小説「まもって守護月天!」(知教空天楊明推参!)


≪第二十一話≫
『事件発生』

太陽が東の地平線から顔を出す。鳥達が軽快に囀っている。
そう、朝が訪れたのだ。そして七梨家で一番に目を覚ましたのは金色の髪の毛を持つ少女である。
小さな体をゆっくりと半分起こし、“ふあ〜”と一つ大きなあくび。
きょろきょろと周りを見まわし、同じ部屋に寝ている女の子を確認。
その寝顔を首を傾げながらしばらく見ていたかと思うと、今度は天井を見つめ出した。
いや、見つめるというよりは考え事である。人差し指を唇に当てながらじいーっと。
ある程度考えた所で再び女の子の寝顔に見入る。
そこで、少女は自分のあどけない表情をくしゃくしゃに歪ませた。そして・・・
「びえええええええ!!!!!!!」
と、とてつもない大声で泣き出した。
その声は七梨家中に響き渡り、寝ていた者すべてが飛び起きるほどであった。
一番最初に目を覚ましたのは、少女と同じ部屋で寝ていた者。
花織、ゆかりん、熱美である・・・。
「な、なになに!?」
「いったいなんなのよー!!」
「よ、楊ちゃん!?」
突然の事にびっくりしながらも、三人はものすごい声を上げて泣きつづけるヨウメイを見た。
わけもわからず、止めに入る。
「楊ちゃん、落ち着いて!!」
「何を泣いてるのよ!」
「お願いだから泣き止んで〜!!!」
必死になるも、ほとんどヨウメイはいう事を聞いてくれない。
だが、三人の想いが通じたのか、数分後に彼女はようやく泣き止んだ。
「ひっく・・・ぐす・・・。」
「たくもう・・・朝っぱらから・・・。」
「そんな事より、もう目覚めたんだ。よほど長期間眠ると思ってたのに。」
「そういえばそうだね!よかったあ、リスクは朝に大声で泣くって事だったのかな?」
そう。昨日の戦いが終わってからヨウメイと同じ部屋で寝ていた三人は、
リスクの事をかなり心配していた。何ヶ月も眠るんじゃないか、とか・・・。
しかしこうしてヨウメイが目覚めた事により、三人とも手を取り合って笑顔を見せる。
花織が今だぐずっていたヨウメイの手を取った。
「楊ちゃん、改めておはよう。昨日は御疲れ様。」
花織にならってにこにこ顔のゆかりんと熱美。
ヨウメイは彼女達に手をとられながらきょとんとしていた。
おもいきり泣いた所為で目は真っ赤であったが、順番に三人を見つめる。
そして、最後に首を傾げて、呟いた。
「・・・お姉ちゃん達、誰?」
三人は、最初彼女の言っている事がわからず反応できなかった。
“お姉ちゃん達、誰?”と心の中で何度も反復。
しばらくして笑いながら答えた。
「は、はは、やだなあ、楊ちゃんたら。花織だよ。」
「そうそう、で、あたしはゆかりん。」
「そして熱美。わたし達親友じゃない。」
笑顔を作っているが、明らかに戸惑いが現れている。
更にヨウメイはわからないといった顔で告げた。
「・・・誰なの?あたしは・・・誰?」
「よ、楊ちゃん?」
「まさかリスクって・・・記憶喪失!!?」
「それも重症だよ!!早く皆を起こさないと!!」
きょとんとしているヨウメイを残し、急いで皆に知らせようと立ちあがる三人。
その時、ゆっくりと部屋の扉が開き、そこへシャオが顔を覗かせた。
「大丈夫、です。皆さん起きましたから・・・。」
花織達がそれに振り返ると、ぐったりとした面々がそこに居た。
おそらく、最初のヨウメイの泣き声で急いで駈けつけたのだろう。
当然、強烈なダメージを負いながら・・・。

朝食を手っ取り早く済ませ、皆はリビングにて会議を開く。
肝心のヨウメイは花織達の傍できゃっきゃっとはしゃいでいた。まるで幼子の様である。
説得に時間がかかったものの、とりあえず名前だけの認識はさせられたのだ。
「それにしても・・・ただの記憶喪失にも見えないわねえ。」
食後のおやつと称してぼりぼりと煎餅をかじっているルーアンが呟く。
彼女の意見は皆の思っていることを表わしてもいた。
そう。ただの記憶喪失なら、これほどまでに子供っぽいのはおかしいからだ。
ヨウメイなら統天書をひいたりしてそれなりに調べようとするはずである。それが無いのだ。
「ねえ花織。」
「なに?熱美ちゃん。」
「なんか楊ちゃん・・・背も小さくなってない?」
起きた時から目をつけていたのだろうか、熱美が疑問を口にする。
それはその通りであり、昨日ぴったりだったはずの着ていた服はだぶだぶ。
また、立ち上がった状態での背の高さを見れば一目瞭然であった。
「はあ、楊ちゃん・・・。」
「花織お姉ちゃん。」
「な、なに!?」
ため息をついたところで、ヨウメイに呼びかけられてハッとなる花織。
ヨウメイはすっかり彼女になついていて、それで傍ではしゃいでいるのであった。
「剣玉で遊びましょ。」
「剣玉?」
「そ、背中に持ってるでしょ。あたし知ってるもん。」
「ちょ、ちょっと楊ちゃん!」
背中に手を伸ばすヨウメイに抵抗する花織。それを見て、慌ててゆかりんと熱美も加わる。
遊びたがりの幼女を、必死でなだめようとする花織達であった。
「あれがヨウメイちゃん・・・。」
「普段の凛々しさはどこへやらって感じだな。」
「いつも以上にタチが悪くなっただけという気もしますが・・・。」
皆が戸惑う中、出雲だけはちょっと冷静な意見だ。
しょっちゅう被害をこうむっている彼にとってみれば、それほど行動は変わらない様にも見えるのだろう。
何も言えずに、なんの策も思い浮かばずに、ただただヨウメイと花織達とのやりとりを見る面々であった。
「・・・ふう、ふう。はい、剣玉。」
「わ〜い。それぇ〜。」
「ちょっと楊ちゃん!振り回しちゃだめだってば!」
彼女達のそれは、ただのじゃれあいにも見える。
しかし、相手をしているものの花織達の心境はそれどころではなかった。
ヨウメイを元に戻す方法を、太助達が考えてくれるのを期待しているのである。
と、そこでようやく会議の本題に入るべき発言をキリュウが出した。
「とにかく、しばらく待ってみるか?ヨウメイ殿が元に戻るのは時間の問題かもしれない。」
すると、すかさず横から那奈が言う。
「でもさあ、ずうっとあのままだっていう可能性もあるんじゃないのか?
アレだけヨウメイがためらっていたリスクだ。それくらいは考えられなくない。」
そこで再び皆は黙り込んだ。もし那奈の言う通りだとすれば、元に戻す方法など見当もつかない。
困った様にシャオと顔を見合わせた太助も、どうしようもなさそうにと首を横に振るのだった。
その時。
ヒュ〜ン
と、剣玉がすっ飛んでテーブルの下にすとんと落ちた。ヨウメイが放り投げてしまったのだろう。
「うえーん、剣玉が〜。ルーアンおばちゃん、とって〜。」
「な!!!?だ、誰がおばちゃんですってー!!!!」
子供は正直だ、と言わんばかりに何人かが頷く。
更にルーアンが怒り出す前に、キリュウがすっと彼女を止めた。
「落ち着かれよ、今のヨウメイ殿に怒っても無駄だ。」
「ぐっ・・・。」
怒りを静めつつゆっくりと座るルーアン。その間にキリュウが剣玉を拾い上げてヨウメイに手渡す。
「ありがとう、キリュウお姉ちゃん。」
なんともほほえましいその顔にキリュウの心も和む。
手渡したのちもボーっとしていた彼女をシャオがつついた。
「どうしたんですか、キリュウさん?」
「ん?あ、いや。このままの素直なヨウメイ殿でもいいかな・・・じょ、冗談だ。」
途中で慌てて否定の意をとるキリュウ。花織達のきつい視線に気付いたからである。
なんとなくキリュウの気持ちがわかった太助は、密かに心の中で同情していた。
実は、たかしもそんな気分で多少居たのである。
しかし、花織達の視線を見て反省。ぶるぶると頭を振っていた。
「?どうしたのさ、たかし君。」
「いや、なんでもない。ちくしょう、俺は熱き魂の保持者失格だぜ・・・。」
「・・・あんまり思いつめない様にね。」
わけがわからないなりにもそれなりに心配する乎一郎。
兎にも角にも、ヨウメイをもとに戻そうにも、皆完全に行き詰まっている様である。
「皆!このままでいいの!?」
「そうは言っていませんが、方法が見付からないのでは・・・。」
花織のきりっとした発言に出雲がお手上げ状態で答える。
昨日のバトルで用いた術、という原因自体はハッキリしているが、
今のところ分かっているのはその事だけなのだから。
「ねえ花織。」
「何よ、熱美ちゃん。」
「楊ちゃんがもし居たらこんな時どうするのかなあ・・・。」
「何を言い出すのよ。楊ちゃんがこんな状態なのに・・・。」
「そうか、そうだよねえ・・・。」
相変わらずヨウメイは楽しそうに剣玉で遊んでいる。
暗い表情でそれを見つめる花織と熱美。と、そこでゆかりんがポンと手を打った。
「統天書!!!」
「「はあ?」」
「だから統天書だよ!!統天書を見れば、楊ちゃんを元に戻す方法がわかるはずだよ!!
という訳で七梨先輩、山野辺先輩!!」
力いっぱいに告げたゆかりんに反応し、皆が太助と翔子に注目する。
数秒の間の後、皆の顔が輝き出した。
「そういえば太助様も翔子さんも統天書が読めるんでしたよね!」
「その手があったな。統天書が読める二人に調べてもらえば!」
「ヨウメイちゃんは元に戻せるってわけだ!」
「じゃあ早速!二人ともお願いします!!」
次々に迫られ、混乱する太助と翔子。
二人して顔を見合わせながらなんとか手段を飲みこみ、そして頷いた。
「分かった、やってみるよ。」
「けどなあ、どこに何があるかわかんないから・・・。」
「根気が要るってわけね。大丈夫よ、あたし達がしっかり手伝うから。
絶対にヨウメイを元に戻す方法を見つけてよ!!」
ルーアンが一番意気込んでいる様にも見える。
さきほど“おばちゃん”と呼ばれたのが相当頭にきただろうのか。
「さっすがルーアン先生!」
「七梨先輩、山野辺先輩、あたし達もしっかりサポートします!」
「疲れを癒すぐらいしかできないかもしれませんが、頑張ってください!」
「頑張れ〜。太助お兄ちゃんに翔子お姉ちゃ〜ん。」
積極的な彼女に拍手を送る花織達。何故かヨウメイもそれに混じっているが・・・。
早速キリュウが部屋から統天書を持ってくる。
テーブルの上に置き、それを太助がぱらっとめくる。そして文字を読み出した。
「えーと、統天書との同化について・・・あれ?」
「・・・なに?いっぱつで見付かったの?」
「そうみたい・・・。」
だああと、なにかしらをくじかれた面々。しかし、余計な手間がかからなかったのは幸運といえよう。
太助は、早速そこに書かれてある項目を読み出した。
「なになに・・・統天書と自らを同化させる事によって、統天書の記述すべてを行う様になれる。
これを統天書との同化といい、その原理は・・・

「七梨、そんなもん飛ばせよ。」
「分かってるって、長くなりそうだし。えーと・・・
なお、この術を行う事によって、統天書に術者のすべてが吸収されていく。
その影響が出るのはしばらく後だが、これにより、術者は将来消える運命になる。
・・・という事なのです。本当はあそこでサヨナラを言うべきだったのですけどね。

・・・ヨウメイ?」
「なんだって?」
途中から記述が変わった物に成る。そこで皆が一斉に傍に寄った。
勢いでこけそうになったものの、なんとかそれをとどめて、太助は再び文字を読み出した。
ここまで読めば分かるかと思いますが、私はもはや消える運命にあるのです。
今皆さんの傍に居る私だったもの、それは記憶等すべてを失いつつある直前の私。
幼くなっているのは、それだけ時間を吸い取られたりして影響を受けているというわけですね。
ですから少しお願いがあります。今すぐそこに居る私を空天書に戻し、他の地へ送って下さい。
そうすれば、数百年で私は消えずに元に戻る事が出来ます。
だから、皆さんに会う事はもうないでしょうね・・・。
花織ちゃん、熱美ちゃん、ゆかりん、ありがとう、そしてごめんなさい。

「「「そんな!!!」」」
声をそろえる三人。ここに書かれてあるのは今生の別れだという事だ。
そんな事に当然すぐに納得できるものでもない。
三人は今だ剣玉で遊んでいるヨウメイに慌てて駆け寄った。
「楊ちゃん、嘘だよね!!」
「すぐに元に戻るんでしょ?」
「まだまだ一緒に勉強したり遊んだり!」
きょとんとしていたヨウメイだが、恐い顔の三人を見てわぁっと泣き出す。
ハッと我に帰った三人は、戸惑い気味に彼女をあやすのだった。
その様子を見ていた面々は何も言えなかった。
統天書に書かれてある事柄は真実であるから、これを実行しなければヨウメイが消えてしまう。
だが、花織達の様子を見ていると、すぐに出来る様には思えなかったのである。
なんともいたたまれなくなって俯く翔子。と、何かに気付いたのか統天書を手に取った。
「ど、どうしたんだよ、山野辺。」
「続きがある。えーと・・・
ただ、一週間は私はあのままです。実行するならそれまでにお願いします。
もう一つ、どうせこの統天書の性質上すぐ分かる事ですので、言っておきます。
中国のとある山奥に、私を元に戻す方法を知っている者が居て、
一週間という期間内ならば、その者に訊けばそれが分かります。
場所は教えません。統天書のどこかに載ってはいますが、到底一週間で見つけられないでしょう。
もし見つけたとしても、ものすごく危険なので試さない様お願いします。
どうです?私を空天書に戻す方がいいでしょう?
だからお願いします。危険な事はしないでください。
それでは空天書に私を戻す方法ですが・・・。

翔子はそこでバタンと統天書を閉じた。驚きの表情で彼女の顔を見る面々。
と、それを制する様に翔子はにやりと笑った。
「どうする?一週間かけてヨウメイを空天書に戻す方法を見つけるか、
一週間より短い時間をかけて中国奥地の場所を探すか。選べよ、七梨。」
「お、俺?」
「ああ。もちろんみんなの顔を見ながらな。」
ゆっくりと皆を見まわす太助。翔子の発言がよくわからない者は居なかった。
それぞれ、ほぼ同一の顔をしている。満場一致のようだ。
「・・・中国奥地の場所を探す!」
「おっし。それでこそ我が弟!」
那奈が褒めちぎらんばかりに太助の頭を拳でげしげしと・・・。
「な、那奈ねぇ、いじめは良く無いって。」
「何を言ってるんだ翔子、これは祝福だ。」
「いたいいたい、止めろって那奈姉!」
那奈のそれによって太助に対する祝福は収まっていたが、それぞれがやる気である。
花織達は、ヨウメイの手を取って跳ねまわり、出雲、たかし、乎一郎は調べる準備に取りかかる。
シャオ、ルーアン、キリュウも、それぞれ独自の手助け方法を思い付いた様であった。
ともかく時間があまり無いので、話もそこそこにして、早速太助と翔子が統天書を読み出した。
シャオが食事の用意、ルーアンはその他の雑用。
那奈、出雲、たかし、乎一郎は統天書をめくっていく手伝い。
花織、熱美、ゆかりんはヨウメイの相手。
キリュウは、以前ヨウメイから教えてもらっていた万象大乱の効率の良い用法を随時試していた。
皆が皆、寝る暇も惜しんで総力戦。(もちろん、交替交替という事である)
翔子が主に昼の十二時間、太助が夜の十二時間、統天書を必死に読む。

ただ、当然ながら順調にいかない時もある。ある日の食事時間など・・・。
「ふう・・・。」
「わーい。太助おにいちゃん、あーん。」
「ありがとう・・・。」
ぱく、と差し出されたスプーンに乗っかってるものを口にする太助。
もぐもぐと食べるその姿を見て、にこりと笑顔を浮かべるヨウメイ。
そして、ヨウメイを座って抱きかかえている花織。
その光景をちょっとばかり引きつった笑顔で見ているシャオ。
その隣では、呆れたような表情のたかし、そしてルーアンが居た。
「たく、花織ちゃん。なんでそんな食事なんだよ。
もたもた食べてる時間なんて無いってのに・・・。」
「しょうがないでしょ、楊ちゃんが是非こうやって食べたいって言うんですから。
言い出したら聞かない子ですから・・・。」
「次はシャオリンおねえちゃんだよ。はい、あーん。」
「あーん。」
太助と同じように食べ物を口にするシャオ。ちょっと戸惑っている様にも見える。
次にはたかしがそれを受ける。そして・・・
「ルーアンおばちゃん、あーん。」
「ぐっ、こいつは・・・。」
キレそうになりながらも必死にそれをこらえ、おとなしく口を開くルーアン。
普段のがつがつした食事ができないというストレスも溜まっているのだ。
それでもおとなしく食べている事から、ヨウメイは駄々をこねずにいる。
ルーアンのそんな懸命な姿に、太助は同情せざるを得なかった。
そのまま、ぱく、ぱく、としたなんとも遅い食事が続けられる。
休憩がてらキッチンに顔を出したキリュウは、
「恐ろしい試練だ・・・。」
と、ぼそっと呟いていた。(後で彼女も、ヨウメイの“あーん”を受ける羽目になったが)
そしてまたある時は・・・。
「えー、それではこれから皆で、劇『竹取物語』を始めまーす。」
「わーいっ。」
花織が抱きかかえているヨウメイがぱちぱちぱちぱちと拍手する。
劇を見たいなどというとんでもないだだをこね始めた彼女を落ちつかせる為、
仕方なく劇が開始されたのであった。
ただ、太助と那奈、そして熱美は統天書探索の為にこそっとせきを外している。
この劇は以前二年一組でもやったので、役等はほとんど同じ人物が。
太助の代役はたかしが務めているというわけである。ちなみにゆかりんは朗読係だ。
「今は昔・・・。」
“なんであたしがこんな事を”と心の中で呟きながら、皆が劇を進めていくのを見守っている。
「おい野村、あたしのセリフなんだっけ。」
「前回もお前そんな事言ってたな・・・。」
とまあ、セリフを忘れている者が居たり。
「似合ってますねえ、キリュウさん。」
「・・・何故私がルーアン殿に求婚しなければならないんだ。」
「しょうがないでしょ、人が足りないんだから。・・・ってシャオリン!」
「はい?」
「はい?じゃないでしょ!車騎を使おうなんて無理がありすぎよ!!」
「でも、後二人足りないんですし・・・。」
とまあ、人手不足から妙ないざこざが起こったり。
「ルーアン先生・・・僕は今度もやります!」
「遠藤君、力みすぎないでくださいね。」
とまあ、気合が密かに入っている者も居たり。
ヨウメイと一緒にそれらを見ていた花織は、
「なんでこんな面倒な事になったんだろ。早く終わらないかな・・・。」
と、重いため息をついていた。
ちなみに裏方を懸命にこなしていたのは当然、女御や羽林軍といった星神達である。
また、夜にヨウメイを寝かしつける時などは、誰かが必ず話を語って聞かせた。
意外にもその役をかってでたのは出雲。普段から口説き言葉を考えている所為か、
話作りもお手のものなのだろう。たまに那奈が横からちゃちゃを入れに来たりもしたが。
ところで、統天書は一度閉じた後は開けたすぐに同化についての記述がすぐに開くようになっていた。
もちろんこれはヨウメイが施していたものだが、太助達は偶然それを発見した。
“用意周到な・・・”と改めて苦笑したりもしたのだった。

そんなこんなで時間が流れる。
努力の甲斐あってか、三日目の夜、ついに太助は目的の記述を発見した。
「これだ!かつては桃源郷とも呼ばれた幻の地。そこには・・・。
ふむふむ、あとは記述に沿って、そこを目指すだけだな。
よしみんな、早速出発しよう!!・・・あれ?」
元気良く立ち上がった太助だったが、すでに皆は休眠中。
傍に居たのは、統天書を支えたままうつらうつらとしている那奈だけであった。
「おーい、那奈姉。」
「むにゃ・・・。太助助けて〜、だって。しらけるよな〜・・・。」
「・・・おーい。」
あまりにもくだらない寝言にうっかり統天書を閉じそうになったが、
それでもしっかり持ちなおして再び呼びかける。
しかしそれ以後、那奈の反応はない。更には、太助にも眠気が訪れてきたのである。
「やばい。今山野辺が眠ってるから、俺が寝るわけには・・・。」
必死に頑張るも、根を詰めすぎた所為もあり、眠気が執拗なまでに彼を襲う。
だがその時、それから救う者がリビングに姿を見せた。シャオである。
「太助様、徹夜御疲れ様です。もう少ししたら朝食の時間ですから、翔子さんと交代してください。」
「シャオ・・・。助かったあ・・・とと、急いで皆を起こしてくれ。場所が見付かった。」
「はい、もうすぐ朝食に・・・え?見付かったんですか!?」
シャオの声にこくりと頷きながら、その記述の場所を指差す。
そしてそこを閉じない様に支えたまま、シャオに持たれかかって寝息を立てる。
彼女も急いでその統天書を一緒に支えて、支天輪を構えた。
「来々、羽林軍!皆を起こしてきて!」
支天輪から大人数の羽林軍が現れる。いわゆる人海戦術を用いたというわけだ。
そこでのいざこざに那奈が二人の次に目を覚ます。
「シャオ?どうしたの?ふあ〜あ・・・。」
「那奈さん、朝食を済ませたら出かけましょう、中国へ!」
「へ?・・・もしかして、見付かった?」
那奈の声にこくりと頷きながら、手で支えている統天書を指し示す。
彼女にそれを託すと、シャオはキッチンへ朝食を作りに行った。
今度は那奈に支えられる形となった太助。すーすーと寝息を立てる彼に彼女は一事告げた。
「結構やるじゃんか。さっすが主だけあるな。」
キッチンでは早速というか、シャオの歌声が聞こえている。
そして、羽林軍に起こされてぞろぞろとやってくる面々。
ちなみに、一番疲れていたのは花織達である。
ヨウメイと遊ぶ。それが食事以外ずうっと続く。
遊ばないとヨウメイが泣く。泣き声によって調べものどころではなくなる。という事だ。
朝食時間に詳細を聴いた皆は、いよいよという感じで気合を入れていた。
そこでたかしが一言。
「まさか本当に中国に行く事に成るとは・・・。」
そう。先日行ったマラソン大会での雑談。
長期休暇の利用法について、見事に現実のものとなったのだ。
「野村、リーダー役しっかり頼むぜ。」
「お、おお!」
翔子に言われてすっかりその気。不思議に思った出雲がこそっと尋ねる。
「翔子さん、なんですか?リーダー役って。」
「みんなを引き連れて旅する責任者。いざという時に役に立つ存在だよ。」
「別に要らない気もするんですが・・・。」
胸を張って色々と力を込めているたかしをちらりと見る出雲。
だが、そんな彼の妙な心配をよそに、皆はたかしと一緒に盛り上がっていた。
その中で、ルーアンとキリュウは少し浮かない顔でいる。
「ねえキリュウ、あたしなんだか不安なんだけど。」
「ルーアン殿もか。実は私もな・・・。見付かったはいいが、ヨウメイ殿が勧めないほど危険。
となれば、絶対に無事に済むはずは無いだろうからな。
それに、ヨウメイ殿を元に戻す方法を知っている者とは一体・・・。」
「それにね、たー様が言ったあの場所、なんか引っかかるのよ。
地図に載ってなかったような・・・。」
「とりあえず油断はできないな。シャオ殿にもしっかり言っておくとしよう。」
こくりと頷き合う二人。
そんな二人をよそに、なんともにぎやかな食事が行われる。
こうして太助達は、統天書の記す場所、中国へと旅立つ事に成ったのである。

≪第二十一話≫終わり