「摩擦風」と言う言葉は、一般には使用されて居ませんが、ここでは、地表摩擦の影響を受ける層の中で吹く風を「摩擦風」と呼ぶことにします。日本学術振興会の発行している「文部省 学術用語集 気象学編」には、「摩擦層:friction layer」はありますが、「摩擦風:まさつふう」は記載されていませんし、気象学のテキストでも見たことはありません。
しかし、天気現象を考える上でこの摩擦層の風が大変に重要な役割を果たしている事と、私たち人間がこの摩擦層の中で通常の生活をしていることを考えると、摩擦層の中で吹いている風は、もっと多くの関心を持つべき風であるし、それならば、「摩擦風」と言う言葉が気象学の中で通常に使われてもおかしくは無いと私は思います。
これまで述べてきたように、風を引き起こしている原動力は気圧の水平的な傾き(高低差)による気圧傾度力です。その他、風を考える上で考えるべき力としてコリオリ力、遠心力について、これまでに述べてきました。
しかし、摩擦層の中で吹く風にとっては、摩擦力が大事な力となってきます。地表付近では、地面の摩擦によって風速を押さえるように、速度に対して反対方向の力が働きます。
ここで、「摩擦風」の定義をしておきましょう。気圧傾度力と、コリオリ力及び摩擦力の3つの力がバランスして吹いている風を「摩擦風:まさつふう」と言うことにします。
直感的にと言うのがいやなら、地衡風バランスが取られていた風に、地面からの摩擦のために、引きずられる場合を考えてみましょう。
地衡風バランスが取れていたときは、気圧傾度力と釣り合うコリオリ力が働いていましたが、摩擦により後ろに引っ張られて速度が落ちます。速度が落ちると、コリオリ力は小さくなって気圧傾度力に負けるようになり、気圧の高い方から低い方に働く力の成分が出てきます。この力によって空気が高気圧側から低気圧側に流れます。
地上天気図で等圧線と風向のなす角度は、気象庁予報部が1976年に出した「天気予報指針(実用編)」には、「・・陸上では、35度、海上では、20度・・」を目安にするよう書かれています。
高気圧側が膨れた等圧線が引かれている場合に高気圧性の等圧線と言います。また、高気圧性の曲率を持った等圧線とも言えます。高気圧性の等圧線が引かれる所の摩擦風は、風下に行くにつれ広がって行く風になります。風が広がりながら吹く場合、少し厳密性に欠けますが「風は発散」していると言います。(厳密には、これは、単に方向が発散しているだけで、風速が風下ほど弱まってない事を確認するか、正しく平面の風から発散計算をする必要が有ります)
地上で風が発散しているところでは、下降気流が起こって居ることが推定できます。
但し、発散があるから下降気流があるのか、下降気流があるから発散があるのかは、これだけからは分かりません。
低気圧性の等圧線が引かれる所の摩擦風は、集まってくる風になります。風が集まりながら吹く場合、「風は収束」 していると言います。
地上で風が収束しているところでは、上昇気流が起こって居ることが推定できます。
但し、収束があるから上昇気流があるのか、上昇気流があるから収束があるのかは、これだけからは分かりません。
実際の天気図を見て摩擦風が等圧線をどのくらいの角度で横切って吹いているか見てみましょう。下図は2005年
12月25日日本時間21時の天気図で、高度は120m前後です。この高度の天気図は、地上に近く摩擦の影響を
考慮した風と気圧の関係を示しています。
参考のため、この同じ時の5500m付近の高度の天気図を見てください。等高線にほぼ平行に風が吹いており、地衡風に近い風が吹いている所が多いことを示しています。
上図に示されている「等圧線」は、本当は、「等高線」と言い、「その気圧になるのは海抜何mか」*を示した値です。これがほぼ地上の天気図の等圧線に相当することは直ぐ次の節で説明致します。