名柄からの峠越えは、ちいさな半島の根元を横断する形になります。名柄を後にした直後から道幅が狭くなった('96年頃の記憶です。あちこちで拡幅工事をしていましたから、今では片側二車線の区間もずいぶん増えていると思います)事もあるのでしょうが、ここまでの海岸沿いから一気に内陸に入った感覚で、常緑樹の濃い緑色が視界を埋めつくします。
真夏でもひんやりとするトンネルをくぐり、いくつものコーナーを抜け、最後の下り坂に差し掛かると、木々の緑の向こうに海、そしてさらにその向こうに横たわる島が見えてきます。奄美大島が持ついくつもの貌のひとつ、大島海峡です。
下りきった先の久慈集落のT字路を右に向かえば、管鈍を経て西古見、曽津高崎の灯台、あるいは稜線を越えて屋鈍に至りますが、こちらのコースは別の機会に譲ります。私の記憶は古すぎて('95〜'96年頃)、現状にはまったくそぐわなくなっているためです。ですから、ここでは左に曲がり、古仁屋を目指しましょう。
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'95/ 8/ 2 管鈍から、加計呂麻島の実久を眺める。 撮影者:quickone |
先ほど通過した宇検から名柄に至る焼内湾沿いの道も、対岸を目指して延々と湾沿いを進む単調な道でしたが、久慈から深浦にかけても正直言ってかなりいい勝負です。焼内湾岸が白い砂浜をアクセントにして、旅行者には鮮烈とさえ言えそうな明るさであるのに対して、大島海峡沿いのこのあたりの海岸は、赤土の海岸や防潮堤がそのまま海岸線を形成して、少々暗めのイメージがあります。
ただし、こちらは焼内湾沿いと較べて小さな湾の奥部に短い間隔で集落が点在し、静かな内湾には養殖筏が浮かんで、より濃密に生活の臭いをさせています。タイミングがよければ、2tほどの連絡船から買い物帰りの女性や、自転車を押した中学生が降りてくるのに出くわすかもしれません。どうやら大島海峡沿いの道をエンジン付きの乗り物でぺたぺたと走っていくのは、このあたりでは歴史の浅い文化のようです。
好きで走っているとは言え、尻の痛みや肩凝り、なにより空腹にいささか気持ちの萎えかけた私は、「あれに乗って、潮風をうけてぼんやり海を眺めたら気持ちいいだろうな」と羨ましく思ってしまいます。
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'95/ 8/?? 西古見から曽津高崎を眺める、 と記憶していますが、 あやふやなんだよなあ。 撮影者:quickone |
深浦の手前に、白浜への分岐があります。白浜も美しい砂浜の海水浴場で、ロード・マップによっては「キャンプ場」のマーク入りで紹介されています。しかし、こちらにはシャワーやトイレもなく('94年当時。今はあるそうです)、近所の人以外にはほとんど海水浴場としては認知すらされていないようです。キャンプ場を求めて入り込んだ私は、砂浜以外にはテントを設営できるスペースすら見つけられずに、むなしくUターンしました。
しかし、県道からの分岐の直後に現われる、海沿いの雑木林の中の道はたいへん心地よく、そのうちに、この雑木林だけを愉しみにまた行ってみたいと考えています。
白浜への分岐を過ぎると、県道は海岸線にしばしの別れを告げて、アップダウンの激しい山道になります。この六年間、いつ通ってもどこかしらで道路の拡張工事をしています。いかにも崩れやすそうな赤土の崖を削って道幅を拡げ、剥き出しの崖に防護ネットを張ったりコンクリートで固める補強工事をしています。道路の幅が広い部分は舗装も新しく、適度なRを描いたコーナーではついアクセルを開けてしまいたくなりますが、なるべく自制を心掛けましょう。突然、道幅が狭くなり、舗装が古くなり、路面が荒れ、ブラインド・カーブの向こうからダンプやバスや犬が現れます。
そう、犬が出てくる事もあるんですよ。と言うのは、道路の拡幅工事は集落と集落をつなぐ部分を先に、集落内を後回しにしているからなんです。
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'95/ 8/ 1 灯台から遠望する古仁屋。 撮影者:quickone |
奄美を含む南西諸島の特徴として、平地が少ないというのも大きな要素ですが、水田農業に適さない土壌が多いらしく、いわゆる田んぼというのはほとんど見られません。ほとんどの集落は海に面して、海岸伝いに広がっています。とくに大島海峡の両岸は波がほとんどないこともあって、人家は波打ち際から細い道路を一本、隔てたきりで建てられています。そこのところに道路を拡げようとしても家を移すか、海を埋め立てるしかありません。通りすがりの旅行者にとっては、のどかだなあ、という程度の感想なんですが、住んでる人たちにとってはどうなんでしょう。
小名瀬、阿鉄、油井とちいさな集落が続き、なおも進むと右手におもちゃみたいな灯台が現われます。ちょっと休憩と思ってバイクを止めると、入り江の向こうに古仁屋の街が見えます。
古仁屋は、瀬戸内町の主邑で、奄美では名瀬に次ぐ大きな町です。鹿児島と喜界島・沖永良部島を結ぶ 3,000t のカー・フェリー「きかい」が毎週三回寄港(「あまみ」も下り便だけが寄航します)するほか、対岸の加計呂麻島と結ぶ 200t の町営フェリー「かけろま」や、加計呂麻島のさらに先に位置する小さな島、与呂島、請島への連絡船「せとなみ」の発着港でもあり、さらには大島海峡のあちこちを結ぶ連絡船・海上タクシーのターミナルでもあります。
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'94/ 5/ 1 灯台の横をちょっと覗くと…。 はじめて見る人にはちょっと 刺激が強すぎるような気がします。 撮影者:quickone |
古仁屋の街に入るところに信号があります。ここまでのルートでは、pt.2 の湯湾以来(工事現場の交互通行用は除きます)の信号機ですから、疲労と空腹で放心状態のライダー(私のことです、はい)は、現実に引き戻されたかのような気持ちを味わいます。ココナラ、食イ物ニ、アリツケルゾ。
腹ペコライダーにとって期待通り、いや、期待以上の充実ぶりで古仁屋の街は応えてくれます。ハングリーな若者用、量より質のベテラン用、女性用、カップル用、ダイエット中なら喫茶店、あくまでもワイルドに決めたい方にはお弁当屋さんと、まさによりどりみどりです。また、「Aコープ」をはじめとしてスーパーも数軒(規模や品揃えなど、さまざま)あり、いいキャンプ場さえ見つかれば、買出しにはもってこいの街です。
あれ、お金がない。そんな時には、先ほどの信号を真っ直ぐ進めば、古仁屋郵便局と南日本銀行が国道58号を挟んで向かい合っています。刃物、じゃなかったキャッシュ・カードの用意はいいですか?
ガソリン・スタンドは2軒というか、本店と、少し離れたところに給油機が一台だけの支店があります。
緊急事態の方には、信号を右に曲がった加計呂麻フェリーの発着所と「Aコープ」の建物にトイレがあります。
銭湯が一軒、コイン・ランドリーが二軒、土産物屋、へき地診療所、歯科医院、町立図書館、警察署に海上保安署、海上自衛隊と、いざという時は頼りになりそうな施設が揃っています。
ただし、これだけはご注意ください。日曜日の古仁屋は、半分以上の商店がお休みです。また、平日は午後7時頃にはスーパーなど、ほとんどの商店が閉店します。コンビニもありません。また、祖霊を大切に守る琉球文化圏に属しますから、お盆(8月15日を中心とする旧盆)の時期は経済活動はほぼ完全に停止します。街の賑わいに安心していると、痛い目に合うこともありますから、注意してくださいね。
お腹が一杯になったら、先に進みましょう。町じゅうどこでも、お土産物屋さんに入れば、瀬戸内町の観光マップがもらえます。これは北部の笠利や龍郷でも同じでしょうが、朝早く通り過ぎてしまったので、帰りに貰うことにしましょう。
観光マップによれば、この先にヤドリ浜というキャンプ場があるようです。昭文社のツーリングマップルは、古仁屋の少し先で切れてしまっているので、気づかない人も多いはずです。まだキャンプ地を決めていない方は、行ってみましょう(下のNEXTをクリックしてください)。