめる前にビールの二、三杯も飲んで、
 焼酎の二、三合もあけて、適当なあたりで読みはじめて下さい。
 なお、pt.3から登場のヒロヒト(推定26歳・お嫁さん募集中)は、
 織田裕二をこんがり焼いて、ありったけの甘みを添加し、
 足を短くすると出来上がります。
 実久に行けば、必ず会えます。
 おひとついかがですか?
 ちなみに、私もお嫁さん募集中です。ヒロヒトよりもかなり草臥れてますが。
 今ならおためしキャンペーン中です。
 おひとついかがでしょうか?

  とにかく、うようよしてる。  
'01/ 8/ 2
たくさん泳ぐ、こいつらはナンでしょう?
撮影者:quickone


 暑さで、目が覚める。夜の間に雨が降って、テントのフライシートを閉めていたもんだから、蒸し暑くて堪らん。あわてて外に出ると、もう八時を回っている。前夜の晩飯の残り物で朝食を済ませると、あっちこっちにメールを出しまくる。さて、それが終わると、もうする事がない。
 いや、実際は、郵便局止めで送っていた荷物の受領やら、買い出しやら、着替えの整理やら、ちょっとひと泳ぎやら、釣り餌のヤドカリ集めなどいくらでもする事はあるのだが、暑くてなんにもやりたくないのだ。
 とりあえず、生物的な摂取を行ったので、排泄を行う事にする。それが済んだら、一気に文化的なシャワーという奴の世話になろう。
 で、とりあえず立てた予定をすべて消化し、やはりする事がないので、昼飯の支度をはじめることにする。
 なに、ダイエットだぁ?うるせー、アウトドアは体力勝負なんじゃ。しっかり食って、しっかり出す。これがすべての基本なのだ。
 能書きを垂れつつ、まずは東京から持参した無洗米をうるかす(炊きはじめる前に、お米を水に浸けておく事)。待ってる間にテントから三味線を引っ張り出して、また練習である。なんてったってオレは、「努力・忍耐・根性ほど美しいものは、世の中にない!」という信念の持ち主だからな(<嘘もたいがいにせぇ)。

  一匹だったら、可愛いんだけどね。  
'01/ 8/ 2
ハリセンボン(奄美の方言では、アバス)
撮影者:quickone

 やはり進歩がないのぉ、とか思いながらそれでもしつこく(だって、たっぷりうるかさないと、おいしいご飯が食べられないモンね)弾き続けていると、マナブのかあちゃんがやって来て、
「三味線の上手なおじいちゃんを紹介してあげる」という。
 飯前に呼びに来なくてもいいじゃねぇか、がるるる、と半ば飢えた狼に変身しつつも、三味線を持ってホイホイとついて行く。
 はてさてどんな奥地まで連れて行かれるんだろうと思う間もなく、「はい、こちらのおうち」。
「東京から来た若い(ホっホっホ、若いだってよ)方で、三味線がお好きで…」型通りの紹介が済むと、「おじいさんは、目がご不自由だから(NHKみてぇな言い方だな)…」とだけ言い残してマナブのかあちゃんは去って行く。あらま、どうしましょ、天気の挨拶ってのも芸がないし、と思ったら、
「ひとつ弾いてみて下さらんか」と来た。望むところよ、いざ、参るぞと「行きゅんにゃ加那」。あら、間違えちった。ありり、また間違えちった。しどろもどろで弾き通すと、
おじいさん「うんうん、なかなかお上手ですな。習いはじめてどれくらいですかな」
オレ「二ヶ月ほどです」
おじいさん「三味線三年と言いましてな、まぁ、三年は努力をせんといけません。私は今年で八四になりますが、十二の頃に習いはじめました。どちらで習っておいでかな」
オレ「東京で、笠利出身の森田照史さんに教わってます」
おじいさん「そうですか、ひとりの先生について、きちんと習わなければなりません。そうですか、笠利の方ですか、そうでしょう、今、あなたが弾いたのは、カサンの弾き方です。奄美の民謡は、シマ唄と言って、集落ごとに同じ唄でも違う唄い方をします。特に北と南は大きく違います。ちょっと三味線を貸していただけますか?」

  持っているのは、オレの三味線です。  
'01/ 8/ 3
ヒロおじさんに弾いてもらいました
撮影者:quickone

 それから約一時間、「もう私は声が出ないので唄う事はしません」てぇ事でいっさい唄はなかったんだが、次から次へといろんな唄を弾いてくれる。オレが人並みの記憶力の持ち主ならば、これを聴いた、あれを聴いたとひけらかす事が出来るんだが、日頃の三味線教室でも明らかな通り、オレの記憶力は金魚並み(金魚にとっては、金魚鉢の一周一周が新たな体験だそうだ)である。四週間弱が経過した今となっては、憶えているのは、とにかく腹が減って困った事だけだ。
 ぐぅぐぅと鳴り出した腹も身のうち、放っておけばまだまだ弾き続けそうなおじいさんに「また来ます」と言って、慌てて引き上げる。
 だって、あのまま黙って聴き続けたら、オレはおじいさんに噛み付きかねなかったからな。
 だから、飯前に呼ぶなって言っただろ。
 飯を食い終えて、ようやく人間に戻り、再びてんてろてんつくやっていると、実久の区長(加計呂麻では集落毎に区長がいる)がやってきて、
区長 「それは奄美の三味線だね」
オレ 「はい」
区長 「ゆうべもずいぶん遅くまでやってたね」
オレ 「うるさかったっすか?」
区長 「いやいや、気にせずおやんなさい。どれくらいやってるのかね?」
オレ 「二ヶ月くらいです」
区長 「どうして奄美の三味線を習おうと思ったのかね?」
オレ 「えー、まぁ、成り行きで…」
区長 「どこで習っているのかね?」
オレ 「東京です。笠利出身の森田照史さんに教わってます」
区長 「森田…、知らんな。しかし、笠利の唄じゃろうな、今、あんたがやっとった『行きゅんにゃ』と『よいすら』を合わせたような唄は…。ここらではヒギャ唄と言って、北大島とはちがう唄をするからな」
オレ 「今のは、『よいすら』のつもりだったんですけど…」
区長 「…三味線三年と言いましてな、まぁ、三年は努力をせんといかん。頑張ってやって下さい」
 区長は、去っていった。
 うーむ、二曲合体か。まるっきり違う唄として聴かれなかっただけましか…。

 かなりダメージを受けて、投げやりになりつつさらに練習を続けていると、路線バスが帰ってくる。実久は、加計呂麻の北の端の集落なので、路線バスの始発点になっているのだ。
 ひと往復終えた運ちゃんが降りてくる。過去、オレは実久では'98春・夏、'00春・夏、'01春と今回で計六回、合わせて十六泊ほどキャンプしている(笑いたいヤツは笑え、オレはオマエをもっと大きく笑ってやる)。起きてる間は、たいてい休憩所兼バス停を勝手に根城にしているのだが、この運ちゃんとは、オハヨウゴザイマス以外に言葉を交わした記憶がない。それが、三味線を見て、ニコニコしながらこっちへ来る。
運ちゃん 「やぁ、やってるね」
 オレ 「どーも」
運ちゃん 「春も来てたでしょ」
 オレ 「はぁ」
運ちゃん 「三味線、どこで習ってるの?」
 オレ 「東京で、笠利出身の森田照史さんに教わってます」
運ちゃん 「ああ、森田さんは、瀬戸内町のお祭りに来た事あったね。カサン唄の人だね。奄美の民謡は、シマ唄と言って、集落ごとに同じ唄でも違う歌い方をするんです。たとえば、ここと薩川(山を越えた隣の集落)や芝(海沿いの隣の集落)は違う唄い方をするんですね」
 オレ 「ふむふむ」
運ちゃん 「ところが、この(大島海峡の)向こう側の西古見とは、同じ唄い方をするんですよ」
 オレ 「へー」
運ちゃん 「いま、ここらでは、武下和平先生の武下流をみんな習ってますね。私も週に一回、行ってます。区長も、昔は通ってました。古仁屋には師範の人が二人いて、その一人が、RIKKIのCDで三味線を弾いたひとですよ」
 オレ 「へぇー」
運ちゃん 「東京にも武下流の教室があるよ。私のイトコが世話人をやってる」
 オレ 「いま、一緒に習ってる人が、武下教室に通ってたそうです。初心者は教えてくれないので、辞めたと言ってました」
運ちゃん 「東京には、講師がおらんのかな?アナタは、どれくらい習ってるの?」
 オレ 「二ヶ月くらいですね」
運ちゃん 「その三味線は、いい音がするね。どこで買ったの?」
 オレ 「森田さんに、名瀬の三味線屋さんに注文してもらいました」
運ちゃん 「ちょっと見せてもらっていい?いくらしたの」
 オレ 「ケース付きで五万円でした。森田さんは、ボクを通さんで買ったら、七、八万はするって言ってましたけど」
運ちゃん 「うーん、それくらいはしそうだねぇ。ところで、どうして奄美の三味線を習おうと思ったの?」
 オレ 「えー、まぁ、成り行きで…」
運ちゃん 「今、アナタがやった『行きゅんにゃ』は…」
 オレ 「今のは、『よいすら』のつもりだったんですけど…」
運ちゃん 「…三味線三年と言いまして、まぁ、三年は努力する必要があります。頑張ってやって下さい」
 運ちゃんも、去って行った。

 二連発は、結構ダメージが大きいなぁ。きちんとワンツーになってるし。
 がっくり来たオレは、三味線をケースにしまうと、郵便局に局留めの荷物を受け取りに行く事にした。





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