小説「まもって守護月天!」(知教空天楊明推参!)


「それでは九つ目について説明致します。
皆さんぐっすり寝てください。以上です。」
さっと説明して彼女はさっと姿を消した。
なんとも妙な条件に皆は唖然としていたものの、
先ほどの迷路の疲れもあってか、すぐにそれぞれ横になって眠り出すのであった。
問題ありかと思われたヨウメイ自身もあっという間に眠ってしまい、特に問題なし。
疲れも取れて一石二鳥という状態で、数時間後にごく当たり前に白楊は姿を現した。
「おはようございます。」
「おはようございます〜。」
一番に目覚めていたのはシャオ。普段から早起きしている分さすがというところか。
「おや、お一人だけですね。それでは、順番に起こしていってください。
一人が一人を起こすのです。起こされた人は次の人を・・・という事で。
全員無事に起こせられれば扉が出ます。これがもうひとつの条件です。」
にこっと笑いながら、またもや白楊は姿を消した。
まぶたをこすりながらそれを見送ると、シャオはすぐさま行動にかかる。
「ふええ、そうだったんですかあ。それでは・・・太助様、起きてください。」
一番にすぐ近くで寝ていた太助を揺り起こす。
あっさり太助はそれに反応して体をゆっくりと起こした。
「ふあ、どうしたのシャオ。」
「えっと、実は・・・。」
白楊から言われた事を順順に説明。
事態を理解した太助は、ひとつ頷くとすぐさまたかしを起こしにかかった。
「おーいたかし〜。」
「・・・熱き魂の叫びがああ!!!」
「うをっ!?」
寝言で叫びながらぶんっと腕を振り上げる。
それにびっくりして尻餅をついた太助だったが、たかしは運良く目覚めた様だ。
「・・・あれ?太助?」
「起きたかたかし。えっとな、実は・・・。」
説明を受けるたかし。すぐにそれを理解して、乎一郎を起こしにかかる。
「うーん・・・ん?たかしくん?」
「おっ、起きたか乎一郎。実はな・・・。」
こんな調子で一人が起きてその一人が別の一人を起こすという作業が続けられた。
乎一郎→出雲→翔子→那奈→ルーアン→花織→ゆかりん→熱美と来て・・・。
「そういう訳だから熱美ちゃん、頑張ってね。」
「ひどいよ・・・楊ちゃんを起こす役をわたしに押し付けるなんて・・・。」
今の所、起こされずに残っているのはキリュウとヨウメイの二人。
キリュウの寝起きが悪いという事を聞いていた熱美は、ヨウメイを起こしにかかる。
しかし、そのヨウメイ自身も今の状態ではそう素直に起きてくれるとは思えないのであった。
「楊ちゃん、起きて起きて。」
「んん〜・・・んん?」
「起きた?」
「・・・うん。」
意外にも、ヨウメイはあっさりと目を覚ました。
体を起こしてうう〜んと大きく伸びをする。
「楊ちゃん、よく聞いてね。」
「うん。」
「実はね・・・。」
丁寧に説明する熱美にヨウメイはうんうんと頷く。
周りで見ていた面々はそれとは別に、今だ寝ているキリュウを見て頭を悩ませていた。
「ヨウメイでもキリュウを起こせる方法ってあるかな・・・。」
「いつもなならなんか呼んで強制的に起こすんだろうけどなあ。」
「とりあえず期待して待ちましょ。」
「そうですね・・・。」
七梨家にいる面々は朝の情事を思い出してか、少し難しい顔である。
他の皆もそんな感じで、ただヨウメイがうまく起こす事を願うのだった。
「・・・という訳なの。楊ちゃん分かった?」
「うん!じゃあ起こすね♪」
説明を聞き終えたヨウメイは、らんらんとスキップしながらキリュウに近付いて行った。
丁度其の時、ごろんと寝返りが打たれ、体がほぼうつ伏せ状態となる。
幸いにもヨウメイが傍についた時には再び深い寝息が聞こえ始めてきた状態であった。
「ふう、びっくりしたあ。」
「楊ちゃんどんな方法で起こすつもりなんだろ・・・。」
花織とゆかりんが不安げに見守る中、ヨウメイはキリュウの後ろに回りこんだ。
そして一番長い部分の髪の毛を両手でぎゅっと掴む。そして・・・
「えいっ♪」
くいっ
「うっ!!」
キリュウの顔が、頭が思いっきりのけぞる。
髪を思いっきり引っ張った事によって頭が引っ張られたのだ。
なんとそこでいきなりキリュウは目を覚ました。
首を少し後ろに向けて、自分の髪を掴んでいる犯人を見やる。
「よ、ヨウメイ殿?」
「えいっ♪」
くいっ
「うっ!!や、やめろー!」
必死に髪を押さえて抵抗するも、どうもヨウメイの独壇場であった。
くいっと何回も髪の毛を引っ張るヨウメイにキリュウもたじたじである。
「それ〜。」
「髪を持ったまま走らないでくれ〜!!だ、誰かー!!」
ヨウメイのとどまる所を知らない行為に、とうとうキリュウが悲痛な叫びを上げた。
それにより、呆然と見ていた皆は慌ててヨウメイを止めにかかる。
いきなりキリュウを起こしたという事実に多少動揺していたようだ。
「さっすがヨウメイだな。起こし方を心得てる。」
「いや、単に遊んだだけだと私は思いますが・・・。」
那奈の感心した声に出雲はげんなりした様子で返した。
もしかすると、自分がキリュウの様な目に遭っていたかもしれないのだから。
キリュウからヨウメイを必死に引き剥がしている最中に、白楊がすうっと姿を現す。
「皆さん、おはようございます。多少は休憩になったでしょう?
九番目という事で休憩を兼ねていたのです。」
共通点は“きゅう”だという事だ。
必死になっていた皆にはそんな冗談はまったく耳に届かなかった様だが・・・。
「えっと、それでは次の部屋へ案内致します。」
いつのまにか現れていた扉をぎいっと開き、白楊は皆を招くのだった。

「それでは十番目について説明致しましょう。
あそこに沢山の木材がありますね?あれを使って立派なお城を建ててください。以上です。」
にっこりと微笑んだ後に白楊は姿を消す。
問題の木材はとにかく大量につまれており、確かに城くらいは作れそうだ。
ここで咄嗟に閃いたのはシャオであった。
「来々、羽林軍!」
皆が材料に寄る前に素早く支天輪を取り出して羽林軍を呼ぶ。
「羽林軍、立派なお城を作ってちょうだい。」
四十五人の小さな大工たちは、各々手に道具を持ってこくりと頷いた。
一斉に木材へと群がって、てきぱきと作業し始める。
「・・・さすがだな、シャオ。」
「建築なら確かに羽林軍の専門だよなあ。」
翔子と那奈が感心した様に呟くのに、皆もそれぞれうんうんと頷く。
シャオはただそれににこっと笑って返し、羽林軍の作業を見守るのであった。
そして待つ事小一時間。建築の専門家達によって見事な城が出来あがる。
もちろん材料が木しかなかったので全て木で出来ているのだが、
壁、窓、瓦等々、目に見える作りはただ木で出来たとは思えないほどであった。
また、城の上にはおまけで作ったのかしゃちほこが乗っかっており、
それの鱗やひれといった細かいところまでとかく立派に作られているのだった。
もっとも、これらは全て洞窟内部に位置するものであるが。
「すげえ・・・芸術作品だ・・・。」
えらく感動して城をぺたぺた触るたかしに、羽林軍は得意顔。
たかしだけでなく、他の皆もぐるりと城を見て廻ったり実際に中に入ったり。
作りを見るたびに感嘆の声を上げ、その度に羽林軍は照れたりするのであった。
「いいわねえ、この城。あたしもって帰りたいな〜。」
「ルーアン、そんなもんどこに置いておくんだよ。」
「なにいってんのたー様。万象大乱使えばいっぱつじゃない。」
「あ、そか。・・・って、何に使うんだこんな城!」
うっとりしているルーアンに太助が渇を飛ばす。
その後ろではキリュウが呆れた顔で立っていた。
二階以降まで上って行った花織達は、すぐ近くに見える洞窟の天井の景色を満喫していた。
「下からじゃあわかんなかったけど結構綺麗だよね〜。」
「天然洞窟だろうからねえ。楊ちゃんもほんとすごいもの作ったよ。」
感心した様に呟きながら自分を見るゆかりんにヨウメイはきょとんとなる。
当然の反応だ。自分にはそういう意識がまったく無いのだから。
「あたしが作ったんじゃ無いよ?」
「あはは、分かってるってば。」
笑みをこぼす彼女らに、ヨウメイはますますクエスチョンマークを大量に浮かべる。
そんなやりとりが城のあちこちで行われている中、白楊が城の前に姿を現した。
「短時間でこんなものを・・・。凄いですね・・・。」
うーん、と深く感心している彼女を見て、太助達は城の外へと姿を現す。
「お見事です。まさかこんな短時間で・・・。」
「それは、羽林軍がとってもがんばったからですわ。」
にこにこと告げるシャオに、羽林軍がガッツポーズ。
一斉に行われたそれに、改めて感心した白楊であった。
「それでは次なる部屋へ御案内致しましょう。」
作られた城はそのままに、てくてくと歩いて行く白楊に皆は付いて行く。
そして、重苦しい音を立てて次なる扉が開いたのであった。

部屋に入ってまず目についたのは大きなテーブルである。
廻りには椅子が並べられ、そしてテーブルの上にはいろとりどりの料理が所狭しと置かれている。
種類がなんとも豊富。それこそ、世界中のありとあらゆる料理が存在していた。
まさしく目を見張るほど。みなは“ほぉーっ”と感嘆の声を漏らしていた。
「それでは十一番目・・・」
「きゃー!!!いっただきまーす!!!」
言うが早いかいきなり叫んで駆け出して行ったのはルーアン。
てきとーに椅子に座ったかと思うと、早速がつがつと食べ始めた。
「る、ルーアン先生ー。」
「ちゃんとみんな一緒に食べなきゃ駄目だよ〜。」
「ちょ、楊ちゃん!」
慌てて止めに行こうとした乎一郎に続き、ヨウメイも駆け出した。
その後を追うのはゆかりん。(たまたま隣にいたから)
「まだ説明して無いのに・・・。
えっと、見ての通りここには・・・」
「おいしーい!!あーん、ルーアン超幸せ〜♪」
「ルーアン先生、まだ白楊さんが説明してないのに・・・。」
傍まで来た乎一郎がルーアンをたしなめるが、彼女は聞こうとしない。
ひたすらに置かれてある食物をがつがつがつと。と・・・
くいっ
「うぐっ!!」
「ルーアンおばちゃん、みんなで一緒に食べないと駄目だよ。」
訴えるような瞳をしたヨウメイの手にはルーアンの髪の毛がしっかりと握られている。
その衝撃でルーアンは食べ物を喉につっかえておもいっきり胸を叩いているのだった。
ゆかりんがやってきたころに丁度それは落ち着き、ヨウメイをキッとにらむ。
「何さらすんじゃこのガキ〜!!!」
「えいっ。」
くいっ
「うぐっ!は、放しなさいよ!!!」
変な方向から髪の毛を掴まれているだけあって、ルーアンの方が不利であった。
「ちょっと遠藤君、なんとかしてー!!」
「・・・え?は、はいっ!」
急いでヨウメイの体を押さえて、髪の毛を放させようとする。
もちろんそれにはゆかりんも加わり、てんやわんやの大騒ぎであった。
「白楊さん、あんな騒いでる年増なおばさんはほっといて説明の続きしてください。」
花織のきつい呼びかけにあっけに取られていた白楊はハッと我に帰る。
ゴホンと咳払いをひとつしたかと思うと、再び口を開いたのであった。
「えーと、見ての通りここには沢山の食物があります。
これを全て・・・」
「いたーい!!!ちょっとー、なにやってんのよー!!」
「す、すみません。ヨウメイちゃんがなかなか放してくれなくて。」
「うう〜、食事はみんなでだもん!」
くいっ
「やめんかいー!!」
「遠藤先輩、無理に放そうとしても駄目ですよ!ほら、こうやって体をくすぐるんです!」
騒ぎは相変わらず止まる所を知らない。
少し見ていた白楊だったが、改めて説明に戻った。
「食物を全て食べてください。飲み物もしっかりありますので御心配なく。以上です。」
「ほらほら、こちょこちょ〜。」
「きゃははははは!!く、くすぐったい〜。」
「よしっ、手を放した!」
「うう、いたたた・・・。非道い目にあったわあ・・・。」
最後にちらりと、丁度争いが終わった面々を見やると、白楊は姿を消した。
内容を理解した太助達はそこでようやくテーブルの傍の椅子へと向かう。
「たく、ルーアンさんにも困ったものですねえ・・・。」
「そんなことはさておき、美味しいって言うんならとことん食べようじゃないか。」
「そういえばお腹ぺこぺこですもんね。」
「シャオ、どうせなら星神の連中も呼んで一緒に食べたらどうだ?」
「まあっ、それはいい案ですね。早速皆を呼ぶ事にします。」
ずらりとならんだ椅子にそれぞれ腰を下ろす。
テーブルの空いてる部分にはたくさんの小さな体の星神達。
また、余った椅子の空席にも埋めるように腰を下ろしていたのだった。
「さて、ルーアンさんがお馬鹿さんみたく先に食べちゃってますが、挨拶を!」
花織が代表者かの用に告げると、ヨウメイがその前に立ちあがって手を勢いよく合わせた。
それにならってか、それぞれが手をぱしっとあわせる。
「いただきます!」
≪いただきます!!≫
しっかりとした挨拶が告げられて、皆は一斉にばくばくと食べだした。
もっとも、一心不乱に食べつづけているというわけでもなく、雑談したり争ったり。
わいわいがやがやと、とても賑やかな食事がそのまましばらく続けられたのだった。

いくらかの時間が経過。ほとんどの者は食事を終えてデザートに手を出していた。
多くの星神達は支天輪へ帰り、同じ様な状況である。
「ふう、食べた食べた。いやあ、嬉しい難関だよなあ。」
満足げな表情で呟く翔子に、それぞれうんうんと頷く。
お腹いっぱいに美味しい御馳走を食べ、皆とても幸せな気分なのだ。
「けどなんか不安じゃないか?これを食べ切った後に何かあるんじゃ・・・。」
「那奈ねぇ、心配しなくてもそれは無いよ。
よーく考えてみなよ、普通の人間の何人かでこれを全部たいらげる事を。」
軽く笑う翔子に、那奈はテーブル全体を見渡す。
大勢の星神達、そしてルーアンにより、ほとんどの皿は空となっている。
だがその数もとんでもなく、三桁の数は軽く超えていると言って良いだろう。
「・・・言われてみれば。普通こんなに食べられるもんじゃないよな。」
「多分時間制限は無いんだろうけど、全部食べるとなると相当なもののはずだよ。
けどあたしらのグループには大食漢がいるしな。」
「うんうん、確かに確かに。」
こくりと頷きながら、那奈はふと途中の食事風景を思い出した。
星神の一人、軍南門がごっそり手に持った料理をルーアンが慌てて奪おうとしたのを。
量を考えればそこまで争う必要は無かったのだろうが、其の時の彼女にとっては必死だったのである。
「それにしても・・・。」
那奈が気付いた時には、既にほぼすべての料理は空っぽだった。
唯一残っているのはルーアンの目の前にあるデザートのプリンである。
「すごいなあ、もうここまでになっちまったんだ。」
「ルーアン先生、それを食べれば終わりだぜ〜。」
「・・・・・・。」
翔子の呼びかけにも、ルーアンはじっとしたままであった。
何やら思いつめた表情でぶつぶつと・・・。
「・・・ねえキリュウ。」
「ん?どうしたルーアン殿。」
一息ついて座ったままのキリュウが振り向くと、ルーアンはプリンをすっと差し出した。
「ちょっとお願いがあるんだけど。」
おずおずしている様に見えるその態度に。キリュウは苦笑しながら応えた。
「私はもう要らないぞ。なんだ、ルーアン殿でも食べ切れ無い事があるのだな。」
それを聞いて、“ええー!?”と、皆の視線が集まる。
既に全員が全員腹いっぱい。とてもこれ以上は食べられない状態なのだ。
しかしルーアンは首を横に振る。
「違うわよ。おっきくしてって言ってるの。」
「・・・・・・。」
ざわついていたものがしんと静まる。
キリュウに至っては無言のままプリンを見つめているだけであった。
「どうしたのよ、聞こえなかったの?プリンをおっきくしてって言ってるのに。」
「・・・本気か?ルーアン殿。」
「冗談で言う訳無いでしょ。早くしなさいよ。」
せかす彼女にキリュウは呆れながら短天扇を開いて万象大乱を唱えた。
しゅんっ!と大きくなったプリンに、ルーアンはうれしそうにかぶりつくのだった。
遠くから見ている面々はとにかく唖然としている。信じられないといった気持ちがあるのだ。
「呆れた。ルーアン先生って底無しなんじゃ・・・。」
「凄いよね。あれだけ食べてまだ食べるんだもん。
お行儀悪いけど尊敬しちゃうな〜。」
呆れ顔の花織の隣で呟くヨウメイの頭を、彼女はすっとなでてやる。
ちらちらと普段ものを見せている姿がなんともいじらしく思えたのだろうか。
心の中で、絶対に元に戻すんだという決意を新たにしていた。
やがて、ルーアンが最後のデザートを平らげると同時に白楊が姿を現す。
その顔には、疲れと驚きが混じったような複雑な表情を浮かんでいた。
「まさか食べ切るとは・・・。人海戦術はずるい気もしますけどねえ・・・。」
「その点は心配要らないよ。ほとんどルーアン先生が食べてたから。」
すかさず翔子がフォローする事により、白楊は“仕方ないですね”と呟いた。
「それでは次なる扉へ・・・」
「ちょっと待ってよ〜。しばらく休んでから〜。」
「・・・一応私は次の部屋で待っておりますので。」
ルーアンの情けない声に出鼻をくじかれたものの、白楊は扉を開いて次の部屋へ向かった。
動ける者は顔を見合わせた後にその後に続く。かくして、食事会は幕を閉じたのだった。

「それでは十二番目について説明致します。
御覧下さい、向こうのほうに大きな的がありますね・・・。」
白楊が指差した壁には、円形状でいくつかの領域に区分けされた的がかかっていた。
「ここから狙って物を投げて、見事中心に当ててください。
投げる物は何を使っても結構ですので。」
ここから的までは相当な距離がある。これを狙うのはかなり難しそうだ。
と、ここで出雲がすっと手を上げた。
「済みません、投げないと駄目なんでしょうか?狙撃しては駄目ですか?」
「え?ええ、別に構いませんが・・・。」
「そうですか。では無理に消えずにしばらくお待ち下さい。」
「えっ?」
不思議そうな顔をする白楊ににこりと告げたかと思うと、出雲はシャオに向いた。
「シャオさん、車騎さんを呼んでください。」
「なるほど、わかりましたわ。来々、車騎!」
シャオが支天輪を取り出し、そこから車騎が出てくる。
地面に降り立った彼らに、シャオは遥か向こうの的を指差しながら言った。
「車騎、あの的の中心を狙って。」
その声に車騎に乗った二人がこくりと頷く。
すぐさま慎重に照準を合わせ始め、ぴたっと止まる。
ドンッ!
一発の砲弾が放たれたかと思うと、それはみるみるうちに的に向かって行き・・・
ドーン!
と、見事命中した。
「・・・当たりです。」
「やりましたね、車騎さん!」
「ご苦労様、車騎。」
出雲とシャオからねぎらいの言葉をかけられ、照れ照れと、それでいて得意そうな顔になる。
アッサリと事が終わったのに対し、他の面々は拍手で車騎を祝福していた。
「こんなに早く終わって良いのかしら・・・。
と、ともかく次の部屋へ案内しますね。」
なんとも複雑そうな表情を浮かべたまま、白楊は次なる扉へと向かう。
意気揚々とそれに続くみなの更に後に、別の人物がやってきた。
「ふう、やっとまともに動ける様になったわよー!」
「ルーアン先生、やっぱり食べ過ぎですよ・・・。」
「おだまんなさい!んな事より次なる難関はなんなの!?」
ルーアンと乎一郎である。張り切っている彼女に対して、出雲が少し笑みを浮かべて言った。
「もう終わりましたよ。私達は次の部屋へ向かっているんです。」
「へ?もう終わったの!?」
「ええ、車騎さんのおかげでね。さあ行きましょう。」
悠々と歩き出した出雲の後を、二人は慌てて追う。
見事ど真ん中に穴があいた的を横目に見ながら、白楊は次なる扉を開くのだった。

次なる部屋。入ってみて皆は驚愕した。
何故か床が無い、深い深い穴がぽっかりとあいているのだ。
扉は遥か向こうに見えるのだが、それこそ穴を超えて行かなければならなかった。
「十三番目について説明致しましょう。見ての通り穴があいてます。床はありません。
落ちたら最後、死んじゃいます。壁をつたって行っても結構ですが、横から槍が飛んできます。
つまりは、この穴を飛び越えて行くしか無いという事で・・・」
「空を飛べば良いのだな。」
「・・・はい。」
説明が終わらないうちにキリュウが口を挟むと、白楊はそれに答えて黙る。
と、キリュウは短天扇を広げてそれを大きくする。
「ではシャオ殿、軒轅殿を。」
「はいっ!」
支天輪が取り出される。そして・・・
「来々、軒轅!」
皆が早速軒轅と短天扇に飛び乗り、すいーっと空中をすべり出した。
姿を消す暇も無くその場に取り残された白楊は、
やれやれと思いながらも自分も宙を飛んでその後を追った。
「見て見て、白楊さん空飛んでるよ!」
「ほんとだ、すごーい。」
熱美とゆかりんの叫びに、キリュウはふっ、と答えた。
「おそらく浮遊術なのだろう。」
「浮遊術?」
「そうだ。自分だけで宙に浮く事が出来る、という事だ。」
「へえええ・・・。」
感心しながら振り返る二人。
じっと付いて来ている白楊に改めて声を上げたりするのだった。
「それにしても、シャオってすごいよな。」
「え?」
「色々な星神達のおかげで今まで難なく越えてきた難関ってのが沢山あるから。
例えば立派な城を建てる、なんて普通できないところだよ。」
「そうですね・・・。やっぱりリーフェイさんの言う通りだったんでしょうか・・・。」
「あのじーさんの?」
「ええ、実は・・・。」
ふと何気なく言葉を交わし始めた太助に、シャオは昨晩の話を語る。
キリュウと共にリーフェイとした話を・・・。
「・・・という訳なんです。」
「そっかあ、なるほどなあ。しっかしじーさんの時は五つだったんだよなあ。
なんで二十五に増えたんだろう・・・。」
感心したものの、謎解きが一気に増えてしまったのにはやっぱり太助は疑問である。
もっとも、時と場合によって変わるという理由だけで納得できないでいたからだが。
「ともかく半分は過ぎたんです。残り頑張りましょう。」
「ああ、そうだな。」
シャオの声に、改めて皆で気合が入れなおされる。
そうこうしているうちに、一行は扉の前に到着。
「軒轅、ご苦労様。」
短天扇が小さくなり、軒轅が支天輪に戻される。
そして白楊は扉の前にすっと降りたってそれを開くのだった。

「それでは、十四番目について説明致しましょう。
あちらに一枚のプレートが見えるかと思います。」
すっと指差す方には、床の色が一ヶ所だけ違う、という正方形のプレートが置かれていた。
「ここにある程度の重りを乗せれば扉は開きます。
ただし、上から力を加えてはいけません。あくまでも体重でのみ、で重くしてください。以上です。」
長らく姿を消さずにいた白楊だったが、ここで久しぶりに姿を消した。
問題のプレートは、大きさはそれほどなく、約二メートル四方。
それぞれ頷き合ってプレートに乗るものの、全員は無理があった。
「ねえ、重なって乗ってみよう。」
「それさんせ〜い!じゃあ軽いあたしは上ね。」
「ちょっと花織!あたしの上に乗っからないでってば!」
熱美が提案したかと思うと、ヨウメイのまわりが荒れ始める。
まあまあと出雲がなだめた結果、ほとんどの女性陣は彼の上に乗るという結論になってしまった。
「ぐぐぐ・・・何故私がこんな目に・・・。」
「出雲さんが言い出した事ですよ!文句いわないで下さい。」
「ふう〜、宮内の上に乗るってのはなかなか気分がいいもんだなあ。」
「わーいわーい。」
「こらっ、楊ちゃん。髪の毛を引っ張っちゃだめでしょ。」
「頑張れよ〜、おにーさん。」
「これも試練だ・・・。」
「済みません、出雲さん。」
さすがに全員が乗るのは無理があるので、ルーアンとゆかりんだけは他の場所で立っている。
「よくやるねえ、まったく。」
「あんた他人事みたいによく言うわねえ・・・。」
「僕の上にルーアン先生乗らないかな。」
「乎一郎、そういう挑戦は止めとけ。」
「んなことより、全員乗ったけどだめだぞ?」
たかしの確認の声に、皆がはっとする。
ある程度こういう事は予想出来ていたが、いざこうして駄目だと分かるとがっくり来る。
「そうだシャオちゃん!折威はどう?」
「なるほど。来々、折威!」
不意に閃いたのか、乎一郎の呼びかけにシャオは折威を呼び出した。
折威達はシャオの座ってる場所に飛び降り・・・
「ぐわっ!!!」
ずしゃっ!
当然ながら重さに耐え切れなくなった出雲が平べったく崩れ落ちた。
「きゃあ、ごめんなさい出雲さん!」
「い、いえ、なんとか耐えてます・・・。」
「おにーさん、試練だぜ、試練。」
けたけたと笑う翔子に呆れる者も居たが、折威がとりあえずその場からどく。
出雲が落ちついた所で、改めて折威がプレートに乗り直した。しかし・・・
「効果無しですね。」
「おっかしいなあ、折威さんなら大丈夫だと思ったんだけど・・・。」
痛い思いをしながらも進展が無かった事にちょっと残念な顔の出雲。
それに対しても少し申し訳なさそうな顔をしながら首を傾げる乎一郎。
そして折威を呼び出したシャオ。三人に限らず、皆残念がっていたが、
いかんせん良い結果は得られなかったのには間違いない。
深いため息をついたかと思うと、改めて対策を練り始めるのだった。
「どうしたものかな・・・。」
「うーん・・・重い〜・・・。」
「楊ちゃん、動く訳無いんだから押しちゃ駄目。」
悩んでる中でもヨウメイだけはマイペースである。
彼女の押しにびくともしなかった折威はにこっと笑ってそこに座っていた。
「・・・ふむ、少し試してみようか。皆、離れていてくれ。」
キリュウがすっと短天扇をひろげると同時に、折威を除く面々がプレートから退く。
なんとなくやりたい事が分かった面々は、彼女が行動を起こす前に頷いていた。
「万象大乱。」
例の提言が辺りに響くと同時に、折威の体が巨大化する。
あっという間にでんと、プレートを埋め尽くす三人の折威。
すると、扉がばしゅっと姿を現し、同時に白楊も現れた。
「お見事です。まったく、とんでもないですね・・・。
普通の人間ならば、天井を崩して部屋ごとに圧力をかけるとかしないと駄目なんですが・・・。
ともかく次の部屋へ案内致します。」
元の大きさに戻った折威が支天輪に戻されて、シャオ達は白楊に続く。
プレートには、折威の重みの所為で密かにひびが入っていたりもした。

「それでは十五番目について・・・」
「あの部屋の真ん中の物を持ち上げろってんだろ?」
説明の途中でたかしが得意そうに区切る。
彼のいう通り、部屋の真ん中には一辺一メートルの立方体が置かれていた。
特に出っ張っている部分も無く真っ黒なそれは、綺麗な立体を形作っている。
「その通りです。では・・・」
「待った待った。俺がすぐに持ち上げて見せるからさ。」
言うなりたかしはその物体のもとへと駆け出した。
手に唾を吹きかけて気合を見せる。
「野村先輩、汚い・・・。」
花織の呟きも彼には届かず、いつもの大声を出し始めるのだった。
「ぬおおおお!!!」
たかしの顔に血が集まっているのか真っ赤になる。
待つ事数秒。物体は果たして持ちあがらなかった。
「・・・とりあえず、少しでも浮かせられればいいので。以上です。」
何事も無かったかのように平然と説明を終え、白楊は姿を消した。
それでも相変わらず頑張っているたかしだったが、当然物体は持ちあがっていない。
しばらく格闘していた様だが、やがて諦めた様にがくっと座りこんだ。
「だめだあ、びくともしやがらねえ・・・。」
「たかし君が駄目だとすると、僕でも無理だなあ。」
「乎一郎、手伝ってくれ。」
「え?で、でも僕は・・・。」
「いいから!太助も一緒だ!!後出雲も来い!!」
「はあ!?俺もやるのか!?」
「男性陣で処理するべきなんですかね、これは・・・。」
何か言いたそうな出雲の声に、那奈はぴくっと反応した。
「宮内、今のはどういう意味だ?か弱いあたしらに手伝えって事か?」
「さ、さあ太助君、早く行きましょう!」
「おいおい・・・。」
逃げるように物体に向かう出雲の行動は正に図星であった。
“後でとっちめてやる”という那奈の呟きを背中に受けながら太助も向かう。
物体を四人が四方から取り囲み、一斉に持ち上げる事となった。
「いいか、相当重いから同時に行くんだぞ。」
「言われなくても分かってますよ。」
「うう、僕力仕事は苦手なのに。」
「がんばれ乎一郎。俺も頑張るから。」
普段から年寄りくさい太助のその言葉はあんまり説得力があるものではなかったが、
乎一郎は力強くそれに頷いて答えるのだった。
「いくぞ。いち、にの・・・」
「「「「さん!!!!」」」」
合図をして、四人一斉に力を入れ始める。
しかし、物体はやはりというか一向に持ち上がる様子をみせない。
「頑張れ〜!」
「先輩達、しっかりしてくださーい!」
「太助様ー!」
「たー様ー!」
女性陣から次々と黄色い声援が飛ぶも、それはただ飛ぶだけに終わった。
がくっと力が抜けたように、その場にへたり込む四人。
しばしの時間力を入れつづけたものの、結局その物体は持ちあがらずに終わったのだ。
「ふう、ふう、これ一体何キロあるんだよ・・・。」
「ひょっとしたら何トンかもしれませんね。」
「うそだろお?そんなの持ちあがる訳無いじゃん。」
「うう、疲れたあ・・・。」
相当苦しそうだったが、少し休めば再開出来そうでもある。
しかし、この様子では何度試みても無理そうであった。
「そういえば力を鍛える試練をあまりやっていなかったな・・・。」
「それでも無理なんじゃないの?四人で無理なんだから。」
キリュウの呟きに、那奈が諦め気味に返す。
この調子では今回は無理だと思ったのだ。
「・・・そうだ!!シャオ、軍南門はどうだ?」
「あっ!!来々、軍南門!」
しきりに何か考えていた翔子がやっといきあたったようだ。
彼女の案にシャオは慌てて軍南門を呼び出す。
“ずしん”という響きがしたかと思うと、そこには巨大な人影があった。
「軍南門か・・・最初っからそれをよんでくれよ〜。」
太助の悲痛な叫びを合図にした様に、四人はその場を離れる。
代わりに物体に対峙した軍南門は両手でがっしと物体を掴んだ。
「ぐぬぬぬぬぬ・・・!!」
ものすごく辛そうな顔になりながらも軍南門は必死に力を入れる。
その数秒後、果たして物体は持ちあがった。
しかも浮きあがる程度ではなく、高々と天井にまで上がるほど。
そのしばらく後、重さに耐えかねた軍南門がそれを地面に下ろす。
ずしーん!!!
ものすごい地響きの後に、物体は元の位置に収まった。
「軍南門があれだけ苦労したものなのか。俺達には無理だったんだろうな・・・。」
唖然としながら太助が呟く。彼の意見はもっともなものであった。
「ご苦労様、軍南門。」
“しゅーん”と軍南門が支天輪に戻るのと同時に白様が姿を現した。
やはりというか、驚きを隠せない顔である。
「まったくとんでもない・・・。お見事です
えっと、それでは次なる部屋へ案内致します。」
ぎいっと扉を開くその動作はもう太助達にとっては見慣れすぎたものであった。
と、ここでシャオが突然彼女に呼びかけた。
「あの、すいません!!」
「はい?」
「ここって、知の洞窟なんですよね?知力を試す物なんですよね?」
「・・・まあそんなものです。」
「それでは何故力を使うようなものを?」
シャオが言いたいのはいましがた行った物を持ち上げるという事。
もちろん、この場に限らず今までにもそういう難関は数多くあった。
言われてみれば、知力だけで解けるようなものではないはずである。
「シャオちゃんの言う通りだ!俺の熱き魂が通じなかったなんて!」
「たかしくん、それって何か違うよ・・・。」
「ともかく説明が欲しいですね。私も今気付きましたが・・・。」
ずいっと前に出るのはたかし、乎一郎、出雲。もちろん、それに続いて太助もずいっと寄った。
とんでもない力仕事をさせられたという点で、少し納得がいっていないのだろう。
「リーフェイのじーさんは謎解きだと言っていた。
けどこれは謎解きじゃなくって絶対別のものだ。色んな能力が無いとできないみたいな。
どうしてこれが知の洞窟なんだ?教えてくれ。」
すると白楊はふうっとため息をついたかと思うと、皆にその場に座る様促した。
これは話が多少長くなるという事なのだが、もちろんそれを立って聞く者も居た。
「まず最初に、この洞窟の目的を思い出してください。」
「えっと、楊ちゃんの記憶、知識を取り戻す?」
一番に花織が答えると、白楊はそれに深く頷いた。
「そういう事です。だからここは知の洞窟なんです。力じゃ無いですから。」
「それじゃあなに?取り戻すものによって名前を付けてるってだけなの?」
花織の隣の熱美の声に、白楊は又も深く頷いた。
「そうです。あくまでも取り戻すもの、ですから。」
そして白楊は立ち上がる。長くなりそうだと思わせながらも、実質それはアッサリ終わった。
と、ここで更にゆかりんが質問する。
「じゃあ、力の洞窟も頭を使ったり?」
「・・・それはわかりません。私には知り得ない事ですから。
ですが、その可能性はあると見て良いでしょう。ここと同じ様に。」
結局はどちらも片方の要素だけを考えていても仕方が無いという事である。
今更ながらにそれに納得した太助達。
ただ、キリュウはいささか納得のいかない顔でそれを聞いていた。
「どうして統一をしない?」
「統一?」
「きっぱりと力と知力にニ断すれば良いのではないのか?」
「片方だけが存在しているものはほぼ無力なのです、という事です。」
たじろぐことなく答えた白楊に、キリュウは“そうか・・・”と引き下がった。
「もういいですか?・・・では、次の部屋へ案内致します。」
皆はそれに頷くと改めて気を奮い立たせ、招く白楊の後に続くのだった。