小説「まもって守護月天!」(知教空天楊明推参!)


≪第二十話≫
『安堵の夜』

午後五時、遥か空の向こうから姿を現した大きな絨毯が七梨家に舞い降りる。
玄関前にふわっと着地したかと思うと、
その絨毯の先頭に立っていた碧髪の少女が元気いっぱいにそこから飛び降りた。
「到着〜!!皆さんお疲れ様でした〜!!」
明るい元気な声が辺りに響く。
だが、その少女とは逆に絨毯に乗っていた他の者達はぐったりと座ったまであった。
世にも恐ろしいと思われる運転から無事解放されたものの、やはり後遺症があるようだ。
「ちょっと、なにだれてんですか!!シャオ先輩も!早くお夕飯を作りましょうよ!!」
「は、はい・・・。」
名指しをされて、薄紫色の髪の少女、シャオがふらあっと立ちあがる。
それに遅れながらもその他の面々も立ちあがった。
「なんて乱暴な運転だったんだ・・・。」
「さすがの俺も熱き魂を燃え付かせざるを得なかったぜ。」
「たかしくん、笑えない冗談はやめてよ・・・。」
「とにかく無事ついたんだ、早く家に上がって休もう。」
「ほらほらおに〜さん、どうしたんだよ。」
「よ、酔いました・・・。私はああいうのは苦手で・・・。」
「宮内殿、それも試練だ。」
それぞれ愚痴をこぼしながら、絨毯を後にする。
と、まだ残っているのが三人、いや四人ほど。
「ルーアン、早くこいよ〜。」
「あーん待ってよたー様〜。」
会話だけなら別の場面を浮かべてもよさそうなものだが、雰囲気を見るとそうはいかない。
くたくたの状態で呼びかけた太助にのそっとルーアンが立ち上がったというだけなのだから。
「な、なんか前にもこんな事があったような・・・。」
「気の所為だよ、ゆかりん。気にしちゃだめ・・・。」
ルーアンに続いてゆかりんと熱美が立ちあがる。もちろん二人でヨウメイを支えての状態だが。
「ごくろーさん、あんた達。」
すっとルーアンが彼女達に手を差し伸べた。
ふらふらとして倒れそうだったのが見ていられなかったのだろう。
「あ、すいません、ルーアン先生。」
「気にしなくて良いわよ。これくらいは・・・ね。」
眠っているヨウメイの顔を見てルーアンの顔が曇る。
結果的にはシャオと同じ様に悔やみの念でいっぱいなのだ。
だが、それを振り払う様に顔を横に振ると、にこっと笑顔を見せて二人に告げた。
「さ、行きましょう。疲れたでしょうから今晩は泊まっていきなさい。」
「え?で、でも・・・。」
「ご迷惑なんじゃ。」
熱美もゆかりんも遠慮気味。
以前試練を終えた際にも遠慮していたのだから当然といえば当然であろう。
「功労者の親友を追い返すわけにはいかないでしょ。
どうせ他のみんなも泊まっていくでしょうし、おとなしく先生のいう事をきいときなさい。」
疲れも忘れるようなウインクをして見せるルーアン。
それを見て、二人は顔を少しばかり輝かせて丁寧にお辞儀をして返すのだった。

にぎやかな、もとい疲れている所為か物静かだった夕食を終えてリビング。
奇しくも、本日の質問時間の時と同じ様な状態で皆はソファーに座っているわけだ。
しかし、ヨウメイを含む花織達四人の姿は見えない。実はキリュウの部屋に居るのだ。
「それにしてもよく無事に戻って来れたよな・・・。」
美味しい料理を食べて疲れが取れたのか、太助がまず呟いた。
それに続いて言葉を上げるものは居ない。いま更ながら恐怖が再び舞い戻ってきた所為もある。
と、那奈が太助の頭をこんと小突いた。
「いたっ。なんだよ那奈姉。」
「なんだよじゃないだろ。こんな時にもうちっと明るい話題は出ないのか?」
「そう言われても・・・。」
反論しようとしたが口を噤む太助。
やはりあのとんでもない出来事で気が参っている事を再認識したからだ。
と、それをフォローする形でキリュウが喋り出した。
「それでは質問時間としようか。今日の戦いについて。
訊きたいことがあればなんでも訊かれよ。私がそれなりに答える。」
驚いた皆が注目したのは言うまでもない。
一人、彼女の隣に座っていたルーアンがひじで突つく。
「ちょっとキリュウ、どういうつもりよ・・・。」
「疑問が沢山あるだろうしな。それだけだ。
以前の試練と同じではないが、皆の納得のいかない事を消す。
ヨウメイ殿の代わりに私がやる、という事だ。今回はルーアン殿にも手伝ってもらうぞ。」
言われてルーアンはため息をつく。
確かに今日の戦いは振り返りたくないものではあるが、納得させておきたいことも多分にある。
“仕方ないか”と思いつつ、ルーアンは首を縦に振った。
「よし、それでは・・・」
がちゃっ
キリュウが言いかけると同時にリビングの扉が開く。
入ってきたのは花織、熱美、ゆかりんの三人。ヨウメイを部屋に寝かせて戻って来たのだ。
「あんたたち、ヨウメイの傍についてなくていいの?」
「ルーアン先生、寝ている人の傍でずうっと居るのも・・・。
だいたい、楊ちゃんは病気で寝てるわけじゃないんですから。」
花織が反論すると、ルーアンはそれもそうかと頷いた。
「丁度良かった三人とも。今から今回の戦いについての質問時間に入る。
という事で三人も加わられよ。」
淡々と説明して目で促すキリュウ。三人は顔を見合わせたかと思うと空いている場所に座った。
“オホン”と一つ咳払いするキリュウ。それを見て“ヨウメイの癖が伝染ったのか?”
などとくすくす笑うものが数人。彼女は別段気にもとめずに喋り出した。
「それでは一人一つ、質問を受け付ける。」
今日何処かで聞いたようなセリフに、ルーアンはキリュウをちょいちょいとつついた。
「なんだルーアン殿。」
「なんだじゃないでしょ。あんたいつからヨウメイのものまねするようになったのよ。」
「別にそんなつもりはないが・・・。」
「だったらくだらない事言わないの。みんな、訂正するわね。
別にいくら質問してもいいから。なんでも疑問に思ったことを言って頂戴。」
皆を見回して、場を改めるルーアン。
少しキリュウは不機嫌な顔に成ったものの、すぐにルーアンと同じ様に皆を見回した
「はいっ。」
「どうぞ、シャオリン。」
「あの、私は答える側に回らなくていいんでしょうか?」
「別に。すきにすれば?」
なんともそっけない返事だったが、シャオは少し俯いて首を横に振った。
「やはり遠慮しておきます。質問したい事もありますし。」
「そ。じゃあ他には・・・」
「はいっ!」
次に手を挙げたのはたかし。なんとも元気のいい声だ。
「どうぞ、野村君。」
「えーと、ヨウメイちゃんがいったん寝てから起きるまでの間なんですけど。」
「ふんふん。」
「ルーアン先生とキリュウちゃんの連携でかなりいい所まで行きましたよね?」
「ああ、あの大量の陽天心光玉を作った事。」
「そうです。あそこで実はとどめをさせたりは出来たんじゃないでしょうか?
また、あれって咄嗟に考えた戦術なんですか?」
「それはねえ・・・むぐ。」
答えようとしたルーアンの口をキリュウがさりげなく塞ぐ。
自分が質問に答えると言ったのに、ずうっとルーアンに出番を取られっぱなしだったからだ。
「・・・分かったわよ、あんたが答えなさい。」
「うむ。まずとどめだが・・・消滅させられて復活したのだから結局は無理だったのだろう。
そしてあの戦術だが、咄嗟に思いついたものだ。敵の力を逆手につかえないものかと思ってな。
どうだ、なかなかの好判断だろう?いかに私が・・・むぐ。」
今度はルーアンがキリュウの口を塞ぐ。途中で遮られた彼女は不機嫌そうにルーアンを見た。
「なんのつもりだ・・・。」
「あんたねえ、喋りすぎよ。いつからそんな御喋りになったのよ。」
「ただの気まぐれだ。まあいい、とりあえず答えはこれでいいか?野村殿。」
あっけに取られてそれを見ていたたかしだが、キリュウに言われてこくこくと頷いた。
「それでは他に質問は?」
皆を見回したのは今度はキリュウ。と、静かに手を挙げたのは翔子だ。
「翔子殿、なんだ?」
「キリュウはさあ、ヨウメイがあんな術を使えるって知ってた?
・・・って、知ってたら最初っからなんやかんや呟いてたはずだよな。
まあいいや、次いってくれ。」
質問したと思ったら一人で解決した様だ。
ところがキリュウにはそれが納得いかなかったようで、呆れた表情で呼びかける。
「翔子殿。」
「うるさいなあ、次いってくれって言ってるじゃないか。
・・・あ、そうだ、やっぱり質問できた。
最後にヨウメイが戦ってた時の心境を聞かせてくれよ。」
コロコロと変わる翔子に戸惑っていたキリュウだが、
ルーアンと顔を見合わせて、シャオにも更に答えるように促した。
「まずあたしは、ただただ驚いてたわね。あんなに強かったんだ〜って。
ねえシャオリン、あんたがキレた時よりも強かったわよね。」
「私がキレた時がどんなのかは良く分かりませんが・・・とにかく凄いと思いましたわ。
それと同時に・・・結局ヨウメイさんに全てを頼ってしまって・・・。」
「シャオ殿、そこまでにされよ。私の意見はルーアン殿とほぼ同じだ。
ただ少し心配事がある。結局最後までヨウメイ殿が告げなかったリスク。
一体あれがなんなのか・・・。ただ長期にわたって眠るだけなら良いのだが・・・。」
それぞれはらしいと言えばらしいという答え。
翔子は“ふーん”という感じで聞いていたが、花織が遮る様に喋り出した。
「大丈夫ですよ!なんと言っても楊ちゃんですもの。
ひょっとして明日には目を覚ますかもしれませんよ!」
明るい花織の声。その雰囲気に押されてか、皆はなんとなく明るい顔になる。
ただ、やはりキリュウは少し暗い表情で居た。
「そう簡単に済む事を願うがな。やはり私は不安だ。」
普段からヨウメイと一緒に居る事が多く、また深くを知っているためにキリュウの気は晴れない。
そんな彼女を見かねてか、出雲がふぁさぁと髪をかきあげた。
「キリュウさん、心配してもしょうがないでしょう?」
「それはそうだが・・・。」
「キリュウさんの気持ちもわかります。ですが、心配するだけ損でしょう。
もう一つ、これは私の仮説に過ぎないですが・・・心配しすぎる事によってその結果が起こる。
これはヨウメイさんが説明してくださった、因果律の一つとは言えないでしょうか?」
半分冗談混じりの顔で告げる出雲。
キリュウは彼の突拍子も無い説明を聞いて、“ふっ”と笑みを浮かべた。
「なかなかに上手い言い方だな・・・。
そうだな、確かに心配ばかりしていても始まらない。
無事に全てが終わったのだ。ヨウメイ殿がのんきな声で目覚めるのを待つとしよう。」
ようやく顔の曇りを消したキリュウ。そこで皆もやれやれと息をついたのだった。
「さてと、それじゃあ次の質問を言ってちょうだい。」
「はいっ。」
「シャオリン?まあいいわ、なにかしら?」
「最初おっしゃってましたよね、私が最後の砦だって。」
「へ?あ、ああそういえばそうね。で?」
「でも結局務まらなくて・・・。すいません。」
深深と頭を下げるシャオ。何を今更という感じだ。
「あのねえシャオリン、もうその事は済んだでしょ。気にしちゃダメなの!!」
「でも・・・。」
「うるさい!!これ以上神経質になるならすべての家事をあんたに押し付けてやるわ!!」
怒り口調で立ちあがるルーアン。びくっとしたシャオはおずおずと再び頭を下げる。
端でそれを見ていた太助はぼそっと呟いた。
「いっつもシャオが家事全部やってるのに・・・。」
「太助・・・。ま、言えてるけどな。」
うんうんと頷く那奈。それが聞こえたのか、ルーアンが気まずそうに座る。
と、彼女に続く様に、太助がまた喋り出した。
「あのさあシャオ。いつまでも過ぎた事を気にしちゃダメだって。」
「ですが・・・。」
「もうちょっと気楽に、な?シャオが気にした所でどうなるもんでも無いだろ?」
「・・・そうですね。ありがとうございます。」
やっとのことで笑顔を見せた。そこで疲れがどっと出たのか、皆が一斉にため息をつく。
まさかシャオがこの時点まで気に病んでいるとは思っても居なかったからだ。
「さてと。それでは他にないか?」
しきり直しにキリュウが皆に告げた。と、そこで再び挙手するシャオ。
「なんだ?シャオ殿。」
「えっと、もうこれ以上何者かが現れたりする事はないですよね?」
先ほどの笑顔はどこへやら、かなり深刻そうな顔だ。
ただ、それを聞いて皆も同じ心境。しかしそれをいさめる様にルーアンは“ふっ”っと笑った。
「心配ないって。もし出たとしても、あいつよりは絶対弱いはずよ。
それだったら、あたし達の連携で充分かたがつくわ。」
「・・・ですよね。ありがとうございます。」
「いえいえ・・・ってあんた、仮にもあたし達がそんな事分かる訳無いでしょうに。」
「いえ、ちょっと不安になったものですから・・・。」
「ま、それが無くなったんならいいわ。さ、次の質問ドーンとこい!」
ドンと机を叩くルーアン。どういう心境の変化なのかは分からなかったが、
とりあえず景気付けのようなものだろう。
しかし、特に質問する人物は居なかった。疲れている所為もあるだろうが・・・。
「ほらほら、しめきっちゃうわよ〜。」
何かの商売という感じもする。最初に質問を言い渡したキリュウも横で見ているだけだ。
そこですっと手を挙げた人物が。花織である。
「なあに?小娘。」
「もう寝ませんか?今日は疲れたから・・・。」
質問ではなく、本日の終了の申し出であった。
多少不満そうな顔をしていたルーアンだったが、一つ大きなあくびをすると・・・。
「じゃ、今日は御終い。明日にまた訊きたいことがあったら訊いてちょうだい。」
と、一番にリビングを後にした。なんともあっさりとした態度である。
「なんなんだ・・・。ま、ともかく皆御休み、だな。
さて、どこで寝るかだけど・・・」
「あたしが提案する!!まずキリュウはあたしの部屋でルーアンと。
翔子とあたしとシャオはシャオの部屋で。
で、そこの三人はキリュウの部屋、つまりヨウメイが寝ている部屋だ。
後の男性陣はてきとーに空いてる部屋を使う様に。以上!!」
太助の声を遮りつつ、すかさず立ちあがった那奈は弾丸のごとく説明。
そして反論する暇を与えずに女性すべてをリビングから退室させていった。
口々にお休みを言い、後に残ったのは太助、たかし、乎一郎、出雲の四人。
「・・・すげえな。」
「最後まで押されっぱなしだったね。」
「昔からあんな調子でしたねえ、那奈さんは。」
「勢いあり過ぎだ。ともかくおやすみー・・・。」
さりげなく去ろうという太助の肩をたかしはぐいっとつかんだ。
「な、なんだよたかし。」
「なんだよじゃないって。俺らはやっぱりリビングで寝ろって事か?」
「そうなるじゃないか。心配しなくても毛布もって来るから。」
「ま、それが正論ですね。」
あわよくば太助の部屋のベッドで自分が寝ようとも考えていたたかし。
しかし、見ての通りあっさりとそれは却下となった。
そしてそれぞれの夜が訪れる・・・。

太助の部屋。
「統天書の事を色々と知りたいと思っただけなんだけどなあ・・・。
まさかこんなとんでもない事態が起こるとは思っても見なかった・・・ぐー・・・。」
多少の考え事をしていたものの、太助はすぐに眠ってしまったようである。

シャオの部屋。
今日の事が原因となってか、シャオは布団に入るなりすぐに眠ってしまった。
その隣で小声で会話を交わす那奈と翔子。
「色々あったけど、とりあえず作戦を立てないとなあ。」
「最後に太助とシャオが二人で抱き合ってたとかいう事をちらっと聞いたけど。
それだけじゃあ仲が深まったとは言い難いし。」
「ただ、ヨウメイがとっとと目覚めてくれないと。」
「それより翔子、統天書が読めるようになったんなら今がチャンスかもよ?」
「そうか。ヨウメイが寝ている今、統天書はフリーだもんな。早速明日から読み漁ってみるか。」
「けれどどこに何が書いてあるか分からないんじゃ・・・。」
「だからこそ那奈姉、手伝ってくれよな。」
「ま、ページめくりくらいなら。よし、頑張るか。」
「おっしっ。」
がっちりと握手する二人。すでに新たな作戦を計画し始めている様だ。
ちなみに、離珠はそれを密かに聞いていた様である。
とはいっても、小さな布団で横になっていてたまたま聞こえたというだけの事であるが。

那奈の部屋。
ルーアンの超絶な反発により、キリュウは目覚ましをかけずに横になった。
それでも、まだ諦めていない様であり、ちょこちょこと声をかけている。
「ルーアン殿ぉ・・・。」
「うっさいわねえ!!一晩くらい我慢しなさいよ!!」
「私は今まで何日も目覚ましを我慢してきた。
とりあえず今日はヨウメイ殿に関係無く目覚ましをかけるチャンスなんだ。」
「そんなの知らないも〜ん。・・・これ以上うだうだ言うってんなら、
陽天心使って強制的に眠らせるわよ。」
「ならばこちらも万象大乱で応戦するまでだ。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
沈黙の時が流れる。が、あほらしくなったのか、二人ともそれ以上争うのをやめた。
「疲れたわ・・・御休み・・・。」
「ああ、御休み・・・。」
適当に平和に解決した模様で、二人して寝に入った。
先ほどまでの言い争いが嘘のように静かである・・・。

リビング。
「ぐー・・・熱き魂の叫びが〜!!!!!・・・ぐー・・・。」
「ねえ出雲さん。」
「なんですか?」
「たかし君を一人太助君の部屋で寝かせた方が良かったんじゃ・・・。」
「今更遅いですよ。まったく、どうして彼はこうも無駄に元気なんですかねえ。」
「・・・うおおおおー!!!!・・・ぐー・・・。」
「「はあ・・・。」」
時折辺りに響くたかしの寝言により、乎一郎と出雲はなかなか寝つけない夜を過ごしているのだった。

キリュウとヨウメイの部屋。
床にヨウメイを含んだ三人、そしてベッドに一人という形でそれぞれが寝ている。
特に言葉を交わすわけでもなく、ヨウメイが早く元気な姿で目覚めてくれるのを思っているのだ。
部屋にひときわよく響いているのは“すーすー”というヨウメイ本人の寝息。
花織たちは、いつも通りの彼女の寝顔にそれなりに安心していた。
ヨウメイは万象復元とかいう類の術を使うたびに、この様な寝顔を見せていたのだから。
(心配してもしょうがないから心配しない、ってのは楊ちゃんが以前言ってたんだっけ?
いや、ルーアン先生かな・・・。なんにしても、楊ちゃんと知り合ったおかげで色んな体験してる。
今日みたいな恐いのはごめんだけど、これからももっともっと色んな事やりたいな。)
(わたしはいつも隣の席で寝顔を見てるけど・・・今回はちょっと心配だな。
でもまあ、楊ちゃんの事だからなんて事ない顔で起きてきそう。
それで悪戯っぽく微笑んだりして・・・。ありえそうだなあ。
とりあえずいつもあれくらい真面目だったらそんなに苦労もしないんだけど・・・。)
(楊ちゃん、早く目覚めてくれないかな・・・。
料理とか色々教えてもらいたいと思いつつもまだ教えてもらってないし。
それにしても今だ信じられないなあ。あたしのあの発見で、今日あんな大変な事が起こったなんて。)
それぞれ今日の出来事をそれなりに頭の中で振り返りつつ、そのうちに深い眠りへと入る。
疲れをすべてとって、いつも通りに親友を迎える為に。

こうして、それぞれの夜は更けていくのだった・・・。

≪第二十話≫終わり