小説「まもって守護月天!」(知教空天楊明推参!)


「それじゃあ再び元のように戻ったわけですが、お一人ずつご質問をどうぞ。」
すると、まずたかしが真剣な表情で口を開いた。
「・・・先に別の質問してもいい?」
「ええ、どうぞ。」
「いい質問をした時とか、賞品はあるの?」
一瞬呆れ顔になったヨウメイ。だが、気を取り直してそれに答えた。
「一応ありますけど・・・。」
「よっしゃ!!!じゃあ俺からいくぜ、幼い頃から質問の帝王と呼ばれた俺から。」
たかしの発言によって今度は皆が呆れ顔に成る。
ヨウメイはますます疲れた顔になりながらも、どうぞと促した。
「全く関係のない事柄で結果が起こるのはどうして!?」
なんとも自信ありげな声である。“これで賞品はもらった”とばかりに顔が笑っていた。
「関係無いわけじゃないんですよ。全ての事象を考えた上での行為ですからね。」
あっさりと返したヨウメイ。一瞬たじろいだたかしだったが、更に質問した。
「だからあ、どうして起こるのさ!!」
「関係無いわけじゃないって言ったでしょう?だから関係あるんですよ。
で、更に疑問があるんですか?」
「う・・・で、でも!」
「まさか、関係ある事柄でも絶対に何かが起こるのは変だ!とか言い出さないで下さいよ。」
「・・・はい。」
結局は諦めてたかしは座りこんだ。
とりあえずこの時点で、ヨウメイが行った事は扉が開く事に関連していた、という事である。
次に手を挙げたのは熱美だった。
「はいどうぞ。」
「どうしてわたしと扉と開く事が関係あるの?」
「全ての事象を考慮して、って言ったでしょ。そういう事だよ。」
「でもわかんないよ・・・。」
熱美の直な意見に難しい顔をするヨウメイ。
だが、首を横に振ったかと思うとそれに答え出した。
「わかんなくてもそれで納得してよ。
はっきり言って、これは一生の間で分かる事柄じゃないんだから。」
「い、一生?」
「そ、一生。とにかく複雑過ぎるから諦めて、ね?」
「しょうがない、諦める。」
しぶしぶと熱美も引き下がった。熱美に限らず、この質問に関しては皆も同じ気持ちだろう。
「はーい、あたしあたし。」
「山野辺さん、どうぞ。」
「どう関係があるのかってのはわかんないけどさ、どうやってヨウメイはそれをつきとめたんだ?」
「頭の中で考えて、です。」
それをきいて驚きの表情に成る翔子。
もちろんそこで何らしかの違和感を感じている。
「考えるったって、全ての事象を考慮に入れるんだろ?」
「ええ、まあ。」
「そんなもん、統天書無しに分かるものなのか?」
と、そこでヨウメイは失敗したな、という感じに舌を出した。
顔を改めたかと思うと説明を始める。
「失礼しました。これはある程度の事象でも可能な事柄なんです。」
「はあ?そうなんだ。」
「ええ、例えばさすがに南極の事情なんか調べなくても、ね。
この部屋の細かい状況、そして少しの未来を読み取る事でできるものです。」
「ちょっと待った!!」
待ったをかけたのは翔子ではなくて那奈。横から口出し、という形だ。
「未来は読めないんじゃなかったのか?」
「あ、すいません。未来と言うよりは、その人の運命・・・まあ未来です。
私自身は、ほんの少しだけならそれを読み取る事が出来るんです。」
「なにー!?じゃああたしの未来とかも!?」
「ええまあ。ただし、読み取れるのはほんの申し訳程度の先の事、です。
いくらなんでも遠い未来まで分かりませんからね。せいぜい・・・一分程度です。」
一斉に身を乗り出していた面々はそこで“なあんだ”と引いた。
それでも、やはり那奈は疑問の顔である。
「それっていつでも?」
「いえ、よほど色々な事を考慮に入れないと詠めません。
それに、未来を詠む事自体も何らしかの原因が必要なんです。」
「へええ、面倒だなあ・・・。」
「あんまり頻繁に使っていいものじゃありませんし。」
「ま、とりあえずヨウメイはそれに関して完璧じゃない、と。」
「ついでに言うとさ、今までのを纏めた意味でも、
ヨウメイはそれほど複雑な事は起こせない、って事だよな。」
那奈の言葉に翔子が付け足す。するとヨウメイはまっすぐに頷いた。
「その通りです。せいぜい家の扉を開けるとか・・・。
普通に行った方がよほど早い、って奴ですね。
ただ、自分自信の術をなんの代償も無く行えるという点で強いですよ。」
ヨウメイがにこにこ顔で告げると、那奈と翔子は“なるほど”と頷く。
どうやらこの二人はいち早く納得できたようだ。
そして次に手を挙げたのは出雲。
「すいません、やはり私にはあまり・・・。」
「どの辺が分かりませんか?宮内さん。」
「未来を詠む事とどう関連しているか、という事です。」
「なるほど。それは術を使った直後に言ったでしょう?
つまり、運命に逆らったから、という事です。」
ここで出雲はぴくっとなる。すごい単語が出てきた事に反応した様だ。
「運命に逆らった?」
「ええ、自然な流れのうちなら多少逆らっても差し支えありません。
ただ、絶対と決められている分野において逆らうと矛盾が生じる。
その生じ方も色々で、今回のは扉がひとりでに開いた、というわけですね。」
「なるほど、そういう事でしたか。
確かにそれなら詳しい説明は一生かかっても無理でしょうね。」
「納得できましたか?なんて、他の方にも分かるように、という事であえて質問したんですよね?」
「え、なぜそれを・・・。」
納得した顔で笑っていた出雲だったが、そこで笑いが止まった。
表情を崩す様に、ヨウメイは話し始める。
「なんとなく、ですよ。那奈さんや山野辺さんが理解していらっしゃるのに。
あの計算高い宮内さんが理解していないってのはどうも、って思ったんです。」
「なるほど恐れ入りました。」
「いえいえ、親切さんですね、宮内さん。」
花織達は特に分かっていなかったのでヨウメイの言ってる事は正しい。
それとなしに、それぞれが出雲を見直したのだった。
「それじゃあ僕も質問。」
「はい、遠藤さんどうぞ。」
「結局因果律って何なの?」
いわゆる纏めの意味での質問だ。
ヨウメイは一つだけ軽く咳払いをし、ゆっくりと話を始めた。
「まず、自分が何かをしたい、つまりとある結果を起こしたいと思います。
全ての事象を読み取る事によって、それを起こす様々な原因を突き止めます。
その中でも特に、一般で非常識と呼ばれているもの、例えばさっきの例ですね。
扉を開ける為に熱美ちゃんを立ちあがらせる、というぱっと見でぜんぜん関連がないもの。
これを私が用いている因果律と呼んで頂ければ、という事です。」
こちらも纏めの意味での答え。皆はそれぞれ、納得したように頷くのだった。
と、ルーアンがその後に素早く手を挙げる。
「何ですか?」
「その能力の限界はどのくらいかしら?」
「途中でも言いましたが、ほんとたわいない事しかできません。
どうでもいいような事、です。後は自分の術を使うくらい。」
「あんたの事を言ってるんじゃないのよ?完璧に使えればどうなるの?」
「それは・・・何でもできますよ。それこそ全事象を操れる神に成れますよ。」
そこで皆が驚きの声を上げる。
全てのものを操れる、という事がすごく印象深かった様だ。
「ヨウメイ、それ本当?」
「ええ、本当です。」
「本当になんでもできるの?」
「ええ、何でもできます。」
「例えば?」
「例えば・・・世界を一瞬にして消滅させたり、あっという間に世界を創り出したり・・・。」
そこで皆が皆驚愕の表情になる。なんと言っても、それこそ全事象を操れる神らしい行為だからだ。
ところが、そこでヨウメイはそれとなく厳しい目つきでこう告げた。
「けどそんな人物が居るかどうかは疑わしいですけど。」
「あれ?居るから全事象を操れるとか言えるんじゃ無いの?」
「理論上は言えるはずなんです。今のところ例外が唯一見付かってませんから。」
「へええ、そうなんだ・・・。ねえ、あたしにもできる?」
「・・・一応言っておきますけど、全事象が分からないとダメなんですからね。
例えばゆかりんがその理論だけを理解していたとします。
でも、なんにもできないでしょうねえ。やるくらいなら、普通に自分で行動した方がマシです。」
「ちょっと楊ちゃん、何であたしが・・・。」
突然引き合いに出されて、ちょっぴり不機嫌そうなゆかりん。
何はともあれ、ここでこの件に関しての質問は終わった様だ。
ちなみに賞品を出すような質問は出なかったのでそれは無しである。

「では質問時間再開といきましょうか。主様、他に質問はありませんか?」
「いや、もういいよ。次行ってくれ。それと・・・。」
「はい?」
「今度からはなるべく訊きに行ったりするようにするから。それだけは約束しておく。」
「そうですか。どうも♪」
太助の言葉によって、ヨウメイはご機嫌である。
はねるような手つきでお菓子を手にとってそれを口に含んだ。
そして次なる質問者が手を挙げる。
「次は私だ。」
「キリュウさんですか。長くなりそうですね。」
「もちろん。色々訊くから覚悟しておかれよ。」
「あ、ちょっと待ってください。」
食べかけのお菓子を全て呑みこんだかと思うと、ヨウメイは花織の方へ向いた。
「花織ちゃんが先にした方がいいんじゃ無いの?」
「ううん、あたしは後でいいから先にキリュウさんを。」
「でも、長くなるよ。」
「そんな物を忘れさせるくらいにすごい質問だから。最後のお楽しみだよ。」
「そう?じゃあ先にキリュウさんを・・・。」
なにやら自信たっぷりの花織に疑問を抱きつつも、ヨウメイは再びキリュウの方へ向いた。
今までと違って、少しばかり態度がぎこちなくも見える。
やはり相手がキリュウという事でそれとなしに意識している様だ。
「ではどうぞ、キリュウさん。」
「うむ。まず最初に、なぜヨウメイ殿は口が悪い?」
「あのね・・・。これは私の体質です。」
「そんな理由で納得すると思うか?」
「・・・思いません。でもねえ、納得していただくしか。」
「いいや、納得しない。そもそもどうしてそんな体質になった?」
「・・・さあ?そんなの私に分かる訳ないじゃないですか。」
「統天書を用いてもか?」
「じゃあ調べてみましょうか・・・。」
怪訝そうな表情のまま、ぱらっとページをめくりだすヨウメイ。
と、とあるページで手を止めたかと思うとパタンとそれを閉じた。
「どうした?」
「・・・体質としか載ってないんです。」
「だからどうしてそんな体質になったとかは?」
「それがさっぱり・・・。って、私はもともとそういう体質なんですってば!」
「本当に体質か?性格ではないのか?」
「あ、性格のほうが近い・・・って、まさかそれを言いたかったんですか?」
「いや、今のは思い付きだ。まあ体質という事で納得するとしよう。」
「・・・ちょっと待ってください。」
片手を挙げたかと思うと、またもやページをめくり始める。
そして、またもや途中でページを止める。今度は何やら不機嫌そうな顔だ。
「私が口が悪いのは主様の所為じゃないですからね。」
「・・・そうか。ならよしとしよう。」
「そっちが良くてもこっちは良く無いです。なんだってそういう考えを持つんですか。」
「もしかしたら、と思っただけだ。憂さ晴らしを私のみで行うとも言ってたしな。」
「・・・まあそれならしょうがないですね。では次の質問をどうぞ。」
「次のファッションショーはいつやるつもりだ?」
「はあ?」
訊き返すヨウメイ。ヨウメイだけでなく他の皆も唖然とした顔に・・・。
「ねえ楊ちゃん、ファッションショーって?」
隣に居た熱美が尋ねる。と、それに答えたのはヨウメイではなかった。
「星神の中で誰が好きかって聞いた時に言ってたじゃないですか、そういう事ですよ。」
なんとシャオであった。随分積極的になったもんだと思いつつも、ヨウメイはそれに続く。
「そういう事。女御さんの力を借りて、キリュウさんをモデルにした・・・って事だね。」
「へえー、そうなんだ。」
改めて聞く事によって熱美は納得。そして、話を戻すようにヨウメイが切り出した。
「なんだってそんな事訊くんですか?キリュウさん。」
「あまり頻繁にやられると困るのでな。」
「頻繁になんてやってないじゃないですか。
それから、今度いつやるかなんて決まってませんよ。」
「まあいい、それならそれで次の質問に移ろう。」
「は、はあ・・・。」
「次の質問は、朝どうやって起きている?」
「そりゃまあ、自然に。」
「目覚ましはかけていないのか?」
「ええそうですよ。」
「・・・だったらなぜ私を普通に起こさない。」
「機嫌が悪い時とかは落石とか呼んでますけど、最近は機嫌がいいですからやって無いでしょう?」
「そういう問題ではないのだが・・・。」
「ちょっと待て!」
ここで那奈がストップをかけた。当然のごとく、二人は那奈に注目。
「お前ら二人、朝部屋で何やってるんだ?」
「何って・・・私がまず目を覚まして、そしてキリュウさんを起こすんです。
夜更かしをあまりしなくなったので、結構素直に起きてくれるから。
たまにそうじゃない時があって“いかにも反撃が来そうだな〜”とか、
“今日はなんだか機嫌が悪いなあ、憂さ晴らししようかな”
という時には、何かを呼んで起こすんです。」
「ちょっと待て、その機嫌が悪いってのはヨウメイの事か?」
「ええそうですよ。大丈夫ですよ、死なない程度の物しか使ってませんから。」
「・・・キリュウの言う通り、そういう問題じゃないな。普通に起こせよ。」
呆れながらも那奈が告げると、ヨウメイは顔色一つ変えずにそれをキリュウに返した。
「だって、朝っぱらから体力を使いたくないですもん。」
「なんだって私を起こす程度で体力を使うんだ。」
「あのね、自分で寝ぼけ気味な反撃を今まで何回繰出してきたと思ってるんですか。
それで途中で嫌になって何か呼ぼうかと思って・・・。でも頑張らなきゃと思って。
文句ありますか?」
「・・・すまない。だったら目覚ましをかけさせてくれれば良いではないか。」
「そんなのやってたらこっちが眠れないじゃないですか。
あんな騒音を聞かされちゃあたまったもんじゃないですよ。」
ここで皆が黙り込む。とにかくヨウメイは、
キリュウと同室という事でそれなりに苦労しているようだ。
「だったらさ、ヨウメイが目覚ましを考えてやれば良いじゃないか。」
解決策を出す那奈。それには皆がうんうんと頷く。
と、キリュウもヨウメイもそこで“うーん”と考え込んだ。
「なるほど、それはいい案だな。」
「毎晩私がそんなもの考えるんですか?それよりは私が直接起こした方が・・・。」
「これも試練だ、教えられよ。」
「あのね、無茶苦茶ですよそれ。まあいいです、教えて欲しいってんなら断れませんね。
ところで毎朝違う方法がいいんですか?」
「なるべくならその方が良いな。」
「分かりました、しっかり考えます。期待していていいですよ。」
「よろしく頼むぞ。」
「ええ、任せてください。」
最後には二人はにこにこ顔となって解決したようだ。
一連の様子を見ていた太助、何やら少し驚き気味である。
「随分とあっさり・・・。」
「だって、教えて欲しいって言ってるんですから。」
「ええ?そうなのか?でもなあ、俺のつい先日までやった事のある質問と大差ないような・・・。」
「違いますよ。夕飯のメニューだなんて誰にでも訊けば分かるような事柄じゃ無いですもん。」
「・・・・・・。」
さりげなく嫌味が入っているその言葉に黙り込む太助。
そんな事は気にせずにキリュウは次なる質問へと移る。
「次は統天書に関して思った事を。」
「ほほお、ようやく本格的な・・・。ではどうぞ。」
きがまえるヨウメイに対しキリュウはこくりと頷いた。
「まず訊きたいのは、統天書に記載される内容についてだ。」
「内容?そんなの、なんでもですよ。」
「違う。私の試練に付いては記載されないと言っていたではないか。」
“ああその事か”と、ヨウメイが頷く。そして一本の鉛筆を統天書より取り出した。
「楊ちゃん、それって・・・。」
「以前私の購買部で買った品物ですね。」
熱美と出雲の言葉に頷くと、ヨウメイは喋り出した。
「手前に、主様によって統天書の内容が変わると言いましたよね。」
「ああ。」
「つまりは、どうでもいい知識、少なくとも一生の間に調べる事は無いだろうという知識。
そういう事については全く記載されないんです。
例えば南極点の深さ37センチの氷の様子はどんなだとかいうのは知ってもしょうがないですよね?」
「・・・まあ確かにそうだな。」
極端な例だが、それとなしに的を得ている話に皆は頷いた。
「ただ、例外的にそういうのが必要になったりした時にはどうすれば良いか。
その時は実際に書きこめばいいんです。
大雑把にでも書けばそれ関係の事柄が統天書に新たに記載されますので。」
「・・・ちょっと待たれよ。それと私の試練がなぜ関係ある。
私の試練の内容は必要のない事柄なのか?」
少し怒り気味のキリュウにヨウメイは困った顔をする。
そして少し言い訳気味な顔をしだした。
「それはその・・・。昔いがみ合っていた時に、“試練の内容なんてくだらない!”
とか思って、キリュウさんの試練に関してのみ記載されないよう施したんです。
それが今も引きずられていて・・・現在に至るわけですね。」
「なるほど、そういう事か・・・。それでその封印は未だ解かずに置いてあるのか?」
「簡単に解けるんだったら今頃鉛筆なんて使ってませんよ。
ま、とりあえず今のうちだけだろうしという事でそのままにしてあります。」
「それは良くない。早く解かれよ。」
「・・・何故ですか。」
「将来、また同じ人物の主になったらどうする?」
「それはその時考えれば・・・」
「なんだと?よくもそんないいかげんな考えを・・・。」
「別にいいじゃないですか。またその時にでも書き込めばいい事でしょう?」
「許せんな、そういう扱いは。」
「なんでですか・・・。ああー、そうかあ、キリュウさんたら仲間外れにされるのが嫌なんだあ。」
「・・・万象大乱!」
ごすっ!
鈍い音がしたと思ったら、それは巨大化した湯のみがヨウメイを直撃した音であった。
当然の事ながらヨウメイは痛そうに攻撃を食らった個所をさする。
「よくも・・・来れ雷鳴!!」
どーん!
強烈な音が鳴り響き、巨大な湯呑は粉々に砕け散る。
中身は入っていなかったのが幸いである。
「物を粗末にするのは許せんな。」
「その物を利用して攻撃してるのはどこの誰なんですか!」
と、唖然と二人の様子を見ていた皆の視線がなぜかルーアンに注がれる。
それに気付いたルーアンは慌てて食べかけのお菓子を呑みこむのだった。
「ちょ、ちょっと、あたしに文句でもあるわけ!?
そんな事より無愛想娘と歩くなんでも辞典の喧嘩を止めなさいよ!!」
「なんだと?」
「なんですって?」
二人のイライラの矛先がルーアンに向く。もちろんルーアンの顔は蒼ざめるのだった。
「あ、あたしは正論を言ったまでよ!!
喧嘩なんかおっぱじめるあんた達二人が悪いんじゃないの!!」
「これは喧嘩ではない、試練だ。」
「いいえ、教授です。歴史は繰り返すってね。」
「訳わかんない事言ってんじゃないわよー!!あたしは無実よー!!」
「ルーアン先生の言う通りだよ!!二人とも質問に関してはどうなったのさ!!」
おびえるルーアンを助けるべく乎一郎が力強く訴えた。
最初の方で無視されまくったという事も関わっている様にも見える。
「・・・まあいい、というわけでヨウメイ殿。」
「はいはい、分かりましたよ。今度設定を変えて置きますね。」
「うむ、是非そうされよ。」
適当に二人で納得して喧嘩(?)は収まった。
あっさりとしたその態度にぽかんとして見つめる乎一郎とルーアン。
もちろんここで全て解決という訳ではなく、まだ問題が残っている。
「楊ちゃん、湯のみ砕いちゃってどうするの・・・。」
「大丈夫だよ、かけら一つさえあれば・・・万象復元!」
花織の心配をよそにあっという間に湯のみを元に戻すヨウメイ。
そして何事も無かったかのようにお茶を注ぎ、それをすするのだった。
「では質問を再開しようか。」
「ええどうぞ。」
「それでは・・・」
「ちょっと待ってください!」
キリュウの言葉を出雲が遮る。
当然ながら二人に睨まれてしまったのだが、出雲は臆すことなく続けた。
「あのう、お二人を見てて思ったことなんですけど。
なんだか淡々としすぎてませんか?自分達が何かをしたって自覚はあるんですか?」
「もちろんあるぞ。」
「だったらもう少し・・・」
「もう少し何ですか?悔い改めよ、ですか?
そんな反省をしたって無駄なんですからやりませんよ。」
あっさりと返すヨウメイにキリュウも頷く。それでは出雲は納得しなかった。
「どうして無駄なんですか。反省して次はやら無いようにしようとか考えないんですか?
大体ルーアンさんや遠藤君に迷惑をかけて・・・。」
「では質問しますが、反省したからって次に絶対やらないといえるんですか?」
「それは・・・。けどおおよそやらないように成るでしょう?」
「そんなもんこじつけですよ。
反省しようがしまいが、次やらない人はやらない、やる人はやるんです。」
「その通りだ。自分に責任が持てない以上反省などはやるべきではない。」
「あの〜、二人とも、それは違いますよ。」
「何が違うって言うんですか。今まで宮内さんは何回くらい反省しましたか?
それで全てにおいて以前より良くなりましたか?」
「それは・・・。」
「成って無いでしょう?そういう事ですよ。見せ掛けだけの反省なんてしたくありません。」
なにやら丸め困れた出雲。それを見てか、那奈が二人に告げる。
「あのさあ、という事はこれからもそういう喧嘩をするって訳?」
「多分、ですよ。もちろん少なくする様改めるつもりですが・・・保証は出来ません。」
「なんと言っても予期せぬ出来事だからな。それなりに押さえては行くが・・・。」
「なるほど、反省の色無しだな・・・。」
二人の反応から納得した様に那奈は頷く。
その言葉に二人が何か反論しようとする前に太助が口を開いた。
「言っとくけどくれぐれも理不尽な喧嘩はするなよ。
一回やるたびに飯抜きだからな。」
「「ええっ!!?」」
思わず立ち上がった二人。必死な顔色を見せている。
「あんまりだ!!私は悪くないのに!!」
「ちょっと、それってどういう意味ですか!!
現にさっきの件はキリュウさんが仕掛けてきた事じゃないですか!!」
「なんだと!?もとはといえばヨウメイ殿の口が悪いからではないか!!」
「それに耐えられないキリュウさんの根性が悪いんです!!」
「ふざけるな!!私は根性など悪くない!!悪いのはヨウメイ殿だ!!!」
太助に訴える事は一瞬にして忘れて口喧嘩に走る二人。
当然聞いていた太助はわなわなと震え出し・・・
「いいかげんにしろー!!」
と怒鳴る。それでぴたっと止まった隙を突いてすかさず次の言葉を発する。
「少しはましに成ったのかと思ったら・・・最初の時と全然変わってないじゃないか!!
ストレス発散だとか理由つけるんだったらよそ行ってやれ!!!
まったく、無駄な反省って意味がよくわかったよ。
とにかく二人とも喧嘩し無いって事は100%保証できないって訳なんだ。」
「なんだ、今更気付いたんですか?」
「心配しなくとも理不尽な喧嘩はしない。主殿が言ったとおり、これはストレス発散だ。」
今度は涼しい顔で受け応えする二人。
あまりにもその変わりの無い様子にシャオが思わず告げた。
「あの、お二人とも、どんな理由があれ喧嘩は良くありませんわ。
ストレス発散なら別の方法で行うとかになさってください。
そうしないとお二人の苦手な料理しか作りませんよ。」
「「げっ・・・。」」
心配そうな表情ながらも密かに脅しをかけている。
血の気がさあっと引いたかと思うと、キリュウとヨウメイは慌てて握手した。
「な、何を言っている。ほらシャオ殿、今はもう仲直りしているぞ、ははは・・・。」
「そうですよ、そう。こんなにこやかで握手もしちゃって、これなら絶対喧嘩しませんよ。」
引きつった顔ながらも笑っているその姿はかなり無理がある。
呆れながら見ていた周りの皆をよそに、シャオはにこりと笑うのだった。
「それなら良かったですわ。もう二度と喧嘩なんかなさらないで下さいね。」
「「はは、はい・・・。」」
笑みを浮かべながら返事。しかし、それでもまた喧嘩をやりそうな様ではある。
ひとまずこの件は平和的に解決したという事で、改めて質問時間に戻るのだった。
「そ、それではキリュウさん、どうぞ。」
「う、うむ。」
まだ引きつりが消えない二人。花織達はそれと無しに、くすっと笑うのだった。
「よ、ヨウメイ殿が知識を教える際に気をつけている事はなんだ?」
「そんなもの・・・皆に最も分かり易い様に、という事ですよ。」
「では普段の生活で心がけている事とは?」
「えーと、いかに物事を効率良く動かせるかとか、無駄をなくすとか。」
「統天書を用いる際にもっとも注意している事は?」
「最短最適最小浪費、たまに失敗もしてますけどね。」
「・・・つまりは完璧を目指しているのか?」
連続で質問していたキリュウ。四つ目でヨウメイはぴたりと止まった。
しばらく考え込んでいたものの、深いため息をつく。
「そんなものは知識を教えるという事に関してだけですよ。」
「そうなのか?」
「そうです。どんな存在でも完璧なんてものではありません。
あ、いや、少しは居ますけど、でもすべて完璧を目指そうなんてのは止めるべきです。
それをやろうとして奈落に落ちていった人が何人いた事か・・・。」
しんみりして再びため息をつく彼女に、たかしが横から言った。
「でもさあ、完璧な人はそれはそれで良いんじゃないの?」
「まあ、神様みたく大事な事を司っている人ならそういう人がいいですけど。」
「なにか問題でも?」
「・・・私は完璧な人は大っ嫌いなんです。」
「へ?」
突然ヨウメイの口調が変わる。そして演説をするかのごとくすっと立ち上がった。
「だいたいね、何をやっても驚かない、冷静沈着、そんなふりをするのはふざけんなですよ。
こちらが笑わせようと言った事に合わせてわざと笑ったり、ってのもむかつきますね。
たいして役割も持ってないくせにそんな完璧な存在になって何をしようってんだ、って。
・・・そういう精霊さんが居ますね、会った事はありませんが統天書にて知りました。
多分、そのひとに私が未知の事柄を教えても、“ああそれなら知ってるよ”なんて言うに違いないです。 知ったかぶり・・・それは、私が最恐最悪に忌み嫌うものです!!!」
「そ、その精霊って?」
「言いませんよ、そんなの。ただ私は心に決めてます。
“自分は完璧ぶってますが、完璧じゃないんだって事を教えてやる!”ってね。」
ビシッと告げたヨウメイ。それに対して花織、熱美、ゆかりんが小さく拍手。
なにかしら使命に燃えている様な目つきをする彼女に強く惹かれた様だ。
「しかしヨウメイ殿、それを教えるのなら自分が完璧以上にならなければ。」
「何言ってるんですか、完璧の手前で上等ですよ。どうせその精霊さんは完璧じゃないんだし。」
「しかしだな・・・。」
「まあ例え相手が完璧だとしても、それ以上の存在になる事だってできますよ。」
「・・・本当か?」
「ええ、時間制限つきですがね。まあ完璧で平和にできてんならそんな必要はないですが。
いつか、いつか絶対やってやる・・・。」
何やら腹立たしそうな顔をしているヨウメイ。
話が少しそれてしまった様だが、
キリュウが改めて呼びかける事によって彼女は元通りになって座った。
「では続きをどうぞ。」
「・・・また今度できてからでも良いか?」
「え?ええまあ、いつでも訊いてくだされば。」
「うむ。では最後に、今後の抱負などを聞かせてくれ。」
「抱負ですか・・・。」
改まったキリュウに対し、ヨウメイ自身も姿勢を改める。
そして皆を見まわした後にゆっくりと喋り出した。
「とりあえず我が道を行く、ですかね。後は花織ちゃん達ともっと遊びたいなって。
それと主様にもっと知識を教える!・・・こんなところです。」
言いおわった後にわっとヨウメイに群がる花織と熱美とゆかりん。
太助は苦笑いしながらそれを見つめ、他の皆は“なるほど”と笑うのだった。
しばらくの間それは続き、やっとの事で親友達のからかいから逃れる事ができたヨウメイが場を改める。
「それじゃあ最後、花織ちゃんの番だよ。」
「待ってました!!あたしはとりあえず一つだけだからね。統天書を机の上に置いて。」
「え?う、うん・・・。」
言われるままに統天書を置くヨウメイ。と、花織はそれをぱらぱらとそのままめくり出した。
「か、花織ちゃん?」
「いやね、途中で統天書を見せてもらった事があったでしょ?
その時になんかあたしでも読めそうな文字を見つけたもんだから。」
「ええ?それ本当なの?」
「うん本当だよ。他のみんなは気付いてないみたいだけど。」
花織の言葉にヨウメイがハッと辺りを見回すと、なるほど気付いていない様だ。
ヨウメイと同じく“本当?”というような顔で真剣に花織の方を見つめている。
「あーっ、これこれ!!ねえ楊ちゃん、これって何?」
「どれどれ?」
花織が指し示したページ、半信半疑で除きこんだヨウメイの顔がこわばった。
「何?これ・・・。これって・・・何文字?」
「え?楊ちゃんに読めないの?せっかく見つけたけど、
やっぱりあたしには読めなかったから読んでもらおうと思ったのに。」
残念そうな花織の声も聞こえていない様で、ヨウメイは夢中になってそのページに見入る。
「こんなの見た事ない・・・えーと・・・。」
まるで何かにとりつかれた様である。
皆もそれぞれ驚きの顔になっていると、ヨウメイはゆっくりとそれを読み出した。
「は・・・に・・・し・・・な・・・れ?」
「何それ?」
「ちょっと待って、えーと・・・そうだ!
統天書の力を以って全てを解読せん・・・明!!」
一瞬思い付いた様にヨウメイが叫ぶと同時にそのページがぱっと光る。
そしてそこに現れたのは誰でも読めるような文字。
「なあんだ、楊ちゃんたらそんな術があったんじゃない。とりあえずみんなにも見える様にしてよ。」
「う、うん・・・。」
言われるまま統天書を広げたまま机の上に置くヨウメイ。
皆が少し身を乗り出した辺りで、ヨウメイはその文字をゆっくりと読み出した。
『これは遥か昔に封じられし堕神デルアスに関する記述である。
全ての悪の元凶という物の名の元に最高を目指した神。
正に最高に近い力を持つが、その自らの驕りにより敗北、封印されたものなり。
しかし、封印される直前に自らの封印を解く仕掛けをどこかに施した模様。
それがまさかこの記述とは夢にも思わなかった。
よってこの記述を複雑怪奇な因果律によって封ずる事によってなんとか復活を阻止。
偶然見つけてもけして読もうとする無かれ。だがこの忠告も無駄であろう。
なぜなら、その読む事象の阻止も不可能だからだ。
これを読んでいる者に告ぐ。全力を以ってデルアスの封印に取りかかるべし。
別次元からの者の加勢は望めない。そこに居る者で対処せよ。
この仕掛けが施された物を持つ者の不幸を憐れんで止まない・・・。
・・・という訳だよ。もうすぐ僕は復活するのさ。選ばれた君達、おめでとう。あははは!!』
嘘・・・そんな事って・・・。」
読み終えた後に絶望の表情となって固まるヨウメイ。
何の事やら分からなかった花織が顔を覗き込む。
「ねえ楊ちゃん、これってどういう事なの?」
「・・・言いたくないけど、絶望が来るって事だよ。
つまり、花織ちゃんが見つけた記述を読む事によってとんでもない奴が復活するの。
多分この世の終わりって奴が・・・。」
「そ、そんな・・・。」
最初は信じられずに聞いていた花織だったが、ヨウメイの真剣な表情を見て愕然と成る。
恐怖で固まった顔で笑みを浮かべながら、必死にヨウメイの体を揺すった。
「ねえ楊ちゃん、嘘でしょ?そうだ、いつもの様に冗談だって言ってよ。」
「・・・私だってそう思いたい。でも・・・」
「あっ!新たに何か書きこまれていくよ!!」
熱美の叫びによって再び統天書が注目される。それをヨウメイはゆっくりと読み出した。
『全く失礼しちゃうよね、力の驕りだって・・・。
・・・僕を封印した奴は高レベルの神さ。
けれど前述にあっただろ、別次元からの加勢は無しだって。
つまり高レベルの神なんてのは来られないって事さ。という訳で・・・
折角だから思う存分遊んでやるよ。この記述を見てる奴、早くおいで。
お前が僕を探し当てる頃には完全な形となって地上に居るだろうからさ。
ちゃんと来いよ。僕にとっちゃあこの惑星一つ消すのはたやすい事なんだからさ』
です・・・。」
もはやヨウメイは深刻以外何物でもない顔だ。皆もそれを感じ取ってか不安一杯である。
「ど、どうしよう、楊ちゃん。あたしの所為だ・・・。
あたしがあんなページを見付けなければ・・・。」
「泣かないで、花織ちゃん。統天書に施されていたんなら遅かれ早かれ読まれていた筈だよ。
けど、私は逆に今はチャンスだと思う。だって・・・ね?」
不安を打ち消す様に顔を上げ、ヨウメイは顔を上げた。
「・・・分かってるわよ。あたし達も一緒に行くから。」
「力いっぱいお手伝い致しますわ。」
「そのデルアスとやらに後悔させてやらねばな。」
笑顔で返事をすると、シャオ、ルーアン、キリュウは力強く立ちあがった。
「なるほど、精霊四人だったら大丈夫かもな。」
「よーし、あたし達はどうしようか・・・。」
「付いて行くのは危険ですねえ。ここで待機という事に・・・」
「待ってください!」
出雲が言いかけた所でヨウメイがストップをかけた。
統天書で必死に調べ物をしている。
「あ、あった!・・・一緒に行きましょう。
多分離れていると余計危険です。」
「どうして?ヨウメイちゃん。」
「その気になれば町ごと破壊されて・・・って事に成りかねません。
ならば守護月天であるシャオリンさんの傍に皆が居た方が得策です。」
「なるほど・・・。」
「それでヨウメイ、場所はどこだ?」
「・・・偶然なのかは知りませんが、以前遠出して行ったあの試練場です。」
「そうか・・・それじゃあ早速出発しよう!!」
太助の声に皆がこくりと頷く。
統天書に幸か不幸か載っていた記述。
それによって、思いも寄らない闘いに巻き込まれる事と成った太助達であった・・・。

≪第十八話≫終わり