2 風は気圧差で起きる

<気圧の差が空気を押して風は起こる>

いわゆるお天気の変化は、上昇気流や下降気流が左右していることを初めに述べましたが、この上昇・下降気流がどのようにして起こるかを知るためには、熱の分布や風の分布に付いて知る必要があります。 初めに、ここでは、なぜ風が吹くか、どのように吹くかについて考えるための準備を簡単にお話していきたいと思います。

一般に、物は力を受けるとどのように変化するでしょう? 動き出す? そうです。動き出します。

では、力と速度の関係は? 大きい力の方が速く動いて、小さい力だと速度が遅い? んーっと。これが、実は違うのです。

一見、正しいと思うかも知れません。例えば車を運転する人は分かるでしょうが、アクセルを深く踏めば速度が上がり、アクセルを緩めると速度が落ちます。アクセルを深く踏むことはエンジンの回転を通じて車を強く押していることになります。 実際の生活の中では、物を動かす時必ず摩擦が邪魔をして、速度を落とすように働きます。この摩擦は速度が大きくなると大きくなり、その摩擦に対抗してもっと速く速度を出すには大きな力が必要になります。その為、あたかも力と速度が比例しているような生活体験を多く持つことになります。

しかし、摩擦が無ければ、力は速度に比例するのではなく、“速度をどのくらいの割で速めるか”、すなわち加速度に比例しています。 力と加速度の関係を正確に調査し、その法則を正しく示したのがNewton(1642−1727)です。

「力」と「速度」に馴れて頂くために、すこし脱線話をしましょう。

初めに力の単位1N(ニュートン)を実感して貰いたいと思います。もちろん、この単位の名前は、あの大学者のニュートンの名にちなんで付けられたものです。1リットルの水の入ったペットボトルを手に持ってみてください。この重さが約10Nです。1Nはその10分の1の大きさの力です。

速度は気象学では、普通m/秒で示します。生活になじみのある速度の単位は時速60Km等、1時間に進む距離で現すことが多いですが、これを1秒間に進む距離(m単位)に変換することが出来ます。野球で言えば、先日横浜のマーク・クルーン選手が161Kmの日本新記録を出しました。これは正確には毎時161Kmと、毎時を付けるべきなのですが、「毎時」を省略していることも多いようです。これを秒速に直すと、161000m/3600秒=44.7m/秒となります。台風などの場合には、「瞬間風速50m」等と言うことも耳にします。この場合には、日本最速ピッチャーのボールの速度より早い速度で空気が流れていることになります。この場合も、もちろん、本当は「瞬間風速毎秒50m」と”毎秒”を付ける方が良いのですが。

念のため「瞬間風速毎秒50m」は、「瞬間風速50m毎秒」と「毎秒」をmの後に持ってくる言い方もあります。

話を本線に戻しましょう。Newtonによると速度が時間的に大きくなっていく割合(加速度)はその物に与えられる力に比例し、その物の質量に反比例します。同じ物に掛ける力を倍にすると、倍の速さで速度が速くなり、同じ力で倍の質量の物を押すと、半分の速さで速度が速くなります。

「倍の速さで速度が速くなる」と言うのは分かりにくいかも知れません。具体的に数字を上げると、少しは分かりやすくなるでしょうか。例えば、1Kgの物に1N(ニュートン)の力を掛け続けると、1秒間に1m/秒ずつ速度が上がっていきます。このときの加速度は1m/秒/秒と言います。もし1Kgの物に2Nの力を掛け続けると、1秒間に2m/秒ずつ速度が上がっていき、このときの加速度は2m/秒/秒となります。

「半分の速さで速度が速くなる」と言うのもわかりにくかも知れません。1Kgの物に1N(ニュートン)の力を掛け続けると、1秒間に1m/秒ずつ速度が上がっていきますが、2Kgの物に1Nの力を掛け続けると、1秒間に0.5m/秒ずつ速度が上がっていき、このときの加速度は0.5m/秒/秒となります。2秒後に初めて1m/秒の速度を得ることが出来ます。

重力の加速度と言うのを聞かれたことがありますでしょうか。その値は、9.8m/秒/秒(9.8m毎秒毎秒と読みます)です。これは地球の引力で、物が下向きに力を受け、真空中におけば1秒ごとに9.8m/秒ずつ速度を上げながら落ちていく加速度の事を言います。2秒後には19.6m/秒、3秒後には29.4m/秒の速度になっています。時速に直せば、1秒後35.3Km/時間、2秒後70.6Km/時間、そして3秒後は105.8Km/時間になっています。

大きさ、重さに関係なく同じ加速度で落ちていきますので、「重力の加速度は9.8m/秒/秒」と言うことができます。なぜ重い物も軽い物も同じ加速度になるのでしょう。それは、地球による引力はその物の質量(厳密に質量のことを言うとかえってややこしくなりますので、1Kgの重さの物を質量が1Kgと考えてください)に比例しているから「倍の”重さ”の物には倍の力が働くため、どんな物も同じ加速度になります。

スカイダイビングで落ちて(降りて?)いる人たちは、どれくらいの速度で落ちているのでしょうか。時速100Kmよりは小さいのではないでしょうか。それは空気抵抗を上手く使っているからです。落ちる速度が上がると抵抗も大きくなり、ある速度で下向きに働く地球の引力と反対向きに働く空気抵抗が釣り合い、基本的には等速落下(体の向きを変えるなどで、抵抗の方向を真上に向かう方向からずらせることによって、落下方向を制御している)しています。

雨粒も大きさによって、一定の速度で等速落下しています。大きいほど速く落下していまして、雷雨等の大粒の雨では、8m/sくらいになると、昔習った様に記憶しています。雲粒や小さい雨粒は非常に落下速度が遅く、弱い上昇気流で持ち上げられてしまうでしょう。

もしも力が働かなかったら、物はじっとしているでしょうか。何かの力が働いて動き出し、次第に速度を増していた物体に、急に力が働かなくなったら、その物体は止まるでしょうか。Newtonの教えによれば、力が働いて無い物体は速度の変化(=加速度)が無い、といえます。すなわち、今までに得ている速度をずっと持ち続ける事になります。 速度は速さと方向を持った量ですが、向きが変わったり、速さが変わったりすると速度は変化していることになります。力が全く働いていないか、あるいはいくつかの力が働いていても釣り合いが取られている場合、物体は向きも速さも一定の状態をとり続けますので等速直線運動をすることになります。

さて、空気もモノですから、力を受けると加速します。空気が受ける力は、下向きに引力を受けます。また、その空気の上下の空気の気圧差によって上向きに力を受けており、普通、この二つの力がよく釣り合っているため上下には動きません。

水平方向に気圧差があれば、水平方向に力を受けて加速されます。例えば、並の冬型の気圧配置で、等圧線が縦縞になったような時は、4hPa(ヘクトパスカル)毎に引かれた等圧線の間隔が400Km位になります。

ここでまた、圧力の単位パスカルが急に出てきましたので、圧力の単位パスカル(Pa)に付いて、話をしておきましょう。

気圧の傾きによって空気が力を受けると言いましたが、実は空気のような気体に対しては、一点に集中して力を与えるわけに行かないので、面全体に力を掛けることになります。具体的には、1平方mに1N(ニュートン)の力が働くような場合に1パスカルと言います。1hPaはその100倍の圧力になります。1平方mの重さの無い板に、10リットルの水を乗せた場合に板全体で受ける圧力が1hPaになります。1気圧はその1000倍以上です。

さて、話を本線に戻して、4hPa等圧線の間隔が400Km離れている場合の気圧傾度力は、4×100パスカル/400Km=4×100パスカル/400000mです。400Kmにわたって気圧の坂がだらだらと続いている状態を頭に浮かべてください。

この坂の1m分だけ取り出すと、0.001[パスカル/m]=0.001[N/m2/m]=0.001[ニュートン/m3]となります。0.001ニュートンの力は水0.1cc=0.1g(グラム)の重さにほぼ等しい力です。ここでm2は平方m、m3は立方mの意味です。

等圧線が南北に縦縞で、400Km西の方が4hPa高くなっている場合には、1立方mの立方体の空気に0.001ニュートンの力が1平方mの壁を通じて西から東に押していることになります。

1立方メートルの空気の質量は地上よりちょっと高いところで、1Kgになり、地上では1Kgより少し大きいですが、約1Kgです。1Kgの空気に0.001ニュートンの力がかかり続けると、1秒ごとに風速は0.001m/秒ずつ速くなって行きますので、止まっていた空気は10000秒(10800秒が3時間)で10m/sの風速になります。この気圧の場では、止まっていた空気は動き出して、約3時間経つと50Km付近まで進み約10m/秒の風速になっています。

それでは、時間が経つと風は無限大に大きくなっていくのでしょうか。そうはならないのは、実際には摩擦も風を止める働きをしますが、もっと他に風速を制御するメカニズムがあります。

それは地球が回転していることによって、与えられるコリオリ力(転向力)というモノが働くからです。実際の風を知るためには、このコリオリ力に付いて知る必要があります。


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