小説「まもって守護月天!」(知教空天楊明推参!)


ザブーン・・・。
「ふう―、いいお湯だあ。疲れが取れるって気がするなあ・・・。」
なんとか妨害にも遭わず、無事に風呂に入る事が出来た。
それにしても問題は風呂を出た後だよなあ。寝る前に付き合えったって・・・。
「いっそのことリビングで寝たふりをするとか?
でも無理矢理起こされそうだな・・・。そうだ!眠いとか言って逃げれば。
いくらなんでも睡眠時間を削ってまで審査しろなんては言わないだろう。」
ちょっと理由が弱いかなと思ったものの、その手でいく事にした。
ま、とりあえずはもっと疲れを取らないとな。
「ふうー・・・。」
ゆっくりと湯船に浸かる。と、なにやら話し声が・・・?
「だれだ?まさか・・・。」
嫌な予感がして、ちょっと体を起こすと・・・!
「太助様―!お背中流しに来ました―!」
「しゃしゃしゃ、シャオぉ!?」
ドアは開いてはいないが、シャオの影が見える!
びっくりしてあらためて湯船に浸かると・・・。
「た〜様あん。一緒に入りましょ〜!」
「るるる、ルーアンまで!?」
これはやばいと思いつつも、辺りをきょろきょろとしていると・・・。
「主殿ぉー。その、一緒に、その・・・。」
「ききき、キリュウもか!?」
まさか!ということはひょっとして!!
「主様♪約束通り入りに来ましたあ。
二人だけじゃなくって四人です。ちなみに、主様に拒否権は無いですよお。
湯船に潜ったって、ルーアンさんが引きずり出しますからねえ。」
「よよよ、ヨウメイぃ!?」
やっぱりかー!!しかも拒否権無し?引きずり出される?ちょっと待て―!!
「いきなりなんだよ!!俺が何をしたってんだ―!!」
「だって、太助様がすごくお疲れだから、四人でお背中を流さないとってヨウメイさんが。」
「そうなのよん。あたしだけで十分なのにねえ。まあ別にいいわ。」
「で、では入るぞ、主殿。」
「どわあああ!!!待てって言ってんだろーが!!!そこ開けたらほんっきで追い出すぞ―!!!」
必死になっておもいっきり叫ぶ。しかし、ぴたっと止まっただけですぐにでも入ってきそうな勢いだ。
なんでこんな事に―!!
「主様、拒否権は無いって言ったじゃないですか。というわけで入りますよ。
大丈夫ですよ、明日皆に自慢できるじゃないですか。
“可愛くて美人な精霊四人と一緒にお風呂に入ったんだ”って。
こんな貴重な体験は今しか出来ませんよ。」
なるほど、それもそうか・・・じゃねえー!!!
「ヨウメイ!!仕組んだのはおまえだな!!何が目的だ!!交換条件を言え―!!!!」
すると、途端にしんとなった。今にも開きそうだった扉が閉じられる。
「・・・交換条件ですって。皆さん、どうしますか?」
「私は、漫才を三日三晩見つづけて欲しいです。」
「え―。あたしはたー様とお風呂に入りたいのにい。」
「私は・・・その・・・漫才のほうが・・・。」
「私も漫才がいいな。というわけで主様。
食べる時も寝るときも、四人の漫才の審査とかしてくださいね。
もちろん、眠いからなんて逃げは無しですよ。」
・・・やっぱりそういう事か。
ここで断ったら一斉に四人がなだれ込んで来るに違いない。
それにしてもなんて作戦で来やがったんだ。くっそう・・・。
「分かったよ。三日間、俺がしっかり見ててやるからさ。」
「ほんとですか?太助様!」
「さっすがた〜様ね!」
「ふう、良かった・・・。」
「そういうと思いました。それじゃあご褒美にお背中を流してさし上げましょう。
ただし流すのはこの四人の中の誰かですから。」
「な、なにいい!!!」
ま、待てよー!!その件は片付いたんじゃないのか―!!
「よーし、じゃんけんよ!!せーの・・・。」
「「「「じゃんけん、ほい!!!」」」」
「や、やめろって―!!!!」
俺の叫びもむなしくかき消され、壮絶なじゃんけん大会が繰り広げれられ始めた。
そんな馬鹿な―!!俺何か悪い事したのかよ―!!!
なんの解決策も得られないまま、おろおろとしたまま時が流れる。
と、じゃんけんの声が止んだ。勝負がついたみたいだ・・・?
「もーう、あいこばっかりで埒があかないわ。」
「こうなったら四人一緒に入りましょう!!」
「う、うむ・・・。」
「では太助様、お邪魔しまーす。」
「ふ、ふざけんなー!!!!」
最後の力を振り絞ったくらいに大声で怒鳴る。
と、扉が開く代わりに、“カーン”という鐘の音が。
「ここまでです!お疲れ様でした―!!
それにしてもシャオリンさんもルーアンさんもうまいですねえ。
問題はキリュウさんですね。ちゃんと演技してくれなきゃ駄目じゃないですか。」
「そうよー。一人だけなんか照れた声出しちゃって。
あんたってまだまだ演技の努力が必要よねえ。」
「でもこのお風呂場に来るまではすごく上手だったじゃないですか。さすがはキリュウさんですわ。」
「い、いや、その・・・うむ。」
・・・演技?どういう事だ?
疲れて湯船の中でへたり込んでいると、ヨウメイが大声で言ってきた。
「お騒がせして済みませーん。さっきのお風呂に入ろうなんてのは全部嘘ですから。
ちょっとそういう演技の練習をしてみたんですよ。漫才に使うかと思いましてね。
それじゃあ部屋で待ってますよ―。」
「ゆっくりつかんなさいね、た〜様―。」
「ご指導のほど、よろしくお願いしますね。」
「では主殿、後ほど・・・。」
「・・・ああ。」
気の抜けた返事をすると、四人ともぞろぞろとその場を立ち去って行ったみたいだ。
それにしても演技の練習?そんなもんここでやってんじゃないって。
多分考えたのはヨウメイだろうな。人で遊びやがって・・・。
しかしそれに負けた俺もまだまだなのかな。はあ・・・。
入る前よりいっそう疲れた気分になって、改めて湯船に深く浸かる。
「決めた。今日はもう眠ることに・・・。」
言いかけて扉の方を見ると人影が!
ぎょっとして体を起こし、慌てて声をかける。
「だ、誰だ?その影は・・・キリュウ?」
「・・・そうだ。」
「何しに来たんだよ!さっきの件は終わっただろう!!」
「なにやら罰ゲームという事で私が入る事に・・・構わぬか?」
へえ、罰ゲーム・・・って、感心してる場合じゃねー!!
「構うわけ無いだろうが!!おとなしく部屋で待ってろ―!!」
「それが・・・。服を全部取られてしまって・・・。
入ってこないと返さないと脅されてしまったのだ・・・。」
「な、なにー!!!?」
服を全部ってことは、今のキリュウは・・・。
「って、ふざけんな―!!!
おまえら漫才やりだしてからなんかおかしいぞ!!いいかげんに元に戻れ―!!!」
「・・・ふむ、そう言えば大丈夫かな。
主殿がいいかげん怒っている。これ以上の挑発は危険だと。」
「そうだ!!そういっとけ!!特にヨウメイにはきつく!!!!」
「いや、この罰ゲームはルーアン殿が考案したものだが・・・。」
「だったらルーアンにもいっとけ!!!今後こういう事はするなって!!!」
「・・・分かった。」
納得した感じでキリュウはそこを去って行った。
これで大丈夫だといいんだけど。それにしてもなんで俺をダシにしてこんな事を・・・。
いいかげん止めて欲しいよなあ・・・。
結局は入る前の状態よりも疲れた気分で風呂を出る事となった。
風呂場を後にしてリビングへと向かう。
と、そこにはやはり夢中になって話し合っている四人が居た・・・!!?
「・・・なんでそんな格好なんだ―!!!」
四人ともきちんと服を着ていない。なんだか無理にはだけさせたり・・・。
俺の叫びにルーアンがゆっくりと言った。
「なんでって。ウケないギャグをいったら罰として・・・っていうルールなの。
そこそこウケた場合はちょっとはだけさせるっていう程度で。」
「当然主様も混ざってやりますよね?」
「今は暑いから丁度良いかもな。」
「太助様、さあ早く審査してください。」
当然俺はわなわなと震え出した。風呂場の一件で収まったかと思ったのに・・・。
「いいかげんにしろってんだ―!!!そんな事やるんなら俺はこの家を出て行く!!!
ああ、出て行くとも。二度と戻ってくるもんか―!!!!」
と、そこでヨウメイが立ち上がった。と同時に、統天書をばっと開ける。
「精神の精の力のもとに、我が主の心を強くせん・・・。
・・・精神強化!!!」
ヨウメイが叫んだ後に、俺の体がぱあっと光る。そしてそれはすぐに小さくなって消えた。
それを確認した後に、疲れたようにその場に座り込むヨウメイ。
当然俺は疑問の眼差しで尋ねてみた。
「・・・ヨウメイ、何したんだ?」
「主様の精神力の強さを上げたんです。
今までの反応からして、漫才に三日間付き合うなんて主様には耐えられそうに無いから。
そう途中で思って、急遽ああいう行動をとったわけなんですね。
人の精神をコントロールする力を使うために・・・。」
言いおわった途端にヨウメイは眠り出した。これってまさか・・・。
「あたしが代わりに説明してあげるわ。
つまり、たー様が“二度と戻ってやるもんか―!”
って言えば、ヨウメイはこの力を使えるようになるんですって。
それで、たー様の精神力を強めたって訳ね。普段からたー様って結構気が弱いから。」
「つまり、お風呂にまで押しかけてきて挑発的な態度をとったのも・・・。」
「全てはヨウメイ殿の筋書きだったという訳だ。
さすがと言うかなんというか、人の性格をよく心得ていると言うか。」
人の性格、ここでは俺の性格ってことか。たく、やってらんないな・・・。
「それにしてもどうしてこんな封印をしたんでしょうか。
以前の試練の時も何やら挑発して・・・。私、良く分かりません。」
「シャオリン、考えても見なさいよ。精神のコントロールって言ったでしょ。
つまり、めちゃくちゃ弱くするってことも可能なのよ。
もし自分が暴走した時にそんな力を使ったら・・・という事なんでしょうね。」
「ふええ・・・。恐いですね・・・。」
「統天書で人の心が詠めぬという理由がよくわかった気がするな。」
そんな会話をしているうちに、着ている服をきっちりと元に戻す三人。
知らないうちにヨウメイはちゃっかりと元に戻していたらしい。
「で、早速これから漫才やろうっての?」
「そのつもりだったがヨウメイ殿が寝てしまったしな。
よほど頭を使ったらしい。主殿にあのせりふを言わせるのに・・・。」
キリュウはよいしょと立ち上がったかと思うと、ヨウメイを背中に担いだ。
リビングを出て行こうとするところを見ると、もう寝るつもりの様だ。
「もう寝るんですか、キリュウさん。」
「あたしとシャオリンだけでやってなさいって事ね。」
「そういう事だ。ではおやすみ。」
「ああ、おやすみ。」
挨拶を交わすと、ドアをパタンと閉めてキリュウは部屋を出て行った。
そこで再びどっと疲れが出てきたみたいで、俺はため息をつきながら腰を下ろす。
「ふう、まったく。とんでもないやつだな、ヨウメイって・・・。」
「でも結構悩んでいらっしゃいました。実行するべきかせざるべきかって。
なんといっても御主人様である太助様を怒らせる訳ですから・・・。」
「結局は実行した方が良いって判断したんだけどね。
かなり頭使ってたわよ。どうやったらあのせりふを言ってもらえるかって・・・。」
「頭使ったって・・・そこまで苦労するような事か?
俺が“二度と戻ってくるもんか―!”って言えばいいんだろ?」
何気なしに返すと、ルーアンは深いため息を付いてきた。
「言っておくけどたー様。一文字でも違ってたら駄目なんだからね。
それこそ、違う言葉を言われたらどうしようもないって。要はカケだったのよ。
後から理由を説明して言ってもらっても、それは無効なんですって。
とにかく自然に、主がすっかりその気になっている状態で言わないと・・・。」
「そ、そんなに大変だったのか?失敗したらどうするつもりだったんだろう・・・。」
「その時は“私が責任を持って説得します”って、ヨウメイさんが言ってましたわ。
ほんと、ヨウメイさんてすごい方ですよね。」
「そうねえ。訳わかんない理論とかに関しては抜群に力を発揮するもんね。
今回のこれだって・・・なんて言ってたんだっけ?」
「えーと、消しゴムと作家がどうたらこうたら・・・。」
「へ?」
「やーねえ、シャオリン。原因と結果でしょう?全然違うじゃないのお。」
「ああ、すいませんルーアンさん。・・・ちょっと無理がありましたか。」
「・・・・・・。」
いつの間に漫才を始めやがったんだ。
本当にヨウメイの奴、精神力上げたんだろうな・・・。今のでも俺にはかなり堪えたぞ。
こんなのを審査しなきゃならないなんて・・・。
再び俺はどっと疲れが出てくるのだった。
「あのさ、始めるんなら始めるって言って欲しかったんだけど・・・。」
「ああ、ごめんねたー様。とにかくこの件はヨウメイから詳しく聞いて頂戴。」
「では行きますう。・・・ルーアンさん、なんでしたっけ?」
「あんたね・・・。もうかりまっか〜、でしょ。」
「あ、ああ、そうでした。では改めて。もうかりまっか〜。」
「ぼちぼちでんな〜。」
と、二人はこちらをにこにこしながら見た。・・・もう終わり?
「あのさ、二人とも。今の、どこが漫才なの?」
「ええ〜?面白くなかった〜?」
「“もう、借りますか?”なんて聞いた後に“お墓お墓が出ませんね”なんて答えるんですよ。
すっごく面白いじゃありませんか。」
「ちょっとシャオリン、そうじゃないって言ったでしょ!
・・・ああそうか、一つ忘れてたんだ。“夏場は涼しい場所でんがな”ってのを言わなきゃ。」
「・・・・・・。」
やっぱりつらい・・・。いくらなんでもくるしすぎるぞ。
関西の人が聞いたら怒って殴り込みに来そうだよな・・・。
「・・・もうちょっと別なやつ無い?」
「うーん、それなら・・・ルーアンさん、今日は良い天気ですねえ。」
「シャオリン、雨降ってるけど良い天気なの?」
「せっかく買ったお気に入りの傘がさせるんですよ。良い天気じゃないですか。」
「そうか、これは一本取られたわねえ!」
「・・・・・・。」
本当に漫才なのか?これは。駄目だ、どう考えても駄目だ。
やっぱりシャオ達に漫才をやってもらうなんて事は土台無理があったんだ・・・。
「もういい、二人とも漫才の事はきっぱり忘れて寝ろ。」
突き放した様に言い放つと、二人とも信じられないといった顔でこちらを見た。
「ちょっと待ってよたー様。今のそんなに面白くなかったの?」
「漫才しつつ、雨も良い天気だって皆さんを知らず知らずのうちに説得できるんですよ。
こんな素晴らしい事は他にありませんわ。」
「あのな・・・。」
いくらなんでも説得力に欠けるぞ。それに、それくらいの事なら小学生だって。
ここは幼稚園じゃないんだから・・・。
「頼むからもう止めよう。たかしには俺から言っておくから。
大体言われたのはキリュウとヨウメイじゃないか。二人が真剣に成る事無いよ。」
「でも・・・私も頑張ってたかしさんを元気付けてあげたいです・・・。」
「せっかくヨウメイが術を施したのよ。せっかくだから協力してよ。」
「俺が耐え忍んだってしょうがないだろ。要は質を上げないと・・・。
そうだ!こうなったら、三人でキリュウとヨウメイの漫才のレベルを上げよう。
俺一人が言うよりは、絶対にいいものが出来るはずだよ。うん、そうしよう。」
これなら二人とも納得するはずだ。なんだ、最初っからこうすれば良かったんだ・・・。
「・・・なるほど、一理有るわね。下手な漫才を二連発で見せつけるよりは、上級のものを一発!!」
「うーん、太助様がそうおっしゃるのなら。三人でお二人の漫才をお手伝いしましょう。」
「よし決まり!!ふい〜、良かったあ・・・。」
ここで思わず喜びの声を上げてしまった。
ルーアンがそれに反応して詰め寄ってくる。シャオも一緒だ。
「・・・ちょっとたー様、本当はあたしとシャオリンの漫才が聞きたくなかったからじゃないの?」
「そうなんですか?太助様。」
しまったと思ったけど、やっぱりここはきっぱり言うべきだな。
「正直に言えばそうなるかな。だって全然面白くなかったし。」
「そんなあ!くすん、ひどいわたー様。あたしだって一生懸命考えたのに・・・。」
「ルーアンさん・・・。太助様、あんまりですわ!」
うっ、言い過ぎだったか?でもなあ、下手に慰めるべきじゃないよな。
「面白くないものは面白くないって。そんなもんたかしに見せたって意味無いよ。
・・・と言うよりは、面白いか面白くないか判断してくれって言ってなかったか?」
「はっ、そういえば・・・。もう良いわ、なんか疲れちゃったからおとなしく諦める。
でもなんか悔しいわねえ・・・。こうなったらあの二人をとことん攻めてやりましょ。」
「ええ、頑張りましょうね。ルーアンさん、太助様。」
「う、うん・・・。」
あっさり立ち直ってやる気満々のシャオとルーアン。ま、とりあえず一段落ついたって事だな。
「それじゃあもう寝よう。なんだか疲れちまった・・・。」
「そう。じゃあおやすみ、たー様。」
「太助様、おやすみなさい。」
「ああ、二人ともおやすみ。」
挨拶を交わして自分の部屋へ。
ふう、ちょっと強気になっちゃったかな。・・・もしかしてヨウメイはこれを狙って?
なんて考え過ぎか。ともかく一組だけの審査ならなんとかなる。
しかもシャオとルーアンが一緒だ。よーし、気合入れていくぞ。
布団に入って、ようやく安息が訪れたような気分に。ああ、安らぎって良いなあ・・・。
そうして、俺は眠りに入ったのであった・・・。

翌日、いつもの面々で学校に到着・・・のはずが、なぜかキリュウとヨウメイは居ない。
家で漫才の特訓をするらしい。学校と試練サボってまでやる事なのか?
ここはたかしにきつく言っておいた方が良いかもな・・・。
というわけで、教室に入るなりたかしに寄って言った。
「おいたかし、なんで漫才なんて言い出したんだよ。おかげで俺はえらい目に遭ったんだからな。」
「ちょっと思い付いて言っただけだよ。それよりどんな調子なんだ?二人は。
おおっと、シャオちゃんとルーアン先生の漫才も期待してるぜ。」
「シャオとルーアンは辞退させたよ。あんまりにも漫才じゃないから。」
「なにー!?せっかくシャオちゃんが申し出てくれたのに―!!」
いきなり立ち上がって俺の胸倉をつかんできた。
当然俺はそれを不機嫌そうに払いのける。
「五月蝿いな、とにかくそういう事なんだよ!!
さむすぎる漫才を四六時中聞かされる身にもなってみろってんだ。」
「ちっ・・・。まあいいや、もう一組居るから。」
「もう一組?どういう事だよたかし。」
「ふふん、聞いて驚けよ。実はな・・・」
「野村せんぱーい!!」
たかしが言いかけると同時に愛原が教室へと入って来た。
シャオ達に挨拶を交わしてこちらへと来る。
「あ、七梨先輩も丁度いいから聞いてください。
漫才大会って昨日から三日後、つまり明後日という事なんですよね?」
「ああ、そうだけど。」
「それがどうかしたの?花織ちゃん。」
二人して答えると、愛原はたかしの方へ向いて済まなさそうに頭を下げた。
「実は昨日熱美ちゃんもゆかりんもすごい風邪ひいちゃって。当分安静にしてなきゃ駄目だそうです。
原因はあたしの家で夜遅くまで練習してた所為だとか・・・。というわけで、漫才には参加できません。」
「な、なにー!!?」
俺は淡々と反応するつもりだったが、たかしがそれより先に大声を上げた。
一体なんだってんだ?
「という事は熱美ちゃんとゆかりんちゃんの漫才は・・・。」
「当然無しですよ。まさか病み上がりに漫才させるわけにもいかないでしょう?
ところで楊ちゃんはどうしたんですか?七梨先輩。」
「ヨウメイならキリュウと一緒に家で練習してるよ。さすがに頑張らなきゃと思ったのかな。」
「へええ・・・。どうしてですか?」
「実はシャオとルーアンの漫才は辞退させたんだ。あまりにも駄目駄目だったから。
それで質の高いのを目指そうって事で、とにかく二人ともやる気になってるって事かな。」
「なるほどお・・・。えっ!?という事は楊ちゃんとキリュウさんの漫才のみって事ですか?」
「ああ、そうなるかな。俺はあの二人の他に漫才やるコンビが居たなんて知らなかったけど。」
「実は密かに野村先輩に告げたんですよ。でもまあこうなったらしょうがないか・・・。
とりあえず楊ちゃんとキリュウさんの漫才を楽しみに。それじゃあ。」
「ああ、またな。」
愛原はこれだけ告げると挨拶して帰って行った。
横を何気無しに振り向くと放心状態のたかしが・・・。
「・・・どうしたんだ、たかし。」
「太助・・・そんなのってないよな。はじめて後輩から思いもかけない申し込みをされたってのに。
はあ、俺はやっぱりついてないのかなあ・・・。」
力なくうなだれて席に座るたかし。
そうか、聞いて驚けっていってたのはそういう事だったのか。
別にたかしがもてたって訳じゃあないと思うけど・・・まあそっとしておいてやるか。
苦笑いしながら、遠目に見ていた乎一郎に目で挨拶。
肩をすくめながらそれに反応するのだった。
ちなみに山野辺は来ていなかった。多分那奈姉が泊まりに行ったのが原因だろうな。

平穏無事に全ての授業が終わり(試練は無い、休み時間に愛原達は来ない)あっという間に放課後を迎えた。
「あ―あ、もう授業終わっちゃったのか。一日って早いよなあ。」
うーん、と伸びをするとシャオが傍にやって来た。
「疲れましたか?太助様。今日はいつもと違って何も無かったんですが・・・。」
「い、いや、ちょっと平穏ってやつを実感してたってだけだよ。」
「平穏ですか?良かったですね、太助様。」
「う、うん・・・。」
にこっと笑うシャオってやっぱり可愛いよなあ・・・なんてのんきな時間もこれまでだな。
なんといっても帰ったら・・・。
「太助、それにシャオちゃんも聞いてくれ。」
振り返ると、たかしが気の抜けた表情で突っ立っていた。
いつものたかしらしくないなあ。一体なんだってんだよ・・・。
「実は、漫才の話は無かった事にしようと思う。
というわけでキリュウちゃんとヨウメイちゃんにそう言っておいてくれ。」
あっさり告げると、回れ右をして立ち去ろうとするたかし。
当然俺は素早くそれを捕まえた。
「待てよたかし。一体なんだって急に・・・。二人とも一生懸命にやってるんだぜ。」
「・・・そう言われても止めにしたもんは止めだ。
俺はあの二人の漫才なんて聞く気に成れない。だってさむすぎるんだろ?」
「今はそうだけどさ、明後日までには多分面白くなるだろうから。
それにさ、今更止めに成りましたなんて言ってあの二人が納得すると思うか?」
「・・・しないと思う。あ―あ、しょうがねえ。ま、自分から言い出した事だしな。
期待してるって二人には言っといてくれ。・・・じゃあな。」
言いおわるとたかしは片手を上げながらその場を歩き去ってゆく。
と、一言も喋ってなかったシャオが呼びとめた。
「たかしさん!一体どうして漫才をやってなんて言い出したんですか?」
するとたかしはゆっくりと振り返った。なんだか遠い目をしてるような・・・。
「二人がより仲良くなる様にと思ったんだ。あんな喧嘩をされてちゃ迷惑だしな。
でもさ、よくよく考えたら漫才で仲が良くなるわけがない・・・。というわけで止めようと思ったんだ。
とにかく二人にはそういう事を言っといてくれよ。こうなったら面白くなくてもいいから。」
「面白くなくてもいいから・・・って、それは投げやりじゃね―か?」
「いいんだよ。もともと俺は仲良くしてもらいたくてそう言ったんだから。
まあ、ちょっと提案が悪かったかもしんないけど・・・。」
「悪すぎるって・・・。でもまあそういう事なら二人とも納得するかもな。
上手くいけば別に漫才しないまま仲良くなるかもしれない。
分かった、二人には止めにするよう伝えとくよ。さんきゅうな、たかし。」
「たかしさん、なんだか立派ですわ。」
「い、いや、ははは。じゃあな。」
シャオに言葉をかけられ、照れながらもたかしは帰って行った。
丁度話が全部終わった所でルーアンが教室へと帰ってくる。
「ふう、職員会議があっさり終わったわ。さ、二人とも帰りましょ。」
「ルーアンもお疲れ様。ところでさ・・・。」
「え?」
帰り道、たかしに告げられた事をルーアンにも告げる。
最初は驚きの顔になっていたものの、しばらくして穏やかな表情を見せた。
「良い事じゃない、野村君てばやるわねえ。
ま、あたしも漫才の審査なんてあんまりやりたくなかったし。」
「お食事中に変な会話をしなくて済みますものね。」
シャオがにこにこしながら付け足した。
なんだ、自覚してたんだ。良かった、あんな癖がついちまったらどうしようもなかったよ。
「ただ、あの二人が納得して漫才を止めるかどうか・・・。」
「ルーアン、それってどういう意味だ?」
「帰ったときに二人がすっかりやる気になってたらもう止めようが無いって事よ。
ま、そうならない事を祈りましょ。」
「大丈夫ですよ。二人ともちゃんと仲直りして納得してくださいますわ。」
「だといいけどね・・・。」
ちょっと不安な気分で家に到着。
「「「ただいまー。」」」
三人で「ただいま」を言ってドアを開けた瞬間、“ドーン!!”という大きな音が!!
顔を見合わせて急いで音のした方、つまり二階のキリュウとヨウメイの部屋へ。
そこに居たのは、何やら真っ黒になったキリュウとヨウメイだった・・・。
「けほっけほっ、ヨウメイ殿、失敗だ、これは・・・。」
「そうみたいですね。おっかしいなあ、火薬の量はこれでいいはずなのに・・・。」
唖然となっているシャオとルーアンに代わって、恐る恐る口を開く。
「キリュウ、ヨウメイ、二人とも何してたんだ?」
「あ、主様、お帰りなさい。切り札ですよ、き・り・ふ・だ。」
漫才に切り札なんかあるんかい。何か言う前に更にキリュウが言う。
「すべてをやり尽くした後、ヨウメイ殿が呼び寄せた自然の火薬に私が万象大乱をかける。
そしてヨウメイ殿がそれに火をつけて爆破。オチの最後は爆発が基本だしな。」
「・・・・・・。」
どっからそんな曲がった知識を手に入れたんだ。ひょっとしてヨウメイか?
「漫才は爆発だ〜!ってね。これでもう大爆笑間違い無しですよ。
あ、主様にシャオリンさんにルーアンさん、この事は公開まで秘密ですからね。」
黒い格好のまま人差し指を唇に当てるヨウメイ。
誰がこんなもん喋るかってんだ。やっぱりこの二人がやる事ってろくでも無いな。
「あの、ヨウメイさん・・・」
「あ、ちょっと待ってくださいね。もう一度・・・万象変化!!」
ヨウメイが唱えると同時に空中から微量な火薬が出現した。
「では、万象大乱!」
その火薬がだんだんと大きく・・・やばい、早く逃げなきゃ!!
「よーし、来れ・・・。」
タイミングを見計らっているヨウメイを尻目に、俺はシャオとルーアンを大急ぎで廊下へと連れ出した。
出ると同時にドアを閉め、二人の上に覆い被さる様に廊下へと伏せる。
「炎!!」
ドオオ―――ン!!
近くに居た所為か、帰って来た時より大きく聞こえた。
一瞬ドアが膨れ上がったものの、なんとか部屋の中で爆発を吸収した様だ。
やれやれと起きあがって恐る恐るドアを開ける。
中は煙が立ちこめていて何も見えなかった。急いで窓を開けて換気。
しばらくして煙が晴れると、そこには服もぼろぼろに真っ黒になった二人が・・・。
「ふむ、こんなものだな。今度は成功だ。」
「あられもない恰好に成っちゃいますけど、後で直せば良い事ですしね。」
爆発したような髪型、破れまくっている服、そして全身真っ黒。
俺はこれを見て確信した。何がなんでも漫才は中止しなければならないと・・・。
なぜかって?女の子の精霊二人にこんな訳分からん漫才なんかさせられるか―!!
(もっとも、考え出したのはこの二人だけど・・・。)
「さて、これで最後の仕上げは整ったな。後は大量のたらいの雨。
それからシャレのボケを100連発くらい。更に喧嘩に見せかけた漫才。」
「後は舞台設定ですね。やっぱりドライアイスの煙は欲しいな。
あ、ついでに火山とかも設置しましょうか。皆さん、どんなのが良いと思いますか?」
すっかりやる気になっているキリュウとヨウメイ。
戸惑うシャオとルーアンを制し、俺は真剣な目つきで二人の前に立った。
「キリュウ、ヨウメイ。いいか、よおく聞いてくれ。実は・・・。」


後日談:どうやら、漫才中止を申し出て正解の様だった。
太助のやつ、後一日遅かったら取り返しの付かない所だったと言っていたし。
そんなにやばかったのか。ふう、言い出して正解だったぜ。
結局は漫才がきっかけかどうかは知らないけど、以前より二人の仲が深まったのは間違いないようだ。
良かった良かった。これで喧嘩に巻き込まれる事もない。と思っていたんだけど・・・。
「万象大乱!」
「来れ、吹雪!」
「やめろー!!仲直りしたんじゃないのか―!!」
太助が必死に叫ぶ中、キリュウちゃんとヨウメイちゃんの喧嘩が繰り広げられる。
「主殿が怒っている!!ヨウメイ殿、いいかげん参ったと言うんだ!!」
「何をおっしゃる!今日こそは絶対に先にそっちに言わせますからね!!」
いや、これは喧嘩だろうか。なんだか二人とも楽しそうだな・・・。
激しく言い合っている割には、なんだか目が笑っている様な気がしないでもない。
そう言えばキリュウちゃんて、荒れてる時には手当たり次第に万象大乱かけてたよな。
ヨウメイちゃんも自然現象呼びまくったらしいし。
もしかして二人は喧嘩することによってストレス発散してるってことか?
それでも、周りのみんなにとっちゃあ迷惑この上ないけど・・・。
「ねえたかし君、今回は止めに行かないの?」
隣で机の下で隠れている乎一郎に声をかけられた。
「ああ、行かないよ。もしかしたらあれは喧嘩じゃないのかもな、ってね。」
笑顔で答えると“ふーん”という顔で乎一郎が返してきた。
「ま、二人が気の済むまでやらせておけってことなんだよ。」
今回の事でキリュウちゃんとヨウメイちゃんの関係みたいなのが分かった気がした。
けれど、ひとつ疑問が。どうしてわざわざうちのクラスで喧嘩するんだよ!?

≪第十一話≫終わり


≪第十二話≫
『れっつごーしょっぴんぐ!』

鶴ヶ丘町とは少し離れたとある町にあるデパート。
バーゲンでもやっているのだろうか、この建物の前の広場では大勢の人が行ったり来たり。
その中に、周りをきょろきょろと見まわしている中学生の女の子四人組の姿が・・・。
「楊ちゃん、ここでほんとに良かったの?やっぱり鶴ヶ丘町の方が・・・。」
「ちょっと花織ちゃん、今更そんなこと言わないでよ。私に頼んだのは花織ちゃんでしょ?」
「そうだよ花織。楊ちゃんによると、ここが一番お買い得に成る場所なんだってことだから。
さあて、張り切ってお買い物するぞー!」
「元気だね、ゆかりん・・・。」
そう。ヨウメイ、花織、熱美、ゆかりんの四人である。
花織の依頼により、楊明がとっても得するようなショッピングの場所を調べたのである。
もちろんそれぞれ目的の品物があるので、それらの平均をとって、ここという事に成ったのだ。
「それではいざ、お買い物に・・・。」
「「「「レッツゴー!!」」」」
気を取り直して四人同時に手を振り上げる。
道行く人たちはそれに一斉に注目したのは言うまでも無いが・・・。
そんな人目も気にせず、四人は意気揚々とデパートへと入って行った。
「さあてと、まずは・・・楊ちゃんの物からだね。」
「確か・・・お菓子だったっけ?」
熱美とゆかりんの言葉に、ヨウメイはドンと胸を張る。
「そのとーり!日頃のシークレットおやつに欠かせない物なの。」
「シークレットおやつ・・・。要はルーアン先生と一緒に食べるおやつって事じゃないの?」
呆れた顔で言う花織に、ヨウメイはちっちっちというようにする。
「あまいよ、花織ちゃん。これは私が一人で食べるの。ちょっとした休息に、夜寝る前に・・・。
もちろん夜寝る前に食べるのは、キリュウさんに大きくしてもらうためだけど。」
「楊ちゃん、寝る前に食べると太るよ。」
すかさず熱美がつっこむと、ヨウメイは自身満々の笑顔で振り向いた。
「その点は心配要らないから。ルーアンさんと同じじゃないけど、私は太らない体質なの。
さあ、美味しいおやつを探しにレッツゴー!」
「「「太らない体質・・・。うらやましいな〜・・・。」」」
三人は当たり前と言えば当たり前の反応をした。
ともかくそういう事で、四人がまずやって来たのは、一階のお菓子詰め合わせ売り場。
和洋問わず、様々な種類の品物が並んでいる。
それこそ、出雲が普段持ってきている饅頭、ようかん、蓬もちも・・・。
「うわあ〜、こんなにあると迷っちゃうなあ。なんにしよっかな♪」
ルンルン気分で見回すヨウメイに、熱美がそれとなく言った。
「ところで楊ちゃん、どれだけ買うの?
今日はお昼ここで食べるんだから、あんまり無駄遣いしちゃあ・・・。」
「平気平気。主様からたっぷりお小遣いもらったから。
しかもどれだけ買うかもちゃんと決めてあるんだ。だからだいじょーぶだいじょーぶ。」
余裕の表情で一つの売り場へ近付くヨウメイ。他の三人も、それに付いて行った。
「いらっしゃいませ。本店のお菓子はどれもこれも超一級ですよ。」
「ええ、知ってます。え〜と、この山積みになってるやつの、下から三番目ください。」
ヨウメイが指差したそれは、ヨウメイの背よりも高く積まれた物だった。
応対した店員の顔が引きつったのは言うまでも無い。
「あの、なぜ下から三番目・・・。」
「だってそれがいいんですもの。拒否するなら別の所へ行くまでです。」
「・・・分かりました。しばらくお待ちください。」
やれやれとため息をついた店員は山積みのそれを解体し始めた。
衝撃を与えない様に一つずつ慎重に。
その光景をにこにこしながら見守っているヨウメイにゆかりんが囁いた。
「ねえ楊ちゃん。どうして下から三番目なの?」
「見てれば分かるよ。」
良く分からないゆかりんは、花織と熱美と顔を見合わせて肩をすくめる。
しばらくしてようやく三番目が取り出せそうになった頃に、別の客がやって来た。
「すみません。そこの金のあずき饅頭セットを五箱。」
「あの、申し訳有りませんが、しばらくお待ちねが・・・」
「いいえ、店員さん。お先にこの方の相手をしてください。」
「そうですか?では。」
ヨウメイの申し出により、作業を途中にして店員は新たな客の注文の品を取る。
当然不思議に思った客は、それとなしに店員に尋ねてみた。
「一体どうしたんですか?なぜはこの山を崩して?」
「それが、下から三番目だとかおっしゃるものですから・・・。」
きちんと包みながら店員が答えると、客はヨウメイ達の方を見て笑みを浮かべた。
「随分と酔狂な客だね。君も大変だろう。」
「いえ、これが仕事ですから。・・・はい、お待たせしました。」
手提げ袋に箱入りのお菓子を入れ、それを客に手渡す。
客はそれを満足げに受け取り、代金を支払った。
「それじゃあどうも。お嬢ちゃん達、あんまり店の人を困らせちゃいけないよ。」
「はーい。おじさん、どうもありがとう。」
「?」
ぺこりと頭を下げながらなぜかお礼を言うヨウメイ。
不思議そうな顔をした客だったが、軽く会釈してその場を去って行った。