2003年奄美二日酔い紀行:3

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フェリー加計呂麻を彩る絵

 4/30(水)


 ふと気がついてみると、ここ数年、キャンプで早起きが出来なくなった。ひと昔前は、それこそ夜明けと同時に起き出して実久の集落内を散歩し、畑の作物をゴチになりに来たイノシシとご対面し、始発のバスを見送りながら朝のコーヒーと洒落込んだりもしたものだが、最近は起きたらバスがいない、あるいは帰ってきたのをお出迎え、というテイタラクだ。
 自己弁護を試みるならば、日頃のデスクワークからいきなり小排気量のバイクで片道800kmを三日とちょっとで走っているのだから、疲れないほうがどうかしている。また、キャンプ暮らしなどというのは日常性から思いっきり遠いところにあるわけで、そんなことをしながら朝寝ができるというのは、むしろ人間として図太くなったともいえる。
 遊ぶ時間が減ってもったいないなぁ、とか思いながらそれでも朝寝を決め込む、というアホタレに、誰かつける薬があったら紹介してほしいと思う今日この頃ではある。

 そんなワケで、この日は夜明け前に雨の音で一度は目覚めるものの、「天気には勝てん」だの「まずは旅の疲れをとるべし」だの言って、二度寝の心地良さに身を任せてしまうオレであった。
 やはりというか当然というか、そういうぐーたら者に天罰が降りかかるのは自明の理というやつで、前夜、酔っ払って出しっぱなしにしていたランタンがずぶ濡れとなってホヤをひとつダメにしてしまった。たくさん持ってきてるから、まぁいいけど。
 そうして朝寝を楽しんでいると、始発のバスが帰ってくる。ふ〜ん、そろそろ起きるか、まるまるキャンプ遊びができるのは今回はきょう一日だけだし。と、思って寝袋を抜け出そうとすると、「♪考えが甘〜い♪」とばかりにモノ凄い雨が降ってくる。薄いナイロンのテントの布に当たる雨の音は、ちょっとした和太鼓の演奏会みたいだ。仕方なしに読みさしの池波正太郎「男の作法」を手に取り、ぱらぱらと拾い読みする。<鮨屋に行ったときはシャリだなんて言わないで、普通に「ゴハン」と言えばいいんですよ>。なるほどね、いいこと言うなあ。最近は少し静かになったけど、グルメなんとかの連中とはエライ違いだよな。とか感心していると、いきなり大音量が轟く。
 ♪でえごぉの花が咲ぁきぃ、風うぉ呼ぉび嵐が来ぃたぁ〜♪
 イントロ当てクイズをするまでもない。ブームだ。
 オレとブームが、所謂一方的交戦状態に入ってからすでに一年弱の歳月が流れているが、まさかこんなところまで追いかけてくるとは、と半ば敵の執念に呆れながらテントを出てみると、バス停兼休憩所の横に軽自動車が一台、停まっている。軽自動車の横腹には、古仁屋のフェリー乗り場の前にあるスーパーの名前がぺたんと描いてある。
 土砂降りの雨の中を休憩所に走りこもうとすると、またもや「♪でえごぉの花が咲ぁきぃ〜♪」。どうやらエンドレス・テープで流しているらしい。そうか、敵はまたしても近代兵器で攻撃しようという腹か。こちらの手にあるのは開発時期という点では火縄銃よりも古い三味線が一本だけだし、だいいちこの雨ではテントから持ち出そうという気にもなれない。腕組をして雨と、軽自動車を睨んでいると、またまた「♪でえごぉの花が咲ぁきぃ〜♪」。
 おのれブームめ、宮沢和史め、とは思うのだが、いささか腹も減ってきた。戦争と空腹に関する格言や言い伝えは数多くあるが、オレがいちばん気になるのが、「戦闘状態の兵士は、一日5食は食べないと身が持たない」というモノである。生きるか死ぬか、という土壇場で大メシ食らうというのも見様によっては笑えるが、とにかく緊張が続くと腹が減るのだそうだ。しかし、こんなことが一般常識として知られるようになったら、国会議員のセンセイあたりが「じゃあ一発戦争やれば、備蓄米が減るのね」とか言い出しそうなので、なるべくそういうことは内緒にしといた方がいいだろう。
 まぁ、戦争はともかく、時計も8時を回ったので、朝飯の支度をはじめることにした。

 ちょうど雨も小降りになってきたので、風を避けられるところを探してガス・バーナーを置き、米を炊く準備をはじめる。ごそごそやっていると、こちらも雨の勢いが弱まったのを見て安心したか、軽自動車からあんちゃんが二人で降りてきて、デカい段ボール箱を大量に休憩所に運び込みはじめた。もちろん、「♪でえごぉの花が咲ぁきぃ〜♪」の連続攻撃はそのままだ。
 ナニをするのか、とちらちら見ていると、段ボール箱を次から次へとあけて並べはじめる。出てきたのは、生鮮食品と冷凍食品以外のいろんな食料品、お菓子、雑貨、帽子や靴下、スリッパ…。そうか、スーパーの移動販売だったわけか。お、卵もある。
 米を炊きはじめてちょっと空いた時間を利用して、買い物をすることにした。買ったのは、乾燥アオサ、理研のわかめスープ。昨日、古仁屋のAコープで地域限定商品のアオサスープ三食入りを買ったのだが、オレ自身とマナブが使って、もう一食分しか残っていない。いいタイミングで来てくれたものだ。もしかしたら、ブームが好きな人に悪い人はいないのかもしれない。でも、もう十回以上繰り返してるんだから、そろそろ他のにしてくんないかなぁ。と思っていてもやっぱり「♪でえごぉの花が咲ぁきぃ〜♪」だ。オレを泣かす気か、おい。

 あんちゃん(奄美の方言では、ねせんきゃだったかな?)たちも雨でお客がほとんど来なくてヒマそーなので、朝飯の支度を続けながら話し掛けてみると、去年の冬から加計呂麻での移動販売をはじめたらしい。スケジュールは、2週間に一度だそうだ。たった三日間のキャンプ中に遭遇するとは、オレも運がいいのか悪いのか。
 そして、ほとんど雨がやんだ頃、移動販売のねせんきゃたちは、「♪でえごぉの花が咲ぁきぃ〜♪」と鳴らしながら次の販売先へと移動していった。

 雨はやんだものの依然として天気はそれほどすぐれず、結局この日は、ビールを買いに行ってヒロアキと立ち話をした程度で終わってしまったのだ。
 そういうワケで、今回は写真もナニもなくおしまい。




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