小説「まもって守護月天!」(知教空天楊明推参!)


≪第十一話≫
『悲惨!?たかしの出したある条件』

「万象大乱!」
「来れ、熱風!!」
教室の中の物が巨大化する。教室中に熱い風が吹き荒れる。
そう、久々のキリュウちゃんとヨウメイちゃんの喧嘩だ。
仲直りしたって割にはやっぱり喧嘩してるよなあ。いい迷惑だ・・・。
「やめろ―、二人ともー!!喧嘩はしないんじゃなかったのか―!!」
「見ろ!主殿が怒っている。いいかげんに謝るのだ、ヨウメイ殿!!」
「冗談!キリュウさんが先に謝ってくださいよ!!」
太助の呼びかけにも我関せずって感じだな。よくやるよ、まったく・・・。
だが、そろそろ俺の出番かな。二人の喧嘩を止める!シャオちゃんに好印象を与える!
ふふん、完璧じゃないか・・・よーし!!
「お、おいたかし!?」
太助が止めるのも振り切って二人の間へと駆け付ける。
「キリュウちゃんもヨウメイちゃんもそこまでだ!この俺がこれ以上喧嘩はさせ・・・おわあっ!!」
なんとヨウメイちゃんが呼び出した熱風にあおられて巨大な机が俺めがけて・・・!!
ドガアアアアアン!!
「たかし!」
普段の机なら耐えられたかもしれない。だけど、あれだけ高温の机じゃあ・・・。

気がつくと、俺は包帯ぐるぐる巻きの状態で病院のベッドに寝かされていた。
顔を横に向けるとおなじみのメンバーが。
「良かった、たかし。気がついたんだな。」
「一時はどうなる事かと思いましたわ。」
「奇跡的に命はとりとめたって。良かったね、たかし君。」
「ほんと悪運強いって言うかなんて言うか・・・。」
「楊ちゃんとキリュウさんの喧嘩を止めようなんて、頭がかなり悪い証拠ですよ。」
花織ちゃんのきつい一言を最後にして、みなは喋るのを止めた。
まあ、俺もそんなに真剣に聞いていられるほど気分良くなかったし。
何より、喋って欲しかったのは後ろの方でうつむいてやがる二人だ。
「太助、キリュウちゃんとヨウメイちゃんをこっちに呼んでくれ。」
「たかし・・・。一応傷自体は全部ヨウメイが治療してさ、それで・・・」
「いいから呼んでくれよ!!」
太助の言葉を遮って大声で怒鳴る。一刻も早く二人に言いたい事があったから。
それより、太助の言う通り傷が完治しているのは本当だ。
巻いている包帯はいわば見せ掛けだけのような物。すぐにでも退院できる状態だ。
そして、太助に言われて、申し訳なさそうな顔をしながらも二人はやって来た。
二人が何か言う前に俺が口を開く。
「キリュウちゃんもヨウメイちゃんも、喧嘩は駄目だよ。仲直りしたんじゃなかったの?」
「・・・ついかっとなったのだ。済まぬ。」
「私も余計な事を言いすぎちゃって・・・。」
それなりに反省している様だ。だがもちろん、俺はそんな言葉で納得するわけが無い。
「以前もそんな事を言っては喧嘩してたよね。いいかげん止めない?」
「「・・・・・・。」」
無言の二人。この調子じゃあまたやりそうだよな・・・そうだ!
頭の中にとある面白い考えが浮かんだ。これを実行すれば・・・!
はやる気持ちを押さえ、俺はにこりと笑って二人に告げた。
「俺ならもう怒ってないからもう気にしなくていいよ。
ただ、二人にやってもらおうと思うことが出来たんだ。聞いてくれるかな?」
ざわつく周りを制して、二人ともそれに答えた。
「何でもいい。野村殿が望むのならやろう。」
「私もキリュウさんの意見に賛成です。こんなに迷惑をかけてしまっては・・・。」
よしよし、これだけ素直なら絶対に聞いてくれそうだな。
「それじゃあ言うよ。やってもらうものは漫才。
つまり、二人漫才をキリュウちゃんとヨウメイちゃんにやってもらおうと思うんだ。」
『ええーっ!!?』
一斉に叫び声を上げるみんな(シャオちゃんとキリュウちゃんを除く)。
信じられないという顔でヨウメイちゃんが聞き返してきた。
「あの、野村さん、それ本気ですか?」
「ああ本気さ。本気と書いてマジと読む!」
「・・・・・・。」
あ、あれ?しらけちゃった・・・。くっそう、なんてこった。
「え、えーと、つまり、二人の漫才によって俺が満足できればもういいって事。
何でもいいってんだからもちろんやってくれるよね?」
「・・・野村殿。」
「何?キリュウちゃん。」
「漫才とはなんだ?」
ずるっ・・・。おいおい、そりゃないだろー。
呆れているみんなを代表して、ヨウメイちゃんがキリュウちゃんに説明する。
「漫才っていうのは、とにかく面白い会話とかをして、聞いている人を笑わせるものですよ。
で、二人漫才の時は主にボケとツッコミがあるんですね。キリュウさんどっちにしますか?」
「・・・漫才はわかったが、ぼけとつっこみとはなんだ?」
「決まり!キリュウさんがボケて私が突っ込むことにしましょう。
・・・とは言っても、私漫才なんてした事無いなあ・・・。」
おおっ!?なんだかのりのりじゃねーか。さっすがヨウメイちゃん!
浮かれ気分でいると、さらにシャオちゃんが言ってくれた。
「あの、たかしさん。私もその漫才とやらをやってもいいですか?」
「ええっ!?シャオちゃんが!?」
「はい。それで少しでもたかしさんが元気になられるなら、私もお手伝いをと思いまして。」
「もちろん!嬉しいよ―・・・でも誰とやるの?」
この時、俺は当然名乗り出たかった。夫婦漫才として!
けど、自分で漫才して自分を元気付けるなんて駄目だよなあ・・・。
一応太助を見てみると、俺と同じ事を考えているのかもじもじしてやがる。
なるほどなあ、やっぱりあいつは奥手なんだなあ・・・。
考え事をしている間にルーアン先生がすっと前に出た。
「あたしがやったげるわ。というより、多分あたししか出来ないと思うけど・・・。」
「本当ですか!?ルーアンさん、よろしくお願いしますね。」
「え、ええ・・・。」
喜んでルーアン先生とぶんぶんと握手するシャオちゃん。
へえ―、あのルーアン先生が申し出てくるなんて珍しいよなあ。
感心していると、乎一郎が横からささやいてきた。
「実はたかし君に向かって飛んで行った机、先生が陽天心をかけたものだったんだ。
だから先生、後ろ暗くってああいう事を言ったんじゃないかなあ・・・。」
「な、なるほど・・・。」
なんだ、俺の大怪我には先生も絡んでいたのか。そろいもそろって・・・。
精霊でまともなのはシャオちゃんしか居ないって事じゃね―か。
改めてシャオちゃんを喜びの眼差しで見る。
と、山野辺と花織ちゃんが何か話をしている。当然俺はそれを聞き逃さなかった。
「シャオ先輩が当然ボケ役なんでしょうけど、いつもと変わらないような・・・。」
「言えてるよなあ。それよりシャオ、漫才の意味わかってんのかなあ・・・。」
・・・なるほど。確かにそうだよなあ。普段から漫才をやってる様な気がしないでもない・・・。
再び考えをめぐらせていると、横から更に言ってきた人物が。
花織ちゃんとヨウメイちゃんの友達の熱美ちゃんとゆかりんちゃんだ。
「野村先輩、私達も参加していいですか?」
「あんまり面白くないとは思いますけど・・・。」
その言葉に俺は目が点に・・・。ひょっとして俺ってすっごく人気があるのか!?
「も、もちろんOKだよ。楽しみにしてるぜ。」
俺の返事に二人とも喜んでお辞儀してくれた。
なんてこった。くうう、見たか太助!もてるのはおまえだけじゃないんだぞ!
こりゃ面白くなってきた。上機嫌になりながら、俺は布団にもぐりこむのだった。

大怪我を負った野村先輩(といっても楊ちゃんが全部治しちゃったけど)にさよならして帰路につく。
今は三人。あたしと熱美ちゃんとゆかりんという状態だ。
漫才の練習をするから、あたしの家に来たい様子。もちろんあたしは快くOKを出した。
「全然構わないよ。だけどよく漫才なんてする気になったね。」
それに照れながら熱美ちゃんが答える。
「楊ちゃんがやるんだったら、と思ってね。ちょっとした対抗意識かな。」
「そうなんだ・・・。でもどんな事やるの?」
すると、待ってましたとばかりにゆかりんが・・・。
「当然普通の漫才だよ。どつきなんて過激な事もしない、トークで攻めるの。
一番シンプルだけど、質は高いものに!というつもりだよ。」
「へええ。」
驚きの表情になっていると、なんだか熱美ちゃんが苦笑いを浮かべている。
ひょっとしてゆかりんが一人で突っ走って決めたのかなあ。
「あ、花織。当然泊まりこみだからね。そこんとこよろしく。」
「ええっ!?・・・まあいっか。しっかりあたしが審査するからね。」
突然のゆかりんの言葉ににこやかに返すと、二人とも同じくにこやかに返してきた。
うーん、なんだかいつもと立場が逆になっちゃったような・・・。
でも楽しみだなあ、漫才だなんて。そうだ、あたしも七梨先輩と漫才しよっかな。
待てよ、男女のコンビって事は・・・夫婦漫才!?
きゃーん、そんなあ、まだ結婚もしてないのに夫婦だなんてえ・・・。
次にあたしが我に帰ったのは家に着いてから。
二人が懸命に呼びかけたんだけど反応が無かったんだって。
ふっ、やっぱり乙女は強いって事ね。よーし、七梨先輩を誘うぞ―!
ルンルンな気分になって、あたしは熱美ちゃんとゆかりんを家に招待した。

「・・・なるほどねえ。だから四人とも部屋で練習を。」
「そういう事。それにしてもたかしのやつ、なんで漫才なんか・・・。」
ここは七梨家、つまり俺の家だ。
たかしの居た病院を後にして家に到着した途端、四人とも部屋に閉じこもってしまった。
不思議に思った那奈姉に、リビングにてこれまでの経緯を説明してたわけだ。
「で、夕飯はどうするんだ?おまえが作るのか?」
「成り行き上しょうがないよ。早速用意するから、那奈姉もなんか手伝ってくれよ。」
「台所が嫌いなあたしにそんなもの頼むのか?まあ仕方ないか・・・。」
しぶしぶながらも那奈姉は夕飯の支度を手伝ってくれた。
まったく、こんな時くらいは喜んで手伝って欲しいもんだ。
でもまあ手伝ってくれないよりはましかな・・・。

それなりに出来あがりかけた時、電話の音が鳴り響く。
那奈姉を見ると、“おまえが行け”とあごでしゃくられた。
それは別に良いんだけど、後任せて大丈夫かな・・・。
とりあえず信じる事にして、エプロンをつけたまま電話をとりに行った。
「はい、七梨ですけど。」
「あ、先輩、こんばんわ―!愛原花織でーす!」
愛原?うう、なんか嫌な予感がするなあ・・・。
「ああ、こんばんわ。で、なんか用か?」
「もーう、用があるから電話したんじゃないですかあ―。
野村先輩に見せる漫才ってことで、あたしと先輩でもしませんか?
つまり・・・夫婦漫才って事です!!」
うっ、やっぱりそういう事か・・・。
シャオのときにも名乗り出られなかったのに、ここで承諾するわけには・・・。
「愛原、悪いけど遠慮するよ。」
「ええー?あたしとじゃあ漫才できないって言うんですか?」
「そうじゃないけど・・・というより俺は漫才なんて出来ないんだ。
だから病院でも名乗り出なかっただろ、だから・・・」
「ご心配なく。あたしがちゃんとサポートしてあげますから。
七梨先輩はなんの心配もしなくて良いんですよ。」
「いや、そういう問題じゃなくて・・・。」
弱ったなあ、なんて言って断ろう。よく考えたら俺なんかが漫才やったらブーイングの嵐じゃね―か?
そんでもってシャオや那奈姉とかにも軽蔑されたりして・・・やっぱり嫌だ!
「愛原!悪いけど俺はやらない!誰が何と言おうとやらない!
そう決めたんだ、だから諦めてくれ!」
「そんな事言って、シャオ先輩がやりましょうなんて言ったらやるつもりじゃないでしょうね。」
「なっ・・・。」
うーん、当たってるかも。・・・いかんいかん!俺はやらないんだ!
「そんなわけないだろ!いいかげん諦めろよ、愛原!!」
「・・・分かりました。ちぇー・・・。それじゃあ、失礼しました、七梨先輩。」
結局は愛原は元気を失った声になって、電話が切れた。疲れた表情で受話器を置く。
ふうー、なんとか断ることが出来た。まったく、とんでもないな・・・。
しばしそこに立っていると、台所から大きな声が。
「太助!!これ、続きはどうやれば良いんだ!!」
しまった。そういえば料理の途中で抜け出してきたんじゃないか。
「今すぐ行くよ―!」
慌てて台所へと向かい・・・なんとか無事に料理は完成した。
それなりに手伝ってくれた那奈姉に感謝、かな。
「ふう―、慣れない事はするもんじゃないな。それじゃあ太助、四人を呼んで来てくれよ。」
「ああ。那奈姉は食事の準備を頼むぜ。」
エプロンをはずし、後を那奈姉に全て任せる。準備くらいは一人でも大丈夫だろう。
そして俺はまずシャオの部屋へ。軽くふすまをノックする。
こんこん
「シャオ、ルーアン、夕飯出来たぞ―。」
呼びかけてみたものの、なぜか反応が無い。中からは何やら話し声が聞こえてくる。
「おっかしいな、夕飯なんて言ったらルーアンは飛んで出てくるはずなのに・・・。
二人とも、入るぞ―。」
ふすまをすっと開ける。と、何やら一生懸命なシャオとルーアンの姿が・・・。
「だからあ、そんなんじゃあ駄目なの!もう一回やってごらんなさい。」
「は、はい。この帽子、どいつんだ?おらんだ・・・。
ルーアンさん、訳がわからないんですけど・・・。」
「何回も同じ事聞かないでよ!ドイツとオランダってのは国の名前!
それを会話に含ませる事によってしゃれを言ってるわけよ。」
「な、なるほど。ではもう一回。この帽子どいつんだ?おらんだ。」
「ちょっとお!そんなんじゃあ感情がこもってないじゃない!
ちゃんとボケてる様に言わなきゃ駄目じゃないの!」
「うーん、どうして、“この帽子どなたのですか?私のです。”
じゃあ駄目なんですか?」
「それはさっき言ったでしょ!人の話はちゃんと聞いて覚えなさい!
・・・しょうがない、別のにしましょう。最初に言ったやつを。」
「分かりました。隣に囲いができたんですってね・・・」
「ちーがーう!それはあたしが言うんだから!いくわよ。
隣に囲いができたんですって―!」
「・・・えーと、なんでしたっけ?」
「もう―、それも何回もやったのにいいかげんおぼえてよー。へえー、でしょ!」
「あ、そうでした。ではどうぞ。」
「まったく・・・。隣に囲いができたんですって―!」
「へえ―、それはすごいですねえ・・・。あの、ルーアンさん、これにはどんな意味が・・・・」
「あんたって人は・・・。最初に言ったじゃないの!!
囲いって事は塀って事よ!!その“塀(へい)”と“へえー”って返事をかけてんの!」
「なるほど・・・。漫才って難しいんですね。」
「あんたねえ、こんな程度で難しいなんて言わないでよ。
本場のものはもっともっと奥が深いんだから!もう一回行くわよ!
隣の家に囲いができたんですって―!」
「へえー・・・あの、ルーアンさん。囲いは生垣でも良いですよね。
そういう場合はどうするんですか?」
「だああ!!いちいちそんな事を気にするな―!!」
とうとうルーアンが怒り出した。あっけに取られてみていた俺は慌てて止めに入る。
それにしても洒落でボケようなんて、どっかの三流漫才じゃあるまいし・・・。
なんとか落ち着いたルーアン、立ちあがってシャオにきりっと言う。
「いーい!?これからたー様の言葉にあたしがボケの手本を見せるから!
しっかり聞くのよ!!さ、たー様。さっきあたしが言ってた囲いが出来たってのを言って。」
「い!?なんで俺が・・・。」
「いいから!とりあえず五回ほどお願い。」
「太助様、お願いします。」
ルーアンに加わってシャオもなんだか真剣な目つきに。
こりゃやるしかないみたいだなあ・・・。
「隣の家に囲いが出来たんだって―。」
「へえー!」
「隣の家に囲いが出来たんだって―。」
「かっこいー!」
「隣の家に囲いが出来たんだって―。」
「オ―、イェー!!」
「隣の家に囲いが出来たんだって―。」
「ブローック!」
「隣の家に囲いが出来たんだって―。」
「他人の事はほっときなさい!」
ビシッ!
最後の所でルーアンの裏拳が俺のみぞおちにヒットした。
たまらず俺はそこにうずくまる。
「太助様!ルーアンさん、なんてことを・・・!!」
「ちょっとシャオリン、ちゃんと聞いてた?これを参考にして・・・」
「許しません!」
「人の話聞きなさいってばー!!!」
「来々、車騎!!」
「ああー、もう!!陽天心召来!!!」
俺が苦しんでいる間に、そこは戦場と化してしまった。
なんとか立ちあがった時にはもう・・・。
「二人ともやめろー!!」
思いっきり大声で怒鳴る。と、二人の争いがようやく収まった。
陽天心が解かれ、星神は支天輪へと戻る。
「あのさあ、あんまり真剣になりすぎるなよな。
もうちょっと軽い気分でやるとかさ。」
しゅんとしている二人にそれとなしに告げてやるが、どうも分かっている様じゃない。
やれやれ、この調子じゃあ先が思いやられるなあ・・・。
「それじゃあ夕飯だから。二人とも台所へ行っといてくれよ。
俺はキリュウとヨウメイを呼んでくるからさ。」
二人はこくりと頷いてその場を去って行った。
一応喧嘩を引きずっている様じゃなかったので、その点は安心できたけど。
「さてと。一番の問題はキリュウとヨウメイだよな・・・。」
なんといってもたかしが指名したコンビだ。それなりに懸命に成ってるに違いない。
しかもヨウメイが絡んでいるし・・・過激にならなけりゃ良いけど。
というわけで不安になりながらも二階へと上って行く。
そして二人が居る部屋の前へ到着した途端、“ゴーン!!”という大きな音が!
びっくりしてドアを開けると、そこには大きなたらいが・・・。
「うまいっ!さすがはキリュウさんですねえ。これくらい出来れば大したもんです。」
「そ、そうか。よしよし、これで野村殿を満足させられるというものだ。」
なにやら上機嫌の二人。とりあえず俺が来た事に気付いてない様子。
たらいって・・・上から落として誰かにぶつけるつもりなのか?
やれやれと思いながらも夕飯の事を告げようとしたとき・・・。
「よーし、もう一度やって見ましょう!キリュウさん、どうぞ!」
「う、うむ。・・・ヨウメイ殿、今日は良い天気だな。」
「ええそうですねえ。あんまり良い天気なんで、私傘を持ってきちゃいました。」
「ははは・・・天誅!」
その瞬間、上から大きなたらいが落ちてきた!
「うおっ!?」
とっさに飛びのいた俺は、なんとかそれに当たらずに済んだけど。
「キリュウさん、何するんですか!!」
「なに、せっかく傘を持ってきたのに使わないのはもったいないと思ってな。」
「やだなあ、たらいを傘で防げるわけが無いじゃないですか。」
「おおそうか!これは一本とられたな。」
「「あはははは!!」」
そして二人そろって笑い出した。もちろん俺は呆れてそれを見るしか出来ない。
・・・最悪だ。こんなの漫才でもなんでも無いじゃないか。
さっきのシャオとルーアンの方が全然ましだって気がするな・・・。
「あの―、二人とも、お楽しみの所悪いんだけど、夕飯だから・・・。」
「あ、主様!!どうですか、今の!?」
「なかなか面白いだろう!これならばっちりだと思わぬか!?」
やっと俺に気付いた二人は、なんだか自信たっぷりに聞いてきた。
可哀相だとは思ったんだけど、一応言っておかないと・・・。
「二人とも、俺から見ればそれは0点だ。」
「「ええっ!!!?」」
急に“酷いー!”って顔に変わる。そして文句を言ってきた。
「なぜ0点なのだ!一時間以上頭をひねったのだぞ!!」
「そうですよ!たらいを雨に仕立てた、見事なアイデアじゃないですか!!」
一時間かけてこれかい・・・。しかもたらいを雨に?こいつらは・・・。
「駄目駄目駄目!!最初っから作りなおせ!!こんな事やったって絶対にうけないぞ!!
ほら、夕飯なんだから早く来いよ。」
すると二人とも途端にしゅんとなって、しずしずと部屋の外へと歩き出した。
しょうがないなあ、まったく。ヨウメイがいるからアイデアだけは少しはましだと思ったのに・・・。
なんだかすごく疲れた気分になり、俺も二人の後を追うように一階へと向かった。

そして夕飯。いただきますが告げられ、厳かに・・・。
「・・・なあ太助、なんだか四人とも恐いんだけど。」
「う、うん。俺余計な事言っちゃったかな・・・。」
そう、四人ともそれぞれの合い方と真剣にごにょごにょと。
あのルーアンですらがつがつと食べずに話に夢中になっている。
というより、さっきから四人とも箸が動いていないような・・・。
「あのさあ、四人とも。今は食事の時間なんだからちゃんと食べてくれよ。」
恐る恐る言うと、キリュウがこう返してきた。
「食事の時間。うん?食事とは誰のことなのだ?」
するとすかさずヨウメイが続く。
「やだなあ、キリュウさん。食事さんって言わなきゃ失礼じゃないですか。」
「おおそうか、これ一本とられたな。」
「「あははははは。」」
そして二人笑い出した。当然俺達はぽかんとして二人を見る。
たくこいつらは・・・。それで漫才やってるつもりなのか?
「せめて食事くらいはちゃんとしろって。」
那奈姉が諭すと、今度はヨウメイが返してきた。
「例外も有るんです。それで納得しましょう!」
そしてキリュウがそれに続く。
「おや?そう言えばおかずに納豆が!なるほど、納豆食うか!」
「「あははははは。」」
しら〜・・・。
確かに納豆はあるよ。だからってなあ、そんな古いしゃれを・・・。
「ずる〜い!今のあたしがシャオリンに教えようと思ったのに〜!」
ルーアンが突如叫ぶ。と、ヨウメイが鋭く返した。
「うるさいですね、そんなもの早い者勝ちです!」
「そうだ!つまり遅いものは負けだという訳だな。
おお、私達は勝ったのか。やったな、ヨウメイ殿!」
訳の分からない事を言って、キリュウとヨウメイががっちりと握手。
頼むから止めてくれ。早く飯食い終わってくれよ・・・。
「うえーん。ルーアンさん、私達負けたんですかあ?」
「うむむ、そんな事無いはずよ!シャオリン、負けってことは何?」
「うーん、ペンキとかを塗るのに使うやつですかあ?」
「それは“はけ”よ!」
「それじゃあ髪の毛が無い事ですかあ?」
「それは“ハゲ”よ!」
「それじゃあ黒くって光をあてると出るやつですかあ?」
「それは“かげ”よ!」
「それじゃあ万年生きるっていう生き物さんですかあ?」
「それは“かめ”よ!」
「それじゃあ・・・ルーアンさん、ここまでですう。」
「上出来よ!!よくやったわ、あんたもやれば出来るじゃない!!」
なんだか照れているシャオと、悔しそうにそれを見つめるキリュウとヨウメイ。
俺と那奈姉は当然・・・箸を持ったまま固まっていた・・・。
ルーアン・・・シャオを変な道へ引きずり込むな・・・。
「ま、まだまだ!おおっと!箸を落としてしまいました!」
「ヨウメイ殿!そうか、箸を落としても可笑しくない年頃か!」
「もう、キリュウさんたら。それを言うなら箸が転んでも可笑しい年頃ですよ!」
「「あははははは。」」
・・・なるほど、とりあえずボケと突っ込みが終わったところで二人で笑うのか。
それにしても、何がそんなに可笑しいんだ?はあ・・・。
「ルーアンさん、はしって言ったら川を渡るときに必要ですね。」
「それは“橋”よ!漢字が違うじゃないの!」
「そうだ!橋の端っこを箸を持ってわたりましょう!」
「きゃあ、名案!・・・なーんてどこが名案なのよん!」
「名案といえば、暗いと明るいがあるんですね?」
「それは明暗!またしても漢字が違うじゃないのお!」
・・・なるほど、一つの言葉に対してシャオがとことんボケてルーアンが突っ込む。
突っ込んだところでさらにボケる・・・か。
それにしても・・・食事中に漫才の練習するなって。
しかもどれもこれもまるでつまんないじゃないか。いいかげん止めてもらわないと。
「四人とも、気持ちはわかるけどさ、今は食事に専念して、終わってから練習してくれ。」
すると待ちかねたようにキリュウがにやっと笑う。うっ、まさか・・・。
「専念とは広告を出したりする事か?」
「それは宣伝!」
「「あははははは。」」
やっぱりか・・・。まあ、一つで終わったから良いかな・・・なんて問題じゃない!!
「ちょっとシャオリン!負けてちゃ駄目じゃないの!」
「えうー、先にキリュウさんに言われちゃいましたあ。」
「なんですってえ?もう、こうなったらもっとボキャブラリーを増やさないと。」
「キャベツがどうかしたんですかあ?」
「キャベツじゃなくてボキャブラリー!あんたどっからそんな言葉が出てくるのよ!」
「だって・・・あ、ひょっとしてプロッコリーとキャベツの合わさったものですか?」
「あんたねえ、無理矢理過ぎるわよ。もうちょっと上手くボケなさいな・・・。」
「ええー?違うんですかあ?」
どうやらシャオは本気で言っているみたいだ?
そういうのって困るなあ。普段からこうだからボケてるのかボケてないのか分からん・・・。
「キリュウさん・・・。」
「うむ、私も負けてられないな。うん?負けといえばペンキを塗るやつか?」
「それは“はけ”です!って、さっきシャオリンさんがやったじゃないですか。
同じネタはタブーですよ。」
「・・・タブーとはなんだ?豚の逆さまか?」
「違いますって。タブーってのは禁句とかそういうものですよ。」
「禁句?大事なものをしまっておく所か?」
「それは金庫!禁じられた句、言葉ってことです。」
「言葉?ことば・・・くっ、思いつかん。」
「うーん、まだまだですねえ。もうちょっと磨きをかけないと・・・。」
こっちもいい勝負で、どこからキリュウがボケ始めたのかよく分からなかった。
そんな事より食事に専念しろっての。俺の言葉は無視されちまったのか?
疲れたようにうつむいていると、那奈姉が横から突ついてきた。
「あきらめろ。どうやら何言っても無駄だ。」
那奈姉はすっかり諦めている様子だ。やれやれ、仕方ないか・・・。
というわけで、二人してさっさと夕食を終えた。
俺と那奈姉が立ち上がったところで、慌てて四人とも食べに戻る。
たくう、なんでこんなになるまで夢中になってんだ・・・。

そしてリビング。例によってシャオがお茶を入れ・・・ないで俺がお茶を。
ちなみにリビングに居るのは俺と那奈姉のみ。
四人とも、食事が終わるとすぐさま部屋へと戻って行ったから。
疲れたようにお茶をすすっていると、那奈姉が横から言ってくる。
「なあ、いつまでこの状態が続くんだ?」
「一応、三日くらい後の漫才大会が終わるまで、だと思うけど・・・。」
「三日か・・・。それまでおまえ耐えられるのか?」
「うーん、多分、なんとか・・・。」
それなりに笑って答えると、那奈姉はにこりと笑って湯のみを置いた。
「そうか。なら安心だな。あたしは耐えられそうにないから翔子の家へおとまりするよ。」
「な、なんだってぇ!?」
俺はがたっと立ちあがった。当然の反応だ。
那奈姉の言っている事は、要するに逃げなんだから。
「きたねえよ、那奈姉。俺に全部押し付けるなって。」
「なんとでも言え。あたしは、食事ごとにあんなの聞かされるのはごめんだからな。
さあってと、早速翔子の家に電話しようっと。」
いうなり立ちあがってリビングを出て行く那奈姉。
なんとなく気持ちがわかった俺は何も言えずにそれを見送っていたけど・・・。
「俺だって耐えられないよ!!やっぱり待てよー!」
と、素早く立ちあがって後を追おうとすると、那奈姉がひょっこりと戻って来た。
「な、なんだ。やっぱり止めたんだ。」
ほっと胸をなでおろしていると、那奈姉はいそいそと湯のみを片付け出した。
「止めてなんかいないよ。泊まりに行くってもう決まったんだ。
いやあ、さすが翔子は頼りになるよ。そんじゃあ太助、一人で頑張れよ。」
びしっ!
俺はその瞬間石化した。
そんなのないだろ。あれは一人で耐えられるもんじゃ・・・。
それよりあの短時間でどうやって話をつけたっていうんだよー!!
と、心の中で必死に叫んでいるうちに、那奈姉の支度が終わったらしい。
お泊まりセットを詰めこんだ大きなかばんを下げて手を振っている。
「じゃあな、四人によろしく言っといてくれ。達者で暮らせよ〜。」
そして那奈姉は玄関を後にした。バタンと閉められるドアに向かってスリッパを投げつける。
「ふざけんな!達者で暮らせよじゃねーだろ!!
くっそう、俺も乎一郎の家にでも泊まりに行こうっかな・・・。」
なんとなく逃げの選択肢が頭の中を駆け巡った。
そして数秒のうちにそれは100%頭を支配するまでとなる。
俺は急いで電話の所へ向かった。と、電話をかけている途中にシャオとルーアンがやって来た。
「太助様、今からお風呂に入りますから。」
「言っておくけど覗いちゃ駄目よん。」
「目隠ししてなら一緒に入ってもいいそうですよ。どうしますか?」
「もっちろん、入ってきた途端そんな目隠しは取っちゃうけどね。」
そこでなぜだかけたけたと笑い出す二人。あっけにとられて俺は受話器を落としてしまった。
そんな俺の様子もお構いなし。二人は笑いながらお風呂場へ・・・。
・・・ひょっとして今のは漫才のつもりだったのか?
って、そんな事考えてる場合じゃない!急いで乎一郎の家へ!
プルルルル、ガチャッ
「はい、遠藤ですけど。」
「おおっ、乎一郎!いきなりで悪いんだけどさ、今晩から泊めてくれないか!?」
「太助君?どうしたのさ、そんなに切羽詰った声で。」
「訳は聞かないでくれ。頼むよ、な?な?」
「うーん、よくわかんないけど別に良いよ。」
「あ、ありがとう乎一郎!それじゃあさっそく・・・」
次の言葉を言おうとした瞬間、受話器を何者かに奪われた。
驚いてそれを見ると、受話器を奪ったキリュウ、そしてヨウメイがそこに立っている。
「遠藤殿、さっきの話は無しだ。」
「え?キリュウちゃん?無しってどういう事?」
「試練を行わねばならんのでな。ではさらばだ。」
「お、おい待てキリュウ!!」
俺の叫びもむなしく、キリュウは受話器を静かに置いた。
呆然としていると、ヨウメイがにこやかに告げる。
「駄目じゃないですかあ、ちゃんと点数とかつけてくれないと。
那奈さんが出掛けた今、審査してくださるのは主様しか居ないんですから。」
「そういう事だ。逃げるなどとはもってのほかだ。今後そういう事はしないように。」
そして二人とも回れ右をして去って行った。
くっそう、多分統天書で調べたんだろうな。けどなんで俺が―!
心の中で叫んだものの、もはやどうしようもないようだ。
諦めた俺は、力無く階段を上って自分の部屋へ・・・あれ?
「なんでドアが開かないんだ?」
「主様♪」
「おわっ!!」
突然後ろから声をかけられて、俺は飛びあがった。振り返ると、ヨウメイがにこにこ顔で立っている。
傍には当然キリュウも控えていた。
「な、なんだよヨウメイ。」
「いえね、もうすぐシャオリンさんとルーアンさんがお風呂から出るでしょう?
次に入るのはキリュウさんと私なんです。」
「はあ、そうなんだ。それで?」
「主様も一緒に入りませんか?」
「な、なななな、何言ってるんだ!!」
真顔で何を言ってくるかと思ったら・・・。
これ以上漫才に付き合わされて・・・という事よりもっと大事な事があるじゃないか!!
「俺は男だって!だからキリュウとヨウメイの後から入るよ!」
「・・・ですって。キリュウさん、どうしましょうか。」
「主殿が嫌ならば仕方ないだろう。その代わり、寝る時は付き合ってもらう事にしよう。」
「決まりですね。それじゃあ部屋のドアはそのままで、という事で。」
言葉を交わしたかと思うと、二人とも階段を下って行く。
寝る時に付き合う?ドアはそのまま?ちょっと待て―!!
「待てよ!!なんで俺がそこまでしなきゃいけないんだよ!!」
すると二人はぴたっと止まってくるっと振り返った。
「キリュウさんの自信作を0点なんて言い放ったじゃないですか!!
だからこそ!主様が傍でしっかりと審査してくださいよ!!」
「だからってなんで俺が―!」
「ならば一緒に風呂に入るのか?」
キリュウのまっすぐな視線を受けてたじっとなる。
「いやその、いくらなんでもそれは・・・。」
「だろう?だったら寝る前に付き合ってもらう。」
そして再び階段を下り出した。
・・・待てよ?ここで俺が一緒に入る!とか言ったらどうするんだ?
「二人とも!やっぱり一緒にお風呂に入るよ!!」
するとやはり二人ともくるっと振り返った。
「なあんだそのつもりだったんじゃないですかあ。さあ、早く下りてきてくださいよ。」
「たっぷり審査してもらうぞ。」
あ、あれ、意外な反応。なんで平気なんだ?
ってそれより、そんな事したらシャオに嫌われちゃうじゃないか―!!(そういう問題でもないけど)
「い、いや、やっぱり気が変わって・・・。」
「たくう、優柔不断ですねえ。だったら寝る前に付き合う!!というわけで待ってて下さいね。」
「おおそうだ!主殿が風呂に入っているときに押しかけるのはどうだろう?」
「あ、それいいですねえ。お背中流します―、とか言って。うん、それでいきましょう!」
「待て待て待て―一!!」
慌てて俺は階段を駆け下りて行く。
冗談じゃない。そんな事されてたまるかってんだ。
「二人とも、とりあえず寝る前に審査するって事で勘弁してくれよ―!
とにかくそういう妙な事はしないように。な?な?」
すると、キリュウはしぶしぶと、ヨウメイもやれやれというような顔で頷いた。
「分かりました。私達二人だけではそういう事はしませんから。
とにかく主様はお部屋で待ってて下さいね。お風呂から上がったら呼びますから。
あと、どういうネタが良いのかという事とかをしっかり思い出すとか。
とにかく審査とか助言とかを考えていてくださいね。では。」
「う、うん・・・。」
早口で言われたけど・・・とにかく部屋で待ってろって事か。あれ?
「なあ、どこの部屋で待ってれば良いんだ?」
「当然、私とキリュウさんの部屋です。それじゃあ。」
無言のキリュウを引っ張ってヨウメイが去って行く。
なんとなく違和感を感じたものの、俺はその言葉に従って部屋で待つ事にした。
階段を上がって部屋へ入る。きちんと整頓されてはおらず、訳のわかんないものがいっぱい・・・。
「・・・何やってたんだろう、あの二人。とりあえず待つか・・・。」
適当な場所に腰を下ろして待つ事三十分。
階段を駆け上がる音が聞こえてきたと思うと、キリュウが顔を出した。
「待たせたな主殿。さあ、風呂に入られよ。」
「う、うん。」
立ちあがって部屋を出る。と、なぜかキリュウも一緒に階段を下り始めた。
「なんでキリュウも付いて来るんだ?」
「付いて行っているわけではない。リビングに用があるのだ。」
「リビング?ああ、なるほど・・・。」
リビングからは楽しそうな・・・もとい、無理矢理な話し声が。
漫才合戦を性懲りも無くやってるみたいだな・・・。
「それじゃあまた後でな。」
「ああ。のんびりと入られよ。」
最後のキリュウの言葉に“???”となった俺だが、気にせずに風呂場へ向かった。
せめて風呂で今日の疲れを流してやる、と思いながら。
この時、後から起こる出来事を俺は知るよしもなかったが・・・。