小説「まもって守護月天!」(知教空天楊明推参!)


≪第二十二話≫
『中国奥地へいざ!』

正式にパスポート等の必要なものを素早く集めて・・・では時間がかかるので、
密かに上空を飛んでいった太助達。
いつの間に翔子が調べていたのか、それは統天書に載っていた
“静かなる誰にも見付からない侵入方法”であった。
「さすがだよなあ統天書って。これを使えばどんな国でも行けるな。
今度旅行する時に使ってみようかな。」
「たく、こんなので大丈夫なのかよ・・・。」
「平気平気。いざとなったら野村が体はってくれる予定だから。なんせリーダーだもんな。」
「おい山野辺・・・。」
浮かれる那奈、心配する太助、楽天的な翔子、怒り気味のたかし。
この四人に限らず、皆が皆それぞれの思いを抱えている。
もちろん、不安な要素が多いのは言うまでも無いが・・・。
ちなみにどうやって空を飛んでいるかというと、万象大乱で大きくなった絨毯に陽天心をかけ、
それに皆が乗っているという事だ。何故か飛翔球が使えない為、こうしているのである。
「これも楊ちゃんが力を失っていることが原因なのかな。」
「花織、あんた髪の毛引っ張られながら良く平気で喋れるわねえ。」
「もう慣れちゃったから・・・。なんでこんなに悪戯好きなんだろ・・・。」
当たり前にふざけているのか、花織の髪の毛を引っ張りながらきゃいきゃいとはしゃぐヨウメイ。
ちなみに、彼女だけではなく、髪が長い三精霊はすでに被害を受けていた。
「花織殿はさすがだな・・・。」
「キリュウ、あんた髪を引っ張られた時に首が“ぐきっ”とかいってなかった?
たく、ちったあおとなしくしててくれないかしら・・・。」
思惑はそれぞれあるが、疲れた様にため息をついているのは同じである。
ちなみに那奈と翔子にはヨウメイは近付いていない。
普段の本能が働いているのだろうか・・・。
「髪の毛をいじるのは誰かの癖を真似ているんだろうな。」
「野村君、どういう意味ですか。私は人の髪を引っ張ったりしませんよ。」
「ふぁさふぁさやってる時点で終わってると思うぜ。」
「それは関係ないでしょう?だいたい・・・ぐっ!」
いつのまにか出雲の後ろに廻りこんでいたヨウメイ。
嬉しそうに髪の毛をぐいぐい引っ張っている。おかげで出雲は顔をのけぞらせる形になっているが。
「ちょ、ヨウメイさん、やめてください。」
「わーい、出雲兄ちゃん髪なが〜い。」
「い、痛いですって!」
必死に抵抗する出雲だが、位置的に彼の分が悪いのは明らかであった。
と、それを助けるべく乎一郎がひょいっと彼女を抱きかかえる。
「ダメだよ、ヨウメイちゃん。出雲さんが困ってるでしょう?」
「ぷう・・・。ねえ乎一郎お兄ちゃん、眼鏡貸して?」
興味が別方向へいったのか、ぽいっと髪の毛を掴んだ手を離すヨウメイ。
その反動でどたっと前へ倒れる出雲であった。
「さすがの宮内も幼女には勝てないか。」
「何わけのわかんない事言ってるんですか・・・。」
反論の意志を見せたが、とにかく休みたい一心の様だ。
と、彼の後ろで新たな被害者が。
「わ〜い眼鏡眼鏡〜。」
「うわ〜、返してよ〜!」
乎一郎の眼鏡をかけたヨウメイが走りまわっている。
幸い絨毯は大きいので、多少走りまわっても落ちないのではあるが、さすがに危険だ。
素早く熱美とゆかりんの二人がヨウメイを捕まえる。
そして花織がすいっと眼鏡を外し、乎一郎に手渡した。
「あ、ありがとう・・・。」
「いえいえ。だてに三日間楊ちゃんの相手してたわけじゃありませんから。」
得意げな、そしてなんともだれた花織の声に少したじっとなる乎一郎。
どうも自分が情けなくも思えてきたようでもあった。
ここで一連の騒動は終わり、おとなしく座って目的地到着を待つ面々。
もちろんこの移動時間にぐっすり眠っている者も居た。それはシャオである。
この三日間、皆への陰ながらの手助けの為にほとんど二十四時間起きつづけていたのだ。
それはそれぞれが充分に承知しており、ゆっくり眠れる様に気をつかっている。
髪を引っ張られる被害にあっても、彼女だけは最小限度で済んだのだ。
「ところで太助、目的地にはいつ着くんだ?」
「さあなあ・・・。なんせ山をいくつも超えて谷に潜って川を上って・・・。
もしかしたら一日以上かかるかもしれない。」
「焦ってもしょうがないさ。のんびりと着くのを待って・・・なんだあれ?」
翔子がふと前方を指差す。その先にはたくさんの鳥の群れが。
「ただの鳥じゃんか、山野辺。」
「いや、なんか様子がおかしくないか?」
「・・・こちらに向かってきているな。」
冷静にキリュウが呟くと、皆は彼女の方にばっと振り向いた。
短天扇をひろげる彼女を見てか、ルーアンも黒天筒を取り出す。
「キリュウ、もしかしてあれって敵?」
「今の所はまだわからない。主殿、統天書にはなんと書いてある?」
「え?えーと・・・。」
太助は急いで統天書を見に入る。その間にも鳥の群れはだんだんとこちらに近付いてきていた。
その数たるや数万羽はいそうである。また、それぞれの鳥は大きなカギヅメ、鋭いくちばしを持ち、
更にはその瞳には真っ赤に燃えるものを宿していた。
「ただの鳥じゃ無いみたいですね。」
「目的地に行くのを邪魔する番人ってとこかな。」
「襲われたらひとたまりもなさそう・・・。」
出雲、たかし、乎一郎が恐れの伴った声で呟く。
それは暗に太助を急かしているようでもあった。
「“例えどんな障害が迫ろうとも、逃げずに突き進むべし”って書いてある。」
「そうか・・・。つまりは強行突破しろという事だな。」
ようやく調べ当てた太助の声に、いよいよという感じで短天扇をキリュウが構える。
その気迫に押されてか、ルーアンは黒天筒をすっと下ろした。
「ちょ、ルーアン先生!?キリュウさんと一緒に・・・」
「黙ってなさい、小娘!あたしの陽天心使ってたら、キリュウの邪魔になるだけよ。」
反論しかけた花織を一喝にして封じ、すっと腰を下ろす。
どうやら、キリュウは一人でかなりやる気の様である。
ちなみにこの状況でもヨウメイははしゃいでおり、熱美とゆかりんが必死に抱きとめているのだった。
そしてとうとう鳥達の群れに突っ込もうかという時、キリュウは叫んだ。
「万象大乱!」
シュンッ!
なんと、一瞬で全ての鳥が小さくなる。数万羽全て、だ。
いきなりの事態に驚いたのか、鳥達は陽天心じゅうたんを避けるように飛び始めた。
「ふう・・・。」
息をついてぺたんと絨毯にキリュウが座る。
あっという間の出来事に、皆は唖然としていた。
「わーい、鳥さ〜ん。」
「はっ!?よ、楊ちゃん、落ちるってば!!」
ただ一人キリュウのやった事に動じなかったのがヨウメイ。
小さくなった鳥を捕まえようと手を伸ばしたりしている。
それに気付いて、熱美とゆかりんは我に帰ったのであった。
「ゆかりん!そっちの手、押さえて!!」
「お、おっけい!!」
「鳥さ〜ん、鳥さ〜ん・・・。」
沢山の鳥が絨毯から離れてゆくなか、ヨウメイはいつまでも名残惜しそうに手を伸ばしていた。
彼女を落ちない様に押さえきれた熱美とゆかりんはふうと息をついている。
最後の一羽が見えなくなった時、ようやくヨウメイは伸ばしていた手から力を抜いた。
「鳥さん・・・。」
普段の残念そうな顔とはまた何か違ったものを見せている。
しかし、それに気付くものは誰一人居なかった。皆、心を落ち着かせるのに精一杯だったからだ。
「たくう、とんでもないわねえ・・・。」
キリュウの疲れた様子を見ながらルーアンが呟いた。
これから先、幾度となく能力を使わなければいけない様な気がしたのだ。
「おい太助、後どのくらいでつくんだ?」
「それは・・・まだまだ先だよ。」
予想していたのと同じ、聞きたくない答えが返ってきた事に那奈は頭をかきむしる。
那奈だけではなく、他の面々も同じ気持ちであろう。
「こんなのが何回もあったらこの先もたないぞ!」
「そう言われても・・・。とにかくこの統天書通りに進むしか無いじゃんか。」
「なんとか短縮できないかな?」
「・・・よし、考えてみよう。という訳で山野辺、一緒に見てくれ。」
あっさりと太助は短縮案に乗り出した。
たかだか一度の障害で参ったというわけではない。とにかく早く辿りつきたいのだ。
ヨウメイを元に戻す方法を知っているという人物のもとに・・・。
「なあ七梨。」
「なんだよ。」
「統天書読んだからって、そんなの載って無いんじゃないの?」
すると太助は“そうじゃない”と、首を横に振った。
「誰が探すって言ったよ。読んで自分で考えるんだよ。」
「んな無茶苦茶な。普通無理だろが。」
「無理かどうかはやってみてから決めればいいだろ。ほら。」
「はいはい。」
いまいち気乗りしなかった翔子だったが、それとなく統天書を見に入りだした。
しばらくはなにも事が起こらない、勉強時間である。
他の面々はただボーっと周りの景色に見入ったりとくつろぎ出した。
「太助も山野辺もよくやるよなあ・・・。」
「まったくですね。太助君が言ってるあれはおそらく因果律。
しかし、そんなものは無理でしょうに。」
「無理かどうかはやってみてから決める、って言ってたぜ?」
「その心意気は結構なものですが、やはり・・・。」
たかしは感心していたものの、出雲はそこまで思わないようだ。
一時はヨウメイが説明をためらったほどのものが、人間に簡単に出来るものでは無いと感じたからである。
それでも、周りの者達は特に邪魔もせずにただ見ている、くつろいでるだけ。
「それにしても・・・ここって綺麗な景色だよね。」
「そうだよね。あたし達って今海外旅行してるんだよね。」
いつのまにか眠っているヨウメイを抱きながら、熱美とゆかりんが呟く。
その傍では、花織もうとうとと横になっていた。
彼女らの言う通り、山々の自然は日本では見れ無いものが多く、それは十分に綺麗なものであった。
山一面に生い茂っている草木、そして岩場にぽつぽつと生える細長い木。
遥か下には穏やかな川の流れがあり、その周囲にも小さな草花が見える。
時折川面から魚が跳ね、“バシャッ”という音が小気味良く辺りに響く。
更に遠くからは美しい鳥の鳴き声が聞こえてくる、なんとものどかな風景であった。
「いいところだな・・・。私はこんなところは初めて来たぞ。」
「キリュウもそう思うのか。実はあたしも。
世界中旅してるけど、こんな風景は初めて見たって気がするよ。」
素直なキリュウの言葉に那奈も満足の笑みで返す。
自然のもの一つ一つは見た事はあるのだろうが、何気ないものが集まって形作るこの景色。
これはここで初めて見たものだ、と感じているのだ。
「初めて・・・ね。」
「どうしたんですか、ルーアン先生。」
「あたしも初めて見るのよ、この景色。」
「そりゃあ、来た事が無いんならそうじゃないんですか?」
乎一郎が当たり前の様に返す。しかし、ルーアンは“そうじゃない”と首を横に振った。
「あたしはね、結構中国を見てまわったわよ。それこそ、全土を見てまわったって自信があるわ。
けど・・・こんな場所は記憶に無い、って事。」
絨毯から下をしげしげと見つめながら呟くその顔は、不安をいくらか含んでいる様である。
「どういう事ですか?」
「つまりね・・・待って、あれは何かしら?」
遠くの方からドドドドと激しい音が聞こえてくる。どうやら、滝が近い様だ。
その滝の向こう側、岩場から突き出た木の枝に異様なものがとまっていた。
鳥の様に見えるがそれは翼があるためで、体はまるで違う。
長い耳、醜悪な顔、そして妙に長いしっぽ。じっと座ってこちらを見ている様だった。
「なんか・・・凶悪そうな奴なんだけど・・・。」
「目がいいですねえ・・・。私達には見えませんよ。」
出雲が手を翳してルーアンに対して告げる。他の面々も同じ。
一生懸命に目をこらしているものの、彼女の言う物体は見えなかった。
と、そいつはばさっとそこから飛び立った。そして遥か上空まで昇って行く。
しばらくして、完全に視界から姿を消した。
「飛んでっちゃった・・・。」
「ルーアン先生、何が見えたんですか?」
「なんか凶悪そうな奴よ。」
「それはさっきも言ってたじゃないですか。具体的には?」
「そう言われてもねえ・・・。」
あごに手を当てて“ふむ”と、考え込むルーアン。
参考にならないと思ったのか、尋ねた出雲と乎一郎以外は再び周りの景色に見入り出した。
しかしその時、“ヒュオオオ”という風を切るような音が・・・。
「な、何?」
「さっきの奴かしら。」
「・・・上!」
出雲がびっと上空を指すと、確かにそこから何者かが飛んできているようだった。
ものすごいスピードであっという間に絨毯に到達する。
ドンッ!!!
「う、うわあっ!!」
「きゃあっ!!」
「な、なんなんだー!?」
一瞬の出来事だった。飛んで来たものは軽々と絨毯を突き破る。
もちろん乗っていた者達はぐらぐらと揺れる絨毯から落ちない様必死につかまっていた。
幸いその衝撃で絨毯は落ちずに済んだものの、ぽっかりと大穴があいてしまった。
「あ、あんのやろー!!」
黒天筒を構えて素早く端のほうへ移動するルーアン。
しかしその時には既にそいつは姿を消していた。またもや上空へ昇った様である。
「くうう、このままじゃまたやって来るわ!」
「一瞬の事で対応できなくて済まない。今度はしっかりと止める。」
軽く言ったかと思うと、キリュウは短天扇をばっと広げた。
何者であれ、小さくすれば仕留められるはずである。皆はしんとして奴が来るのを待った。
しかしそのままで数分・・・
「・・・来ないわね。」
「恐れをなして逃げたんでしょうか?」
乎一郎が何気なく呟いたその時。
ズバッ!!
「わあっ!!」
今度は下から、である。
もちろんキリュウの万象大乱は間に合わず。大穴を二つあける羽目になってしまった。
そして肝心の敵はまたもや一瞬で視界から姿を消す。上空へ上った様だ。
これにより、絨毯のスペースはほとんど無くなる。
大きくする事により対処したものの、今にも落ちそうになっていた。
「陽天心絨毯が・・・このままじゃもたない!」
「今度飛んで来られたらアウトですよ!」
切羽詰るルーアンと出雲の声に、ぐっとなるキリュウ。
今度防がなければまずい状態であるものの、防げるかどうか自信が無い。
なんといってもまったく予想のつかない方向から飛んでくるのだから。
とここで、皆が騒いでる中でも懸命に統天書を読んでいた太助が叫んだ。
「滝の音を消せばガーゴイルは静まるってさ!!」
「は!?」
皆の代表ということで尋ね返すたかし。
“は!?”となるのも無理はない。滝の音を消すなどという途方も無い事なのだから。
「あいつってガーゴイルって名前なんだ!?」
「そんな事より滝の音を消せってのはどういう事だよ!!」
絨毯の状況もあってか、皆が皆慌てている。
中でも、きゃーきゃー騒いでいる花織達を静めるのに、出雲と那奈は一苦労であった。
そんな時でも打開策を生み出す為に必死になってそれぞれが考える。
「そうだ!キリュウちゃんの万象大乱!音を小さくできない?」
たかしの思いつきに“おおっ”っという歓声があがる。
ところがキリュウ自身は難しい顔をしている。
「・・・無理だ。」
「ど、どうしてさ?」
「音を小さく、出来るかもしれないがそれでは消す事になら無い。」
確かに、キリュウの万象大乱ではそれは不可能である。
と、この騒動で眠りから目を覚ましていたシャオがふと呟いた。
「滝を操る事が出来れば・・・。」
「滝を操る?そんなの楊ちゃんじゃなきゃあ無理ですよ!!」
落ち着きをそれなりに取り戻した花織がすかさず反論。
彼女の言う事ももっともで、自然を操る事はヨウメイの専売特許でもある。
しかし、ここでルーアンはぱちんと指を鳴らした。
「ナイスアイディアよ、シャオリン!起き抜けにいい事言うじゃない!!」
「ルーアンさん?」
「あたしに任せて。なんとかしてみるから。」
そしてルーアンは絨毯の大穴を覗きこむような形でそこに立った。
黒天筒を構え、しゅるしゅると回し出す。
「上手くいってよ・・・陽天心召来!!!」
滝の手前の辺り、川に向かって光が放たれる。
するとどうだろうか。次の瞬間にはその流れはぴたっと止まった。つまり・・・
「・・・滝の音が・・・止まった?」
「そうか、川の水自体を操れば!!」
納得した太助と翔子に、皆もなるほどと頷く。
ルーアンは“どんなもんよ!”といわんばかりに胸を張った。
そのまま絨毯が進んで行く脇で、上空から一つの物体が落ちて行った。
「あれって・・・。」
「ガーゴイルですね。なるほど、確かにあれはガーゴイルです。
普通は魔除けとして建物の樋先に彫像として飾られてるものなんですが。」
出雲の語りの入った呟きに、少しこわばった表情になる面々。
非常識なものが堂々と現れ始めたという事からだ。
滝を過ぎた辺りでルーアンが陽天心を解き、自然はもとの様相を取り戻す。
滝を過ぎれば大丈夫だと太助が言ったからだ。
「それにしても恐いよね。あれに邪魔されて、誰も先へ進めなかったんだろうから。」
「そうそう。多分歩いていても襲われてたと思うよ。」
「それより気になるんだけど、他の人はどうやって滝の音を消したんだろうね・・・。」
「そりゃあ、上流で川を堰き止めて流れを止めるとか。」
「へええ、花織ちゃん頭いいねえ。」
「えっへん。」
ぱにくっていた面々が呑気に会話を交わす中、それを静めるのに必死だった那奈はふうと腰を落ち着けた。
その横では翔子、そしてシャオが“お疲れ様”とねぎらいの言葉をかけている。
再び太助は統天書を読み出し、それぞれ落ち着いた雰囲気に戻った様だ。
「ところでルーアン先生。」
「なあに、遠藤君。」
「この場所が記憶に無いってのはどういう事ですか?」
ガーゴイル出現によって話が途切れてしまった事を言っているのだ。
と、それに答えたのはルーアンではなくキリュウである。
「おそらくこの場所は地図に載っていない場所、という事だ。」
「えっ?」
「キリュウの言う通りよ。多分今あたし達は誰にも見つけられないような場所にいる。
なんとなく分かるの。ここは別の世界だって。」
「で、でも・・・。」
二人の言葉に当然乎一郎は納得がいかない。
あまりにもそれは唐突過ぎる説明だからである。
「こんなに普通の自然があるのに?」
「自然過ぎるからこそ怪しいと思うのよ。ま、今更どうでもいいけど。」
「ルーアン殿、そういうのは良くないぞ。ちゃんと認識をしてだな・・・。」
「うっさいわねえ、どうせ後でヨウメイに聞けば全て分かる事じゃない。」
「そのヨウメイ殿は今あんな状態だが?第一、無事に戻るかどうかもわからないのに。」
「「「楊ちゃんは必ず元に戻ります!!」」」
ルーアンとキリュウの言い争いが始まったと思ったら、それに花織、熱美、ゆかりんの三人が入った。
もちろん止めに入ったという事ではなく、聞き流せ無い事があったからだろう。
わいのわいのと話していた割にはしっかりと聞き取っているところはさすがである。
「・・・すまない、失言だった様だな。」
一言キリュウが謝ると、三人はうんうんと頷いて再び話に戻った。
ちなみに肝心のヨウメイは一緒になってきゃいのきゃいのと話をしている。
「ま、いいわ。ところで後どのくらいかかるのかしらね。」
「・・・・・・。」
気まずくなった事に気をつかってか、ルーアンは話をそらした。
それに丁度答えるかのように、太助が顔を上げる。
そこには、驚きと嬉しさが混じったような複雑な表情があった。
「どうしたんだ太助。」
「もうすぐ到着するらしい。ここの管理人が俺達に気付いて・・・
早めに到着する様に操作してくれたらしいんだ。」
「な、なんだって!?」
“早く到着する”という事に花織達は大喜びだったが、一部の者はそうではない。
出雲や翔子といった面々は、管理人という言葉にしきりに首を傾げていた。
「太助君、管理人というのはどういう事ですか?」
「それは・・・到着したら全部話してくれるらしいよ。」
「そうですか・・・。」
どうやら統天書に新たな事柄が記載された様だ。
仕方なく皆はおとなしく到着するのを待つ。
おそらく管理人とやらが目的の人物なのだという事を思いながら
「あの、那奈さん。」
「なんだシャオ。」
「先ほどの事柄は、統天書に新たに記載されたものなんですよね?」
「多分そうだと思うけど。」
「ヨウメイさんがあんな状態なのに、どうしてなんでしょう?」
「それは・・・そういう道具なんじゃないの?シャオの支天輪だって。」
「・・・それもそうですね。」
ふと疑問がわいたシャオだったが、少しの考察で納得する。
兎にも角にも、陽天心絨毯はしばらくの飛行を続けた後にある一軒家に到着した。
質素な作りで、決していい家とはいえない。
冷たい感触の土壁、全開になった窓にはすだれがかかっているだけ。
家全体の大きさも、七梨家の半分も無い様であった。
太助達は、ヨウメイを元に戻す法を知っている人物が居るという場所にとうとうやってきたのである。

≪第二十二話≫終わり