小説「まもって守護月天!」(知教空天楊明推参!)


「おまえ達に少しだけ時間をやろう。
私が最後の力を解放する前に、私を完全に消す事だな。
先ほどの空天が行おうとした無の術によってな。」
「な!!?」
「なんですって!!?」
驚くキリュウとルーアン。もちろん戸惑ったのは北斗七星も同様だ。
当然といえば当然の反応。まだ力を残していて、更に強力になれるというのだから。
「そ、そんなはったりなんか通じ無いわよ!!」
“嘘だ!”と言わんばかりに叫ぶルーアン。だがデルアス自身は冷静だ。
「はったりかどうかは時が来れば分かる。時間を後十分だけくれてやろう。
油断はするなだと?そんなセリフはもっと力を持ってから言うのだな。」
「くっ・・・万象大乱!!」
先ほどのことを言われて、慌てて唱えるキリュウ。
北斗七星の力を強大化。そして勢いに乗った彼らがデルアスの体を砕く!

チュドーン!!

今まで繰り返してきた攻撃とは断然桁違いだ。
砕け散った彼の体を呆然と見るルーアン。だが、そこで再びキリュウは唱える。
「万象大乱!」
デルアス自身に万象大乱を施したという事だ。
しかし、何も変化がない。
それどころか、最初の閃光と同様の光が発し、デルアスは完全な姿を底に見せた。
「あせっているな?まあ安心しろ。復活はするがそれ以外に力を使ったりはしない。」
ついにはけたけたと笑い出した。それを見てルーアンはキリュウにつっかかかる。
「何やってんのよ!!あんたの所為で復活しちゃったじゃない!!」
「日天よ、それは違うぞ。地天の判断は正しい。
あのまま攻撃を続けた所で力を削れるだけだからな。
それよりはこうやって元に戻し、強烈な力をぶつけて解放を阻止する方がましだ。
もっとも、貴様らに阻止できるとは思えんがな。」
キリュウを誉めたかと思うと、またも高らかに笑い出す。
明らかに余裕を見せつけている、そんな感じだ。
「小娘!!ヨウメイをたたき起こしなさい!!
無の術なんてその子しか使えないんだから!!」
鬼の様な形相で結界へ振り返るルーアン。その様子にびくっとなる花織たち。
だが、彼女の肩をキリュウがつかみ、そして首を横に振った。
「無駄だ、ルーアン殿。あの状態になったヨウメイ殿は決して起きない。過去に立証済みだ。
つまり、私達だけで何とかしなければ成らないという訳だ・・・。」
諦め気味のその顔は、なにやら覚悟しているようだ。
それをみて黙って頷くルーアン。そして北斗七星も静かに頷いた。
とにかく彼女らが取る行動は、力の解放を如何に先に延ばすか、という事である。
デルアスが手間取っている途中ででもヨウメイが目を覚ませば良し。
その時に無の術をかければ無事にことは済む、という寸法だ。
「ほらほら、やってみせろ。なんとかするんだろう?
せいぜい体を砕く事しか出来ない無能どもが。」
デルアスが挑発すると同時にキリュウと北斗七星が動く。
“万象大乱!”という声の後に、力を増幅させた北斗七星が体当たり。
衝突の直後にデルアスのからだが砕け散る。その直後、ルーアンが叫ぶ。
「陽天心召来!」
ヨウメイの灼熱攻撃の時と同じ様に、体の破片が意志を持つ。
ところが一秒も経たぬうちにそれは消え、そしてデルアスは完全復活する。
“信じられない”といった顔をするルーアンに彼は静かに告げた。
「前段階と同じ様に上手く行くと思ったら大間違いだぞ?
何のために私が力を解放したと思っているんだ。ふん、やはり貴様は無能だ。」
「なんですってー!?陽天心召来!!」
怒り狂ったルーアンが陽天心を放つも、それは無意味なものでしかなかった。
デルアス周辺にはかからない。石等にかかっても、そんなものでの攻撃はたかが知れている。
時が過ぎるにつれ、キリュウと北斗七星の連合攻撃も意味をなさぬものになってきた。
相手の力を多少削れるもののやはり体を砕く程度が関の山。それだけでは復活されて終わり。
そんな調子で、デルアスにとってはほぼ無意味な攻撃が繰り返されていた。
結界内から様子を見ていたシャオ達は唖然。
先ほどまでの優勢から、一気に劣勢へと叩き落されたようなものだからだ。
「相手が悪すぎる・・・。こんなんじゃあ勝てっこないよ。」
「七梨先輩、諦めるのはまだです。楊ちゃんさえ起きれば・・・。」
「でも花織ちゃん、いつ起きるのか分からないのに・・・。」
「遠藤の言う通りだ。たとえヨウメイが起きたとしても、術が発動する前にあいつは多分・・・。」
翔子の言葉で会話が途切れる。
皆が皆“遊んでるんだ・・・”と思ったからだ。
深刻な雰囲気が漂う中、じっと外の攻撃を見守るのだった。

「・・・ぜえ・・・ぜえ・・・。」
「北斗七星殿、いったんこちらへ・・・。ふう・・・。」
指定した時間の半分が過ぎた所でいったん攻撃の手を休める。
もちろん、このままでは効果があがらずということも考えたからだ。
「ふむ、後五分か。何をするんだ?どのみち空天が居ない点で頑張らねばならないだろうがな。」
「五月蝿いわね!!絶対にあんたなんかやっつけてやる!!」
「威勢だけは良いな。まあのんびりと見物してやるから有り難く思え。」
さげすんだ笑い声が響き渡る。
悔しそうな顔になりながらも、ルーアンはキリュウと向きあう。
そして、小声で作戦の相談を始めた。
「で、どうすんの?」
「こうなったらシャオ殿も加わって・・・と言いたいが、それをしてしまえば終わりだ。」
「どうしてよ。キレたシャオリンはやばいんだから絶対戦力になるわよ。」
なんだか失礼なことを口にするルーアン。(半分事実だが)
キリュウは、少々怒り目の北斗七星をなだめて改めて口を開いた。
「もし成功すれば良いが、たとえシャオ殿が加わった所でデルアスは消せまい?」
「まあ確かに・・・。」
「ヨウメイ殿を預ける際にも言った事だが、シャオ殿は最後の砦だ。
密かにヨウメイ殿はこう言っていた。
“皆が倒れてどうしようもない姿を見れば、シャオリンさんは最高の力を発揮してくれる筈です”と。」
「待ちなさいよ、それってつまり・・・。」
「私達が倒れるまで戦う、という事だ。
そしてキレたシャオ殿がデルアスを足止めしている隙にヨウメイ殿が・・・という事だ。」
そこで思わず叫びそうになったルーアン。だが、ぐっと我慢した。
「なんなのよ、それ。ヨウメイったら最初からそういうつもりだったの!?」
「いや、これは最後の手段だ。“極力こんな手は使いたくないですね”とヨウメイ殿は言っていた。
だがこうも言っていた。“もしもの時は実行するか否かの判断をキリュウさんに任せます”と。」
「なるほど・・・。それであんたはそれを実行したいわけね。」
「他になにか良い案があるなら別だがな。」
しばらく考えていたルーアンだが、あっさりと頷いた。
「分かったわ。まあ死んでもヨウメイが生き帰らせてくれるし。」
「いや、死ぬという事は無いだろう。だからこそ私もこれを実行しようと思う。」
「・・・どういう事よ?」
「おそらく相手は油断の塊で来るだろう。つまり、死ぬ直前で止めるはずだ。
現に、あっという間に殺せたはずの北斗七星殿も殺さなかった。そういう事だ。」
「なるほど・・・。あれ?でもヨウメイって蘇生の術が使えるんじゃないの?」
「軽々と使って良いもののではないはずだ。これは、それもわかった上での作戦だろう。」
「そっか。よし、気合入れていくわよ!!」
「うむ!」
話し合いがついに終わり、北斗七星とルーアンとキリュウが頷きあう。
そして体をデルアスの方へと向けた。
「随分と長い作戦会議だったな。後二分だぞ?」
「うっさいわねえ、あんたには関係無いわよ!!」
「全力で行くぞ・・・万象大乱!!」
先ほどと同じ様に北斗七星の力を強化。ルーアンも後に続く。
「陽天心召来!!」
デルアスの周囲の地面が意志を持ったかのようにうねり出したかと思うと、がっちりと彼を掴んだ。
つまりは、土で固めたという感じだ。
「こんな物で足止めしなくてもいいのだぞ?」
「万象大乱!!」
いちいち言葉を発するデルアスに対しキリュウがすかさず万象大乱を唱える。
すると意志を持った地面の強度が増す。そして強大な圧力で絞め始めた。
丁度そこへ北斗七星が突進!

ドゴーン!!

やはり砕けるデルアスの体。すかさずそのかけらに対して陽天心が放たれる。
しかし、先ほどと同じくすぐに彼は完全復活。
結局は一瞬意志を持っただけに終わってしまうのだった。
「それは無駄な行為だと言った筈だが?」
「無駄じゃないわ!!少しでも力を削って後々に影響を与えるはずよ!!」
「そうだ!こうして北斗七星殿が体を砕いている事もな!!」
「・・・ふん、勝手にしろ。どのみち後わずかだ。」
嘲るデルアスに構わず、ルーアンとキリュウ、そして北斗七星は攻撃を続ける。
結界内からその懸命な姿を見ていた花織達は、思わずヨウメイを揺すってみるのだった。
「楊ちゃん、早く起きてよ・・・。」
「いつまでも寝てないで・・・ねえ!」
「もうすぐおやつだよ。だから・・・!!」
三人が三人、必死になる。だが、やはりそんな事ではヨウメイは起きない。
他の面々はそんな花織達の姿をただじっと見つめるしかできなかった。
そうして時が過ぎ・・・。
「時間だ。私が全ての力を解放した姿を見られる貴様らは運が良いぞ。
高位な神々どもも、こればかりは見てないからな・・・ふははははは!!!」
高笑いしながら告げるデルアス。
しかしそんな事はお構い無しにやはり攻撃を仕掛ける北斗七星。
ところが、眩い光が一瞬放たれたかと思うと、見えない壁に引っかかるような形の北斗七星が!
その壁の向こうには、いまだ下半身を地面に取られたデルアスが居た。
しかし姿は今までのものとは違う。服装は同じだが、やはりというか身長が変わっていた。
先程と比べると少し低め。だが、一番大きく変わっているのは見た目だ。
急激に年老いたような感じで、しわがあちこちに入っている。
顔はもちろん、老人のものであった。
「久しぶりじゃのう、この姿になるのは。あれは・・・まあ昔話は後でゆっくりと語ってやろう。
さてと、北斗七星じゃったかの?何回も儂の体を砕きおったふとどきもの。
すぐにでも殺してやりたいが、儂は寛大じゃからな。瀕死の重傷で勘弁してやろう。」
なんともしゃがれた弱々しそうな声だが、恐怖を味わせるには十分だった。
すっと人差し指を北斗七星に向ける。
危険を感じた北斗七星は、急いでその場を離れようとしたが・・・

ドシュウッ!!!

見た事も無いような強烈な光が発せられたかと思うと、
一塊に黒焦げとなった北斗七星が地面へと崩れ落ちた。
まさに一瞬、と呼ぶほどの時間だ。しかしルーアンとキリュウに唖然としている暇はない。
デルアスが次の行動を起こす前に自分達も何かしなければ成らないのだから!
「ど、どうすんのよ、キリュウ!」
「ルーアン殿、こういうのはどうだ?」
以外にも冷静なキリュウが口早に小声でルーアンに作戦を告げる。
と、それが終わると同時にデルアスが下半身を捕らえていた地面を砕いた。
そこでようやく自分の完全なる姿を周りに見せる。
身構えるルーアンとキリュウ。だが、結界内では絶望の雰囲気が漂っていた。
「御終いだ・・・。あの北斗七星が一瞬に〜!!」
「五月蝿いですよ、野村君。とにかくあの二人を信じましょう。」
「信じるったって・・・。例えヨウメイが起きた所で相手が悪すぎるよ!!」
「大丈夫です。ルーアンさんとキリュウさんなら必ず・・・。
もしもの時は、私が全力を持って皆さんを御守りします!!」
二人を信じながら、そして力強く告げるシャオ。
信じると言ったものの、なるべくなら来て欲しくなかった自分の出番が近い事を悟っているようだ。
自然と支天輪を握り締める力が強くなる。
だが、こんな緊迫した状況でも、やはりヨウメイは目覚めていない。
花織達は懸命に彼女を揺すりつづけていた・・・。
「どんな作戦を立てたのじゃ?無駄だと分かっておるのに・・・。」
「無駄かどうかはやってみないとわかんないわよ!!」
「そういう事だ。」
さすがに多大なる力を目の当たりにして二人は少し震えている。
それでも気迫を衰えさせる事なく告げるその姿に、デルアスはにやりと笑った。
「せめてもの情けじゃ。北斗七星と同じ様にしてやろう。」
なんの情けなのかはさっぱりわからなかったが、とにかくすっと指を上げるそれに身構える二人。
その刹那、

ドシュウッ!!

と、先ほどと同じ閃光が放たれる。思わず目を閉じるシャオ達。
しかし、それと同時にルーアンも叫んでいた。“陽天心召来!”と。つまり・・・。
「な、なに!?」
「へへ〜ん、陽天心光玉の出来あがり!!」
そう、デルアスが放った光線そのものが意志を持ち、ルーアンの僕となっている。
一瞬のうちに陽天心をかけて手玉にしたという事だ。
「す、すげえ・・・さっすがルーアン先生!!」
「シャオが言った通り、しっかり信じられるよ!!」
「あの、信じましょうといったのは私なんですが・・・。」
「宮内、そんな下らない事気にしてんじゃないって。」
結界内で歓喜の声が沸き起こる。その中には、もちろん花織たちの声も混じっていた。
「ほらキリュウ、早く!」
「うむ、万象大乱!!」
ルーアンに急かされながらもキリュウは万象大乱を唱えた。
もちろん光玉の威力を増幅させる為。
一旦大きくなったそれだが、質を高めただけのように再び小さくなる。
なんと言っても意志を持っているのだから自由自在、という訳だ。
「これは驚きだわい。過去にこんな術を使う奴はいなかったぞい。
日天殿よ、前言撤回しよう。お前さんは無能じゃないぞ。もちろん地天殿もな。」
「そりゃどうも。」
「精霊だからと言って馬鹿にしない事だな。」
思わぬ誉め言葉に少しばかり上機嫌の二人。
胸を張ったり照れてみたりと、いつもの反応をちょっとだけ示すのだった。
しかし、感心したようなデルアスの顔が突然に下卑たものに変わる。
「じゃがのう、この程度で勝ったとは思わない事じゃ。
それは儂の力のほんの一部なのじゃからな。」
「ふん、じゃあ攻撃してみれば?」
「言われんでもやってやるわい!!」
逆にルーアンが挑発。それに乗ってデルアスは再び手をこちらへ向けた。

バシュッ!

今度はルーアンの準備が間に合わなかった様で、光線を手玉に取る事は出来なかった。
もちろん、その攻撃を防ぐのはさきほど手玉にしたばかりの陽天心光玉。
と、光線に向かっていったかと思うと、それにぶち当たって粉々に砕け散った!
この出来事も一瞬だったのだが、唖然とするルーアンとキリュウ。
強力なものを得たと思いきや、一瞬にしてそれが無くなったのだから。
「ふん、見た事か。あの程度でいい気に成るのは早すぎるわい。ふぉっふぉっふぉ。」
妙な笑い声を上げるデルアス。だが、唖然としていたルーアンはにやっと笑う。
正に、自分の思い通りにいったと言わんばかりの顔だ。
「かかったわね・・・。陽天心・・・召来召来召来召来召来召来召来召来!!!!」
「なにっ!?」
笑いを止め、次々と陽天心召来を繰り出すルーアンを慌てて見るデルアス。
なんと彼女は、飛び散ったかけら全てに陽天心をかけているのだ。
あらかたかけ終わったかと思うと、すかさずキリュウが叫ぶ。
「万象・・・大乱!!!!」
一気にかけら全ての威力が強化。あっという間に、先ほどの陽天心光玉が何十も出来たというわけだ。
これにはデルアスもただただ唖然。ただ口をあんぐり開けて見ているのだった。
「どんなもんよ!!これであんたも終わりよ・・・おーっほっほっほ!!」
「ルーアン殿、油断は禁物だぞ。まあ、これでかなりの時間稼ぎにはなるな。」
諭しながらもキリュウの顔には余裕を示すかのような笑みが浮かんでいる。
まさしく形成逆転。意志無き物を操れるルーアンの力、そして巨大化できるキリュウの力の見事な連携だ。
当然ながら、結界内は更なる歓喜に包まれている。
支天輪を力強く握っていたシャオの力がすっと抜け、そのシャオの肩をそっと抱く太助。
那奈や翔子、そして出雲はもはや勝利を確信した様にホッと胸をなでおろす。
たかしや乎一郎、花織達三人はヨウメイの事もほったらかして跳ね回っているのだった。
「さてと、これらを一斉にぶつければ・・・。」
「さすがに効くだろうな。いくらなんでも死んでしまえば復活は出来まい。」
油断なく身構えるルーアンとキリュウ。
威力が十分に保つ様に、何度も万象大乱、陽天心召来をかけている。
と、二人がじりっとせまったところで、ようやくデルアスは開けていた口を閉じた。
そして、“ふう”と一つ息をつく。
「どうしたの?もう観念した?」
「・・・正直儂は驚いている。こんな戦い方をする奴がいるとはな。
じゃがな、やはり上には上が居るものじゃよ。それをこれから見せてやろう。」
「!!ルーアン殿、早速攻撃を仕掛けるぞ!!」
「え、ええ!!」
二人が攻撃の準備に素早く入る。
それと同時に、デルアスは空中に紋様を描いたかと思うと、そこから一本の杖を取り出した。
ただの棒にも見えるそれだが、
真中で二つに割れていて、見えない力で支えているように球体がそこに存在している。
また、杖の両先端には真っ白で尖った槍の先のような物があった。
「これは儂が開発した杖でな、使用者の力に呼応して強くなる杖じゃ。
“極限の杖”と言ってなかなか便利な物で、様々な現象を・・・」
「いけえ、陽天心達!!」
デルアスがのんびり説明する中、ルーアンが指示して一斉に光玉達が襲いかかる。
もちろん、その途中でも、随時キリュウが万象大乱を詠唱中だ。
「やれやれ、堕神といえどひとの話はしっかり聞くもんじゃぞ。
まあ実際に見せてやった方が早いかの。・・・そりゃ!!!」
ぶん!とデルアスが杖を一振り。それと同時に、一瞬にして陽天心光玉達が消え失せた。
もちろんルーアン達は立ち尽くすしかできない。
「何が起こったのか分からん、といった顔じゃのう。
この杖はな、様々な現象を使用者の力に応じて起こせる物なのじゃ。
創生から消滅まで、さすがに“無”は無理じゃがな。
しかし力を多大に吸われる物じゃからかなり疲れる。まあ今の程度ならどうって事は無いがの。」
淡々と説明するデルアス。しかしルーアン達にとってそんな物はどうでも良かった。
もはやどう抵抗しても勝てない、そう思ったからだ。
「・・・おや?絶望させてしまったかな?こりゃ失敬。
以後この武器は使わぬ様にするからのう・・・。」
言いながら杖を消すデルアス。そしてすっと手を正面にかざした。
「心配せんでも二度とあれは使わんよ。それよりもう一度抵抗してみんか?
今度は杖無しで実力の差を見せつけてやるぞい。」
「・・・その思いあがり、絶対後悔させてやるわ!!」
「ルーアン殿・・・。」
絶望となった皆を奮い立たせんばかりに力強く叫ぶルーアン。
それに影響されてか、キリュウも顔を上げる。
結界内では、再びシャオが支天輪を強く握り、花織達はヨウメイを必死に揺すり始めた。
「では・・・行くぞ?」
相変わらず余裕の笑みを浮かべたままのデルアス。
先ほどと何ら変わらぬ状況で、ルーアンとキリュウはそれぞれ道具を構えた。
と、そこで偶然なのか、ぱちっと目を開いた者が・・・ヨウメイだ。
「楊ちゃん!!」
「花織ちゃん・・・はっ、デルアスは!?」
「結局最後の力を解放したみたいで、でもルーアン先生とキリュウさんが抵抗して、
でも相手の方が強くって、それで・・・。」
慌てて告げ始めた熱美をゆかりんが止める。
そこで例のごとくヨウメイは、素早く統天書をめくり始めた。
ほんの一瞬あるページを見たかと思うと、すっとそれを閉じて立ち上がった。
「事情はわかった。シャオリンさん、私を結界の外へ出してください。
二人に加勢してきます。」
「ええっ!?でもヨウメイさん、無の術を・・・」
「ダメです。相手は絶対に阻止してきます。この星を消し飛ばしてでもね・・・。」
真剣に告げるヨウメイにぞくっとする面々。シャオはしぶしぶ結界を開くのだった。
そこを出て駆け足で二人のもとへ向かうヨウメイ。
律儀にも、それまで戦闘は中断させられていた。
「やっと起きたわね、ヨウメイ。もう、今度から早く起きる特訓しときなさいよ。」
「それは無理だ。しかしヨウメイ殿、無の術が使えないとなると・・・。」
「心配有りません。とにかく殺してしまえばこちらの勝ちです、多分。」
「そんな事が貴様らに出来るのかのう?もはや空天殿は役立たずじゃしな。」
「役立たずかどうかは・・・死んだ後で判断しなさい!!来れ絶対零度!!」
早々に戦闘開始。一瞬にして凍りついたデルアスだったが、これまた一瞬にして復活した。
「何てことするんじゃ、年寄りに寒いのは堪えるんじゃぞ。もっといたわらんか。」
「いたわってられるもんですか!来れ真空!!」
ぐしゃっとつぶれるデルアスの体。だが、これまた一瞬にして復活をする。
「儂をなめておるのか?これでもくらえい!!」
少し怒り気味にデルアスが光弾を発射。当然待ち構えていた様にルーアンがそれらに陽天心をかける。
だがすべてにかかったわけではなく、一つか二つかは流れ弾となってシャオ達の方へ。
「塁壁陣、少しだけ開けて!来々、車騎!」
一瞬にして車騎が呼び出され、飛んでくる光弾に向かって強烈な一撃を放つ!

ドーン!

と音がしたものの、この程度で砕けるわけはない。
それを分かっているのか、一度開けた結界を素早く閉じる塁壁陣。その直後、

ドゴウン!!!

強烈な爆発が巻き起こる。
思わず身を伏せた面々だが、自分の体が無事なのを確認するとホッと一息ついた。
「さっすが塁壁陣・・・?」
呟いた翔子が見ると、なんともつらそうにしている塁壁陣の姿があった。
一つとはいえ、それはあまりにも強烈過ぎたのだ。
「塁壁陣!」
シャオが叫ぶが、塁壁陣がくたあっと成るのを止める事は出来なかった。
これによって、結界が途切れてしまったという事である。
「来々、長沙!」
長沙が呼び出されて早速塁壁陣の治療に当たる。
しかしヨウメイ見たく一瞬で治せるわけではないので、かなりの時間がかかりそうだ。
「塁壁陣さんが・・・。キリュウさん、ルーアンさん、私、防御に廻ってきます!!」
「そうしてくれ。ここで戦力が欠けるのは痛いが。」
「とりあえず新戦力が加わったもの。塁壁陣が復活するまで頑張ってるわ!!」
「お願いします。」
ぺこりと頭を下げたかと思うと、ヨウメイは攻撃の自然現象を呼び出しながら駆け出していった。
“来れ灼熱!”“来れ超重圧!”“来れ電磁嵐!”
などと叫びながら走るその姿はある程度滑稽にも思える。
その実、しっかりとデルアスの足止めをしているのだから大したものだ。
ルーアンが言う新戦力とはたった今手に入れた陽天心光玉の事。
もちろんそれぞれキリュウが威力を増大させている。
ヨウメイがシャオ達のもとに辿り着いて防御壁を呼び出した所で、改めて膠着状態が解けた。
「なんじゃあの空天殿は、余計な事をちょこまかちょこまか・・・。」
「今度こそ覚悟しなさい!行けっ、陽天心光玉達!!」
苛立つデルアスに対してルーアンが一斉に指示を出す。
ふう、と息をついた彼は例のごとく片手をすっと上げた。
「くだらんいたちごっこはこれで最後にしてやる。」

バシュッ!!

一瞬にして閃光が走ったかと思うと、全ての陽天心光玉は消え失せていた。
バラバラになったのならルーアンにも対処のしようが有る。
だが消えてしまったのでは何も出来ない。
立ち尽くしていた彼女だったが、やがてキッとデルアスと睨んだ。
「何やったのよ!!」
「見ての通りじゃ。力を加減して全て消してやったのじゃよ。
くだらん抵抗も楽しいが、やはり自分の力を操られるのは不愉快でな。」
「ふん、だからってあんたに他にこれ以上何が・・・」

ドス!!

言いかけたルーアンの体を何かが突き抜ける。
それはバチバチと光っている一本の槍。大穴を空けたかと思うと、それはすっと消えた。
「どうじゃな?雷属性の槍の感触は。心配せずとも急所は外してある。
じゃが、しばらくはまともに陽天心は使えまい・・・。」
「くっ・・・うぅ・・・。」
「ルーアン殿!」
どさっと地面に崩れ落ちるルーアンを慌ててキリュウが支える。
あまりの一瞬の出来事に驚愕の表情となる二人。そして、それは二人に限らなかった。
「ルーアン先生!!」
「こ、乎一郎落ち着け!!」
「うわあ!!愛原達も手伝ってくれえ!!」
気が狂ったかのように暴れる乎一郎を押さえるのに必死になる面々。
どうせヨウメイの結界によって外へは出て行けないのだが、それでも落ち着かせなければならない。
花織達三人の中で押さえ役から外れたゆかりんは、恐る恐るヨウメイに尋ねた。
「楊ちゃん、何でルーアン先生が一瞬に?」
「・・・答えは簡単。少しだけ本気を出したからだよ。」
「ええっ!!?だって、陽天心で・・・。」
「そんなもの、デルアスの余興に過ぎないよ。
適度に手加減する事によってどれだけこちらが抵抗してくるか・・・。
それを見るのが面白いんだよ、あいつは。
私の術だって・・・多分簡単にはね返せたはず。けどあえて受けたりして・・・。」
「そのとおりじゃ。」
ヨウメイが説明している途中、なんと結界の目の前にデルアス本人が居た。
いつの間に移動したのか、それはまさしく瞬間移動そのものであった。
その様子にルーアンを抱えているキリュウは、信じられないといった顔でこちらを見ている。
当然、いきなりの事にびっくりしながらも油断なく構えるヨウメイとシャオであった。
「いつの間に・・・。」
「そう構えるな。所詮おぬしらは儂の掌で遊んでいるに過ぎぬのじゃからな。
抵抗の仕方があまりにも面白かったのでな、ついつい儂も付き合ってやったのじゃよ。
いやあ、楽しめたぞ、あの日天殿の抵抗は。しかし今は日天殿は動けない。
動かそうとすれば空天殿、今度はおぬしが動けなくなる。
さてさて、これからどうするのか見物じゃわい。ふぁっふぁっふぁ!」
高らかに笑いながら、デルアスは掌をキリュウの方へと向けた。
ルーアンをそっと地面に横たえ、キリュウは静かに立ち上がる。
「き、キリュウ、逃げなさい・・・。」
「心配するな。ルーアン殿は私が守る。」
「さて、どう抵抗するのかのう?」
その気になれば一瞬で放てたはずの光弾を、じらす様に放つデルアス。
それを見て“やはりか・・・”とヨウメイが思った瞬間には、キリュウはすでに唱えていた。
「万象大乱!」
デルアスの手から放たれた光弾があっという間に小さくなる。
キリュウのもとへ辿り着くまでに、それはへろへろとなって地面に墜落した。
「お見事。見事日天殿を守ったのう?ふぁっふぁっふぁ。」
「・・・・・・。」
それを見て、キリュウも、そして他の面々も確信した。
デルアスは本気を出せば皆をあっという間に殺せる術を知っている。
しかしそれをあえてやらない。とにかく遊んでいるのだという事を・・・。
「楊ちゃん・・・。」
「ダメだよ、もう。相手が油断してる隙に、なんて考えてたけど甘かった。
力は全然相手が上。それこそ私達が全力を出しても勝てる相手じゃない。
無の術を使おうにも、絶対に阻止してくるだろうし・・・。」
呼びかけるゆかりんに、力なく首を振って答えるヨウメイ。
力を落としたのは皆も同じ。だが、デルアスはそれを聞いて不機嫌そうな顔になった。
「なんじゃなんじゃ、最近の若いもんは諦めが早いぞ?
もうっちょっと根性ださんかい!そこで血を吐いて倒れている日天殿のように!!」
言いながらルーアンを指差すデルアス。
皆が彼女に注目した途端・・・

ドゴーン!!

ルーアンの居た辺りで爆発が起こる。その余波に思わず手で顔を覆うキリュウ。
気がついた頃には、ルーアンは遠くに吹き飛ばされていた。
体が少し動いている様だが、もはや何も出来ない状態であるのが見て取れる。
「な・・・。」
「いかんのう、地天殿。日天殿を守るのではなかったのか?
ちなみに今のは・・・そうじゃ、空天殿に解説してもらうとしよう。
空天殿、今の術はなんという術じゃ?」
唖然とするキリュウをほったらかしてくるりとヨウメイへと向くデルアス。
何やら脅迫するような目つきで彼女を睨んでいる。
その瞳に圧倒されたのか、ヨウメイは震えながら統天書をめくった。
「ナノバースト・・・俗に言えば遠距離爆破と同じです。
威力を極力下げた攻撃で・・・」

ドーン!

説明の途中で、またもや爆発が起こった。今度はヨウメイがいる場所で・・・。
傍に居たゆかりんまでもが爆発に巻き込まれた様。更にはその衝撃で結界が消える。
ヨウメイとゆかりんの二人は、結界の遥か向こうまでルーアンと同じ様に吹き飛ばされた。
どさどさっと地面に落ちる二人。幸いながらも生きている様ではあるが・・・。
「楊ちゃん!ゆかりん!」
花織が叫ぶ。慌てて駆け出していきそうになった彼女を熱美が止めた。
止めようが駆けようがおそらく結果は変わらないとは思いながら・・・。
「とまあ、結界を張っていようが関係無く相手を吹き飛ばせるというわけじゃな。
というのは冗談じゃ。あんな軟弱な結界などは意味が無い、という事。
じゃが、塁壁陣とやらは別じゃ。そこで・・・。」

ドゴーン!!

今度は先ほどとはまた別の大きな爆発が起こる。
シャオ達が気付いた時には、塁壁陣、そして長沙、車騎はすでに傍に居なかった。
しばらくして、空高く舞い上がっていたのか、どさどさどさ、と三つの影が地面に叩きつけられる。
それは紛れも無く塁壁陣、長沙、車騎であった。
「そんな・・・。」
絶望の表情でシャオが呟く。まさにあっという間にそれぞれがやられてしまったのだから。
彼女だけでなく、他の面々も同じ気持ちであった。とうとうデルアスが直に手出しをしてきたのだ。
「さてと、少し趣向を変えようかの。月天殿と地天殿が何処まで抵抗できるか。
つまらないと思ったら、一人ずつ瀕死にしていこう。ふむ、これにきまりじゃ!」
わざとらしく手を打つデルアス。シャオもキリュウも、腹立たしいとも思えなかった。
完全に遊ばれている。そしてそれを見返す力ももはや無いだろう、そう思い始めたからだ。
しかし、やはり絶望するわけにはいかない。精一杯の抵抗をする為に二人とも道具をそれぞれ構えた。
「ふむ、まずは景気付けに一人。そらっ。」
ぱちんとデルアスが指を鳴らすと、乎一郎の体が宙に浮く。
そして、目にもとまらぬ早さでルーアンの傍まで飛んで行き、地面に勢い良く叩きつけられた。
声を出す暇も無い、正に一瞬である。それでも生きているのか、乎一郎は体を少し痙攣させているのだった。
「こ、乎一郎・・・。」
「今のは見本じゃよ、見本。そう恐がるな少年。お主、精霊達の主なのじゃろう?
じゃったらどんと構えておくが良いぞ。最後に苦しませてやるからのう。」
にやっと笑うデルアスの顔に、太助だけでなく皆の顔が引きつる。
その直後、シャオは支天輪をすっと持ち上げた。
「絶対に太助様にそんな事はさせません!来々、天鶏!!」
「これ以上好き勝手にはさせん!万象大乱!!」
支天輪より呼び出された天鶏が巨大化。それはデルアスに向かっていき・・・

ボッ!!

デルアスの辺りが一瞬にして炎に包まれる。無事すれ違う事が出来たのか、天鶏が空中旋廻。
更にキリュウが万象大乱を唱えようとしたが・・・。

パシーン!

青白い光が放たれたかと思うと、天鶏が一瞬にして凍りついた。そしてズーン!と地面に落ちる。
それと同時に、デルアスが炎を消し飛ばして姿を見せた。当然の如く無傷である。
「空天殿と同じ様な術はもう沢山じゃ。全く期待外れじゃわい・・・。」
「来々、雷電!!」
「万象大乱!!」
臆さずに新たなる星神を呼び出すシャオ。キリュウも続いて万象大乱を唱える。
しかし、その星神には目もくれず、デルアスはキリュウの方を向いた。
「お主ももうくたばれ。月天殿のみの相手をするとしよう。」
さらっと言い放つと指を下から上へとくいっと曲げる。
キリュウの足元から強烈な電磁波が“ババババッ!”と放たれたかと思うと、
ぱりぱりぱりという余波と共にキリュウは地面に崩れ落ちた。
「キリュウ!!」
那奈が思わず叫ぶ。と、同時に那奈の足元からも同じ様なものが。

バリバリバリ!!

激しい音がし、那奈とすぐ傍に居た翔子がその場に倒れた。
感電にも似たそれは、雷電に対抗して、だろうか?
「那奈姉!!山野辺!!」
叫んだ太助。もちろん他の面々も慌てて駆け寄るが、激しい電気が残っている為か触れる事すら出来ない。
それでも、二人ともかろうじて生きている様で、かすかに呼吸をしていた。
その頃ようやく強力になった雷電がデルアスに突進。
だが、それよりも早くデルアスは両手をすっと上げた。
「砕けよ!」
一言叫んだ後、雷電の体があっという間に分割される。
当然の事ながら突進は止まり、頭とそこから繋がっている部分だけを残して雷電は地面に落下。
そのすぐ後にも、残った部分も地面へと崩れ落ちた。
「雷電!」
「心配せんでも生きておるよ。儂は殺すのは嫌いなんでのう。
それよりなんじゃその体たらくは?儂にダメージを与えるどころか次々に仲間を負傷させ・・・。
ひいふうみい・・・残るは月天殿を除いて五人じゃな。もうちょっと抵抗してほしいものじゃ。」
にたにた笑うそれにただただぐっと成るシャオ。
そしてその瞳から涙がぽろぽろとこぼれ始める。“皆を護れない”と、本気で思い出したのだ。
太助がそっと肩を抱くも、全く変わらず、だった。
「てめえ!!シャオちゃんを泣かせやがって!!」
「ちょ、野村君!」
いきりたって駆け出していきそうなたかしを慌てて止める出雲。
だが、彼のそんな行動に興味が沸いたのか、デルアスは別の笑いを浮かべた。
「元気がいいお主、儂と殴る蹴るの喧嘩をしてみんか?
儂に地をつかせれば皆を完全な状態で復活させてやるぞい。」
「そんなの、嘘に決まってるじゃない!野村先輩、行っちゃ・・・」

ドン!

デルアスの言葉に思わず立ち上がった熱美。だが、言い切る前に爆発によって吹き飛ばされる。
偶然なのか、ヨウメイとゆかりんが居た場所へと。
「あ、熱美ちゃん!!」
「部外者は黙っておれ、儂はそこの熱血少年と話をしておるのじゃ。
それでどうじゃ?儂の挑戦を受けるか?」
今の爆発はデルアスが睨んだ事によって起こったものだろう。その証拠に、彼は手を動かしていない。
「てめえ・・・。絶対にいんちきはするなよ!!」
「いんちきとはなんじゃ?」
「その、変な爆発とかだよ!!
「もちろんするものか。この肉体のみで勝負してやる。」
「おし!!」
強く掴んでいた出雲の手を振り解き、たかしはずんずんと歩き出した。
しかし、それを止めるものがもちろん居た。
「たかしさん!危険です、やめてください!!」
「大丈夫だって。こいつは絶対油断してるから。それにいんちきはしないってんだからさ。」
「野村君!!こんな奴の言う事なんて信用して・・・」

ドシュウ!!

出雲の体に一本の剣が突き刺さる。
それはすぐに消えたものの、彼は口から血を吐きながら地面にどうと倒れた。
「い、出雲!!」
「正々堂々の勝負を申し出ているのになんという言いぐさじゃ。
儂が今まで嘘をついた事があったか!?無いはずじゃ!!
さあ早く来い、少年よ。いい試合をしようぞ。」
「あ、ああ・・・。」
恐くなったたかしだが、頬をぴしゃんと叩いて勇気を奮い立たせる。
そして、再びずんずんと歩き出すのだった。
「太助様・・・出雲さんまで・・・。」
「シャオ、分かってると思うけど手出しはしない方がいい。
途中で割りこもうものなら、絶対にあいつは・・・。」
「でも七梨先輩、どうやったらあんなの倒せるんですか?」
「たかしが勝つと皆が復活するんだろ?それを願おうぜ。」
「本当にそれをしてくれるんでしょうか・・・。」
「嘘はつかないってんだから信用していいはずだけどな・・・。」
たかしを見送りながらひそひそと言葉を交わす三人。
しばらくの後に、たかしとデルアスが対峙した。
「よーし・・・行くぜ!!」
気合ばっちりでたかしが叫び、デルアスに向かって突進。
すると、デルアスは少しよろめいた振りをしながらおどけて万歳。
たかしの怒りがそれで倍増。目にもとまらぬ早さでデルアスの体を掴む!
「よーし、捕まえた!!・・・あ、あれ?」
掴んだ様に見えたそれが幻であったかのようにすうーっと消える。
たかしがおろおろしているうちに、フッとその背後にデルアスが姿をあらわした。
「良かったぞ、少年。猪突猛進がなかなか。」
誉め言葉を吐きながら、デルアスは手刀をたかし目掛けて突き出した。

ドシュウッ!

軽々とたかしの体を貫き、奇しくも出雲と同じ様な状態になった。
「うぐっ!き、きたねえぞ・・・。」
「何が汚い。残像拳という物を知らんのか?
素早く動く事によって相手を惑わす拳法じゃ。もうちょっと成長してそれを見抜けるようになれよ。」
言い終わるとデルアスは手刀を突き刺したままのたかしを“ぶん!”と太助達に向かって投げる。
それはまっすぐ花織の方へ飛んで行き・・・
「きゃあっ!!」
“ドシン!”と当たったかと思うと、凄い勢いのまま遠くへと飛んで行った。
当然花織とたかし共に、である。呆然となる太助とシャオ。残るは二人だけだ。
「結局お主らが残ったのか。どうじゃ?お望みの方法で勝負してやるぞ?」
“ん?”といったように迫るデルアス。
気迫に押されて後ずさりするものの、二人にはもはや絶望しかなかった。
何故気付かなかったのか。ただ生身で戦っても強いのには変わりないはずだったろうに。
死への恐怖、そして悔しさが二人の頬を涙でぬらす。
「太助様・・・。」
「シャオ・・・。」
とうとう二人は立ち止まった。そして力無く地面にひざをつく。
せめて、といった感じで二人で抱き合い震えるのだった。
「・・・情けない。それでいいのか?もう少し友人に報おうとかは思わぬのか?」
「どうせお前が勝つに決まってんだろ!?」
呆れながら言葉を発したデルアスに対して、太助が怒った様に叫ぶ。
と、“ぱしゅっ”という一筋の光線が太助の胸を貫いた。倒れる太助。シャオは慌ててそれを支えた。
「た、太助様!!」
「そんな諦め口調の言葉は聞きたく無いわい。月天殿、お主はやるじゃろう?
大切な主を傷つけた儂を許せる訳ではあるまい?」
じりっと更に寄るデルアス。だが、一旦目をむいたシャオは再び俯いた。
「許せない・・・でも・・・私には・・・!!」
ぎゅっと太助の体を抱きしめながら大粒の涙をこぼすシャオ。
絶望をいっぱいに感じている彼女に、もはや抵抗の意などこれっぽっちも残っていなかった。
「ふん、ここで終わりか・・・。まあいい、お主らには結構楽しませてもらった。
なんと言っても最後の段階まで力を解放できたからの。
せめてもの情けに、苦しまぬ様皆を殺してやろう・・・。」
と、そこでシャオがキッと目をむいた。“おや”と反応したデルアスがそれに応える。
「どうしたんじゃ?やる気になったのかのう?」
「・・・一つ教えてください、貴方の目的を・・・。」
意外といえば意外な質問に、デルアスは目を丸くする。そして少し笑った後に逆に尋ねた。
「知りたいか?」
「ええ・・・。皆さんをあんな目に遭わせて・・・!」
「なんじゃそんな事か。ちゃんと殺さずにしてある。殺してしまえば抵抗してこぬからのう。」
「な・・・!あなたは一体どういうつもりで・・・。」
「遊びじゃよ、遊び。自分より弱い存在がいかなる抵抗を見せるか。それが儂の道楽じゃ。」
「そんな・・・!!」
「何を驚いている、儂の目的のついでじゃぞ、ついで。」
「つ、ついでであんな事を・・・一体貴方の目的は何なんですか!!」
「ふん、御主らには関係の無い事じゃ。後で物知りの空天殿にでも・・・とと、もうこれから死ぬのじゃったな。
さぞや心残りじゃろう、詳しい事も聞けずに死ぬのじゃから。じゃが、間違っても自縛霊になぞ成るな。
この世界は消えてしまうのじゃからのう。」
調子よさそうに笑うデルアス。シャオはただじっとそれを聞いているしか出来なかった。
「さてと、御喋りはここでしまいじゃ。ふむ・・・面倒じゃから今全て消してしまう事にするかの。」
「全て・・・?」
「おぬしらが普段宇宙だのとか呼んでいるちっぽけな空間じゃよ。ふっ・・・。」
「ちっぽけ・・・。」
呆然と呟くシャオ。それに構わず、いよいよという感じでデルアスは手に力を込め始めた。
それを見てか、意識を失いつつもまだ生きている太助をシャオは更にぎゅっと抱きしめる。
“もう終わる・・・”彼女がそう思ったその時!

ピカァー!!

目も眩まんばかりの閃光が辺りに走った。思わず目を閉じたシャオ。
デルアスは力を込めるのを中断して光の方向を見た。
それは熱美、ゆかりん、そしてヨウメイを吹き飛ばした辺り。
手で光を遮りながら光源を見ると、そこにはヨウメイがぼろぼろの姿で立っていた。