小説「まもって守護月天!」(知教空天楊明推参!)


「えー、それでは二十二番目について・・・」
「白楊さん!」
疑問があるのか、シャオが呼びかける。と、白楊はそんな彼女の事が分かる様に答えた。
「先ほどの戦いについて疑問なのでしょう?
これは以前も言いました。あくまでもこの洞窟は取り戻すものの名称であると。」
「・・・そうでしたね。」
シャオが言いたかったのは、何故に知の洞窟で戦いをしなければ成らなかったかという事である。
それについては、確かに白楊が以前皆に説明したとおりのものが答えであった。
「で、二十二番目ですが、治療をしてもらいます。
あちらに傷ついた動物・・・が一頭います。それを治療してください。以上です。」
少し口篭もりながらも白楊は姿を消した。
ここで、先ほど納得したシャオはすぐさま行動に出た。
「来々、長沙!」
そう、治療を行うのなら長沙を呼ぶ事は当然の行為。
うんうんと皆は頷きながら、シャオと長沙と共に動物の元へ向かったのだった。ところが・・・
「・・・ねえ、これって麒麟?」
ルーアンがいぶかしげに指差したその動物は麒麟。
アフリカに居たりするキリンではない、伝説上の動物の事である。
なるほど、たしかにあちらこちらに様々な傷を負っていた。
しかしそんな事はお構いなしに、シャオは長沙と共にそれに近付いた。
「頼みましたよ、長沙。」
こくっと頷くと、長沙はぴんっ、と麒麟の体に飛び降りた。
周りで見ていた面々は“あっ!”という顔をしたものの、特に麒麟は何も反応していない。
おとなしく長沙が駆けずり回るのを見守っているだけである。
「・・・いきなり本人に飛び乗ってよく平気だよな。」
「麒麟というのは非常に賢い動物でありますが、その反面怒らせると恐いんです。
どうやら長沙さんは麒麟に気に入られていたようですね。」
太助の呟きに、出雲は知識を交えながら解説を入れる。
それはその通りであり、麒麟の笑顔を見ていれば、長沙が気に入られたと言わざるを得ないだろう。
シャオが真剣な顔で、他の面々は驚きの顔でそのまま見守っているうちに、
長沙の腕が素晴らしいのか麒麟の回復能力が凄いのか、十数分の後に傷は全て完治した様である。
そしてまったく問題なかった様に白楊が姿を現した。いささか拍子抜けした顔でもある。
「やっぱり星神さんの力は偉大なのですねえ・・・。それでは次へ案内致します。」
すっかり回復して一礼した麒麟を残して、シャオ達は白楊に続く。
部屋の去り際に、わずかながらな麒麟からの祝福を受けたのだった。

次の部屋へ来た時、皆は唖然とした。
そこはいつもの洞窟の部屋とは段違いに広く、天井も相当高いものであった。
天然の巨大ドーム、といったところだろうか。
「えー、それでは二十三番目について説明致しましょう。
ここの地面に何かが描かれています。それがなんなのかを判別してください。以上です。」
いわば地上絵だという事を暗に告げながら白楊は姿を消した。
早速それぞれが散らばって床を見てまわるのだったが・・・。
「全然わかんないなあ・・・。」
「まっくろまっくろ〜。」
「楊ちゃん、それは壁でしょ。」
「おっ!十円発見!・・・って、目の錯覚かあ。」
「ゆかりん、何探してんのよ・・・。」
と、さっぱりの様相を見せる花織達。
「ルーアン、なんか見えるか?」
「なーんにも。・・・ってたー様、何であたしに聞くのよ。」
「そうだぞ太助。おぼれるものは藁をも掴むって言うが、これは酷すぎる。」
「そこまで言うなんておねー様も酷い・・・。」
「試練だ・・・。」
「なんですってキリュウ!?」
と、これまたさっぱりな太助、ルーアン、那奈、キリュウ。
「ぐぬぬぬぬぬ・・・。」
「何やってるんですか野村君。」
「ぐぬぬぬぬぬ・・・。」
「たかし君の事だから気合だとかなんかじゃないかなあ?」
「なるほど。無駄な努力ですね。」
「ぐぬぬぬ・・・なんだって!?出雲、やってみなくちゃわかんないだろうが!!」
「やってみるだけ無駄だという事が分かりますよ。」
「うんうん。」
「ぐっ、乎一郎まで・・・。」
と、更にさっぱりな状態であるたかし、出雲、乎一郎。
「翔子さん、地上絵を見るには空を飛べばいいんじゃないでしょうか?」
「けどシャオ、相当な高さまで上がらないと見え無さそうだぜ。
かなりな視力が必要になってくると思うんだ。多分、空に上がるだけじゃあ見えない。」
「うーん・・・。」
少しだけ順調な案を出し合っている翔子とシャオ。
確かにただ空を飛んで見えるのならすぐクリア可能である。
しかし、おそらくそう簡単に見えるような地上絵ではないであろう。
「そうだ!来々、天高!」
咄嗟に閃いたシャオが支天輪から天高を呼び出す。
高貴な雰囲気を醸し出している鳥が、シャオの腕に止まった。
「天高?」
「そうです。空高くから偵察するのが役目であるのが天高なんです。
天高、さっそくこの地上絵を解読してちょうだい。」
こくりと頷くと、天高は羽をばさっとはばたかせて天井へ向かって飛んで行った。
当然ながらその様子は皆にも目に見えた。
“さすが”と手を打ったり感心したりしながら天高を見守っている。
数分後、高くまで舞い上がった天高がシャオの元へと戻って来た。
その報告をシャオが素早く聞き取る。
「なるほど・・・。」
「シャオ、なんだって?」
「楊明さんの肖像画、の様です。ただし、眼鏡と帽子をつけていない状態の。」
「へええ・・・。」
「後、“とっても可愛い楊明ちゃんをヨロシクね♪”という文字も。」
「なんだそりゃ・・・。」
なるほどと感心した後に、翔子はかなりの呆れ顔になった。
他の皆もそんな感じ。特に花織達の視線はかなりきつくなっている。
「どうしたの、花織お姉ちゃん。」
「ううん、なんでもない・・・。」
すぐさま隣にいる小さなヨウメイに何かを言ってやりたかった花織であったが我慢した。
もっとも、こらえていたのは皆も同じではあったが。
“ご苦労様”と、シャオが天高を支天輪に戻した所で、白楊がすっと姿を現した。
「見事見られた様ですね。あんまりきにしないでくださいね、ただの茶目っ気ですから。
あと、普通に空に上がるだけでは見られないという所に気付いたのはさすがでした。」
「やはり天高じゃないと?」
「いえ、人間の目では見られない、という事なんです。とにかく次の部屋へ案内しますね。」
にこにことしながら、そして少し照れ笑いを浮かべながら白楊は次なる扉を開いた。
つかつかと、皆はヨウメイの肖像を足で踏みながら移動する。
もっとも、不思議な事にそれは部屋を出る際に消えてしまったようだが。

「それでは二十四番目について説明致しましょう。ここから先は私はずっと一緒にいます。」
これを含めると、残りは後二つ。いよいよ終わりが近付いて来た証拠であった。
「私がこれから出題する計算を素早く行って答えてください。
二十四問連続です。それぞれ制限時間は五秒ですからね。以上です。」
要は計算、いや、素早い暗算を行えという事なのだろう。
もっとも、それを行うのは一人であろう。と、分かり切った様にそれぞれ一人を残して一歩下がった。
「では出雲さん。」
「へ?・・・あっ!ちょっと皆さん、何後ずさりしてるんですか!!」
白楊に呼びかけられた事により、周りを見回して抗議する出雲。
しかし、それに返されたのは以下の言葉だった。
「こんな面倒が出来るのっておにーさんくらいのもんだろ。」
「宮内、ここが正念場だ。年長者として頑張れ。」
「すまないが俺の熱き魂では太刀打ちできなくてな・・・。」
「出雲さんがやらなくて誰がやるっていうんですか!」
「普段からのナンパ師の本領を発揮するチャンスだぞ。」
「試練だ、計算されよ。」
「応援してます、出雲さん。」
全員ではなかったが、勝手に口々にいわれたそれらに、出雲はしぶしぶながらも頷いた。
そして、皆が真剣な目で見守る中、白楊が口を開く。
「それではいきますよ・・・1+1は?」
「・・・・・・。」
一瞬時が止まった。が、危うく五秒過ぎようというところで出雲は口を開く。
「2です!」
「正解。では2+2は?」
「・・・4です!」
またも時が止まりかける。
問題を聞いていた面々は心の中でかなり呆れていた。
「なんだ、全然面倒じゃ無いじゃん。これなら俺が行っても・・・。」
「もう遅いですよ、野村先輩。それにしてもこんな簡単だったらあたしでも出来たなあ。」
少しばかりの愚痴がこぼれる。
そんな事はお構いなしに、出題と解答は続けられていた。
「4+4は?」
「8です!」
「8+8は?」
「16です!」
「16+16は?」
「32です!」
「32+32は?」
「64です!」
「64+64は?」
「128です!」
「128+128は?」
「256です!」
とうとう三桁同士の足し算になった。
しかし出雲は動じることなくすらすらと答えて行く。
「すごいですねえ、出雲さん。」
「三桁の足し算程度で驚いててどうするんだよシャオ・・・。」
素直に感心しているシャオに太助が少し突っ込む。
そんなやりとりはもちろんお構いなし。出題解答が続く。
「256+256は?」
「512です!」
「512+512は?」
「えと、1024です!」
「1024+1024は?」
「2048です!」
「2048+2048は?」
「4096です!」
「4096+4096は?」
「えと、8192です!」
「8192+8192は?」
「えと、16384!です!」
十四個目の出題にして、とうとう五桁の計算に。
それに近付くにつれて出雲も少し戸惑うようになり始めた。
しかし、しっかりと一秒以内には答えを返しているところはさすがである。
「16384+16384は?」
「・・・32768です!」
「32768+32768は?」
「・・・65536です!」
「65536+65536は?」
「えと・・・131072!」
「131072+131072は?」
「う・・・262144!」
だんだんと辛くなってきたようだ。
すぐさま出題する白楊に答えを返すまでの時間がだんだん長くなってきている。
「うわ・・・。退いて正解だったよ。」
「それより宮内が倒れたら一体誰が挑戦するんだ?あたしには無理だぞ。」
「俺にも無理だな・・・。」
「野村君に誰も期待して無いから安心なさいな。」
「ルーアン先生、それはあんまりですよぉ・・・。」
「うんうん、ルーアン先生の言う通り。」
「花織ちゃんまで・・・。」
「え?野村先輩挑戦するんですか?」
「・・・いや、無理。」
「だったらおとなしく黙っててください。」
「はい・・・。」
複雑さを増す計算に皆はだんだんたじろいできた。
とにかく出雲に全てを託す、そんな雰囲気が生まれつつある。
「262144+262144は?」
「524・・・288!」
「524288+524288は?」
「ぐっ・・・104・・・8576!」
「1048576+1048576は?」
「うぐぐぐ・・・209・・・7・・・152!」
「2097152+2097152は?」
「・・・・・・。41・・・9・・・4・・・304!!」
「4194304+4194304は?」
「ふう、ふう。えーと・・・8388608!」
「8388608は2の何乗ですか?」
「えと・・・え!?」
最後の最後で突然問題が変わった。
一種の計算ではあるが、当然その難しさは足し算の比ではない。
まともに計算すれば確実に五秒程度では解けない。
「えっと・・・全部で二十四回の計算で、二十三回目にそれを言って最初は1+1。
・・・23乗です!!」
「お見事!!冷静に考えましたねえ。」
笑顔で拍手する白楊に、出雲はへなへなとそこに座りこんだ。
事実冷静に考えてはいたのだが、とにかく相当に疲れた様である。
「それでは次の扉を開きましょう。」
いよいよ次が最後である。しかし、計算の後遺症が残っているのか、皆の目は虚ろであった。
途中から計算について訳が分からなかった事、そして出雲が見事冷静に答えた事。
様々な事象が交錯しあい、精神がかなり参った様である。

「それではいよいよ最後、二十五番目について説明致しましょう。
ここでは私の質問に答えてもらいます。参加者は全員です。
いくつかの質問の答えによって、私がこの先へ通すか否かを判定致します。以上です。」
再びやって来た質問時間。“最後の最後でこれか”とそれぞれ思いながらも、床に腰を下ろした。
ただ、ヨウメイ本人にはその質問に対する発言権は無い様である。
「それでは始めますね。まず、何故この知の洞窟へ入ろうと?」
「そんなの、楊ちゃんを元に戻す為に決まってるじゃないですか!」
怒った様に告げる花織。ゆかりんと熱美がなだめるなか、白楊は更に告げた。
「では、何故元に戻そうと?」
「このままじゃあ楊ちゃんが消えちゃうって・・・。だからです!」
「消えてしまうと何か不都合が?」
「親友が消えるなんて耐えられないでしょ!!!」
再び怒り出す花織。周りでなだめたりするゆかりん達にお構いなしに、白楊は更に続けた。
「それでは、何故に消える運命を辿ろうとしたか分かりますか?」
「それは・・・あの場合仕方なかったから。」
「どういう風に仕方なかったのですか?」
「えっと・・・。」
一人でどんどん答えつづけて途中で花織は戸惑い出す。
そんな折、それに答えたのはキリュウであった。
「あの状況ではどうあがいても無理だとわかったからだ。
だから消える代償でも同化を用いたのだ、ヨウメイ殿は」
「あの状況とは?」
「デルアスって奴との戦いの時よ。」
今度はルーアンが加わる。そんな事はもちろんお構い無しに白楊は続けた。
「どんな戦いでしたか?」
「それは・・・キリュウとあたしの混合戦でも勝てなくて・・・。」
「私の力が至らないばっかりに・・・でも、仕方無い、ですよね。」
更にシャオが加わる。最初に戦いが終わった時と比べて、
彼女の心境は幾分ましにはなっているようだ。
「それでは、何故そんな戦いが起こったのでしょう?」
「それは・・・」
「全部あたしの所為です。」
答えようとしたシャオを遮って、しゅんとうつむく花織。
「何故あなたの所為なのですか?」
「それは、あたしが統天書にあった厄介な記述を見つけた本人だから・・・。」
更に沈んだ顔になる花織を、熱美とゆかりんが懸命に慰めていた。
「では、その記述を見付けるきっかけとなったのは?」
「それは俺が、統天書に付いて知りたい、って言ったから。
それがもとで質問大会みたいになって・・・。」
と太助。確かに本当の大本はそれである。
「それでは、その“知りたい”に行きつくまで、どのような事がありましたか?」
「へ?どういうこと?」
「その質問大会が行われるまでにも、出来事なる物が有ったはずです。」
「ああ、そりゃあ色々と・・・。」
「具体的には?」
「マラソン大会だよな。その時にした俺の提案がこうして現実となった。」
胸を張って一番に答えるたかし。中国へ、という事であろう。
「ヨウメイちゃんに頼んで、ルーアン先生とデートしたり・・・。」
「ああ、そんなのもあったわねえ。」
「其の時は私と熱美さんも一緒に協力したんでしたよね。」
「そうですね。あの時の楊ちゃんのバレバレの嘘には参ったなあ・・・。」
思い返すように告げる乎一郎、ルーアン、出雲、熱美。
「熱美ちゃん、バレバレの嘘って?」
「わたしと遠藤先輩がデートしたって事。」
「?どこがバレバレなの?」
「まさかゆかりん本気にしてたんじゃ・・・。
遠藤先輩が年上好みだって事は周知の事実でしょうが!」
「えっ!?そうなんだ!!」
「・・・うう、本気にされてたのね。」
ゆかりんの真面目な反応に、熱美はがっくりとうなだれる。
それにも構わず、他の面々は更に出来事を続けた。
「後、キリュウとヨウメイの変な我慢比べとか。
いやあ、たまたま行ったら面白い事してるんだもんなあ、結構結構。」
「翔子殿・・・。他には、奇妙な魔術だな。
とはいえ、ヨウメイ殿は実行せずにそれを破り捨てたが。」
「見てみたかったな、それ。幸せ計画第二弾に使えたかもしれないのに。」
「那奈姉達がやってた事か。あれもなかなか手が込んでたよな。」
「ルーアンさんの提案したお料理は素敵でしたわ。」
「おっほっほ、どんなもんよ!」
七梨家で行われていた事が次々と思い出される。
“そんなのがあったんだ”と、首をかしげる者がたくさんいた。
「他には、あたし達でお買い物に行ったよね。」
「うんうん、あれは高収穫だった。」
「結局あれ以来行ってないんだよね〜。楊ちゃん、又今度行こうね?」
「うん?うん・・・。」
?マークでいっぱいのヨウメイに、ニコニコ顔で花織達は告げたのだった。
「そういえば漫才なんてのもやったよな。」
「たかし、あんなのは二度と提案するなよ・・・。」
「どうしてだ主殿。私は結構・・・」
「やめなさいっての!」
隣からルーアンがたしなめる。それほど恐ろしいものだったのだ。
「えーと、それでは、他に何か大きな出来事は?」
「ヨウメイ殿と共同で試練を行った。」
「ではその前は?」
「いつまでもいがみあってられないとヨウメイ殿も言ったしな。
そういう事も含めて和解した結果だ。」
「そのとばっちりを私は思う存分くらいましたがね・・・。」
其の時の事を思い出して、どーんと出雲は沈んだ顔に。
“気にするな”と、那奈は彼の背中をばしばしと叩くのであった。
「それでは、皆さんと初めて会った時の様子は?」
「それって人間、に対してって事よね?」
「はいそうです。」
念を押すルーアンに白楊はこくりと頷いた。
「えっと、俺は学校授業で、かな。」
「僕も僕も。」
「私は那奈さんに紹介されたんでしたっけ。」
「あたしと翔子は、家に帰ってきた時だ。」
「そうそう。新たにまた連れこんだのかって那奈ねぇは騒いでたけど。」
けたけたと笑い出す翔子に太助はなんだか嫌そうな顔である。
「あたし達は、花織が教室に連れて来た時だね。」
「そう。いきなり楊ちゃんなんて呼ばれて戸惑ってたよね。」
「あの時は、あたしは楊ちゃんと仲良くなって、七梨先輩ゲット計画、なんて考えてたけど・・・。
今はもうどうだっていい。楊ちゃんとはもう親友だもんね。」
改めてヨウメイを見る花織のその目はとてもやさしいものであった。
一緒になってゆかりんと熱美も彼女を見る。
ヨウメイはきょとんとしていたものの、やがてそれににっこりと返すのだった。
「私は、帰って来たらヨウメイ殿が家に居た。」
「あんたは別にいいってのに・・・。ま、ついでに言うとあたしもそんな感じね。
リビングにやってきたらヨウメイが居たんで“やったー!!”ってね。
けど、全然授業がさぼれ無いのよねえ。ヨウメイが生徒になんかなるから・・・。」
「おいルーアン・・・。」
“教師のくせに授業をさぼろうなんて、教師失格だぞ”と、心の中でたしなめながら、太助は口を開いた。
「ある日家に小包が届いてて、その本は親父曰くさっぱり読めない代物だった。
ただ、中身自体を心清いものだけが見られる、なんて俺は思ってた。
それが甘かったんだよな・・・。」
「心清い者なら、統天書、と読めるという事だったんですよね。」
「そう、シャオが空天書、って読んで・・・それを聞いて“えっ?”となって。
後は、今まで言ってきたような事かな。」
ひととおり言いおわったようである。それこそ、太助の家に本が届いた事から・・・。
ずうっと黙って聞いていた白楊は、念入りに頷いて、そしてすっと立ち上がった。
「質問に答えていただきありがとうございました。
これは、記憶、を確かめるためのものなのです。
とにかくこれで二十五番目も終わり。最後の扉を開きましょう・・・。」
ゆっくりと、確認する様に皆を見まわす。
白楊と目が合うたびに頷いていたそれぞれだったが、やがて立ち上がると彼女の後に続くのだった。

次の部屋。そこは何もない部屋だった。ただ一つの祭壇を除いては・・・。
「この部屋で知の洞窟はおしまいです。皆さん、ここまでご苦労さまでした。」
ぺこりとお辞儀する白楊に、それぞれつられてお辞儀。
いやに丁寧なのは、ヨウメイとよく似ている。
「それでは、あの祭壇にヨウメイ本人を立たせてください。
それでこの洞窟の目的が全て果たされます。」
「つまりは、楊ちゃんの知識と記憶が全て戻るという事ですね?」
「そうです。」
「じゃあ楊ちゃん、こっちへ。」
「う?うん・・・。」
手を引っ張る花織に、多少まごついてはいたが、ヨウメイは素直にそれに付いていった。
一歩一歩踏みしめて、そして祭壇に立つ。すると・・・
ぱしぃっ!!!!
強烈な光がヨウメイと白楊を包む。
いきなりの事に皆は目を閉じたが、それは一瞬の事だった様だ。
次の瞬間には、白楊はその姿をすっかり消していた。そして祭壇には・・・
「・・・ここは?」
「楊ちゃん・・・?」
すっかり姿が元に戻ったヨウメイがそこに立っていた。
帽子と眼鏡は花織達が持っていたので身に付けてはいないが、手にはしっかり統天書を持っている。
状況が飲みこめないのか、ちかちかと目を瞬きさせているのみだった。
「花織ちゃん達・・・?」
「楊ちゃん!!」
「良かった!!」
「元に戻ったんだ!!」
一瞬の呟きだったヨウメイのそれだが、花織、ゆかりん、熱美の三人はすぐさま駆け寄った。
たった一言のそれだけで、元に戻ったという認識が出来たのである。
それを少し遠くから見ていた太助達は、ほっと胸をなでおろしていた。
「良かった、ここまで来たかいがあったよ。」
「ほんとですね、太助様。」
うんうんと皆が頷いている。
そして花織達は元に戻ったヨウメイをしきりに小突きあっていたのだった。
しかし・・・
「どうして・・・。」
「え?」
途端に悲痛な顔になったヨウメイを見て、花織達の騒ぎがぴたっと止まる。
花織が“どうしたの楊ちゃん?”と声をかけようとする前に、ヨウメイは叫んだ。
「どうして・・・どうして来たの!!」
必死な形相となるそれに、皆は一瞬たじろぐ。
そして、戸惑っている花織達を前にして、ヨウメイは両手を顔に当てて泣き出した。
いくら声をかけても止まないそれに、全員その場に立ち尽くしていたのだった・・・。

≪第二十四話≫終わり